艦隊これくしょん -南雲機動部隊の凱旋-   作:暁刀魚

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『31 あの空の果て』

 夜の帳が降りる頃、海の世界は反転を開始する。青に染まり狂っていたはずの水平線が、行き場を失い崩壊を始める。融け合うように、歪みあうように。

 さながらソレは、海が世界の全てとなったかのようだ。天も地も、それら二つがつながる先も、あらゆるものが黒に濡れた海となる。――海没。月の光だけが世界を照らし、星の光だけが道標となる。

 

「探照灯でも照らさないと、相手の居場所も分からないネ!」

 

 金剛の愚痴とも冗談とも取れない声が海に消える。そんなことをすればもはやその艦は的にしかならない。旗艦の島風ですら、それは渋るだろう。

 とはいえ、それが夜戦というものだ。久しく突入していないせいで、感覚を忘れがちになっているが。

 

 ともかく、戦闘開始だ。夜の海を回遊する敵艦隊の後方から、一気に追いつき砲撃を打ち込む。空母が完全な置物である以上、砲撃が分散されるという優位を除けば、敵艦隊と島風達の戦力は五分と五分。

 ここですべてが決まる。それを明らかとするためのこの夜戦だ。

 

 想定の未来を現実に変える。そのために、一刻の猶予もない。静けさだけが支配する海に、島風の声が響いた。

 

「我、夜戦に突入す!」

 

 

 ♪

 

 

 後方から敵艦隊を奇襲する関係上、第一に狙うのは敵の最後尾、つまりル級エリートとなる。しかし島風は、それをあえてしなかった。自身が艦列より離れ先行、まず敵艦隊の頭に出る。ル級フラグシップを狙うのだ。

 先ほどの金剛が行った“探照灯”ではないが、それは電探を持つ金剛達が、上手く距離感を測るための目印だ。同時に、敵艦隊の一撃を一度吸う、誘蛾灯の役割もある。

 

 ここでル級を沈め、更には敵の最後尾を残る三隻が一気に叩くための最低条件。

 つまり、これが島風の仕事だ。

 

 黒の視界にぽつんと浮かぶ何がしか。ル級達であることは、ここまで彼女たちを追ってきた島風ならば解る。後方、龍驤や金剛達に手を降って先行を開始した島風は、直後から最高速への加速を始める。

 

 夜の舞台を得意とする駆逐艦として、ここで引くという選択肢はない。

 

 連装砲、右手に伴う主砲を確かめて音を殺して――戦艦ル級の気を引くような音を出さないよう気をつけながら、それでも十分な速度で、敵を襲う。

 

 風が自分を通りぬけ、置き去りにされる感覚。島風はそれを知っている。海は、自分の感覚を引き出してくれる場所。生まれてから、今の瞬間まで、駆け抜け続けてきた場所。

 

「それを、たかだかバケモノごときに邪魔されるなんて、ゴメンなの!」

 

 音にはならなかったが、それでもその気迫は十分な声量だったと言えるだろう。その時にはすでに、島風は敵艦隊の中央にいた。

 声が合図になったわけではない、その直後、ル級が不自然に揺れる海面を見とがめた。最後尾のエリート戦艦が、敵の襲来に気がついたのである。

 

 ――雨の嵐が、始まった。

 

 情け容赦なく、音という音を殺しきるような圧倒的爆音。爆撃、全てが島風に集中する。身体を逸らした。最低限の動き。全てが島風を狙っているわけではないのだから、狙う一撃だけを焦点に、避けた。

 ル級の砲塔には、夜間での発射時に発生する火花を極力相手に察知させないような工夫がなされている。これは金剛達の砲塔も同様であるが、光が周囲にあふれると、それだけで敵に自身を悟らせてしまうのだ。

 

 だからこそ、火花を頼りに島風は動かない。彼女が目で追っているのは砲閃の軌跡。こちらに向かう物があれば回避に動くし、その周囲にあるものを、島風は目ざとく見つける。

 ――“煙”だ。

 

