ようこそマイナス気質な転生者がいるAクラスへ   作:死埜

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25話目 豪華船旅行 十日目

 無人島での特別試験から3日。

 昨日は何事もなく平和で、くっだらない日常を謳歌するだけの日だった。

 どうでもいいクラスメイト達と話をし、どうでもいい人生の時間を浪費していき、どうでもいいクラスの間にある確執に囚われてとらわれて過ごす。

 それだけの、いつも通りな(つまらない)日常だ。場所が船内だということしか変化していない。

 

 昨日から初日に決めた予定通りに有栖の付き添いをしているが、今はまだお昼なので橋本君が付き添っているだろう。

 あの後、有栖は私を時折悲しそうな目で見てくるようなこともなくなった。彼女に夜付き添っている時は、大体夕食を食べてから有栖の割り当てられた部屋で時間を潰していた。

 彼女の部屋は体のこともあってか、それとも急に参加することにしたためか一人部屋である。そのため、他の人に聞かれることのない他愛ない話をしていることが多かった。

 豪華船と言うだけあって映画館や舞台などもあるらしいが、私はその手のものに詳しくない上に興味がない。プールなどには有栖が参加できない。そのため有栖の部屋でただただ深い意味のない話をする、無意味で()()()()()()()()()()()()()()ような時間を過ごした。

 

 昨日は日付が変わる前、具体的には22時30分に彼女の部屋を出て自室の部屋で勉強をしていた。

 吉田君が少し引いていたような気もするが、私にはどうでもよかった。生きていくために余裕がある時には少しでも積み上げないといけない。プラスに勝ちたいと思うなら、尚更見えない努力をする必要がある。

 裸エプロン先輩だって安心院さんからスキルを返してもらうために立ち向かったのだ。私は彼のようになれるなんて思ってない。どんなに模倣したところで所詮は模倣であって、本人ではない。他人であることに変わりはないのだ。

 でも、過負荷(マイナス)としての在り方に感銘を受けたのは間違いなく彼の在り方だった。

 

 嫌われものでも! 憎まれっ子でも! やられ役でも! 主役を張れるって証明したい!!

 

 今でもはっきりと覚えているこのセリフが、私の目的と酷似しているようにも感じた。

 プラスでも、マイナスでも、ノーマルでも、生きる意味と言うものは存在するのだと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のかもしれない。

 人の輝きというものはマイナスであろうとプラスであろうと持っているものだということを証明したいという気持ちが、未だに名残惜しく残っているようにも感じた。私は過負荷()にしかなれないのだと理解していても、私の生き様というものを貫くためには避けては通れない問題だとも直感的に思っている。

 だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()私はやめる気はなかった。

 

 そうして決意を新たにしていたが、無理に続けても効率が悪くなるので1時ぐらいで切り上げた。

 そしてそのままベッドに入って、気が付いたら昼になっていたというわけだ。予定よりも長く寝ていたが、未だに少し眠いような気がする。

 時刻はすでに13時を回って、もう少しで長い針が6を指そうとしていた。

 昨日の夜に在ったやる気は日を跨いだからか萎えており、今日は有栖の付き添い以外で部屋から出る気にすらならなかった。一日一食でも十分だが、こんなこともあろうかと昨日珍しいものを見つけたので買っておいた()()に手を伸ばした。

 

 カロリー〇イト チョコ味

 

 自販機産である。前世(あっち)ではそれなりに見たが、こっちに来てからは初めて見た。昨日無料だからと、自販機の飲み物を片っ端から漁った時に見つけたので一緒に回収した。

 悪気はなかった。ラウンジでスタッフからコップを貰って、部屋の中で一種類ずつ買った飲み物を混ぜて飲んだだけだ。誰でも一度はあるだろう。ドリンクバーでジュースを混ぜるのと同じだ。

 コーンポタージュとコーヒーと緑茶とお汁粉はなかなかの強敵だった。

 

 昨日買って、ぬるくなっている余ったミネラルウォーターを口に含む。

 寝起き特有の口の中の気持ち悪さが、洗い流された。そして、カロリー〇イトを食べる。食べかすがベッドの上に散らかるが、どうせ私のものではないし私には関係ないからどうでもいい。

 そうして口の中がパサついたところで再びミネラルウォーターを口にした。もっちょもっちょといった感触が口の中で繰り返される。ゴクンと飲み込むと、少しばかりお腹が満たされた気がした。

