ようこそマイナス気質な転生者がいるAクラスへ   作:死埜

22 / 39
20話目 特別試験 それから

「今日の早朝、小坂零の死亡が報告された」

 

 朝の点呼が終わった後で真嶋先生が発した第一声はそれだった。()を含めたAクラスの生徒は真嶋先生が何を言っているのかわからず、ただただ茫然としていた。

 流石と言うべきか、真っ先に正気に戻ったのは葛城君だった。

 

「…真嶋先生、詳細な説明を希望します。突然そんなことを言われても、俺を含めたみんな理解できていません」

 

「昨日の午後8時36分をもって小坂の腕時計が破損、GPSが機能しなくなった。最後にGPSが示していた場所は海岸沿いの崖に面した海になっていたため、昨日の夜に手の空いている教員全員で捜索を行った。見たところ崖が崩れて海に投げ出された模様で、さらに海の中では上から落ちた土砂が積み重なっており探索は難航。小坂のものと思われる()()()()()()()、小坂の生存は絶望的であるものと判断された」

 

「………」

 

 言っていることは理解できる。恐らく全員そうだろう。()()()()()()()()()()()()()()()()()。そんな感じだった。

 

「え? え? どういうこと????」

 

 状況を飲み込めていない女子の一人が周りに説明を求めるように顔を向ける。だが、それと顔を合わせることができる人はこの場にはいなかった。

 そんな彼女の要求に応えるかのように、真嶋先生が補足の説明を加えた。

 

「小坂が昨日の説明の時に言っていた、海岸から落ちて死んだ場合というケースが実際に起きたということだ。これに関しては学校側のミスだ。指摘された以上、何らかの対策を取っておくべきだった」

 

 他人事のように話しているが、俺を含めた全員が真嶋先生に問い詰めるような真似はできなかった。昨日の点呼の後にあいつ()を一人にさせてしまったのは結局のところ俺たちだ。

 

 それに真嶋先生の目の下に見たこともない隈ができている上に、服も着替えていなかったのか昨日のままで所々汚れが目立っている。

 恐らく昨日あいつが行方不明になってからずっと捜索していたのだろう。よく考えると昨日の夜に点呼をして暫くしてから真嶋先生を見ていなかった。

 潔く俺も正気に戻り、いくつかの質問を真嶋先生に投げることにした。

 

「遺体はどうなんですか?」

 

「見つかっていない。土砂を除ける重機がない中で、人力で掘り返すのは不可能だった。鞄には簡易トイレが入っていたため、簡易トイレの段ボールが近くに浮上していたのでアタリをつけて回収できたが小坂を発見することはかなわなかった」

 

「それなら確実に死んだわけじゃあないんですね?」

 

「そう言う捉え方もできるが、確率は相当低いだろう。服を着たまま海に投げ出され、その上に土砂が乗っていれば圧死する可能性もある上に、窒息死することがほとんど確定的だ。太平洋に流されていったのならば、海流によってどこかに流れ着いている可能性も考えられるが現実的なものではない」

 

「そうだとしても、あいつの死体を見ていない以上俺は信じません」

 

 俺がそう言ったことが意外だったのか真嶋先生が少し目を見開いたような気もするが、すぐに普段の表情に戻った。周りのクラスメイト達は俺が積極的に発言していることに驚いているみたいだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 あいつはそう簡単に死ぬような奴じゃない。それにあいつがいない今、Aクラスが分裂しかねない状況を何とかしてあいつが戻ってこれるようにしておくのが友達としてしてやれることだと思った。

 

 本心を言うならば、先生に交じってあいつの捜索をしたい。

 

 あいつの死体が本当にあるのならきちんと埋葬してやりたい。

 

 だが俺が一人でやったところで大きい意味はないだろうし、()()()()()()()()()()()()()()()教師に交じって捜索することの許可は下りないだろう。

 だからあいつが帰ってきても問題ないようにしておかなくてはいけない。それがあいつに返してやれる数少ないことだと思うから。

 

「そう思うなら好きにするといい。だが、学校側では死亡したものと判断したということだ」

 

「こうやって点呼を取っているということは、試験の中止はないんですよね?」

 

「中止にすべきだという意見も上がったが、学校側は強行することに決めた。手の空いている教員で捜索を続けながら、試験を続行する方針だ」

 

「あいつの分の点呼はどうするんですか? それとリタイアにしないってことで点数の減少はないんですよね?」

 

「リタイアもそうだが、点呼も同じく小坂の分はしないことになる。学校側で死亡したと判断した以上、それで減点することはない」

 

「わかりました」

 

 そう言うと真嶋先生は去っていった。これからまた捜索の方に戻るか、捜索状況の確認でもするのだろう。周りを見るとクラスメイト達は皆落ち込んでしまっている。

 無理もないだろう。クラスメイト…それも、ある意味クラスの中心にいたといっても過言ではない人物が事故で急死したなんて信じたくない。

 

 だが、こんな状態ではこの特別試験を乗り越えるのは不可能だ。

 

 

「死んだ…なんて嘘だよね…?」

 

 昨日あいつを引き留めようとした矢野さんがそう言った。恐らく彼女も今の俺と同じように頭の中でいろいろなことが渦巻いているのだと思う。

 

 あの時、もっと止めていれば。

 

 あの時、体を張ってでも止めておけばよかった。

 

 あの時、きちんと零の苦しみをわかっていればこんなことにはならなかったんじゃないか?

