ようこそマイナス気質な転生者がいるAクラスへ   作:死埜

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31話目 特別試験Ⅱ 二日目

 竹本茂は苛立っていた。

 原因は自分でわかっているが、それでも収まりがつかないのが人間の感情というものだ。

 強く足を踏み鳴らして階段を下りる様が、彼が如何に苛立っているかを物語っている。

 豪華客船の中とはいえ、蒸し暑い真夏の朝で否応なく汗を掻くことを強制させられていることも、イラつきの一因になっている。どちらかと言えば暑がりな彼は、移動のために船の中を歩いているだけで少しずつ汗を流していた。

 

 だが、一番の原因は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、放心状態になったままでいることだ。

 

 昨日、説明が正しいのであればAクラスが他クラスの優待者全てを指定する形で終了した。

 それに対して前に言っていたこと余りにも違う結果になっていたことに、文句の一つでも言いに行こうと思って部屋に戻った。

 事情が変わったのだろうということは予想していたし、完全に言ったようになるとは限らない。だが、幾ら何でも言っていたことと行動が変わりすぎていると判断した。説明していたのは葛城と坂柳の両名だが、その裏に同じグループであったあいつ()の手があることは明らかだった。

 

 そうじゃなければ、あの二人がここまでスムーズに連携を取れるわけがない。

 

 方向性が真逆の二人を相手の意見をすり合わせることができる人材は、今のAクラスには小坂零しかいない。

 本人は自覚していないが、Aクラスで一番危険な人物であると同時に一番厄介な人物でもあるのが正しい見解だ。

 最強の矛(坂柳有栖)最強の盾(葛城康平)

 そのままではお互いに壊しあうだけだが、使い分けをしっかり行うことでその良さが引き出される。

 今それができる人は小坂零しか存在しないのだから、茂が零に文句を言いたくなるもの当然だ。

 記念すべき初仕事、と思って意気込んでいたのに仕事を頼んだ本人から水を差されたのだから。

 

 乱暴にドアを蹴り開け、烈火の如く渦巻くこの苛立ちをぶつけようと部屋を見渡した。

 しかし、そこで待っていたのは部屋に据え付けられているゴミ箱とその隣に落ちているペットボトルを見つめたまま、思考の海に潜り切って戻ってこない彼の姿だった。

 

 

 

 『小坂零』の癖として、考え事をすると無意識に生活行動をする癖がある。

 考え事をしたまま買い物に出掛けたり、考え事をしたまま授業を受けたり、前に茂が彼の部屋に行った時には考え事をしたまま料理していることもあった。

 この時の彼は大抵声をかけるか体を揺すると正気に戻るのだが、今回はそれをしても思考の海から戻ってこなかった。

 戻ってこないにもかかわらず、焦点の合わない目で食事をとり、風呂に入り、着替えをして床に着く様はまるで『生きる意味を見失った奴隷が仕方なく生命活動をしているように見えた』。

 

 それが竹本茂は気に食わなかった。

 自分に『眠れる奴隷』と言っておきながら、『竹本茂』という個人を開放しておきながら、自分が畜生のようにただ生きているだけの状態になっていることが気に食わなかった。

 

 自分の見ようとしなかった部分を直視させて、目を覚まさせる。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 意識してはいないものの、その安心感こそが竹本茂の求めているものなのかもしれない。

 宿題を忘れたときに他の人も忘れていることを期待するように、一人では犯罪をする気になれなくても友人たちと行動することで万引きをする子供のように、()()()()()()()()()()()()()()という者は人間には甘すぎる毒だ。

 

 だから、彼は零に対して()()()憤りを感じているし、謎の焦燥感にも駆られている。

 だが、彼は自分のダチが勝手に満身創痍(実質戦闘不能)になっていること、『竹本茂』という個人を引きずり出して自分の憤りを受け止めてくれた本人が()()()()()()()()()()()()ムカついている…としか思っていない。

 他人を観察することに長けている彼だが、自己分析は専門外だ。

 

