ようこそマイナス気質な転生者がいるAクラスへ   作:死埜

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27話目 特別試験Ⅱ 一日目

 朝食を終えた頃、グループチャットの方に優待者の名前が書き込まれた。

 加えて、各グループの他のクラスの生徒を含めた名簿がチャットに書き込まれている。それによって昨日有栖からもらった名簿の意味がほとんどなくなっていた。

 だが、事は昨日康平が指示をした通りに進んでいる。

 

『先ほど、零と坂柳と相談して今回の特別試験でのAクラスの方針を決めた。まず、基本の方針として今回の特別試験では優待者を当てさせないことを念頭に置くことにした。

 基本的な動きとしては、最初にこの書き込みを確認次第各グループのメンバーを各自書き込んでほしい。その次に、優待者になったものは判明次第名乗り出てほしい。出来ればこのグループチャットの場で名乗り出てほしいと思っているが、名乗りづらかったら個人で俺か坂柳か零に送ってくれても構わない。

 そして重要な明日の話し合いだが、Aクラスの生徒は()()()()話し合いに参加()()()でほしい。

 話し合いで優待者がわかってしまわないように、優待者になったものは特に注意してくれ。できることなら全員が話し合いに不参加の姿勢を取ってほしいと思う。

 だが、前回の失敗がある以上最終判断は独自の判断に任せることにした。優待者だと自信をもって指定できるのならそれを止めることはしない。

 止めるようなことはしないが、それでクラスにどのような影響を与えるか、熟考してから決断してほしいと思っている』

 

 ほしい、思う、と強制するような言葉ではなく、方針としてはそういう風にしたということを前面に押し出すような文章だった。強制はしていないが、同調圧力をかけるには十分な内容だ。

 最後の文は有栖に宛てたものだろう。他のクラスメイトが興味本位で下手なことをしないように釘を刺したということもあるが、優待者を指名したければ確実性をより高めろ、と言っているようにも思える。

 康平が個別で優待者だと名乗り出てもいいと書いていたが、優待者に指名された人たちは全員グループチャットの方で名乗り出た。

 

 そして、賽は投げられる。

 

『優待者の法則を見つけました。

 各グループのメンバーを五十音順に並べたときに、上から十二支の順番に当てはまる人が優待者です。

 私達が所属する辰グループを例とすると、メンバーは

 

 Aクラス 葛城康平

      小坂零

      坂柳有栖

 

 Bクラス 安藤紗世

      神崎隆二

      津辺仁美

 

 Cクラス 小田拓海

      鈴木英俊

      園田正志

      龍園翔

 

 Dクラス 櫛田桔梗

      平田洋介

      堀北鈴音

 

 ですので、これをまず五十音順に並べ替えます。

 

 安藤紗世

 小田拓海

 葛城康平

 神崎隆二

 櫛田桔梗

 小坂零

 坂柳有栖

 鈴木英俊

 園田正志

 津辺仁美

 平田洋介

 堀北鈴音

 龍園翔

 

 辰、なので子丑寅卯辰で上から五番目の櫛田さんが優待者です。

 Aクラスの優待者が割り当てられている子、酉、亥のグループも同じようにすると、優待者を名乗り出た方と一致します。

 全てのグループで各クラスのメンバーが男女問わず五十音順に並べられていること、十二支を用いた法則となっていることも、この法則を裏付ける理由になります。

 優待者に法則があるとするならば、これで確定だと判断しました』

 

 自室に戻って時間を潰そうと思っていた矢先に来たチャットの内容がこれだ。

 あれから私と康平と有栖の三人だけをつなぐチャットを作成した。言うまでもなく今回の特別試験で連絡を取りやすくするためにだが、ここまで早く優待者を割り出すとは思っていなかったので正直驚いた。流石は特別(スペシャル)と言ったところか。

 念のために、他のグループも含めて全てのグループを有栖が見つけた法則に当てはめてみた。

 当然の如く、Aクラスの優待者が割り当てられた3グループの優待者とチャットで名乗り出た優待者が完全に一致した。それどころか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことからも、この法則の裏付けにもつながるだろう。

