結局私と有栖は部屋に着くまで、あれ以降お互いに話すことはなかった。
私は彼女になんて言えばいいのかわからなかったし、彼女も私に言葉を投げるようなことをしなかった。
廊下で有栖を下ろしてから、時間まで二人で部屋まで歩く。
2階には開始時間が近いこともあり、生徒がかなりの数廊下をうろうろしていた。私は有栖の手を引いて歩き、他の人にぶつからないように彼女を誘導しながら歩く。
時間の2分前に割り当てられた部屋に着いた。
部屋のドアには『辰』と書かれたプレートがかけられており、ドアを開けると私達以外の11人が既に円状に設置されている椅子に座って待っていた。
「ごめん、遅れた」
「時間ぎりぎりだが、遅刻ではない。零たちも早く座ってくれ」
康平に促されて康平の隣に腰を下ろした。有栖が私の隣に腰を下ろして、康平と私と有栖の三人が横並びになる。
他のクラスの生徒もクラスごとで固まっているらしく、正面にはDクラス、右側にはBかCクラス、反対側も同じくだろう。BクラスとCクラスの生徒がほとんどわからない。Dクラスの生徒は前にクラスに行ったこともあるし、
このグループ分けの基準だったらいないほうがおかしい、綾小路君と一之瀬さんがいないことに気付く。
綾小路君は実力を隠している節があるからまだしも、一之瀬さんがいないことは異常と言ってもいいかもしれない。
そういえば、綾小路君と一之瀬さんは
予想では担任がグループを分けている。もしかすると、
担任経由で綾小路君の優秀さを見破っていたとすれば、そうしていてもおかしくはないだろう。
となると、兎グループの優待者を早めに指定して潰しておく必要があるかもしれない。
いや、それは最終手段だ。
茂がどういう風に行動するのかを知りたいのに、真っ先にその機会を奪っていては話にならない。
有栖には悪いが、兎グループだけ優待者の指名を後にしてもらおう。最悪、兎グループは放棄してもらう可能性まで考えないといけなくなっていた。
思考を廻らせながら部屋を観察し、
『ではこれより1回目のグループディスカッションを開始します』
わかりやすいアナウンスだったが、他の人たちはわかりやすすぎる故に一瞬だけ固まってしまっていた。
その隙を見逃さずに私が切り込む。
「それじゃあさっくり自己紹介からしよう。したくないって人はいるかな?」
「やりたいなら勝手にやってろ。俺は馴れ合って話し合いをする気はないぜ」
そう言って噛みついてきたのは昨日見た不良少年の龍園君だった。
一応、このグループディスカッションでは自己紹介をしなくてはいけない指示が出ている。
それにすら歯向かおうとするなんて、どんなことがあればこんなに捻くれてしまうのだろうか。私には到底及びもつかないが、そんなことは至極どうでもいい。
「じゃあ好きにすれば? 監視カメラがあるから最低限のことはしたほうがいいと思うけどね」
「ちょっとまってくれ。この部屋に監視カメラがあるのか?」
そう割り込んできたのは龍園君と反対側にいる顔の良い青年だ。
どっちかがCクラスでもう片方がBクラスなのだろう。
「あそこのスピーカーの上、恐らくマイクもついてるから音声も拾えるやつだね。確認したいなら歩いてみてみれば? よく見ないとわからないけど、不自然に壁の色と一部違うカメラのレンズが見えると思うよ」
「…どれだ?」
「まあ見たかったら話し合いが終わった後にでも確認すればいいよ。時間もそんなないし、さっさと自己紹介を済ませようよ。後は何を話しても自由なんだからさ」
「…零、その辺にしておけ」
なおも私が仕切ろうとしているのを見かねて、康平が口を挟む。
そう、
だけど、
「何で康平が私に指示をするのさ? 前も言った通り私は康平の友人ではあるけど、奴隷じゃないんだぜ?」
「Aクラスの方針は皆に伝えたはずだ。零も納得しただろう」
「自己紹介までみんなを引率してあげただけじゃないか。そもそもリーダーシップがあってみんなを引っ張ってくれる人がいれば、私がこんなことをしなくてもよかったんだ。
『だから、私は悪くない』」
他の人は大きな反応はなかったが、康平だけが嫌なものを見てしまったかのように顔を顰めていた。
「なんだなんだぁ? Aクラスって言っても纏まりきれてないんじゃねぇか?」
「面白いことを言うね君。纏まりきったから偉いのか? 纏まりきったから勝つのか? 纏まりきったから強いのか? そういうわけじゃないだろう」
「ハッ、違いねぇ。葛城だけじゃなく坂柳とも一緒にいるから、どんな奴かと思えばとんだじゃじゃ馬じゃねえか。金魚の糞って言ったのは撤回するぜ。Aクラスは生徒一人統率できないクラスだったんだなぁ?」
「零君は例外です。他の方はしっかり協力し合ってますよ」
有栖はそう言って溜息を一つ吐いた。
それを聞いて、龍園君は面白いものを見るかのように挑戦的な目でこっちを見てくる。
「こいつは面白れぇ。坂柳にも手に負えないやつがいるってことか」
「…認めたくありませんが、そういうことです。話は以上でよろしいですか?