 夏の夜空に浮かぶ花火を眺めた事があるだろうか。花火大会において連続で打ち上げが行われる場合、その直前に火を吐いた痕、つまり“煙”が花火に照らされて浮かび上がることがある。

 花火の場合、それは光に満ちた夜空を邪魔する障害物だが、夜戦の場合は、それが敵の砲塔から放たれている以上、近くに敵が存在するという目印となるのだ。

 

 海での戦闘が、人と人型同士という、障害物の極端に少ない状況においてのみ効果を発揮する、艦娘と深海棲艦特有の敵艦隊判別方法だ。

 そしてそれを深海棲艦が行う習性はない。つまり、この方法が島風が戦場で戦艦四隻相手に持ちうる、絶対的なアドバンテージなのだ。

 

 駆け抜ける。この方法は長期戦に向かない、止めどなく吹き上がる煙がやがて周囲全てを覆うために。硝煙の匂いが、こびりつくように鼻をツンと刺した。

 もはや速度を抑える必要はない。あらん限りの枷を解放し、あらん限りの速度で前をゆく。島風を拘束するものは、何もない。

 

 南雲機動部隊が本格的に陽の目を見てから、速度を活かす機会はぐんと減った。艦隊単位での行動が主となったのだ。独断専行は艦隊の乱れを招く。昔の高慢な島風ならばともかく、今の島風にそれを行う意思はない。

 

 だからこそこの場で無理なく最速で動くことは、まったく彼女を縛らなかった。身体の軽さを自覚する。速度を持った自分は、こんなにも強く在ったのか。

 

 ――弱くなったのかもしれない。電――先代の――を失って、それから少しずつ艦隊を乱さない行動を身につけた。しかしそれは、駆逐艦としての島風の性能を極端に落としてしまうものではなかったか。だとすれば、島風は一体、どうして何を目標にすればいい?

 分からない。分からないが、とかく、今はこうして好きに動ける。最高の戦場で、戦える。

 

「それだけは、否定できないことだよね」

 

 正しさも、間違いも、全てを放り出して海をゆく。誰かは逃避と呼ぶだろうか。分からない。わからないからこそ、今は戦うしかない。

 

「電……どうだろ、一体何が、正しいんだろうね」

 

 “――あなたの選ぶことが、正しさなのです”。幻聴が聞こえた。島風にとっての電は親友だ。そう、電が語ることくらい解る。

 

「さぁ、さっそく私の一仕上げだよ!」

 

 砲塔を向けた。狙うは旗艦、フラグシップ戦艦ル級。

 

 だが、そこに島風は、ある事を悟る。吹き上がる煙が、その在り処を告げるのだ。――つまり、島風を狙い、一直線にフラグシップル級の砲塔が向けられている。外さない状態で、狙いを絞っている。

 

「ヤバッ!」

 

 即座に身体を横へ逸らす。危ない領域だ。回避は難しいかもしれない。最高速で動いている以上、移動もそうそう楽ではないのだ。

 勢い紛れに、進路を変える。急げ、急げ、焦燥が募る。回避か、激突か、もはや状況は、切迫していた。

 

「んっのォ!」

 

 前に差し出した右手を、空をかくようにしてなぎ払う。加速を得ていた島風に、それは単なる気休めではあるものの、やらないよりはましか、やらなければ前は見えないか。

 ――ル級、フラグシップの轟砲が、躊躇わず、とどまらずに飛び出した。

 

 空気がねじれ、えぐれ、かき乱される。暗く塗られた空白の海上、即座にその結論までが訪れる。

 島風の、横を、それは通り過ぎた。

 

 外した。思うよりも早く、島風が超々至近距離へと、手を伸ばし、到達する。

 逃さない。考えるより、“速かった”。

 

「……ダメだね」

 

 一言、声をかけたのは果たして、何を思ってのことだろうか。考えるまでもない、単なる掛け声。自身に活を入れるような、勢い任せの戦場の咆哮。

 

「全ッ然、ダメダメダメダメダメだよ――ッ!」

 

 この時、島風は始めて砲撃を行う。砲火行き交う戦場の中、島風の上方に黒と同一の煙が上がった。

 そして、

 

 

