魔法少女まどか?ナノカ   作:唐揚ちきん

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第八十七話 水色の純情とホストが語る真相

~さやか視点~

 

 

 

 今日は美国さんの家にお呼ばれして、美国さんの家の庭でちょっとしたお茶会を開いていた。

 集まったメンバーは私、まどか、マミさん、ほむら、呉さん、そして、当然ながら美国さんの六人。

 杏子は休みの日は家族と過ごしたいからと言って参加しなかった。政夫も用事があるからと言って来なかった。二人ともノリが悪い。

 色々合ったが今日は親睦会の意味も込めてのお茶会だったので、美国さんは「仕方ない事だから」と笑っていたけど本当はできれば皆参加してほしかったんだと思う。

 お茶会は、美国さんと呉さんが私たちへのこの前戦った時の事の正式な謝罪から始まり、最初は皆少し堅苦しくなってしまったけれど、次第に柔らかい雰囲気に包まれて和気藹々(わきあいあい)に会話ができるまでになった。

 美味しいケーキと紅茶を皆で食べてながら話していると、自然と話題が政夫の事ばかりになっていく。

 政夫がどうした~とか、政夫にこんな事をしてもらった~とか、こういうのを聞いていると私たちが全員共通の話題って大体政夫の事なんだって思わされる。

 そして、私の言った何気ない一言でその空気が変わった。

 

「でもさ、政夫って絶対私の事好きだと思うんだよね?」

 

 一瞬でほのぼのとして温かかった空気が凍る。

 皆の笑顔まで時が止まったように固まっていた。

 

「美樹さん……ちょっとあなたの言っている意味がよく分からないのだけれど」

 

 一番最初に私に言葉を返したのは私の左隣に座っているマミさんだった。

 いつものように優しげに微笑んでいるけれど、指を絡ませているティーカップがこれ以上にないってくらいに揺れていた。今にも中の紅茶をこぼしそうになっている。

 

「そうよ。急に何を言い出すの? さやか」

 

「も、もう、さやかちゃんたら。お、驚いちゃったな」

 

 ほむらにまどかも続いて、話し出す。

 ほむらは無表情でよく分からないけど、いつもよりも声のトーンが低く聞こえた。まどかの方も取り繕った笑みを浮かべている。

 

「さやか……だったよね、名前。墓石にはそう彫ればいいのかな?」

 

 右隣に座っていた呉さんは暗い笑みをしながら、私の首筋にケーキ用のフォークを当てている。

 じんわりと冷や汗が(にじ)み出てくる。

 ……やばい。私、今思いっきり失言したかも。

 

「いや、あの、でも……な、なんかごめんなさい」

 

 取りあえず、場の雰囲気を元に戻すために謝るが、私の正面に座る美国さんはお茶を一口飲んだ後にこう言った。

 光の反射具合のせいだと思うけれど、美国さんの瞳の光彩が消えたように見えた。

 

「美樹さん。別に謝らなくてもいいわ。――ただ、何故そう思うのか、その理由を聞かせてもらえないかしら」

 

 ただ一人だけ冷静に見えたが、多分この人がこの中で一番私の発言に怒っている。女としての直感が私にそう(ささや)いていた。

 

 

 

 

「えっと、ですね。政夫は私がキュゥべえと契約するって言った時、必死で止めようとしに来てくれたんですよ。その時、私は病院の屋上に居たのに政夫は息切らせて、ふらふらになってまで私の元まで来てくれたんです。そこで私が魔法少女なろうとするのを止めるように本気で説得してくれました」

 

 全員が無言でそのまま続けろという目で見ているので、私は話を止めずに喋り続ける。

 喋りながらも、あの時の事が頭の中で(よみがえ)っていった。

 奇跡で恭介に好きになってもらおうと考えかけた私に政夫は本気で怒ってくれた。そのおかげで私は道を間違えずに済んだ。

 あのまま、恭介が私の事を好きになるように願っていたら、私は絶対に後悔していたと思う。

 まあ、結局契約自体はしちゃったんだけどね。

 

