この小説はアニポケとは真反対の深夜でしかやれないような内容となっています(今更。
「…どうしてあなたが怒ってるんですか?」
ミュウは怪訝そうな顔でトウヤに聞いた。
「怒らずにいられるかよ!自分らの身勝手な欲望で生み出したお前を勝手な都合で捨てたんだろ!?つまり今お前がこんな目に遭ってるのはあいつらのせいって事じゃねぇか!許せねぇよ!」
トウヤは今にも殴りかかりそうな剣幕でそう言った。
“変な人だ”、トウヤを見たミュウが真っ先に思い浮かべた感想はそれだった、自分とは関係ない誰かのためにこんなに怒りを露わにする人がいるなんて…
「本当に、変な人…」
気がつけば、ミュウはフッ…と笑いを浮かべながらそう呟いていた、そしてそれと同時にトウヤが“そっち側”の人間で無いことは何となくだが理解できた。
「…分かりました、あなたが敵じゃないというのは取りあえずは信じます」
「本当か!?」
「はい、少なくともあなたからは敵意を感じないので、それに…あなたは少し変わっているようですし」
「…えっと、どういう意味だ?」
「内緒です」
頭に疑問符を浮かべるトウヤに対し、ミュウは悪戯っぽい笑みを浮かべてはぐらかす。
「あ、そういえばまだ名前名乗ってなかったな、俺はトウヤ=ツキカゲだ、よろしく」
「トウヤさん…ですね、こちらこそよろしくお願いします」
ミュウとトウヤは互いに握手を交わした、それから今後についての簡単な話し合いが行われた、取り合えずはミュウのケガが治るまではトウヤが匿いながら手当てをし、治った後はミュウの判断に任せる事にした。
「さてと、話もまとまったことだし、まずは飯にするか、腹減ってるだろ?」
「えっ?別にそんな事は…」
ミュウはそう言って否定しようとしたが、それを遮るようにしてきゅう…とミュウのお腹が鳴った、思い返せば逃亡中はマトモな食事にありつけずにいたので腹が減っているのは当然だろう。
「よし、待ってろ、適当なパンか何か探してきてやる」
そう言ってトウヤは一階に降りていった。
自分以外誰も居なくなり静かになった部屋でミュウはふぅ…息を吐くと、トウヤのベッドに再び寝転がる。
(ひとまず落ち着けるところが見つかって良かった、トウヤさんも今の所いい人そうだし、少なくとも怪我が治るまでは居ても問題無さそうね)
ミュウは天井を見つめながら今後の事をぼーっと考えていた、もし怪我が治ってトウヤのもとを出て行けばまた悪意あるトレーナーによって狙われ、傷付けられる事になるだろう、そんな目に遭うくらいならいっそトウヤのポケモンとして今後を過ごすのも悪くないかもしれない。
(まぁ、それは追々考えていけばいいわ、まずはこの怪我を治すのが先決ね)
そう頭の中で結論付けると、トウヤの部屋を一通り回りながら観察していく。
テレビや家庭用ゲーム機、ミニサイズの冷蔵庫など様々な家具やインテリア、小物などが置かれていたが、中でもミュウが特別興味を持ったのは本棚だった、ポケモンに関する専門書やトレーナーになるための教本、中には漫画や
「確か…これだったかな」
ミュウはその中から一冊を選んで抜き取る、それは先ほどトウヤがミュウに見せた絵本だった、ミュウに関する伝承や逸話、俗説などが乗っており、絵本の中では自分と似て非なる姿のミュウが描かれている。
「…あなたがオリジナルなのね」
絵本に描かれている自分の姿を見ながらミュウは呟く、いや、自分の姿という表現は間違っているだろう、確かに自分はミュウのクローンだが、そのオリジナルが持つ能力を何一つ受け継いでいない。
変身も出来なければ戦闘力も特別高くもない、使える技も普通のポケモンよりは多いがせいぜい8つが限度、本当に伝承に伝わるミュウのクローンなのかと疑いたくなる程の劣化ぶりだ。
過去に何度か捕獲された事もあるが、劣化クローンだと分かった途端興味を無くして逃がされ、そしてまた捕獲され…といった事を何度も繰り返してきた。
「…何でこんな目に遭わなくちゃいけないんだろう、望んで劣化クローンになったわけじゃないのに…」
ミュウは絵本の
◇
ミュウがトウヤの家にやってきてから2週間が経った、あれからミュウは順調な回復を見せ、包帯も取れて動けるようにもなった、ほぼ完治と言っても問題ないだろう。
最近はトウヤが外出するときはリュックに入って一緒について来るなど、アクティブな面も目立ってきている。
「…(それで、何でトウヤさんはこんなとこまで来てるんですか?)」
