Fate/Lyrical cross ☓はやて【凍結中】   作:貫咲賢希

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第11話 篭められた思い

 

「シキ、助けて!」

「いきなり、何だ?」

 

 昼と朝の境。

 午前中、早々にミコトに呼び出された至祈は、焦燥している様子の友人を見て何事かと眉を寄せる。

 

「実は───」

 

 *

 

 六月三日、午後十時──。

 

『なるほど、そんなことが──』

 

 ミコトと至祈の和解。はやてと至祈の対決があって数日後。

 八神邸宅のリビング、魔法技術によって空中で映し出されたモニターから、ようやく少しだけ話す時間を取れた多忙のグレアムが、老年を感じさせる難しい顔を浮かべる。

 

『魔術協会に聖堂教会。よもや、こんな早くも接触があったとは・・・・・・』

「グレアムおじさん、知っていたん?」

 

 グレアムの言葉にはやてが思わず声を出す。その場にいた他の面々も、同じような反応だった。

 

『ああ、知っていたよ。もっとも、この事を知るのは管理局で一部の存在。上層部ですら、知る者は僅かだろう』

「────それは互いの保身のためか?」

『そうだ』

 

 アーチャーの問い掛けにグレアムが静かに頷く。

 既に事情を把握したアーチャーを感心と驚きの眼差しをミコトが向ける。

 

「どういうこと、アーチャー?」

「以前にも私が使う魔術とミコト達が使う魔法の違いを話したが、私の魔術は過去、歴史を探求し、神秘に近づく技術。

 対するマスターの魔法は科学技術の融合により、未来に発展させていく技術。

 同じ魔導ゆえ、類似するもの、あるいは解釈が違うだけで答えは同じもの場合もあるが、基本的に進むべき方向が違う。

 何よりも魔術師という生き物は神秘の秘匿、何よりも己の秘奥を守り、魔導師───というよりも管理局は魔導技術の発展と管理を目的とした組織だ。

 その二つが合わさった時、どうなる?」

「えっと───」

 

 言い淀むミコトに思わずアーチャーは苦笑する。

 代わりとばかりにリインフォースがその質問を答えた。

 

「管理局は魔術師に自分達の技術、更には自分達の傘下に加わることを要求するが、己の魔導を秘匿する魔術師は当然それを拒む。

 二つの存在が相対した場合、世界間での問題が発生する。最悪それは戦争にすら反転する危険がある、とうことか」

『正解だ』

 

 モニターでグレアムが頷いた。

 

『地球に存在する魔術については、管理局の穏健派、その一部がひた隠しにしている。魔術師側でもこちら側のことは認知しており、イギリスにある時計塔がそれに当たる。

 事実をする人間達は不干渉という関係を維持し、または望んでいるのだ。

 魔術師側としては、近代機械技術と相性が悪い者が多く、無理して我々の技術を取り込むぐらいならば、自らの魔導を研鑽したほうが時間の無駄ではない。

 穏健派の管理局側としては、人材不足の中無駄な争いは避けたい。魔術師側とは違い、魔導師側は過去を追究する彼らから学ぶものは多いが、それを無理に取り込もうとした場合、発展ではなく衰退を招きかねん。

 もっとも、これらはあくまで基本的にはだ。水面下、隠れた場所で管理局と魔術協会、あるいは魔導師と魔術師という個人同士で繋がり合う者もいる。実際、我々のそうだろう』

「んんん? でも、私らは全員魔導師側じゃね? まぁ、はやてとミコト以外は騎士だけどさ」

 

 不思議そうに首を傾げるヴィータ。グレアムは含み笑いを込めながら、少女の疑問を解く。

 

『実際、アーチャーはそちらの世界でいう魔術師に当たる存在だ。そもそも、君たち守護騎士、救済騎士の源流はミコトくんが遭遇したサーヴァントに近い』

「ああん? どういうことだ?」

 

 怪訝するヴィータ。

だが、残ったアーチャーとライダー。そして、リインフォースは予想通りなのか、顔色をあまり変えなかった。

 