「HEY! おまたせましたネ! 夜戦突入、レディGO!」

 

 

 金剛の声が無線越し、そして海上越しに島風へ届いた。爆発し吹き上がる戦艦ル級フラグシップ。そして“それ”に連装砲を突きつけ、硝煙を匂わせる島風。状況は決していた。

 即座にその場を離脱、回避行動を取りながら金剛達に近づく島風。

 

 艦隊決戦の夜の巻、第二ラウンドのスタートだ。

 

 周囲が加速度的に戦場へ傾く中、赤城が吹き上がるかつてのフラグシップル級を、油断なく睨みつけるように視線を鋭くさせた。

 

 

 金剛はがむしゃらに、連打するように砲撃を叩き込む。

 吹き上がるのは主に副砲の一撃だ。主砲は連続して放つものではない。それでも、生み出される砲火の群れはニ咆哮。つまり敵艦隊と味方艦隊双方が弾幕と呼べるほどの砲弾を飛び交わしていた。

 

 ――どこからか、巻き上がった飛沫がほほに張り付く。煙の濃い匂いに、一瞬だけ塩の香りが混じって消える。直後、金剛が睨みつける視線の先を向いた砲塔が、周囲を轟かせ、かき乱したのだ。

 

 ぐわんぐわんと感覚が揺れる。海の揺れと、世界の揺れ、それだけではないだろう。戦場にいるという自分の感覚が、頭を割るかのように揺れている。

 たまったものではない。慣れるようなものではない。そも、慣れるように金剛はこの感覚を作り上げているわけではないのだ。

 

 あくまで戦場に立つ自分を異質であると認識するための独特の認識が生み出すのである。これは間違ってなどいない、正しく金剛が、戦場で常に感じてきた感覚だ。

 

 十年以上だろうか、長い間戦場にいてそれでもなお“慣れない”ための方策。戦艦として、彼女は長く戦場に居る必要があった。

 戦艦として、一心に期待を集める。期待を“背負わされる”。そんな中で生み出した金剛なりの戦場に自身を置き続ける術。それがこの感覚だ。身につけた当初はブレがあり、時には辛さを感じるものも在ったが、それでもだいぶ最近はマシになってきた。

 それはきっと満のおかげだろう。彼の言葉が、人柄が金剛に想いを与えてくれるのだ。

 

 そんな満へ向ける感情は、自分自身は愛だというがきっとそうではないだろう。おそらくは親愛、家族としての愛。なぜなら満へ感じる最も大きな金剛の感情は“親近感”と呼ばれるものなのだから。

 ありがたい限り。この感覚は忘れずに今の自分は夢をみる。やすらぎの夢を、誰かのために砲撃をする夢を――!

 

「ファイア――!」

 

 狙うは艦列最後尾。戦艦ル級エリート。当然だ。自在に速度を操る島風でもないこの艦隊は、未だ敵艦隊へ完全に追いついた訳ではない。少しのズレがある。よって、集中的に砲戦を向けるのは、もっとも手近で、狙いやすい最後尾だ。

 

 艦隊の二列目にあたる金剛だけではない、三列目、四列目に並んだ愛宕、北上も砲撃を開始している。覆うような、弾幕だ。

 見惚れるようだと少しだけ考えて振り払う。必要ない思考だ。無論、同時展開する戦闘用の思考は存在するわけだが――

 

 冷静さを保つための金剛が動かしている俯瞰思考が横道に逸れた時、北上と愛宕の砲弾が、同時にル級へ突き刺さったように見えた。爆煙を拭きあげる。つまり、姿が明るみに出たというわけだ。

 煙を見るという島風のような方法は取れない。金剛は長年の感覚からある程度あたりを付けられるが、北上や愛宕はそうも行かないだろう。

 結果として、これが金剛達への福音となる。

 

 それなりには解るとはいえ、完全には解るわけではなかった感覚の砲撃をやめ、即座に砲塔を回転させ弾道を修正する。この速さはさすがに歴戦の艦娘と言ったところか、一切のよどみなく金剛は砲撃を放つ。

 

