※elonaについてあやふやな知識で書いたためばっかバッカお前ちっげえよ!ってところがありましたらそこは二次創作だからと寛大なお心でお許しください。
※作中のキャラが作中のキャラを食べる描写があります。苦手な方はお気をつけください。
_________everyday eat someone
彼は自分がベッドに横たわっていることに気がついた。
全身を包み込むようなふわふわとした感触から、【安物のベッド】ではない事を、彼はどこかぼんやりとした頭で認識する。彼のベッドはその辺から持ってきた安っぽいベッドであるが故に、今彼が身体を預けているのは彼のものではなく、誰かのものだ。
となると、何故、どういった経緯によって、彼は彼のものではないベッドに横たわっているのか。
ぼんやりとしてまとまらない思考をどうにかして一つに集めて、今の状況を把握しようと、彼はベッドの上で僅かに身じろぎをする。
と、唐突に頭蓋を割るような痛みが彼の脳内を走り抜けた。
あまりの激痛に彼は体を硬直させ、一切の挙動を停止させる。
脳内をガンガンと揺すぶられるような久しく感じていなかった激痛に、彼は苦痛を感じると共に懐かしさを感じていた。
この痛み。この感覚。
いつからなのだろうか、彼が痛みを感じなくなったのは。
いつからなのだろうか、彼が己の命をカケラも顧みることがなくなったのは。
彼がその強さの代価に喪ったもの。今となっては本当に持っていたのかすら彼自身にすら自信がないもの。
人としてのなにか。
ヒトとしてのナニカ。
それを喪った彼は、果たして自分は人なのだろうかと疑問に思う事も多々あった。が、たった今、忘れていた痛みを久方ぶりに感じたことで、どことなく人としての何かを一時的に取り戻したような気がしていた。
とはいえ。
懐かしさを感じるのは確かだが激痛は激痛。
彼は己の中で乱反射する痛覚に圧倒され、冷や汗を流しながら小刻みに身体を震わせていた。
_________ナニコレいってえええええええええ!!!
ずきずきと痛む頭。
脳は身体の各部位の痛みを感じる事は出来ても、脳自身の痛みを感じる事は出来ない。
しかし彼の中で渦巻く激痛はあくまで彼の脳内でのみ巻き起こっている。恐らく神経に何らかの異常をきたしているのだろうと、激痛の波に翻弄される頭で彼は推測した。
暫くの間、彼は全身から冷や汗を流しながらただ痛みに耐えていた。
少しずつ引いていく痛みと共に、彼は僅かずつ思考能力を取り戻していく。
血流に合わせるように訪れる痛みに盛大に眉を顰めながら、彼はひとまず落ち着こうと横たわったまま深呼吸を繰り返した。
と、ふと、そんな彼の鼻先を、ふわりと控え目な甘い匂いが掠めた。
その匂いは、それを吸い込んだ彼に奇妙な感情を想起させた。
透明で、優しげな、甘い匂い………………理由は定かではないが、決して、人工的に作られたものではないと彼に直感させる、不思議な匂い。
果物を薄くしたような、或いは暖めたミルクのような、柔らかで澄んだ匂いは、彼の心を震わせるような特有の響きを持っていた。
この甘い匂いはこのベッドの持ち主のものだろうかと、彼は徐々にクリアになってきた頭で思考する。
彼にとって、爽快でない目覚めというのは今まで経験した事がない感覚であった。それがどんな時、どんな状況であっても、目覚めた瞬間の彼の意識が精彩を欠くことは、取り敢えず今の今までなかったことだ。
