ようこそマイナス気質な転生者がいるAクラスへ   作:死埜

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3話目 初日の話

 結局職員室に行こうとしたら、どこにあるのかわからなくって帰ってきた。そのことを坂柳さんに話したら笑われた。人が真面目に職員室に行こうとしたのに笑うなんてなんて酷い人なんだ、とか思ったり思わなかったりしたけど、まあどうでもいい(私には関係ない)

 

「ところで小坂君。この後入学式が終わったら、私達は食事に行こうと思うのですが一緒にいかがですか?」

 

 不意にそんなことを言われた。今このAクラスでは、スキンヘッド同盟(葛城グループ)と、病弱少女見守り隊(坂柳グループ)とで別れている。こんな中で私が目の前の病弱少女(中身腹黒間違いなし)からのお誘いを断ったとなれば、もれなくスキンヘッドになる(偏見)。

 第三勢力を作るようなカリスマ性がないのはわかりきっているし、断ると孤立するか、スキンヘッドになるかの二択だ。

 …流石にふざけすぎか。まあ、言葉に出さなければどう思っていたって私の自由だ。だから、『私は悪くない』。

 

「私でよければご一緒しましょう」

 

「ええ、こちらこそよろしくお願いしますね」

 

 

 こんなことを話していたせいで周りのクラスメイトから目を付けられた。私の方を見て「誰だあいつは?」とか、「坂柳さんの恋人か?」などと好き勝手言ってる。こういう悪意ある視線に晒されるのはいつものかとだから何とも思わないが、これを狙ってやられたのだとしたらタチが悪いな。

 そう思いながら横を見ると坂柳さんがこっちを見てにっこり笑った。

 

 その見るものすべてを魅了するような笑顔を見ても気持ち悪いとしか感じられなくなった(マイナス)は、とりあえず愛想笑いで返した。

 

 

 

 

_____________

 

 

 面倒くさい入学式が終わった。めちゃくちゃに乱入してみんなぶっ壊したくなるようなめんどくささだった。もっとも、そんなことしないしできないが。

 

「それではみなさん、行きましょうか」

 

「どこの店に行くのかは決めてるのか?」

 

「来る途中に見つけたファミレスあたりにしようと思ってます」

 

 そんなことを考えているうちに、坂柳さんたちがどこに行くのか話していた。食える物を出してくれればどこでもいいと思っている私は、早く終わらないかなとか思いながら彼女たちについて行った。

 

 歩きながら考える。原作ではエリート集団がAクラスになると聞いていたが本当にそうなのかと。

 エリートといえばそういえなくもないが、特別(スペシャル)な人間は坂柳さんぐらいしかいない。

 その彼女も表立って特別なことがあるというよりは、()()()()()()()()()()()()()()のではないかというところがある。本来なるはずだった型を壊して当てはまっているような感覚がする。

 

 本当にこんな奴らがエリート集団なのか?

 まあそもそも私が混ざっている段階でプラスの集団とは言い難い。私が思うに彼女たちを壊すのはそこまで難しくないだろう。お話すればすぐ壊れてしまいそうな感じがある。というより、何もしなくてもそのうち下り落ちていきそうですらある。

 張りぼてのリーダー(葛城君)なんちゃってラスボス(坂柳さん)、この二人以外は頭がいいだけの凡人と大差ないように見える

 

 主人公補正が入った主人公(綾小路君)にマークされたら一瞬で崩壊することになるだろう。

 それこそ、裸エプロン先輩が露出狂生徒会長に負けたように。

 

 世の中には勝てない人種が存在する。

 特別(スペシャル)ぐらいじゃ主人公(アブノーマル)には勝てない。

 過負荷(マイナス)はそもそも勝てない。

 まあ、マイナスの私がAクラスにいる以上、下り落ちていくのは確定事項のようなものか。

 

 

 

「…小坂君?」

 

 

 

 この中で私はどうすればよいのか。マイナスであることを隠しても、最後の最後で必ず負けることは去年の空手の大会で思い知った。

 かといって、このまま主人公に何もできずに轢き殺されるのも癪だ。マイナスの私としては裸エプロン先輩みたいに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「小坂君?…聞こえてないみたいですね」

 

 

 

 

 裸エプロン先輩みたいに心の底から勝ちを渇望しているわけではない。前世では普通に勝っていた私は勝利の味を知っている。

 生まれてからは敗北ばかり味わってきたが、勝利の味を知っている以上、無理に勝ちに行く気はない。虚しい勝利に興味はない。得るなら、完全にプラスの人間を叩き潰したと思える勝利が欲しい。

 

