戦姫絶唱シンフォギアF to G 終わりのあと、始まりのまえ 作:きさらぎむつみ
♪「 受け止めて 駆け抜けよう」
互いのパートを唄いながら、私たちは疾駆する。
調の攻撃はフォルテが薙ぎ払う。
その程度では、私たちの進撃は止まらない。
♪「剣と変わり 光差す 進み行こう」
♪「 盾と成りて 先へ進み行こう」
「迎え撃って、切り刻んでやるデスよッ!」
「……なますに伐り刻む」
切歌が大鎌を、調がアームの先に大きな丸鋸を広げ、それぞれ構える。
私たちと彼女たちの第二楽章がこれから始まる。
振るわれるタクトはアームドギア。
まずは切歌の大鎌とフォルテの両刃剣が、演奏を開始した。
* * *
キンッ!と甲高い金属音が夜の闇に響く。
『イガリマ』と『アシュカロン』のアームドギアが衝突する撃音。
ガリガリガリンッ!と耳障りな雑音が続く。
『シュルシャガナ』を『アイギス』で受け止めた擦過音。
♪「すくいあげても 指のすきまを 零れてく 夢のカケラ」
唄いながら調が放つ、右から迫った丸鋸を右手持ち円形盾で受け、弾き返す。
♪「重ね合わせて 広げて見たら そこに何か映るの?」
続く左からの、足元を攫うような軌道で迫る丸鋸は左腕固定の方形盾で、殴り付けるように叩き落とす。
その勢いで跳びあがり、調の背よりも体半分ほど上方から後ろに引いた右拳を振り下ろす。
その拳の先に調はいない。彼女は全く姿勢を変えずに、滑るように立ち位置をずらす。
♪「私の背は 貴女に預け この腕は 剣を振る」
♪「私の背は 貴女に預け この腕は 盾を持つ」
離れていても並び揃う、フォルテと私の二重奏。
すかさず次打。勢いのままに身体を捻り、左腕を水平に振り抜く。バックハンドブロー。
調の移動方向が急変更、そのまま加速して間合いを離す。
まだだ、三連打。突き出したのは右拳、握る盾に力を籠める。
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Stab [Ⅰst.] Sthenno
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槍と化したケーブルの束が、調の胸を貫く勢いで一気に伸びる。
♪「螺せ!……モリー ほどいてみたら ジャンクだらけの役立たず」
調の双眸が見開かれ、一瞬唱が途切れる。彼女は二つのアームを引き戻し、その両方の丸鋸を重ね回転する円盤の壁とした。
なんと。そういう使い方もアリなのか。
ケーブルの穂先は防がれ、回転の勢いに束ねた先端が解かれる。
突き出した右腕と共にケーブルを戻し、左半身を前にして構えなおす。
♪「私には 闇を斬り この道を 意志がある」
♪「 貴女には 払い 歩む意志がある」
♪「人真似をしたドールを囲う シンメトリーな監獄」
フォルテと私のデュエット、調のソロがぶつかりあう。切歌の唱は聞こえてこない。
♪「それではあなたの世界ごと 伐り裂いてあげますよ」
足元から火花が散るほどの急加速で調は後方へ。間合いを離しながら、両のアームが大きな丸鋸をこちらへ向け放つ。
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|γ| |卍|
| | |火|
|式| |車|
| | | |
見る限り重そうな攻撃。ケーブルでは捌けない。ここは防御に徹するべき。
両腕に大型の盾を展開、片方でも半身を隠せる盾を並べて二枚の丸鋸を受け止める。
♪「貴女には 闇を抜け 未知の世を 覇気がある」
♪「 私には 走り 駆ける覇気がある」
フォルテの声から近付いてきたのが分かる。よし、いいタイミングだ。
タンッ!
私の肩を蹴って跳ねるフォルテ。私は右の腕に力を籠めて盾を抉り続ける丸鋸の勢いを逸らし弾く。
空いた右腕はそのまま後方へ向ける。フォルテが向かってきた方向。そちらには当然、
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Rage [Ⅲrd.] Medousa
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切歌がいる。
そちらに向けた盾の前面から六本のケーブルが勢いよく、荒れ狂うようにのた打ち回りながら切歌へと向かっていく。
そして跳躍したフォルテは空中からの刺突、右片手一本突き。
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STRAIGHT◆PRESSURE
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突き出された両刃剣から放たれた集束加重振動波が、上空から調を襲う。
瞬間的な対戦相手の切り替え。さっき頂いた不意打ちの意趣返しというわけだ。
「く……ッ!」
私のケーブル乱打を大鎌を振り回し、仕舞いには完全に柄を回転させて防御する。
先ほどの調の防御と似通った印象だ。
ギュリギュリギュリッ!
