魔法少女まどか?ナノカ   作:唐揚ちきん

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アンケートで一番投票されたメガほむの特別編です。
至って普通のお話なので過度な期待はしないで下さい。


アンケート特別編 眼鏡の魔法少女の憂鬱 前編

~暁美ほむら視点~

 

 

 

『今回も駄目だった』

『次こそは必ず……』

 そんな言葉を何度繰り返したのか、もう解らなくなっちゃった……。

 どうしてそこまで助けたかったのかも覚えてない。でも……でも、諦めたら私には何もなくなっちゃうから、だから私はまどかを助けなくちゃ……。

 でも、私の言う事を信じてくれる人なんて居ない。私の事を助けてくれる人なんて居る訳がない。

 誰にも……頼れない。私だけでまどかを救わないと……。

 そう思っていた私に、この時間軸で出会った彼はこう私に告げた。

 

「信じるよ、暁美さんのこと。僕は信じる」

 

 幼さの残る顔立ちに大人びた表情を浮かべる不思議な男の子。

 もう何回目になるのかも分からない『転校初日』、彼は私の抱いていた絶望を拭い去るかのように現れた。

 そして、魔法少女の世界を……世界の裏側を知ってなおも彼は私を信じて、手を差し伸べてくれた。

 これはそんな彼と過ごした時間を断片的に書き綴った短い物語。

 

 

 

「……あの日は凄まじく濃い転校初日だったなあ」

 

 初めて出会った時の事を思い浮かべて私がそう呟くと、目の前に座っている彼、夕田政夫君は何についての事か分かったようで苦笑した。

 

「カラフルなクラスメイトが勢揃いしているガラス張りの教室に転校してきたかと思ったら、幼児の落書きみたいな化け物に襲われ、挙句の果てには魔法少女に助けられるなんて……とんだジュブナイルだよ」

 

 今、私は政夫君に相談するために、彼の部屋を訪れていた。

 政夫君はこの時間軸での私が転校してきた当日、今までのループでは見た事さえないイレギュラーだった。校舎に潜んでいた凱旋門のような姿をした『芸術家の魔女』に襲われていたところを私が助け、それから色々とあって今では私を支えてくれている。

 最初の頃から繊細そうな顔立ちとは似合わず、何かと肝が据わっていて適応力が異常なほど高い。多少慌てたりする事もあるけれど、すぐに冷静さを取り戻して事態を収拾してくれる。

 魔法も奇跡も特殊な力もないけど、彼のその常に超然としているところは尊敬している。

 ……それに尊敬だけじゃなくて……。

 ちらりと政夫君の顔を改めて見つめる。

 

「どうしたの、暁美さん? もしかして、僕の顔に何か付いてたりする?」

 

 澄んだ黒の瞳が私を見つめ返し、恥ずかしさが頬をほんのりと熱くした。

 ……これはまだ明かさなくてもいい事だ。うん。そうしよう。

 頭の中で自己主張してきた感情の一つを片隅に追いやって、自分を誤魔化した。

 政夫君は自分の顔をぺたぺた触って、何もおかしなものが付いていない事を確認して、怪訝そうに顔を傾げている。

 ちょっと可愛いなと思ったが、それを男の子に言うのも失礼な気がして黙っていた。

 すると、彼は何か別の話題を思い出した様子で話を再開し始めた。

 

「ああ、そうだ。美樹さんの件だけど何とかなったよ」

 

「美樹さんの件っていうと……上条君の左手の怪我の事?」

 

 美樹さやかさんはまどかの友達で、上条君というのは彼女の幼馴染の男の子の事だ。彼女は事故で動かなくなった上条君の左腕を治すため、魔法少女になる。

 挙句に告白できないまま、志筑さんが先に上条君に告白し、絶望して魔女に……というのがどの時間軸においても共通の彼女の末路だった。

 

「うん。彼女、結局上条君に告白したよ」

 

「え、美樹さんが!? 一体どうやって……?」

 

 あれだけ自らの想いを伝える事に怯えていた美樹さんに、一体どんな方法で告白を促したのだろう。私にはとても想像も付かない。

 けれど、戸惑う私に政夫君は「そんな大したことはしていないよ」と苦笑いして、首を横に振った。

 