 一晩すれば元に戻るだろうと思っていたが、目を覚ました小坂零は再びベッドの中に潜って出ようとしなかった。

 その時に確認した目が昨日と同じように焦点の合っていないものだったことから、茂は零が思考の海から帰ってきていないことを察した。

 それを察した時に教員を呼ぶことも考えた。しかし、彼はAクラスが試験を終わらせたこととBクラスの担任である星之宮先生が保険医であることを考えると下手なことをするべきではないと判断した。

 相部屋の吉田にも彼は口止めをした。

 下手なことに巻き込まれたくないタイプ…典型的な『眠れる奴隷(流されやすい人)』とも言える吉田は彼の言うとおりに頷いた。

 

 

 足を踏み鳴らしながら廊下を歩くが、それを気に留める人は辺りに誰もいない。

 彼は、自分でそう判断してしまったことが彼のストレスの一因になっていることに気づいていない。

 

 友達を危険な目に合わせたくないから、自分が協力する。

 

 以前、小坂零が大きな事故に遭って消息不明になった時にAクラスを立ち直らせたのは彼だった。立ち直らせた彼だからこそ、同じ目に遭ってほしくないと思ってた。

 『竹本茂』という人間に持つ善性(プラス)小坂零(マイナス)に引っ張られていたとしても、その在り方が変わりきってはいない。

 だから、自分のダチである零を放心状態のまま放置しておく判断を下した自分自身に嫌悪を表していることを、彼は自覚していない。

 頭に血が上っていること、冷房が要所要所で効いているとはいえ夏場で蒸し暑いこと、まだ起きて30分も経っていないことが、彼に一歩引いた状態で自分を見ることの重要性を忘却させていた。

 

 

 茂は、それを重々承知していた。

 自分が冷静ではないことも、頭に血が上っていることも、顔を洗った程度で冷静さを取り戻せていない事実も、もしかしたらあいつが一生このままなのかもしれないという恐怖感も、理解していた。

 その上で、とりあえず落ち着くために朝食を食べることにした。

 血糖値が下がっている状態では碌に思考が回らないことを知っている。

 目を覚ますために、アイスコーヒーの一つでも飲みたいと思っていた。

 普段はシロップとミルクを入れるが、目を覚ます意味合いを込めてブラックで飲んでみようと、そんな他愛もないことに思いを馳せることで落ち着こうとしていた。

 気分を切り替えつつ足取りを軽くしながら食事に向かう彼は、だんだん本調子を取り戻しているようにも見えた。

 

 

 

 

 彼にとって不幸ともいうべきことは、過負荷(マイナス)と仲良くしてしまったことだろう。

 その在り方に多少なりとも影響を受けてしまっている彼は、過負荷(マイナス)譲りの不運に見舞われることになる。本人が過負荷(マイナス)じゃなくても、小坂零(マイナス)と関わってしまったことで在り方に多少の影響を及ぼしているのだ。

 

 端的に言うと彼が朝食を食べに行った先で、坂柳、葛城、一之瀬、神崎、龍園、伊吹、綾小路、堀北、平田といった()()()()()()()()()()()()の場面に出くわさなければ、彼はそのまま目的を達成できただろう。

 

 

 

 

 

______________________________

 

 

 

 

 

 最初はDクラスの綾小路清隆と堀北鈴音と平田洋介の3名が、朝食をとるついでに今後の特別試験について話し合うところから始まった。

 昨日のことがあり、当初塞ぎ込んでいた堀北は綾小路に挑発されるような形で触発され、かろうじて復帰することに成功していた。

 

 過負荷(マイナス)の闇を主人公(プラス)が晴らしたのだ。

 

 人心掌握に長けた主人公(綾小路)は、メインヒロイン(堀北)のアイデンティティを刺激することで、彼女らしさを取り戻させていた。

 Aクラスを目指すということ、『Aクラスの1人に躓いているぐらいではどうしようもないこと』、自分がどうしたかったのかということ、あいつに負けたままでいいのかということ。

 人間ドラマのお手本のような、喜劇(笑い話)がDクラスの一部でひっそりと生まれていたのだ。

 それは『めだかボックス』の世界で、久しぶりに再会した球磨川禊に震える人吉善吉に黒神めだかが手を肩におき庇った時の構図にも似ているかもしれない。

 

 竹本茂と小坂零の間にある『自分より下がいることを教えてくれることによって得る安心感』とは違う、『自分自身の強さを気づかせてくれることで得る安心感』をもたらしていた。