噛み合わない歯車の高速回転のような騒音を立てて、調はフィギュアスケートの選手よろしくリンク上を舞い踊るように動いてフォルテの長射程刺突、その連続を回避し続ける。
もっとも、その動きは時には鋭角的、更には緩急自在の速度なのでもうスケートとは形容しがたいけれど。
♪「迷わない はだかりし 」
♪「 惑わない すべてを」
私は勢いの衰えた左側の丸鋸を撥ね飛ばし、自由になったそちらの腕も切歌へと突き出す。
もちろん、足の止まった切歌を狙い撃つ!
暴れまわるケーブルの嵐を一直線に突き進む一槍。
「……ん、なっ!」
反応はできても間に合わない。切歌のバックステップよりも疾く、槍は切歌の身体に達する!
キンッ!
しかし、その槍は切歌が大鎌の柄をぶつけて迎え討たれる。驚くべきは、この一瞬での緻密な捌き。
♪「断ち切って 一歩 進む」
♪「 撥ねかえし 一歩進む」
調が滑走移動の末に切歌の近くで停まる。
私の傍らにも、すでにフォルテがいた。
「大丈夫、切ちゃん?」
「心配無用デスよ……とはいえ、あいつら、なかなかにやりやがるデスね」
切歌はこちらにも分かるくらいに不満そうな様子だ。舌打ちが聞こえてきそうなほどに。
「二人の唱を重ね合わせてギアの出力アップ、てところデスか。面白いことするじゃないデスか」
私たちのちょっとしたとっておき。これは訓練中に試してみて、意外にうまくはまったコンビネーションだった。
「……『アシュカロン』と『アイギス』……」
「――あーっ、つまりはギアの相性ってわけデスか……ん? ってことは――」
思案顔だった切歌が調の言葉に何事か思いつき、こちらに向いて歪んだ笑みを寄こす。
「それ、ウチらがやったらどうなるんデスかねえ?」
…………。
「え?」
意図せず、私の口から声がこぼれ落ちる。
「調、合わせるデスよ!」
「大丈夫」
切歌が鎌を、調が丸鋸を、それぞれに構えながら向かってくる。
♪「警告フレーズ 死神呼んで 絶望の数は DEATH NUMBER」
♪「すくいあげても 指のすきまを 零れてく 夢 の カケラ」
切歌と調がそれぞれに唄う。タイミングが驚くほど合っている。
とても初めてとは思えない。
♪「死の詩より 鋭利に煌めく 地獄へいらっしゃい」
♪「重ね合わせて 広げて見たら そこに何か映るの?」
一気に距離を詰められる。けれど、まとめてかかってくるならいつものフォーメーションで対応できるはず……。
……はず?
「フォルテ、パターンAで!」
「うん!」
フォルテは全力攻撃、私は全力防御。これで対応する。
♪「不都合だらけ 嘆いてみても 誰も 彼も が 虚しいの」
♪「螺旋メモリー ほどいてみたら ジャンクだらけの役立たず」
切歌の鎌が横薙ぎに駆る。疾い! 咄嗟に屈んで回避、頭上を風切り音が過ぎる。その体勢から私は右手を突き上げる。スパイクを適度に伸ばす。けれど余裕で躱される。
♪「全ての罪を 刈り終えたなら 何かをそう変えられる?」
♪「人真似をする ドールを囲う シンメトリーな 監獄」
ギンッ! ギンッ!
フォルテの両刃剣が二枚の丸鋸を払う、払う。
気のせい? 押されてる?
間違いない! フォルテも守勢にまわっている!
「チェンジ!」
フォルテからの返事はない。でもいつものタイミングで私たちは立ち位置を入れ替える。
私もフォルテもまだ動けている。普段よりもいいくらいだ。
でも、何か、感覚が違う。
♪「これからは Cut all round 悼む時まで」
♪「それ では あな たの 世 界 ごと」
今度は私が丸鋸を防御、防御。やはりそうだ。押し込んでくる圧力が、さっきとまるで違う!
鋸の回転速度も、アームの稼働速度も。
駄目だ。私の方に、疾さが、足りないッ!