 だけど、それさえ無理に欲しいとは思わない。だからこそ困っているのだ。私はこのAクラスで何をしたいのか。マイナスの価値とは、学校生活で見つけられるのか。

 他人を蹴落としていく様を見たいのか、蹴落とされる自分を見たいのか、蹴落とされるクラスメイトを見たいのか。上に行きたいと思うこともあるかもしれないが、今の自分にはそんなことはどうでもいいこととしか思えない。

 

 

「小坂君!」

 

 

 私はそう言われて肩を軽く叩かれた。そこでやっと自分がファミレスにいることを理解した。どうやら私は周りに合わせて考え事をしながら歩いていたせいで、ファミレスに入ってことにすら気づかなかったみたいだ。

 

「ごめん、考え事をしてて気づかなかった」

 

 そう言ってとりあえず頭を下げた。

 

「みなさん注文が決まったのですが小坂君だけ反応がなかったので呼びかけても返事がなかったので心配しました」

 

「ごめんごめん、ファミレスに来たことがなかったんでちょっといろいろ慣れなくて…」

 

 これは本当だ。私は転生してからファミレスに来たことはない。施設にいたときにはいくような機会がなかったし、中学校に入ってからもお金がかかるような付き合いは全部断ってきた。

 

「ファミレスに行ったことがないってマジか!?」

 

 クラスの男子が声を大きくして言ってくる。他のクラスメイトも興味津々でこっちを見てくる。その中には馬鹿にしたような視線も交じっていてそれがむしろ心地よい。

 

「大したことではないのですが、物心ついたときから施設暮らしだったので行く機会がなかったんです」

 

 そう言った瞬間、周囲の温度が少し下がった気がした。

 

「施設暮らし…ですか?」

 

 かろうじて坂柳さんが沈黙を破った。

 

「はい。0歳の時にはすでに捨てられていたそうなので高校は全寮制のところを探してました。その都合で小学校にも通えなかったので施設で勉強してましたけど、そこまで不自由な生活は送ってませんよ」

 

「0歳で…」

 

 なんか口を開くたびにどんどん空気が重くなっている気がする。別にこれぐらい大したことじゃないし、制服をめくった中にある傷に比べたらどこもたいしたようなことはないのに周りの人の視線が、「坂柳さんに近づく男」から、「かわいそうな環境で過ごした人」になっているように思う。

 ここで自分(マイナス)を出したら一気に評価が「得体のしれない気持ち悪い男」に変わるんだろうなとか、意味のないことを考えていた。

 

 でもよく考えたら、私はマイナスのことを知りたいと思ってマイナスになったからわかるけど、今まで普通に生きてきたプラス側の人たちからすれば十分不幸(かわいそう)なのか。

 そう考えると失敗してしまったと実感した。

 思考の海から急に引きずり出されたせいで、咄嗟に変なことを言ってしまった罰なのかもしれない。

 

 まあ、そんなことどうでもいい(私には関係ない)けど。

 

「まあ、そんなに気にしないで。同じクラスメイトなんだからさ。とりあえず、そのメニュー?、を借りてもいい?」

 

「おっ…おう…」

 

 渡されたメニューに目を通す。

 大体1000ポイントぐらいのものが多かった。

 

「ふむふむ…とりあえず、このハンバーグセットにするよ。

 …そんなに緊張しなくていいよ。これじゃあ楽しい親睦会がお通夜じゃないか」

 

「あー…無遠慮なことを聞いて悪かった」

 

 そう言って私にさっき聞いてきた男子は頭を下げた。別に謝罪が欲しかったわけではないが、ここでこの謝罪を受け取っておくのが一番丸く収まる気がした。

 

「気にしない気にしない。こっちもこんなに空気を重くしてしまうとは思わなかったから、お相子ってことで」

 

 そう言って頭を下げる。とりあえず謝罪しておく。この謝罪で周りの空気が和らいだのを感じた。

 軽い雰囲気を出して上辺だけでも謝っておけば、勝手に解決したと思ってくれるんだから扱いやすい人間だと思う。普通(ノーマル)の人間ならばそうなっても仕方ないが。

 

 

 

 そんなやり取りをして、注文をしてもらい料理がくるまで周りのクラスメートと話すことになった。

 

「小坂って坂柳さんとどういう関係なんだ?」

 

「ただ席が隣になっただけの間柄だよ」

 

 案の定こんなことを聞かれる。

 他の人たちもそれに便乗していろいろ聞いてくる。

 

「でも、坂柳さんが直接呼びかけてたでしょ?

