ようこそマイナス気質な転生者がいるAクラスへ   作:死埜

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幕間 ~泡沫の夢、夜が明ける~

「あんたなんて産まなければ良かった!」

 

 

 

 何時頃だっただろうか?

 

 

 

 ()()にそう言われるようになったのは。少なくとも中学三年生のころには言われるようになった。

 

何時頃だっただろうか?

 

 

 

 自分のことを『私』と言うようになったのは。少なくとも中学三年になってからなのは確かだ

 

 

 何時頃からだっただろうか?

 

 

 

 

 母と会話しなくなったのは。家にいても会話が消えたのが中学三年の終わりぐらいだったのは覚えている。

 

 

 

 何時頃だっただろか?

 

 

 

 

 母と会うことがなくなったのは。高校生の時には月一ぐらいで顔を出していた。しかし、大学生になってから実家に帰ったことは一度もなかった。

 

 

 

 何時頃だっただろうか?

 

 

 

 

 マイナスになりたいと思ったのは。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 何時頃だっただろうか?

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ここ最近、話しているうちに口調がどんどん変わっていくことが増えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いったい何時頃からだったのだろうか…こんなに大事な記憶すら忘れてしまったのは

 

 

 

 

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……夢を見ている。

 

 

 

 

 

 

 

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…この世に生まれなければ良かったと思ったことはあるか?

 

 

…自分が何者なのか知りたいと思ったことはあるか?

 

 

…死んでしまいたいと心から思ったことはあるか?

 

 

…自分の存在を不思議に思ったことはあるか?

 

 

…この世界に疑問を思ったことはあるか?

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそれを()()が教えてくれるなんて本当に思ってるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ、(小坂零)には何も見つけられなかったことだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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……夢を見ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 人を壊したことはあるか?

 

 

 

 

 

 人を見捨てたことはあるか?

 

 

 

 

 

 人を憎んだことはあるか?

 

 

 

 

 

 人との縁を切りたいと思ったことはあるか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを本気でしたいと思った結果がお前(小坂零)だ。

 

 

 

 

 

 

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……夢を見ている。

 

 

 

 

 

 

……夢を見ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。夢を見ている。

 

 

 

 

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『やあ、俺だよ』

 

 

『「私」が夢を見ている間にでも話をしておこうと思ってね。単なる独り言だから気にしないでいいことだが、「小坂零」という人物を知る上では必要なことを話しておこう』

 

『いや、その前に答え合わせからだね。確か、「なぜ彼がプラスの連中、ましてや天才(エリート)達なんかと仲良くしていられるのか」だったっけ?』

 

『まあ、答えと言っても前に「私」に言ったことがそのまま答えだよ。彼自身が普通(ノーマル)から過負荷(マイナス)になったということがそのまま答えだ。要するに不安定なんだよ彼は』

 

 

『彼の人格形成には3つの柱がある。「自己嫌悪」、「自己改造」、「マイナスへの憧れ」の3柱が彼の人格を作っている元だ。「自己嫌悪」は単純に「自分がいなかったら母親は離婚した後に苦しまなくて済んだ」という考えのもとから来ている。その「自己嫌悪」がそのまま自身に対する過小評価にも繋がっているんだ』

 

 

『あ、それと今の彼の場合はマイナスになったから自分は誰よりも下にいるって思っているせいもある。それに間違いはないけど、彼の場合卑下しすぎてマイナスらしい振る舞いとは言えなくなっている場面もいくつかあるね』

 

 

『2つ目の「自己改造」は文字通り、()()()()()()()()()()()()()()だ。考えてみてほしい、中学3年生ぐらいの思春期真っ盛りの子供が無理やり一人称を強制されるとどうなるのかを。社会人になって目上の人と話すときには「私」と言うのが一般的だ。だから、そこまで弊害が起こるようなものではないと思う人もいるだろう』

 

 

 

『だけど、彼の場合()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

『その結果起こったことは、彼は「私」という仮面をかぶることじゃなくて「俺」を「私」に改造した。15にもなってない年齢でそんなことをしたんだから自分の口調がころころ変わるのも当り前さ。なにせ彼の周りで自分のことを私って言うのは女性しかいなかったんだから』