「その後も、私が恭介……好きだった人に告白できなかった時に政夫は背中を押してくれました。キツイ事もたくさん言われましたけど、それも全部私のためで……あはは。自分でこんな事言うの、何だか恥ずかしいな」

 

「美樹さん。そういうのはいいので、続きを」

 

 照れくさくなって恥らう私を絶対零度の瞳で睨み付けて、美国さんは話を()かす。ほむらと違って表情だけは笑顔の分、笑っていない目が怖い。こういうところは何となくだけど政夫に似ていると思う。

 気を取り直して、話に戻る。

 

「恭介は私じゃなくて、他の女の子が好きだったんですけど……私はそれを納得した振りをして誤魔化していました。ずっと本心を嘘を吐いてて……」

 

 ちらりとほむらを一瞥すると、複雑そうな顔を浮かべていた。多分、ほむらは恭介とデートした事を思い出している。恭介はほむらに告白していたって聞いたから、その事について私に負い目みたいなものを感じているのかもしれない。

 

「それを政夫は見抜いて、私にちゃんと失恋できるように支えてくれました。見っともなく泣き出しても傍に居てくれたんです」

 

 そんなに格好悪いところ見せても、迷惑かけても、絶対に嫌いにならないから自分に話せとそう政夫は言ってくれた。あの言葉で私がどれだけ救われた事か、自分でも分からない。

 思い出しただけで涙が出てきそうになるけれど私はそれを抑え込む。

 

「勇気が出るまで、覚悟ができるまで、ずっと一緒に居てくれました。大声で泣き喚いて涙で濡れた私の顔をハンカチで(ぬぐ)ってくれました。……こんなあたしを、政夫は信じてくれました」

 

 我慢したつもりが込み上げてきた感情のせいで最後だけ声が震える。

 記憶と一緒に思い出したあの嬉しさが涙腺を揺らした。

 おかしいな。政夫が私の事を好きな理由を話してるのに、これじゃまるで私が政夫を好きな理由を話してるみたいだ……。

 

「ありがとう、美樹さん。貴女がどれだけまー君の事を真摯(しんし)に想ってくれているのか分かったわ」

 

 美国さんは立ち上がると、手を伸ばして白いハンカチを私に差し出した。それを受け取ると目尻を軽く拭いた。

 お礼を言って、ハンカチを返すと美国さんはさっきとは違う目の笑った優しい笑顔をする。

 

「まー君の事をそこまで大切に想ってくれて嬉しいわ。キリカもそう思うでしょう?」

 

 美国さんが話を振ると、呉さんは今まで私の首筋にフォークを当てていた手をそっと下ろした。

 

「ま、まあ、ある程度は認めるよ。で、でも、私だって負けてないんだからな!」

 

 ()ねたような言い方に私は、つい笑ってしまう。

 

「何だよ。笑うなよ! 失礼じゃないか!」

 

 その態度が可愛くて、私以外の皆も連られて笑った。

 きっと、私以外も本気で政夫の事が好きなんだろう。でも、逆に言えばそれはこの中の誰があいつの恋人になっても、政夫は本気で愛してもらえるという事だ。

 私の大切な人を本気で愛してくれる人なら、私はその人の事を心からお祝いできる。

 私が好きなあいつには、幸せになって欲しいから。

 

 

 政夫。アンタ、幸せもんだよ。こんなに大勢の美少女に好きになってもらってさ。

 

 

 

 

 

~ショウ視点~

 

 

 政夫が帰った後、俺はソファの上に寝転がると杏子に話しかける。

 

「杏子」

 

「何だよ。変態ホスト」

 

