Private Wars   作:フリーダムrepair

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さあ…もしもの話を始めよう。


ご意見・ご感想お待ちしております。





Private Wars 1

例えば。

例えばの話である。

例えばもし、ゲームのように一つだけセーブデータに戻って選択肢を選び直せたとしたら人生は変わるだろうか。

答えは否である。

それは選択肢を持っている人間だけが取りうるルートだ。最初から選択肢を持たない人間にとってその仮定は全く無意味である。

故に後悔はない。

より正しく言うのならばこの人生の全てに悔いている。

 

俺こと比企谷八幡はいつものように現国授業終了後 平塚先生に職員室に呼び出されていた。

呼ばれた理由は分かっていない、しかし四限が現国だったこともあり、昼休みに来いということだ。食事をとる前に用事は済ませてしまおう。じゃないと、飯を食う時間が無くなる。

急いで廊下へ出ると、平塚先生はちょっとゆっくり歩いていた。その背中を追いかけて職員室まで行く。

声が充分に届く距離なのに平塚先生は何も言わない。ただ黙ってついてこいと、そう背中で言っている。

職員室へ入るとようやく平塚先生が口を開いた。

「奥を使おうか」

奥、というのは職員室に設けられている応接スペースのことだろう。パーティションで区切られ、ガラス天板のテーブルと革張りの黒いソファ。以前もここに通されたことがある。

「そこに」

ソファを示され、そこに座る。

平塚先生も向かいのソファのやや右、俺の真正面からは斜め前に腰かけた。

そして、煙草を取り出して火をつける。

テーブルの上に置かれたクリスタルの灰皿をそっとそちら側に押しやると、うむと平塚先生が頷き、少し間を取ってから話を切り出した。

「…今朝、雪ノ下が話に来たよ」

わざわざ俺を呼び出したくらいだ。何かそれなりには重大なことなのだろう。俺は背筋を伸ばして耳をそばだてる。

平塚先生は煙草の灰を灰皿に落とした。

「生徒会長選に立候補するそうだ」

「誰が」

「彼女自身が」

それを聞いて心がざわついた

俺達はめぐり先輩の依頼によって、一色を会長にさせないよう色々と策を講じて来たが、雪ノ下が生徒会長に立候補する。

何故、という疑問が涌き出てくる。雪ノ下は人前に立つことをあまり好まない。それは彼女自身も言っていたことだし、文化祭の時も委員長に推されながら頑なに固辞していた。何より、奉仕部がある。

考え込んでいると、さらに平塚先生が付け加えた。

「一応応援演説は、葉山がやるようだな」

「そうですか…」

平塚先生は煙草をもみ消すと、すっと顔を上げる。

「比企谷、君はどうする?」

「どうもしませんよ。あいつがやる方法にケチはつけられんでしょ」

それに彼女が会長職をやる方が、丸く収まる。困ったことにどこにも抜けが見当たらない。

我知らず歯噛みしていた。

雪ノ下が会長になると、あの光景は、あの時間は、容易く瓦解してしまうだろう…いや、もう俺が“あの時”壊してしまった。

苦し紛れに質問する。

「まだ誰にも言っていないのですか」

「ああ」

平塚先生はにっこり微笑むと、もう一本煙草に火をつける。

雪ノ下が生徒会長?そんなのは認めないし、認められない。

考えるより先に拒否反応が出る。結局、雪ノ下が背負い込むというのならば、それは文化祭の時と変わらない。そのやり方を否定すればいい。

その時、ふいに“彼女達”の言葉が脳裏を過った。

『…うまく説明できなくて、もどかしいのだけれど…。あなたのそのやり方、とても嫌い』

『…人の気持ち、もっと考えてよ…なんで、いろんなことがわかるのに、それがわからないの?』

平塚先生が煙草の煙を勢いよく吐き、指先を俺に向けた。

「さて、もう一度聞こう。比企谷、君はどうする?」

そんなことは決まっている。あの光景を空間を居場所を壊してしまった俺に、彼女を止めることなんて“もう、きっと出来ない”

「…変わりませんよ、アイツならきっとなんとかやるでしょう」

口元を上げ自分が張り付いたような笑顔をしていることが分かる。

何笑ってんだよ気持ち悪い。自分で選んだことだろうが。

平塚先生はそれを聞いた後、小さくため息をもらすと、小声で呟いた。

「…私はキミ達ならいいと思っていたのだかなぁ…」

この言葉の真意は分からない。会長になるという選択をした雪ノ下に向けられたものなのか、あるいは…。何にせよ俺はまた何か大切な所を間違えてしまったのではないか、という不信を拭えずにいた。

