Fate/Lyrical cross ☓はやて【凍結中】   作:貫咲賢希

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 前回投稿時が感想が0だったので不評と判断。
 でも、あの子いないと駄目なんです。
 はやては「なのはシリーズ」、ミコト自身はかなり「Fate」的重要存在。至祈は型月で物語のジョーカー的立場です。この子がいないとこの先困ります。
 彼の魔眼は幻想殺し+直視の魔眼+αな感じのチートですが、現状の彼なら第五次アサシンなら倒せます。でもセイバーは負けます。
 
 ではでは、本来ならせめて月1ペースのためストックにすべきとこですが投稿。
 次は1月中に投稿できるといいな。
 そして量が多いので注意。
 時間がないのは仕事と大賞投稿ようの執筆と、主にとある黄金の暴帝様のせい。


第6話 家族

「ふはぁあ」

「お疲れだね、八神さん」

 

 八神家のリビング。午後三時になった頃、椅子に座ったままテーブルに向かってぐったりとしたはやてを隣に座るミコトがくすりと笑う。しかし、彼自身も疲労が溜まっているのは顔を見れば分かる。むしろ、はやてよりも疲れているように見えるくらいだ。

 

「お疲れ様です、我が主。ミコトも」

 

 そうやって二人を労いながら魔法を教えていたリインフォースが教材を片づけ始める。

 はやてとミコトが扱う魔法は古代ベルカ式。細かい系統は違えど、大まかな部分は一緒。

 それを教える役目は古代ベルカの魔導書、夜天の書の管理人格であるリインフォースが適任だった。彼女はこうやって、時には実技を交えながら、二人に古代ベルカ式の魔法を教えている。

 はやてとミコトは魔導師。片や夜天の書の主で片や天王の転生者。その潜在能力は計り知れない。

 しかし、互いに秘められた才能は凄まじくても、その力量は未熟すら届かないもの。特にはやてに関しては、最近まで魔法事態触れていなかった。

 だが、やはり才能があるのか、覚えたことは直ぐにこなし、以前までにあった夜天の書からの呪いから解放されてから足のリハビリを行っている傍ら、魔導師としての力量も着実に上げている。

 それは彼女に魔法を教えているリインフォースも驚くほどだ。

 若干、主贔屓が入っているかもしれないが、仮にはやてが魔導師でもなく、体も不自由でなく普通に学校に通っていれば既に高校レベルまで上がっているかもしれないほどの飲み込みの良さだった。

 そのはやてはここ最近、ずっと魔法のことに力を入れている。

 いや、入れ過ぎているように見える。

 凄まじい集中力で次から次へと学んで、実技も教える側が止めるまで励んでいた。今日の座学も予定していた内容の二つ上の段階まで勉強したのだ。

 ミコトはそんなはやてに必死に追いつくことがやっとで、彼女の見えないとこでリインフォースに何回か理解しきれなかったことを再度聞き直すほどだ。

 

「我が主、以前も伝えましたがそんなに急いで学んでも仕方ないですよ? 幾ら学んだところで直ぐに他の騎士たちに逢えるわけではありません」

 

 八神はやてが魔法を必死で学ぶ理由。それは夜天の書に残っている守護騎士の解放だ。

 守護騎士たちははやての魔導師としての力量が上がれば自ずと出てくるようになっている。仮に無理矢理出そうとした場合、その負荷に主であるはやてが耐えられず、最悪命を削ってしまうのだ。そんなことは当然、夜天の書の管理人格であるリインフォースが許さず、他の騎士も望んでいない。

 よって、はやては地道に努力するしかないのだが…………。

 

「そやけど、頑張れば頑張れ分だけ実力はつくやろ? ゲームみたいに珍しい敵倒したら経験値がばーんとかなんて無理やんから、それしかないやん」

「それはそうですが――」

 

 うつ伏せになったままのはやてにリインフォースはなにか言おうとして、言葉を詰まらせる。

 リインフォースの見立てでは普通に魔導師として力量をつければ、遅くても十年で他の騎士たちを夜天の書から召喚できる。

 しかし、それでは遅いとはやては思うのだ。

 話したいことがある。一緒にしたいことがある。早く逢いたい。だから自分は精一杯努力するのだ。

 そんな気持ちも十分に理解できるからこそ、リインフォースも時折制することは言うが、はやてに合わせて魔法をハイペースで教えている。

 だが、それで良いとは思っていない。

 はやてにははやての人生がある。魔導師として生きると決めたのも彼女自身によるもの。

 それを止める気はない。むしろ仕える者として考えると主が優秀になっていくことは喜ばしいと思っているのだ。

 だが、幼い子供としての幸せも味わってほしい。

 せっかく体も治ったのだ。リハビリもこなして学校に通い、そこで多くの友達を作ってほしい。楽しい青春を謳歌してほしい。

 今までずっと彼女を見守っていたリインフォースはそう願わずにいられないが、今のはやてはあれほど好きだった図書館にも最近では行っていない。今は普通の本を読むくらいなら、魔法関係の本を読んでいたほうが良いというのははやての言葉だった。

 このままでは魔導師“だけ”の八神はやてが生まれる。

 それはそれで一つの道としては良いのかもしれないが、リインフォースは少しだけそんな未来は悲しいと思う。

 彼女にはできるだけの多くの幸せを与えたい、とうのはエゴなのだろう。

 それでも、リインフォースは大切な主の現状を手放して良いもととは思えなった。

 

《やれやれ、何とかならないモノかね》

《アーチャー》

 

 三人のために作った手製のおやつをトレイで持ってきたエプロン姿のアーチャーが、リインフォースに念話で話しかける。

 彼女の今のはやてはあまり良くないと感じている。

 彼の場合は自分の主でるミコトが、はやてについていこうとする必死さを心配している部分もあるが、純粋にはやて自身をリインフォースと似た様な気持で按じている。

 しかし、彼に関しては一切はやて自身にそのことを言った事もない。

 言う資格がないからだ。

 彼が彼女の騎士ではないから、などではなく、はやてのそれは自身も歩んできた道なのだから。

 

《私も、魔術師である父に追いつきたくて必死になっていた頃があった。そんな私が彼女に何を言っても説得力はないだろう……》

《そんなことは――知っているからこそ、それがどういうことが諭せるだろ?》

《いや、彼女と私の場合状況が違う。私は自身のために。彼女は家族のためにだ。しかも、彼女は私とは違い才能がある。私が必死に研鑽したのは一重に自身の非才ゆえにあった》

《非才? お前がか?》

 

 リインフォースは直接アーチャーの実力を見た機会があったわけではない。それでも、天王の救済騎士として召喚されるのだから、それだけの力量はあるはずだ。

 

《ああ。私にはあまりにも才能が欠けている。師にも嘆かれたものだ。そんな師からすれば、ありふれた少女のような時間とは心の贅肉と馬鹿にされるだろうが、それでも私はいままで苦労した彼女にはそんな時間をできるだけ送ってほしい》

《アーチャー…………》

「なんや~? 二人ともいきなり見つめ合ってからに」

『!?』

 

 いつの間にか起き上がっていたはやてがにやにやと二人を見ていた。

 

「あかんで~。あかんで二人とも~。子供がいる前で乳繰り合ってたら情操教育に悪いわ」

「わ、我が主。私と彼はそんな関係じゃ――!」

「そもそも、そんな事を言う君には必要ないだろう。まぁ、そこでなんのことか分からず、今だ呆然としたままのマスターには悪かったかもな」

 

 その言葉できょとんとしているミコトを三人は微笑ましく見る。

 何故か生温かい視線に首を傾げながら、ミコトははやてへ顔を向けた。

 どことなく真剣な雰囲気を感じたので、何事かと向けられたはやては改める。

 

「えっと、八神さん。少し話は戻るけど、たぶん君なら魔力を一気に上げる方法があるよ」

「え? それほんま!?」

 

 ミコトの言葉にはやて以外の二人も驚いた。

 しかし、なにもアーチャーとリインフォースがそういった方法を知らないわけでない。

 だが、それらは外法や悪法、呪術の類がほとんどで、それ以外の方法も簡単にはいかないものばかりだ。はっきり言って、ただ単に実力を上げるなら、いまの地道な努力のほうがずっと良い。

 いったい、何を言い出すのかと二人が見守る中、ミコトは自身の考えを口から出す。

 

「うん。その方法は魔力蒐集」

「待った。それは――」

 

 その言葉に真っ先に反応したのはリインフォース。はやても苦い顔をしていた。

 魔力蒐集。夜天の書に備わった機能であり、生命体にある魔力機関のリンカーコアから、魔力を奪い、時には魔力を奪った相手が持っていた魔法を覚える。

 元々は他から魔法を覚えるだけの機能なのだが、嘗ての夜天の書の主たちはそれを利用し、戦争では命を奪い、様々な機能を取り付け夜天の書の闇の書と呼ばれるまで悪化させた、ある意味原因というべき機能だ。