そんな彼の意識が、目覚めて20秒近く経過しているというのに、未だに本来の状態を取り戻していない。
それが、彼に対して最大級の警戒心と、僅かばかりの恐怖心を与えていた。
何はともかく、今は状況を把握し、身の安全を確保することが最優先だ。
まだ判然としない頭でそう結論づけた彼は、ひとまず、このやたら甘い匂いのするベッドから降りようと上半身を起き上がらせる。
否、上半身を起き上がらせようとした。
_________ガチャリ
へ、と、彼の口からどこか呆然としたような声が漏れる。
ベッドから降りるために上半身を起き上がらせる、というごく普通の行為は、彼の全身に巻きついている堅牢な鎖によって阻まれた。
ガチャ、ガチャ、ガチャリ。と、彼が起き上がろうと身を捩る度に、身体を覆い、ベッドを一周するように巻きつけられた鎖が音をたてる。
どうやら自分を昏倒させ拉致しベッドに寝かせた人物は、余程自分を逃したくはないらしい。
一連の動作によってそこまで認識した彼は、ふっ、と口元に微かな笑みを湛えた。
_________スバルの冒険は終わってしまった!!
と身体の端々からなけなしの諧謔を集めてコミカルに叫んでみるも、冒険どころか生命が終わる可能性が高いこの状況ではより彼の心持ちを不安定にしただけだった。
自分で自分の心を不安の渦に叩き込んだ彼は一瞬放心した後、な、なんで、なんでこんなことに、と盛大に慌て始める。そんな彼の心境を表すように、彼を拘束している鎖が擦れる音がカチャカチャと彼以外に無人の部屋の中に響く。
意識を失う直前に自分は何をしていたか、彼は思い出そうとするが、記憶は靄がかかったようにハッキリとしない。最後の記憶が何なのか、彼は最も最近の記憶を引っ張り出そうと試みるも、それすらも脳の一部に暗雲が立ち込め上手くいかなかった。
強引に鎖から抜け出そうにも、さらにその下で縄か何かによって関節を決められているため、無理に力を込めると自分の関節を破壊しかねない。
こんな事をするのは一体誰だろうかと、彼は焦りと絶望によって完全に精彩を取り戻した意識で考える。
彼を昏倒させ、拉致する動機を持つ人物に、残念ながら彼は心当たりがなかった。では、動機を持つ人物は一先ず置いておき、何はともかく自分を拉致することが出来るような人物はどれほどいるだろうかと、彼は考える。
長く美しい銀髪を持つ彼のご主人か。はたまたその友人であるところのピエロメイクの魔術師か。もしくはあまり考えたくはないが、彼等以上の実力を持った何者かか。
一番最初に可能性が高い人物として彼の頭に思い浮かんだ人物は、当然のことながら彼のご主人様たる銀髪の少女だ。実力的にも、性能的にも、彼女ならば彼に全く気付かれることなく接近し、彼の意識を一撃で刈り取ることなど造作もないだろう。意識を刈り取る際に首ごと刈り取らないようにすることの方が彼女にとっては難題である。
いかに彼が極まったステータスを持っていても、その極限に至るまでの道程を彼女は完全に理解しているし、そもそも彼を極まったペットに育て上げたのはご主人様たる銀髪ハーフエレアな彼女だ。
