ようこそマイナス気質な転生者がいるAクラスへ   作:死埜

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今回、独自設定で一部キャラの性格改変が発生していることをご了承ください。


22話目 特別試験 最終日 その後

 次に意識を取り戻したのは医務室のような場所だった。意識を取り戻すとベッドの脇には有栖や茂、康平をはじめとしたAクラスの面々が揃っていた。

 

 私が目を覚ましたことを確認すると同時にベッドに押し寄せてくるが、保健医の星之宮先生に止められてる。

 その様子を眺めながら体の調子を確認してみた。

 

 まず海に落ちた時にべちょべちょだった体はきちんと拭かれたのか、潮の香もしなければ塩分が身体にまとわりつく様なねっとりとした感じもなくなっていた。流石に目の前の星之宮先生が拭いたわけではないと思うが、教員の何人かは私の古傷を見てしまったかもしれない。

 怪我をした左手には包帯が巻いていて固定されていた。そこまで重症じゃないと思っていたが、思ったよりも酷い怪我だったのかもしれない。

 左足は包帯が巻いてあるみたいだがそこまで重症じゃないのかそれだけ。

 問題は右足だった。天井から布をぶら下げて右足だけ吊るされている。包帯もギプスもつけている上に、左足の負傷も考えると当分自力で歩くことはできないだろう。

 もしかすると暫くは車椅子生活になるかもしれない。

 

「体調はどうかしら? 小坂君?」

 

「見ての通りですよ。体の各所が負傷してろくに動くこともできない…他は特に問題ないみたいです。今月もお世話になりました」

 

「ほとんど毎月保健室送りになってるのはあなたぐらいよ」

 

 そう言ってため息をつく星之宮先生。普段の軽い雰囲気はなく厳格さすら感じる雰囲気から、私の怪我が普段に比べていかに重症かを物語っていた。

 普段の星之宮先生をクラスメイト達も知っているのか、彼女の出す雰囲気にあてられて少し怯んでいるようにも見られる。

 そんなことを考えていると、星之宮先生が真剣な顔で私の目を見ながらカルテと思わしきものを取り出した。

 

「…左手は左手首の骨に罅が入ってはいるものの折れてはいないわ。右足は上から潰されたように過度に圧迫されたみたいね。しかもあなたあそこに行くまでに走ったでしょ? そんな状態で走ったせいであと一歩治療が遅れていれば二度と歩けないことになっていたわよ。左足は右足に比べて軽傷だけど無理に走ったせいで状態が悪化しているわ」

 

「…どれぐらい気絶してるかわからなかったので、最悪置いて行かれることを考えてしまったのが仇になったみたいですね」

 

 予想通りの酷い怪我だった。左足は比較的軽いかと思っていたが、他の怪我に比べれば軽いだけで思ったよりも酷かった。

 だが、あの時に時間がわかるようなものが何一つなかった以上は仕方ない。最悪足を潰していたかもしれないが、あの無人島で放置されたままでは何時回収されるかわかったもんじゃない。

 今考えたらスポットの機械とかの整備もあるから一年以内には回収されるのかもしれないが、それでも負傷した状態で治療もできずにいつ来るかわからない助けを待つのは嫌だった。

 

「ああ…納得したわ。他の先生から『自分から事故に遭いに行ったんじゃないか?』って声が上がったのだけれど、自分から事故に遭いに行って生還するために足を潰すようなことをするとは思えないって言っておくわね」

 

 Bクラスの担任である彼女がわざわざそんなことを言う必要はないようにも見えるが、他の医者が見たときに虚偽の報告をしたと思われることを嫌ったのだろう。

 逆に今ここでそう言っておけば、Aクラスの中での星之宮先生への好感度が上がって交流しやすくなるかもしれない。そう考えると今はそう言っておいた方が後で有益になり得る。

 

「流石に死にかけるような事故に自分から飛び込むほど自棄になってないですよ」

 

 あの事故は正真正銘の事故だった。

 私が過負荷(マイナス)状態とでもいうべき状態だったから起きた事故とも取れるが、故意に自分が事故に遭うために起こしたものではない。

 第一それのメリットがほとんどない。クラスごとに見ればあるのかもしれないが、それをするために自分の足を潰すような献身をする気はこれっぽっちもない。

 クラスメイトの死を無駄にはしないためだのなんだの言って奮起するのかもしれないが、そんなことで奮起するなら最初からもっとやる気を出せと言いたい。

 結果的にそれでAクラスのみんながやる気になると見越しても、それを狙って自分から事故に遭いに行くスタイルとか聖人を通り越して狂人だろう。

 

