ようこそマイナス気質な転生者がいるAクラスへ   作:死埜

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23話目 特別試験 最終日 その後Ⅱ

 クラスメイト達が出ていってからどういう風に話を持っていこうか考えていたせいか、残された有栖と私の間で少しの沈黙が生まれる。

 なるようになるかと思い、先に切りだそうとしたところで有栖の方から先に話し出した。

 

「…試験の結果を聞いたときよりも、零君が事故に遭ったと聞いたときの方が驚きました。死ぬことはないと星之宮先生がおっしゃっても、見るからに重体のあなたを見てとても心配したんですよ?」

 

「それに関しては本当に申し訳なく思ってるよ。心配されることなんてほとんどなかったから、さっき康平に言われるまでそんなこと全く考えてなかった」

 

「表向きのトップは私と葛城君でも、Aクラスで一番方針を決める立場に近いのですからもっと自覚してください。神室さんでさえ心配そうにずっとここで起きるのを待っていたんですから」

 

 そう言う彼女はどこか怒っているようにも見えた。

 別になりたくてなったわけではないクラスのまとめ役という立場を彼女は引き合いに出しているが、私との勝負のこともあるのかもしれない。

 この船旅の前に私に宣戦布告したのにもかかわらず、いきなり相手が事故に遭った。その上そのまま死んだりしたら勝敗が付かないままになってしまう。

 勝ったと言うこと自体は難しくないが、本人が勝ったと思うかは別の問題だ。少なくとも有栖がこの船旅で事故死なんてしたら私は勝ったとは思えない。

 

 

 閑話休題(まあそれはおいといて)

 

 

「虐げられるのが当たり前だったから心配されることに慣れていないんだ。前にも言ったけど見るもの全てを不快にするような気持ち悪さ(マイナス)だし、それを制御出来てなかった時期は本当に酷かったからね」

 

「…参考までに聞いてもいいですか?」

 

「汚いから洗ってやると言われて口の中にトイレ用洗剤を吹き込まれたこともあれば、施設の職員にふくらはぎを包丁で刺される躾け、熱湯を背中にかけるってのもあったな。同年代のやつからは視界に入れば殴られたり蹴られたりは普通だったし、外に出れば全く知らない大人がいきなり石をもって殴ってくる。それで病院に運ばれたかと思えば、治療された後に看護師が殴ってくるってのがデフォルトだった時だったかな?」

 

 尤も、その次の日には誰も私のことを覚えていないというのでワンセットだ。

 おかげで治療代の請求をされたことはないが、1日で怪我が治らなかったら施設に戻ることさえ難しくてそこら辺の公園で夜を明かしたことも少なくない。

 今思えば死んでもおかしくないような日常だったが、「死」という概念との「縁」を無意識的に切っていたのか「俺」が切っていたのだろう。

 

 有栖の方を見ると完全に固まっていた。

 それを見て直感的に話すことじゃなかったと悟った。冷静に考えてみれば何かの本でそういうことがあったということを見たとしても、それが近くの知り合いに起こっていたというのとは全く別の問題になる。

 有栖はすぐに元に戻ったが、その表情は曇っていた。

 

「申し訳ありません。気軽に聞いていいことではありませんでした」

 

「別に私はいいけどね。私よりも酷い目にあっている人なんて星の数ほどいるし、私は軽いほうだよ。まだ生きてるから」

 

「……」

 

「それに今は周りにそんなことするような人はいないし、私自身自分を制御できるようになったからね。今が良いからそれでいいと思ってるよ」

 

「・・・その状態じゃなかったら説得力があるんですけどね」

 

「事故は仕方ない。まあそんな訳で許してほしい」

 

「……わかりました。次からは事故に遭わないように気を付けてくださいね」

 

「こればっかりは運によるから断言できないけど気を付けるよ」

 

 有栖は私の言葉に少し不満そうだけど渋々引き下がった。

 不幸(マイナス)が基盤になった今の私がこの3年間で事故に遭わないほうが珍しいと思うがそこは話さないことにした。

 

「それで話とは何ですか?」

 

「…今回の試験で康平のこと蹴落とそうとしたよね?」

 

「何のことですか?」

 