そんな彼女ならば、彼の意識を奪い、拘束する事など文字通りの朝飯前。むしろ本当に彼女が彼を拘束したのなら、意識を奪う際に命まで奪わなかったその繊細な力の使い方に皆がブラボーと拍手を送ることだろう。
彼は銀髪ハーフエレアのご主人様以外の他の人物である可能性も考えようとしたが、自分を拉致したところでメリットがないと、ピエロメイクの亜人趣味の青年をひとまず候補から外し、他の自身を拉致出来そうな候補も、わざわざこんな風に手の込んだ真似をしてまで自分を拘束するメリットがある人物に心当たりがなく、しばし途方にくれる。
彼を拘束するのはそれだけ手がかかる事であり、犯人はかなりの実力者であることが予想される。が、その実力者が彼を拘束する目的が当の彼には一切分からない。
一連の流れが暇を持て余した廃人達による単なる悪ふざけである可能性が、今のところ最も高いと彼には思えるほどに。
彼は自身の誕生日が特に近くないことや、ご主人のペットになった日付が今日でない事を確認する。サプラーイズ!と言って彼のご主人様がこの部屋の扉から拘束された彼に対して満面の笑みで核を放ちながら突入してくる様子を思い浮かべるが、彼のご主人様はそんなサプライズを彼に敢行したことは今までなかったため、その確率は低いと彼は脳内でその可能性を除外した。
今のが最も救いのある(ノースティリス基準)結末だったのだが、どうやらそんな楽観は出来なさそうだと彼は思考を切り替える。
彼はひとまず、自身を拉致拘束した人物について考察するのを諦めることにした。
彼にとって今最も重要なことは、この場から脱出し、身の安全を確保する事だ。
現在進行形でこんな扱いを受けている以上、碌な扱いをされるはずがないと考えた彼は、その頭脳を目まぐるしく回転させ、打開策を見出そうとする。
例え死んでも蘇るとはいえ、このまま誰かの思惑通りに事が進むのは御免被る。と、この世界に来たばかりの頃から抱いている緑髪のエレアに対する殺意を思い出しながら、彼は己を玩具にしようとする何者かに対し強い敵意を抱く。
何事も、強い気持ちが大切なのだ。と、彼は自分に向けて言う。
己を拘束したのがご主人であれその友人のピエロメイクであれイカれた狂信者であれ、今、何者かが己を害しようとしている事は疑いない。ならば目には目を歯には歯を悪意には悪意を持って対峙し、決然とその悪意に対抗するべきなのだ。絶対に、そう絶対に。他人の悪意に屈する事など、このナツキスバルの名にかけて、絶対にあってはならない。
と、彼は心の中で凛然と輝く己の信念を今一度強烈に胸に打ち立てる。
それはこの世界に放り込まれ、数多の苦難に晒され、死に、蘇り、また死に、何度も繰り返す永久の苦痛の中で、柔らかな彼の心が容易く砕け散り、スラムで餓死と蘇りをただ繰り返していたあの煉獄の日々の中でも、決して失う事のなかった彼の唯一の信念。
煌々と熱い波動を放つ信念に照らされた彼にはもはや、恐れるものなど何もなかった。
今この状況でそんな信念を打ち立てている事は即ち彼がこの部屋からの脱出を諦めた事を表しているのだが、信念の光に照らされた彼はやたらと良い顔をしながらその事実に気が付かない。