 それは今の残っており、確かにそれを使えばはやての魔力は上がるだろう。

 しかし、それには犠牲がいる。例え殺すまでいかなくても、誰かが傷つく必要がある。

 そんなこと優しい心を持つはやてが許すわけがない。

 

「もちろん、人や生き物から取るわけじゃないよ」

 

 だが、そんなことはミコトも重々承知している。

 その言葉を聞いてはやては安心するが、リインフォースは怪訝な顔になった。アーチャーは自分の主を黙って見守る。

 

「マテリアって知ってる? 魔石のことなんだけど」

「マセキ? 魔力を持った石ってこと?」

 

 聞き慣れなり言葉にはやては首を傾げ、ミコトは頷く。そして、知っているのかリインフォースが強張った。

 

「この前、偶々本を読んで知った事なんだけど、マテリアっていう魔石は単体で魔法が使える代物なんだ」

「ふむ」

 

 それを聞いたアーチャーは腕を組みながら頷く。

 確かにそう言ったものもあるだろう。宝石に予め術式と魔力を施し、魔術を発動させる宝石魔術というものを彼は知っている。そもそも、高純度の宝石事態魔力を溜めることも可能であり、元から魔力が宿っているものがあるのだ。そのような石があるのは、彼からすれば不思議でもなかった。

 そして、ちらりとリインフォースの様子を見ると、そういった物が存在することを彼女自身は知っていたようだ。しかし、驚いているところを見ると、今からミコトが言うことは彼女も思い到らなかった事だろう。

 

「そのマテリアから魔力蒐集ってできないかな? それなら誰も傷つくこともないよ」

「どうなん、リインフォース!?」

 

 物凄い勢いで首を捻りながらはやてがリインフォースに確認した。

 リインフォースはしばらく考えてから、しっかりと頷いた。

 

「試したことはありませんが、可能でしょう。マテリアとは無機物のリンカーコアのようなものです。魔力蒐集もできるはずです」

「ほんまに!」

 

 ぱぁあと、はやての顔が明るくなると、ぐるりミコトに振り向いた。

 

「ありがとう、ミコトくん!」

「!?」

 

 感極まったのか、そのままミコトへとはやてがギュッと抱きついた。

 なんとかミコトははやてごと自分が椅子から転げ落ちないように踏ん張るが、それが精一杯。抱きついてきた女の子の軟らかさ甘い香りやらで顔を真っ赤にさせながら硬直する。

 その様子をリインフォースは微笑ましく見つめる。

 ミコトは偶々本読んだと言っていたが、おそらくわざわざ調べたのだろう。

 彼にそんな余裕はなかったはずだ。はやてに置いてけぼりにならないよう勉強し、自身の系統の魔法を独学する他にも、アーチャーから剣の手ほどきをして貰っている。

 はやてに勝るとも劣らない努力の毎日の中、わざわざ彼女のためにミコトは時間を削って見つけ出したのだ。全ては早く新しい家族に逢いたいと願う女の子のために。

 自身たちを救ってくれたことも含め、リインフォースは改めてミコトに感謝しきれない思いを更に募らせた。

 

「しかし、無機物から魔力蒐集か。少し考えれば私も思いつけるはずのことを見逃していたな」

「仕方ないだろう。過去ゆえに君は蒐集という行為が敬遠していた。何とかしようと考えても、その方法事態は最初から選択肢から外していたのだろうよ」

 

 そうやって少し落ち込むリインフォースをアーチャーが直ぐに励ます。彼のこういう気遣いも嬉しく思う。思えば、彼にも色々と感謝すべきことが多い。家事に関して最近はほとんど彼に任せきりだ。自分のできるようにならなければ。

 

「さて、そろそろマスターを離してくれないか? このままでは頭が過熱して倒れてしまいそうだ」

「え? わわ、ごめんな!」

 

 アーチャーの溜息交じりの言葉にはやてはようやく自身の状態把握し、恥ずかしながら顔を赤らめミコトから離れる。

 

「う、うん。別に。ちょっと驚いただけだから。それよりも、君たちがその方法でいいなら、今はどうやってマテリアを手に入れるかが考えないと」

 

 まだ顔が赤いミコトの言葉にはやては自身も調子を取り戻そうとするように考える。

 

「そ、そやな。ええと、マテリアって石やろ? 流石に近所とかには落ちてもせえへんし、売ってもないやろうな。そもそも買えるもんなん?」

「現在の相場は分かりませんが、おそらくミッドチルダでは取り扱っている場所もあるでしょう。ただ、おそらく高額です」

 

 ミッドチルダとははやて達がいるこの地球とは違う次元の世界であり、はやてたちに援助しているギム・グレアムが所属する時空管理局の運営が大きな影響を与えている場所だ。

 また魔法文化が最も発達している世界であり、はやてとミコトが使うベルカ式とは違うミッドチルダ式魔法の発祥の地でもある。むしろ、世間ではこのミッドチルダ式こそが主流な魔法体系であり、はやてたちが使うベルカ式などマイナーな分類に入る。

 そういった世界でなら確かに魔法に関するものがあっても不思議ではないが、高額とう言葉にはやては難しい顔をする。

 

「高額って、だいたい幾らぐらいやろ?」

「日本円で換算するなら、低品質のものでも数百万はするかと」

「数百万!? あかんわ! そんな大金あらへんよ!」

 

 はやてたちに資金援助もしている脚長おじさんことギム・グレアムに事情を説明して頼めば、現金ではなく直接物を快くくれそうなのだが、そんな高額の物を要求できるほどはやては図々しくなかった。

 

「なら自分たちで見つけるしかあるまい」

「見つけるって、鉱山を彫り当てるの?」

 

 アーチャーの言葉にそれはそれで難しいのではと相変わらず苦悩した顔のはやてにリインフォースが「安心してください」と、笑いかける。

 

「今晩中に採掘可能であり、採掘事態に細かな手続きが不要の世界を調べます。みつければ、後は私とアーチャーが取ってきますのでご安心を」

「いや、取りに行くんなら私も一緒に行くで!」

 

 自分の新しい家族が関わる事だ。もちろん、自分も手伝いたい。

 そんなはやての言葉にリインフォースはたちまち困った顔になった。

 

「我が主。採掘事態に細かな手続きが不要の場合、その多くがその場所に人が簡単に入れない、つまり危険な場所なのです。そんな場所に貴女様をお連れすることは忍びない」

「大丈夫やって! 多少危険でも、私は魔法も最近では覚えてる。なんとかするよ」

「しかし――」

「あの、僕もできたら手伝い」

 

 その言葉はミコトのものだった。

 

「僕が提案したことだし、少しくらいの危険なら魔法の訓練になると思うんだ。なによりも八神さんの助けもしたい」

「ミコトくん…………」

「ミコト、お前まで――」

「お願い、リインフォース! 私たちも連れてって!」

「迷惑は絶対かけないよう頑張るから!」

「だが、しかし、御身たちの身にもしものことがあれば――」

「別に連れて行っても構わないのではないか?」

 

 どうしても危険な場所に連れて行きたくないリインフォースへ、アーチャーが二人の助け舟を出した。

 そんな彼をリインフォースは驚いたように見入る。

 

「アーチャー…………、お前は味方だと思っていたのに」

 

 潤んだ目でじっと見てくるリインフォースにアーチャーは思わずたじろいでしまう。

 

「そんな目をしなでくれ……。マスターの言葉通り、少し危険だったほうが日頃の魔法の訓練の成果が確認でき、実戦経験も積めるだろう。魔導師で在る限り、いずれは通る道だ。

 ならば予期せぬ時にそれが来る前に、予め経験を積めることは大きな利益だ」

「確かに、そうだろうが――」

「それとも、君は危険な事態になったとして、自分の主も守れない騎士なのか? 当然、私は違うがね。なにがあろうとマスターであるミコトを守ってみせよう」

 

 挑発するような物言いに、思わずリインフォースは顔をむっとさせる。

 

「なめるなよ、アーチャー。例えどんな災厄が襲ってこようとも私は主はやてを守ってみせる」

「ならば問題あるまい」

 

 にやりと笑うアーチャーにリインフォースははっ! として、自分の過ちに気付き、しまったと顔を歪ませる。

 

『リインフォース、お願い…………』

「くっ!」

 

 追い打ちで、じっと懇願するように自分を見る二人を前に、大きな溜息をしてから、とうとう彼女は折れた。

 

「仕方ありません。私も御二人の同行を許可しましょう」

『リインフォース!!』

「ただし、くれぐれも私とアーチャーから片時も離れないでください。いいですね?」

『はい!』

 

 元気よく返事をする二人にリインフォースは頭を悩ませる。

 許可したものの、やはり心配は心配だった。二人とも聡い子であるので、遠足気分ではないだろうが――完全とは言い切れないが――、彼女の心労は溜まる一方だ。

 

「そんな顔をするな」

 

 横から苦笑交じりそう言ってきたアーチャーをリインフォースはきっと睨む。

 