「とぼけなくていいよ。違和感を感じたところは三つ。一つ目は有栖のお友達(坂柳派)()()()康平の案に賛成してサインしたこと。二つ目は康平が話している時に他のクラスメイトのほとんどが康平を睨んでいたこと。三つ目にその睨みつけているクラスメイトの中に康平の派閥の人も交じってたこと」

 

「…今回の試験は葛城君が指揮を執っていました。その葛城君が失敗したのですから、皆さんから悪く思われるのは仕方ないことだと思いませんか?」

 

「度が過ぎてるって言ってるんだ。そもそも自分たちが何もしていない癖に全ての責任を康平に押し付けて()()()()()()()になってる。戸塚君の方に批判する人も、それに乗ったクラスに問題があったんじゃないかと問題提起する人もいない。ましてやこの短期間で康平の派閥にいたやつが、そのトップを睨みつけるようになるなんて誰かが扇動しないとまずない」

 

「康平に全くカリスマがなかったら別問題だが、彼は同年代にしてはなかなかのプラスの要素(カリスマ)を持っているのはわかってるだろう?」

 

「……」

 

 そこで有栖は口を閉ざしたが、私の方を見てにっこりと笑顔を浮かべていることから正解なのだろう。

 今回の試験では多かれ少なかれ得をした者と損をした者が生まれた。

 得をしたわかりやすいところはDクラスとBクラスだ。単純に上との差を詰める結果になったのだからこれは確定。

 そうしたら損をしたのはCクラスとAクラスになるが()()()()()()()()。実際に損をしたのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 康平の方は言わずもがな、Cクラスはポイントを吐き出して終わったのだからこれは疑いようもない。

 だけどCクラスのリーダーはAクラスの契約によってアドバンテージを得、有栖は康平が指揮で失敗して失脚寸前になったため事実上Aクラスのリーダーになることが出来た。

 恐らく有栖はお友達に自分が参加できないことを良いことに、全ての責任が康平の方に行くように仕向けた。今回の船旅には参加しているものの、自分が参加できない試験があったらそういう風にしろとでも指示しておいたのだろう。

 

 自分の特別試験への不参加(マイナス)強み(プラス)に変える、とてもプラス的な考え方だ。

 

 故に得をした者はDクラスとBクラスだけではなく、()()()()()()()()()()()()()()ということだ。

 因みにAクラスの中立派は損をしたとも言えるし得をしたとも言える微妙なラインだと思う。

 損をしたのは言わずもがなポイント、得をしたのはAクラスのリーダーの片方が失脚寸前だということでAクラス内両派閥に挟まれて肩身の狭い思いをすることが減るということ。

 損の方が大きいようにも見えるが、クラスのリーダーが2人いるよりも片方だけになったほうが今後のことを考えると良いようにも見える。

 

 

「まあこのことを他の人に言う気はないけどね。気づけなかった方が間抜けってことで」

 

「話が早くて助かります。おっしゃる通り()()()()()()()()()葛城君にはここで落ちてもらおうと思ってました。さっきの謝罪はとてもキッチリしていて良いように見えましたが、事実上の敗北宣言です。これで私がAクラスを纏めやすくなりました」

 

「答え合わせにどんな感じで仕込んだのか聞いてもいいかい?」

 

「学校側は私の体のことを考えて、この船旅に参加させない方針だったのだろうと予測していました。ですが、頼んだ結果船旅には参加できました。それを踏まえて船を用いてまで行う特別試験を考えたら、私が参加できないものになってもおかしくない。そういう意味で教員の指示に従うことが条件にされたと思いました。ですのでそれを見越して、責任が葛城君()()に集中するように指示しました」

 

「まあそうだろうね。実際にこれで有栖がAクラスの実権を握ったようなものだ」

 

「ええ。後は何もしなくても勝手に葛城君が落ちて、Aクラスが一つになるだけです」

 

「好きにしていいよ。私の知ったことじゃないし」

 

「…葛城君のことはいいんですか?」

 

()()()()()()。別に彼に何があろうが私には関係ないし」

 

「葛城君は零君の友人でしょう?」

 

()()()()()()()()()()()?」

 

