ようこそマイナス気質な転生者がいるAクラスへ   作:死埜

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5話目 二日目の話

 あー…辛い。

 昨日のことを考えると辛い。

 

 昨日のことは忘れよう。正直思い出すたびに恥ずかしすぎて、憂鬱すぎて辛い。

 昨日に戻れたら、自分をぶん殴ってでも奇行を止めさせなければいけない。

 

 だが、そんな現実逃避をしたところで悪戯に時間が過ぎていくだけだ。そろそろ起きないと授業に間に合わない。ベッドの上でもう少し目を瞑っていたいけど、現実を直視しないといけない時間だ。

 そう思って私は目を開けたが、そこに映ったものは今にも落ちそうなぐらいに切り刻まれたように見える天井だった。

 

 

 

 

 …知らない天井だ。

 

 いや、マジでなんだこれ。

 私の周りの空気が目に見えるレベルで切り刻まれてるように見える。

 そのせいで天井が切り刻まれて今にも落ちそうな錯覚がする。

 

 

 

 …もしかして、これマイナス垂れ流しにして寝た影響なのかもしれない。

 

 裸エプロン先輩のは周りの空気が螺子曲がるほどのマイナスだったけど、私の場合は周りの空気がぶっ()切られるほどのマイナスってとこか?

 

 

 ていうか、私ってマイナスこんなに強かったっけ?

 昨日の自己嫌悪でマイナス成長したとかなのか?

 

 

 あ、感覚がそうだって言ってる。

 よく考えたら、私のマイナスって自己主張が激しい。マイナスのことに関しては間違ってる時には感覚で教えてくるところとか過保護としか思えない。

 それに助けられてることが多いから悪いことばかりじゃないし、むしろいいことなんだけど過保護な母親が常にいるような感じは気持ち悪い。

 

 

 

 

 

 …これもしかして、こっちの世界じゃいない親代わりになろうとしてるのか?

 

 凄く合っているような感覚が来た。

 ここまで自己主張の激しいマイナスがあるなんて初めて知ったけど、スキルが親代わりとか悲しすぎるにもほどがあるだろう。

 でも私にはそれがお似合いなのかもしれない。『転生』なんてしてまで生にしがみついている身だ。

 

 

 

 

 

 

 

 …無冠刑(ナッシングオール)は無関係っていうこと。

 

 つまり、私以外は関係ないっていう私の在り方。

 要するに私自身ともいえる。そう考えると私のマイナスが意思を持っていてもおかしくはないのかもしれない。

 原作の『めだかボックス』では、そんなことはなかったが、

 

 だって、彼?(無冠刑)は私そのものなんだから。

 

 あ、そう考えると過保護というよりは自分が死にたくないから仕方なく教えているような感じなのか?

 親代わりっていうのも寂しさを紛らわすというよりは、負の側面(マイナス)の使い方に口出しするっていう感じの意味な気がしてきた。

 

 …あれ?

 間違えてる?

 いや、合ってるとも間違ってるとも言ってこない感覚だこれ。黙秘を決め込まれてる。

 なんか少し違うってことか?

 

 まあいいや(私には関係ない)

 

 勢いでマイナスを垂れ流しにしていたけど一度制御に成功しているし、直接人にあっているわけじゃないから『縁』が切れるほど過負荷(マイナス)が暴走していない。

 そうじゃないと、中学時代に一度他の部員と自己紹介をやり直す羽目になっているはずだから問題ないだろう。

 

 

 最悪切れてたらもう一回自己紹介からやり直すだけだ。

 

 とりあえず、朝食を食べて教室に行こう。そんでもって、放課後にはホームセンターと家電量販店。それに携帯を買わないといけない。元の持ち物が少ないからポイントを駆使して必要なものをかき集める必要がある。ポイントを極力使わないようにしないといけないから、これからは無料コーナーにお世話になることになる。

 施設で料理を手伝っておいたおかげである程度の料理はできるし、最悪火を通せば大体のものは食べられる。それで腹を壊すこともあるかもしれないが、もうマイナスの一環としてあきらめることにした。

 

 それを考えると胃薬とかも必要だな。

 風邪薬とかも一通り揃えておく必要がある。

 

 

 