『本来、サーヴァントとはとある儀式のために必要な使い魔。伝承、過去未来問わず、あらゆる次元から死した者を使役する降霊術なのだよ。

 これならばミコトくんの救済騎士と同じだろうが、救済騎士がオリジナルである本人を召喚するに対して、サーヴァントは魂の座から引き出した情報により形作られる模造品だ。もっとも、彼等が英雄その者であるのは違いにはないがね。

 そして、過去の英雄の模造品、この言葉に何か気付かないかい?』

「あっ────」

『そう、君たち守護騎士は過去、ベルカの騎士の英雄を元にして作られた使い魔だ。悪い言い方になるのはすまないが、模倣品であることには違いないだろ?』

「まぁ、確かにな」

 

 模造品という響きは気に障りながらも、ヴィータはしぶしぶ認める。

 

『そして、これらの使い魔の原理は君ら以外の、魔導師が行う一般的な使い魔精製にも流用されている。

 多くの魔導師は動物を素体にし、別の魂を組み込み、自身の魔力とリンクされて使役する。性能の違いはあれど、これら使い魔精製技術は魔術師側とも類似している』

「じゃあ、なにか? 私ら使い魔関係は全部魔術師側から流れた技術で生まれたのかよ?」

『それは分からない』

「はぁ!?」

『卵か先か、鶏が先か。サーヴァントは地球で二百年前に行われたある儀式で使用された使い魔だ。

 その頃はまだ管理局も地球の魔術協会とは一切の接点はなかったと記録にはある。

 だが、タイムトラベル、日本で言うならば神隠し。次元震による事故によっての時間遡行が一番の有力候補。本当の原因は分かっていないが、地球にあった二百年前の魔導が何故かそれより遥か昔、君たち守護騎士が誕生したベルカの技術にあった』

「なんだと!?」

 

 声を出して驚愕を表したのはアーチャーだった。他の面子は話の展開が急過ぎてついていけない、あるいは現実味がなくて微妙な顔をしていたが、突然のアーチャーの声に反応し、全員の視線がアーチャーへと集まる。

 グレアムも奇妙な顔をしたが、続けて話を進めた。

 

『時間遡行に関しては珍しい。

 が、事例がないわけではない。それによって、とある次元世界から、他の次元世界に何かが移動することは不可能ではない。極めて稀なことであるがね』

「・・・・・・・・・、すまない」

 

 そこで自分に視線が集まっていたことに気づいたアーチャーが、ばつの悪そうな顔浮かべて、椅子に腰をかける。

 なんとも言えないような空気がリビングに流れたが、グレアムは一瞬間を置いてから話を続けた。

 

『サーヴァントを使用した感じの儀式については、夜も遅いので日を改めてしよう。

 肝心なのは、本来儀式でしか召喚されないサーヴァントを、サーヴァントのみを目的として運用しようとしたことだ。

 その発展型が君たち、守護騎士と救済騎士と言っていい。

 本来目的外でサーヴァントを召喚しようとすることは難しく、文献ではある国が呼び出したサーヴァントによって滅ぼされたこともあるらしい。

 その点、守護騎士は予め、設定されたプログラムによって制限をかけられるので暴走の心配がない。救済騎士に関しては、主に使役される前提で召喚されるため、そもそも危険性がほとんど無いのだ』

「サーヴァントが私達に近い存在と理解できたけどよ、それだけで魔術師というわけじゃねぇだろ? 実際、はやて達が使うのはベルカ式の魔法だ」

『そうだ。だが、進む道は違うが、魔導師が使う魔法と魔術師が使う魔術は類似するものもある。そして、君たちは、今のなおも地球において神秘の奥義の一つであるサーヴァント、それと同じと言っても過言ではない。無論、そのマスターであるはやてくんとミコトくんが、魔術師だと間違われても不思議でない。

 偶然、二人のことを知った魔術師が、自分達が制限や事故の危険性まで考慮しなければならないサーヴァントの使役を、まだ一桁の歳の子供が簡単に実行していることを知ればどうなる?』

「二人が狙われる、ということかい?」

 

 ライダーの言葉にグレアムは大きく頷いた。

 