「アーチャー。だいたい、お前が助け船を出さなければこんなことには――」

「おや? 一度言った事を君は覆すのかね?」

「ぬっ! 騎士に二言はない!」

「なら、良いでわないか」

「…………お前は、いじわるだ」

 

 拗ねたように涙目でそっぽを向くリインフォースにアーチャーは肩をすくめる。

 

「そんな顔をするな。ほら、これでも食べて機嫌でも治せ」

 

 そうやってトレイに乗せていた自分が作ったお菓子をリインフォースの目の前に置く。

 

「お前…………。この前の事といい、私が食べ物で釣れるとでも思っているのか?」

「はて? 別にそんなことは思っていないのだが、いらんのかね? だったら下げさして貰うが」

 

 ちらりとリインフォースは自分の目の前にある物を見る。

 そこにはカットされた黒いケーキが乗っかっている白い皿があった。

 甘い香からして、チョコなのだろうか? ケーキの間にはなにやらジャムのようなものが挿んである。

 興味津々な顔のリインフォースにアーチャーがワザとらしくにやりと笑って説明する。

 

「ザッハトルテ。オーストラリアのケーキだ。スポンジの間には今日完成したばかりの杏ジャムが入っている。チョコの甘さに杏の酸味苦みはかなり合うぞ」

「…………」

「まぁ、いらんというなら仕方ない。これは一旦下げ、マスターたちの夕飯にでも出すか」

「食べる」

「素直でいいことだ」

 

 更ににやにやとアーチャーは笑い、目の前のはやてとミコトですら微笑ましく彼女を見ているので、リインフォースは大いに不満だった。

 悔しい事に、そのしばらく後でその事を思い返してみれば、ケーキを口にした瞬間、その不満はどこかに消えていたのだ。

 

 *

 

 翌日、はやて、ミコト、アーチャー、そしてリインフォースの四人は昨晩中にリインフォースが探したマテリアを採掘できる世界にやってきていた。

 移動方法はリインフォースによる次元世界の転移。魔導書である彼女にはそこまで難しいことでもないのだが、価値感が違うアーチャーにとって別世界の移動は驚愕すべきことであった。勿論、魔法見習いのはやても自分の庭からすぐに違う世界に移動したことには驚き、リインフォースと同じ魔法を知っていたミコトですら、彼女が特に時間もかけず別次元の世界への転移を成功させたことは驚きに値した。

 丘の上に転移した彼女たちの前に広がった光景は広い青々とした平原。その上には大きさ青い空が広がり、遠くには岩が剥き出しの山脈が見える。

 それだけならはやてがいた世界でもあるような自然の光景だが、平原にははやてが見たこともないカバのような体に馬のような顔の生き物が群を成して平原にある草を食べており、遠くの山脈の山頂付近には蜥蜴に羽が生えたような生き物が飛んでいる。

 

「おおお、まさに異世界って感じやな」

 

 はやては騎士服姿でふわふわと浮きながら辺りを見渡す。彼女は未だに歩けない状態だ。

 しかし、飛行魔法を訓練した結果、ある程度の時間なら常時浮いたままでも平気なまでいたった。皮肉なことに、今のはやては自分の足で立ったり、歩いたりすることよりも、魔法で浮いたり飛んだりしているほうが楽だったりするのだ。

 

「興味を抱かれるのは結構ですが、夢中になり過ぎて迷子にならないでくださいね?」

「いやいや、そこまで子供やあらへんよ」

 

 心配するリインフォースをはやては苦笑で返す。

 

「でも、空気が気持ちいね。僕もこんなところに来るのは初めてだよ」

「そうなん? ミコトくんは元々魔法の世界の人やからこんなとこに居てたと思ったけど」

「僕がいたとこは地球よりも文明が発達しているよ。たぶん、八神さんが見たらSFみたいだって驚くじゃないかな?」

「本当に? なんか以外やわ」

 

 はやての中の魔法の世界は中世ヨーロッパのような場所で皆が箒なのどを飛びまわって

 いるものだったのだが、ミコトの言葉でどうやら自分は見当はずれの想像をしたことに気づく。

 そこにリインフォースから補足するように説明する。

 

「主やミコトが使う古代ベルカ式のものは今の魔法に劣るわけではありませんが、言葉どおり古いモノです。しかし、近代の魔法や同じベルカ式の魔法はデバイスと呼ばれる魔導端末という機械を使うのが主流ですね。主の感覚からしたら近未来的と感じるでしょう」

「私が使う魔術とはかなり違うな」

 

 同じく説明を聞いていたアーチャーが腕を組みながら眉を寄せる。

 

「アーチャーが使う魔術は主たちの古代ベルカ式と近いものがあるだろう。先人たちの記憶、過去、世界の神秘を追究し再現をするのが我々なら、他の魔導師たちはまだ知らぬ未来を生み出し、より効果的で便利にする、という感じだろうか。もっとも、アプローチの仕方が違うだけで同じ魔導ということには変らないだろうがな」

「ふむ、過去を見る者と未来を見る者が同じとは何か妙なものだな」

「そうだな。さて、そろそろお喋りはいいだろう。目的の場所へと向かおうか」

「マテリアがある鉱山やな。見たところ近くにはあらへん見たいやけど」

 

 きょろきょろとするはやてにリインフォースが再び説明する。

 

「よく知らない場所での転移は危険です。もしも鉱山地帯のような密集された場所へ転移した場合、岩に激突したり、魔物の群の中に飛び込む危険性があります。

 ですので、大まかな位置だけ特定し、広くて障害物もない地帯に転移するほうが安全なのです」

「なるほどなぁ~。んじゃあ、目的地の場所まで結構遠い?」

「空を飛べばそこまで時間はかかりませんが……」

 

 ちらりと、リインフォースは少し申し訳なさそうにアーチャーを見る。

 はやてとミコトは飛行魔法は既にそつなくこなし、リインフォースも当然可能だ。

 しかし、系統が違うアーチャーは飛行魔法を持っていない。はやてとミコトの二人が飛行魔法の訓練をしていた時も、アーチャーは地上でその様子を見ていただけだ。

 リインフォースはアーチャーが飛べないことは想定済みで、徒歩での移動を進言しようとしたのだが、

 

「私は問題ない。このようなことがきた時のために飛行の術は予め準備してきた」

「そうなのか?」

「ああ。周りは皆飛べる者ばかりで自分だけが飛べんとは格好がつかないからな。自分なりに努力した結果がこれだ。投影開始(トレース・オン)

 

 すると、アーチャーのブーツを覆う様に黄金の羽根がついた靴が現れた。

 

「え! アーチャーって剣以外にも作れんのん?」

 

 真っ先に驚いたのははやてだった。ミコトの反応は薄いあたり、彼は元から知ってるようだったが、声は出さなくともアーチャーが産み出した靴には驚いている。

 リインフォースも驚いていた。だが、それは靴を産み出したことではなく、その産み出した靴が強力な魔力を宿っていたことに驚いたのだ。元からアーチャーが剣以外の物も投影できることを知っていたミコトが驚いたのもここだ。

 

「これは…………、すごい品のようだが」

「剣ではないので性能は劣るがね。

 本物は履くと鷲よりも空を速く飛べる魔法の靴《天翔せし羽踵(タラリア)》だ」

「タラリア? それってギリシャ神話のペルセウスが持ってる?」

 

 はやての言葉にアーチャーが頷く。

 

「いかにも。正確にはその原典である宝具。これはそれを私が投影したものだ」

「原典? それをアーチャーは見たことあるん?」

「ああ。とある金持ちの倉から目を盗んで見たものだ」

 

 意地悪い笑みをするアーチャーをはやては顔を顰めながら見る。

 

「アーチャーって何もんなん? お金持ちの倉に入ったってことは泥棒さんやったの?」

「アーチャー、人のものを盗むことはいけないよ?」

「はやて、私は泥棒ではない。だからマスター、そんな悲しそうな目で私を見るな。私の正体などいずれは分かること。今はマテリアを見つけることが先決だろ。

 リインフォース、また脱線してしまう前に移動してしまおう。お喋りなら移動中でも可能だしな」

「ふふ、そうだな。では、私が先行するので他の皆は後に」

 

 リインフォースはくすりと笑ってからふわりと空に飛んだ。続いてはやてが後に追い、ミコトも背中に白い翼を出現させて自身も空に飛び、最後にアーチャーが地面を蹴りだして飛翔した。

 

「アーチャー! リインフォースの真後ろに飛んだらあかんよ~!」

「誰もそんなことしない! というか、注意するのは私だけかね!?」

「そんなんミコト君がそんなことしないって信用してんもん」

「え? よく分からないけど、信用してくれてありがとう」

「つまり私は信用がないというわけか」

「そりゃあ日頃のラッキースケベ連発を見ればなぁ~。ほんまは狙ってやってない?」

「全て事故だ!!」

「あの、我が主。なぜアーチャーが私の後ろだと駄目なのですか? 並列で飛行するよりも、直列で移動したほうが案内される側は楽なのでは?」

「リインフォースはもうちょっと自分の身を守る事を覚えようなぁ」

「?」

 

 そうやって一行は空の上で雑談を交わしながらマテリアが埋まってあると予測されている鉱山へ向かって行った。

 

 *

 

「――ふむ、そろそろ着くようだな」

「え? 山なんてどこにもないよ?」

 

 ミコトの言葉にアーチャーはにやりと笑う。

 

「マスター。私をなんだと思っている? アーチャーと名乗っているのだから当然目が良い。君たちに見えない遥か遠方でも、私の目にははっきりと見えるのだよ」

「ああ、そういえばアーチャーって弓兵って意味だったね!

