戦姫絶唱シンフォギアF to G 終わりのあと、始まりのまえ 作:きさらぎむつみ
人の身に過ぎた智慧は世界を蝕み、やがて人自身を窮地へと導く。
しかし、これはまだ、そのような時からわずかばかり前となる話。
少女たちが舞台に立ち、歌い舞い踊り、幕間に降りるまでの物語。
* * *
暗がりの街の中、私の目の前に“敵”がいる。
その“敵”の名は『ノイズ』、古来より人類を脅かしてきた魔物であり、今や全世界的にその存在を認知された特異災害の元凶。
人を襲い、人と共に炭素へと換わる魔物に、人類は為す術がない。
でも、私は違う。
私たちは、違う。
「行こう、
すぐそばに並び立つ彼女からの、私に呼びかける声。
「うん、フォルテ。いつも通りに……」
その彼女、パートナーであるフォルテに私は声を返す。
「私が、あなたを守るからね」
FG式回天特機装束『シンフォギア』をその身に纏う私とフォルテは、目の前に出現しているノイズの集団を見据え、応戦の構えをとる。
♪「どうしてだろう この右手に刃を掴んだのは」
フォルテの歌唱が耳に届く。薄縹色を基調色としたフォルテのシンフォギア『アシュカロン』、その両刃剣を右下段で構えたまま、私が動くのを待つ。
私は黄褐色を基調色としたシンフォギア『アイギス』の盾を、両腕の外側から拳までが隠れるほどに展開して正面防御の姿勢を取り、ノイズの群れへと駆け出した。
♪「いつからだろう その白刃で暗闇を薙ぎ斬ったのは」
フォルテも駆け出す。彼女は私の背中を斬りつけることの出来るくらいすぐ後ろで私を追走し始める。
こうしてペアを組んだ今となっては、この距離感が心地好い。彼女の歌を独り占めできる、この場所が。
♪「私の手には煌めく刃 それを振りかざして」
数体のノイズがその身を捩じらせ、投擲された槍のように私へ向かってきた。私は駆ける足を緩めることなく、両腕の盾で防御する。
盾に防がれたノイズは、その勢いが自らへの衝撃となり炭素の粒へと霧散して消えた。
♪「この両手は血塗られてゆく それでも構わない」
ノイズの一体がその触腕の先端を、こちらに向けて伸ばしてきた。
私は左腕の盾を正面へ向ける体勢をとり、空いた右腕でその触腕を盾越しに殴りつける。
その衝撃にたじろいだノイズが伸ばした触腕を引き戻そうとするが、戻りきらないうちにその触腕は根元まで炭素の粉へと崩れ落ちた。
♪「闇を払い 光求め どこまでも 突き進む」
「フォルテッ!」
ノイズの群れの正面で私はフォルテの名を叫ぶ。彼女の気配は背後から頭上へと移り、そのままノイズの集団を見下ろす高さでその身が翻った。
上空で、フォルテはその右手の剣を左へと薙ぎ払う!
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GRAVITY◆SLASH
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その一薙ぎから発せられたのは、調律された加重振動波。
剣の軌跡の先にいたノイズたちは、超重圧力を浴びせられ一気に圧し潰された。そして炭素分解が始まる。
♪「何者が立ちはだかろうと 決して止まらない」
空中から私の目の前に軽やかに着地したフォルテが、次の獲物と定めたノイズに向けて剣を構えなおす。
私はいつものように彼女に背を向けると、彼女の背中を守るために身構える。
♪「全てを斬り払い貫いて その先へと進む」
私がフォルテをノイズから守り、フォルテはノイズを討つ。
♪「いつか着く 光あふれる場所へ」
フォルテの歌声を聴きながら、それがけして途切れることのないように。
♪「駆け続け 至るその時までは」
私は、彼女の、鉄壁の盾となる。
* * *
『Succeed』
『Mission Complete』
空中に赤い文字が躍りしばらくしてそれが消えると、周囲が明るくなると共に風景が変容する。
そこは白い壁に囲われた広い空間、シミュレータールームだ。
「和音、フォルテ、シミュレーション終了です。お疲れ様でした」
スピーカーからの声が響く。その声は私たちの担当管理官、スチュアート氏のものだった。
「両名、共にギアの解除、システムスキャンの終了後に私のところに来てください」
要するに、着替えて検査して身支度整えたら報告に来い、ということだ。いつも通りだ。
「はい」
「分かりました」
「では、待っています。……ああ、二人とも。いつも通りの見事なコンビネーションでしたよ」
私とフォルテの返答の了承に、スチュアート氏は労いの言葉を添えてくれた。
この人は、このF.I.S.にいる研究者の中では、多分、優しい方の人物だろう。
別にこれといった確信はないのだけれども。
* * *
私、
米国連邦聖遺物研究機関(Federal Institutes of Sacrist)、その中の一部署である特殊戦術班(Special Tactics)。
主な役割は、シンフォギアの対ノイズ戦略的運用研究。加えて、F.I.S.の防衛任務という実地運用。