 一度、外した。

 少しだけ、修正する。これは完全に手先の問題だ。一ミリのズレが、砲撃を外す。金剛のソレを間近で見ていた愛宕が砲塔を更に前方のル級へと修正する。

 意味するところは、もはや次は必要ないという、宣告。

 

 金剛の意図を理解し、それを即座に行動に移すのだ。

 

 愛宕は若い。この中で、三年も艦娘として行動していないのは彼女だけだ。ほとんどの艦娘が五年近い間戦線を駆け抜けるベテランである。特に大ベテランであるところの金剛からみて彼女は未だ未熟だ。しかし、誰よりも才能に溢れていると言える。

 特にこういった時での察しの良さは随一で、頭の回転、特に戦術策略のたぐいは、彼女の十八番だ。

 

 まだまだこれから、だからこそ前に進んで欲しい。これは――自分が、彼女のために道を切り拓く一撃。――否、彼女だけではない。満や、南雲機動部隊の皆が、前に進むための一撃。

 

「――ハァァァアアアアトッッ!」

 

 砲撃に負けないような心胆を震わせる声で、告げる。

 戦艦ル級に対する――チェックメイトの一言を!

 

 

「バァァァァニィイイイイイイイイイン!」

 

 

 膨れ上がるように、言う。

 たたきつけるように、爆音が響いた。

 

 

 残るは、ル級エリートが二隻。すでに旗艦を轟沈させ、ほぼ勝利が確定するなか、いよいよ戦闘は大詰めに差し掛かっていた。

 二隻のウチ後方、現在の島風達に近い側の戦艦ル級に全艦娘の砲火が殺到する。もはや弾丸の潮流と化したそれは、ル級エリートの身体を幾度も抉る。

 

 現実における駆逐艦や重巡等とは違い、オカルトに近い存在である艦娘は、夜戦においては特殊な火力の強化が行われる。それは主砲に魚雷、副砲などの装備を全て一斉に、ひとつの砲撃に集約させるかのようなものだ。

 それが在る限り、夜の戦いで、駆逐艦が戦艦に致命打を与えるなど、常識の光景に成り下がる。

 

 無論それは出処を同じくする深海棲艦も同様であるが、夜戦の場合、戦艦は火力の集約を行えない。行おうにも、集約する魚雷火力が存在しないのだ。

 

 故に、一撃一撃が致命打と化した島風達の砲撃に、ル級は為す術もない。返す刀の主砲も海へそれ、金剛が身を寄せて回避する。

 だがそうだとしても、ル級が単なる的で終わるはずがない。

 ありえないのだ、そのような事態。

 

 沈まない。

 ル級は未だ、健在である。――一発が決定打となる状況で、回避に全霊をつぎ込み、実をすり減らして直撃からダメージを遠ざける。もはやそれは、亡霊の如き執念であった。ただそこに“在る”ためだけの存在は、それだけを存在理由に、無茶無謀に染まった回避行を敢行する。

 避けられるものではない、だが、避ける。もはや両手に備えられた装甲は、無残に引き剥がされていくつかの砲塔がむき出しになっている。

 

 それでも、耐えた。

 ただ生にすがりつくという、あまりに矮小な存在理由を果たすために。

 

 だからこそそれが、最後の深海棲艦の活路であり、反撃の糸口となる。

 砲撃を集中させるということは、もう片方の深海棲艦を御座なりにするということだ。速攻による電撃戦であればそれはなんら影響を持たなかったであろうが、もう遅い。

 島風達は、執念の塊に時間をとられすぎた。もう一つの執念。戦艦ル級エリートが主砲を島風へと向ける。

 

 わかってはいた。そうなるということくらい。

 覚悟はしていても次に起こる状況は変わらない。莫大な衝撃を想い島風は歯を食いしばる。それが意味を成すことなど無いということも知らず。

 

「――北上さん!」

 

 突如として、愛宕の声が海域に響き渡った。

 島風を狙うル級の主砲を察知したのだろう。だが、その意図は――? 汲み取ったのは、愛宕の後方に立つ北上だけ。つまり、それは“奇策”というべきものだ。

 