平塚先生は煙草の火を完全に消すと静に言った。

「…それが君の出した結論だと言うのならば仕方がない。いきたまえ、用事はこれで終わりだ」

「…そうですか。失礼します」

一礼すると、平塚先生は俺のほうを見ずに手を挙げる。そこにはもう、紫煙は立ち上がっていなかった。

 

早足に職員室を出て、ベストプレイスへ向かう。

嫌な気分だ。うまく説明出来ないがまだ心もざわついている。平塚先生の言った言葉は耳から離れない。

だが、や、もしも、がどうしても思い浮かんでしまう。

もし、仮に。

彼女の理論を否定して選挙出場をやめてもらえたら?

由比ヶ浜と一緒に止めてもらうよう頼みこめば叶ったかもしれない。

ただ、自分が何か間違えて大切な選択肢を選び違えたのではないかという、その疑念だけが俺に張り付いていた。

 

数日後

雪ノ下は生徒会長に就任し、会長職を全うしていった。

最初は俺や由比ヶ浜も雪ノ下の手伝いとして駆り出されたりもして奉仕部が生徒会のようになっていたが、だんだんと雪ノ下一人でやることが多くなり、ついに彼女はあまり部室に顔を出さなくなっていた。

由比ヶ浜は雪ノ下があまり来なくなってというもの、やはり彼女もだんだんと奉仕部から遠ざかっているのは明らかだった。

そして、俺は…比企谷八幡は、自分でも驚くことにあの平塚先生に呼ばれて以来毎日部室に顔を出している。

やだ、何この社畜体質、マジ会社員!

…何と言うことはない。ただ、意地を張っているだけだ。底意地が悪くて捻くれて、もうだいぶズタズタでゴミカスみたいにちっぽけな意地を。

自分の過去を、行動を、信念を否定しないための、俺のための、俺だけの小さな抵抗だ。

部室に入ると目の前に大きな机があるだけで他にはもう何もなかった。

誰もいないが人間の習慣によるものなのか

会釈程度に軽く首を曲げて、俺の定位置に進む。

椅子を引いて座ろうと鞄から読み止しの文庫本を数冊取り出し読み始める。

チクタクと時計の音と紙のペラっという紙の擦れた音だけがこの部室を支配し、この部屋の静けさを訴えているようで本を読むには適する環境だ。

俺は文字列を目で追い続けた。椅子の背もたれに身体を預け、だらりと肩の力を抜き、文庫本のページを操る。

特にその本自体が面白かった訳でもないが、そうしないといけないように思えた。

自分の中で“何か”を認めてしまいそうで、よりページを捲るスピードに拍車がかかっていく。

一通り文庫本に目を通し終えるともう日もだいぶ傾いている。

時計を見ると、後一時間もすれば下校時刻になる頃だ。

この時間まで俺は一人ということは、今日も彼女達は来ないということだろう。

…別に寂しいとか思っているわけじゃないぞ!!1人とか慣れてるし!!むしろ1人でいた方が落ち着くし書もはかどる!!…ただちょっと寒いが…。

「クション!!あァ…くそ、ちょっと寒いな」

誰に対して言うわけでもなく一つくしゃみをすると文庫本を置き立ち上がる。

雪ノ下が以前使っていた湯沸かしポットが今も残っていないか部室の中を探すことにした。…お、あるじゃねーか!!紅茶セットも!!少し借りよう。

さて、時間が来るまでまた本でも読んでおこうかな?

そう考えた直後からりと部屋の戸が開けられた。

「邪魔するぞ」

「…平塚先生。入るときはノックしてくださいよ」

「ん?おや、君も雪ノ下みたいなことを言うのだな」

平塚先生は不思議そうな顔をしながら、手近にあった椅子を引くとそこへ座った。

「何か、用っすか?」

俺が問うと平塚先生は物憂げに瞳を曇らせる。

「…ああ、今日も比企谷だけか、やはり雪ノ下や由比ヶ浜は来ていないようだな」

平塚先生は部室を一周見渡し、ため息混じりに尋ねる。

「…ま、あいつらも忙しいんでしょ?やれ生徒会だの友情だの。どちらにせよ今日は俺一人ですね。何かあいつらに用事ですか?」

「いや、ただ一つ依頼をしようと思ったのだが、まあ彼女達がいないなら仕方ない。比企谷どうせ君は暇だろう?1つ受けてもらおうか」

あー、やだな、何が嫌って暇であることが前提な上、労働を強制させられそうでやだなー

ピーと湯沸かしポットが水が沸騰したことを知らせる汽笛を鳴らす。

俺が紅茶を作りながら、どうやって断ろうかと考えているうちに、平塚先生は依頼内容を話始めた。

「実は、私の古くからの友人で秋葉原の学校の理事長をやってる奴がいるんだがな?そいつの学校ではスクールアイドルとやらを売りにしているらしいのだが、それについての依頼でな…」