 

 だが、次に真正面から相対した時に同じ状態になってしまった場合、彼女は自分自身で過負荷(マイナス)から抜け出す必要があるだろう。

 Aクラスに上がりたいと思うのであれば、避けては通れない壁だと認識しているが故に。

 昨日の話し合いで一番感じた、『この学校で一番危険な人物足る小坂零』に負けてはいけないと思っているが故に。

 仲間に背を押されたとしても、自分の力でもって勝たなければいけないことを彼女は重々承知していた。

 

 

 彼女の斜め前に座っている青年も、同じく綾小路(主人公)によって立ち直った一人だった。

 相部屋だった平田洋介は、彼に関する重要なアイデンティティを共有することで立ち直らせた。

 昔、いじめられていたクラスメイトを助けられなかった彼の負の側面(マイナス)。ある意味、人生のどん底に突き落とされた事件。誰にも言う気のなかったそれを、彼は綾小路に吐き出していた。

 それを受容して、受け入れて、共感した。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 いい意味では誰とでも、悪い意味では深い友達が少ない彼の闇…小坂零(マイナス)によって引きずり返された(マイナス)()()()()()

 声を荒げた、殴りかかった、泣き喚いた。

 言葉を返した、手を掴んだ、黙って聞いていた。

 それを乗り越えた先に、奇しくも小坂零(マイナス)のおかげで彼らの友情は深まった。

 正しい意味で『友達』と言えるような関係が生まれたのだ。

 

 

 

 そんなこんなで、立ち直った、立ち直らせた3人が頭を抱えることになったのが、昨日の試験終了のアナウンスだった。

 正確には3グループだけ試験を続行しているが、どこのクラスが試験を終わらせたのかがわからない。

 Dクラスで平田の元に名乗り出た優待者がいるグループは、全て試験が終了していることからDクラスの優待者が指定されたことは把握していた。名乗り出た人数は3人であったことから、これで全員だろうと判断。

 試験が急に終わってしまった驚きで、Dクラスの優待者の二人は平田にその心情を漏らしていた。

 彼らの振る舞いのせいで優待者だと判明するには、一回の話し合いでは難しいだろうとフォローを入れた。その後に大きな反応はなかったことから、納得してくれたと判断した。

 

 だが、ここで一番知りたいことは試験が終了していないグループの優待者がどのクラスに所属しているかということだ。

 

 自分のグループの優待者が同じクラスの場合、回答を送っても試験を終了させることはできない。

 優待者の数が1クラス3人で4クラスだから12グループである。

 これは試験の公平性を考えると当然のことだ。優待者の数が偏っていることはあり得ない。

 だから、残った3グループの優待者は1つのクラスで固まっているはず。

 逆に、優待者が当てられているクラスは優待者を指定して回答した『容疑者』から外れることになる。

 

 ただでさえ、-150ポイントが確定してしまっている。

 残ったクラスの優待者を全て当てても±0。

 だが当てなければ、他のクラス全ての優待者を当てたであろうクラスが450ポイントを得ることになる。

 残りの優待者を、()()()()()()()()全て当ててくれれば300ポイント得られるだけで済む。

 差としては450ポイントで変わらないが、何もしなければ600ポイント差をつけられることを考えると他のクラスと協力してでも残りの優待者を当てる必要があった。

 

 

 問題は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 話し合いも一回しか行われず、大半の生徒は何が起こっているのか理解していない。

 理解していないからこそ、試験のことを忘れるかのように振る舞っていた。

 事実上既に試験を終了した他の生徒たちの大半はバカンスモードに逆戻りしている。

 まるで試験なんてなかったかのように、3グループだけ試験が終わっていないことを忘れているかのような雰囲気になっていた。

 

 バカンスが急転し試験に変わったと思いきや、突然試験が終わったのだ。

 

 事故に遭ったみたいなものだと、まだ期間があるのだから遊ばなければ損だと、()()()()()()()()()()()()()()()()、目の前の娯楽に飛びついてしまうのも仕方ないといえば仕方ないのかもしれない。

 残った3グループだけ話し合いの時間があることを、かわいそうに言う声が聞こえてくる始末だ。

 