 そしてミネラルウォーター二本目を取り出し、飲み口を口に合わせる。

 そんな時だった。

 

 キーンッという高い音が室内で反響した。

 

「ブッフォ!?」

 

 驚いて思わず噴き出してしまった。

 ベッドの中の枕の上で食事をしている状態だったので、枕がびしょ濡れになった。

 不幸中の幸いと言うべきか、シーツの方まで被害はなく枕だけが全ての犠牲になったようだ。

 いったい何の音だったのかと思っていると放送が入った。

 

『生徒の皆さんにご連絡いたします。先ほどすべての生徒宛てに学校から連絡事項を記載したメールを送信いたしました。各自携帯を―――――――』

 

 そこまで聞けば十分だ。

 待ってましたと言わんばかりに、音を発していたであろう携帯電話を確認した。

 そこには間もなく特別試験を開始すること、『20時40分』に集合すること、10分以上の遅刻にはペナルティがあることなどが記載されていた。

 

 一度流して読み、見直しの二回目を見ていたところで『各自指定された部屋、指定された時間』という部分が引っかかった。

 確信を得るべく、時折覗いてはいたものの書き込むことは最低限しかしなかった()()()()()()()()()()()()()()()()を開いた。

 

『今回の特別試験、書き方的にグループ分けされるみたいだから時間と場所をみんな書いてほしいんだけどいいかな? 私は20時40分組の2階202号室だった。気づいていない人がいたら他の人も書き込んでもらうようにしてほしい』

 

 突然私がこんなことをしていることに驚く人もいるかもしれない。

 乗ってくる人もそう多くはなさそうだと思っていたが、早くも書き込んだ人がいるみたいだった。

 

『俺は18時の2階203号室だ。誰が同じグループか知っておいた方が気が楽だし、皆も書き込んでくれよな』

 

 書き込んだのは茂だった。

 思わずガッツポーズをしてしまいそうになる。それほどのファインプレーだった。

 私が突然こんなことを言ったところで、乗って来る人はたかが知れている。だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。一人が乗れば、それに気づいた周りの人が乗り始める。そして一人、また一人と段々増えていけばそのうち、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という強迫観念に駆られる。

 現に、茂が乗ったのを皮切りにクラスメイト達が書き込み始めた。

 

 康平と有栖が早い段階に反応し、()()()()を汲んだのかわからないが彼女たちも書き込んでいた。

 

『私は零君と同じ20時40分の2階202号室です。他の方も協力お願いします』

 

『俺も零と同じ20時40分、2階202号室だ。気づいていないクラスメイトがいたら声をかけてほしい』

 

 …それだけ分かれば十分だ。

 他のクラスメイトのことはそこまで重要視していない。

 私は内心ほくそ笑んだ。

 これから忙しくなるぞと思っていると、枕がびしょ濡れなことを思い出した。濡れている枕を見ると、下にまでシミを作っており、シーツも交換しなくてはいけなくなっていた。時間が経ったせいで、下の方に染みていったのだろう。

 私は大きなため息を吐き出し、濡れている枕とシーツを交換してもらうために制服に着替えてから、ラウンジに向かうのだった。

 

_____________________________________________

 

 

 ラウンジで枕とシーツの替えを貰った後、私はまた部屋に戻って引き籠っていた。

 直接船内を歩いてもいいが、今からしたいことは部屋でもできることだったのでわざわざ歩き回って他の人に見られるような真似をしたくなかった。

 シーツを交換してから、枕を取り換える。濡れた枕をシーツで包んでそのまま放置した。後で外に出るときについでに渡すことにする。

 私はベッドに転がり、携帯を取り出して()()への個人チャットを開いた。

 

『康平、ちょっと話があるんだけど』

 

 先ほどのグループチャットでは、既にクラスメイト達の全ての時間と部屋割が書き込まれていた。

 だが、康平はかなり最初の方に書き込んでいたため個人チャットの方には気づかないかもしれない。

 10分経っても書き込みがなかったら電話をしようかと思っていた。

 

『どうかしたか?』

 

 そう思っていたが、2分も経たないうちに返事があった。

 他に学校側からの連絡がある可能性を考えたのかもしれない。

 

『今回の特別試験についての話をしたいんだけどいいかい?』

 

『今すぐか?』

 

『ここだけで済むことだけど、今忙しい?』

 

『チャットをする分には問題ない。話に行くとなると少し時間がかかる』

 

『それならチャットで。今回の特別試験、私も一枚かませてくれないかい?』

 