 もの凄く冷たい目で俺を(さげす)む杏子。

 砂糖とコーヒーフレッシュを入れまくったせいでカフェオレのようになったコーヒーをちびちびと(すす)っていた。

 こいつ、兄貴に向かってその呼び方は酷すぎないか? 一緒に暮らし始めた二ヶ月前くらいにはもっと俺に対して遠慮とかがあった気がするんだが……。

 そんな益体もない事を思いながら、俺は杏子に言う。

 

「まあ、聞け。……さっきの政夫の発言の理由、分かるか?」

 

「分かんねーよ! というか、いい歳して下ネタではしゃぐんじゃねーよ!! ショウ、もうそろそろ二十台後半だろ!」

 

 真っ赤になって切れる杏子に俺は溜め息を吐いた。

 全然分かってないみたいだ。こいつもまだまだ色恋沙汰には疎いらしい。

 あの程度の下ネタで反応するのはガキの証拠だな。

 

「あのな、杏子。政夫が何でまどかやほむらが駄目でお前には興奮できたって事について、もうちょっと考えてみろよ」

 

「何言ってんだよ!? そんな事に大した理由なんてある訳……」

 

「あるぞ。それも結構真面目な理由がな」

 

 言葉を遮り、肯定すると杏子は口を開いたまま固まった。

 しかし、すぐに復活するとムキになって聞いてくる。

 

「はあ!? あの馬鹿話のどこに真面目な理由があるんだよ? 言ってみなよ」

 

 これだけ言ってもまだ考えようとしない杏子に仕方がないので教えてやる。

 俺は上半身を起こすと、サイドテーブルに置いてあったコーヒーカップを手に取った。

 

「政夫はな。簡単に言っちまえば、まどかやほむらを保護者目線で見てんだよ」

 

「……どういう意味だよ? 父親とか兄貴みたいな目で見てるって事か?」

 

「父親や兄貴……つーよりはあいつの場合、教師みたいな目付きだな。ようは手間のかかる幼い生徒みたいに世話を焼く相手って認識なんだよ。言い方悪いが目下の相手って見てるんだろな。本人は気付いてねぇけど」

 

 簡単に言えば、俺が杏子の半裸を見ても性欲を抱かないとの一緒だ。完全に自分よりも幼い相手として意識していなければ恋愛感情も抱かないし、性的な目で見れば罪悪感を持つ。

 俺の話に納得ができていないようで、難しそうな顔で杏子は首を捻る。

 

「なら、何でアタシならいいんだよ?」

 

「お前の場合は、直接的に政夫が世話焼いた事がないからだろうな。だから、素直に同級生として対等に見られるつー訳だ」

 

 政夫も難儀なヤツだ。あいつにとっては面倒見ている女の子から告白されたところで、学校の教師に生徒が「せんせー、だいすきー」と寄って来ただけに過ぎない。

 真面目な分、父性的な感情がデカいんだろうな。精神年齢が中学生とは思えないほど高いのも関係しているのもありそうだが。

 ようやく納得がいった杏子は、今度は(いきどお)るように顔を(しか)めた。

 

「だったら、何でそれを政夫に教えてやらねーんだよ? あいつはそもそもそういうのを聞きにショウに会いに来たんだろうが!」

 

 本当にこいつは色恋沙汰について何も分かってない。

 そういうモンは理屈で考えちまったら駄目な領分だってのに。

 

「杏子。人に教えてもらうだけじゃ駄目なんだよ。自分で気付かないと意味がねぇんだ。まして、政夫は真面目だから余計に悩んじまう」

 

 だから、あえて興奮だの、少年よ性欲を抱けだの大分ぼかして伝えた。

 理屈っぽい政夫が混乱しないように馬鹿っぽく茶化して話してやったのにはそこに理由があった。

 俺が語り終え、コーヒーを一口飲むと、杏子は不機嫌そうな顔付きで俺をじっと見つめていた。

 

「な、なんだよ?」

 

