戦姫絶唱シンフォギアF to G 終わりのあと、始まりのまえ 作:きさらぎむつみ
「……相楽和音……フォルテ……」
私とフォルテの目の前にいるのは、暁切歌と月読調。
互いにギアを纏い、月明かりの下で対峙する。
(……この二人が、マリア誘拐計画の実働部隊……それはもう、間違いない)
装者がシンフォギアを励起させているのだ。これが、ノイズと戦うため以外の目的があるのだとしたら、それはやはりそういうことなのだろう。
でも、例えそうだとしても。
(何でそれが、この二人なの?)
多くのレセプターチルドレンの中であっても、聖遺物を起動させることの出来る適合者はわずかな一握り。
その内で、私の知る限りもっともマリアを慕って、慕われていた彼女たちが。
(何でッ! マリアを裏切るような計画に加担するのッ?)
* * *
「切歌さん、調さん、お久しぶりですね」
フォルテが口元だけで微笑みながら、言葉を発した。もちろん、目の前の二人にむけて、だ。
「まさか、こんなところでお会いするなんて……びっくりしました」
彼女の口調は丁寧で落ち着き払っている。自身で言うほどの驚きは、今の声音からは察せられない。
そして、こうした雰囲気を彼女は普段、決して醸し出すことはない。
「……それで、一つだけお尋ねしてもいいですか? ……どうしてお二人は、こんなところに居るんですか?」
フォルテの鋭利な声が、宵闇のしじまを斬り裂いて飛んだ。
「その言葉……そっくりそのままあんたらに返すデス!」
「……こちらもびっくり」
切歌と調がフォルテの言葉に反応する。若干、二人の返事はフォルテの言葉の違う箇所に応じているようだけれど。
「まさかあなたたちが、こんなことのために動いているなんてね。思いもしなかったわ」
「……こんなこと? 何のことデスか?」
「マリアを誘拐しようなんてふざけた企みのことよ!」
「はぁ?」
私の言葉にすっとぼけた切歌へ向け、思わず声を荒げてしまった。
けれど返されたのは、戸惑いの色が浮かぶ切歌の表情。少なくとも、私にはそのように見える。
調の方は相変わらずの変化に乏しい表情で、別段親しいわけでもない私にはそこからは何も読み取れない。
「あ、ああ……なるほど」
ふと、何事か得心いったような言葉を発したのは切歌だ。
「あれはつまり、こういうことになってるって話だったわけ、デスか」
言い切った切歌がにやりと、いやらしげな笑みを投げてよこす。
「切ちゃん……?」
切歌の様子に、その隣の調が小首を傾げる。
「調、これから相手をする連中ってのは、どうやらこいつらのようデスよ」
「……分かった」
会話から察するに、二人の邪魔をする相手が私とフォルテだということが想定外だった、ということなのだろう。
だが、それはこちらも同じことだ。装者を相手に戦うなんて思ってもいなかった。
そもそも装者同士での戦闘訓練なんて、全く経験がない。当たり前だ。
そして、これは訓練ではなく、実戦だ、
「話し合いで解決、ってわけにはいかないのかしら?」
気安そうな感じをありったけ込めて、二人に言葉をかける。
「いかないですね。こちらにも、予定ってもんがあるんデスよ」
「そう、なら仕方ないわよねえ……」
思った通りの返事だった。予定、か。それじゃあ、うん、仕方ないね。
「その予定とやら、私たちがキャンセルかけてあげるわ」
「それは……お断りデスッ!」
切歌は言葉を放つと共に、『イガリマ』のアームドギアである翠色の大鎌をこちらへ突き出すように構えた。
その隣に並ぶ調は『シュルシャガナ』の一部、頭部左右で対の紅いアームをやはりこちらへ展開する。
「いくデス」
切歌がまっすぐに私の方へ向かって駆け出す。一気にトップスピードだ。
「フォルテは調を!」
「うん、和音ちゃん」
イベントホールの平坦な屋根を、まるでスケートリンクのように滑ってこちらに向かってきた調に、フォルテが相対する。
私は瞬時に『アイギス』を構える。左手は前腕部を中心に広げた大型の盾に展開に。右手は手持ちの小型の盾、その表面にはいくつかのスパイクを発生させる。
私に……いや、私とフォルテにとって初となる、装者相手の戦闘が始まった。
* * *
♪「守りたい その命 護りたい その願い」
♪「警告フレーズ 死神呼んで 絶望の数は DEATH NUMBER」
私と切歌、二人の唱が絡み合う。交わらないそれぞれの唱は互いの旋律を邪魔しあう。
大鎌の初撃を左腕の盾で受けると、私は右手の盾で切歌に殴り掛かる。一歩踏み出し、腰を捻ったフック。
打ち付ける一瞬前に後ろへ飛び退いた切歌。更に距離を取り、大鎌を上段に構えてから一気に振り下ろす。
〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆
切・呪リeッTぉ
〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆
大鎌のアームドギアが発した三つの光刃が、それぞれに変則的な軌道で私を左右から攻める。左からの一枚は腕を振って弾き飛ばし、右からの二枚はリズミカルに突き出した盾で跳ね返した。
♪「死の詩より 鋭利に煌めく」
一瞬防御が薄くなった左側に向かって、袈裟斬りに大鎌を振り下ろしてくる切歌。左腕での防御が間に合わない。
けれど。
♪「救われずに 零れ落ちてゆく」
ガギンッ、と硬質な金属の衝撃音が響く。
左胸を覆っていた胸当てがスライドして肩当てとなり、斬撃を受け止めた音だ。
間に合わないなら、間に合う防御を展開させればいい。といっても打撃自体はズシリと響いた。
♪「地獄へいらっしゃい」
切歌は鎌が弾かれた勢いをそのままに、振り回した柄の方で右から襲ってくる。でもこの攻めは、簡単に右の盾の縁で弾き返す。
さて、今度はこちらの番だ。
♪「全ての想いと共に」
切歌に向けて右腕でストレートを放つ。だが当然、届く距離に切歌の身体はない。
しかし。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
Stab [Ⅰst.] Sthenno
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
突き出した盾の中央から、さながら馬上槍の形状に束ねられたケーブルが、一直線に切歌へと伸びる。
突然の中距離攻撃に、それでも切歌はとっさにサイドステップで躱し、ついでにケーブルの先端を鎌の一振りで弾き飛ばしまでする。
「なかなかやるデスね」
「そっちこそ」
軽く言葉を交わす。互いに力量を見定めている、今はそうした段階だ。
第一楽章はまだ、始まったばかりなのだから。
「一体何が目的なの? とか、ありふれたことは訊かないわ。どうせ答えちゃくれないでしょ?」
「分かってるじゃないデスか」
「私が受けた命令は“襲撃者をブッ飛ばして、捻じ伏せて、首根っこ引っ張って連れ帰る”。ただそれだけだから」
「ずいぶんとまあ、気軽に物騒なこと言ってくれちゃいますね」
あんたには言われたくない、というお決まりのツッコみは胸の内に秘めておく。
「そういうことだからさ、まずは派手にブッ飛ばされてくれないかな?」
「んなこと、超却下デスよ! ベー!」
わざわざ律儀にあかんべーしてくれる。ご丁寧に舌まで出してくれた。戦闘中に大したものだ。
意外にノリのいい彼女のことを、そういうのが好きな私は嫌いになれない。
でもそれは、こんな状況下でなければのお話。
「へえ、残念。じゃあ、すっごく地味なんだけど……一方的にボコらせてもらうわ」
「やれるものなら……やってみやがれデスッ!」
切歌が大鎌を構え、振り下ろす。三枚の光刃ともに、彼女自身も飛び込んでくる。
斬り下ろした直後なのだから、次は逆袈裟切り?
この攻撃を迎え撃とうと身構えたその時、視界の端に何か紅い閃きが飛び込んだ。
一瞬の逡巡、しかし身体は自然に対応する。
「はっ」
大きく跳躍し、飛来する光刃に自ら飛び込む。そして弾く、弾く、叩き落とす。
切歌を飛び越える動きをしたことで彼女の攻撃は回避した。
身をひねり振り向くと、こちらを見上げる切歌と目が合う。
そして、私がさきほどまでいた場所を伐り裂いて飛ぶ、紅い円盤。
♪「それではあなたの世界ごと」
聴こえてきたのは凛と響く涼やかな唱。
♪「伐り裂いてあげますよ」
調の『シュルシャガナ』の攻撃だった。
「ごめん、和音」
「いいって、避けたから」
インカム越しのすまなそうな言葉に、軽く声を返す。
おそらく、フォルテに向けていた攻撃をほんの一瞬、こちらへ向けたのだろう。
いきなりではあったが、想定内でもあった。
今、私とフォルテの二人は、切歌と調の二人と戦っているのだから。
「フォローお願い」
「了解」
着地の隙を狙われないようにお願いすると、フォルテが調と切歌に向けて右手の両刃剣を振るった。加重振動波が、その剣先から二人へと向かう。
最初は滑走移動する調の進行方向へ、次は切歌を後退させるために直接。
おかげで調の移動は急速回避に変わり、私を狙おうと駆け出した切歌の足を止めて後方に跳ばせていた。
そして私が着地を果たした時にはすでに、フォルテは調と切歌の私への攻撃を阻止する位置に着いていた。
「強いね、二人とも」
「だよねえ、まったく」
フォルテの感想に、へいきへっちゃら気分を織り込んで返す。
しかし、自分で言うほどの余裕を感じてはいない。
そもそもが、対ノイズ集団戦の訓練しかしていない私たち。一対一や二体二の、そのうえ対装者戦なんてのは未知の領域だ。
向こうの二人にはすでにその経験があるのだろうか?