先に自己紹介を済ませてしまいましょう。零君の言う通りなら、自己紹介をしないことで何かしらのペナルティがある可能性も考えられます」
「そう言うなら有栖からやったら?
その流れでABCDの順でいいでしょ? わかりやすいし」
「反対意見がないようであれば、そうしましょう。他の方もよろしいでしょうか?」
有栖の言葉に反対する者はいなかった。
龍園君も私を好奇心に溢れた目で見ているだけで、異論はないみたいだ。
「では私から。ご存知の方もいるかもしれませんが、Aクラスの坂柳有栖です。見ての通り体が弱いので、何かとご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いいたします」
そういって有栖が頭を下げたのを見て、私が拍手をした。
それを皮切りに他の人たちも彼女に拍手を送る。それが落ち着いたころに、康平に目配せをして先に自己紹介をしてもらうことにした。
「Aクラスの葛城康平だ。よろしく頼む」
同じように拍手をし、少しずつ拍手が小さくなる。
その時を見計らってAクラスの三人目となった私が同じように自己紹介をした。
5分程度かけて、グループのメンバー全員の自己紹介を終えた。
自分の自己紹介が終わってから、聞く必要性も感じなかったのでずっと監視カメラと睨めっこをしていた。
ちょうど私の前の壁、Dクラスの後ろの壁に監視カメラがある。見られていると感じると気になって仕方ない。他の人の自己紹介が終わって、少しの沈黙が生まれたのを見て、私はこのくだらない話し合いに終止符を打ち込みに行った。
「じゃあ、自己紹介終わり! 解散!」
「零君の気持ちはわかりますが、時間までは部屋に居なくてはいけない決まりです。まだ帰らないでください」
「だってもうやることやったし必要ないだろ?
まさかこの中で優待者が馬鹿正直に出てくるわけもないし、今更他のクラスと和気藹々楽しく話せって?」
「小坂君の言うこともわかるけど、坂柳さんの言う通り部屋から出るのはやめたほうがいいんじゃないかな?」
「誰だっけキミ?」
私の言葉に彼女は完全に固まった。
同じように他の人たちも固まっている。私は彼女をどこかで見たような気はするが、名前までは覚えていなかった。
対面にいる、割り込んできた彼女の顔をよく見ると、それがDクラスに行った時に話した女子だったことに気付いた。
「ああ、思い出した。Dクラスの櫛田さんだったっけ?」
「…うん、それで合ってるよ。前に話したのは1か月前だったのに、覚えていてくれて嬉しいよ」
彼女は引き攣った笑みでそう答えた。
康平が呆れたような顔をしてこっちを見る。
「零、今自己紹介したばっかりだろ? 聞いてなかったのか?」
「自己紹介をしろとは言われたけど、自己紹介を聞けとは言われてない。
だから、私が他の人の自己紹介を聞いていなくても、自分のクラス以外の人の名前がわからなくても、私には関係ない。
だって私には関係ないんだから」
どろりとした、地の底から這い出てくるような気持ち悪さが私から滲み出る。
それを確認したのか、他の人たちが少し震えているようにも見えた。
「まあ、このまま時間がくるまで待つのも不毛だしね。
せっかくだから私が楽しい話をしてあげるよ」
「…零」
「康平が文句を言っても話す自由は私にあるんだぜ?