 

 

『彼自身は当然「男」だからそれを意識して「私」になるように調整したはずなんだろうけど、15にもなってない彼がそんなことできるはずもなく時々周りに引っ張られて女の子と間違われるような口調の会話が混ざることになったんだ。幸い彼は学校でそれなりに友達もいて嫌われものじゃなかったから、当時いじめにあうことはなかったけど普通に気持ち悪かったと思うぜ?』

 

 

『だって昨日まで普通に話していた友達が、時々オネェみたいな口調を入れてきたら気持ち悪く感じても仕方ないと思うよ。俺は』

 

 

『まあそんな訳で不安定な「自己改造」をした結果、もっと不安定な人格を自分で形成しちまったっていう話だ』

 

 

『そして最後の「マイナスへの憧れ」だが、これはそもそも彼自身に「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ』

 

 

『前に「彼が球磨川先輩に匹敵しかねない過負荷」って言ってたって? それに嘘はないさ。けど、彼には素質はない。今のが持っているのはあくまで()()だ。今は個人的な性質として持っているけど、彼自身に生まれ持って過負荷を持つ者という素質はない。強いて言うなら、彼自身の()()が少しだけ過負荷(マイナス)寄りだったぐらいだね』

 

 

『わかりやすく言うと、生まれつきの過負荷としての素質はなかったけど後天的に過負荷に目覚めたということだ。そして、生まれ持って過負荷を持っていなかったから彼は過負荷としての振る舞い方を理解していない。気質としてはマイナス的に優れたものを持っているから、()()()()()マイナスの振る舞いをすることはあっても、彼自身が深く考えている時には元々の普通(ノーマル)の考え方が基本になっているということだ』

 

 

『彼が自分自身の意思に反して過負荷(マイナス)を垂れ流していた時なんかがいい例だろう。特別試験の説明で質問をしていた時の「私」と言っていいのか怪しい「私」は間違いなく過負荷(マイナス)だった。それも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それこそ、「無冠刑(ナッシングオール)」があればすべてを台無しにしていたであろうぐらいの』

 

 

『だけど、結局「私」の自由意志の下でとった行動ではない。彼自身の根っこは普通(ノーマル)の人間だからね。だから生まれつき素質がなかったことを本能的に知っていたからか、自分が持っていない「マイナス」というものへの「憧れ」が非常に強く定着してしまったというわけだ。それこそ、その世界にない過負荷という概念を生み出すほどに』

 

 

 

『ま、あくまで「俺」の推論でしかないけどな。これが本当に真実かどうかを判断するのは何時だって見た人それぞれってことだ。世の中なんてそんなものだろ?』

 

 

 

 

 

『強い人には強い人の、弱い人には弱い人の、孤児には孤児の、貴族には貴族の、平民には平民の、正直者には正直者の、嘘つきには嘘つきの、いじめっ子にはいじめっ子の、いじめられっ子にはいじめられっ子の、勝者には勝者の、敗者には敗者の、神童には神童の、落ちこぼれには落ちこぼれの、主人公には主人公の、モブキャラにはモブキャラの、異常(アブノーマル)には異常(アブノーマル)の、特別(スペシャル)には特別(スペシャル)の、普通(ノーマル)には普通(ノーマル)の、過負荷(マイナス)には過負荷(マイナス)の』

 

 

 

『物の見方とか受け取り方ってもんがあるだろ?』

 

 

 

 

 

『何時だって決めるのは自分自身だ。それが正しかろうが正しくなかろうが、自分が納得できれば人間ってのは概ね満足するものさ』

 

 

『こんなことを話しているうちにそろそろ時間のようだ。泡沫の夢ももう終わる。現実の時間では特別試験最終日で、もう少しで夜が明ける時間といったところか?』

 

 

 

 

『それじゃあ「私」を迎えに行こうか。いい感じに過負荷(マイナス)も馴染んだ頃だろうしね』

 

 

 

 

 

 

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 夢から覚めた。どれぐらいの時間がたったのかはわからないが、多くの()()()()()()()追体験したような感覚だった。

 