「『十年以上秘めたままの想いなんて、後何年経ってもどうせ告白できない。だから、ちゃんと胸を張って想いを伝えられる志筑さんに譲ってあげればいい』。そう言ったんだ」

 

「それで告白するって流れになったの?」

 

「凄い剣幕で怒ってたけどね。昨日は一日頬に赤い紅葉が付いてたよ」

 

 簡単そうに彼は言うが、きっと話さないだけでそれ以外も苦心して美樹さんを説得したのだと思う。今日、学校で 会った彼女は微塵もそんな印象抱かなかったのがその証拠だ。

 

「それで上条君は、美樹さんの想いを受け入れてくれたんだね」

 

 あの躁鬱の激しい美樹さんが普段通りに過ごせているのだから、当然告白は成功したのだと納得したが、政夫君はそれにも残念そうに首を横に振って答えた。

 

「それが……上条君、自分はバイオリンに集中したいからって、美樹さんだけじゃなく、志筑さんも振ったんだ」

 

「ええー……」

 

 それでは何故美樹さんはあそこまで平然としていたのだろう。落ち込みやすい彼女なら確実に次の日は学校を休むはずだ。

 そして、魔法少女として魔女退治に逃避して、魔力を使い切り、魔女化という一連の流れすら容易に想像できる。

 だけど、そうはならなかったという事は……。

 

「また、政夫君が何とかしたの?」

 

「暁美さんの中では、どれだけ凄い存在なの……。違うよ。僕はしばらく傍に付き添っていただけさ。美樹さん自身が自分で失恋を乗り越えただけだよ」

 

 彼は私が過大評価し過ぎだと言うが、決してそうではない。私は現に『そうなった場面』を何度も見てきた。

 ただ傍に居るだけでは親友であるまどかだって、彼女の心を癒す事はできなかった。

 当たり前のように、政夫君は付き添ったと言うけれど、自暴自棄になった美樹さんがどれだけ人を拒絶するかは私の方が知っている。

 やっぱり彼の存在は魔法少女なんかよりよっぽど魔法めいていた。

 美樹さんの事だけではない。私と巴さんの関係も取り持ち、お菓子の魔女に殺されてしまう運命だった彼女も救ってくれた。

 キュゥべえの企みを暴き、いつものように私が孤立するのも防いでくれた。

 何より、まどかに信用されず、拒絶されてしまう私にもう一度彼女との友情を作り直してくれた

 失敗続きだった私に彼はどれだけのものを与えてくれたのか、分からない。

 目の前で優しく微笑む少年は私にとって救世主そのものだった。

 

「本当に、政夫君にはなんてお礼を言ったらいいのか分からないよ」

 

 無償で危険を冒してまで私を助けてくれる彼に、私は何一つ返せていない。それどころか、迷惑を次から次へと押し付けているだけだ。

 自分で自分が恥ずかしくなる。

 だけど、政夫君は申し訳なく思う私の手を優しく取って、言ってくれる。

 

「いいんだよ、お礼なんて。僕は暁美さんの役に立てるならそれだけで満足だから。これからも僕を頼ってよ」

 

「でも、迷惑ばかり……」

 

 自己嫌悪で落ち込んでいると、駄目押しのように彼が畳みかけた。

 

「僕は暁美さんに迷惑かけてもらえるの嬉しいよ? だって、それだけ、僕のことを信頼してくれているってことだろう。君の中で僕がそういう存在になれていることを誇らしく思うよ」

 

「政夫君……」

 

 彼はどこまで私の心を救ってくれる気なのだろう。

 触れた手からまるで政夫君の優しさが伝わって来るように、熱が灯る。

 油断していると泣いてしまいそうだ。こんなにも幸せな気持ちで涙が流れそうになるなんて、知らなかった。

 もう、抑えていた感情を留めていられない。胸の奥に隠していた気持ちが顔を出してくる。

 

「政夫君。あのね、私、貴方の事が……」

 