 

 

 …()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そんな思いが頭に残っている。あいつの様子がおかしいのはわかりきっていた。それを放置するような結果にしてしまったのは俺たちだ。

 

 でも、それでAクラスが崩壊したら誰があいつの居場所を守るんだ?

 

 あいつが帰ってきた時に試験の結果が悪くてBクラス以下のクラスにするわけにはいかない。他でもないダチのためだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「真嶋先生が言った通りなら生きている可能性は低いと思う」

 

「そんな…」

 

「だからこそ今ここで俺たちがすることは何だ? 教師に隠れてあいつを探すことか? 教師と一緒にあいつを探すことか? 遺体のない葬式をすることか? 別れの言葉を済ませておけばよかったと嘆くことか?」

 

「竹本君! そんな言い方「俺はそうは思わない」…」

 

「…それなら俺たちがするべきことを聞かせてくれないか?」

 

 割り込んできたのは葛城君だった。普段の彼とは違い、その顔に頼もしさを感じるようなものはない。だが、今すべきことを必死に探しているようにも見えた。

 

「この試験を中止にしない以上、俺たちが教師に交じって捜索することは不可能だ。学校側が許容しないだろう。教師に隠れて捜索するのも非効率的だ。勝手にやる分には問題ないだろうが、素潜りで土砂を取り除けるとは思えない。葬式なんて論外だ。俺自身あいつが死んだなんて認めてないしな」

 

「……」

 

「馬鹿だと笑ってもいいぜ。でも俺にはあいつがそう簡単に死ぬような奴とは思えねえんだよ」

 

 力強くそう言うと周りのクラスメイトも同じように思ったのか、さっきまでのパニックに陥る一歩手前の状態から瞳に理性の光が見え始める。

 

「だから俺たちにするべきことは、あいつが帰ってくることを信じてこの特別試験でトップをとることだろ? Aクラスの居場所をあいつに残しておくことじゃないのか? あいつが帰ってきた時にAクラスのままじゃなかったらあいつに笑われちまうぜ?」

 

 そう言って、あいつ()の笑い顔を想像しながら笑いかける。あいつが坂柳さんと葛城君の二人を馬鹿にした時のように笑ってくることを考えたら少しムカついてきた。

 

「幸いなことに、既に葛城君がCクラスとの協定を結んでいる。このままいけば順当に勝ち残るはずだ。だから俺たちは、()調()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。Cクラスをあてにしすぎるのも問題だが、今の俺たちが無理に動いたところでいい結果にはならないと思う」

 

「…そうだな、試験の方は俺に任せてほしい。できる限りの最善を尽くすことを約束しよう」

 

「最初からそのつもりだ。事実上この試験中のトップは葛城君なんだ。俺ができるのはこれぐらいで限界だから後は任せるよ」

 

「茂、感謝する。突然の事態で混乱していてみっともないところを見せた」

 

「そんなの誰でもそうだろ、あんなこといきなり言われて動揺しないやつはいない」

 

 俺自身も今は取り繕っているが、聞いた当初は叫びたくなるような感情が迸っていた。少しでも考え方が違っていたら、他のクラスメイト同様に黙り込んでしまっていた側だった。

 

「竹本君、ちょっと聞いていい?」

 

 葛城君に進行を譲って他のクラスメイトたちの輪に戻ろうとしたら、比較的一緒にいることの多い沢田さんに声をかけられた。

 

「どうかしたか?」

 

「…なんで竹本君はそんなに落ち着いていられるの? 小坂君とは仲良くしてたよね? ショックじゃなかったの?」

 

 自分では内心いろいろな感情が渦巻いているが、他の人から見たら落ち着いているように見えたみたいだ。気が付くと他のクラスメイトも同じようにこちらを見ていた。

 

「…俺はあいつのダチで坂柳さんとか葛城君を除いたら、確かに一番付き合いが多いと思う」

 

「じゃあなんでそんなに落ち着いていられるの?」

 

「だからこそだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「!!」

 

「みんな参ってる今だからこそ友達の俺が頑張らないといけねえんだよ。こんな時ぐらいじゃないとあいつに何もしてやれないんだ。普段借りてる借りを返すにはこんな時ぐらいじゃねえとねえんだよ」

