「あんたなんて産まなければ良かった!」
何時頃だっただろうか?
何時頃だっただろうか?
自分のことを『私』と言うようになったのは。少なくとも中学三年になってからなのは確かだ
何時頃からだっただろうか?
母と会話しなくなったのは。家にいても会話が消えたのが中学三年の終わりぐらいだったのは覚えている。
何時頃だっただろか?
母と会うことがなくなったのは。高校生の時には月一ぐらいで顔を出していた。しかし、大学生になってから実家に帰ったことは一度もなかった。
何時頃だっただろうか?
マイナスになりたいと思ったのは。
何時頃だっただろうか?
いったい何時頃からだったのだろうか…こんなに大事な記憶すら忘れてしまったのは?
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……夢を見ている。
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…この世に生まれなければ良かったと思ったことはあるか?
…自分が何者なのか知りたいと思ったことはあるか?
…死んでしまいたいと心から思ったことはあるか?
…自分の存在を不思議に思ったことはあるか?
…この世界に疑問を思ったことはあるか?
そしてそれを
まあ、
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……夢を見ている。
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人を壊したことはあるか?
人を見捨てたことはあるか?
人を憎んだことはあるか?
人との縁を切りたいと思ったことはあるか?
それを本気でしたいと思った結果が
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……夢を見ている。
……夢を見ている。
夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。
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『やあ、俺だよ』
『「私」が夢を見ている間にでも話をしておこうと思ってね。単なる独り言だから気にしないでいいことだが、「小坂零」という人物を知る上では必要なことを話しておこう』
『いや、その前に答え合わせからだね。確か、「なぜ彼がプラスの連中、ましてや
『まあ、答えと言っても前に「私」に言ったことがそのまま答えだよ。彼自身が
『彼の人格形成には3つの柱がある。「自己嫌悪」、「自己改造」、「マイナスへの憧れ」の3柱が彼の人格を作っている元だ。「自己嫌悪」は単純に「自分がいなかったら母親は離婚した後に苦しまなくて済んだ」という考えのもとから来ている。その「自己嫌悪」がそのまま自身に対する過小評価にも繋がっているんだ』
『あ、それと今の彼の場合はマイナスになったから自分は誰よりも下にいるって思っているせいもある。それに間違いはないけど、彼の場合卑下しすぎてマイナスらしい振る舞いとは言えなくなっている場面もいくつかあるね』
『2つ目の「自己改造」は文字通り、
『だけど、彼の場合
『その結果起こったことは、彼は「私」という仮面をかぶることじゃなくて「俺」を「私」に改造した。15にもなってない年齢でそんなことをしたんだから自分の口調がころころ変わるのも当り前さ。なにせ彼の周りで自分のことを私って言うのは女性しかいなかったんだから』
『彼自身は当然「男」だからそれを意識して「私」になるように調整したはずなんだろうけど、15にもなってない彼がそんなことできるはずもなく時々周りに引っ張られて女の子と間違われるような口調の会話が混ざることになったんだ。幸い彼は学校でそれなりに友達もいて嫌われものじゃなかったから、当時いじめにあうことはなかったけど普通に気持ち悪かったと思うぜ?』
『だって昨日まで普通に話していた友達が、時々オネェみたいな口調を入れてきたら気持ち悪く感じても仕方ないと思うよ。俺は』
『まあそんな訳で不安定な「自己改造」をした結果、もっと不安定な人格を自分で形成しちまったっていう話だ』
『そして最後の「マイナスへの憧れ」だが、これはそもそも彼自身に「
『前に「彼が球磨川先輩に匹敵しかねない過負荷」って言ってたって? それに嘘はないさ。けど、彼には素質はない。今のが持っているのはあくまで
『わかりやすく言うと、生まれつきの過負荷としての素質はなかったけど後天的に過負荷に目覚めたということだ。そして、生まれ持って過負荷を持っていなかったから彼は過負荷としての振る舞い方を理解していない。気質としてはマイナス的に優れたものを持っているから、
『彼が自分自身の意思に反して