_________ぜ、絶対に屈してなんかやるもんか!
彼は決然とした面持ちで、この部屋に唯一の扉を凝視する。
何者かが入ってくるとしたらあの扉からなのは間違いない。この部屋に窓はなく、空気の流れからして何がしかのからくりの気配もない。
そして何より、少しずつ、扉の向こうから何かの気配が近づいてくるのを彼は感じていた。
果たして、彼を拉致し拘束した人物は誰なのか。そしてどんな目的で彼を監禁したのか。彼は緊張に震える手を握りしめ、扉を穴が空くほど睨みつける。
コツ、コツ、という靴音が扉の前で止まった。いよいよ姿を現わす何者かに、彼の心の荒れ様は頂点に達する。
彼は乱れた思考の中で、ただ一言、負けるもんかと呟いた。彼の心の中を、再び熱い波が駆け抜ける。
負けなければ、敗北じゃない。
言い訳じみた弱者の遠吠えだ。言葉の上でしか意味をなさない空疎な戯言だ。
でも、それでも。
彼が唯一持ち続けている信念だ。
荒れてて良い。震えてて良い。チビってて良い。
_________俺と遊ぶには、ちょいと高くつくぜ………!
心が屈してさえいなければ。
「_________あ、目が覚めたんですね。スバルくん」
かちゃりと静かな音を立てて扉を開き、淑やかに入室してきたのは、彼もよく知るメイド姿の青髪の少女。
彼は彼女の透き通るようなその瞳と目が合うと、ついさっき打ち立てた筈の信念が一瞬で蒸発した。
☆
彼は混乱していた。
_________レ、レム?
かろうじて、掠れた声でそう呟いた彼に対し、青髪の可憐な少女はにこりと微笑むと、弾んだ声音で言った。
「はいっ。スバルくんのレムです!」
その微笑みはあくまで可憐で。無邪気で。
こんな状況でそんな笑顔を浮かべることの出来る彼女に対して、彼はなんとも言えない思いで引きつった笑みを返す。
少女の方は彼のそんな表情を怪訝そうに見やると、あ、と息を漏らすように呟き、彼の横たわるベッドの脇に移動する。
彼は己の側に近づいて来た彼女を見上げ、薄暗い中でその貌を認識する。彼女がおもむろにメイド服の中に手を入れると、彼はびくりと条件反射的に身体を震わせた。
「これ、痛いですよね。今切りますから」
少女が懐からナイフを取り出し、彼の四肢を拘束していた縄を切っていく。その手際の丁寧なことに、彼はやや安堵し、また困惑もしていた。
何故彼女が拘束された彼を前にしてその拘束を解いているのか。彼には彼女の真意が分からない。
彼を拘束していた縄を切り終えると、彼女は一歩下がる。
彼は未だ困惑を引きずりながらも、己をベッドに縛り付けていた鎖を引きちぎり身体を起こした。
僅かに痛む四肢を撫でながら、彼は状況が把握できずに目を泳がせる。
_________あー、その、だな。………ありがとな、レム。
何はともあれ、まずは解放してくれた事に謝意を示す彼。彼女は彼の言葉を聞くと、いえ、これくらいのことは。と言い、それでも嬉しそうに、くすぐったそうにゆるりと首を振った。
彼はそんな彼女を見ていよいよ分からなくなっていく。
彼は彼女がこの部屋に入って来た瞬間、己を拘束したのは自分のご主人様だと確信した。彼のご主人様は、そのまま今彼を拘束から解放したメイド姿の少女のご主人様でもある。
そして、彼と同じ主人のペットである彼女は、とある嗜好を持っている。
それは_________人肉嗜好。
それも、人肉以外を受け付けない程の。
何故食べたのかと問われれば、食べたかったから食べたのだと答える、こだわり派のレムさんと言えば、その界隈では有名である。
有名であるだけで、決して名誉ではないのだが。
その噂は世界中に轟き、各地の母親が我が子に悪いことをしていると青髪のメイドさんが来てお前を食っちゃうぞ!としつけに使われるほどであり、彼としては自身のペット仲間がなまはげのように伝えられている事に微妙な気持ちを抱いたりしていた。
今でこそ数多の人間の肉を食らって来た彼女であるが、もともと、彼女がそのフィートを得たのは彼女の責任ではない。ひとえにそれは彼女以外の誰かの所為であり、巡り巡れば世界の所為だ。あるいはそれは、貧しさの所為だとも言えるのかもしれない。
だから彼は、彼女のそんな一面も含めて仲間だと思っていたし、どんな嗜好を持っていようと彼女という人間が好きだった。
己が自身の過失によって死亡し、後に残った肉を彼女が食したと蘇った後に知った時、彼は彼女になんの嫌悪感も抱かなかったし、死体を冒涜されたと感じることもなかった。
むしろ、どこの乞食とも知れない粗悪な肉を食うよりも、自分の死体を食ってもらった方が彼としては安心出来るくらいには、彼は彼女に対して仲間意識と好意を持っていた。
その好意は、彼女がお腹が減ったと言えば、腕くらいならあげてもいいかなと思える程に達している。
そんな彼が、彼女がこの部屋に入ってきた時に一瞬で抗う気持ちが萎えて急速に意気消沈したのは、彼女が顔見知りであったというのも勿論あるが、とある可能性が脳裏をよぎったからだった。
_________ついに踊り食いですかレムさん……!!。
生きたまま食われること程屈辱的なことはない。徐々に失われる肉体。それらが相手の腹に収まり、その醜悪な肉体の一部を構成するようになると考えると、ハラワタが煮えくりかえるような屈辱と怒りに見舞われる。彼にはそういった経験があった。異形のモンスターによるものではあるが、あの時の屈辱は、今も彼の心に忸怩たる思いを残している。ただ、一先ずの救いというべきか、彼には今まで人間に生きたまま喰われるという経験はなかった。
彼女にしても、恐らくそんな経験はないだろう、と彼は自身の境遇に憎悪を抱いていた在りし日の彼女を思いつつ推測する。この場合の経験は、勿論彼の言う経験とは真逆の方である。
_________レムがご主人様にお願いしたのか、はたまたご主人様の方で気が向いて俺をレムに饗しようとしたのか。今の状況を見る限りは後者が真実で、ノリノリで俺をレムに差し出したは良いもののレムの方はそんな気分ではなかった。といったところか………?