 ほんとはどっかで知り合ってたんじゃないかなーってみんな思ってるんだよ」

 

「中学校が同じだったわけじゃないし、当然施設で会った覚えもない。だから、今日が初対面で間違いないはず。

 ……もしかしてどっかで会ってたりしてた?」

 

 そう言って坂柳さんの方を見る。自分に向いていた視線が一斉に坂柳さんの方に向く。

 ターゲットを移していくのは常套手段だ。自分が目立たないためにはこういうことから始めないといけない。

 

「いえ、初対面ですよ。ただ、少し面白そうなものを持っている雰囲気がしたので声をかけたんです」

 

 そんな意味深なことを言ってくる。間違いなく少し漏らしたマイナスのせいなんだろうが、わざわざ言う必要もないだろう。

 

「そんな面白い人間じゃないと思うけどね。空手部だったけど結局地区予選落ちだったし」

 

「いえ、そういうことではなくもっと根本的なものです」

 

「根本的なこと?」

 

 意外と勘がいいのかもしれない。いや、特別(スペシャル)ならこれぐらいは当たり前か。

 

 

 

 そんなこと思っていると料理が運ばれてきた。坂柳さんが乾杯の音頭を取り、さっきの話は有耶無耶にされていきながら食事になった。ここのファミレスの料理は結構おいしい。少なくとも、自分が作る物よりもとてもおいしく感じる。他人が作ったもののほうがおいしいとかいうやつなのかもしれない。

 

 そんなことを思いながら5分ぐらいで私の食器は空になった。小さい頃、まだマイナスのコントロールができていなかった頃は食事をよく奪われることがあったため早く食べる癖がついてしまっていた。その結果、他の人がまだ半分も食べていないのにもう食事を終えてしまっている。

 

 とりあえず思考を廻らせよう。時間が余っているならこれからのことについて少しでも多く考えを廻らす必要がある。

 今この場には、坂柳さんにについてきている人が14人くらい。私含めたら15人。これが今の坂柳派ということになるんだろう。

 スキンヘッドにはなりたくないからとりあえずこっちに来たけど、このまま彼女について行っても結局主人公(綾小路君)に皆殺しにされるような気がする。彼の性格的にはあまりAクラスには興味がないみたいだったけど、彼の周りの人間はAクラスに興味津々な人が多い。彼がそれに触発されてAクラスを目指すことになるかもしれないし、そもそもこの病弱少女(坂柳さん)が彼を挑発することも十分に考えられる。

 そうなるとマイナスの私はどこかで潰されるのが目に見えている。今の私は普通(ノーマル)の皮をかぶっているし、何より根本的にマイナスだ。圧倒的プラス(主人公)に勝てるはずがない。

 

 さっきまでは一泡吹かせたいとか思っていたが冷静に考えるとそれすら難しい気がしてきた。何より私は相手を嵌めることがあまり得意じゃない。壊すことは割と簡単にできるが、相手を嵌めて社会的に潰すとなると難しいものがある。そんなことするくらいなら物理的に殺したくなるような脳筋だし(殺せるとは言ってない)、普通(ノーマル)の私は下手なことをやると()()()()()()()()()()()

 過負荷(マイナス)全開ならそもそも何をしたところで相手が覚えていられないし、彼との縁そのものを切ってしまえば彼は私に会うことができなくなるだろう。

 

 だが、それじゃあ勝利とは言えない。

 

 勝ったことさえ他の人が知ることができないというのに、それがどうして勝利と言えようか。勝ちたいとそこまで渇望してはいないが、虚しい勝利を手に入れようとも思わない。

 そう考えると、彼とは直接関わらないでいくスタイルが一番合っていると思う。出来れば接触して恩を売っていくのが一番かもしれないがそれはそれでリスキーな気もする。

 

 

「すみません、少し話があるのですがよろしいでしょうか?」

 

 そんな言葉で思考を現実に戻す。坂柳さんが言ったらしく、気が付いたらみんな食事を終えて彼女を見ている。

 

「話って何? 坂柳さん」

 

「これからのことをお話しようと思って…楽しい雰囲気に水を差すようになるのですがよろしいでしょうか?」

 

 そう彼女が言うと雑談していた人も静かになり、真剣に彼女のほうを向いた。

 みんな今日のことについて疑問を持っていたみたいだ。これからのことの話となるとみんなふざけたような雰囲気がなくなった。

 

 冷静に考えていきなり「入学おめでとうございまーす。10万円どーん」なんてされて疑わないわけがないだろう。こういう自分の利害にだけは敏感な姿勢は好感が持てる。実に人間(ノーマル)らしくて、実に前向き(マイナス)だ。

 

「まず、疑問に思った方も多いと思うのですが、私達は今日いきなり10万円分もの大金を一人ずつもらいました」

 

「うん、そうだね」

 

「いきなり10万円分もくれるなんて太っ腹な学校だと思ったけど、やっぱなんかおかしいよな」

 

「しかも、このポイントが毎月1日に振り込まれることになっています、何かおかしいと思いませんか?

 ねえ、小坂君?」

 

 

 そういうと彼女はこっちを向いた。何故ここで私に振るんだ?