『だけど、結局「私」の自由意志の下でとった行動ではない。彼自身の根っこは
『ま、あくまで「俺」の推論でしかないけどな。これが本当に真実かどうかを判断するのは何時だって見た人それぞれってことだ。世の中なんてそんなものだろ?』
『強い人には強い人の、弱い人には弱い人の、孤児には孤児の、貴族には貴族の、平民には平民の、正直者には正直者の、嘘つきには嘘つきの、いじめっ子にはいじめっ子の、いじめられっ子にはいじめられっ子の、勝者には勝者の、敗者には敗者の、神童には神童の、落ちこぼれには落ちこぼれの、主人公には主人公の、モブキャラにはモブキャラの、
『物の見方とか受け取り方ってもんがあるだろ?』
『何時だって決めるのは自分自身だ。それが正しかろうが正しくなかろうが、自分が納得できれば人間ってのは概ね満足するものさ』
『こんなことを話しているうちにそろそろ時間のようだ。泡沫の夢ももう終わる。現実の時間では特別試験最終日で、もう少しで夜が明ける時間といったところか?』
『それじゃあ「私」を迎えに行こうか。いい感じに
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夢から覚めた。どれぐらいの時間がたったのかはわからないが、多くの
例えば「5歳で施設の職員の人たちを
自分でもあまり覚えていない自分を見せられるという何とも不思議なものだった。恐らく、
縁を切ったはずなのに、それでも自分の持つ
強制的に精神を壊さないようにしていたのだから当たり前と言えば当たり前だろうが、『俺』に会うのがもっと遅かったら私は『私』を殺して完全に過負荷になっていたのかもしれない。
それと私が精神的に壊れていったのとは別の記憶も見た。それは「私が最初に死んだときに『俺』に会った」記憶と、「5歳で自殺した後に『俺』に会った」だった。
最初に会った時には、突然の過負荷化によって錯乱していたところで『俺』と会っていた。その時には『俺』も発現したばかりで要領がよくわかっていなかったみたいで、お互いにあたふたしていて見てて面白かった。
二人で話し合った結果、なぜかは知らないが転生することだけはお互いに理解していたみたいだった。そのため、転生した時にすぐに過負荷が目覚めないという取り決めだけ決めていた。転生していきなり
まあ意味はなかったことだが。生まれがまず捨て子だった上に、元の
問題は転生した時にすぐに過負荷が目覚めないという取り決めのせいで、私が『俺』のことをすっかり忘れていたということだ。それのせいで今の今まで私は『俺』の存在をすっかり忘れてしまっていた。
次に会った5歳で自殺した後は、そもそも私の精神状態を考えたのか『俺』が事件直後の記憶という『縁』を切って元の状態に無理やり戻すという力技をしていた。『俺』が5歳の私に
『俺』はとても苦悩しながら私に
それらを思い出して、漸く私は『
そう、言うなれば『
球磨川先輩の『負完全』とは違う、もう一つの過負荷としての在り方。『完全な負』に対して、『完成した負』というアプローチ。
…なんて御大層に行ってみたが、なんてことはない。私が完全に過負荷になっただけだ。それも、普通の視点も併せ持っているだけの過負荷へと。
あくまで記憶を思い出したのであって、記憶を忘れたのではない。
故に、何もなしに学校崩壊させるほど
故に、理由なしにエリートを皆殺しにするような気もない。
ではなぜ『負完成』を名乗るのか。
それは、
さらに、
球磨川先輩たち生まれついての
これこそが、『
それと『鉈』を出せるようになった。精神世界だからかもしれないが、今の段階で出せて当たり前という感覚がある。この感覚を忘れなければあっちに戻っても問題なく使えるだろう。形状は今の『私』の頭に突き刺さっているであろうものとまるっきり同じだ。
尤も、人目にあまり見せられるようなものではない。あまりやりすぎると入学初日に想定していた研究所送りも考えられる。
『
私がそういう風にすればという一文が付くが。『負完成』を名乗っている以上、過負荷を練り込んだ鉈を突き刺すことで身体的にダメージを与えることなど造作もない。肉体的にも精神的にも完全に殺すことができる。
ところで、今はどれぐらい時間がたったのだろうか?
試験に戻ったらAクラスのクラスメイトに、とりあえず謝らなくてはいけないと思った。今思えば、彼らにも酷いことをしてしまった。普段他の人の間を取り持つ私が、こんな状態だったら他の人が困っていただろう。茂の言葉も無視してしまっていた。普段そこまで話さない女子…確か矢野さんまで私に言葉を投げてきたぐらいだったから、よっぽどひどい顔をしていたのかもしれない。
それに、こういう団体で動く様な行事で単独行動するような人がいればそれだけで問題だろう。点呼までに間に合うのだろうかこれ?