 想いを伝えようとしたその時、彼の部屋の扉を叩く音が聞こえた。同時に政夫君を呼ぶ声が部屋に入って来る。

 

「まー君、ただいま。今夜の夕食は何が……あら?」 

 

 喉元まで出て行きかけた言葉が、そのせいで詰まり、彼に届ける事ができずに萎んだ。

 私は少しだけ恨みがましい目をそちらに向けると、白い髪をポニーテールに束ねた綺麗な女の子が僅かに驚いた風に見つめている。

 

「暁美さん、遊びに来ていたのね。ごめんなさい、気が付かなかったわ」

 

 ……絶対に嘘だ。玄関に私の靴があるのに、後から帰って来たこの人が気付かない訳がない。

 露骨に疑いの眼差しを飛ばすが、彼女は悪びれる様子もなく、余裕を感じる笑みで受け流す。

 

「……お邪魔しています。美国織莉子さん」

 

 彼女の名前は美国織莉子さん。見滝原中学校の三年生で、私たちより一つ年上の先輩……そして――。

 

「お帰りなさい、織莉子姉さん」

 

 政夫君にとって、お姉さんのような存在だ。

 苗字が違う通り、二人は姉弟という訳ではないが、彼女のお父さんと政夫君のお父さんが親しい友人らしく、詳しい事は知らないが今は一緒に暮らしている。

 政夫君に近付く、私を快く思っていないようで、表面上は好意的に接してくれるが、明らかに私を彼から遠ざけようとしてくる。……正直、苦手な人だ。

 

「そうそう、まー君。夕飯のリクエストは何かあるかしら? 何でも構わないわ、お姉ちゃんにどんと言ってみて」

 

「織莉子姉さんの作る料理なら何でもいいですけど、うーん……強いて挙げるなら、カレーが食べたいです」

 

「カレーね。任せて。美味しいのを作るわ」

 

 美国さんは完全に私の事を眼中に入れておらず、政夫君と話を始める。

 完全にのけ者扱いされている。政夫君の方はそういう意図はないのだろうけれど、美国さんの方は私を居ない人間として故意に無視している。

 でも、嫌われている理由は分かっているので何も言えない。

 美国さんがここまで私を嫌うのは、彼が私と関わるようになってから生傷を作って帰って来るようになったからだ。

 非戦闘員だとはいえ、政夫君も魔女の使い魔や、魔女の口付けで操られた人に攻撃を受ける事もあり、何度か怪我をする事があった。

 幸い、軽症で済む程度には留まっていたが、その傷を見た時の彼女は尋常ではないほどに政夫君を心配していた。

 魔女や魔法少女についての話を説明できないため、美国さんにとって私は『政夫君を危険な事に巻き込む人間』と認識されている。

 それでも、直接近付くなとは言われないのは、彼の意志を尊重しているからだろう。

 政夫君に言いそびれた事は少し心残りだけれど、これ以上美国さんの目の敵にされるのは嫌なので、帰宅しようとする。

 

「えっと、私はそろそろ帰るね」

 

「あら、せっかくお客様にも手料理を振る舞いたいと思っていたのに残念ね」

 

 少しも残念そうに見えない美国さんに、ちょっとだけ文句を言いたくなったが、何も話さず政夫君を危険な事に合わせている負い目もあり、ぐっと堪えた。

 

「それはいい考えですね、織莉子姉さん。暁美さん、良かったら家で一緒に夕飯食べていかない?」

 

 帰ろうと立ち上がった私に政夫君はそう提案した。

 優雅な微笑みを浮かべていた美国さんの顔にぴしりと一筋の(ひび)が入る。

 

「政夫君の家でお夕飯……」

 

 それはとても魅力的な提案に聞こえた。

 両親はまだ東京の仕事に区切りが付いていないので、現在は一人暮らしを余儀なくされている。

 家に帰っても自分で簡単なものを作るか、コンビニで菓子パンを一人で齧る事の方が多い私にとって、夕食のお誘いは非常にありがたかった。

 何より、彼とまだ一緒に時間を過ごせるのが魅力的に感じられ、胸が高鳴る。

 