「面倒見てもらってる奴は、世話してくれる奴の事好きになったらいけないのかよ……」

 

「いや、誰もんな事言ってねぇだろ。政夫が真面目だから恋愛対象として見られてないだけっつー話だ」

 

 俺がそう答えると、杏子は付け足すように聞いてくる。

 杏子の目は何かに(すが)るように震えていた。

 

「だったら……ショウは、ショウはどうなんだよ? アタシの事、そういう目で見てくれないのか?」

 

 俺は杏子が何を伝えたいのか理解した。

 きっと直接言葉にはできないから、遠回しに聞いているんだろう。拒絶されたら離れて行っちまうかもしれないから。

 元々、薄々は気付いていた。『カレンの願い事』のおかげとは言え、これでもナンバー1ホストの座に座り続けている俺だ。色恋沙汰には人一倍鼻が利く。

 杏子の俺への感情が父親や兄弟に向けるものとは違うって事くらい知っていた。

 だが、杏子の事を「カレンの代わり」として見ていた俺はずっとその事から目を背けていた。

 今はもうカレンにも、杏子にも代わりなんて居ない事が分かっている。なら、そろそろ格好悪い真似は止めにしよう。

 俺は杏子の例に(なら)って、遠回しに答える。

 コーヒーカップに目を落としながら気軽にぼんやり呟くように。

 

「そうだな、あと二年経って、お前がイイ感じに発育して、そんでもってお前に好きな男が居なかったらそういう目で見ちまうかもしれねぇなぁ」

 

「……ホントか?」

 

 不安と期待の入り混じった、確認するようなか細い杏子の声が耳に響く。

 『妹』としての生意気な声じゃなく、『女』としての艶のある声。それを聞いていると、今まで杏子は俺に合わせて、そういう感情を押し隠してくれたのだと理解させられる。

 

「ああ、ホントだ。ホスト嘘吐かない」

 

「……アンタ、保護者失格だな」

 

「はっ! 俺の台詞ちゃんと聞いてたか? 今はお前の事なんかケツの青いガキとしか見てねぇって事だよ」

 

 元気になって生意気な事を言い始めた杏子に俺は小馬鹿にするように笑うと、コーヒーカップをサイドテーブルに置いた。 

 

「そろそろ飯でも食いに行くか?」

 

 時計を見ると昼も近く、腹も空いてきたので杏子に尋ねると杏子は首を横に振った。

 

「ショウが作ったアップルパイがいい」

 

「ええー。今から俺が作るのかよ。そして、アップルパイは飯じゃねぇ。菓子だ」

 

 今からパイ生地から作ったら結構時間がかかる。何より、あんな甘いもので腹を満たすのは嫌だ。

 だが、家の可愛い妹サマはそんな事を考慮してくれるほど優しくない。

 

「アタシの主食はお菓子全般だから。頼むよ、あ・に・き」

 

 悪戯っぽくにやにやと杏子は笑う。

 まったく、兄使いの荒い妹だ。こういう時だけ、妹ぶるこいつは結構な悪女に成長するだろう。まだ見ぬ杏子の彼氏が不憫(ふびん)でならねぇ……。

 俺は腕まくりをするとご要望の品を作る準備を始めた。

 




ショウさんの発言を聞けば分かると思いますが、政夫は自分の庇護下に置いた人間を子供扱いする傾向があるので、政夫に世話を焼かれている人間は恋愛対象外となります。
つまるところ、政夫に「あなたの助けはもう要らない」と言える人間だけがちゃんと対等な相手として見てもらえる訳です。
実は政夫が前の中学で付き合っていた女の子、「穂波かえで」という子なのですけれど、この子と別れた原因の一つが政夫が庇護対象と見ていたからです。恋人同士でしたが、あくまで「手のかかる友達」という目で見てしまっていたのです。

超番外編のメガほむは……好みのタイプだったから、ノーカウントだったんじゃないでしょうかね?

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