『初めて言葉を交わすが、ライダーかね? そうだ。君たちはサーヴァントに類似しているが、何より安定性がサーヴァントよりも高い。ノーリスクで英霊の使役できる機会があるならば、どんなことをしてでも試す価値はあるだろう。これは魔術師でなくても、魔導師にも通じる話だ。

 つまり、私は何が言いたいかと言うと────』

 

 一拍置き、そして、これまでで真剣な顔を浮かばせながら、グレアムはある人物を見た。

 

『夜、一人で出歩くのは感心せんぞ、ミコトくん』

 

 緊張の糸が崩れた。

 ヴィータとアーチャーは意地悪い笑みをミコトに向けて、リインフォースも仕方なさそうな視線を向ける。ライダーは同情する感情を浮かべ、はやては尤もだとばかり頷いている。この中で一番心配をしていたのは彼女だったので当然の反応だろう。

 怒られたミコトは返す言葉もなく、消沈したように項垂れる。

 

「ごめんなさい」

『既に他の者から御咎め受けているだろうから、これ以上私からは何も言わないが、以後気をつけたまえ。君が魔導に触れてなくとも、子供が夜独り歩きするのは危険だ』

「はい・・・・・・」

『では、後私からは魔法を行使する場合は人目につかない場所でするようにと注意するとこかな。基本的に秘匿しとけおけば、良からぬ輩にも知られぬし、神秘を秘匿する協会から目をつけられることもないだろう』

「ふむ。では、とりあえず今夜の話はここまでで良いか?」

 

 アーチャーが確認するように訊ねて、グレアムが頷く。

 

『ああ。細かい話は追々、後にでも良いだろう。そろそろ子供が寝る時間だしな』

「ああ、そのとおりだ。ヴィータ。私はこれから最後にグレアムと今後の連絡などを確認するから、君ははやてを連れてお風呂に入ってくれ」

 

 アーチャーがそういうと、ヴィータは何か感づいたようにうすい笑みを浮かべる。

 

「おう、いいぜ。はやて、行こう!」

「え? あ、それじゃあ、グレアムおじさん、おやすみ~」

『ああ、おやすみ』

 

 はやてとしてはまだ話が続くと思っていたが、流されるようにしてヴィータに連れられてそのままリビングから退室する。

 そして、二人の気配が完全になくなることを確認してから、アーチャーは改めてグレアムが映るモニターを見る。

 

「で、そちらの荷物は何時届くのだ?」

『事前に知らせた通り、午前中指定で届くよ。万が一を考慮して偽名を使ってるが、できるだけ君たちが受け取ってくれ』

「了解した」

「荷物? 何が届くの?」

 

 何故か共有の秘密を示し合ったように頷く二人。そんな光景を不思議そうに眺めるミコトが思わず訊ねた。

 そしてグレアムは、少し照れくささを感じさせる笑みで答える。

 

『私からのはやてくんに贈る誕生日プレゼントだよ』

「!?」

 

 一瞬で硬直するミコトに対し、アーチャーは両腕を組みながら自信ありげに話す。

 

「今回ははやてにとって初めての一人じゃない誕生日だからな。驚かすために、本人は事前まで隠しておくつもりなのだよ。ああ、サプライズというのは言っていなかったが、別に祝ってしまっても構わんだろ?」

「う、うん」

「まぁ、期待しとけマスター。私が全力のバースデイケーキを作ってみせよう」

「僕も急だったから、あまり大した物は準備できなかったけど、何とか間に合ってよかったよ」

 

 そんな、ははは、と笑うライダーをミコトはマジマジと見て。

 

「私やヴィータも主にそれとなく欲しい物を訊くのに苦労した。バレてないと良いが・・・・・・」

「なに、仮にバレていようとも構わないだろう。最終的にはやてが喜べばそれでいい」

 

 心配げなリインフォースにフォローを入れるアーチャー。その二人の様子を見ながらミコトは背中から大量の汗を流す。

 

「そういえば、マスターは何を用意したんだい? いや、やっぱり訊かないよ! マスターのことだ。大事な友達のはやてのために、心が籠ったプレゼントを準備しているんだろね。それは渡す時のお楽しみでとっておくよ」