『どういうことだ?』

 

『そう難しいことじゃないんだけど、一つだけお願いがあるからそれを聞いてほしい。どうかな?』

 

『なんでもというわけにはいかないが、零の頼みならある程度は聞こう。前回の特別試験のこともある』

 

『それは気にしてないけど、お言葉に甘えるよ。康平はいつもと変わらない振る舞いをしてほしい』

 

『詳しく頼む』

 

『Aクラスのリーダーで、Aクラスだというプライドを胸に掲げて、慎重で、保守的で、クラスメイトのことを良く思っているその姿勢を崩さないでほしい』

 

『元からそのつもりだ。だが、前回の特別試験のことがある以上、俺のことを見限ったクラスメイトがいてもおかしくないだろう。それを踏まえると、前回のようにはいかないかもしれない』

 

『その辺は少し根回しをするから、康平はありのままの自分で居てほしいんだ』

 

『了解した。その方が都合がいいのなら、そのように心がける』

 

『頼んだ』

 

 とりあえず康平には話が付いた。これで、()()()()()()()()()()()()であると他のクラスに誤認させるための一歩を作る。

 思いのほか康平がこっちの言い分をおとなしく受け入れたのが気になったが、説明が終わった後にでも有栖と三人で話すはずだ。その時にでも聞いてみるか。

 次に手をまわすのは、当然有栖だ。

 

『有栖、今ちょっといい?』

 

 こちらも多少時間がかかるかと思いきや、返事はすぐに来た。

 

『どうかしましたか?』

 

『少し話があるんだけど、今いいかい?』

 

『でしたら、私の部屋に来てください。私も話したいことがあります。橋本君と入れ替わりでよろしいですか?』

 

『了解。そしたら今からそっちに行く』

 

 チャットだけで済ませたかったが、チャットの履歴を残されるデメリットを考えると二人だけで直接会うなら問題ないだろうと判断した。

 濡れた枕を包んだシーツを部屋を出て近くにいたスタッフに渡してから、私は携帯を持って有栖のいる部屋に向かった。

 

 

______________________________

 

 

 有栖の部屋に入ると、橋本君と有栖がそこにいた。

 私が来たことを確認して、橋本君が部屋を出ていく。橋本君が部屋を出ていったのを確認してから、私は有栖に向き合った。

 

「今回の特別試験、ちょっと真面目にやろうかと思ってるんだ。それで、少し協力してほしい」

 

「どういう風の吹き回しでしょうか? クラス間の抗争にはあまり参加したくないと思っていましたが」

 

()()()()()()()()()()()()()。君は私が叩き潰す」

 

「…私が他のクラスに後れを取ると言いたいのですか?」

 

クラスメイト(足手まとい)がいるんだから、そうなってもおかしくないだろう? 別にAクラスで居る必要性なんて感じないけど、私は私のためにAクラスを持ち上げる」

 

「確かにそういう可能性もなくはないでしょう。ですが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「確かに有栖に対してメリットはそこまでないかもしれない。やろうと思えば一人でクラスを移れるぐらいのポイントを貯めることだってできるだろう」

 

「私が負ける前提のところが気になりますが、3年間もあれば()()()()()は難しくないでしょう。話はそれだけですか?」

 

「それだけだよ。協力してくれないなら、()()()()()()()()()()

 

 私が意味深にそう返すと、彼女は少し考えるように黙ってしまった。

 私の言いたいことを理解したからこそ、どっちがいいのか考えてしまっているのだろう。

 

 有栖が協力してくれないなら、文字通り「勝手」にやる。

 

 私の過負荷(マイナス)という気持ち悪さを知っているのなら、何をしてくるのかわからないことよりも、手元に置いておいた方がいいかもしれないと考えているだろう。

 そう思わせられれば、()()()()()()()()()

 

「気が変わったら、呼び出された後にでも言ってほしい。まだ試験の内容すらわかってないからね」

 

「…そうさせてもらいます」

 

「それで有栖の話は何だい? そっちも話したいことがあるって書いてたよね?」

 

「今回の特別試験、零君はどう思いますか?」

 

「予想的にはクラス内でグループ分けをしたことから、クラスに関係なくグループで何かをするってところだと思ってる。前回の特別試験はクラスごとに分かれたこともあるし、今回はクラスの垣根をなくすような形にするんじゃないか?」

 

「私も概ねそう思っています。クラスごとではなく、グループ単位で何かをするということで間違いないでしょう」

 