 例えば「5歳で施設の職員の人たちをろくでなし(マイナス)にしてしまった自己嫌悪によって自殺した自分」、または「前世の中学生と高校生ぐらいの記憶を思い出した自分」、あるいは「前世で死んだときに何も残せなかったことを悔やむ自分」、後は「本気で過負荷(マイナス)になることを望んだことを自虐する自分」とかだった。

 自分でもあまり覚えていない自分を見せられるという何とも不思議なものだった。恐らく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。私が壊れてしまわないように、精神が壊れるという縁を切ったのだと思われる。

 縁を切ったはずなのに、それでも自分の持つ過負荷(マイナス)によって()()()()()()()()()()。3回も精神が壊れるという縁を切ったはずなのに過負荷故の貧弱さから再び精神が衰弱する。

 強制的に精神を壊さないようにしていたのだから当たり前と言えば当たり前だろうが、『俺』に会うのがもっと遅かったら私は『私』を殺して完全に過負荷になっていたのかもしれない。

 

 それと私が精神的に壊れていったのとは別の記憶も見た。それは「私が最初に死んだときに『俺』に会った」記憶と、「5歳で自殺した後に『俺』に会った」だった。

 最初に会った時には、突然の過負荷化によって錯乱していたところで『俺』と会っていた。その時には『俺』も発現したばかりで要領がよくわかっていなかったみたいで、お互いにあたふたしていて見てて面白かった。

 二人で話し合った結果、なぜかは知らないが転生することだけはお互いに理解していたみたいだった。そのため、転生した時にすぐに過負荷が目覚めないという取り決めだけ決めていた。転生していきなり過負荷(マイナス)に目覚めたら、親から気味悪がられたりするんじゃないかという配慮のもとだった。

 まあ意味はなかったことだが。生まれがまず捨て子だった上に、元の過負荷(マイナス)量が多すぎたのか普通にしていても気味悪がられていた。

 問題は転生した時にすぐに過負荷が目覚めないという取り決めのせいで、私が『俺』のことをすっかり忘れていたということだ。それのせいで今の今まで私は『俺』の存在をすっかり忘れてしまっていた。

 

 次に会った5歳で自殺した後は、そもそも私の精神状態を考えたのか『俺』が事件直後の記憶という『縁』を切って元の状態に無理やり戻すという力技をしていた。『俺』が5歳の私に(無冠刑)を突き刺すところは見ているだけでとても心を抉られた。

 『俺』はとても苦悩しながら私に(無冠刑)を突き刺したのだろう。知らなかったとはいえ損な役回りを押し付けていたことを思い知らされた。

 

 

 

 それらを思い出して、漸く私は『()()()』になった。生前の普通(ノーマル)を味わい、過負荷(マイナス)の戸口をなぞり、そうして漸く過負荷として生きていくことを決めた。過負荷(マイナス)としての『自分』の形成。

 

 そう、言うなれば『()()()』だ。

 

 球磨川先輩の『負完全』とは違う、もう一つの過負荷としての在り方。『完全な負』に対して、『完成した負』というアプローチ。普通(ノーマル)とプラスと過負荷(マイナス)を併せ持っていた状態から、過負荷(マイナス)だけの状態へと変化した様。

 

 

 …なんて御大層に行ってみたが、なんてことはない。私が完全に過負荷になっただけだ。それも、普通の視点も併せ持っているだけの過負荷へと。

 あくまで記憶を思い出したのであって、記憶を忘れたのではない。過負荷(マイナス)として目覚めはしたが、それと同じように普通(ノーマル)だった時の記憶を見せられた。

 

 故に、何もなしに学校崩壊させるほど過負荷(マイナス)ではない。

 故に、理由なしにエリートを皆殺しにするような気もない。

 

 ではなぜ『負完成』を名乗るのか。

 それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。以前までのHIGH、LOWだけでなく、ON、OFFも自由自在。わかりやすく言うなら、江迎怒江さんが『荒廃した腐花(ラフラフレシア)』の完全制御に成功したようなものだ。彼女ほど制御の利かないじゃじゃ馬の過負荷(マイナス)ではないが、イメージでいうならこれがわかりやすいだろう。どっちの制御が簡単かといえば確実に『無冠刑(ナッシングオール)』になるが。