何もしないよりは、誰かが話している方が楽しいじゃないか。
無駄な時間は極力なくすって。『隙間時間で勉強しましょう』だったっけ?」
「無駄なことをするよりは、効率的に物事を進める方が正しいのは当然でしょう。同じ1時間作業するにしてもロスタイムが少ないほうが作業の進み方は早くなる」
私の話が気になったのか、割り込んできたのは堀北さんだった。
既に
「そんなことばっかり言ってるから人が潰れるんだぜ?
人件費を削減するために、残業代を出しませんって言って納得できる人はそう多くないだろ?
納得したところで、ストレスで潰れていく人間も出てくる」
「確かにそういう見方もあるかもしれませんね。ですが、会社としてみたときに仕事ができる人を優遇します。社会で求められているものに、無駄な時間というものはそう多くはないと思いますよ?」
有栖も話に加わってきた。他の人たちは私の方を見て、さっきの気持ち悪さがまるで気のせいだったことを確認するかのように私を見ていた。
「そもそも無駄なことが悪いことなのか?
社会が求めていないものは人間に不要なのか?
私はそうは思わない。よく『復讐は何も生まない』っていうけどさ、それで納得できれば感情なんかいらないと思わないかい?」
「零の言うこともわかるが、だからといって復讐と称した他害行為を認めることはできない」
康平の反論が
私もそう思っている部分はある。だが、
さっきから、ここにいる時からずっとそうだ。
エリートを見ているとイライラする。
自分が強いと思っているやつを見てるとムカつく。
プラスで出来ているような正当性ばかりを主張する奴にどうしようもなく嫌悪感を覚える。
だから、彼らにぶつけると言うのは見当外れなのもわかっている。的外れなのだとも思う。
だからこれは
「それも大事な意見だ。貴重なものだし、大切にするといいよ。
先にされたから何をしてもいい。それが通るんなら、私は
私の発言に彼らの顔は疑問が生まれたようなものと同時に、受け入れられない何かを見てしまったかのようなものになっていた。
「君たちさ、育ての親から熱湯をかけられた時の熱さって知ってる? 躾と称して包丁でふくらはぎを刺されたことは? 消毒と称して口の中に洗剤を吹き込まれたことぐらいはあるよね?
まあ、痛みとか熱さなんてその時が過ぎたら忘れちゃうか。
じゃあ、口の中に残った洗剤の味は? 路肩に死んでたカラスの死骸とか、飢えを凌ぐために殺した鼠の味ぐらいは知ってるよね?」
彼らの歪んだ顔が、驚愕に溢れたそれに変わる。
「まあ、その顔を見ればそんなことはなかったことぐらいはわかるよ。
君たち
安心してほしい、今の例は冗談だ。だけど私が本当にそれを味わってきたとして、
他の人たちは苦虫を噛み潰したような、
そんな彼らの様子を気にも介さずに、私は康平の方を向く。
「そういえば話は変わるけど、康平って妹がいるんだったよね?」
康平は他の人と同じような表情をしているが、その中に普段の私とのギャップによって困惑しているようにも見えた。
私の問いに対して、少し間があったがしっかりとした声で返答する。
「…それがどうかしたか?」
「
「ッ!」
ドス黒い
私はそれを感じつつも、抑えようという思いはこれっぽっちも起きなかった。
正論に正論を重ねる。正しいから正しい。認められないから認められない。悪いから悪い。強いから強い。
常識だから、正常だから、当然だから、普通だから、当たり前だから。
それじゃあ、
だって、そこに
横にいる康平に向かってニッコリ笑顔を浮かべる。近い距離なのに康平が思わず体を引くのがよくわかった。
「あは! っていう冗談でした~。そんなに睨むなよ康平、お茶目な冗談だぜ?
笑って許してくれよ! 私と君の仲じゃないか!」
「……零、その手の冗談はやめてくれ。いい気分じゃない」
「そんなに怒るなよ。君だってこの学校にこうやって通っているわけだけど、その時に蹴落とした人のことを考えたことはあるかい?
もしかしたら、国立のこの学校に入らないと高校生になれなかった人がいるかもしれない。親からの期待を背負ってこの学校に受験して、落ちちゃったから親に見捨てられて人だっているかもしれない。
でも友人である康平が他人を蹴落として掴んだ高校生活で、君がそんなことも考えないで、自分だけは順風満帆に学校生活を楽しんでいるみたいでよかったよ」
「――――ッ!!」
話せば話すほどより
自覚はあるが、
席を立ち、部屋にいる彼らの輪に沿うように歩きながら言葉を続ける。
「『かもしれない運転を心がけよう!』って知らないかい?