「問題はどこにポイントを絡ませてくるかってところかな? 何もポイントが絡まないようなものだったら、積極的に行動しようとする人は少なくなるだろうしね」

 

「いくつか予想は立てていますが、はっきりとした証拠がないので図りかねています」

 

「最初に説明された組から聞けば大体の概要はわかると思うから、そこまで気にすることはないと思ってた」

 

「グループ分けの方はどう思いますか?」

 

「予想だけど、()()()()()()()()()()()とみた。私はともかく、有栖と康平が一緒にまとめられている以上は何らかの評価基準があるんだろう」

 

「私の予想では担任の教師が決めたと思います。零君が真嶋先生に質問をしに行ったことは知ってますから、そこら辺を考慮したのではないでしょうか?」

 

 何でそんなことを知っているのだろうかと思ったが、概ね手下(神室さん)に見張らせていたのだろう。職員室では人目がありすぎてそこまで注意していなかった。

 

 尤も、そんなことはどうでもいい。

 

「過大評価もいいところだ。こんな過負荷()が優秀な人のいっぱいいるグループになんて入れられたら、委縮して何もできなくなるよ」

 

「私はそうは思いませんよ?」

 

「いいや本当だよ。エリートの巣窟になんて入れられたら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()―――」

 

 いじめられっ子(マイナス)クラスの一員(エリート)だと認識して、クラスの輪(エリート集団)に無理やり入れる。

 それがどれだけ残酷なことか、どれだけ()()()()ことか、想像しただけで吐き気がする。Aクラスに入れられた時にはなかった嫌悪感が、今の私を支配していた。

 Aクラスの生徒は優秀ではあるが、()()()でもある。何があってもリーダーが何とかしてくれると思っている人の方が多い。そんな人達が固まっているのだから、過負荷()がいることにもまだ納得ができた。

 だが、学年中から優秀な人を選りすぐってグループを作った挙句、その中に過負荷()が入れられたのだ。学校側は何一つ私を理解していない。

 

 私の欠点を、性質を、本質を、気質を、在り方を、能力を、思考を、技能を、特徴を、判断を、力量を、後悔を、苦悩を、無能さを、不幸を、汚さを、人生を、あいつらは何一つ理解していない。

 

 プラス(エリート)を名乗るのであれば、それぐらい見抜いてほしかった。過負荷(マイナス)なのにエリートの上に立っているかのように錯覚することさえ気持ち悪い。錯覚であるとわかっているから、尚更たちが悪い。

 私の中の負の感情は、文字通り過負荷(マイナス)となって私から滲み出ていた。

 

「…何に気が障ったのかはわかりませんが、それを抑えてもらえますか?」

 

「…そうだね。悪かった。ただの八つ当たりだ」

 

 そう言って、意識的に自分の中で昂っている過負荷(マイナス)を抑える。

 不完成してから、少しエリートに対して過敏になっている自覚はあった。

 感情の制御が上手くいかない。過負荷(マイナス)が本質をさらけ出すことを良しとするのであれば、そもそも感情の制御なんて必要ないからかもしれない。

 過負荷(マイナス)の切り替えを意識しておいたほうがいいだろう。社会が過負荷(マイナス)を受け入れない以上、生きていくうえでON、OFFの切り替えができなくなったら面倒だ。

 顔を歪めている有栖に謝罪をして、へらへらとした笑みを顔に張り付けた。

 

「時間までどうしよっか? このまま考察を続けて時間まで待つのも乙だけど、疲れた頭で説明を受けるのも効率的に良くないんじゃないか?」

 

「最初のグループの報告が上がるまでお話でもして時間を潰しましょう」

 

「そうしようか。ストレスばっかり溜めても仕方ないしね」

 

 そう言って私達は最初のグループ説明を受けるであろう時間まで、お互いに溜めていた何かを吐き出すかのように談笑した。

 最初のグループの集合時間まで残り、3時間程度。それから20分程度の説明がある。チャットの方に書き込まれるまでにはもう数分かかるだろう。

 私と有栖の会話は、その時がくるまで止まることはなかった。

 




 この作品の優待者当ての特別試験は原作と大分剥離することになるかもしれません。
 その理由として以下の三点が主な理由となります。
・オリ主(小坂零)の参加
・坂柳有栖の参加
・原作モブキャラ(竹本茂)のオリキャラ化
 話数を重ねることにこの辺りがわかりやすく違いとしてでてくると思いますので、ご理解いただければと思います。

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