ようこそマイナス気質な転生者がいるAクラスへ   作:死埜

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幕間 小坂零の考察

 私達の特別試験は終わった。結果発表までは日があるが、とりあえず肩の荷が下りた気分だ。

 有栖からの連絡を確認し、誰がどのような回答を送ったかのスクショを康平を含めた三人のグループチャットで確認した。

 その後に康平がAクラスのグループチャットの方で、Aクラスの優待者がいるグループ以外のグループの試験が終わったことから坂柳が試験を終わらせたのだろうと説明。

 有栖がそれに乗っかり、優待者の法則を説明。他のクラスの生徒たちがそれに気づかないうちにAクラスだけでポイントを独占し、前回の試験の負け分を取り戻すためにしたと主張。優待者の法則と有栖の意見に対して大きな反論がないことを確認して、康平が最後に、Aクラスのことを思って行動してくれたのだから責める気はない。だが、次からは勝手に動きすぎないでほしい、と締めた。

 

 当然のことながら裏で打ち合わせをしてからやっている。

 酷いマッチポンプだが、二人の立場的には説明の義務があって当然だろう。表向きにAクラスのまとめ役になっている二人が、Aクラスの優待者をグループで晒してもらうように指示している。

 そのため、Aクラスの生徒ならば誰しもさっきのアナウンスだけでAクラスの優待者がいない全てのグループの試験が終わったことになる。

 康平が下手なことをしないでほしいと言ってはいたものの、それで黙っていない人がいることをAクラスの生徒は知っている。

 彼女が間違うことはないだろうが、説明義務が付くのは責任者としては当然のことだ。 

 故に、説明をしろと記者が政治家に問い詰めるが如く詰め寄ってくる前に、自分から康平と協力して事情説明を行う必要があった。

 

 康平は康平で有栖の行動を黙認している。

 最後には好きにしてほしいと付け加えていても、クラスの方針を提示したのは康平だ。ここまで早い段階で優待者を指定してしまった罪悪感にも似た感情もあるのだろう。

 もしくは、『Aクラスのリーダーとして』頑張ってくれている結果なのかもしれない。

 上に立つものとして、事情解明のフリと共に説明責任の補佐を行ったのだと予想した。

 

 

 私は自分が表立ってクラスの方針を決めないことを良いことに、頑張っているであろう二人を笑いながらベッドに身を投げた。ベッドに上で制服を脱ぎ捨て、Yシャツの下に着ていたTシャツと下着だけ残す。

 昔から制服はあまり好きではない。制服とは学校が生徒を縛りつけている象徴だと私は思っている。

 身分証明代わりにもなるそれは、この学校に所属していることを示すものでもあり、この学校の教員に師事を受けている証明にもなってしまう。

 洗うのが面倒だという理由もあるが、前世では大学生だったにもかかわらず今の私は高校生でしかないと思い知らされる。

 

 制服とは権力(プラス)の象徴であり、奴隷(マイナス)の証明だ。

 

 だから私は制服が嫌いだ。

 学校に通えるだけの幸せ(プラス)の象徴であるそれを着ている自分が、その他大勢と同一化されること(マイナス)を証明して自分自身を見失いそうに錯覚してしまうそれが嫌いだ。

 球磨川先輩みたいに制服を着ている生徒の中で、一人だけ学ランを着るようなこともできない。

 過負荷(マイナス)と言っておきながら、どこまでも普通(ノーマル)の常識が残っていると再認識させられる制服が大嫌いだ。

 

 …いや、本当に嫌いなのはこんなことを考えてしまう自分自身なのだろう。

 

 誰からも理解されることはない故の『無冠刑(ナッシングオール)』だが、その精神性は私から生まれたものではあれ、私自身を示すものになりきれていない。

 過負荷(マイナス)に精神を落としきってしまえば、それになれるのかもしれない。

 だが、普通(ノーマル)でありつつ過負荷(マイナス)である『小坂零』という人物を生きていくためには、そこまでの変化(改造)をしてしまってはいけないのではないかと思う。

 