と、彼は現在の状況を推察する。
目の前の青髪の少女が拘束を解いてくれた以上、彼女に己を食す気はないのだろうと結論付け、彼は彼のご主人様が行った一連の悪ふざけにやっぱりかと苦笑いを浮かべる。拘束されていたベッドから立ち上がり、目の前で佇む青髪の少女に家に帰ろうと言いかけたところで、ふと、彼は自身の首に何かが巻きついているのに気が付いた。
それは紐だった。
それはペットを緊縛するのに適していた。
それは繋がれた人間が持ち主の視界外に消えると、強制的に視界内にテレポートさせる機能を持っていた。
彼は指先で紐の感触を確かめると、恐る恐る目の前にいる彼女の手元に目を向けていく。
彼女の小さな手には、彼の首に巻き付いている紐の先端がしっかりと握られていた。
_________うわああああああああああ!!
あまりの結末に彼は膝から崩れ落ちる。
ぁあああんまりだあああああと泣き叫ぶ彼。土壇場で裏切られた様な……信じていた友人に点火済みの核を渡された時の様な身を切られるほどに切ない気持ちが波となって彼を襲っていた。
やはり食べられるのか。生きたまま端っこから味わわれるのか。あの小さな口に己の血肉が咥えられ、啜られ、噛み砕かれ、そしてあの華奢な体の内に入り、彼女自身の血肉となるのか_________
ふと、彼はそこまで悲観する事じゃないかもしれないと思い始めた。
彼の目の前にいる少女は可憐である。
桜の花びらを織り込んだ様な頬に、春の夜の星を写す瞳。淑やかに流れるままの青髪は、青空の様に澄んだ色彩で_________
それら全てが、彼の心を震わせる。
目の前の少女に食べられるのも悪くないかもしれない、と彼は今までの絶望から一転、半ば本気でそう思い始めていた。涙はとっくに引っ込んでいる。
ノースティリスに来て早10年。すっかりこの世界に染まりきった彼であった。
ちらりと彼女を見る彼。
彼女は彼が絶望して崩れ落ちている間、彼の首につながる紐の先を愛おしそうに撫でていたが、彼の視線に気がつくと可憐な微笑みを浮かべ、一歩一歩、確かめるように彼の元へと歩いて行く。
その振る舞いは、彼との距離を詰めることが嬉しくて仕方がないといった様子で、彼はそんな彼女の表情に不覚にも胸がときめくのを感じていた。
「不思議なんです」
ゆっくりと歩きながら、彼女は囁くように呟いた。
「たくさん、食べてきました」
桜色の唇を動かして、ほっそりとした喉を震わせて。
彼女は独白する。
「イェルスの肉、エウダーナの肉、妖精の肉、ジューアの肉、ゴブリンの肉、ゴーレムの肉、カオスシェイプの肉………」
彼はそんな彼女の独白を聴きながら、静かに立ち上がる。情けない姿のまま、彼女の言葉を聞くわけにはいかない。
彼女が自らのその嗜好について何かを語るとき、彼は必ずそうしていたし、そうするべきだと思っていた。
「………乞食の肉、衛兵の肉、王様の肉、子供の肉、冒険者の肉…………………」
滔々と紡がれる言葉たちが、部屋の調度品に吸い込まれて行く。
ふと、彼はこの部屋が思いの外生活感に溢れていることに気がつく。
「……………姉様の、肉」
こつり、と、彼女の靴が木製の板を打つ音が止まる。
彼の眼前で、己れの思いを吐露する彼女はしかし目を落とし俯くことはなく、依然として柔らかな眼差しで彼を見つめている。
彼女が一番最初に食べた肉は彼女の姉の肉だった。
なぜ、と問うことにあまり意味はない。