 最近は家事ばかりして、弓なんて使った事見たことないし、魔術もさっきので久しぶりだったから、僕って家政婦さんの英雄を召喚したのかなって思ってたよ」

「…………」

「あっ! 僕にも山が見えてきた!」

 

 悪気は零の言葉にアーチャーは押し黙り、ミコトは目的地が見えた事に若干興奮した。

 

「私にも見えた! なぁなぁ、リインフォース! 目的地ってあの場所!?」

「はい、間違いはありません。あの山脈付近で魔石が発見されたという情報がありました。幸い、許可などは必要もないようなので採掘することは可能でしょう」

「そうなんかぁ。っと、ふもとにあるのは村かな?」

 

 そうやってはやては山脈の近く木造の家が立ち並ぶ場所を見つける。

 

「そのようですね。しかし、なにか妙です」

「え? どないしたん?」

 

 急に態度が変ったリインフォースにはやては動揺した。

 

「なにやら、慌ただしいようです。アーチャー、お前の目でなにか分からないか?」

 

 リインフォースの言葉を聞いたアーチャーは我に返り、彼女の言葉に従って村の様子を確認する。

 

「む――あれは――どうやら山賊かなにかに襲われているようだな」

「な、なんやって!」

 

 *

 

「のはははは! 金目のもんは全部だせええええ!」

 

 オレンジ色の短髪に髭、片目には黒い眼帯を付けている男が叫ぶ。

 

「ひいぃ! そ、それは今月の売上が!」

「じゃかあし! また稼げばええやろうが! おめえらは全員ここで大人しくしとけば怪我はさせんから安心せい! おい子分ども! 家中家から金目のもんは全部見つけろ!」

『へい、御頭!』

 

 御頭と呼ばれた男の合図と共に、頭に同じ黒色のバンダナを巻いた男たちが一斉に家に入る。

 

「ああ! あれは買ったばかりの壺が!」

「ぼくのぬいぐるみ!」

「私の下着!?」

「ええぞ、ええぞ! このままどんどん出せ! ただし、家のもんが壊れて生活できんと困るやろうから、丁寧に、くまなく探すんじゅぞ!」

『へい、御頭!』

 

 *

 

「ふむ。どうやら村人を一か所に集めている間に、自分たちが家を漁っているようだな」

「村人を一か所に集めている理由は分断した際に生じる片割れの反抗を無くすためか?」

「二人とも、冷静に話し合っとらんと早く助けんと!」

 

 村の上空で様子を見ながら分析するアーチャーとリインフォースに思わずはやてが叫ぶ。

 

「八神さん、気持ちは分かるけど声が大きいよ」

「ごめん、ミコト君。でも、目の前で悪さしてんとに見てるだけなんて私には。

 私が魔法を習ったのは目の前で困ってる人がおったら助けたいてのもあったんよ?

 なのにただ見とくなんて――」

「我が主、なにも見捨てるわけではありません。ただ、状況がよくないのです」

「状況? あの山賊をやっつけるのが難しいってこと?」

 

 ミコトの質問にアーチャーが首を横に振った。

 

「いや。何も隠し玉がなければ、私かリインフォースだけでも制圧は可能だろう」

「しかし、捕えられている村人たちとそれを見張る山賊達の位置が近すぎます。

 下手に我々が動けば怪我人が出ます」

 

 アーチャーに続いて、リインフォースが状況の説明をした。

 それを聞いたはやてはますます難しい顔になる。

 

「せやけど、だかたってこのまま見過ごすなんて」

「八神さん…………」

「我が主…………」

「最悪、多少の被害を考慮してでも強行策に出るがな。あれだけ近いと、なにかで注意を引きつけないことには」

「? 注意を引いたらなんとかできるん?」

 

 はやての問いにアーチャーは頷く。

 

「あれぐらいの相手であの程度の人数。数秒あれば無事人質を解放できるだろう。しかし、問題はその方法だ。煙幕など使うにも、派手なものは逆に警戒されかねん」

「ようは警戒されんように皆の気を引けばええやね? そんなら良い方法あるで!」

「真ですか、我が主!?」

「うん。それはな――――――」

 

 *

 

「ふぅ、一通り集まったかの? あんまガキや老人に地べたで座らせるのも酷やろうし、あと三十分ぐらい作業したら引きあげっぞ!」

『へい、御頭!』

「ちょっと待った――!」

「むぅ!?」

 

 声のするほうに山賊と村人たちが一斉に振り向くと、そこには二人の子供が屋根に立っていた。

 

「なんなんだ、お前ら!?」

「なんなんだ、お前ら!? と訊かれたら!」

「こ、答えてあげるが世の情け!」

 

 どこともなくBGMが流れ、はやてが何処か楽しそうにしながら高らかに叫び、ミコトが恥ずかしそうにしながらも精一杯声を上げる。

 

「世界の破壊を防ぐため――」

「世界の平和を守るため――」

「愛と真実の正義を貫く!」

「ラブリチャーミーなヒーロー!」

「はやて!」

「ミコト!」

「次元を駆ける魔導師の二人には!」

「虚数空間、白い明日が待っているよ!」

「にゃ、にゃ~んてな」

 

 トドメに猫耳を頭につけたリインフォースが顔を真っ赤にしながら猫の真似をしながら二人の間に現われた。

 

 その瞬間―――――――。

 

『うほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』

 

 大音量の声という声が響き渡った。

 山賊たちと捕まっている村人の男性のほとんどが(若干、女性も混じってるが)、大興奮しながら空に向かって自分の感情を吐き出す様に叫び出す。

 

「猫耳銀髪姉ちゃん萌えぇえええええ!」

「おっぱいぶるんぶるん!!」

「かわえええ! 魔法少女二人かわえええ!」

「青い髪の女の子はボーイッシュ? アリだわ!」

「はやてたん、はやてたん、はぁはぁはぁ!」

 

 予想以上の反応にはやては満足げな笑みを浮かべる。

 

「完璧、完璧やわ! 自分も言うのもあれやけど、綺麗どこ可愛いどこがこないなことしたら、そりゃあ目立つで!」

「わ、我が主、なにやら恥ずかしいのですが」

「それがええねん!」

「よくありません!」

 

 グッジョブと指を立てるはやてにリインフォースが泣き叫ぶ。

 ミコトも自身では予想もしてなかった妙な盛り上がりに羞恥を感じ、顔を赤らめながら俯く。その仕草がまた堪らなかったのか、更なる歓声を増やすことになった。

 

「ミコトちゃんは初々しいのぅ――――はっ!? お前達、落ち着け!」

『はっ!? へい、御頭!』

『はっ!? はい、山賊の御頭さん!』

 

 山賊の御頭の一喝に仲間の山賊と、何故か村人たちまで冷静さを取り戻した。

 そして、代表するように山賊の御頭がはやてに向かって叫ぶ。

 

「やいやい、お前達! ワイらの邪魔をする気か!」

「そう――そのとおり!」

「威勢と萌えはかってやる。だが、こっちには人質がいるのは分かっているのか?」

「おや、人質とは誰の事だ?」

『!?』

 

 山賊達が一斉に不敵な声がしたほうに振り向くと、そこには捕まえていた村人たちが解放され、見張っていた仲間たちが気絶したように倒れていた。

 そして、そこには見慣れぬ赤い外套を纏った男、アーチャーが立っていた。

 

「貴様たちが彼女たちに夢中になっている隙に、村人たちを自由にさせてもらったぞ」

「て、てめぇは!?」

 

 悔しそうに山賊の御頭がアーチャーを睨む。

 

「あの三人の仲間か!?」

「だと、したら?」

「リア充、爆発しろ!」

「は?」

 

 予想もしなかった言葉に思わずアーチャーはぽかーんと口を開ける。

 

「あんな子たちの仲間とか羨ましすぎだろJK」

『御頭、きっと毎日トゥラブルな感じに違いねぇすよ!』

「お前たちもそう思うか? ワシもそう思う。くたばれリア充!」

『くたばれリア充!』

「なんなのだ、貴様たちは! というか、今! 助けてやった村人も何人か叫んだだろ!?」

「くっ! 人質がいなければ不利か! てめぇら! 盗んだもんは置いて逃げるぞ!」

『へい、御頭!』

「逃がすと思うか!?」

「喰らえ、煙幕爆弾!」

「!?」

 