 さらに、普通(ノーマル)であった記憶を刻み込んでいるため()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これは過負荷(マイナス)を完全に制御できるようになったことと、普通(ノーマル)だった時の記憶があったことが大きな原因だ。

 球磨川先輩たち生まれついての過負荷(マイナス)だった人とは違って、私には普通(ノーマル)だった時の記憶がある。私が既にプラスを体験していることでこれからどれだけプラスになろうが、既にプラスだった時のことを知っているため私の本質である過負荷に影響は出ないという理屈になっている。どれだけプラスを感じようと、私は『無冠刑(ナッシングオール)』で過負荷(マイナス)なのだから。私そのものを変えてしまうぐらいの出来事があれば揺らぐこともあるかもしれないが、よっぽどのことがない限り()()()()()()()()()()()()

 

 

 これこそが、『()()()』。「完成された負」になったことで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を手に入れた。

 

 

 それと『鉈』を出せるようになった。精神世界だからかもしれないが、今の段階で出せて当たり前という感覚がある。この感覚を忘れなければあっちに戻っても問題なく使えるだろう。形状は今の『私』の頭に突き刺さっているであろうものとまるっきり同じだ。

 尤も、人目にあまり見せられるようなものではない。あまりやりすぎると入学初日に想定していた研究所送りも考えられる。

 『無冠刑(ナッシングオール)』の完全な制御に成功した今、『私の鉈を見たという縁』を切ってしまえば問題ないのかもしれないが、一人一人それをするのも手間だ。何せ、他の人の縁を切るには鉈を突き刺さなければならないのだ。そのため他の人に見られたら確実に殺人現場になるだろう。一応球磨川先輩の『却本づくり(ブックメーカー)』と似たようなもので、外見はショッキングだが肉体へのダメージはほとんどない。

 私がそういう風にすればという一文が付くが。『負完成』を名乗っている以上、過負荷を練り込んだ鉈を突き刺すことで身体的にダメージを与えることなど造作もない。肉体的にも精神的にも完全に殺すことができる。

 

 

 

 

 

 ところで、今はどれぐらい時間がたったのだろうか?

 

 試験に戻ったらAクラスのクラスメイトに、とりあえず謝らなくてはいけないと思った。今思えば、彼らにも酷いことをしてしまった。普段他の人の間を取り持つ私が、こんな状態だったら他の人が困っていただろう。茂の言葉も無視してしまっていた。普段そこまで話さない女子…確か矢野さんまで私に言葉を投げてきたぐらいだったから、よっぽどひどい顔をしていたのかもしれない。

 それに、こういう団体で動く様な行事で単独行動するような人がいればそれだけで問題だろう。点呼までに間に合うのだろうかこれ?

 

 

 そうしているうちに目が覚めた。気が付くと、頭に刺さっていた鉈も自分の心臓を穿っていた鋸も消えていた。直立したまま意識を落とされていたらしく、立ったままの状態だったが足や体が辛いという感触はなかった。

 あくまで精神世界だからだろう。肉体的にはほとんどダメージはない。

 

『やあ、お帰り。これまた随分な過負荷(マイナス)になったね』

 

「ただいま。おかげでこれぐらいはできるようになった」

 

 そう言って右手に鉈を握る。握りしめた感覚は手にとてもよく馴染むものだった。

 それを見て、『俺』は嬉しそうな顔をしている。私も思わず笑顔になった。

 

『それだけ馴染んだらもう大丈夫だろう。急に過負荷(マイナス)が湧き出たり、過負荷(マイナス)が変質したり、自分が自分じゃなくなる感覚もなくなるはずだ。「私」として確固たる自我と「負完成」足りうる過負荷(マイナス)を獲得した今の君ならね』

 

「そう言ってもらえると嬉しいよ。ところで夢を見てから聞きたいことがあったんだがいいか?」

 

『俺に答えられるものなら答えるよ。さしずめ、今の現実の時間とかかい?』

 

「それもあるんだけど、一番聞きたいのは何で私が転生したのかっていうことだ」

 

『…そっちか』

 

「答えられないなら別にいい」

 