 私の言葉に彼女は閉口した。

 確かに()()であれば友達というものは助け合う関係にあるのかもしれない。

 だが、過負荷()にそれを要求すること自体がナンセンスだ。

 私の中で渦巻く過負荷(マイナス)が私から滲み出る。有栖の顔を見ると、彼女は顔を顰めていた。

 

 

「知っているかい? ()()って「他の人」って書くんだぜ? 自分自身以外は()()()()だろ?」

 

 

「そこに友人とか友達とか親友とか恋人とか配偶者とか家族とか親族とか仲間とか、どれだけ関係が深いと主張しても所詮は他人だよ」

 

「…友達や家族と全く知らない人は違うと思いますが」

 

「違わないさ。()()()()()()()()()というだけで、どれだけ共感しても自分自身が受け取ったことも相手が全く同じことを受け取ることはないだろう?」

 

「それは言葉一つとってもそうだし、私が昔受けた仕打ちを有栖が本当に理解することはない。同じように私が有栖の先天性疾患を完全に理解できることはない」

 

 

「だから()()()さ。私と康平の関係なんて、()()()()()()()()()()()()()。私にとっては他人の中の一人だ」

 

 

「それは…確かにそういう見方もできるかもしれませんが、他の人から見たら違うように受け取れます。それに、そんな生き方は難しいと思います」

 

「『あの子はこれができるんだからあんただってできる』『みんな違って皆いい』。よく小学校とかで言われてるけど君はどっち派かな?」

 

「……」

 

「要はそういうことさ。君も茂も康平も、私にとっては友人とも言える間柄ではあるがそれ以上にただの他人だ。だから私に康平がどうなろうが知ったことじゃないし、君との勝負を楽しみにしていることは認めるけどそれだけだ。君を見捨てるか私が生きるかという選択肢があったら私は間違いなく君を見捨てるよ。所詮他人だからね」

 

 私がそう言うと彼女は完全に口を閉ざしてしまった。

 その表情はどことなく悲しげな雰囲気を思わせる。

 

 私の過負荷(マイナス)()()()を指す『無冠刑(ナッシングオール)』として発現したのは、私のこういう考え方(本質)を汲み取ったからだ。

 父からは家を出て(縁を切られ)、母から距離を置き(縁を切り)、友人とは常に一定の距離を置いていた(縁を結ぼうとしなかった)前世。そういう環境から来たものなのだろう。

 どれだけ仲が良くても、友人と言っても所詮は他人であるという考えが頭の中である。

 

 目の前で人が倒れていたときに、一体どれだけの人がその人を助けるだろうか?

 

 AEDで心臓マッサージをしたところで、蘇生に失敗すれば対応が悪かったなどと非難されるのが現代社会である。

 現に過負荷(マイナス)である私を心の底から助けよう、一緒にいよう、何とかしてあげようと思うような人も言うような人も会ったことがないし見たこともない。

 上っ面の言葉だけならいくらでも耳にするが、(過負荷)という本性を見ただけでしっぽを巻いて逃げ出すか()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 コンコンッ

 

 

「零、入るぞー」

 

 そう言って茂たちが入ってきた。

 大体10分と言ったが、茂たちが来たのはそれよりも遅く、時刻は既に18時を指していた。

 彼らの手にはハンバーガーやポテトなどの手に持って食べることができて、持ち運びが簡単な食べ物でいっぱいだった。

 私と有栖の間でピリピリとした空気が流れていたが、茂たちが来たことでお互いに外面を取り繕った。有栖はいつもの少女に、私は普通(ノーマル)の人間に。

 

「右手だけでも食べれそうなもの持ってきた。それとお茶だ」

 

「ありがとう。早速もらうよ」

 

 そう言って茂からハンバーガーを貰ったが、左手が使えないので包装紙を取ることが出来なかった。

 

「…誰か左手の包帯外してくれない?」

 

「罅が入ってるんだから当分そのままだ。紙剥くからちょっと待ってろ」

 

 茂は私からハンバーガーを取ると、包装紙を剥いて再び私に渡した。

 右手で持ってかぶりつけば食べれるような形になっている。

 それを受け取った私は体感時間的にはそれほど経っていないはずなのに、やたらと五月蠅いお腹の虫を黙らせるべくハンバーガーにかぶりついたのだった。 

 

 

 

 

_______________________________________________________

 