 しかも、この学校はポイントでテストの点数すら買うことのできる学校だったはず。それを考えると必要なものを最低限集めて残りは貯めておく必要がある。

 ポイントの価値は人を動かすことも簡単だというところにもある以上、無駄遣いはできない。

 Aクラスは優秀な人間の集まりで初月は殆どポイントを落としていなかったはずだが、それでもなくなるときは一瞬なのが世の常だ。

 

 まあ、そんなことを考えると自然と自炊せざるを得なくなるから学校方針としては間違ってないんだろう。

 

 その分人を信じる心とかは失われていきそう(とてもマイナスに成長しそう)だとは思うが。

 

 

 

 

 とりあえず昨日コンビニの無料コーナーからもらってきた卵と食パンを焼いて目玉焼きとトーストもどきにして食べよう。

 トースターはないけど、フライパンは二枚あるから何とかなるはず。

 

 

 

 

____

 

 

 

 

 油って偉大だということを思い出した朝食だった。フライパンに卵がくっついて、黄身が崩れた目玉焼きをトーストもどきに乗っけて食べた。

 まずくはなかったんだけど、油とかバターとかの偉大さを思い知らされた。

 目玉焼きを剥がすだけなのに、ここまで失敗するとは思わなかった。

 

 とりあえず洗い物は済んだし、準備も無事にしたから教室に向かうことにしよう。マイナスを内側に閉じ込める感覚を忘れない。

 精神的に負担がかかるが、垂れ流しにしたまま教室に入ろうものならいじめ発生間違いなしだ。

 最悪Aクラス全滅エンドが見える。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな訳で教室に入るとすでに隣の席には有栖ちゃんが座っていた。

 

 

 

 

 

 …吹き出すな…耐えるんだ。

 そう自分に言い聞かせた。

 

 『有栖ちゃん』って吹き出しを付けるだけで一気に沸点が下がる。

 昨日の帰り際のポンコツ具合を見たせいでなおさらやばい。病弱腹黒ポンコツ系美少女とか属性盛りすぎだ。顔が良い分、昨日の件が相まって尚更残念美人に見えてきた。

 

 可愛い?

 

 それは認めるが、マスコットキャラクター的な可愛さを裏ボス系ラスボスっぽいやつが持ってたらそれだけでシリアスが台無しになると思わないか?

 

 

 あ、安心な人外さんはマスコットになっても可愛いのか?

 でも、新しいィィの不可逆の英雄さんがマスコット的な可愛さをもってポンコツ系だったら皆困ると思うんだけど。

 敵対する方も「え、こんなポンコツとラスボス戦しなくちゃいけないの俺?」みたいな感じになると思う。

 まあ、私は間違っても主人公側にはならないから関係ないか。

 裸エプロン先輩みたいにボコボコにされた後ならワンチャンあるかもしれないけど、ここの主人公(綾小路君)って確か目立ちたくないタイプの人のはずだし、そんな熱い青春漫画みたいにはならないだろう。

 

 

 

 とりあえず昨日のことにはあまり触れないようにして挨拶をしよう。

 あれは私と彼女だけの秘密ってことで。

 

「おはよう、坂柳さん」

 

「おはようございます、小坂君」

 

 よかった。ちゃんとラスボスの皮を被れてる有栖ちゃんを見て少し安心した。

 昨日帰ったままのポンコツ可愛いマスコット系キャラクター有栖ちゃんはもういない。

 また、私のことを覚えていることから、寝る時ぐらいはマイナスを出(リラックス)してても問題ないことを確認できた。

 もしこれで覚えてなかったら面倒なことになっていたが、そんなことはないみたいで安心した。

 

「昨日は申し訳ありませんでした。送ってもらってとても助かりました。」

 

「気にしなくていいよ。困ったときはお互いさまってことで」

 

「そう言ってくれると助かります」

 

 やっぱり昨日は入学初日でいろいろ大変だったんだろう。その心労が祟って帰りの最後におかしくなっちゃっただけなんだ。

 …そうに違いない。

 

 

「昨日あの後何かあったのー?」

 

 近くにいて私と有栖ちゃんの会話を聞いていたクラスメイトが話しかけてきた。あの後の話は、私と有栖ちゃんの二人だけでしていたので気になっているのだろう。

 

「あの後、ちょっと話し込んだら遅くなっちゃってね。もう辺りも暗かったから坂柳さんを送って帰ったんだよ」

 

「小坂、坂柳さんと二人で帰ったのか!?」

 

「いいなー。私も一緒に帰りたかったなー」

 

 クラスメイト達が次々に絡んでくる。昨日の失敗を取り戻すためにもクラスに馴染むにはいい機会だ。

 

 …あれ?