 過負荷(マイナス)なんて狂人みたいなもんだろうと言われるかもしれないが。

 

 

「あの後どうなりました? それと、今はあれからどれぐらいですか?」

 

「あの後は各クラスに事故にあった生徒が生還したことの説明と学校側が改めて謝罪をしたわ。今は5時間ぐらい経った当たりかしら?」

 

 学校側は思ったより普通の対応をしたみたいだった。

 あの状況をどうやって収めたのか聞いてみたい気もするが、星之宮先生の周りにいるクラスメイト達がそろそろ痺れを切らしてきてるので話を切ることにしよう。

 

「星之宮先生色々ご迷惑をおかけしました」

 

 そう言って頭を下げる。

 純粋に感謝の気持ちもあるが、クラスメイトを待たせすぎているので話を切るタイミングを作った。

 

「私は仕事をしただけよ」

 

 私の意図を察したのか、星之宮先生は椅子から立ち上がって私を含めたAクラスの生徒を見渡した。

 

「…それじゃあ私は失礼するわ~。あ、ここで見たことはできるだけ内緒よ? 小坂君の怪我の状態も含めてね」

 

 いつの間にかいつもの軽い感じに戻っていた星之宮先生は、そう言って茶目っ気たっぷりにウインクをして部屋から去っていった。

 残されたクラスメイトと私との間で気まずい沈黙が流れる。

 このまま固まっていても仕方ないので私が先手を切ることにした。

 

「…試験で単独行動してごめん。クラスの中での雰囲気や試験の内容を考えると迷惑をかけたと思う」

 

 そう言って頭を下げる。ベッドの上で怪我の状態も酷いのでしっかり頭を下げているわけではないが、私の謝罪の意を示すには十分だろう。

 それに一番早く対応したのは康平だった。 

 

「零が一人で行動すると言った段階で零に何かあったのだろうとは思っていた。だからクラス内のことや試験については謝らなくていい」

 

 そう言われたので頭を上げる。頭を上げると康平が心なしか何処か怒っているようにも感じた。

 だがそれでは何故クラスメイトが集まっているのだろうか?

 自意識過剰じゃなければ私の心配をしてくれているのだろうか?

 

 もしかしたら私が事故に巻き込まれたことを試験中にAクラスに説明されていたのかもしれない。

 

 そう言えばあの試験には点呼があった。

 点呼の時間になって私がいなくても点数が引かれていないのであれば、点呼の時に説明していてもおかしくない。

 そう考えるのが自然か。彼らからすれば5日間も行方不明で事故死として扱われているクラスメイトがいたら心配になってもおかしくない。

 それが過負荷(マイナス)という()()()()だとしても。

 

「零が事故に遭った次の日の朝に死亡報告があった。正真正銘の事故である以上巻き込まれた零に何も非がないのはわかっている。わかっているが、俺を含めたみんなが心配していたことを知ってほしい」

 

「…確かにそうみたいだ。心配かけてごめん」

 

 そう言ってまた頭を下げる。

 私がクラスメイトを無視して星之宮先生と話していたことに怒っているように感じた。

 他のクラスメイト達も康平に同意しているように頷いている。

 

 心配されるなんてこっちに来てから(一度死んでから)なかった気がするし、あっち(前世)でも私のことを心配するような人はあまりいなかったからとても新鮮な感じはある。

 それが過負荷(マイナス)になってからというところが何とも言えない感じがするけれど。

 

「顔を上げてくれ、俺の方が謝らないといけないことがある」

 

 康平の言葉で顔を上げた。

 康平の顔を見るとさっきまでの何処か怒っているような感じはなくなっていた。

 そこにあった康平の顔にはとても悔しそうな表情に変わっていた。普段はほとんど見ない表情だった。

 

「…今回の特別試験。Aクラスは3位だった。真嶋先生から聞いたが、零が戻った時に試験結果が変更されることがあるかと聞いていたみたいだな。それとは全く関係なしに俺の力が及ばず、3位にという結果になってしまった」

 

 

「本当にすまない」

 

 