 

 

 

 

 あれから他のクラスメイト達も集まり、7時ぐらいに彼らが夕食に行くまで話し込んでしまった。

 クラスメイト達が夕食を食べに行ったので部屋で一人ボッチになる。

 お腹いっぱいになるまでハンバーガーを食べたのはいいが、食べ過ぎて少しお腹が重い感じがした。珍しくハンバーガーを5つも食べてしまったので少し苦しい。普段は多くても3つが限界なことを考えると胃がパンパンになっているのがわかる。

 そのせいで寝ようと思っていたのに全然寝る気になれなかった。

 

 有栖とは食事中にほとんど話さなかった。

 彼女も思うところがあったのか、私の方を見て時折悲しそうな顔をするだけだった。

 なぜ彼女がそんな顔をしていたのか見当もつかないし、考えてもわからなかった。

 

 ため息を一つ吐き、私は眠くなるまでこれからのことについて考えることにした。

 まず試験の方だが、1週間で特別試験を行った。だがこの船旅は()()()()()()()()()()()()()()()。十中八九もう一週間で()()()の特別試験を行うのだろう。すぐに行うかはわからないが、1週間もただで遊ばせてくれるとは思えない。

 この船にいる間、生徒たちはこの船の施設の利用及び食事にポイントを使う必要もなければ現金を払う必要ない。限度はあれど文字通り好き勝手にこの船で遊ぶことができるというわけだ。

 だがよく考えてみると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。しかも私のような事故があったとはいえ、時計と点呼で人が死ぬような事態は避けていた上に教員も相当数が動員されている試験だった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 教員たちもこの船の使用料金がかからないのだとすれば、尚更バカみたいな金がかかっている。高々一週間の試験のため()()に金を使って、残りの一週間は遊んでくださいなんて話があるわけがない。教員もついでにリフレッシュしてくださいとかあるわけがない。

 予想だと生徒を油断させるためか準備のために2日3日空けてからと見た。

 

 これを踏まえて、動くのであればそれ相応の手を考えなければいけない。

 私みたいな過負荷(マイナス)この学校の生徒(プラスの連中)を相手に取るには、いかに早く相手のペースを切り崩して私が握るかという1点にあると見ている。

 過負荷(マイナス)状態とも言える過負荷(マイナス)全開で全てを台無しにするのも一手かもしれないが、それで試験をなかったことにするようなちゃぶ台返しに近いものは絶対にやりたくない。

 心を折るためならともかく、「特別試験の結果との縁を切った」なんていう逃げはしたくない。過負荷(マイナス)にも過負荷(マイナス)なりの()()がある。

 

 負けるのは許容できるが、()()()()()()()()()()()

 

 負けたとしても、負けるとしてもそれを受け入れてへらへら笑うのが私達(マイナス)だ。

 前は主人公(綾小路君)相手に逃げるような立ち回りをしてきたが、今はそんなことをするつもりはない。向かってくるなら迎え撃つ覚悟でいる。負けるとわかっていても、その敗北(マイナス)を私の(マイナス)に組み込むためにも負けることから逃げるわけにはいかないのだ。

 だから私は私の持てる全力を尽くし、()()()()()()()()

 

 負けるということは覆らないだろうが、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そのために最初の特別試験が終わったばかりでまだ誰も対策を練っていないうちに次の試験の予想と対策を練ることにした。

 無人島での特別試験は主にクラス同士の対決、もっと言えばクラスの団結力と組織力、そして思考力を見ることが出来たと思う。

 

 団結力とは言わずもがな、組織力と同じくクラスという団体でどれだけの協調性があるかが試された。それは点呼だったり、自分勝手にリタイアした場合の減点だったり、ポイントで物資を補給するという面で見てもわかる。

 思考力を指すのはリーダー当てのことだ。これまでの他のクラスを見て誰がリーダーであるかを考える、という意味での思考力。ただ、これは個人でできる範囲なのでこの試験に合っているかと言われると私は微妙に思っている。それにリーダー当てはクラスで相談する方が稀だろう。Bクラス(団結力重視)ならクラス全体で話し合ったかもしれないが、普通だったらリーダーに丸投げしてもおかしくない。

 そう考えるとリーダーになった者の思考力しか図れないので、あれば思考力を図るというのはあまり正しくない気がする。

 

 これを踏まえて次の試験の内容を考える…。

 学校である以上学力を競う可能性があるか?