♪「切り裂いてあげますよ」
♪「伐り裂いてあげますよ」
鋸の回転に向かってくる速さが加わり、足の踏ん張りが効かなくなった。勢いに押された私の身体は、丸鋸の薙ぎ払いに弾き飛ばされる。
立った姿勢のまま横滑りする。右腕を防御に残し、左腕を後ろに突き出す。アンカー代わりにスパイクを突き伸ばして勢いを殺す。
フォルテは?
彼女は切歌と斬り結んでいた。普段はしない、両刃剣の両手持ち。取り回しの素早さを捨ててまでの対応だとしたら、力負けしているってこと?
切歌のスピードを乗せた一振りにフォルテは加重振動波を放つ。反動を利用して鎌の間合いから大きく引き退く。
その方向はちゃんと私の正面だ。ホント、頼りになる。
「和音ちゃん!」
「大丈夫。私たちもいくよ!」
正眼に構え切歌と調と注意を向けながらの声に、頼もしさを感じつつ力強く返す。
♪「どんな闇にも挫けない ホントの想いを」
♪「光を 求める ための ホントの想いを」
切歌と調の唱が綺麗に重なり合う。見事なまでのハーモニー。
♪「斬り払い 突き進め 」
♪「 受け止めて 駆け抜けよう」
私たちも唱を重ね合う。
私は両手を切歌へ、調へ、それぞれに突き出した。束ねたケーブルの槍を勢いよく放つ。
その二本の槍の間をフォルテは駆ける。小さく跳躍、槍の上を駆け出す。
フォルテの足元を切歌の放った光刃が襲う。躱すために再び跳躍、もう一方の槍を足場に替えて今度は大きく跳躍。
私は足場の役を終えた槍を解き、全てのケーブルをバラバラに暴れのたくり跳ねらせる。
♪「『正義』と信じてる さあ 手を繋いで 」
♪「『正義』と信じてる ええ 手を繋ぎましょう」
♪「剣と変わり 光差す 進み行こう」
♪「 盾と成りて 先へ進み行こう」
フォルテが跳躍の頂点で両刃剣を振り翳す。
両手持ち。なら次の一手は決まっている。
私はのた打ち回るケーブルを鞭の様に操り、切歌と調の行く手を遮る。
今だ。フォルテが大きく剣を振り下ろす。
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∨ FALL◆BLADE◆FORCE ∨
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♪「もっともっと今は これからもまだ羽ばたく 」
♪「昔のように微笑んで これからもまた羽ばたける」
♪「私の背は 貴女に預け この腕は 剣を振る」
♪「私の背は 貴女に預け この腕は 盾を持つ」
巨大な剣型の圧縮加重振動波が、切歌と調の頭上へ振り下ろされる。
ノイズの大軍を一瞬で圧し潰す、無常にして非情なる剣撃。
それを調が、二枚の大鋸をまるで傘の様に大きく広げて自分と切歌を護る。
いや、あの程度では防げない。あの一撃は苛烈にして激烈。竜殺しの剣は全てを叩き伏せる。
そう思った。
キィュゥイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!
二枚の巨大丸鋸が悲鳴のような音で叫ぶ。
耐えている。フォルテの放った超重圧を受けて尚、それを散らし撥ね退けている。
あの超高速回転が振動波を散らしている? あの高音で撥ねかえしている?
とにかく、防がれた。一瞬戸惑い、判断が遅れてしまう。
目前に切歌が居た。振り下ろされる大鎌。両腕の盾を翳す。打ち付けられる痛烈な斬撃。だが受け止めた。
♪「きらめいた希望を手に さあ空で 調べ結ぼう」
♪「きらめく 希望 引 き 寄 せ 調べ結ぼう」
「ッ!?」
強烈な痛みを脇腹に感じた。それを知覚した時にはすでに私の身体は真横に跳ね飛ばされた。
大鎌の柄の一撃を喰らったのだ。吹き飛んだ私、でもあまりの痛みの強さに気を失わずにいられた。
不様に転げまわりながらも、どうにか起きあがれる体勢をとる。
グアァンッ!
鈍い衝撃音が私の耳をつんざき、その音のした方へと気を向けさせた。
「フォルテッ!」
彼女の身体が空中で錐揉みに舞っていた。
調の丸鋸のアームが夜空を伐り裂かんとばかりに広がっている。あれに弾き飛ばされたのか。
私は激痛に悲鳴を上げる身体を無理やりに起こし、弾かれたように駆け出す。
(間に合え……いや、間に合わせる!)