 優待者が重要なこの試験で、優待者の数を偏らせるようなことを学校側がするはずがない。

 

 優待者の数が多ければ多いほど、クラスポイントに関わる機会が増えるのだ。

 極論、優待者が一人もいないクラスがあれば自分たちから当てようとしない限りクラスポイントに一切かかわることはできない。

 そういう意味で見たら、Aクラスはそうなっても許容できる。だが、学校側はそれを良しとしないだろう。

 特別試験の一番大事な要素は、クラスポイントの変動が起こるということだ。それも、ただ増えるだけではなくて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 奪う、ということはポイントの差し引きがあるわけだ。今回の場合はそれを優待者の指名によって決める。だから、()()()()()()()()()()()()()()

 それでは学校側の試験に優遇されているクラス、冷遇されているクラスが生まれてしまうことと同義だ。

 

 この学校は『バカとテストと召喚獣』みたいに、クラス分けで優劣を決めている。だが、学校生活を送る上では()()()()だ。Dクラスは教室がぼろいわけでも、窓ガラスが仕事をしていないわけでも、椅子が綿の出ている座布団でもない。

 DクラスでもAクラスとそこまで待遇が変わっているわけではないのだ。初期メンバーの優劣があっても環境的要因をそこまで変化させていないということは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。

 だから、この特別試験の各クラスの優待者の数は12を4で割った数の3であると言える。

 恐らく有栖もそう思っているはずだ。

 そして、昨日の段階で優待者を当てられると確信していたからこそ、この試験で全優待者を決め打つ宣言をしたのだ。

 

 私こそがAクラスを纏めるのに相応しい。

 葛城君には分不相応だ。

 

 直接は言ってないが、こう言っているように受け取れる。

 だから死ね、まで飛躍していないことが康平にとっての救いだろう。いや、単純に死体蹴りをする趣味がないだけか。

 

 前回の特別試験の結果だけで、康平は自分がリーダーとして力不足であることを認識させてしまった。それも、一番最初の特別試験でそうなってしまった。これが5回目の特別試験で一回だけ失敗したとかなら、そこまで落ち目になることはなかった。

 だけど、よりによって初回の特別試験で失敗してしまった。これによるイメージダウンはリーダーとしてまとめていくことに大きな悪影響を与えることは間違いない。

 そういう意味で、康平はAクラスのリーダー争いから落ちている。今回の特別試験が前回の特別試験から1週間も間を開けずに実施されているから発言力がまだあるだけで、これが夏休みが終わってからだったなら多くの人は康平の指示には従わなかったと予想できる。

 

 だから、今康平を攻撃することは()()()()とそこまで大差ないのだ。

 してもしなくても、有栖がAクラスのリーダーになることは揺るがないのだから。

 個人的には康平を傀儡人形にして有栖が影の支配者になった方がAクラスとしてはやりやすいと思うのだが、有栖のやり方的にそれはしないだろうと感じていた。

 

 自分が優秀な人間であることを誰かに示したがっている。

 他の誰でもない、()()()()が他者を支配することに楽しみを覚えている。

 自分よりも強いもの、理解の及ばないものすらも打ち勝ちたいと思っている。

 

 承認欲求、自己顕示欲、勝利願望。

 これらの言葉が彼女を示すのにちょうどいいのかもしれない。

 これが悪いことだと言うつもりはない。人間なら、誰しも一度は思うことだ。

 私にも覚えがある。

 

 小坂零()がいたことを知ってほしい。

 過負荷()欠点(マイナス)を知ってほしい。

 敗者(マイナス)でも勝者(プラス)に勝ちたい。

 

 マイナスでもプラスでも人と言う枠組みに乗っ取っている以上、欲を持っていて当たり前だということだろう。

 欲が悪いもの(マイナス)だと思えば、過負荷(マイナス)だからこそ持っていると言えるかもしれない。

 

 それがたとえ、どんなに他の人を傷つけても、他のモノを壊しても、自分自身を壊しても、欲が満たされなくても、満たされないことを悟っていても、欲が悪いことだと思っていても、欲が満たされてはいけないことだと知っていても、欲で身を亡ぼすと知っていても、人と言う枠組みの中で生きていく以上欲に振り回されるのだろう。