 有栖ちゃん? 

 何で顔赤くしてるの?

 さっきまでのラスボス感が消えて一気にポンコツ臭のするマスコットキャラに早変わりしてるけど大丈夫?

 そんな調子でこのクラスを支配しようとか本当にできるの?

 お兄さん心配になってきたよ?

 

 

「そういえば、小坂君とは連絡先の交換してなかった気がするー」

 

「確かにそうだな、今交換しないか?」

 

 おー……

 これがコミュ力。Aクラスの本領発揮ってところなのか?

 だが、残念なことに今の私はまだ携帯電話をもっていない。

 

「明日でもいい?

 今携帯持ってないから」

 

「あれ、携帯忘れたの?」

 

「寮において来てしまったみたいで、ポケットに入れ忘れたのに今気づいた」

 

「それじゃあしかたないな、明日交換するか!」

 

 今話している二人は昨日一緒にご飯を食べたメンバーの人ではない。私達の話を聞いて、昨日一緒にご飯を食べたメンバーはこっちを可愛そうなものを見る目で見ている。

 私が施設暮らしで携帯電話と『縁』がなかったことを察している人たちだ。

 

 さっきまで、有栖ちゃんのことを聞きたそうにしていた人に紛れていたが、携帯の話になった途端に離れていった。

 

 

 …やっぱり昨日施設暮らしのことを話したのは失敗だったとつくづく思った。

 クラスに馴染もうにも、昨日言ってしまったことが相手と自分との距離を広げている。まあこれは仕方ない。

 もうどうやっても取り返しのつかないような事態だし、むしろこれを利用して孤立するルートに入ることも考えたほうがいいかもしれない。

 

 

 

 

 …まてよ、下手に孤立するよりもスキンヘッド同盟(葛城グループ)ポンコツ美少女守り隊(坂柳グループ)の間で胡麻を擦る役目をすればいいんじゃないか?

 

 ついでに孤立気味な子たちとも関われるし、あのポンコツ美少女(有栖ちゃん)がどう思っているかは知らないが、Aクラス内で内部分裂して破裂した後にどうするのかって考えているのか?

 

 退学させるならまだしも、そうじゃないんなら不確定分子を内部に抱え続けることになるぞ?

 ポンコツ美少女守り隊(坂柳グループ)の支持率が100%になったところで、内部で不平不満を持っている人たちが分裂したり、他のクラスに寝返ったりする可能性も十分あり得る。

 Aクラス内部で、もう有栖ちゃんには勝てないけど散っていった葛城君の恨みを喰らえー、みたいな感じで情報を垂れ流しの横流しされたら最悪な事態になる可能性がある。

 

 それを考えると、私がするべきことはみんな仲良く喧嘩はやめましょうっていう方針にすることじゃないか?

 間を持つ形になれば、お互いに変なことを言っても正論ですり合わせることができるし、何よりもAクラスは初動が強いんだから下手に内部分裂を起こさないほうがいい。

 

 

 …一番の問題はそれを(マイナス)がやるのかっていうところだが。

 別にそこまでする義理もない。エリートを見るとムカつくようになっているのは変わらないし、むしろ前よりもムカつく感じはある。

 

 だけど、こいつらは自己の利益だけで動く()()()たちだ。

 どうせ頑張っても、最終的に抜かれるんならマイナスを抑える都合上最も平和的に済ませたほうがいいのではないか?

 

 

 

 

 

 

 最後に負けたとしてもみんな最後まで頑張りましたって言えれば君たち(愚か者)は本望だろう?

 

 

 

 

 ……そう考えたらやる気が出てきた。

 

 

 

 

 

 

 私は自分の席から離れて席に戻っていく生徒を眺めながら、とりあえず明日クラス全員の連絡先を登録するところから始めようと思い、授業に身を任せた。

 

 

 

 

 

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 それからは何事もなく終わった。

 

 授業はオリエンテーション的なもので基本的な説明と基礎的なものしかやらなかった。昨日一緒に食事をしていたメンバーは真面目に授業を受けていたが、他のクラスメイトが少し騒がしかった時があった。

 その時に、教師の動きが一瞬止まったのを私は見逃さなかった。

 隣の彼女(有栖ちゃん)もこっちを見てきたので頷いておいた。彼女は頭が良いからこれだけで伝わるだろう。これで彼女の立場はAクラスでスタートダッシュを切り、他人を纏める優秀な指導者といったところだろう。