 もしかして私がここのシステムを知っていることを知っているのか?

 いや、原作知識を漏らした覚えはないからそれはない…。

 

 そう考えると、さっき漏らしたマイナスの影響か?

 さっきの雰囲気を漏らした時にとっさに隠したせいで()()()()()()()()()()()()()()()()()だと思っているとか?

 

 …そんな気がしてきた。

 確かに、咄嗟に隠したせいでマイナスの持つ威圧感だけが漏れて、それを感じ取ったとしたら納得できる。クラスでやけに突っかかってきたのもこの大物(笑)が自分に敵対しないかを確かめたかったんだろう。彼女は自分でクラスをまとめ上げようとしていることからも説明がつく。

 

 とりあえずみんながこっちを見て早く言えという空気になっているので、さっさと終わらせよう。

 幸いなことに原作知識とも呼べるものがある以上、私の推理は答えを見ながら解いているようなものだ。

 

「あくまで私の考えだけどいいかい?」

 

「ええ、もちろんです」

 

「まあ、まず来月も10万ポイントが入るわけじゃないってことだろう。毎月ポイントが1日に入ると言っていたけど、10万ポイントが毎月入るとは聞いてない。さっき職員室に行こうとしたときにいろいろ聞きたかったんだけど結局聞けずじまいだから確信できてないけどね」

 

 私の言葉に周りのクラスメイトが感心したように見えた。恐らく、さっきの協調性のない行動の裏にはこんなことを考えていたのかということに感心しているのだろう。

 

「ついでに言うと、さっきの教室には見えづらいように隠されていたが監視カメラがいくつかあった。恐らく、授業中の様子を探るためのものだと思う」

 

「監視カメラ!?」

 

 さっき私に謝った男子(竹本というらしい)が声を荒げた。常識的に考えれば授業をする教室に監視カメラがあるなんて普通の高校では考えられないだろう。

 しかし、この学校は普通とはかけ離れている。

 

「教室だけじゃない。ここに来る途中も結構な頻度でみつけたし、この店の中にも監視カメラを見つけた。恐らく、マイナスな行動をした人間を特定してそのクラスのポイントから引いて行って残った分が来月のポイントになるという感じだと思います」

 

「クラス? 個人じゃなくて?」

 

「個人単位で監視するには膨大な人手がかかる。管理も生徒一人につき一人の職員が必要になるだろう。行動を機械で判断するような技術ができているとは思えないし、それをこの学校に試験的に採用している可能性も現実的じゃない。

 しかし、クラスごとなら個人で見るよりも人手はかからない上に、クラスの中で一人が問題を起こすと他の人に迷惑をかけるので拘束力(団結力)が増します」

 

 あくまで予想ですがね。と付け加えると坂柳さんが満足そうにうなずいてこっちを見た。

 

「素晴らしいです。小坂君、満点を差し上げます」

 

「ありがとう。坂柳さんも同じ考えってことでいいのか?」

 

「はい、私も恐らくそうだろうと思っています」

 

「なるほどー…」

 

「よく監視カメラなんてわかったな!」

 

「よく見てれば結構簡単にわかるよ?

 意識的に壁の色とか見てると違ってるところが見えてくるし」

 

「それもすごいけど、あれだけの説明でよくわかったね?」

 

「あくまで予想だからね。来月になってクラス全員の支給されるポイントが減っていたら、恐らくこの考えであってると思う」

 

「じゃあ明日クラスのみんなに教えようぜ!

 そうしたら、来月にも10万ポイントが入るんだろ?」

 

 確かにそうなるが、その考え方ではポイントが減らなかったときに答え合わせができるかわからない。何より、隣の坂柳さん(病弱腹黒少女)が許すとは思えない。

 

「いえ、それはやめてください」

 

「? 坂柳さんなんで?」

 

「それで授業中にみんなが真面目に授業を受けてしまうと減点基準が何なのかわからなくなってしまいます。皆さんにはこのことを頭に入れてもらって実践してほしいのですが他の人にはまだ言ってほしくないんです」

 

 私がこれを利用してあのスキンヘッド禿を蹴落としにかかるからボンクラどもは黙って言うことを聞け。

 

 なんていう副音声が聞こえてきたが多分気のせいだろう。病弱腹黒系美少女なんて現実にいるわけないよね?

 いや、ここはラノベが基準となっているような世界だったか。そう考えるといてもおかしくない気がしてきた。

 

 そんなことを考えていたら、坂柳さんがこっちに近づいて耳元でこうささやいた。

 

 

「あとで二人きりで話があります」

 

 

 彼女はそういうとこっちを見てにっこり笑った。

 

 その歪んだ笑顔の方が美しいと思った私は、やっぱりどこまでも(マイナス)なのだと思った。

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