 康平はそう言って背中を九十度曲げて私に謝罪した。

 クラスメイトも私も思わず息を呑む。

 クラスの代表格である康平が私個人に向かって誠心誠意謝罪をしている様を見て誰もが驚いていた。普段の頼もしい雰囲気があるので尚更違和感がある。

 

「康平、顔を上げてほしい。試験の結果は残念だけど、一人で勝手に行動して事故に遭った私に何か言う権利はない」

 

 康平が顔を上げる。その表情は普段のような頼もしいものとはかけ離れているようにも感じた。

 そんな中、有栖が康平のそばにやってきた。康平の隣に立って康平の方を向いている。

 

「私も参加できないでクラスの得点を減らした状態からスタートさせてしまった身です。葛城君がそこまで思い詰めることはありませんよ。私と零君がいなくても葛城君が頑張っていたことはクラスの皆さんが知っているはずです」

 

「そうだとしても結果が振るわなかったのは事実だ」

 

 康平は心底悔しそうにそう零した。

 私はAクラスが3位という結果に今更ながら少しの驚きを感じているが、どこか心の片隅で納得している自分もいた。

 

「とりあえず試験の結果とどういう戦略だったのかを聞いていいかい? 謝罪はもう受け取ったから今やるなら反省会も兼ねてどんな感じだったかを聞きたい」

 

「零君は大丈夫なんですか? あまり無理をしないほうがいいと思いますよ?」

 

「そうは言ってもこのままだと暇だっていうのもあるし、試験の結果も気になる。それに、振り返ることができるなら早いうちがいいと思わないかい?」

 

「…そういうことでしたら私も今一度詳しく聞きたいです。葛城君お願いできますか?」

 

「…構わない。他のクラスメイトには話してあるが、二人の意見も聞きたいと思っていた」

 

 そう言って康平が主導で、時々戸塚君などの他のクラスメイトたちも混ざる感じで話した。

 

 

 Cクラスと協力してポイントを保守する方針にしたこと。

 

 康平とCクラスのリーダーが、私と有栖以外の2万プライベートポイント(pr)が毎月Cクラスのリーダーに流れる代わりにCクラスのポイントで物資を補給するという契約をしたこと。

 

 それに対して私と有栖以外が同意のサインをしたこと。

 

 私が事故に遭ったということを聞いてパニックになった皆を茂が纏めてくれたこと。

 

 それから康平が指揮を執りなおしたこと。

 

 途中でDクラスの生徒が洞窟を見に来たこと。

 

 それ以降は特に音沙汰もなく最終日を迎えたこと。

 

 Cクラスの情報を参考に他クラスのリーダーを指定したこと。

 

 Aクラスのリーダーは康平ではなく戸塚君にしていたが、ほとんど康平と一緒にいた上に行動も康平と共にしていたこと。

 

 結果はAクラス120ポイント、Bクラス140ポイント、Cクラス0ポイント、Dクラス225ポイントだったこと。

 

 

「…大体こんなところだ。俺はどうすればよかったのだろうか?」

 

 …私の考えだと方針自体はそこまで悪くないようには感じる。

 不用意にポイントを消化しないでCクラスからもらうことでこの試験を高得点で突破する。200以上のポイントを残せればCクラスのリーダーに一人2万prを渡しても問題ない。

 惜しむらくは詰めが甘かったところだと思う。まずDクラスに拠点を見せたのは失策だろうし、本当のリーダーである戸塚君と常に一緒にいたら自分がフェイクで彼がリーダーだとばれてもおかしくない。

 

「私が指揮を執る前提で話してもいいかい?」

 

「構わない。寧ろ零だったらどうしていたか気になる」

 

「まず私だったら洞窟の入り口を完全に塞ぐように4人前後をローテーションで常に立たせる。中を見せて欲しいと言われても、リーダーから許可が下りない以上は無理だと言わせて中は絶対に見せない。無理やり通ろうとしたらセクハラだのなんだので騒げばたいていの相手はどいてくれると思うよ」

 

「…だが、そうだとしても拠点を占拠しても中を見る権利はあると押し切られた場合はどうする?」

 

「そうしたらこの試験のテーマは自由だから、ここの入り口に立っているのも私達の自由だとでも言って入れさせない。強引に入ってくるなら接触してきたことを盾に学校側に報告すれば相手にペナルティが入るかもしれないしね」

 

「なるほど…かなり強引な気もするが、できなくはないか…」

 