 葛城君は騒がしい人たちを注意しているみたいだが、まだシステム的なことには気づいていないみたいだ。この段階でどっちの指導者が勝っているかなんてお察しだが、指導者が優秀だろうが無能だろうが他のクラスメイト(愚者)が付いてこないんじゃ話にならない。

 逆にいうと、指導者が多少劣っていても集団の人数が多ければ何とかなってしまうのが社会だ。

 

 一番困るのは何も考えてないで流されるだけ流されて騙されたっていう連中だけど、Aクラスにはそういう人は少なそうだ。

 

 そう思いたい。

 

 

 

 

 そんなことを考えているうちに、放課後になった。

 今日の私はいろいろと買い出しに行くところがあるので教室を出ようとしたが、その前に有栖ちゃんに話しかけられた。

 

「どこに行くんですか、小坂君?」

 

「昨日いろいろ買えなかったものを買ってこようと思うんだ。結構回るから、話は明日でもいいかな?

 何時になるかわからないし」

 

「そういうことですか。仕方ありませんね」

 

 心なしかしょんぼりしているように見える。

 困ったぞ、普通に可愛い。かといってここで私が頭を撫でようものなら気持ち悪がられるのは目に見えている。

 そんな勇気が私にあるわけもない。

 

 少しの罪悪感を感じながら、私は教室を出て真っ先にホームセンターに向かった。

 

 

 

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 ホームセンターに行ったが、鉈がおいてなかった。

 ショックが大きすぎて、もう帰りたくなっていた。

 

 何でホームセンターなのに鉈がおいてないんだよ!

 何のためのホームセンターだよ!

 

 心の中で声を大にして叫んだ。心の中だけで済ませているあたり、冷静さを見失っているわけではないと思いたい。

 だが冷静さを取り戻したら今、鉈を売っていたとしても買う人がいないというよりは使いどころがないと言われればそれまでだ。確かに学校内はよく整備されており、鉈を使って切り拓くような場所はまずない。

 むしろ、制度の都合でピリピリしやすい雰囲気の中で凶器認定まっしぐらの鉈を置いている方がおかしいのかもしれない。

 

 …それでもショックだった。

 私がマイナスを感じたとき、自分自身が鉈になったような感覚を味わった。それ以来、私は鉈に親近感を持っている。

 今日、私は中学生の時には買えなかった鉈をようやく買えると思って、サンタのプレゼントを待つ子供のような気持ちで過ごしてきたというのにこれはいくら何でもあんまりじゃないだろうか。取り寄せてもらうことも考えたが、履歴で残ると何のために買ったのか問い詰められたら答えづらいと思い困ってしまった。

 手段を択ばなければ買うこともできたのだろうが、私は泣く泣くホームセンターを後にした。

 

 

 

 

 

 次に向かったのは家電量販店だ。

 パラパラと人が散らばっているような感じで、ゲームを買う人も見える。こんな貴重なポイントをゲームに使って大丈夫か? とか思いながら、恐らくこの学校の仕組みについてまだわかっていないであろう同じ新入生をスルーして目当ての場所に行った。

 

 録音機も欲しかったが先に時間がかかると困るので携帯電話を買うことにした。店員を呼び、説明を受けてとりあえず通話し放題のプランにする。

 これで毎月4000ポイントが飛ぶことになるが、これで手に入る情報というものはそれ以上の価値があるだろうと確信している。

 私は思ったより早く終わったことに喜び、録音機を探しに行った。

 

 

 録音機は売っていたのだが、どれがいいものなのかよくわからなかったため適当に4種類買うことにした。全て、小型の手のひらサイズのものだが種類がばらばらなのでどれを使っても私のものだとばれにくく、はずれが紛れていてもリカバリーが効くようにした。

 

 全部でおよそ20000ポイント。結構掛かった気がするが、初期投資として諦めた。

 

 

 

 

 

 次に向かうところは、ドラッグストアだ。

 一般的な風邪薬や胃薬、下痢止めなどを一通りそろえておきたい。空手の決勝で戦わずして負けたのはいい思い出だ。マイナスなのに今日は運良く勝ち進めているなーと思ったら、最後の最後に爆弾を落とされたあの絶望感を私は忘れない。上げて落とすなんてこともあるのかと少し感心したけど、殺意の方が圧倒的に上回っている。