スクールアイドル…確か前に小町の持っていた雑誌かなにかで見たことがある気がする。

要はプロがやるアイドル活動という訳ではなく、どちらかというと学校内の部活に近いアイドルだとかなんとか。

「…それで?」

俺が話の続きを促すと部屋の扉の方に向かって平塚先生が声をかけた。

「ああ、その前に会ってもらった方がいいだろう…入ってきたまえ」

すると、部屋の向こうから白い制服に身を包んだ、全く別の学校の美少女が堂々と入ってきた。

「紹介しよう、UTX高校1年綺羅ツバサ。今回の正式な依頼主でもあるな」

「こんにちは!UTX芸能課1年の綺羅ツバサです。よろしく」

歯をニカッとさせて手を差し伸べてきた。

「お、おう…」

…ああ?握手?なんだってリア充っぽい奴らはこうも馴れ馴れしいのかね?全く、本当アメリカ人かよ。

軽い自己紹介を済ませ、3人分の紅茶を入れ終った後、ようやく依頼の話をすることになった。

 

「…つまり、あれですか?俺がこいつらがやってるアイドルユニットのマネジャーみたいなことをすればいいと?」

「正確にはマネジャーというよりプロデュース業に近いかしらね?大半は学校がやってくれるけれど、やっぱり手が回らないところもあるし、簡易なプロデューサーという認識でいいと思うわ」

綺羅が補足説明をする。

ふむ、しかし何故だ?まずこいつとは学校が違うだけでなく住んでいる県すら違う。

さらに、この依頼自体奉仕部でやる仕事でもないはずだ。つーか俺がそんなに働きたくねぇ…

「ああ、君が悩むのもよく分かるが、今回は向こう側からの要望でな、こちらは立場上無下には出来んさ」

「…それで、なんで俺?というか奉仕部にそんな依頼を?」

たっぷりめな間を取って俺が平塚先生にじろっと視線をやった。すると平塚先生はうっと言葉を詰まらせ、肩身狭そうに視線を逸らした。

「い、いや、その、だな…うちの学校の校長と向こう側の理事長も知り合いだったらしくて、うちの学校から使えそうな生徒を送るように上から言われて、私が人選することになったんだが…」

俺がドロリとした目を向け、平塚先生がしどろもどろ答える。

「…授業はどうするんですか?どう考えても毎日やらなくちゃいけない この依頼無理でしょ…」

ため息交じりに俺がぼやくと、平塚先生はぱちぱちと瞬きをしてから、からかうようにふっと笑った。

「それなら安心しろ。授業自体は午前中だけで公欠が出るし、東京までの費用までも出るらしいからな」

ぐぬぬ…逃げ道がだんだん塞がっていく…でもなー、やだなー、と俺がゴネていると、平塚先生は紅茶をグッと飲み干して言った。

「とにかくだ。UTXの一件については君に全部一任する。異論反論抗議質問口応えは一切認めない」

じゃ、後は任せた、と言わんばかりに先生は部室から出て行ってしまった。

部室は再び静けさを取り戻し、俺とよく知らない女子という歪な空間を作り上げている。

その女子こと綺羅ツバサは紙コップの入っていた紅茶を静かに机に置くと、こちらを向いて尋ねた。

「…で、結局私は貴方に頼んでいいのかしら?」

「…まあ、平塚先生からの依頼だしな やらないわけにもいかないんだよな…仕方ないやるよ」

俺がほんっとう嫌そうにそう言うと、綺羅は引きつった顔で答える。

「そ、そう。ならお願いするわね?…ね、ね!

ここって一体何する部活(ところ)なの?」

話題に困ったのか綺羅がキョロキョロと部室を見渡しながら聞いてくる。

平塚先生…毎度のことながら、ちゃんと依頼者に説明してえええ!!