「後は最初に拠点を確保するときに見られていた可能性もあったと思う。だから、最初に拠点を確保するときにはリーダーだった戸塚君とフェイクの康平だけじゃなく他のみんなもつれていった方が良かったと思うよ」

 

「確かに言われてみればそこはそうするべきだったかもしれないな」

 

「最後に、私ならすることだけど怒らないでね」

 

「…構わない。言ってくれ」

 

「私が指揮を執るなら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 私の言葉でみんなが目を見開いた。

 本当に事故に遭っている本人がそんなことを言ったのだから驚くのも当然だろう。

 有栖も私の方を見ているが、彼女は私の方を見て納得したように頷いた。

 

「この試験の肝は他のクラスのリーダーを当てることだ。本気でポイントを死守したいのなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「だがリーダーを変更することはできないはずだ」

 

()()()()()()()()()っていう但し書きがあるけどね。逆に考えれば正当な理由があればリーダーを変更することは可能ってことだ」

 

「それは……」

 

「手段としては、何者かに段差から突き落とされて動けなくなってしまったリーダーをクラスメイトが運んで先生に渡せばいい。一人がリタイアした時のポイントよりもリーダーを当てられた時の方が損失は大きい。後遺症とかが残る可能性も0じゃないが、ポイントだけを見るならこれが最適だろう」

 

 相変わらず過負荷(マイナス)的な策ではあると思う。でも私にはこれぐらいしか思いつかなかった。

 そもそも康平と戸塚君が常に一緒に行動していたら、わかりやすいリーダー的人物である康平はフェイクで戸塚君がリーダーであるということなんてばれてしまってもおかしくない。

 だけど、こうすれば試験の途中でリーダーが誰であるか確信していても最後の最後で全く関係ないくじ引きかなんかで選ばれた人がリーダーになる。

 それだけで他のクラスがリーダー当てに参加していたらポイントを勝手に減らしてくれる。

 

「そんでもってCクラスなんか信用できないからリーダー当てには参加しない。Cクラスが嘘の情報を流したとは思えないけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「Dクラスが!?」

 

「事故に見せかけてリタイアさせたのか、本当に何かあったのかはわからないけどCクラスを信用するならそういうことになる。そして新しくリーダーになった人が他のクラスのリーダーを全て当てた。そうでもないとこの点数の差は起こらない」

 

「…でもDクラスにリーダーを変えるなんて考えができてリーダーを全員当てられるような人がいるとは思えない!」

 

 康平の隣にいつの間にかいた戸塚君がそう声を荒げた。

 Aクラスの自分たちがDクラスに出し抜かれたことが未だに気に食わないのだろう。いや、彼の場合は康平が負けたことにかもしれない。

 

「いるんだよ、一人だけ。あのクラスには怪物が潜んでる」

 

 声のトーンを落としてそう言った。私の言葉にその場にいる全員が動かなくなる。

 私が言っている怪物とは主人公(綾小路君)のことだ。ある意味、彼のための世界とも言えるこの学園で彼と勝負をすることは無謀極まる。

 

 ()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 私が離れていようが、その()()とも言える彼の勝利は覆らなかった。

 ここで生きている以上ラノベのキャラだからとかは言いたくないが、主人公という概念を無視して彼を語ることができるとは私には思えなかった。

 

「あまり表舞台に立つような人じゃないと思ってたけど、この結果を見るからに彼が動いたことはほとんど確定。それだったら負けても仕方ない」

 

「…そんなやつがDクラスに…?」

 

「彼には絶対に邪魔者を消して自分だけは勝つっていう覚悟がある。そしてそれを後押ししてくれる運命も彼の味方だ。少なくとも私じゃどうやっても勝てない人種だよ」

 

「…零、それが誰なのか聞いてもいいか?」

 

 …どうする?