『あー…まあいいか。話せる範囲だけどいいか?』

 

「もちろんだ」

 

 そう言って彼は話し始めた。

 

 曰く、過負荷(マイナス)もスキルもない世界で過負荷(マイナス)なんて言うものに目覚めてしまったせいで生きていた世界からはじき出されたんじゃないかということ。

 

 曰く、この世界に転生したのは人間としてのオーバースペックが多少許容されていたからじゃないかということ。

 

 曰く、過負荷(マイナス)になった理由は死ぬ直前にマイナスになりたいと強く願ったことで過負荷に目覚めたのじゃないかということ。

 

 曰く、『俺』が誕生したのは私が過負荷(マイナス)に目覚めたからだと思われること。

 

 

 

 一つ目は、私が()()()()()を歩んでいた時の世界の話だ。その世界は正真正銘普通の人間しかいない世界。坂柳さん並みの特別(スペシャル)な思考能力を持つ人はほとんどいない世界。綾小路君(主人公)並みの異常(アブノーマル)な心理掌握術を持つ人間なんて一人もいない世界。

 そんな世界で、癌細胞とも呼ぶべき異物が過負荷(わたし)だった。『死』という概念の『縁』を切り離すことで、『死』を覆すことすら可能とする過負荷(癌細胞)

 恐らくはそんな存在になってしまったから、私が死んでいるうちに世界が私を切り離したのではないかという話らしい。自分の世界に許容できなくなってしまったから他の世界に押し付けたのではないかという推論だった。

 

 二つ目の人間としてのオーバースペックが多少許容されていたからというものは、わからなくもなかった。綾小路君(主人公)の活躍ぶりは原作を最初の方しか読んで、見てないのでそこまで知らないが、前世で見たところは記憶を追体験したおかげですべて思い出した。それで思い出したものと当てはめると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。頭が良いから100点で揃えましたって言った方がまだ説得力がある。50点に調整することを試みて実際にできるようなスペック(異常さ)を持つ人間は前の世界にはいない。

 だが、この世界ではそれができる人間が割と頻繁にいる。恐らく、有栖でもやろうと思えばできるだろう。それに原作の水泳の授業では、確か高円寺君がオリンピックでも目指すのかと言わんばかりのスペックを発揮していた。こういうところでも人間としてのオーバースペックが多少許容されていたと言えるだろうと結論付けたらしい。

 過負荷(マイナス)とは人間の可能性だ。プラス(人生)を生きる人間に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それこそが過負荷(マイナス)という存在なのではないか?

 だから()()()()()()()()()()()()()()()()がいても、この世界は許容しているのではないかと言う推論だった。

 

 三つ目の過負荷(マイナス)に目覚めた理由は説明されても私にはいまいちよくわからなかった。

 『俺』が言うには、『「死」という極限のマイナスな状態でさらにマイナスになりたいなんていう、ありえない願望と信念がなしえた結果だろう』とのこと。

 言っていることはわかるが、それくらいでなれるものなのか、と聞いたら『逆に聞くけど、死ぬときにさらに死にたいなんて誰が思うんだい?』と返された。一応納得はしたが、別に死んでなお死にたいと思ったわけではないのでいまいちよくわからなかった。

 

 四つ目の『俺』が生まれた理由は、外付けの過負荷制御装置なのではないかというものだった。私がいなければ存在することすらなかった、というのはその予想によるものらしい。

 私がむやみやたらに過負荷を出しすぎないための制御装置として発現したという予想だった。私の精神が壊れるたびに完全に壊れないように記憶を封じ込めていたことが一番わかりやすいだろう。

 彼は私に対して忠誠を誓った従者のように忠実だった。私を殺さないように、私の精神を壊さないように私が知らなくても手を尽くしていてくれていた。

 『平和癌望(ピースメーカー)』を作れたのも過負荷制御装置の役割を持っているのなら、それを応用すればそう難しくないんじゃないかと思って作ったものらしい。『私』の過負荷(マイナス)を抑えることはできたから、それを応用すればそこまで難しくはなかったそうだ。

 

『まあこんなところだろう。あくまで予想だけどね』

 

「大体分かった。ありがとう」

 