空気が澄んでいたから深呼吸をしたように、洗濯物を洗い終えたから太陽に晒したように、手を差し出されたから握手をしたように。
選択と言えば選択の一つだ。そうしない事も選べたし、皆が皆がそうすると断言することは出来ない。
だから彼女は、きっとその時も選択したのだ。姉を食べる、ということを。
姉の骸を抱きながら、降りかかる雨粒に心を溺れさせながら、その選択肢を選び取った。
_________大好きな人が死んだから、その命を無駄にしないために、食べた。
「………あの時から、本当にたくさん、たくさん、………食べて、きました」
時間とともに蘇るとは言え、所詮は繰り返す命の内の一つでしかないとは言え、彼女は彼女の姉の死がこの世に何ももたらさない事に耐えられなかった。
姉の死が、なかった事のように扱われるこの世界が、許せなかった。
だから、彼女は食べた。
姉が残してくれた肉を食べて。けれども結局無駄になったと、冷たくなっていく己れの肉体を見ながら何度も謝った。
そして、食べ続けた。
空気が澄んでいたから食べた。洗濯物を洗い終えたから食べた。手を差し出されたから食べた。
そうして、食べて、食べて、食べ続けて。
彼女は、食べたかったから食べたのだと言い続けた。
「生きるために。そして、繋ぐために、食べる。スバルくんは、そうおっしゃいましたよね。」
それは、いつか彼女が問うたこと。
食べようと思えば人肉以外も食べられる彼女に、出会って間もない彼が何故人肉だけを食べるのかと問いかけた時、彼女はただ食べたいからと答えた。
そんな彼女の答えに眉を顰めた彼に対し、彼女は問いかけたのだ。
では、あなたは何故、食べるのですか、と。
『_________どうしたって喪ってしまうこの世界では、唯一の救いは、繋がることだ』
食べても無意味かもしれない。この身体は、食べて構築したこの身体は、明日には冷たくなっているかもしれない。
姉を食べて作った身体が、最後にはモンスターに引き裂かれたように。
肉同士の結合が解けて、大気に拡散し始めているかもしれない。
けれど、それでも。
「食べる。次に繋げるためにじゃなくて、誰かと繋がるために、食べる。今を生き抜くために、食べる。」
言い訳のように食べたいから食べたと言って憚らない彼女に対して、彼は今を生きて、生き抜くために食べろと言った。そして、誰かと繋がりを持てとも。
何もしなくても繋がる、繋げられてしまう自分の命ではなくて。
手を伸ばさないと届かない誰かと繋がるために、生き抜く。
そのために、食べる。
「過去ばかり振り返って、言い訳ばかりを繰り返していたレムを、今に生きることを許してくれたのは、スバルくんなんです。スバルくんが、レムを今に生まれ変わらせてくれたんです」
姉を食べたのは、自分にとって特別なことじゃない。だって、ほら、こんなにたくさんの肉を食べたのだから。あの肉も、そのうちの一つに過ぎない。
そうやって言い訳していた彼女を、彼は彼女と繋がることで生き返らせた。そうして、彼女はあの時、姉の肉を食べたことは無駄ではなかったのだと、かつての自分を許すことが出来たのだ。
「だから、スバルくん」
そんな彼女は、今、彼の眼を覗き込みながら、自身の身の内にある言葉をストレートに紡いでいく。
「レムは、スバルくんを食べたいです」
自身の胸元に添えられた手が、熱を帯びているのが彼には分かった。至近距離で、彼と彼女の視線が絡み合う。
彼は見下ろして、彼女は見上げて。