 前にも似たようなことを考えたが、『無冠刑(ナッシングオール)』という在り方を捨てることは『小坂零』の否定に繋がる。

 だが、『無冠刑(ナッシングオール)』という過負荷(マイナス)に成りきってしまうと『小坂零』は崩壊してしまうような気がするのだ。

 それこそ、普通(ノーマル)過負荷(マイナス)に耐えきれないように、『負完成』という過負荷(マイナス)としてはあり得ないような()()()()()()でないと、『小坂零』が過負荷(マイナス)を持ちつつ安定することは不可能だ。

 

 なんで前世に過負荷(マイナス)の概念がなかったのか、なぜこの世界(よう実)に私以外の過負荷(マイナス)が存在しないのか。

 

 答えは簡単だ。

 

 ()()()()()()

 

 過負荷(マイナス)というものは『人』の在り方というものを大きく歪める。

 正確には()()()()()()()()()()()()()を真っ向から否定するような在り方であり、理想の人間像に唾を吐き捨てるようなものにも近い。

 もっと言えば世界の癌細胞と言えるかもしれない。

 人を壊すために世界に生まれ落ちた癌細胞。人を壊し、人を堕落させ(マイナスにし)、人を不幸(マイナス)にする。

 

 だから、過負荷(マイナス)が許容される世界というものは、その癌細胞(マイナス)に立ち向かって打ち勝てるだけの抗癌剤(プラス)を持ちうる人間が存在する世界だ。

 『めだかボックス』を読んでいるとそれがよくわかる。

 『負完全』の球磨川先輩に幸せ(プラス)を感じさせることができる世界。

 紆余曲折を経て、過負荷(マイナス)が受け入れられる場所を作っている世界。

 相容れない一線を持ちつつも、それを超えない限り笑って済ませるようなそんな世界。

 

 そうじゃなかったら、一人の癌細胞(マイナス)が世界を脅かしてしまってもおかしくはないだろう。

 現に球磨川先輩は『めだかボックス』の舞台である『箱庭学園』に転入して来る以前は、多くの高校を廃校にしてきた。球磨川先輩と同じぐらいの過負荷(マイナス)を私が持っていると言えるほど自惚れていないつもりだが、過負荷(マイナス)の性質とは元来そういうものだ。

 

 ()()()()()()()()()()()には、果たして抗癌剤(プラス)を持っている人がいるのだろうか?

 癌細胞()さえも打ち亡ぼせるぐらいの抗癌剤(プラス)が、この世界に存在するのだろうか?

 

 居るとするのならばこの学校に居るはずなのだが、その可能性が既に低いものであることを薄々察している。

 エリート集団を集めたはずの辰グループの話し合いの結果が、それを物語っている。

 参加した彼らの直後の様子だけ見ても、今の彼らでは癌細胞()に壊されるだけだ。

 Bクラスの生徒がどうなったかを一之瀬さんから聞いたが、予想通り精神的にだいぶ参っていた。それでも、()()()()()()()()()()()()()と言えてしまうのがせめてもの救いだ。

 その原因は私が意図的に壊しきらないようにしていた(無冠刑を使わなかった)からなのか、あるいは彼らの精神性が普通よりもエリート(優秀)だったからなのかはわからない。

 

 私を見ないようにするために、目を抉り出そうとした。

 過負荷(マイナス)に生きる気力の全てを奪われ、何もしたくなくなった。

 

 果たして彼らにとってはどっちの方が救われていたのだろうか?

 

 一概に断定することはできないだろうが、()()()()()()()()ができるだけ前者の方がマシに思えてしまう。

 正しい意味での『負完成(負としての完成)』を成していたら、『普通』を併せ持った『負』としての完成ではない『過負荷(マイナス)』として『完成』してしまっていたら、私は取り返しのつかない道を歩んでいただろう。

 尤も、その頃には取り返しがつかないことをしたことに対する罪悪感なんて消え失せているだろうが。

 

 

 …『普通』の要素を併せ持っているとはいえ、根本には『過負荷(マイナス)』を据えている私が『人』に打倒されるのは目に見えている。

 だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 あの話し合いで見当が付くかとも思っていたが、目を付けていた人全員が同じグループにされていたわけではなかったことも、判断を迷わせる一因になっている。

 