 山賊の御頭はどっかから取り出したのか、彼の言葉が本当なら煙幕の爆弾を、地面に向かって投げる捨てる――――のではなく、剛速球でアーチャーへと投げ放った。

 

「ぶっふぉぉ!? げほっ! ごほっ!」

 

 予想外に投げられた速度が速かったことと、まさか自分に向かって投げるとは思いもしなかったアーチャーは顔面から直撃し、ダイレクトで煙幕の被害に遭って酷く咽る。

 

「アーチャー!」

 

 徐々に煙が晴れる、ミコトがアーチャーへと駆け寄って来た。

 

「私の事はいい! それよりも、奴らを!」

「そ、それが――」

 

 完全に煙が晴れて視界が鮮明になると、そこには山賊たちの姿がどこにもなかった。気絶していた人間の姿もない。

 

「ごめん、まんまと逃げられたよ」

「村の入り口近くで転移反応があった。元から離れる準備は万端だったらしい」

 

 ミコトに続くようにリインフォースがやってきて、その後ろからはやてもやってきた。

 

「まぁ、悪もんを逃がしたのは悔しいけど、村の人たちが無事でなによりやね」

「そうだね、八神さん。これも君とアーチャーのお陰だね」

「あはは。私はほとんどなんもしとらんけどな」

「そんなことありませんぞ!」

 

 そこで四人のもとに見知らぬ老人がやってきた。

 

「君たちのおかげで我々は助かった。村のものを代表として感謝をする」

「失礼ですが貴方は?」

 

 リインフォースの問いに老人が思い出したように胸を張る。

 

「申し遅れました。私はこの村の村長を務める者。改めて礼を言わせてください」

「いやいや、村長さん。そんな畏まらんでもええですよ」

「八神さんの言うとおりですよ。僕達はたまたま見かけて、ほっておけなかった。それだけです」

「なんと! 幼いながら謙遜も心得ており、なにより優しい心の持つ子供たちだ」

 

 感心する村長の言葉にはやてとミコトは思わず照れてしまう。リインフォースは自分の主が褒められたことが嬉しいのか、どこか誇らしげだった。

 

「して。偶然この場に居合わせたことは我々にとって幸福でありますが、何ようでこの地に? 見たところ旅の者でもないようですが?」

「私たちはこの地にマテリア、魔力が宿った石を探しに訪れた」

 

 リインフォースの言葉に村長が見開く。

 

「なんと! では、あのニブル山に参られるのですか!?」

「えっと、村長さんは知っているんですか?」

 

 はやての問いに村長が頷く。

 

「いかにも。あの山は私がまだ君たちぐらいの子供の頃、魔石の採掘所でした。あの山賊たちも、その頃の名残で残されていた各々の家々に家宝として存在する魔石が本来の目的だったのでしょう。

 しかし、崩落や魔物の大量繁殖により大がかりな採掘方法ができなくなった。今では腕の憶えのある者が魔石欲しさに稀に訪れるぐらいですじゃ」

「なるほど。どうやら、私が調べた情報は間違いないようだ。確認するが、あの山での採掘を村から許可を取る必要はありますか?」

「そんなものは当の昔に無くなっております。既に我々の村が管理している訳でもなく、管理局でも周囲に被害を与えるわけでもないので無法状態のはずじゃ」

「そうですか。情報感謝します。我が主、どうやら目的地に問題はないようです」

「そうみたいやね。そんなら、とりあえずこの村は御暇させてもらって、お宝探し行こう」

「むぅ、我々としてはお礼をしたいのですが、なにやら御急ぎのようですの。御用が済んだらもう一度村に立ち寄ってください。その時に改めてお礼をさせてもらいます」

「ははは。なら、そんときは御言葉に甘えさせてもらいます」

 

 その後、四人は鉱山の入口の情報を教えてもらうなどしてから、村の人間に見送られながら鉱山を目指すことになった。

 

「やれやれ」

「どうした、アーチャー?」

 

 意味あり気に苦笑を漏らすアーチャーにリインフォースが反応する。

 

「いや、なに。村にマテリアがあるのなら、助けたお礼と称して貰ってしまうほうが効率良いだろう。しかし、我々のマスターたちはそこまで頭が回らなかったようだ」

 

 若干遠足気分なのか、意気揚々と自分たちの前を進む小さな背中を見ながら、本人達に聴こえないくらいの声で苦言をする。

 するとリインフォースは面白いものでも見るようにアーチャーに笑いかける。

 

「それを当人たちに提案しない辺り、お前も鈍いな」

 

 意味あり気な視線を送る彼女に対して、思わずアーチャーは口をへの字にさせる。

 

「ふん。こんなことを二人にしてみたところで、結果など目に見えている」

「違いない」

 

 *

 

 村から移動して数十分。はやて達四人はマテリアが眠る鉱山、ニブル山にある洞窟の入口に到着した。村長の話では採掘したマテリアを昔はここから出していたらしい。

 

「いかにも、出そうって感じやね」

 

 先程まで意気揚々とした空気を余所に、はやては若干緊張したように身構える。

 

「事前に知らせたとおり、ここからは危険な魔物も出現します。くれぐれも御二人は私とアーチャーから離れないように」

「はい」

「うん、わかっとるよ」

 

 薄暗い青緑色の岩壁に囲まれている空間をリインフォースが魔法で明かりを灯し、それを頼りにアーチャーが先導し、ミコト、浮遊で移動するはやて、リインフォースの順で移動する。

 

「う~ん」

「どうしたの八神さん?」

 

 渋い顔をしながら周囲を警戒するはやてにミコトが訊ねる。

 

「いや、ゲームやったらモンスターとそろそろエンカウントしても可笑しくないあらへんけど、やっぱ現実は違うな」

「そうだね」

「ゲーム常識なら一番欲しいマテリアも一番奥やのうて、あんがいそこらへんに落ちてるかもしれへんな」

「残念ながら我が主。おそらく、マテリアがある可能性が高いのは最奥の元採掘所です」

「あらら。そこらへんはゲームみたいや。いや、ここは現実はそこまであまくないっと言っておくとこやろうか」

 

 そうやって、所々会話を挿みながらはやて一行は先に進むが、その間、危惧されていた魔物との遭遇はなかった。

 

「おや、分かれ道か」

 

 先頭のアーチャーが立ち止ると二つに分けられた道があった。

 

「リインフォース。どっちに行けば良いか村長から聞いてないか?」

「地盤に変化がなければ、どちらも辿りつく先は一緒だとのことだ」

「なるほど。では、二手に分かれるという手間はないう――」

「あっ!」

 

 リインフォースとアーチャーが会話して中、はやてが大きな声をあげる。

 

「どうしたの?」

「あそこ! なんか光ってる!」

 

 魔法で照らされた光に反射された何かを見つけたはやては、もしかしたら目的のマテリアなのかと思い、確認する為片方の道の近くに寄る。

 

「勝手に先に進んだら危ないよ――で、どう?」

 

 と、言いながらミコトがはやての後を追い、後ろからはやてが見つけたものを確認する。

 

「んん。ちゃうぽい。私でも分かるくらい魔力感じひん」

「うん、僕も違うと思う。でも、目的の採掘所は先だから、そこで本物を見つけよ」

 

 残念そうにするはやてをミコトは励ます。

 

 その時だった。

 ゴゴゴゴゴ! と、何かが崩れる音に辺りが振動する。

 

「むっ!」

「これは! 御二人とも直ぐこちらに!」

 

 突然の地鳴りに真っ先に反応したのはアーチャー、その直ぐにリインフォースが反応し、離れる二人を呼び戻そうとする。

 ――が、

 

「!? 八神さん、危ない!」

「え? きゃあ!」

 

 いきなりミコトがはやてを抱き寄せ奥に倒れ込むと、天上の一部が崩れて二人がいた場所に大きな岩が落ちる。

 

「!? 我が主! ミコト!」

 

リインフォース血相を変えて悲鳴をあげる。

 

「あたた。大丈夫やでリインフォース」

 

 すると、岩の向こう側からはやての声が聞こえて来た。

 自分の主の声が聞こえたことで、少しだけ安心するがリインフォースの緊張は解けない。

 

「二人とも、どこか御怪我をなされたのですか?」

「少しお尻を撃っただけで、あとはミコトくんのおかげで無事やで」

「僕も、大丈夫。ごめんね、その、いきなり――」

「気にしてないよ。むしろ、ありがとうや」

「八神さん――」

 

 岩の向こう側で仲睦まじい会話が聞こえるももの、状況は悪いままだ。

 落ちて来た岩は完全に片方あった道を塞ぎ、はやて達を分断してしまった。

 岩を壊すことはリインフォースでも簡単だが、それで先程のような崩落があればより危険なことになる。

 

「これは、別行動をする必要があるな――リインフォース。君は魔法を使い転移で二人のとこにいけないか?」

「可能―――だが、このような閉鎖された空間では衝突事故の可能性もある」

 