「…何も聞いていないのか?」

「ええ、私は学校(UTX)の理事長からこの学校(総武)の平塚先生に頼んであるからって言われて来たところだし」

仕方ないな…説明するか。

「はぁ…ここはな。持つ者が持たざる者に慈悲を持ってこれを与える。魚を与えるのではなく、魚の捕り方を教える部活…奉仕部だよ」

俺はいつかの雪ノ下のように高らかに宣言した。

しかし、あまり反応はよくないようだ、綺羅は難しそうに顔をしかめている。

「えっと…つまりどういうこと?」

「まっ、簡単にいえばボランティアだ。依頼が来たら、それを解決しましょうっていう便利屋みたいに考えてくれてもいい」

万事屋とかそっちの方向でも可。むしろ推進。

綺羅は納得いったのか、なるほど!っと手を叩き、机に積まれた本を一冊手に取る。

「本…好きなのね」

「まあな」

「『よだかの星』か…宮澤賢治ね?」

これには少し驚いた。文系クラス国語3位の秀才にして教養のある俺ならまだしも。一介の女子高生が知っているなんてな。

「…意外だな。宮澤賢治なんて普通の女子高生は読まんだろ」

一部例外を除くが、雪ノ下とか、あいつのクラスにいる学年国語4位の奴とか。

すると、フフンと鼻を鳴らして綺羅が答える。

「ま、本は結構読むわね?有名な物なら大抵読んでると思うわ」

へぇ、まじか。こいつとはそれなりに話せるかもしれないな。

そう思っている時、じーっと壊れたラジオの放つような音がする。チャイムが鳴る前兆だ。

その後すぐに、いかにも合成音声っぽいメロディが流れると、俺は静に本を片付ける。

完全下校時刻を知らせるチャイムだ。

「…で、もう完全下校時刻なんだけど、結局俺はどうすればいい訳?」

「そうね…まずは連絡先を交換しましょうか…後はこれで送るわ」

そう言って綺羅はメールアドレスを交換後、自分のスマホをふりふりと2~3回振ると帰り支度を始める。

支度を終えると立ち上がった。そして、俺のほうをちらりと見る。

「じゃあね!八幡。これからよろしく!」

そう言うと颯爽と部室を出て行った。

あまりの早さに声をかけるタイミングすらない。

後にはぽつんと残された俺が1人佇んでいた。そして、俺は考える。これは、あの生徒会長の一件以来初めての以来だ。

俺は、あの一件についてまちがえはなかったかと、再三問い続けたことを今一度問う。

もちろん答えは出ない、俺自身、自分の選らんだやり方に悔いてはいない。

 

例えば。

例えばの話である。

例えばもし、ゲームのように一つだけ前のセーブデータに戻って選択肢を選び直せたとしたら、人生は変わるだろうか。

答えは否である。

それは選択肢を持っている人間だけが取りうるルートだ。最初から選択肢を持たない人間にとってその仮定はまったくの無意味である。

故に後悔はしない。

より正しく言うのならばこの人生のおよそすべてに悔いている。

果たして、俺と雪ノ下は何かを間違えたのか、そして、俺一人で綺羅ツバサの依頼を受けて本当によかったのだろうか。

俺の胸に渦巻くもやもやする感情は消えてはくれなかった。




さて、ここで1つ昔話をしましょう。
このPrivate Warsというお話は元々私が一番初めて書いたssの前日譚というか…外伝モノなんですよね。(しかもハーメルンですらない)
それも随分昔。具体的にはまだμ’sのアニメ一期が地上波やってたか終わったかくらいの頃。…知ってる方とか100%いないレベル。というか知ってたらマジ古代ウルク民族レベル。そのうち乖離剣とか抜きそう。
このHACHIMANが蔓延るss業界、今ですらラブライブ×俺ガイルなんて掃いて捨てる程ありますが、私がこれを書き始めていたころは、それすら無かった。でも読みたい…ラブライブと俺ガイルとか絶対合うやんけ!!(*当時この作者は春雨さんという方の俺ガイル×シンデレラガールズのssにどハマりしていた)
でも無い…それなら、無いなら作ればいいじゃない?という思考からこんなクソみたいなもの作ってしまった…完全に若気のいたりだった。
とはいえ、初めて手掛けた作品を放置するのはなんともいただけない。
と、いう訳でこちらの方で再連載させて頂ければなぁ…と思った次第であります!(需要ないようなら辞めます)

(*今回は実験を兼ねて1話だけの先行投稿なので仮に連載開始になるとしても当分先になるかと思われます。次回からはごちうさと劣等生を投稿させて頂く予定で(未だどちらも空白)ありますので、そちらもどうぞよろしくお願いします)

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