そうしているうちに目が覚めた。気が付くと、頭に刺さっていた鉈も自分の心臓を穿っていた鋸も消えていた。直立したまま意識を落とされていたらしく、立ったままの状態だったが足や体が辛いという感触はなかった。
あくまで精神世界だからだろう。肉体的にはほとんどダメージはない。
『やあ、お帰り。これまた随分な
「ただいま。おかげでこれぐらいはできるようになった」
そう言って右手に鉈を握る。握りしめた感覚は手にとてもよく馴染むものだった。
それを見て、『俺』は嬉しそうな顔をしている。私も思わず笑顔になった。
『それだけ馴染んだらもう大丈夫だろう。急に
「そう言ってもらえると嬉しいよ。ところで夢を見てから聞きたいことがあったんだがいいか?」
『俺に答えられるものなら答えるよ。さしずめ、今の現実の時間とかかい?』
「それもあるんだけど、一番聞きたいのは何で私が転生したのかっていうことだ」
『…そっちか』
「答えられないなら別にいい」
『あー…まあいいか。話せる範囲だけどいいか?』
「もちろんだ」
そう言って彼は話し始めた。
曰く、
曰く、この世界に転生したのは人間としてのオーバースペックが多少許容されていたからじゃないかということ。
曰く、
曰く、『俺』が誕生したのは私が
一つ目は、私が
そんな世界で、癌細胞とも呼ぶべき異物が
恐らくはそんな存在になってしまったから、私が死んでいるうちに世界が私を切り離したのではないかという話らしい。自分の世界に許容できなくなってしまったから他の世界に押し付けたのではないかという推論だった。
二つ目の人間としてのオーバースペックが多少許容されていたからというものは、わからなくもなかった。
だが、この世界ではそれができる人間が割と頻繁にいる。恐らく、有栖でもやろうと思えばできるだろう。それに原作の水泳の授業では、確か高円寺君がオリンピックでも目指すのかと言わんばかりのスペックを発揮していた。こういうところでも人間としてのオーバースペックが多少許容されていたと言えるだろうと結論付けたらしい。
だから
三つ目の
『俺』が言うには、『「死」という極限のマイナスな状態でさらにマイナスになりたいなんていう、ありえない願望と信念がなしえた結果だろう』とのこと。
言っていることはわかるが、それくらいでなれるものなのか、と聞いたら『逆に聞くけど、死ぬときにさらに死にたいなんて誰が思うんだい?』と返された。一応納得はしたが、別に死んでなお死にたいと思ったわけではないのでいまいちよくわからなかった。
四つ目の『俺』が生まれた理由は、外付けの過負荷制御装置なのではないかというものだった。私がいなければ存在することすらなかった、というのはその予想によるものらしい。
私がむやみやたらに過負荷を出しすぎないための制御装置として発現したという予想だった。私の精神が壊れるたびに完全に壊れないように記憶を封じ込めていたことが一番わかりやすいだろう。
彼は私に対して忠誠を誓った従者のように忠実だった。私を殺さないように、私の精神を壊さないように私が知らなくても手を尽くしていてくれていた。
『
『まあこんなところだろう。あくまで予想だけどね』
「大体分かった。ありがとう」
『お礼を言われるようなことじゃない』
そう言うが少し照れくさそうにしている『俺』を見ていると少し微笑ましかった。鏡を見ながら自分で同じことをやったら確実に気持ち悪いと思うが。
「それでどうやれば現実に戻れるんだ? 『
『それでもいいけど、それをするともれなく海の底で意識を取り戻してお陀仏エンドだぜ?』
そう言えばそうだった。私の肉体って確か、崖から落ちた上に体の上に崖の土砂が積もってて『無冠刑』がなかったら即死していたんだった。
今でこそ『俺』が『肉体の死』という概念との『縁』を切っているから死んでないが、この状態で復活しても死ぬだけだろう。
「それじゃあどうすればいい?」
『俺が君を無理矢理ここから追い出す。その後に、自分で「崖から落ちたという縁」を切れば恐らく問題ないと思う』
「それだと私の肉体の損傷もなくなったりするのか?」
『微妙なところだね。死にはしないと思うけど、既にあの事故から5日は経ってるから完全に無傷にはならないかもしれない』
「5日!?」
思っていたより時間が経っていたことに驚いた。長い時間
『これでも頑張ったほうなんだぜ? 「肉体の死」の方を抑えながら作業するのは大変だったんだ。それに加えて「
「あ、なるほど。言われてみればそれもそうか」
とても納得した。ただでさえ『
いくら私の
「すまない、不用意な発言だった」
『だけど事実だ。本当はもっと早く終わらせられれば良かったんだけど…』
「いや、ここまでしてくれたんだから文句を言うのはお門違いだ」
『…そうか。今度直接会うことは当分先になるだろう』
「…よく考えたらそうか。死にかけるたびに会うとしたら次に会う時は当分後でいいしな」
私がそう言うと『俺』も苦笑いをしていた。
そしてお互いにするべきことがわかっているからか、お互いに言葉を交わさずとも次の行動に移った。
『俺』と私は同時に
「『
まったく同じ声が二重に重なり私の体を鉈が貫き、私は意識を再び深い闇の中に落とした。だが、崖から落ちたときの絶望しきっていた気持ちはもう消えていた。
主人公は過負荷になりました。
ですが作者の考えとしては普通の人生を送ってきた以上、過負荷になっても一般常識と言う鎖は彼を縛り続けていると思ったので『負として完成した元一般人』という意味でも『負完成』としています。
プラスマイナス順的には、異常>特別>普通≧負完成(過負荷OFF)>過負荷≧負完成(過負荷ON)>負完全をイメージしています。
過負荷と負完成の差は相手にもよりますが、基本的にはほとんどないです。
追記
作中の「マイナスの絶対値」とは、「マイナスの方面に伸びている値」、「マイナスの力の大きさ」という意味で用いています。
端的にいうと「マイナスの絶対値」が大きければ大きいほどマイナスだということです。
わかりづらいかもしれませんが、この作品ではそういう意味で「マイナスの絶対値」という言葉を使っています。