適合係数が低いLiNKKER頼りの後天的適合者ではあるが、それでも私とフォルテは大勢のレセプターチルドレンの中から聖遺物『アイギス』『アシュカロン』を起動させる資質を見いだされて、その装者となった。
米国の対ノイズ研究の唯一にして最高の砦、F.I.S.。
その一員としての現在の居場所は、昔の私のそれに比べたら勿体無いほどに十分なものだ。
なにしろ、昔の私には、まともな居場所など無かったのだから。
私のパートナー、フォルテはなかなか自分のことを語ってはくれない。
もっとも、そもそもの語る話が思い出せないのだから仕方ない。
彼女はレセプターチルドレンとしてF.I.S.に連れられてくる直前までの記憶を失っている。
名前も“フォルテ”としか覚えていなかったらしい。それすらも本名かどうか疑わしいということだ。
外傷的要因ではないそうなので、心因性のものなのだろう。詳しいことは私には分からないし知らない。
でもだからといって、彼女が塞ぎ込むような人物かというとそうではない。
ただ、物静かではある。そこはよく勘違いされているかもしれない。多分、“人見知り”という表現が彼女には相応しいのだろう。
何しろ、今の私にとっては寝食を共にしている仲とはいえ、一番の会話相手なのは事実であり、そして時には私以上におしゃべりだ。
そして、一番重要な私とフォルテの共通点。
私たちは二人とも、歌うことが大好きだ。
* * *
「ねえ、かずねちゃん。マリアさんの話、聞いた?」
「ん、全米チャート連続一位の方? 国内ツアーの方?」
「両方……かな? すっごいよね、マリアさん。憧れちゃう」
就寝前の割と自由が許されている時間、二人共有の自室で私とフォルテはおしゃべりとお茶に興じていた。
身体管理の様々な制約のため間食は量が限られているので、昔読んだことのある少女向け小説に出てきたお茶会のような雰囲気はさすがにない。
でも、施設内で入手可能な嗜好品はそこそこある。研究者を除けばそのほとんどが女性であるので、それは仕方ない対応なのだろう。
女王様でもパンがなければお菓子を欲する。むしろ現代女子は、パンが無くてもスイーツがあれば 生きてゆける。さすがにそれは言い過ぎか。
とりあえず、今夜用意できたものは担当の女性研究員の一人から頂いた葉っぱで入れた紅茶と、施設内で購入できるバウムクーヘンをそれなりな分量。
もっとも、購入するのは研究員に限られていて、私たちのような“研究素材”に金銭は持たされていない。一定期間毎に特定の物品との交換が可能なチケットを配られるのでそれを使うのだ。
ともあれ、お茶会っぽいといえば言えなくもないか。すでに就寝用の部屋着に着替えているので、パジャマパーティとも言えなくもない。
室内の壁際に作りつけられたテーブルで向かい合い、私とフォルテはお茶を頂いている。そんな“今”の日常となった、ごくありふれたワンシーンだ。
会話の内容は同じレセプターチルドレンであり、今や全米どころか世界的な
「私ね、何度かシステムスキャンやギア起動の時に顔を合わせた程度だけど……まさか、普通にデビューするなんて想像してなかったから」
「まあ、普通に考えればそうだよねぇ」
もしかしたら、あの“ルナ・アタック”を阻止した装者もどこかで歌ってたりするのだろうか。
「全国ツアーの映像を見せてもらったんだけれど、何だかすごいなぁって……あんな大勢の前で歌えるって、私じゃとても出来そうにないもん」
「あー、それは同意するわ。もし私がいきなりコンサート会場で歌え、とか言われたら……逃げ出す自信しかないわね」
「でも、一度くらいは歌ってみたい、かな? いっぱいの人の前で、思いっきり歌ってみたら、どんな気持ちになれるんだろうって、考えちゃうから」
「どうなんだろうねぇ……やっぱり、戦ってる最中に歌うのとは、きっと違うんだろうねぇ」
「そう、だよね……」
私たちの歌は誰に聴かせるわけでもない、己を鼓舞し奮い立たせるための“
別に私は、自分の歌声を誰かに聴いてほしいとは思っていない。
誰かに聴かせるために歌っているつもりもない。
ただ、もし聴いてもらえているのなら、私はフォルテのためだけに歌っている。いや、歌っていたい。
だって、フォルテの歌声を私は、私だけは聴いているのだから。
あの
#1 fin.
次回予告
少女は歌を求め、求められて歌を返す。 信じるものは己の思いか、思われた望みか。
託されたのは、そのどちらもか。
EPISODE 2
想いをのせた唱よ、舞え
突き進む先に立ちはだかるのは、未だ深き闇の声音。
其れは誰の思いが奏でたものか、誰の心に響くのか。
オリジナル設定解説
『アシュカロン』
フォルテが身に纏う、薄縹色のシンフォギア。
ギリシャ神話においてサイクロプスにより鍛えられたとされ、後にドラゴンを討ち取る伝承を持つ剣の欠片から造られた。
加重振動波を発生させる片手持ち両刃剣をアームドギアと用いる。
『アイギス』
相楽 和音が身に纏う、黄褐色のシンフォギア。
ギリシャ神話の戦女神アテーナーが持つとされる盾の欠片から造られた。
肩当て、胸当て等状況に応じて変形展開をして自身と周囲を防御し、表面にスパイクを発生させた殴打武器としても機能する盾をアームドギアと用いる。