「私が一緒でも……いいのかな?」

 

 ちらりと美国さんの方を一瞥すると、僅かに口の端が引きつっていたのだが、笑顔を留めて答えた。

 

「そうね、ええ。大歓迎よ……ただ、満さんもいらっしゃるから」

 

 さり気なく、政夫君のお父さんを口実に却下しようとする彼女だったが、それは政夫君の一言で一瞬にして崩れ去る。

 

「あれ? 今日、父さんって遅くなるから夕食は要らないって朝に言ってなかったっけ?」

 

「そう、だったわね。忘れていたわ。それなら、今日は三人で食卓を囲みましょうか」

 

 辛うじて、嘘が暴かれた美国さんだったが、態度を即座に取り繕った。決して、致命的なボロを出さないのは流石だと思う。

 ただ、少し肩が落ちていたので、内心ではそれなりにダメージを負ったのかもしれない。

 

 

 *****

 

 

「今日はごちそうさまでした。カレーライス、とても美味しかったです」

 

 夕食後、政夫君の家から帰る私を二人揃って見送りに来てくれる。

 

「喜んでもらって何よりだわ。またいらっしゃい!」

 

「うん。また来てね、暁美さん。それよりも本当に送っていかなくて平気?」

 

 夜道を帰る私を心配して私に確認するように政夫君が尋ねてくる。彼は私が魔法少女であり、戦う術がある事を知っているにも関わらず、普通の女の子に接するように心配してくれる。

 それはとても嬉しい気遣いだったが、帰り道に彼に何かあれば、それこそ美国さんは私を許さないだろう。

 

「大丈夫だよ、政夫君。それじゃあ、美国さんもどうもありがとうございました」

 

 何より、これ以上政夫君を独占するのも悪い気がした。見送る美国さんを見て、ぺこりとお辞儀をする。

 彼女もまた、私と同じように政夫君を必要とする女の子なのだろう。どんなに美国さんに嫌われても、彼女を嫌えないのはきっと私に似ている想いを持っているからだ。

 

「さようなら。また明日」

 

 ライバルが多くて困るけど……それでも私は譲りたくないと思う。

 手を振る彼に微笑み返して、別れを告げた。

 

 

~美国織莉子視点~

 

 

「うぅー、今日も本当に可愛かったなー。暁美さん!」

 

 暁美さんが居なくなった後、まー君は弾けるようにそう述べた。

 赤らめた頬を両手で隠して、興奮を抑えられないように身体を動かす。

 彼女はまだ気が付いていないだろう。まー君が自分に恋慕している事に。

 

「そんなに好きなら想いを伝えたら?」

 

「そうしたいのはやまやまなんですけど、暁美さんから相談事を受けている状況なので」

 

 まー君の言わんとしている事は分かる。自分を頼ってくれている相手に好意をひけらかすのは、頼み聞いている関係上相手にとって脅しのようなものだと言いたいのだろう。

 何の相談なのかは知らないけれど、まー君が一方的に手を貸している事は傍から見ても理解できる。

 そんな相手に好意を伝えれば、向こうは立場上断り辛くなる。結果として、相手を追い詰めてしまうかもしれない。

 それがまー君には嫌なのだ。

 律儀というか、誠実過ぎるというか……呆れるくらいに優しい。

 そんな彼だから、私も救われたのだろうけれど。

 

「まー君、今日暁美さんを呼んだのは、私との関係を良好にしようという意味合いもあったのでしょう?」

 

「……ばれてましたか。まあ、流石に露骨過ぎましたね」

 

 少し罰が悪そうに笑う彼を見て、やはりどこまでも彼らしいと思った。

 まー君が怪我をするようになってから、私が暁美さんを快く思っていないのを気にしての事だろう。

 何やら、まー君が彼女と一緒に行っている事は私に話せない理由あるらしかった。だから、彼女を夕食に招き、どういった人間か、私に教えようとしたのだ。

 

「どうでしたか、暁美さんは? 僕に危険なことを無理やりやらせるような子に感じました?」

 

「いいえ。そういう子には見えなかったわ」

 