 一瞬躊躇ってから、事故の危険性を伝える。

 本当ならそんな危険を無視して直ぐにでも主の元に駆け寄りたいが、それで余計な被害を出ることも考慮しなければならない。

 

「ならば最悪の場合は君が二人のところへ転移して、それぞれの道から目的の場所を目指す必要があるな。二人とも、それで構わないか?」

「うん!」

「わかった!」

 

 岩の向こう側から二人の元気な声が返ってくる。

 いきなり大人たちと別れ、これから見も知らない場所を自分たちだけ移動しないといけないことを考えれば多少なりとも不安が生まれるはずだ。

 いくら魔法の力を手に入れようが、二人は幼い子供に変りはない。

 しかし、二人の声に不安の色は感じさせない。

 それは、やはり二人が今まで歩んできた環境や境遇ゆえに精神が同年代の子供たちよりも飛びぬけているゆえだろうか。

 

「さて、ならば早速移動しよう。リインフォースも心配する気持ちは理解できるが、二人の身を按ずるならばできるだけ早く合流することが先決だ」

「…………そうだな。我が主よ、危険な状態になれば我が本体である夜天の書に念話を。それならば、在る程度距離が離れようが問題ないはずです。御身の危険の際には馳せ参じます」

「うん! リインフォースも気をつけてな!」

 

 *

 

「それじゃ、私らも行こうか」

「うん、そうだね」

 

 はやての声にミコトがしっかりと頷く。

 

「まずは明かりや。私が魔法で作るけど構わへん?」

「そういった系統は八神さんの方が上手だからお願いするよ」

「うん、お願いされた。そんじゃあ、――リヒト!」

 

 リインフォースから習い、先程もそのリインフォースが使って自分たちを照らしていた魔法を使用する。

 魔法は問題なく発動して、白い光の玉が出現し二人の周りを照らす。

 

「ん? あれれ?」

 

 が、はやてがいきなり驚いた顔になると、彼女の背中に出現していた黒い翼、飛行魔法スレイプニールが消えてしまい、膝からその場に座ってしまった。

 

「ど、どないしたん? 羽ばたけ、スレイプニール!あ~ん、で~へん」

「もしかして、魔力切れかな? 今日ずっと八神さんって飛行魔法を使いぱなしだったし」

 

 涙目になるはやてをミコトが心配そうする。

 八神はやての魔力量がずば抜けている。彼女に魔法を教えているリインフォースから見ても、飛行魔法を使うだけなら半日は保つと判断するほどだ。

 しかし、やはり魔法を習ってから日は浅く、まだまだ無駄が多い。

 彼女は知らず知らずの内に無駄に魔力を消費していたのだ。

 並はずれて魔力が多い分、気づくことが遅く、結果、現在のように魔力が一時的に枯渇した状態となってしまったのだった。

 幸いなことに、はやてが作りだした光の玉は消えていないが、これでは移動ができない。

 

「…………」

 

 どうしようか困っているはやてを前にミコトはしばらく考えると、ミコトははやてに背中を向けるようにしてその場にしゃがむ。

 

「ミコトくん?」

「僕がおんぶするから、それで先に進もう」

 

 首だけ回し提案するミコトにはやてが慌てるように手を振るう。

 

「そんな、悪いよ!」

「大丈夫だよ。それとも他に良い方法ある?」

「それは――」

「なら、決定だね」

「ううう」

 

 笑顔で返すミコトにはやては覚悟を決めたのか、恐る恐るその背中に近づき、両腕を前に出す。

 

「よっと」

 

 直ぐにミコトがはやてを背負って立ち上がると、そのまま移動を開始した。はやてが作った光も二人を先行するように動く。

 

「お、重くあらへん?」

「? そんなことないよ」

 

 はやてが申し訳なさそうに声をかけると、本当にそう感じでないのだろうかミコトが不思議そうにする。それでミコトの背中にいるはやては余計に恥ずかしくなった。

 しかし、同時にミコトに感心する。

 自分が抱きついた時には慌てふためくが、さっき時といい、今の時といい、肝心な時には自分と接触しても動揺することなく行動できる。

 顔を真っ赤にして狼狽する姿をはやては可愛いと思うが、今のミコトは頼もしく感じた。

 思えば、仮に自分が一人だけ置き去りにされていれば、不安でいっぱいだっただろう。

 だが、ミコトがいるおかげで、いや、ミコトがいるから自分は少しも怖くなかった。

 少しだけ、ぎゅっと、はやてはミコトに寄りかかる。

 

「? 八神さん、どうしたの?」

「ううん、なんでもあらへんよ」

「そう。なにかあったら言ってね」

「うん。―――ミコトくん、ありがとう」

「どういたしまして」

 

 たぶん、ミコトは笑っているのだろうが、彼の背中にいるはやてはソレを見られないことが少し残念に思う。

 顔は綺麗な女の子のように可愛らしく、背丈は自分と変らないのだが、自分を背負う背中を彼女は大きく感じ、やっぱり男の子なんだな、と思うはやてであった。

 

 *

 

 一方、その頃。

 

「我が主! ミコト! すぐに貴女様たちの元へ! ええい邪魔するな!」

 

 リインフォースとアーチャーは魔物と遭遇していた。

 人間サイズの蠍に蝙蝠。良く分からないスライムのようなもの。常人ならすぐ逃げ出してしましそうな異形の群に、二人は真っ向からぶつかった。

 

「リインフォース、すこし先行し過ぎ――」

「ナイトメア!!」

 

 リインフォースが放つ紫の閃光が迫りくる魔物を焼き尽す。

 

「ブラッディダガー!」

 

 赤い短剣がリインフォースの周囲に無数に現われると、それらは矢のように放たれ、飛び交う魔物を余すことなく穿つ。

 

「………………」

「ナイトメア!」

「………………」

「封縛! 弾けろ!」

「………………」

「ブラッディダガー! ブラッディダガー! 封縛! アイスグランツ! 封縛! ナイトメア! ブラッディダガー! フリーレンフェッセルン! ナイトメアぁああああ!」

 

 否、リインフォースが一人で魔物の群を殲滅していた。

 よほど二人が心配なのか今の彼女には鬼気迫るものを感じる。

 アーチャーも干将・獏耶を投影するだけで、ほとんど立っているだけだ。

 どうやら彼女だけに任せても大丈夫、むしろ巻き込まれかねないので、彼にできることはリインフォースが無茶をしないように見守るだけだった。

 

「ええい、いっそうデアボリック・エミッションでも使って一掃するべきか!?」

「頼むから、君の魔法でここらを崩壊させないでくれよ」

 

 *

 

「あっ! なんや広いとこに出だな」

「そうだね。どうやら、ここがもと採掘所なのかな?」

 

 しばらく歩くと、はやてとミコトの二人は広い空間に辿りついた。

 まるで野球でもできそうなくらいの広いドームのような空間だが、元々が採掘所だったと感じさせるような跡がどこにもなかった。

 しかし、二人はその中央にあるものを見つける。

 

「! ミコトくん、あれ!」

「うん! たぶんそう!」

 

 ミコトは中央に近づき、辿りついてから背中のはやてを降ろす。

 そして、二人の目の前には一つの丸い緑色の石があった。

 それは宝石のように輝き、なにより離れた位置からでも分かるほど魔力を感じたのだ。

 

「なあなあ! これってマテリアなんかな!?」

「たぶん、そうだと思うよ」

「うわぁ、めっちゃ綺麗やな。これ、私らが使ってええやろうか?」

「見つけたから、僕達が最初なんだから、これはもう君のものだよ」

 

 あまりの美しさに、自分たちの事情で使い果たしてしまうことを戸惑うはやてにミコトは無用の心配だと伝える。

 

「よっしゃ、それならさっそく―――」

 

 まずはリインフォースたちに念話でマテリアを見つけた報告をしようとした。

 その時だった。

 

「!? 八神さん!」

「え? きゃああ!」

 

 咄嗟にミコトがはやてを守る様に彼女の前に立ちあがる。

 そして、天上から二人の前に巨大な物体が降ってきた。

 ドスン! と、地面を揺らせながら降ってきたそれは、先程の岩とは比べものにならないほど、危険なものだった。

 

「GYAAAAAAAAA!」

 

 それは蠍。サイズは三メートルほどある巨大な蠍だった。形も歪で、手の部分である鋏は鎌のように鋭く、尻尾は槍のようだ。赤紫色の肌に、毒々しいほど棘が体表のあちこちにある。誰もが危険な生き物だと判断する、まさに魔物だ。

 ここは巨大蠍の巣だったのか、自分たちが見つけたマテリアはあの蠍の宝物だったのか、ミコトには分からない。

 分かることは自分たちが危ないということだけだった。

 ミコトは自分の身長はある白銀の刃、天剣ニーベルングを構え自分たちに曝される敵意に身構える。

 

「ミコトくん!」

「八神さん、魔法は使えそう?」

「ごめん、まだ駄目みたいや」

「分かった。なら、ここは僕がなんとかする。君はアーチャーたちに念話を」

「そんな、一人で!?」

 