「(最近こっちのフレンドリィショップで入荷し始めた商品があるんだよ、フタバタウンには売ってないからわざわざ足を運んだってワケだ)」
トウヤとミュウはリュック越しに小声で会話する、今トウヤとミュウはフタバタウンの隣町…マサゴタウンのフレンドリィショップに来ていた、目的は最近入荷し始めた新商品である。
「お、あったあった」
トウヤは目的の商品を見つけると、ひとつ手に取って眺める。
「これは…モンスターボールですか?」
ミュウはリュックから頭だけを出してそれを眺める、どうやらモンスターボールの一種らしいが、スタンダードな赤色をしたモノではなく、黒を基調としたカラーリングで中央に黄色いラインが入っている。
「ゴージャスボールっていうモンスターボールで、詳しくは知らないけどポケモンにとって居心地が良いように作ってあるらしいぞ、広告には“ポケモンが懐くこと間違いなし!”って書いてあった」
「へぇー、それは中々良さそうですね、ということはトウヤさんもトレーナーデビューを?」
「いや、そうしたいのは山々なんだが、父さんたちが許可するとは到底思えないし、とりあえずボールだけ買っておいていつかトレーナーになったときに最初に仲間になったポケモンに使おうかと思ってる」
「…いつになるか分からない計画ですね」
「ほっとけ」
そんなやり取りをしながらトウヤはゴージャスボールをレジまで持って行く、ちなみに値段は1000円、普通のモンスターボール5個分の値段だ。
「高ぇ…」
「ゴージャスって名前付けるだけはありますね」
決して少なくない財布へのダメージを痛感しつつ、トウヤはフタバタウンへ戻るため自転車を走らせる。
「そういえばミュウ、これからどうするかはもう決めてるのか?」
帰り道の201番道路を自転車で進みながらトウヤはミュウに聞く。
「…そうですね、ケガはもう治っているので何時でも出ていけますけど、でも…」
ミュウは歯切れの悪い言い方で言い淀む、おそらくミュウは恐れているのだろう、トウヤの元を離れるということは、また悪意あるトレーナーによって狙われるようになるかもしれないという事だ、この二週間でミュウはトウヤにそれなりの信頼を置いており、彼の家にいた方が安心できるし安全だとさえ考えるようになっていた。
それならば、いっそのことトウヤのポケモンとして生きていく方がいいのかも知れない…
「まぁ、ゆっくり考えればいいさ、居心地が良くなったならそのまま居着いてもいいし、出て行きたくなったら何時でもここを発ってもいい、ミュウの自由に決めるといいよ」
未だに迷いがある様子のミュウを見て、トウヤはそれを察したのかそう言った。
「…トウヤさん、私…」
ミュウが何かを言いかけたその時…
「っ!?今のは…!?」
何処かから何かが爆発したような音が聞こえた、音から察するにそう遠くない。
「トウヤさん!あれ…!」
何かに気づいたミュウがリュックから身を乗り出してある方向を指差す。
「なっ…!?」
ミュウが指さす方を見ると、201番道路の外れの方から煙が上がっているのが見えた、確かあの場所は…
「フタバタウンじゃねぇか!!」
悪い予感が脳内を駆け巡ったトウヤは自転車を猛スピードで走らせ、無我夢中でフタバタウンへと戻った。
◇
「…何だよ、これ…」
フタバタウンに戻ったトウヤの目に飛び込んできたのは、見るも無惨な光景だった、漆黒の服を身にまとった集団がポケモン達を使って町の各地で破壊活動を繰り返している、瓦礫と化した建物があちこちに散乱し、ポケモン達によってヒトの姿を保つことを許されなかった人間の死体が沢山散らばっていた、その中には当然トウヤの見知った人も紛れていた。
「シャドウ団…何でこんなシンオウの辺境に…!」
ミュウの言葉にトウヤはハッとする、今やニュースでその名前を聞かない日は無いほど悪い意味で有名になった組織『シャドウ団』、その連中がこのフタバタウンにやってきて破壊、虐殺行為をしている、その事実を改めて認識したとき、トウヤは弾かれるように走り出した。
「父さん…!母さん…!」
目的地は当然両親のいる自宅だ、シャドウ団の団員やそのポケモン、殺された街の人たちの間を駆け抜けながら自宅の場所へと急ぐ。
走り出して数分でトウヤは自宅へと辿り着いた、家は半壊以上のレベルで崩れており、その前にはシャドウ団の団員がひとりと1体のポケモンがいた、あのポケモンは確かノーマルタイプの『リングマ』だ。
そしてトウヤの両親は、リングマによって真っ二つに切り裂かれた死体となって転がっていた。
次回は初バトル回になります。