「君が何故楽しみでとっておくのだ?」

「確かにそれも変かな、ははは!」

 

 楽しそうに笑い合う大人達。そんな中、ずっとミコトは無言だった。

 

 *

 

「つまり、あれだ。お前は八神の誕生日を知らなかったわけだな?」

「そうだよ! どうしよう!」

「いつだ?」

「今日!」

「諦めろ」

「そ、そんな!」

 

 泣き崩れるミコトを至祈は面倒そうに顔を歪める。

 だが、無下に突き放すのも気が引けた。

 せっかくできた無二の友人の頼みぐらい、可能なら助けてやってもいいと思う感情くらいは至祈にもあった。

 まずは状況、確認だ。

 

「お前、手持ちは幾ら持っている?」

「手持ち?」

「金だ、金」

「あ、うん。ごめん。まったくないよ・・・・・・」

 

 申し訳なさそうな顔をするミコトを至祈は不可解なものでも見るように眺める。

 つるむようになって数日だが、目の前の友人は無駄な浪費はしないと思う。菓子などはあの赤い大人が準備するだろうし、まったくないというのは少し奇妙だ。

 

「おい、お前小遣いなどは貰っているのか?」

「うん? 貰ってないけど?」

 

 至極当然のように答えるミコトに対して、至祈は嘆くように空を見上げる。

 人様の家庭事情などそれぞれだが、貧乏でなければ年頃の子供に多少の小遣いは与えても不思議ではない。むしろ、自分のお金を持つことで、金銭に対する感覚を養う効果すらある。

 大方、あの大人達はミコトが頼めば、必要な物を用意するだろう。

しかし、遠慮がちのミコトを考えると、自ら要求することは本当に稀だ。自分の主、またはその友人が良い子過ぎてそのことをまったく考えていないのだろう、あの自称保護者は。

 誕生日の品とは、娯楽の類でもないが、それでも誰かに頼んで買って貰うとは違う。少なくともミコトはそう判断した。だからこそ、縋る様な思いで自分に頼って来たのだと至祈は結論する。

 

「よし、少し待ってろ───」

「?」

 

 首を傾げるミコトを置いて、至祈は在る場所に向かった。

 

 *

 

「はい、百万円」

 

 ドン! と至祈は銀行から下ろしてきた札束をミコトに手渡そうとする。

 

「え? ええええええええ!? なにこの大金!?」

「何って、俺の金だ」

「し、シキってお金持ちだったの?」

「実家は確かにそうだが、これは俺が仕事で稼いだ金だ」

 

 至祈の家業は暗殺。個人で貰える額も、その辺りの会社員をは比にならないほどあるのは妥当だろう。

 

「と、とりあえず、しまって! 誰かに見られたら危ないよ!」

「む。俺がコソ泥に盗られると思ってるのか?」

「たぶん、そのコソ泥さんが死んじゃうからしまってほしいな!」

「何を慌ててる? 八神のために金が欲しかった訳じゃないのか?」

「いや、確かにプレゼントを買うお金は欲しいけど。そんな簡単に受け取れないよ」

「金額が多い事を気にしてるのか? まぁ、我ながら過剰に持って来たと自覚はしてるが」

「自覚はあったんだね」

「お前のことだ。八神のために、一カラットダイヤの有名ブランドリングでも欲しいと思ったのだが・・・・・・」

「僕は今から結婚の申し込みでもするのかな? とりあえず、しまって!」

 

 顔を赤くして睨むミコトに対して至祈は不満そうに札束を懐にしまう。

 目の前に大金がなくなったことで、ようやく落ち着きを取り戻したミコトは、改めて至祈を見る。

 

「シキの気持ちはありがたいけど、お金は例え一円でも受け取れないよ」

「なら、お前はどんな助力を俺に求める気だったんだ?」

「えっと─────プレゼントに最適なお花がたくさん咲いているお花畑の紹介とか?」

「お前は何俺に乙女チックなものを期待している?」

「こう見えも僕はお花で冠やブーケを作れるんだよ!」

「いや、全然意外性がないから」

 