「俺たちは試験が終わったから遊ぶぜ、お前まだ終わってないんだろ? 頑張ってくれよな!」

 

 彼らの会話の裏には、そんな言葉が見え隠れしていた。

 何も事情が分かっていないのに、()()()()()()()()()()()()責任だけを押し付ける。

 実に人間らしくて、愚か者なのだろう。

 

 

 だが、それを弾劾するのは酷だろう。

 自分たちでさえ、どこのクラスが優待者を当てたのかわからないのに他の生徒たちに協力を無理やり取り付けることは不可能だ。

 

 ふと視線をずらすと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()

 それは、何かを振り払うかのように、何かを忘れようとするように、何かを見ないようにするためにも見えた。

 恐らく彼女は昨日のことがまだ抜けていないのだろう。

 堀北と平田の二人は、彼女が化け物(小坂零)に真正面に立たれて話を振られていたことを思い出した。

 幸いなことに主人公(綾小路)と話しあいの末復活できた二人とは違い、不幸にも自力で過負荷(マイナス)を振り笑うしかできなかった彼女は現実逃避をしていた。

 最悪、化け物(小坂零)のことを忘れている可能性もある。

 危険な記憶と処理して、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それは奇しくも、化け物(小坂零)過負荷(マイナス)としての本質を表した結果と酷似していた。

 

 

 本当ならば彼女を助けるべきなのだろうが、今無理に問題を掘り返すと最悪な結果になりかねない。

 それを危惧した彼らは何もしなかった。

 強いて言うなら、目の届く範囲で小坂零と合わせないようにするぐらいだが今のところ目撃情報はない。

 あれだけ動いたのにもかかわらず、何もしてこないことが返って不気味さを醸し出していた。

 

 

 そこで、堀北はふと思いついた。

 いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…考えたくないことだけど、辰グループの話し合いでAグループの彼が私たちを潰そうとしたのは副次的なものだったのかもしれないわね」

 

「副次的なこと? 本命は違ったということかい?」

 

 平田がそう言うと、綾小路が彼女の考え付いた可能性に辿り着いた。

 

「…リーダー格が集まっている辰グループ全体を叩くことで、優待者に探りを入れることを遅らせたってことか」

 

「Aグループが優待者を指定したという判断材料がないから説得力には欠けるけど、もしもそうだとしたら彼は相当な強敵になるわ」

 

「真正面から人の心をへし折りに来るあれを、戦略兵器として扱うことができるってことになる…」

 

「ええ。核兵器を自由な範囲で操作できる…そんな存在だとしたら、間違いなく彼を何とかしないことには私たちが上に上がることはできない」

 

 そう言って優雅にコーヒーを口に運ぶ彼女だが、手元をよく見ると少し震えているのがわかる。

 

「…だけど、葛城君と坂柳さんは小坂君の行動を予想していたようには見えなかった。どっちかって言うと、想定外の行動をとっていて苛めるようなことを、葛城君が言っていたよ」

 

「それを考えると、Aクラスでも小坂を制御出来ていないのかもしれないな」

 

「…確かにその通りね。でも、坂柳さん…だったかしら? 彼女は彼の行動を止めようとはしなかったわ。Aクラスのリーダー格二人が、彼を止めようとしていれば彼も一度足を止めて考え直したかもしれない」

 

「なるほど…坂柳さんが優待者を見つけていて小坂君と手を組んでいた。葛城君はAクラスのリーダー格ではあったけど、それを知らなかったという可能性もあるね」

 

「葛城と坂柳は対立しているんだったな。それを考えると、小坂は坂柳に肩入れしているということにもなるかもしれない」

 

「ただ、坂柳さんも小坂君に手を拱いているような素振りも見せていたんだ。それが今引っかかっていて…」

 

「完全に掌握しているわけではないのかもしれないわね」

 

「そもそも、Aクラスが優待者を指定したわけじゃない可能性もあるしな。BクラスかCクラスが小坂を見て、優待者を急いで指定した可能性もある」

 

「でも、それだったら辰グループだけを指定するんじゃないかな? この短時間で優待者に法則性があることを見出して、それを裏付ける何かがないと9つのグループの優待者を指定するのは無謀だよ」

 

「でもCクラスの龍園なら、それをしてもおかしくはない」

 