 

 そんなことを思い出しながら、ドラッグストアで薬を見繕った。胃薬、胃腸薬、風邪薬、下痢止め、消毒薬、包帯、絆創膏、目薬、軟膏、頭痛薬、睡眠薬を一通りかごに入れてレジに向かうと、レジの店員が少し引き攣った笑みを浮かべながら会計をしてくれた。

 

 全部でおよそ5000ポイント。

 必要経費だから仕方ない、私は自分にそう言い聞かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 最後に向かったのはスーパーだ。

 目当ては無料食材と調味料。調味料まで無料であればいいが、油とかは普通に買わないといけないんじゃないかと思う。なくても最悪何とかなるし、牛脂とかおいてたらそれを使えばいい。

 

 

 

 私は調味料どころか、普通にサラダ油が無料コーナーにあることに戦慄していた。

 バターまであったときは思わず二度見してしまった。食料関連はかなり緩く設定されているみたいだ。おかげで自炊が捗るなー、とか思いながら消化できる分の食材をかごに入れた。

 

 ついでにフライパンも新しいのに変えておこう。あのフライパン結構ボロボロだったし、前の人が使ったものをいつまでも使うのはなんか嫌だ。

 衛生面的にもあまり好ましくない。

 

 

 あ、お弁当箱買うの忘れてた。明日からポイント消費を抑えるために、お昼はお弁当にしようと思ってたことをすっかり忘れていた。

 

 そうして私はお弁当箱をかごに入れ、一通りの買い物を済ませた。

 

 全部で2000ポイント(フライパンは2枚、その他日用品込)。これで今日使ったポイントは全部で29000ポイントぐらい。昨日の食事で1000ポイントちょっと使ったから、残りは大体70000ポイントぐらい。

 

 必要経費としてはこれぐらいは仕方ないと思おう。

 これからの生活でどれぐらい切り詰められるかがカギだ。

 

 そんなことを考えながら私は買い物袋を両手に持ち、寮に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 夕食を済ませた私は少し体を動かしたくなって、寮を出て人気のない場所に来た。

 

 さっき思い出したことだが、実は今日部活の説明会というものが放課後にあったらしい。買い出しのことで頭がいっぱいになっていたためすっかり行き損ねてしまったが、体を動かす場所が欲しいと思っている私には少しの後悔があった。

 

 だが、大会で結果を残せればクラスポイントが入るとはいえ、私のことだから最後の最後で負けるのが目に見えている。

 2年生の時の大会なんて行く途中で車に突っ込まれて、急いで躱したら足をねん挫して出られなくなったなんてこともあった。あの時は前世の最後を思い出して酷く狼狽えたことを覚えている。

 

 しかも、これからのクラスでの立ち回りを考えると放課後に部活動に入りながらクラスで動くのはとても難しそうだ。それを考えると、少し残念ではあるが空手部に入るのは諦めたほうがいいだろう。

 

 そう思った私は開いている時間に基礎的な鍛錬だけをすることにした。

 走り込み、筋トレ、空手の基本的な型の復習、後は漫画の知識を思い出した時に思い出してきた技を再現できないか試してみたい。

 男なら一度くらいあるのではないだろうか?

 格闘漫画の技を実際にやってみたいと。

 

 せっかく空手で鍛えているという下地があるんだから、時間があって心に余裕があるときにはいろいろ挑戦してみるべきだと思う。

 私は覚えている中で頭の中でイメージがしやすかった、刃牙のマッハ突きを試そうと思った。

 

 そう思った私は走り込みと筋トレ、基礎的な型の復習をした後にマッハ突きの練習を始めた。

 

 

 体の関節に回転を加えながら、手に全ての力を込めて振る。

 足首の関節の回転をひざの関節へ、膝から腰へ、腰から胴へ、胴から肩へ……嫌な感触がした。

 

 

 ……めっちゃくちゃ難しい。

 

 分かりきっていたことではある。

 ここバトル漫画の世界じゃないし、カタルシスが楽しい学園ものだってのはわかってるけどね、まさか1回振り抜くだけで肩が外れるとか思わなかった。

 

 関節に回転をかけて手の方に持っていくまでの流れをきちんとしないと、貯めた力が変なところに行ってしまう。

 それで肩に回転力などの力が集まってしまったから外れてしまったみたいだ。理論だけでしかわかってないことをいきなり全力でやるもんじゃないってことだな。

 ていうか、これ一歩間違えてたら普通に肩が壊れてたんじゃね?