ふと彼女は、あ、と息を漏らすように喉を震わせると、自身の内側から湧き上がる衝動に戸惑った様子を見せながら、「不思議なんです」と今一度同じ言葉を囁いた。
「一番お腹が空くのは、スバルくんです。一番良い匂いがするのも、スバルくんです。今だって、そうです。
一番食べたいと思うのは_________スバルくん、なんです」
歌うように、祈るように、彼女は感情の赴くままに言葉を紡いで行く。
「でも」
と、彼女は一旦独白を区切ると、少しだけ恥ずかしそうに頬を染めて、桜色の唇を躊躇うように震わせた。
心なしか息が上がり、体温も上昇している。そんな彼女の様子に、彼はどこか艶を見出しており、彼は自身の頬が熱くなり、心拍数が上がりかけているのを感じている。
彼女は右手を自らの腹部に添えると、そこの奥から湧き上がる慣れない衝動に戸惑い、溺れそうになりながら、艶然と息を漏らしながら彼に囁いた。
「でも、スバルくんを見ていると、お腹の別な所が疼くんです」
今度こそ、彼は自身の心拍数が上がるのをはっきりと感じた。
「ねえ、スバルくん」
彼女の目には、もう先程までの柔らかな光はない。
獲物を前にして恍惚とした表情を浮かべ、その瞳に爛々と情欲を漲らせた一匹の雌が、濡れた色をした瞳で哀れな獲物を射抜いている。
彼はそんな彼女の"女"を見せつけられ、盛大に胸中を荒れ狂わせながら、ただ彼女の可憐な唇から紡がれる言葉に耳を傾けている。
ちろりと唇を舐めた舌先は血のように赤くて。
切なげに漏れる吐息のリズムに心を震わせながら。
彼は、早まる胸の鼓動を抑えられない。
「………レムに食べられてみませんか」
喉の奥が痙攣し、彼は引き攣ったような声を漏らした。腹の奥底から湧き上がる得体の知れない情動に身体全体が突き動かされ、正常な判断能力を失っていく。ふと、目の前の少女もそうなのだと、彼はまとまらない頭のどこかで理解する。
彼女は彼を押し倒す。
二人ぶんの体重にベッドが軋んだ音を立て、それすらも彼の耳元で繰り返し呟かれる「スバルくん」という声音に塗りつぶされていく。
今宵、彼女は彼を食べ尽くす。
目まぐるしく明滅する思考回路の中で、彼は自らが彼女を抱きしめた事を、どこか遠くの世界の事のように感じていた。
_________eat mutually

スバルくんはルグニカじゃなくてノースティリスに流れ着いたという設定です。elonaで緑髪のエレアに人肉嗜好にされた時に思い付きました。反省はしています。でも後悔はしていません。次はもっと上手くやります………!
今はこの続き(r-18)を書くか、それともelona世界で揉まれに揉まれたスバルくんがre:ゼロ世界に転移して死に戻りの力を授けようとした嫉妬の魔女さんが核を放たれて盛大に爆発したり緑髪の某王戦候補に条件反射で核を放ちそうになったり、その騎士の猫耳男の娘を猫神と誤認して必要以上に警戒して核を投げそうになったり挙句白鯨を核でワンパンしたりする話を書こうかと思っています。放射能汚染でルグニカの人たちの心労がマッハになりそうですね。
本当はオリジナルを書きたい……。オリジナルを書いてラノベ作家デビューしてアニメ化して声優さんと結婚したい………。
どうしようもない現実、あると思います。
感想、批評、評価、なんでもお待ちしています。オブラートに包んでくれても良いんですよ。
追記:スバルきゅんがご主人様に拉致されてぶち込まれていた部屋はレムりんの部屋です。甘い匂いがどうとか書いといてその辺に触れるのを忘れていた……不覚……