 

 ここで安易に綾小路君だとばらすか、それとも言わないほうがいいか。

 ばらした時のメリットは単純にAクラスで作戦を考えるときにそれを考慮に入れられるということ。

 デメリットは考慮したところで勝てない可能性が圧倒的に高いということと、下手に目を付けられると潰されるかもしれないということだ。

 

 そんな時だった。ふと視線を感じたのでそっちを横目で見てみたら、有栖が言うなと目で言っている気がした。

 

「私が勝手に思ってることで本当かどうかの確信が持てないから言えない。知りたかったら自分たちで調べてみるといいよ」

 

「…そうか。言いたくないなら無理に問い詰めるつもりはない」

 

 他のクラスメイト達はあまり納得していないみたいだが、康平がそう言ったからか私が怪我人だからか問い詰めるようなことしなかった。

 有栖は少しほっとしたようにも見えたことから、彼女は見当がついているのだろう。知っているうえで他の人には知られたくない事情があるのだと察した。

 しかし、私と有栖以外のクラスメイトとの間で見えない壁のようなものが生まれた気がした。その壁は私と彼らの間に完全に信用しあっていないような不信感を感じさせる。

 

 そんな時だった。

 

 

 ぐぅう~~~~~~

 

 

 シリアスな場面だったのに私のお腹の虫が盛大に鳴いた。思わず顔を赤らめて顔を逸らす。

 よく考えたら特別試験中何も食べていなかったのだから、7日以上食べ物を口にしていない。最後に口にしたものはとても清いとは言えない汚水だ。

 

 私の腹の虫の音を聞いてみんなが笑いだした。

 

「仕方ないじゃないか! 冷静に考えたら1週間近く何も食べてないんだよ!」

 

「ぷっふふ…零君がそんな醜態を晒すなんて思わなかったので…ぷふ」

 

 有栖までこんな調子だ。

 あれだけカッコつけた後にこれは恥ずかしい。思わずベッドに潜りたくなったが足も手も満足に動かないのでそれすらできなかった。

 

「プックク…零、なんか食べ物持ってきてやるよ」

 

「後で覚えてろよ茂。ついでに飲み物も持ってきて。それと、できれば車いすとかあれば持ってきてほしい」

 

「いや、それは無理だろ。少なくとも今日はそのまま安静にしておいたほうがいいと思う」

 

 真顔に一瞬で戻った茂にそう嗜められてしまった。

 自力で動けないのは不便だと思うから車いすが欲しかったのだが、流石に今の状態では車いすがあっても動くのは無理だろうと思われたらしい。

 

「…まあ、それもそうか」

 

「じゃあ持ってくるからちょっと待っててくれ。何人かついてきてくれ、一人じゃあまり持てないからな」

 

 茂がクラスメイトから持ち運び班を募る。

 ちょうどいいのでついでに他の人たちにはちょっと抜けてもらうことにした。

 

「ちょっと有栖と二人で話したいから、他の人は申し訳ないけど出てもらっていいかい?」

 

「話ですか?」

 

「大したことじゃないし、10分もかからないだろうから他の人も飲み物とか持ってくると良いよ。有栖もいいかい?」

 

 ふとドアの方の壁を見ると時計が付いていたことに気付いた。

 今の時間は17時45分ぐらい。18時前ぐらいに切り上げればいいだろう。

 

「…わかりました。皆さん、申し訳ないのですが少しだけ時間をください」

 

「わかったよー」

「坂柳さんに変なことするなよ!」

「あの怪我でできるわけないでしょ!」

 

 そんなことを口走りながら有栖以外のクラスメイトが退出していった。

 怪我人相手にそんな冗談を言えるほど調子が戻ったといえば聞こえはいいが、調子に乗りすぎではないだろうか?

 

 …高校生ってこんなもんだったな。よく考えたら前世でもバカ騒ぎしている連中しかいなかった気がする。

 そんなことを考えながら私は有栖の方を見て、()()()()()()()()()()()()についてどうやって問い詰めようか考えて心の中でため息を一つ吐いた。

 




 怪我に関しては作者自身詳しくないので適当に書いてます。あまり深く考えないでいただけると幸いです。
 Cクラスとの協定でリーダーの龍園君にAクラス一人につき2万prを渡すというものはアニメ版での設定で小説版の方ではなかったような気がしますが、アニメ版の方が色々と扱いやすかったのでそっちを採用しました。
 主人公は綾小路君が全クラスのリーダーを当てたと思っていますが、実際にはBクラス以外のリーダーのみを当てています。BクラスとDクラスの間で互いにリーダーを当てないような協定を結んでいたためです。原作ではその描写がありましたが、この作品ではカットされていましたのでここで記載しておきます。
 主人公的には綾小路君以外のDクラスの人に関してはそこまで詳しく知りません。ですが、初月で10万ポイントを吐き出したイメージが強いので無人島での特別試験でもポイントをほとんど残せていないと思っています。

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