 自慢げに胸を張るミコトを前に至祈は呆れながら溜息を溢す。お花畑は自分の頭の中にでもあるんじゃないかと言ってしまいたい。もっとも、どうせ傷ついたように悲しそうな顔をするので口に出さないが。

 

「お前が望むような場所を俺は知らん」

「え? 知らないの?」

「意外そうな顔をするな。つまり、お前がお得意らしい手作りの花の造形は無理だ。他の手造りも、時間的に間に合わないだろ」

 

 時刻はそろそろ昼になる。

 急いで何かを作れば間に合うかもしれないが、急ごしらえの物など十中八九ロクでもない物が大半である。

 

「なら、手っ取り早く金でプレゼントを買うほうがいいだろう」

「え、でもお金は───」

「無理強いには貸さない。ようはお前が稼げばいい。それだけのことだ」

 

 *

 

 移動した二人は草が生い茂っていた広い庭にいた。

 ここは古い民家が一帯を占める区画の中に山の、更に奥深くある純和風屋敷。

 かなりの広大であり、敷地内にある道、林、あるいは森を挿んで、幾つもの建物が存在していた。脚を踏み入れれば、近代的な海鳴市とは思えないほどの古風な空間である。

 佐津間邸。至祈の実家である。

 

「ここは業者、あるいは手伝いの者が手入れをするが、今回はお前が見える範囲を処理しろ。そうしたら相応な賃金を支払う。これならお前も文句はないだろ?」

「・・・・・・・・・・・・」

「────訊いているのか?」

「ああ、うん、ごめん。訊いているよ。でも、やっぱり至祈はお金持ちだったんだね」

「昔から殺しという後ろ暗い家業をしていれば金くらいはあるだろう」

「そう、か」

 

 ミコトは改めて周囲を見渡す。

 広大は敷地なのだが、至祈と自分以外人気を感じない。手伝いの者という言葉や、自身の能力で他の魂の気配を感じたが、奇妙なまでに静かな場所だった。

 

「おい。呆然とするのは構わんが、早くしないと買う時間がなくなるぞ? 言っとくが、俺は手伝わないからな。それだと労働の意味がない」

「あっ! うん、さっそくやるよ!」

 

 友人の心境を察してか、彼が余計な事を想わないように至祈が叱咤する。

 そこでミコトは早速草むしりを始めた。

 

 *

 

 日暮れ時。至祈に命じられた場所の草むしりを終えたミコトは、彼から二千円ほど受け取った。

 草むしりをした広さを考えると実質の労働なら、割に合わない金額かもしれないが、善意で提供された労働なので文句も言えないし、一切不満すらミコトは抱かなかった。

 

「ありがとう」

「礼は不必要だ。それよりも、早く手を洗って買いに行くぞ」

 

 至祈の指示に従って、ミコトは汚れた手を洗うとそのまま彼と一緒に屋敷から出た。

 

「ねぇ、シキ」

「何だ?」

「今度、遊びに来ていい?」

 

 古風ばかりで、静寂した屋敷。

 子供が好むようなモノは何も存在しない場所へ、何を想ったのか遊びに来たいとミコトは言った。

 至祈には理解できない。

だが、断る理由もなかった。

 

「好きにしろ」

 

 *

 

 空が夕日に染まる街中。

 屋敷からここまで駆け足で辿りつくと、至祈がミコトに確認した。

 

「で、何を買うか決まっているのか?」

「えっと、本を買おうかなって」

「ほう」

「八神さんは読書家みたいで、最近は行っていないけどちょっと前までは図書館に通い詰めるぐらい本が好きなんだよ。だから、本なら喜ぶかなって」

「悪くない選択だが、八神が欲しそうな本は知っているのか? 本当に読書家なら、大抵のベストセラーは読んでいる。あるいは知っていても興味がないから読んでいない。既に既読済みや趣味じゃないものを渡しても荷物になるだけだぞ?」

「あっ・・・・・・・・・」

「まぁ、博打で渡してもアイツは喜ぶだろうがな。お前が喜んでほしいなら慎重に選べ」

「うん」

 