 いや、仮にも夏休み中の上に学力を競うなら船でやる意味がない。あの学校もクローズド・サークルではあるが、この船ほどではない。一応船から海に飛び降りて泳いで脱出できる可能性もあるが、ほとんどの確率で沖に上がる前に死ぬだろう。

 船でどこかに飛ばされる可能性もあるが、無人島以外だとどこかの施設になると思う。しかし、豪華旅行船と銘打ってるだけあるこの船で大体は事足りるだろう。

 

 そうなるとこの船の中で行える範囲に絞り込める。

 運動系はまずない。屋内プールはあるが、全クラスが入るような余裕はない。

 もっと言うとこの船でやる必要がない。

 

 そうなると思考力を鍛えるグループワークか?

 前世()大学でやったところだと「社会的ジレンマ」を用いたものをやったのが印象的だ。

 簡単にいうと全体の利益を高めようとすると個人が儲かる可能性は少なく、逆に個人の利益を追求すれば個人的には得をする可能性が高くなるが全体の利益は減っていくというものだった。

 その時のグループワークでは、最初に何も説明されていない状態で全体の利益を高める「協力」と言う選択肢と、自分の利益だけを高める「非協力」と言う選択肢のどちらを多く取ったかを見た。

 その後に説明した後では、どちらの選択肢を取る人が多かったかと言うものを確認して、各グループで話し合って発表した。

 

 …もしかしたら本当にグループワークかもしれない。

 学校とは違って他のクラス同士で交流しやすく、さっき考えた無人島での思考力を図るためにはごく少数の人間のみしか図れないという点も解消できる。

 グループワークというものはグループの中の2人しか会話していなくても成立するものだ。その時に同じグループで何も発言しない人は「ただ乗り(フリーライダー)」として蔑まれる傾向にあるが、恐らくこの試験でそれをするような人はいないだろう。

 

 この特別試験の一番の特徴は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だということだ。

 そのためAクラスだったらポイントを保守するだけでいいという方針も取れれば、さらに差をつける方針も取ることができる。

 だが、それ以外のクラスはAクラスに上がりたいのであれば「ただ乗り(フリーライダー)」なんてしている余裕はない。Aクラスとは違ってポイントを保守すればいいということができない以上、どうにかして高得点を得るかAクラスの得点を削ぎ落す必要があるからだ。

 「ただ乗り(フリーライダー)」をするということはそのためのチャンスを無為に潰すということになる。

 

 学校側としてはするならするで構わないが、()()()()()()()()という評価が付けられるだけだろう。そしてそれの報いは、クラスかプライベートかはわからないがポイントの方ではっきりと出るようになる。

 前世での体験があるからグループワークなら多少は有利かもしれないが、私としての問題はただのグループワークには絶対にならないということか。

 普通のグループワークというものはグループで出した結論を発表して終わるようなものが大多数だが、この学校のことだからそれだけで終わるはずがない。

 

 何かあるはずだ。

 

 それも()()()()()()()()()()()()()()()()()()が。

 

 無人島での特別試験やCクラスとDクラス間の問題を黙認した構え方、もっと言えば中間試験で過去問という必勝法を許容したこと。

 これらのことを踏まえると、この学校は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。自分たちが上に行くために、愚者(マイナス)からリソースを奪い取って自分たちのものにすることを黙認しているのだ。

 いや、正確にいうと黙認しているどころか()()()()()()。無人島での特別試験ではそれが顕著に出た。

 当然リーダー当てのことだ。当てられた側のポイントを削って当てた側のポイントにするということが、これからを生きていくうえで他者を蹴落として自分たちが上に上がることが必要だと教えているようにすら見える。

 

 CクラスとDクラスの問題があった時もそうだった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()して、2つのクラスでの問題を解決しようとしている()()をしていた。

 早急に解決する気があるのならもっと早く審議を行うべきだった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()。にもかかわらず、審議までの期間が開いていた。急な事件だったからというのもあるが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 中間試験の過去問に関しては、そういう方法があることを知らせないことで思いついて過去問を貰ったとしても共有する自由としない自由がある。