 有栖では異常性(プラス)が足りない。

 彼女になら倒されてもいいと思うぐらい、彼女の人間性が好ましいと思ってはいる。だが、悲しいことに彼女に()()()()要素はない。他人と協力することよりも、自分が勝つことにのみ焦点を置いている。

 精神性が変化して()()を作るようになったら案外あっさり過負荷(マイナス)を倒せるのが彼女かもしれないが、そうなることは絶望的だろう。

 何せ、今までの自分をすべて否定することにも繋がる。彼女が()()()()()()()()()と願う以上、私を完膚なきまで叩きのめすことは難しいのではないだろうかと思う。

 彼女の人間性に惹かれているが、彼女が勝つためにはその人間性を曲げないといけないというジレンマを抱え込んでいる。

 形だけの勝利なら彼女に軍配が上がるだろうが、それは私達が望むものではない。

 

 康平は既にリーダー争いから落ちたことからもわかるように、全体的にスペックが足りない。

 考え方の違いといってもいいだろう。

 より良くすることを求めているこの学校において、現状維持を求める康平の考え方は根本的にかみ合っていない。

 特別試験の存在、リーダー当て、優待者指定。

 これらのことからわかることは、この学校が()()()()()()()を望んでいるということだ。現状維持に重点を置くのではなく、現状をより良くさせる変化の方に重点を置いている。

 そういう意味では康平との相性は最悪だ。現に最初の特別試験で躓いてしまっている。

 これを乗り切ってくれていれば話は別だったが、そもそもの問題として彼は私と事を構える気はないようにも思える。

 私自身も、『愚か者』である彼のことは正直()()()()()()。どちらかと言えば味方ぐらいの認識だ。

 敵対したとしても、完膚なきまでの敗北を私に与えてくれることはないだろう。

 

 茂は『観察眼』は優れているが、真正面から私と敵対する気がそもそもない。

 『運命から解き放たれた奴隷』である彼は、私の見立てでは有栖の次に可能性が高そうに思える。

 集団意識に流されづらくなった彼ならば、私が間違っていると自分で感じた時に私を止めようとするだけの『意志の強さ』があると断言できる。

 だが、彼はよりによって(マイナス)に感謝の気持ちを持っている。

 縛られた状態から解放したことを、『奴隷』の鎖を嘲笑いながら切った私に感謝をしている。

 鎖から解き放たれたからこそ、圧制者(マイナス)を倒すことができるが、鎖を切ってくれた圧制者(マイナス)に忠誠を誓っているのでは論外だ。

 

 一之瀬さんは仲間を率いて立ち向かってくるという意味では、一番理想的な形で私を倒してくれるかもしれない。

 背中を任せられる仲間を率いて、日常を脅かす侵略者(マイナス)を打ち倒す。

 物語の定番であり王道だ。

 だが、彼女の仲間(Bクラス)(過負荷)を直視できる人がいない。

 本人も私を見たくないだろうが、彼女以外の人のスペックが低い。言っては悪いが力不足だ。

 まだ彼女の本質に深く触れていないため、予想でしかないと一応付け加えておこう。

 

 龍園君はダークヒーロー的なポジションで少し期待してい()というのが本音だ。

 あの話し合いの時も、最初に噛みついてきただけであとは観察に回っていたことから、やるべきことを行うだけの冷静さと頭の回転の良さを併せ持っている。

 惜しむべきところは過負荷(マイナス)を覗き込んでしまった後、私が退席するまでアクションを起こせなかったことだ。今どうなっているかは知らないが、最悪他のBクラスの生徒同様に潰れてしまったのかもしれない。

 自力で復帰できそうではあったが、足手まといな他のCクラスのメンバーがいることも踏まえると、彼が私の目の前に相対することはかなり難しいだろう。

 一之瀬さんとどっこいどっこいかもしれない。

 

 

 …一番期待しているのは綾小路君だ。

 だが、それと同時に()()()()()()()()()()()と思っている自分もいる。

 確かに彼なら私を倒してくれるだろう。非の打ちどころもなく、徹底的に、完膚なきまでに、再起不能になるまで、二度と歯向かう気を起こさないぐらいにボコボコにしてくれるだろう。