少なくても、以心伝心なコンビネーションがあるのは確認できた。
しかしただ単純に“コンビネーション”というのなら、こちらも負けてはいられない。
「相手をスイッチしよう。切歌の方をお願い」
「分かった」
私たちの対ノイズ戦術は基本“一心同体”そして“攻防分業”だ。フォルテが斬って払って圧し潰し、私が止めて受けて護りぬく。
でも、装者二人を相手にその戦い方は無理がすぎるし、意味もない。
相手を決めてそれぞれに戦い、コンビネーションにはコンビネーションで対応する。
そう割り切ったら、少しでも相性のいいマッチングにした方がいい。
調にアウトレンジで攻め続けられたら、フォルテでは応戦しきれない。
切歌が相手なら対応しやすいはずだ。むしろ、アームドギアの取り回しのしやすさならフォルテに分がありそうに感じる。
私の防御力なら調の遠距離攻撃は防ぎきれそうだ。
あのスピードは厄介だけど……うん、どうにか対処しよう。動き回るといっても、この場所では限界があるはず。
中距離からインファイトに持ち込めればこっちのもんだ。
「和音ちゃん。“アレ”でいこう」
「そうね、それでいこう」
フォルテの提案に即答する。この際、出し惜しみ無しだ。
「それじゃ!」
「うん!」
呼吸を合わせて一気に駆け出す。フォルテの、すうっと浅く息を吸う音が私のそれと重なって聴こえた。
♪「斬り払い 突き進め 」
♪「 受け止めて 駆け抜けよう」
私たちの声が重なり合い、一つの唱となる。
フォルテの唱を追いかけて、私の唱に連なって。
それぞれに定めた相手へと向かって疾走する。
| | | |
|α| |百|
| | |輪|
|式| |廻|
| | | |
調のクレーンアームが展開し開き、中から夥しい数の丸鋸が放たれた。
<<<<<<<<<<<<<<<<<<<
GRAVITY◆SLASH
>>>>>>>>>>>>>>>>>>>
左へ、右へと『アシュカロン』を横薙ぎに振って放った加重振動波で向かってくる紅い凶器を払い散らすフォルテ。
調の攻撃は、駆ける私たち二人の足を止めるには至らない。
♪「剣と変わり 光差す 進み行こう」
♪「 盾と成りて 先へ進み行こう」
「面白いじゃないデスか……」
「……切ちゃん」
「迎え撃って、切り刻んでやるデスよッ!」
切歌と調のそんなやり取りが聞こえた、ような気がした。きっと、気のせいだ。
私とフォルテは向かう。私は調に、フォルテは切歌に。調と切歌が立ちはだかる。私の前に、フォルテの前に。
さあ、調、切歌。私たちと一緒に、第二楽章を踊りましょう。
#3 fin.
次回予告
二人と二人の唱は絡まず、不協和音を響かせる。
相反しあう想いが弾け合い、片や散りて、片や抱きて。
生まれた迷いは膨れて、膿んだ惑いが黒ずみ始める。
EPISODE 4
貫き止める、唱は散りける
舞台に現れた新たな繰り人が、二人にもたらすものは何か。
戦場で血に塗れるのは、誰の想いが奏でる唱か。
オリジナル設定解説
米国の聖遺物入手経緯
完全聖遺物『デュランダル』はかつてEU連合の経済破綻に伴い、不良債権の一部肩代わりを条件に日本政府にもたらされた経緯がある。
米国政府は同時期、独自にEU連合と秘密裏に、主に経済破綻の大元となった地中海沿岸諸国に接触、交渉を試みた。
この試みは成功し、不良債権の一部負担と引き換えに各国から聖遺物を譲渡された。
聖遺物『アシュカロン』『アイギス』はその内の一部と目される。