 

 その欲に、私もまた身を任せるとしよう。

 朝食を終えて、チャットの書き込みに適当に返事も書いた。今すべきことは特になく、話し合いの時間まで暇をつぶすことになる。

 要するに眠くなってきたのだ。いい感じにお腹も膨れて、ベッドはまだぬくぬくと温かい。その中でずっと携帯を弄っていた。

 今の時間は9時過ぎ。話し合いまで後3時間以上ある。

 私は携帯のアラームを設定し、ベッドの上で仰向けになると体の奥から這い上がるような睡眠欲に身を任せた。

 

 

_______________________________

 

 

 アラームの音で目を覚ます。

 話し合いの時間まで10分程度しかないが、身支度を整えて移動するだけなのでたいしたことはない。

 

 そう思っていた寝る前の私をぶん殴ってやりたい。

 携帯のアラームを止めた時に、有栖から連絡がきていたことが確認できた。

 

『部屋までの付き添いをお願いしてもいいですか? 他に頼れる方が葛城君しかいないので、出来れば零君にお願いしたいのです』

 

『もしかしてまだ寝てるのでしょうか? 気が付いたら連絡をください』

 

『本当に寝てしまったのですか? 葛城君とはそこまで仲が良くないので零君にお願いしたいのですが』

 

『10分前までなら待ちますので、お願いですから来てくださいね』

 

『不在着信 5件』

 

 それを見て、有栖は付き添いがいないと船の中を移動することすら許されていないことを完全に忘れていたことに気付いた。他のクラスメイト達も同じように話し合いをしに行くのだから、必然的に有栖の付き添いができるのは同じクラスの生徒に限られている。

 全員が全員同じ時間ではなかったはずだが、神室さんと橋本君と私達の時間は被っていることを思い出した。

 この時間帯は私じゃないから大丈夫だと思って油断していた。有栖なら橋本君辺りと行くだろうと思っていたが、橋本君だって自分のグループに行かなくてはいけないのだ。それでも橋本君なら有栖を送ってから自分の割り当てられた部屋に行くこともするだろうが、その様子を他のクラスに見られると有栖が自分のグループに付き添ってくれる人がいない悲しい子になってしまう。同じ派閥の話し合いの時間外の人に頼むことも考えられるが、私と同じ場所に行くのなら一緒に行ったほうがいいと思ったのだろう。

 もしくは康平とだが、Aクラス内では康平と有栖が対立しているのだ。康平がそんな器の小さい男ではないことは有栖も把握しているが、対立している相手に付き添いを頼むほど気まずいものはない。

 話し合いの時間まで残り13分。急いで制服を着ながら、有栖に電話をした。

 私が連絡するのを待っていたのか、ワンコールもしないうちに有栖に繋がった。

 私は寝起きであったこともあり、Aクラスがこの段階で落ちることは好ましくないことは理解していたので、とても冷静ではなく端的に言うとパニック一歩手前の状態だった。

 

「有栖! ごめん寝てた!」

 

『…後1分遅ければ他の方に連絡を入れるところでした。今、私は自室にいるのですが間に合いますか?』

 

「全速力で向かう、有栖の部屋まで飛ばせば2分。グループ分けされた部屋までは有栖のペースだと間に合わないから背負ってくけどいいね!?」

 

『…こうなっては仕方ありませんね。早めにお願いします』

 

「了解ッ!」

 

 転がっているミネラルウォーターの余りを飲み干して、着替えが終わった私は携帯と学生証カードだけを持って有栖の部屋に向かって走り出した。

 運が良いことに、廊下を出ても人が一人もいなかった。

 周りの人の目がないので、思いっきり全力で走りだした。

 

 

 

 階段を駆け上がり、有栖の部屋まで走る。

 幸いなことに周りに人が一人もいない。昼時なので昼食を食べに行っているか、話し合いの部屋に向かっているのだろう。

 私は全速力で走り続けた。つい最近まで歩けもしなかった状態なのに、元空手部で鍛錬をしばしば行っていた私の体力は未だに衰えていない。

 突然ドアが開いて人が飛び出してくることを考慮して、ドアの反対側の廊下を走り続けた。

 そうこうしているうちに有栖の部屋についた。

 