 何で最初から全力でやろうとしたんだ、馬鹿か私は。

 

 …これはかなり厳しそうだ。痛かったけど肩をはめ直した。

 今日はこの辺にして、続きは後日に回そう。こんな肩の具合で続けたら最悪取り返しのつかないことになりかねないし、まだジンジンするから正直やりたくない。

 

 まあ、本気で習得できるとも思ってないし気軽にやろう。そもそも完全版が完成した場合は私の腕が内部から破裂するとか言う恐ろしい技だった気もするし、先端がマッハを超えるなんて言う突きを人体にやったら即死不可避で私が豚箱行きだ。

 

 …ていうか、体鍛えたほうがいいって思ってたけどやりすぎじゃないかこれ?

 

 カタルシスメインなんだから体鍛えたところで部活に入らないんなら大して変わらないだろう。現に話的にも敵対することになるAクラスで一番優秀そうな有栖ちゃんは病弱体質だし、別に体鍛える必要ないのではなかろうか。

 

 …だけど、せっかく付けた筋肉を落とすのももったいないか。

 

 全身汗まみれになっていた私は、汗を流すために寮の自室に戻った。

 

 

 

 

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 シャワーを浴び、勉強の復習を軽くしてから、携帯の初期設定をしていなかったことを思い出しベッドでゴロゴロしながら初期設定を済ませることにした。

 

 初期設定を進めながら考える、私は明日何をするべきか。

 本当にあの二人の間に入って間を取り持つことをするのか?

 

 裸エプロン同盟もとい、裸Yシャツ同盟を作って彼女たちと敵対する姿勢を作り、私を倒させるために二人が団結するっていう方が楽な気もしてきた。

 問題としては私には裸エプロン先輩みたいに人望がないことと、有栖ちゃんに勝手なことはしないといった手前第三勢力なんて作ろうものなら怒られるの間違いなしってところか。

 

 まあ、怒られるに関してはどうでもいいけど、私についてくるような人がいないのも事実だし、一人で二人どころかAクラス全員の相手をするのは手に余る。マイナスだからってのもあるけど、そもそも私にそういうものは向いてない。

 基本的に利己的で個人主義な私がグループを作るなんてまずできないだろう。

 

 

 

 

 だが、私個人じゃ彼らと敵対できるほどの力はない。

 

 

 

 

 …過負荷(マイナス)を抑えることなんてやめて、気持ち悪さ全開にすれば二人が手を取り合わざるを得なくなるか?

 

 いや、そんなことをしたら間違いなく主人公(綾小路君)にも目を付けられることになりうるし、私の歯止めが利かなくなるのも目に見えている。

 

 そうなったら、私は学校を卒業できなくなる可能性の方が高くなる。

 とりあえずこの学校に入った目的は卒業することなんだから、そこを履き違いないようにしないといけない。

 

 よし、やっぱり明日はクラスメイト全員の連絡先を手に入れて葛城君と仲良くなることから始めよう。

 派閥に入らないにしても仲良くなる分には嫌がられないだろうし、昨日今日と様子を見てみたけど彼はできるだけみんな仲良く、強制はしないよみたいなタイプの人間だ。

 

 擦り寄ってくる人を蔑ろにしないことは目に見えているからそこまで難しくはないだろう。

 

 私は心の中でスキンヘッド同盟(葛城グループ)って思っていたことを謝る必要があるかもしれない。

 独断と偏見がよくないことだってのはわかっていたはずだが、高校生になってからテンションがおかしくなっていたのだろう。

 そういうことにしておかないと、私の心が勝手に痛んで死んでしまいそうだ。

 

 

 

 

 そんなことを考えているうちに初期設定も終わったし、今日はもう寝ることにしよう。

 

 明日こそ、連絡先を増やすために頑張らないといけないしやることはいっぱいある。

 裏目になることもあるかもしれないが、動かないで文字通り轢き殺されるなんてマネは前世だけで十分だった。

 




 家電量販店の携帯のところとか、ほとんどイメージだけで書いたのであまり気にしないでください。

追記
 携帯電話が支給されていたようないなかったようなような気がしますが、この作品では各自自前のを自由に持つことができるということにしておきます。
 混乱させるような形になってしまい申し訳ありません。

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