スライディングの体勢で滑り込む。身体の下には盾を展開、“そり”の要領でその勢いを上げる。
フォルテが墜落する直前、両手を広げた私の身体が彼女を抱きしめた。
「フォルテ! 大丈夫?」
「……ごめん、ありがとう」
「立てそう?」
「うん……そっちは?」
「何とか、ね」
二人して、痛む体に鞭打って立ち上がる。
視線は切歌と調に向けて、決して逸らさない。
スーッと滑らかに動いた調が、切歌の隣に並ぶ。
「そっちはわざわざ別の唱まで用意してるってのに……残念さんデスねぇ」
切歌が軽い口調で嘲笑する。
「私の『イガリマ』と調の『シュルシャガナ』は女神ザババの両手の刃。相性っていうことなら、あんたら以上にピッタリなんデスよ」
そういうことか。
なるほど、こちら以上のコンビネーションは元から、というわけだ。
「さぁて、このあとはまた、何かしてくれるってんデスかね?」
「さてね、どうしたもんだかね」
とりあえず、何も思いつかない。
そもそもがイレギュラーな戦闘なのだ。何かを用意しているわけじゃない。
……いや、一つあるか。
「和音さん、フォルテさん、大丈夫ですか?」
インカムからのジョン氏の声。こちらをモニタリングしているはずだ。
「いやあ、参った。どうしてこうなるんだか」
「……悪い知らせです。マリアさんの護衛に向かったメンバーからの連絡が途絶えました」
「え?」
まさか、装者二人を用意しておいて囮に使ったのだろうか。
状況は悪くなる一方だ。
「しかも、その直前に新たなアウフヴァッヘン波形の発生を確認しました」
いや、それはもう、あれだ。悪い予感しかしない。
うん。もう、間違いないと確信さえできる。
「その装者は、どこへ?」
「そちらに向かっています」
そういうことなら、その心当たりは一つしかない。
「……和音ちゃん」
隣からフォルテの探るような問いかけがあった。
「うん、覚悟しておこう。多分、フォルテの思ってる通り」
切歌と調を見据えたままで、少し微笑んでみせた。やせ我慢満載なのだけど、どうせフォルテには見抜かれている。
「切ちゃん、来たよ」
「ん? そのようデスね」
彼女たちの会話が、傷だらけになったイベントホールの屋根の上を流れてくる。
二呼吸ほどしたところで、その人物が姿を見せた。
その“装者”は軽いステップで、わずかの間にみすぼらしくなったこの舞台に舞い降りた。
月明かりに照らされる夜闇の中で、それでもその姿は影となる部分が多い。いや、黒い。
「そのアウフヴァッヘン波形パターンは『ガングニール』、なんでしょ?」
「……おそらく、そうです」
照合終了よりも先に答えが目の前に現れている。
マントを大きく夜風になびかせ、その右手には大きな穂先の長い手持ち槍。
『ガングニール』のシンファギアを纏った装者、マリア・カデンツァヴナ・イヴの姿がそこにあった。
#4 fin.
次回予告
新たに舞台に上がりしは、話の繰り手か、踊り子か。
傷付き戸惑い、崩れるは悲壮なる道化。
護ると誓い、奮い立つは悲愴なる歌女。
EPISODE 5
想いに傾ぐ天秤
向けられた覚悟の無双に、対するは故無き理想。
交錯するのは、決して相容れぬ独奏の二曲。
オリジナル設定解説
(追記)
『アシュカロン』
フォルテが身に纏うシンフォギア。
GRAVITY◆SLASH
アームドギアより加重振動波を発生させ、広範囲に圧力を放出する。
STRAIGHT◆PRESSURE
アームドギアの先端に集束させた加重振動波を、刺突の攻撃と共に射出する。
連射可能だが、一撃の貫通力は低下する。
FALL◆BLADE◆FORCE
両手で掲げたアームドギアの周囲に加重振動波を圧縮し、巨大な剣として振り下ろす。
『アイギス』
相楽和音が身に纏うシンフォギア。
Stab [Ⅰst.] Sthenno
アームドギアから、数本のケーブルを束ねて構成するスパイクを発生させて突き伸ばす。
この状態から[Ⅱnd.]、[Ⅲrd.]の状態に移行することも可能。
Elastic [Ⅱnd.] Euryale
アームドギアからケーブルを発生させて、装者の意志通りの軌道で伸ばす。
先端部の形状を変化させることで突き刺す、吸着、絡みつく等が可能。
Rage [Ⅲrd.] Medousa
複数同時に延伸展開させたケーブルを、装者の設定した範囲内で暴れ打たせる。
装者の意志で自由に可動させられるが、装者の状態によっては動きがランダム軌道になる。