 

 自分自身に言い聞かせるようにそう言い切った。そして、俺の気持ちが伝わったのか彼女も納得した様に頷く。

 

「…そうだね。小坂君のおかげで今のAクラスがあるんだから、帰る場所ぐらい残して恩返ししないとね」

 

 彼女がそう言うとクラスメイト達も次々とそれに同調していった。

 

 …お前の居場所は俺たちが守るから、きちんと帰って来いよ零。

 

 

 

 

________________________________

 

 

 

 

 最初に違和感を感じたのは、昨日Aクラスの拠点に入った時だった。堀北と一緒に他のクラスの偵察をしていた時だが、初日に食い掛かってきた弥彦と呼ばれていた取り巻きがおとなしく拠点内部にオレたちを案内した。

 初日の対応を見たら間違いなく追い返されると思っていたのだが、そんなことはなくリーダー格である葛城のいる洞窟の内部に案内された。その後、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったことに違和感を感じた。

 Aクラスの人間はDクラスを軽視していると思っていたし、初日に会った弥彦はその傾向が顕著に出ていた。それが、一日も経たないうちに対応を180°変えていたのだから違和感を覚えるのも当然だろう。

 

 だが、一番感じた違和感は()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 初日にAクラスを去って一人で何処かに行くのを見て以来、小坂を見ていない。単独行動をしているからだとも思ったが、島の中で生活できそうな拠点を探してみても何処にもいなかった。

 葛城達に聞いてみたが、少し顔を顰めて言うことはないと言われ追い返されてしまった。何処かで生存しているのであれば飲み水の確保や食料の確保をしていると思うし、何より初日に()()()()()を言っておいて何も仕掛けていないと思う方がおかしい。

 

 そう言えば、Aクラスの近くにある海岸沿いの崖が崩れて立ち入り禁止になっていると聞いた。

 

 もしかしたら小坂が関係しているんじゃないか?

 確か、近くに行ってみたら教員が()()()()()()()()()()()()()()()。もしかして小坂は本当に事故に見せかけて邪魔なやつを始末したのではないか?

 

 だが、それだと誰を始末したのかが疑問だ。事故があったのは茶柱先生が言うには初日の夜中だと言っていた。

 その後に他のクラスの拠点に足を運んだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 クラスメイトが事故に遭ったのなら、それをクラス全員が隠しきるのは不可能に近い。一番可能性があるのはAクラスだが、小坂が自分のクラスメイトを手にかけても大きなメリットはない。

 

 …まてよ、もしかして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 自分であんなことを言っていたからてっきり他のやつを嵌めて始末したものだと思っていたが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そうだとしたら葛城達が顔を顰めていたのも納得できるし、あいつに会っていないのも当然だ。そうだとしたらこれまでの違和感の全てに説明が付く。

 弥彦が急に態度を変えたのも、級友が死んだとなれば納得できる。クラスメイトの死によって落ち込んだ後に立ち直った結果、冷静に自分を見つめ直した結果冷静に行動するようになったのかもしれない。

 

 そう考えると、もしかして事故に遭ったのも計算なのではないか?

 

 Aクラスの慢心を剥がすために自分の死を偽装した可能性がある。学校側が死んだと判断すれば、得点の減少を受けることもない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 やっぱり事故にしては出来過ぎている。そうなるとどうやって事故に偽装したかが問題だ。それと、どうやって今生存しているかも問題だな。GPSがあることと海岸沿いを捜索していたことを加味すると、GPSが最後に示した反応は恐らく海岸沿いの海。

 島にはいないが、海の中で生活できるような人外というわけではないだろう。

 

 そうなると島ではない何処かに生存している可能性があるのか?

 

 だがこの辺りに島があることなんて知らないし、あいつも知っているはずがない。仮に知っていたとしても、水平線が広がるこの島から他の島まで泳いでいくのは現実的じゃない。

 

 …いや、調べていない場所がもしかしたらあるのかもしれない。生活の痕跡を消して移動し続けている可能性もあるが、水と食料を確保しない以上はそう多く活動できないのが人間だ。

 そして、その水場も他のクラスが確保しているから残りはポイントを使うしかない。

 

 初日にあいつが出していた気配は、以前の図書館とDクラスでのそれと同じ…いや、()()()()()()()()()()()()()()だった。だから、オレは未だにあいつを警戒し続けている。

 初日にあんな質問をしたのだから何かを仕掛けてくると思うのだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 オレは大きなため息を一つ吐き出すと、生活拠点にできそうなところと水を確保できるところをもう一度探すことにした。

 




勢いで竹本茂君を出してからさらっと原作を読み返したのですが、セリフが全くなかったのでオリキャラ化してます。
もしこれから竹本君が原作で出てきて掘り下げられても、独自設定でゴリ押すつもりです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。