 以前、ミコトたちは闇の書の闇と対峙したことがあり、それに勝利した。

 あれに比べれば目の前の巨大蠍は大した脅威でないかも知れない。

 だが、あの時はリインフォースやアーチャーがいて、さらに猫の使い魔の双子もいたのだ。幾ら多少力をつけたとはいえ、覚悟していたとはいえ、ミコトがあれに一人で立ち向かうことをはやてには堪えれなかった。

 

「大丈夫、八神さん。僕が守るから――!」

「あっ! ミコトくん!!」

 

 ミコトは地面を蹴り、巨大蠍に接近する。

 はやてが動けない以上、自分に注意を引きつける必要がある。

 

「ゲンドゥル!」

 

 ミコトが右手で空を切ると、そこから青い光の玉が出現し、弾丸のように巨大蠍に向かい、直撃する。

 

「GYAU!」

 

 巨大蠍は小さく悲鳴をあげるが、その体には火傷一つすらない。

 ゲンドゥル。天王の魔法の一つであり、本来は霊的な存在に有効な攻撃魔法。

 単純な火力がないわけでもないが、巨大蠍にはダメージを与えられない。

 それでも相手の注意をミコトに引きつけることは成功したようで、巨大蠍は怒ったようにミコトへと向かう。

 速い。巨大な体に似合わず、素早い動きでミコトへと接近し、その鋏でミコトの体を凪ぎ掃う。

 

「くっ!」

「ミコトくん!?」

 

 はやての悲鳴にミコトの苦しそうな声。何とかニーベルングで鋏からの攻撃を受け止めることが成功したが、ミコトは手から伝わる衝撃に冷や汗をかいた。

 彼がアーチャーに頼んで剣の手ほどきを受けていなければ思わず手放してしまいそうな、重い一撃。体が硬直するミコトへ巨大蠍は容赦なく尻尾の棘で追撃をかける。

 

「フレック!」

 

 ミコトが叫ぶと迫りくる棘を阻むように魔力の障壁が生まれた。

 フレック。これも天王の魔法の一つで、天王の魔法は魂に関することが多いゆえか、なにかと霊的に作用するものが多い。

 このフレックも本来は霊的攻撃に有効な魔力障壁なのだが、今回は盾として術者を守る事に役だった。

 しかし、そのまま耐えていては更なる追撃が来ると判断したミコトは背中に飛行魔法ペガサスを出現させ、素早く後方に下がる。

 だが、その直後、ミコトは相手に対して攻撃を仕掛ける。

 

「ゲイレルル!」

 

 剣先を前に向けると、刃が魔力で青く染まり、そのままミコトは巨大蠍に突進した。

 ゲイレルル。剣先に高密度の魔力を集中し、自身を加速させ、突進する魔法。高速で逃げる魂を逃さず追撃するために編み出した天王の魔法。

 急に獲物が離れたことにより巨大蠍は態勢を崩し、そこへ逃げたはずのミコトが直ぐに繰り出した攻撃を巨大蠍は一切の対処ができず、完全に受け止めた。

 

「GYAAA!」

「くっ!」

 

 巨大蠍の悲鳴。同時にミコトの苦々しい声。

 

「硬い!」

 

 確かにミコトの攻撃は巨大蠍を傷つけた。

 だが、刃は数センチだけ侵入し、そこで止まってしまったのだ。

 これ以上の攻撃になると、ミコトに残された手段はあの夜、闇の書の闇を倒した魔法しかない。

 ブリュンヒルデ。天王の魔法の中で最高クラスの攻撃を持つ、ミコトの最強魔法。

 瞬間的に自身の魂を高め、限界以上の力を発揮し、刀身から超高密度の魔力を放出し、加速させた斬撃を巨大化させて、飛ばすそれは、力、射程距離共に強力で、対象との距離が近ければ近いほど命中した時の威力は高い。

 アーチャーとインストールした状態でなくても、威力は数段に落ちるが発動は可能であり、巨大蠍を倒すには十分すぎる。

 しかし、あれには溜めが必要であり、巨大に見合わず素早い動きをする巨大蠍の前には発動が難しかった。

 これらは一瞬の思考、ミコト自身ではそう思っていたが、他から見れば十分な間、それでも数秒もない間であるか、確実な隙が生まれた。

 怒りの報復か、再び巨大蠍が尻尾でミコトを襲う。

 ミコトはまた飛行魔法を利用して脱出しようしたが、できなかった。

 

「!?」

 

 巨大蠍は自身に突き刺さっていた剣を逃さないに両手の鋏で掴んでいたのだ。

 ミコトが手放すか迷った時、その体を蠍の尻尾が穿った。

 

「ミコトくんっ!!!?」

 

 はやての叫ぶような悲鳴。

 あまりにも衝撃があったのか、ミコトの体は吹き飛び、そのまま地面に転げる。

 痙攣するように微かに倒れた体が動くが、それだけだった。

 立ち上がる気配がない。幸い、騎士服の防護性能が優れたので出血はないが、内臓に深刻な損傷を受けたのは間違いない。

 巨大蠍はニーベルングを自分の体から抜くと、ゴミのように捨てて、ミコトにゆっくりと近づく。

 

「ミコトくん! ミコトくん!」

 

 はやてが叫ぶが、ミコトは動けない。なにか言いたそうにしていたが、咳込み言うことができない。

 そんなミコトを前にはやては叫ぶしかできない。

 念話は当然呼びかけた。リインフォースに何度も助けてと呼びかけたのだ。

 だが、通じない。当然である。

 今のはやては魔力切れ。念話すらできない。当然、魔力がなければ自分で助けることもできないのだ。

 嫌だった。ミコトが危険な目にあうのが嫌だった。

 なぜ、彼がああなったのだ? と考えた時、はやては悟った。

 自分のせいだ。

 自分が速く他の騎士たちに逢いたいと言わなければ、こんなところには来ず、彼もああなる必要はない。魔力もしっかりと把握しとけば、こんな事態になることもなかった。

 自分のせいで、彼が危ない。そんなことは許されない。

 せめて、自分が犠牲になってでも、巨大蠍の気を引きつけるために周囲を見渡し、見つける。

 

「あっ」

 

 緑色に輝く石、魔力の石、マテリア。

 これを使えば助かるかもしれない。かも、だ。

 これで蒐集しても魔力が回復しないかもしれない。

 マテリアだけの力を使っても、ミコトを守れないかもしれない。

 それでも、はやては縋るしかなかった。目の前にある、希望に手を伸ばすしかなかった。

 

「お願い!」

 

 はやてが手を伸ばし、マテリアを抱きしめて祈る。

 

「ミコトくんを助けて!!」

 

 はやてが叫ぶ。

 巨大蠍が動けないミコトにトドメを刺そうとした時だった。

 

 その刹那、赤い閃光が周囲を照らす。

 

「あっ――」

 

 そして、はやてはそれを見た。

 巨大蠍をミコトから守るように立つ、赤い姿。

 それは少女だった。自分達、いや、もしかしたらそれよりも年下のような幼い外見。

 はやては彼女を知っていた。

 オレンジの長い髪を二つ括りの三つ編みにし、右手に持ってい鋼の鉄槌で巨大蠍の槍のような尻尾を軽々しく受け止めている。

 そして、身に纏うのはゴシックロリータの意匠が取り入られていた騎士服。

 はやては彼女に会った事があった。

 全ては偶然で、最初の一回目以降は二、三度あるかどうか。

 数えるほどの会合の中、はやてたちは彼女“達”が外に出た時の場合のために服を考えた。それは彼女達の願いであり、はやては喜んで了承し、僅かな時間、彼女たちの趣味嗜好を考慮しながら考えた騎士服。

 それを纏って、彼女がそこにいる。

 

 彼女の名は――。

 

「ヴィータ―!」

「あいよ!」

 

 主の呼び掛けに、守護騎士ヴォルケンリッターの一人、ヴィータが短く、口を釣り上げて答える。

 彼女こそか夜天の書に今だ残っていた騎士たちの一人、はやての新しい家族だった。

 

「わりぃが、こっちとら遊んでる暇ないんだよ。だから、一気に決める! アイゼン!」

「Cartridge road!!」

 

 ヴィータが巨大蠍の体に鉄槌を打ちこみ、その細い腕からは想像できないほどの膂力でk巨大蠍を空中に浮かび上がらせると、手に持つ鉄槌から機械音声が流れ、鋼の鉄槌から薬莢のようなものが飛び出し、その形を変える。

 彼女が持つ鉄槌、ベルカ式のアームドデバイス《グラーフアイゼン》。

 そして、グラーフアイゼンに組み込まれた機能、カートリッジシステムは魔導師の魔力を瞬間的に飛躍させる強力な魔力運用技術。

 

「ラーケンシュラーク!!」

 

 グレーフアイゼンの後方からジェット噴射のように魔力が放出し、その勢いに流れるようにヴィータは回転して、そのまま空中で仰向けになっている巨大蠍に向かって突撃する。

 