 少し不安になりながらも、ミコトは至祈に背中を押されて書店に入る。

 店の中にはミコトが知らない本がたくさんあった。

 だが、至祈の言葉どおり、この中にははやてが既に読んでる本、興味がない本は当然たくさんあるだろう。

 ミコトははやてとの会話などを思い出しながら、慎重に本棚を巡る。

 

 そして、しばらく店の中を何度も往復した後、ミコトはあるものを見つけた。

 

 *

 

 本当に驚いた。

 

『誕生日おめでとう!!』

 

 ヴィータに食事が出来たと呼ばれて、はやてがリビングにやって来ると、自分に向かって大量のクラッカーが発射された。

 そして、いつの間にか飾り付けられたリビング。一時間前まではこんな状態ではなかった。テーブルには何時もより豪勢な料理に、中央には八本の蝋燭が刺さった苺のホールケーキ。そして、その上に乗っかっているチョコのプレートにはこう綴られた。

 

 Happy Birth Day Hayate。

 

「えぐぅ」

『!?』

 

 嗚咽を漏らしたはやてにリビングにいた全員が驚愕した。

 

「八神さん、大丈夫!? クラッカーで驚いちゃった!?」

「マジかよ!? てめぇ、ライダー!! 何が多く鳴らしたほうが景気いいだよ! はやて泣いちゃったじゃねぇえか!!」

「えええ! 僕のせいなのかい!?」

「わ、我が主、気をお確かに!!」

「やれやれ」

「ちゃうねん、ちゃうねん・・・・・・」

 

 瞳から零れる涙を抑えながら、はやては首を振るう。

 

「まさか、誕生日祝って貰うなんて想わなくって、それでちょっと驚いただけや」

「八神さん・・・・・・」

 

 ずっと、誕生日は一人だった。

 気が向いた時にだけ、誕生日は少し豪華な夕飯を一人で食べて、そのまま寝る。

 はやてにとって、誕生日はその程度のものだった。だから、自分の誕生日は特に気を止めなかった。やっとできた家族と共に過ごす日々で、寂しかった日など忘れていた。

 だが、今日は、初めて、誕生日であったことが、嬉しいと感じた。

 胸の奥からこみ上げてくる温かさを抱きしめながら、はやては涙を拭い、微笑む。

 

「みんな、ありがとう!」

 

 その後、電気を消して誕生日ケーキの蝋燭から灯される火をはやてが消した後、それぞれから彼女に誕生日プレゼントが贈られた。

 まず最初に、この場にいないグレアムからのプレゼント。

 アーチャーから渡された時、はやては再び驚いた。

 そして、中身に入っていたのは可愛らしい靴。少し大きめの靴は、リハビリを続け、しばらくしたら歩けるようになるはやての脚にはぴったりだろう。はやては再び涙を溢す。

 続いて、アーチャーがそのまま自身からのプレゼントを贈った。それは新品のエプロン。これを身につけて精々私に少しは追いつけと言った彼の皮肉を、はやては首を洗ってまっときっと豪語した。

 次はヴィータからだった。それは手作りのチケットが十枚。これを使うとヴィータは何でも言うことを訊いてくれるそうだ。そんなものを使わなくとも、ヴィータははやてのお願いならば何でも言うことを訊くのだが、彼女なりに真剣に悩んだ品なのだろう。なんとも彼女らしいプレゼントで、皆に微笑みが宿る。

 ライダーは可愛らしいワンピース。凄く高価そうなものだったので、一瞬、はやては気が引けたが、新参である彼が、はやてのために少し前から始めたバイトの給料を全て使い購入した物。彼なりに仲良くないたいという気持ちの表れなのだろう。はやては素直に受け取った。

 リインフォースは手作りのアミュレット。ベルカの騎士が作製した紛うことなき霊装であり、魔力抵抗が上がるそうだ。本当に実戦的な品に一部の人間は何とも言えない顔をしていたが、綺麗な細工に目を輝かせたはやては喜んで身につけた。

 最後は、ミコトの番だった。

 

「えっと、実は昨日まで僕は八神さんの誕生日を知らなかったんだけど────」

 