 他のクラスにわざわざ教えに行くようなことはまずないため、クラスで思いつく人がいるかどうかということを見ると相手(他クラス)を見捨てて自分たちが上に行くとも取れる。

 そこに過去問を何時貰ったかによって覚える時間が長いか短いかまで考えると尚更だ。

 

 他人を出し抜き、自分が勝つ。

 

 そういう人間が今の社会で求められている…というよりは、どの業界でも上に行きたいならそうしないと(他人を蹴落とさないと)いけないからそういう人材を高く評価しているのかもしれない。

 

 

 ここまで考えたが情報がもう少し欲しいところだ。

 次の試験の予想まではざっくりとできたが、これからどうしていくかまでは全く決まっていない。

 私がAクラスを牛耳るわけではないので私のことだけ考えればいいのだが、()()()()()()()()気がしてきた。Aクラスが勝とうが負けようが()()()()()()()()()だし、そもそも次の特別試験にこの様では参加できるかも怪しい。

 

 …でも有栖が負けるのはなんか嫌だ。

 

 彼女を這いつくばらせるのは私の役目だ。

 他の人に譲りたくない。

 あの時のあの目を乗り越えて彼女に勝ちたいのだ。

 

 私が絶対的に勝てないと思ってしまった、あの人間がもつ美しい何かを乗り越えたい。

 

 美しいものに汚い(マイナス)のままで勝ちたい。

 

 過負荷(マイナス)だって勝つことができることを証明したい。

 

 こんな(過負荷)を知った上で勝負を挑んできた彼女に勝ちたい。

 

 これだけは綾小路君にも譲れない。

 

 …今まではっきりと自覚してなかった。寧ろ綾小路君と有栖をかち合わせて弱っているところを叩きのめせばいいと思っていたくらいだった。

 でも、()()()()()()()()()()()()()

 過負荷(マイナス)のことを教えたあたりから、理解者を求めている節があったのは自覚していた。その時は、理解されたら私にわざわざ敵対するなんてことはしないだろうと思っていたのが正直な感想だ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それが嬉しくて、面白くて、楽しくて、彼女に勝ちたいと思った。

 過負荷(マイナス)故に勝てない可能性の方が圧倒的に高い。それでも、勝ちたいと心から渇望した。

 

 恐らくそこが分岐点だったのだろう。

 現にさっき有栖と二人で話していた時に、有栖に事故死はしてほしくないと思った。

 彼女も私が死なないか心配していたように、私も彼女に何かあって勝負がつかないままになるのは御免だった。

 

 そこまで考えて、大きくため息を吐く。

 彼女が言った通り、正真正銘の赤の他人と()()()()()()()である人とはまるっきり同じというわけにはいかないみたいだ。

 いや、正確には有栖だけだ。これが康平や茂だったら他の人と同じ対応だったと思う。

 特別(スペシャル)に足を踏み入れている有栖だからこそ、その強さ(プラス)を飲み下して勝ちたいのだ。

 

 …そのためにはAクラスに落ちてもらうわけにはいかないか。

 Aクラスのリーダーが早くも有栖に移行寸前ということは、Aクラスの代表として有栖が表舞台に立つということになる。

 もっと言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そう考えるとAクラスをさらに上げる必要はないが、落としすぎるということはしない方針にするべきだ。できるところまで上げても私は構わないが、私が意図的にそれをしようとすると裏目に出て落ちていく可能性がある。

 

 どうするべきなのだろうか…?

 

 私はこれからどういう方針で、どういう手を使って、どういうことをしたいのか。大体の方向性は見えたが、あまり有栖に協力しすぎて勝てなくなるほどになってしまったら元も子もない。

 ぐるぐると頭の中で回る考えを吟味しながら、頭を一度冷やすべく茂が持ってきてくれたお茶に手を伸ばした。




あまり話が進んでいませんが仕様です。
社会的ジレンマに関しては「共有地の悲劇」でググってみるとわかりやすいと思うので、気になった方はそちらをご覧ください。

後2話ほど挟んでからで4巻に入る予定です。予定ですので変更されることもあるかもしれませんが、その場合は次話以降の後書きにて記載いたします。
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