 ノックもせずにドアを開ける。

 有栖は待ちくたびれたようにこちらをジト目で見てきたが、それに対する反応をする間も惜しくて有栖の反対側を向いて膝を曲げた。

 

「早く乗って! 恥ずかしいかもしれないけど、許して!」

 

 私の鬼気迫る言葉に気圧されたのか、時間がないことをしっかり受け止めているのか、有栖は何も言わずに私の背に体を預けた。

 有栖が手を首に回してしがみついているのを確認してから、有栖の杖を左手に持って有栖の部屋を出た。

 有栖の体重が軽いことや、体格が小さいことが救いだろう。私にとって、有栖がそこまで重荷にはならなかった。

 

 当然ながら、有栖を背負ってからは走ることなんてできない。一人だけなら落ちてもいいぐらいの勢いで階段を転がり落ちるが、先天性疾患持ちの有栖をジェットコースターに乗せるような殺人行為をする気は毛頭ない。私は先天性疾患について詳しく知らない。だが、有栖が普段運動の類が全くできないことを考えれば、今走るとどうなるかなんて火を見るよりも明らかだった。

 私が有栖の部屋に向かったときの半分も出ていない速度で、確実に気持ち早めに歩いていた。歩きながら廊下にある時計を見ると、残りは10分。有栖の部屋に着くまでに飛ばしたおかげで、2階に下ることを考慮しても話し合いまでには間に合うだろう。

 歩いているうちにだんだん落ち着きを取り戻し、走っていたときに荒くなっていた呼吸も少しずつ落ち着いた。

 冷静さを取り戻した私は有栖に謝ることにした。

 

「本当にごめん。有栖の体のことすっかり忘れてたし、他の人がいないことも忘れてた」

 

「…次からは気を付けてくださいね。送ってもらってる身なので、私から強くは言いません」

 

「次はこんなことがないように気を付けるよ。流石に他の生徒に見られたらまずいし」

 

 こんな状況を見られたら、他の人になんて思われるか。有栖の事情を知っているAクラスの生徒ならそこまで冷やかしては来ない…いや、あいつらは色恋沙汰になると他の人が困るのを見て楽しむようなタイプだ。

 間違いなく有栖には被害が出ないだろうが、私に全ての被害が来るように冷やかしてくる。

 私と有栖にそんな甘酸っぱい関係はないのに、それをでっち上げてくるのだから堪ったもんじゃない。

 他のクラスメイト達に写真でも撮られた日はそれ以上に最悪だ。最悪Aクラスが私の意図していない段階で崩壊しかねない。他の人が近くにいたら、早急に有栖を下ろす必要がある。

 

「零君」

 

「どうかした?」

 

 話しかけてこられたから聞き返したのだが、有栖の答えは沈黙だった。

 話し辛いことなのだろうかと思い、周りを警戒しながら階段を下りる。2階に下った時、有栖が消えてしまうような声で囁いた。

 

「…ありがとうございます」

 

 彼女が何に対してそう言ったのかはわからない。

 だけで、その小さな一言が私の心を揺さぶって私から言葉を奪って行ったのだ。

 今までほとんど言われてこなかったその言葉だけで、私は気分を良くしてしまっていた。

 

 

 それで過負荷()が変わるわけではないのに。

 




 坂柳さんなら自分のクラスの優待者がわかっているなら、法則性を見出すことはたやすいだろうと判断してこの段階で明かしてしまいました。
 なお、話し合いは普通通りします。他のクラスの動きなどの観察だったり、自分のクラスの動きを確認するためなどの目的があります。
 また、主人公視点で話が進んでいるので確定的に書いてあることも、主人公の主観で判断されているものであると明記しておきます。

 坂柳さんは諸々の事情があって主人公と一緒に行こうとしたところ、主人公寝落ちのため連絡が取れず、どうしようか迷っていた感じです。学校側から付き添いが付いていないといけないと言われていましたが、最悪一人で部屋に行こうとしていました。
 時間的にエレベーターを使っても10分もあれば時間には着いていたと思います。
 

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