 彼にはそれを成すだけの実行力、行動力、決断力、それと何よりも大切な『()()()』を持っている。

 しかし、彼と敵対する場合、彼のキャラクター性から考えると仲間なんて必要なく私を潰すことだけを考える。

 仲間(プラス)の存在を否定して、(マイナス)を否定する。

 そんな決着は付けたくない。

 それじゃあ、過負荷(マイナス)の勝負の結果として認めたくない。

 あの生徒会長と裸エプロン先輩の一戦のように、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それでこそ、過負荷(マイナス)の敗北を飾るには相応しいものになるはずだ。

 

 

 …ああ、結局私は過負荷(マイナス)として負けたいだけなのか。

 過負荷(マイナス)を名乗る以上、下手な負け方をしたくない。

 『負完全』を模した『負完成』を自称する以上、あの先輩みたいにカッコよく負けたい。

 

 ……そのためにはいつまでも彼の真似をするだけではやっぱり駄目だろう。

 彼を意識すると過負荷(マイナス)として話すときに非常に楽だったし効果的でもあった。

 だが、自分らしさを作るために少しずつ変化をつけて私なりの形にする予定だった。

 さっきの一之瀬さんとのお話の時も、意識して少しずつセリフに変化を付けてはいた。

 

 だがそれだけだ。

 文字にしないとわからないようなものもある。()()()()()()()しかつけれていないのだ。

 比較対象を知らない彼らだからこそ効果が表れているが、球磨川先輩を知っている人からすれば私の発言は彼の顔に泥を塗りつけるような侮辱にもなっているのかもしれない。

 だからこそ、私の個性(マイナス)にオリジナリティを作る必要がある。

 私と彼は文字通り人が違う。キャラクター性(マイナス)という共通点はあれど、別人であり他人だ。

 

 ……そう思っていても過負荷(マイナス)に身を委ねると自制が効かなくなる場合もある以上、どうしようもないのかもしれない。

 

 

 

 

 そう自嘲し、深く考えれば考えるほど堂々巡りになりそうな気がしたので思考を切り替えることにした。

 ベッドに上を横に転がり、枕に顔を埋めながら今回の試験について振り返る。

 枕に顔を埋めたことで自然と視界が真っ黒く塗りつぶされる。より深く思考を潜らせられるような気がした。

 

 

 本来の二回目の特別試験の目的は、新しく私の味方になったとも言える茂がどこまで使えるのかを確かめるものだった。

 それと同時にAクラスのポイントを減らしすぎないようにする目的もあった。しかし、こっちは有栖がいるため、それほど重要視していなかった。

 ところが、蓋を開けてみれば茂の活躍する場を奪ってまで、Aクラスのポイントを確保する結果になってしまった。

 試験の都合上、茂がどうするのかを間近で見れなかったという理由(言い訳)がある。

 試験のグループ分けでエリート集団の中に入れられてムカついたということも理由ではある。

 だが、一番の理由は有栖と一対一で話し続けたことで彼女に勝ちたいとより強く思ってしまったことだろう。

 彼女が負けないようにするために、Aクラスのポイントを多く確保したいと思ってしまった。

 

 …危ない橋ではあった。

 いや、結果が出ていない以上まだ渡っている途中なのかもしれない。

 しっかりとした法則性を見出したことを踏まえると、外していることはあり得ないと思う。だが、(マイナス)という要素を抱え込んでしまっているため万が一という可能性も…いや、有栖が答えを導き出して回答を送ったことを考慮すると万が一もないだろう。

 彼女は思考能力に能力を全振りしたような『特別(スペシャル)』だ。

 彼女の土俵で試験を終わらせた以上、(マイナス)ぐらい呑み干してくれないと困る。

 

 そうでなければ、私が彼女に勝負を挑んだ意味が薄れる。

 彼女が過負荷(マイナス)に一方的に潰されるような、辰グループのBクラスの彼らみたいな人だったら勝負をする意味なんてない。

 過負荷()を知ってなお、真正面から立ち向かう姿に惹かれたのだ。

 

 そんな彼女に勝ちたいと思っている自分がいる。

 

 その一方で、そんな彼女になら倒されたいとすら思ってしまう自分がいる。

 