みんなも一緒に想像してみようよ!
中卒で働くしかなくなって、最低賃金で働き続けている人がいるかもしれない。社宅で暮らして、働くか寝ることぐらいしかできなくて、娯楽を楽しむ余裕もない日々。それが一生続くことを想像して、生きる希望が見いだせないかもしれない。
家に帰ったら自分のご飯だけない生活。親からは無視されて、兄弟からは無言で馬鹿にされる生活。そのせいで非行に走るかもしれない。麻薬に手を出しているかもしれない。
誰のせいで、とは言わないけどね」
そう言いながら部屋の中にいる彼ら一人一人の顔を見る。
私が言葉を紡ぐたびに、彼らの表情は苦々しいものに変わっていった。
最初に噛みついてきた龍園君や、話に加わってきた堀北さんに、苦笑いをしていた櫛田さんも全員が私の方を見て絶句していた。
康平も私を見て顔を歪めているし、有栖も顔を顰めたまま私から視線を外さない。
「でも気にしないで!
君たちが無意識に蹴落とした人がいっぱいいても、そんなやつらのこと気にも留めなかったとしても、そいつらが失意のあまり自殺をしたとしても、その人たちが将来に希望を持てなくても、君たちは悪くない。
『社会に必要とされている力が足りなかった彼らが悪い』
エリートである君たちが、さっきそう言ってただろ?
だから、自分のことを棚に上げて特に理由もなく高校生活を楽しんでいても、細かい進路なんて何も決めないでAクラスに上がりたいから頑張っていても、自分の視界に入らない人なんて見ていなくても、自分が勝ちたいから他人を蹴落としても、君たちは悪くない。
だって君たちには関係ないんだから!」
私が言い切った時には、有栖以外の全員が身体を震わせていた。有栖はかろうじて耐えているように見えるが、私の方を見て固まっている。
私の
「皆Aクラスに上がりたいんだよね?
Aクラスで卒業すれば、好きな進路に進めるからかな?」
確か原作でAクラスに上がりたいと言っていた堀北さんの方を見た。
彼女は震える身体を落ち着かせてから、私に向き合う。
「…ええそうよ。私はAクラスに何としても上がるわ。あなたたちを超えてね」
「へえ、他の人を蹴落として人生を台無しにさせてまでAクラスに上がりたいんだ?
Aクラス以外だと進路の保証がされないって知って、自分だけAクラスに上がりたいんだ?」
私の物言いにも彼女は臆さず、こっちを見据えてはっきりとした声で宣言した。
「そうよ。私は何があってもAクラスに上がらなくてはならないの。たとえ他の人を蹴落としてもね」
「ふ~ん。まあ、どうでもいいけどね。
君のせいで誰かの人生が壊れても、君のせいで誰かが自殺しても、君のせいで生きる希望を失った人がいても、君のせいで君の知っている人がいなくなっても、君に直接関係ないもんね」
私がその宣言を嘲笑うかのように話し続けると、彼女の何かに障ったらしく彼女は顔を歪めて体から怒気を発した。
「―――人に聞いておいて、その言い方はないでしょう!」
「勝手に話したのは君じゃないか。別に話す義理もないのに君が勝手に話したんだ。
『だから私は関係ない』」
私がそう言うと彼女は私の方を睨みつけてきた。
だけど、先ほどまで出ていた怒気はすっかり鳴りを潜め、体が震えている姿は滑稽にしか見えなかった。
彼女の方を見て、くるっと反転して肩を竦めた。
「思い入れとかー、心がけとか誓いとかー、願いとか夢とかー、希望とかー覚悟とかー、ごめんねー。
私そういうのよくわからないし、興味もないんだー」
未だに
球磨川先輩があまりにも負完全なのが悪いんだ。
『だから私は悪くない』
その内
「そんな今にも吐きそうな顔をしないでよ。流石の私でも傷ついちゃうぜ?
別に
ねぇ櫛田さん?」
私が話を振ると、呼ばれた彼女の肩が跳ねる。
正面にいる彼女の方を見ると、彼女は顔面蒼白で今にも倒れそうだった。
彼女の方に向かって真っすぐ歩くが、他の人は誰一人としてそれを止めることはしなかった。
彼女の前で手をだし、握手を求める。
「櫛田さんは確か、クラスの隔てなくみんなと友達になりたいんだよね?