 その言葉ではやて以外が凍りついた。

 がやがやと外野がうろたえながら、そういえば自分たちはミコトと何もしてなかったことに気づき青ざめていたが、はやてと言えば既にミコトが小さな紙包みを手に持っているのを見ているので気にしなかった。

 仮に準備していなくてもきっと自分は怒ったり失望したりしなかっただろうが、やはり何かしら用意してくれたのはかなり嬉しい。

 

「────だから、こんな物しか準備できなかったけど、受け取ってくれるかな?」

「うん!」

 

 にこやかに頷いてから、はやてはミコトから包みを受け取る。

 軽い。本当に何か入ってるのかと疑ってしまいそうな軽さだが、まさか本当に中身がないことはないだろう。

 

「開けてええ?」

「うん、いいよ」

 

 了承を得たはやては丁寧に紙包みの開けると、スッと中身を取り出した。

 それは一見、縦十センチほどの薄い板だった。ただ、板にしては先に赤い布があり、周りも金属製で、少しばかり装飾が施されている。

 これと同じようなものを、はやては見たことがあった。

 

「これは栞?」

「うん」

 

 ミコトは少し不安げな顔で頷いた。

 本を読みときに挟む栞。それも、予め備え付けられてるような紙の栞でなく、耐久性のある金属製の栞だった。

 

「本を買うつもりだったんだけど、八神さんが読みたい本が分からなかったから、どんな本にも使える栞にしたんだ」

「そうなんや。けど、なんで一つ葉(、、、)のクローバーなん?」

 

 中央には押し花のように、一つ葉のクローバーがあった。

 普通なら幸運の四つ葉のクロ―バーが妥当だろうが、あえて一つ葉を選んだのか不思議だった。本当は四つ葉のクロ―バー買いたかったが売り切れ、というオチを考えたがどうやら違うようだ。

 

「一つ葉のクローバーはね、『始まり』と『開拓』、そして『困難に打ち勝つ』という意味があるんだよ。

 これから八神さんは色々初めてのことがあって、その度に大変なことがあるかもしれない」

 

 それはそうだろう。

 学校のこともある。魔法のこともある。

未だ召喚されていない守護騎士の件もある。

はやてがこれから向かう道とはけして安易なものではないことは誰にも想像できた。

 

「だから、せめて───これがお守りとして君を守ってくれたらって、そう思ったんだ。まぁ、本当のお守りならリインフォースみたいな実用的な物のほうがいいんだろうけどね」

「そんなことあらへんよ。うん、すっごく嬉しい」

 

 大切な宝物のように、はやては栞を抱きしめて微笑んだ。

 

「ありがとう、ミコトくん」

 

 そこでようやく不安げなだったミコトの顔も安心したように柔らかな笑みを浮かべる。その様子に緊張しながら事態を見守っていた外野もほっと安堵する。

 

「よし、それじゃあ料理も冷めてしまわないうちに食べてしまおう」

 

 気を取り直すかのように言ったアーチャーの言葉で、各々、目の前の料理に手を飛ばしながら取り留めのない雑談を交わす。

 はやての賑やかな誕生日はまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、シキからも八神さんに渡すようにって誕生日プレゼントを受け取ってるよ」

「シキくんから?」

「うん」

「・・・・・・・・・・・・なんや嫌がらせか?」

「八神さん、確かにシキは陰険で乱暴で素直じゃないし、人が嫌がることは嬉々してやるかもしれないけど ──────たぶん、大丈夫だと思うよ」

「いやいやいや、すっごく不安やねんけど、まぁ、罠は無さそうやし受け取っとくわ。

 今度会ったら一応御礼を言わんと─────えっと、本?

 タイトルは『馬鹿な大人の躾け方』? 変な本やな。やっぱ嫌がらせか?」

「ははは・・・・・・」

 

 互いに微妙な顔を浮かべる二人。

 だが、はやては知らない。

 のちに、この本が自身にとって愛読書の一つになることを、はやてはまだ知らない。




はやて誕生日おめでとう!!

ちなみに一つ葉のクローバーにはもう一つ、意味があります。
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