 だから、彼女の『強さ』を汚さないために彼女に強く在ってほしい。

 我儘なことは理解している。

 それでも、()()彼女にこそ勝ちたい。

 彼女が勝つのであれば、今の在り方のまま私を潰せるぐらいの強さ(プラス)に成長してほしい。

 

 

 …今考えると、綾小路君ももしかしたら有栖と似たような在り方なのかもしれない。

 本当の意味での仲間を作ることはなくとも、周りを利用し邪魔するものを排除する在り方。

 『運命力』がある分、有栖の上位互換とも言えてしまう可能性まである。

 

 だが、私はまだ彼を深く知らない。

 話した回数は片手で足りる回数しかないし、彼の心に触れるようなことをした覚えもない。

 『主人公』に目を付けられたくないという理由で避けてきたこともある。

 そう考えると断定するには材料が不十分で、私が勝手に考察してる内容も大幅に異なっているものなのかもしれない。

 彼のことを『原作知識』なるモノで知っていたとはいえ、私が知っているのは『1巻』の大体の内容とアニメがあったことぐらい。

 それも友人に勧められて読んだだけで、そこまで読み込んだわけではない。

 彼に対する考察も、前世での友人に聞かされた情報を基に組み立てているものが多くを占めている。

 

 できることなら、敵対しないで彼のことを詳しく知りたい。

 だが、Dクラスの彼と仲のいい堀北さんやクラスの中心の人物である櫛田さんと平田君が今どうなってるかを想像すると、綾小路君と仲良くするのは難しいと容易に想像できる。

 これで彼がクラスメイトを完全に切り捨てるようなことをするのであれば話は別だが、利害関係を考慮してもそれはないだろう。

 彼自身の学校生活の送り辛さにも直結することだ。

 

 

 

 …今考えても仕方ないことか。

 試験が終わったことで状況の変化があるかもしれない。

 夕食の時間には早いが、そろそろどのクラスが優待者を当てたか調べている人が出てもおかしくない。

 ふと時計を見ると、あのアナウンスから既に2時間が経過していた。

 情報収集をするために船内をうろつくにはいい時間だろう。あのアナウンスで正気に戻った人もいれば、あのアナウンスのせいで混乱している人もいるはずだ。

 それが落ち着きつつある時間、現状に気付いて対抗策を練ろうと動くなら、この時間あたりになるだろう。

 

 一つ溜息を吐き、脱ぎ捨てた制服に再び袖を通す。

 起き上がるついでに、ベッドの脇に転がっているペットボトルを一つ取って中身を飲み干す。

 ぬるくなって炭酸ガスがほとんど抜けた甘ったるいサイダーの味が、今の私を表しているようにも思えた。

炭酸(過負荷)が抜けて、甘さ(普通)だけが残っている。しかし、何処か口の中で弾けるような感触が残ることが、これが炭酸飲料(過負荷)であると認識させる。これが炭酸が強すぎる(過負荷がありすぎる)飲みやすい物(人と接しやすい者)とはかけ離れる。

 『負完成』と言っているものの、頭から尻尾まで『過負荷』と言い切れない私を表すのには相応しいように思えてしまった。

 

 そんな思考を振り払うかのように、私は空になったペットボトルをごみ箱に投げた。

 空のペットボトルがゴミ箱にぶつかる音が、虚しく響いて部屋の中で反響する。私が投げたペットボトルは当然の如くゴミ箱の縁に当たり、ゴミ箱の中に入ることなく部屋の床とぶつかって空しくカランコロンと音を立てる。

 

 その空虚な音が、()()()()()()()()()()()()()()()()『現実』を思い出させた。

 

 今まで考えてこなかった見方の『現実』。『俺』との対話を通した今だからこそ、考えなければならない『事実』が、私の深い思考の海に埋めていた『考えたくないこと(マイナス)』を掘り返した。

 それに気づいてしまった私は部屋を出ようとしていたにもかかわらず、金縛りにあったかのように動けなくなってしまったのだ。

 




 あくまで『小坂零による考察』なので実際に異なっている部分があることをご了承ください。

追記 7/20

4巻内容で追加する部分を入れた結果、少し長くなってしまったので次々回までに特別試験Ⅱが終わらなくなってしまったことを報告いたします。
誠に申し訳ありません。

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