 ただ、話してみて分かった。暁美さんは私に似ている。

 彼女がどんな境遇にあったかまでは知らないけれど、酷く鬱屈とした辛い過去を背負っていた事だけは何となく感じ取れた。

 そして、その濁ったような辛い過去をまー君によって洗い流されている事も。

 私もまたそうだったからこそ、彼女の話し方や周りの見方でよく分かる。

 暁美さんは――誰も信用できない状況で過ごしてきたのだ。

 ……私と同じように孤独で絶望に満ちた夜を知っている。

 

 少し前、政治家をしていた私の父・美国久臣は汚職の発覚が原因で自殺した。

 そこからの私の人生は流れるような転落の一途を辿った。

 学校を追われ、家を追われ、唯一の肉親だった衆院議員の叔父からも拒絶された。

 見た事のない人たちからの罵倒、中傷の言葉を雨のように浴びせられ、悪意の籠った嫌がらせの中、一人毛布を被って眠れぬ夜を過ごしていた。

 何より、辛かったのが私を慕ってくれた人たちが、手のひらを返したように冷たくなった事だった。

 自分という存在の価値が父の七光りによるものだと気付いた時、心が壊れそうになるほど深く絶望した。

 そんな絶望の中から私を救い出してくれたのが、まー君だった。

 見滝原市に越して来た彼は私の事を知ると、すぐに私を訪ねて、抱きしめてくれた。

 六年も前に数回あったのだけの私の価値を認めてくれた。

 『美国』としか呼ばれなかった私を名前で呼んでくれた。

 間違いなく、あの時私は救われた。生きる事に希望を見出した。

 

「……まー君。覚えている? 六年ぶりに再会した時に私にくれた言葉を」

 

 過去に想いを馳せていた私は、現実に戻ると隣に居る彼に聞いた。

 唐突な質問にも関わらず、困った様子も見せないまー君は当たり前のように答えてくれる。

 

「『あなたの価値なら僕が誰よりも知っています。あなたの言葉があったから今、僕は胸を張って生きているんです』……忘れるほど軽い気持ちで言った言葉じゃないですから」

 

 私を見つめるまー君の眼差しはびっくりするくらいに真っ直ぐで、あの時の出会いを彷彿とさせた。

 温かさと優しさと強さを兼ね備えた黒の瞳は、玄関の電灯の光を反射し、黒の宝石のように私の目には映る。

 この目が私に向けられるたびに、否定されていた自分の存在が許されたような気がして、言葉にならない安堵感が胸に広がっていく。

 

「暁美さんにも、そういう『本当に求めている言葉』を与えてあげたのでしょう?」

 

「織莉子姉さんまで、そういうことを……。僕はただの何の変哲もない中学二年生ですって」

 

 呆れるような彼を見て、私は思う。仮に摩訶不思議な力が私にあったとしても、そんなものより、まー君の言葉の方がずっとずっと価値あるものだと。

 まー君は自分の存在がどれだけ他人に大きな影響を及ぼすのか分かっていない。

 だから、気付かないのだ。――自分に向けられている好意を。

 暁美さんもとっくにまー君に恋している。配慮や危惧なんてする必要などどこにもない。

 けれど、私の口からその事を教えてあげるつもりはなかった。

 何故ならば。

 

「まー君」

 

「何ですか?」

 

 私もまた彼に恋しているのだから。

 

「何でもないわ。さ、食器洗うの手伝ってくれる?」

 




メガほむ視点だと、政夫のデレがまったく見えませんね。
内心デレまくりなのですが、メガほむが政夫にとって『困っている女の子』なので、自分の恋愛感情を優先する事はまずありません。本当に損な性分ですね。


>「僕は暁美さんに迷惑かけてもらえるの嬉しいよ? だって、それだけ、僕のことを信頼してくれているってことだろう。君の中で僕がそういう存在になれていることを誇らしく思うよ」

まどか√ほむら「……言質取ったわ。やはり、政夫は私に迷惑を掛けられて喜んでいたのよ!」

まどか√政夫「言っておくけど、言ったのは『僕』じゃないし、言われたのも『君』じゃないからね……」

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