「前回の特別試験でも奇抜な作戦をとっていたことを考えると、ありえなくはないわね」

 

「…その龍園君も、辰グループの話し合いでだいぶ参っていたみたいだけどね」

 

 あーでもないこーでもないと言いながら、コーヒーを飲みつつ話し合う。

 いかんせん、判断材料が少なすぎた。

 話し合いが一回しか行われず、それも半ばテロにも近い事故で機会を奪われ、たった一人が話し続ける『演説』に早変わりしていた二人。

 Bクラスのリーダー格である一之瀬が、話し合いの土台を作って終了した綾小路。

 彼らの手札は、『Dクラスの優待者がいるグループの試験が終了したこと』ぐらいしか、明確には存在しなかった。

 

 

 そんな彼らに手を差し伸べたのは、意外な人物たちだった。

 

 

「辛気臭い顔してるな鈴音、今日は金魚の糞が二人もいるのか?」

 

「言い方が悪いよ龍園くん。やっほー、綾小路くん。ちょっと話したいことがあるんだけどいいかな?」

 

 そこにいたのは、龍園、伊吹、一之瀬、神崎といったBクラスとCクラスの中心ともいえる人物たちだった。

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 かくして、ある意味たった一人の人物の手によって『Aクラス対B、C、Dクラス連合』の構図が完成した。

 この特別試験中だけのことかもしれないが、それは理想的な構図でもあった。

 追うもの(他クラス)追われるもの(Aクラス)が明確になった瞬間でもあり、頂点(Aクラス)を引きずり降ろすために一時休戦を結んだ瞬間だった。

 

 Dクラスの3人に合流した彼らは紆余曲折あって正気を取り戻した後、アナウンスがあったクラスを確認して自分のクラスの優待者がいるグループの試験が終わっていることを確認した。

 そして、どのクラスが優待者を指定したのかを探るべく、他のクラスに探りを入れに来たところ真っ先に鉢合わせたのがBクラスの一之瀬、神崎ペアとCクラスの龍園、伊吹ペアだった。

 最初は牽制しあっていたものの、小坂零(アレ)を思い出して嫌な予感を直感的に感じ取り一時休戦。

 Aクラスが怪しいと感じたものの、Dクラスの方から先に状況を見てみようと意見を一致させていたところで彼らを見つけた。

 

 その後、3クラスそれぞれで、それぞれのクラスの優待者が選ばれたメール画面を共有。

 消去法でAクラスの優待者が残っているグループだけが、試験を続行していることを確認した。

 自分のクラスの優待者が誰かを明かすことはしなかったものの、Aクラスが明確な敵だと証明することには成功していた。

 優待者を通知するメールはほんの少しだけだが、文面がそれぞれ異なっていることから各クラス3名優待者が存在し、どのグループに所属しているかを確認した。

 偽装したメールを作っているのなら話は変わるが、昨日の辰グループの惨劇を知っている人間がAクラスの有利になるような真似をすることはないと一種の信頼の元で情報共有を行っていた。

 

 

 

 そんな中でも、彼らを気に留める生徒は一人もいなかった。

 Aクラス以外の3クラス代表者とも言える人物が集まっているにもかかわらず、自分にはそんなこと関係ないとばかりに関わろうとしない。

 それは生徒である彼らにとっても、話し合いをしている彼らにとってもこの特別試験が()()()()()()()()()()()()()ことを表していた。

 

 彼らがどんなに頑張っても、彼らがどんなに知恵を振り絞っても、彼らがどれだけ嫌な思いを抱え込んで協力関係を結んだとしても、Aクラスが送った回答を書き換えることはできない。

 

 この場での代表格である彼らは、この試験において圧倒的に負けた者(マイナス)だった。

 

 

 




 ずっと『視点』となる人物(主に主人公(小坂零))を置いて、その人物から話を進めていく…所謂『一人称作品』として大部分を進めてきました。
 今話では、初めて最初から最後まで『三人称作品』として進めてみました。
 やってみた感想としては、それなりに書きやすかったと思います。毎回ではなくとも折を見てこの書き方に挑戦してみようと考えています。
 読みやすい読み辛いなどありましたらご意見をくださると幸いです。

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