 全体においても高速で前進する艦隊。しかし、それを追い抜くように愛宕は全力で全身を開始する。狙いは単純。自身の存在によって敵艦隊を釘付けにする、それだけだ。

 

 ――否、それは単なる事象のオマケにすぎない。愛宕の狙いはそこにはない。ただ“守れたからついでに守った”という程度のもの。

 そう、龍驤が中破など気にすることなく攻撃を選んだように、誰もが勝利のために、それ相応の無茶をするように。

 愛宕にとってはこれが、自分にできる精一杯の無茶だったのだ。

 

「愛宕――!?」

 

 後方から島風の声がする。気にすることはない。砲塔は、すでに敵を向いている。この距離ならば。

 

「大破でもしない限り、外れるなんてありえないんだから……ッ!」

 

 戦艦ル級の砲撃は、重巡の装甲を貫くことはありえない。現状で、ル級が愛宕達に一撃を通すチカラはない。それが、すでに中破寸前の、ル級エリートであれば尚更だ。

 そして、愛宕が狙うのは、無傷で佇む前方のル級。

 

 砲塔全てを一列に並べる。愛宕が放つ最大火力。重巡の、夜における特殊なブーストは、戦艦の装甲など、豆腐のように打ち砕く。

 爆発は、二度起きた。一つは愛宕を包み込み、一つはそこから吹き上がる黒煙を切り払い、海上に身を躍らせた。

 

 直後、それに北上が続く。金剛の至近弾が戦艦ル級に中破を叩き込んだのを夜目に刻み込んだ北上は、愛宕と同様艦列を離れる。

 狙うは超至近距離からの砲撃。

 重雷装巡洋艦の、特大全門魚雷攻撃。

 

「愛宕っちはこれからもっと強くなる。島風や、龍驤、金剛に赤城。そして私の栄光のために! アンタ達はここで沈め!」

 

 普段の彼女らしからぬ声。

 今、この場所に居るということの実感と、喜びと、そして希望と。これから先、どんなことが北上の身に訪れるかは知れない。それでも、かつて、あの地獄のような基地でもう一人の重雷装艦と肩を並べて縮こまっていた時よりも、それはずっといい未来のはずだ。

 

「この栄光を怨念で塗り替えるんじゃないよ! これは、私たちの希望が生まれるために存在するんだ!」

 

 この日、この時、この瞬間。

 南雲機動部隊の黎明のために。

 

 戦艦ル級は、海へと帰る。

 

 北上の魚雷は外れない。外れるような距離で解き放たない。

 爆裂し、炸裂し、激烈が、黒の世界を覆い尽くした――

 

 

 ♪

 

 

 こうして、南西諸島周辺を支配していた深海棲艦艦隊は壊滅した。南雲機動部隊の活躍に寄って、一つの航路が切り開かれたのだ。

 それはここ数年戦線を後退させていた日本海軍の福音となるだろうし、それにより、次なる狙いも、はっきりしてくることだろう。

 

 誰もがその一瞬は勝利に浮かれた。

 だからこそ、気付くものはただ一人しかいなかった。その一瞬を、頑なに待ち続けた、在る一人の艦娘を除いては。

 

 ――南雲機動部隊の黎明は終わった。

 機動部隊は、誰もが認める艦隊になった。ゆえにこそ、これから始まるのは、激闘だ。ただただ先の見えない、戦争と呼ぶべき戦争だ。

 

 それは、通信。

 

 たった一つの通信から始まる。

 

 赤城から満へ向けた、本当に小さな一つの言葉。それが戦いの火蓋を切る。

 

 

 そう、

 

 

 たった一言。

 

 

 ――――――、

 

 

 ――――満さん。

 

 

 ――――――、

 

 

 ――――ごめんなさい。

 

 

 ――――――と。

 

 

 ――こうして、

 

 南雲機動部隊の、長い長い、戦いの日々がここからはじまる。

 

 

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 16

 

 

 ――――赤城は、海に沈むことを選んだ。




――――第二部「南雲機動部隊の凱旋」――――

二月下旬連載再開予定
Coming Soon...

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