退学するかもしれなかった須藤君に見返りもなく協力していたんだから、きっとそうに違いない!
だからさ、私とも友達になろうよ」
「―――」
彼女は肩をガタガタ震わせたままだった。
握手を返そうともせずに話すこともできない彼女を見ながら、私は話すのをやめない。
手を下げて肩を竦め、また
「なんだ、やっぱり上っ面だけだったんだね」
心の底から残念だと言わんばかりに、ため息を混じらせながら吐き捨てる。
だが、次の瞬間にはけろりとして彼女の顔を覗き込むように近づいた。
「でも安心して!
誰とでも友達になりたいように見せかけて、本当は自分の役に立つ人とだけ仲良くしたい。利用したい。自分が良ければそれでいい。それが君の本性だとしても、それでいいんだよ。
だってそれが君の大切な個性なんだから!
無理に変えようなんて思わないで、自分らしさに自信を持とうよ!
君は君のままでいいんだよ」
私の言葉に、彼女は震えたまま答えることはできなかった。目と目が重なりそうなほど近づいているが、私の
図書館に居合わせた堀北さんも、私の方を見て震えが止まらない。たまたま同じグループにされたBとCクラスの生徒たちは今にも泣きだしそうなぐらいに怯えていた。
彼女に背を向け、自分の座っていた席に向かって歩き出し、歩きながら話し出した。
「そういえばさ、16世紀に貴族の間で行われていたあるゲームがあったらしいんだ。奴隷の骨を身体の端から一本ずつ順番にハンマーで砕いていく!
奴隷は最初、『助けてくれ』って懇願するんだけど最後には『殺してくれ』って言いだすんだ。果たして何本目の骨でそう言うかを、貴族の皆様方は仲良く賭けたのさ」
安心院さんの話を
自分の席に座り、雰囲気作りも兼ねて足を組む。
「君たちがAクラスに上がりたいっていうのも、同じ状況だと思わないかい?
今君たちは私の言葉一つで震えあがっているけど、私と君たちはこれから3年間も同じ学年にいるんだぜ?
今でさえ、ここから逃げ出しそうなぐらいに震えているのに3年間も耐えられるかい?」
言われてからその事実に気付いて想像してしまったのか、彼らは今にも崩れ落ちそうだった。
今の20分にも満たない間一緒にいるだけでこの様だ。3年間も一緒の学年で居ることを想像しているのだろう。
「だから、『Aクラスに上がりたい』じゃなくて、『この学校を辞めたい』って言う気にはならないかな?」
私の言葉に有栖でさえも顔を青くした。
彼女に以前話した、康平を倒した後にどうするのか
この話し合いでの一番の目的がこれだった。
エリートの輪に
それでも、勝手に気持ち悪いと感じるのは彼らだ。
だから私は
「ああ、勘違いしないでほしいんだけど、別に強制するわけじゃあないよ。
君たちにだってこの学校でできた友人とか、友達とか、仲間とかがいるんだろ?
ただ、矛先が他の人に向かうだけさ。
でも別に構わないよね?
だって君たちとは関係ない他人なんだから。あまり覚えてもいないようなクラスメイトが減っていったところで、君たちは悪くない。仮に、直前に私と話していたとしても彼らの自己決定で退学を選ぶんだ。
だから、私も悪くない」
にっこりとした笑顔を浮かべて、他の人たちにそう言った。
既に彼らの心はほとんど折れていて、このグループの空気はお通夜と同じぐらい重い空気になっている。
「そんな目で見るなよ。同じ学校の同じ学年の仲間じゃないか! 同じ制服に袖を通している仲じゃないか!
化け物を見るかのような目で見られたら、私の心が痛むじゃないか。
だから、君たちが今ここで吐いたとしても、私の言葉を聞いて学校を辞めたとしても、君たちが自責の念に駆られて自殺したとしても、私は悪くない。
むしろ、
誰一人として反論しようとすらしない。
まるで死体の中で演説をしている様な錯覚に襲われるが、私は死体ではなくそれが同学年の生徒だということを当然理解していた。
「ありゃりゃ、空気が完全にお通夜か葬式だぜ。
じゃ、誰も話したがらないようだしこのまま私が話し続けるね。
後45分、ただの
一種の死刑宣告にも等しいそれは、彼らに絶望を味わわせるには十分だった。
今回は
エリート集団の中に