『お礼を言われるようなことじゃない』

 

 そう言うが少し照れくさそうにしている『俺』を見ていると少し微笑ましかった。鏡を見ながら自分で同じことをやったら確実に気持ち悪いと思うが。

 

「それでどうやれば現実に戻れるんだ? 『無冠刑(ナッシングオール)』で『精神世界と縁』を切ればいいのか?」

 

『それでもいいけど、それをするともれなく海の底で意識を取り戻してお陀仏エンドだぜ?』

 

 そう言えばそうだった。私の肉体って確か、崖から落ちた上に体の上に崖の土砂が積もってて『無冠刑』がなかったら即死していたんだった。

 今でこそ『俺』が『肉体の死』という概念との『縁』を切っているから死んでないが、この状態で復活しても死ぬだけだろう。

 

「それじゃあどうすればいい?」

 

『俺が君を無理矢理ここから追い出す。その後に、自分で「崖から落ちたという縁」を切れば恐らく問題ないと思う』

 

「それだと私の肉体の損傷もなくなったりするのか?」

 

『微妙なところだね。死にはしないと思うけど、既にあの事故から5日は経ってるから完全に無傷にはならないかもしれない』

 

「5日!?」

 

 思っていたより時間が経っていたことに驚いた。長い時間(記憶)を見たいたし、同じ(記憶)も何度も見ていたが、ここまで時間が経っているとは思わなかった。精神世界は現実世界とは時間の流れが違うかもしれないと思っていたこともあるし、夢を見る形で記憶を見せられていたから体感時間もぐちゃぐちゃだった。

 

『これでも頑張ったほうなんだぜ? 「肉体の死」の方を抑えながら作業するのは大変だったんだ。それに加えて「平和癌望(ピースメーカー)」も併用していたからこれが限界だった」

 

「あ、なるほど。言われてみればそれもそうか」

 

 とても納得した。ただでさえ『無冠刑(ナッシングオール)』を2つ以上同時に扱うような暴挙を行っている上に、『平和癌望(ピースメーカー)』まで使っていたのだ。

 いくら私の過負荷(マイナス)そのものだと言っても、負担がまるっきり消えるわけではないのだろう。今の私でも使えない『平和癌望(ピースメーカー)』まで使っていたのだ。どれだけ負担がかかっているのかを考えるべきだった。

 

「すまない、不用意な発言だった」

 

『だけど事実だ。本当はもっと早く終わらせられれば良かったんだけど…』

 

「いや、ここまでしてくれたんだから文句を言うのはお門違いだ」

 

『…そうか。今度直接会うことは当分先になるだろう』

 

「…よく考えたらそうか。死にかけるたびに会うとしたら次に会う時は当分後でいいしな」

 

 私がそう言うと『俺』も苦笑いをしていた。

 

 そしてお互いにするべきことがわかっているからか、お互いに言葉を交わさずとも次の行動に移った。

 『俺』と私は同時に()()()()()()()鉈を握りしめる。私はそれを自分に向けて、彼は私に向けてそれを振り下ろした。

 

 

 

「『無冠刑(ナッシングオール)!!』」

 

 

 まったく同じ声が二重に重なり私の体を鉈が貫き、私は意識を再び深い闇の中に落とした。だが、崖から落ちたときの絶望しきっていた気持ちはもう消えていた。

 




主人公は過負荷になりました。
ですが作者の考えとしては普通の人生を送ってきた以上、過負荷になっても一般常識と言う鎖は彼を縛り続けていると思ったので『負として完成した元一般人』という意味でも『負完成』としています。
プラスマイナス順的には、異常>特別>普通≧負完成(過負荷OFF)>過負荷≧負完成(過負荷ON)>負完全をイメージしています。
過負荷と負完成の差は相手にもよりますが、基本的にはほとんどないです。


追記
作中の「マイナスの絶対値」とは、「マイナスの方面に伸びている値」、「マイナスの力の大きさ」という意味で用いています。
端的にいうと「マイナスの絶対値」が大きければ大きいほどマイナスだということです。
わかりづらいかもしれませんが、この作品ではそういう意味で「マイナスの絶対値」という言葉を使っています。
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