「ぶち抜け!!!」

「GYAAAAAAAA!???」

 

 爆発したように高まった魔力を込めて、鉄槌の騎士は主の敵を葬る。

 一撃粉砕。巨大蠍は断末魔を上げながら、その体を四散させ、残骸は霧のように消えた。

 

 *

 

 その後、アーチャーたちと合流し、ミコトはリインフォースの魔法によって治癒された。

 

「御身の危険の際に駆けつけれず、申し訳ありません」

「リインフォース気にしたらあかんよ。元々は私が悪かったんやし。それよりも、ミコトくんを治してくれてありがとう」

「私からも礼を言おう」

 

 そう言ったのはアーチャーだった。

 流石の彼でも辿りついた時に自分の主の状態には焦りを覚えていた。

 

「当然のことしたまでだ。鉄槌の騎士が召喚するまでミコトには世話になったようだ。

 すまない。そして、ありがとう」

「ううん。僕は足ししたことしてないよ」

 

 そう言いつつも、ミコトの顔はうかないままだった。

 

「ミコトくん、大丈夫? 顔色悪いよ?」

「体は大丈夫だよ。ただね」

「それよりも、そろそろそこの彼女を我々にも紹介してくれないか?」

 

 少し顔が沈んでいるミコトの様子を遮るように、アーチャーが奥でこっちを睨んでいるヴィータを見て肩をすくめた。

 

「…………」

「こらこら、ヴィータ。そんな顔せんと自己紹介は?」

「…………、ヴィータだ」

 

 はやてに咎めらるように言われて、仕方なしにヴィータはアーチャーに向かって名乗る。

 

「すまない。彼女は人見知りが激しく――」

「うっせ! お前は私の母親か!」

 

 フォローするリインフォースにヴィータは激甚な言葉を吐き捨てる。

 

「こら! あかんよ、ヴィータ! そんな言い方したら」

 

 再び咎めるはやてにヴィータは押し黙ってしまう。

 彼女も自分の主に対しては流石に強気でいられないのか、顔を歪ませるばかりだ。

 

「黙ってったら分からんやろ? ほら、リインフォースにごめんなさいは?」

「うう、…………、ごめんなさい」

 

 彼女自身、先程の言葉に非があった事は認めるのか、小さい声ながらもリインフォースに謝罪した。

 

「うん。素直な子は好きやで。頭、なでなでしたろ」

「わわ!!」

 

 相変わらず魔力が戻ってないのか、はやては座ったままヴィータの頭に手を伸ばす。

 動けないはやてから逃げることは簡単なのだが、ヴィータは驚きつつも、はやての手を受け入れる。

 ヴィータにとって、はやては不思議な主だった。

 最初逢った時の最後は自分たちを怒鳴り、次には自分たちと楽しくお喋りをした。

 騎士服を考える時も一生懸命悩んでくれて、今も自分達を本の中から出そうと頑張ってくれていた。

 はやてはヴィータにとって、今までに出逢った事のない存在で、思うと胸の辺りが温かくなる。名前を呼ばれると嬉しくて、怒られると悲しくなる、そんな存在だ。

 

「ええと、ご主人様?」

「ははは、ヴィータにそう呼ばれると犯罪臭いがするし、なにやらときめくけど、私の事は名前でええで? そのほうがらくなんやろ?」

「え、でも――」

「家族やもん。堅苦しいのは無しや」

「家族――」

 

 そう、彼女は自分たちを家族と呼んでくれるのだ。

 作られた存在、戦うために産み出されて呪われし対象の自分たちを、優しい言葉で括りつけてくれる。

 

「なんか、はやてって温かいな!」

「ほえ?」

「本の中でずっと見てたから分かる。はやては温かい!」

 

 陽だまりに咲いた花のような笑顔だった。少なくともリインフォースを含めた他の騎士たちはこんなヴィータも見たことなかった。

 そんなヴィータを前に、はやてはなにやら考える。

 

「本の中でずっと見てたか。なぁ、ヴィータ。本の中で息苦しいとかなかった?」

「む~。そりゃあ、多少つまんなかったけど、本を通してはやてが見てる色んな光景を一緒に見れたから息苦しいて感じはなかった」

 

 はやての問いにヴィータは素直に答える。

 それを聞いたはやてはあることを決めた。

 

「なぁなぁ、ヴィータ。それにリインフォース」

「え、なに?」

「はい? どうかなされましたか?」

 

 同時に呼ばれた二人は首を僅かに傾げる。

 

「今回な。私のおかげで迷惑かけた。だから、今度からなるべく無理しないようにする。だから、他の騎士たちはもう少し待ってもらうことになるけど、許してくれると思う?」

 

 それを聞いた二人は考えは一緒だった。もしかしたら、初めて意気投合したのかもしれない。

 

「当たり前だって! アイツらはそんなに狭い奴らでもないさ!」

「はい。我ら騎士は常に貴女のことを考えておりますゆえ」

「そっか」

 

 そう聞くとはやては安心したように笑う。

 

「よし! そうと決まったらこれからボチボチ頑張るためにもは帰ろうっか! 夕飯は迷惑かけたから私が作るで!」

「はやてが?」

「そうや。ヴィータ、なにか食べたいものあらへん?」

「ええと、なら、ハンバーグというのが食べたい!」

「ハンバーグやな! 任しとき! リインフォースも手伝ってくれる?」

「はい、勿論です」

 

 そうやって、リインフォースが頷き、動けないはやてを抱きかかえた。

 

「……………」

「あ、あのさ」

「?」

 

 今だ何故かうかない顔するミコトにヴィータから声をかけた。

 

「やっぱ、まだどっかに痛いのか?」

「ううん。心配してくれてありがとう。さっきも助けてくれてありがとうね」

「お、おう」

 

 ミコトが礼を言うとヴィータが照れ臭そうにする。

 そんな二人をなにか言いたげにアーチャーが見ていた。

 その視線に気づいたヴィータはアーチャーを睨む。

 

「あんだよ?」

「いや。私とミコトでは態度が随分違うなと」

 

 主であるはやては分かる。リインフォースとは長年自分たちの知らない因縁があるのだろう。そして、直接自分たちの仲間ではないアーチャーを警戒する気持ちは理解できるのだが、それはミコトも同じはずた。

 しかし、ミコトに対してヴィータは気遣う素振りを見せた。

 アーチャーの謎の答えはヴィータが直ぐに答えて分かる事になる。

 

「はぁ? 当たり前だろ? 私は本の中でずっと見てたんだ。ミコトが良い奴だってのは知ってんだよ」

 

 ヴィータを含めた騎士たちは夜天の書を通して、ミコトとアーチャーのことを見ていたのだ。他の騎士たちがどう思っているかは知らないが、ヴィータはミコトがはやてのために頑張る姿や、分けでなく優しい素振り見ていて随分と好感を持っている。

 

「なら、私は?」

「ああん? ただの変態だろ?」

「変態だど!?」

 

 予想外の言葉に愕然とする。

 

「はやてやアイツの着替えを覗いたり、アイツの胸にぶつかったり、ミコトの風呂覗いたり、ぜってぇワザとしてんだろ?」

「いやいやいやいやいやいやいやいや! 全部事故であって、私の意志でやったことじゃない! というか一つ妙なものが混じってないか?」

「けど! 私がきたからもう二度とはやて達に指一本触れさせねェからな!」

「だから、すべて事故だと――」

 

 項垂れるアーチャーを無視して、ヴィータは先に進んでいたはやて達の後を追った。

 

 *

 

 その晩、ヴィータは偶然通りかかったアーチャーに裸を見られることになる。

 流石の鉄槌の騎士も自分が被害に遭うとは思っておらず、その時は泣いてしまった。

 こうやって、アーチャーはまだ見ぬ騎士たちの信用を落とすことになったのだった。

 

「なんでさ」

 




 ごめんよ。ヴィータ。君の絵、描いてないんだ。
 というか、感想数がアレのほうが多い。読者はコレよりも私がアレの長編を書くのを望んでるのかも知れないけど、書くとした来年だ。

 ちなみに私はアーチャー(エミヤ)が一番好きです(愉悦)


《本編で出たオリジナル魔法》

ゲイレルル
 剣先に高密度の魔力を集中し、自身を加速させ、突進する魔法。高速で逃げる魂を逃さず追撃するために編み出した魔法。
 由来は北欧神話、ワルキューレの一人、槍を持って進む者の意を持つ、ゲイレルル。

ゲンドゥル
 霊的対象にも有効な魔力弾の発射。
 由来は北欧神話、ワルキューレの一人、魔力を持つ意を持つ、ゲンドゥル。

フレック
 霊的防護もある魔力障壁を前面に展開する。
 由来は北欧神話、ワルキューレの一人、武器をがちゃつかせる者の意を持つ、フレック。

アイスグランツ
 冷気の纏った衝撃波を生み出すベルカ式の魔法。

リヒト
 光る玉を生み出し、周りを照らす。
 リヒトとはドイツ語で光という意味。



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