転生超人奮闘記   作:あきすて

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転生超人出現! の巻

 

 

 ここはキン肉星、マッスルガム宮殿。

 いま正に、唯一無二の転生超人が誕生しようとしていた。

 

「王子! サダハル王子! お待ち下され!」

 

「べーっだ。待ってやらないよーだ」

 

 齢5歳。

 王子と呼ばれ家庭教師から逃げる子供の名はサダハル、姓をキン肉といった。

 団子っ鼻にタラコ唇、後の世、あるいは別の世界でキン肉マンと呼ばれる超人とよく似た風貌の幼子だ。

 

 わんぱく盛りで勉強をするよりも身体を動かしたいサダハルは、退屈な家庭教師の授業を抜け出していた。

 

 タッタッタッと軽やかに広い廊下を駆け抜けていく。

 

「きゃっ!?」

 

 曲がり角で飲み物を運ぶメイドにぶつかった。

 

「申し訳御座いません! 王子!」

 

 ぶつかった相手が我が儘な方の王子であると気付いたメイド姿の少女は、土下座をする勢いで慌てて頭を床へとこすり付ける。

 

「ん? あぁっ、そうだぞ。気を付けないとダメじゃないか」 

 

 それを見たサダハルは胸を張って威張ってみせた。

 走るべきではない廊下を走り、急に飛び出したのは自分であり、むしろ悪いのは自分の方なのに相手が謝るなんとも不可思議な光景。

 

(ま、俺って王子だしな…………あれ? 俺は王子なのか? 確か、しがないリーマンだった……ってリーマンってなんだ??)

 

 成長期を迎え自我が定まりつつある芽生えの中で、類い希な才能を持つサダハルは前世の記憶をも会得しようとしていたのだ。

 しかし、サダハルであっても突然の自我の混濁には対処が追いつかないでいた。

 

「サダハルっ!!」

 

 混乱するサダハルの頭にガツンとゲンコツが落とされた。

 

「た、タツノリ兄さん……?」

 

 頭を押さえたサダハルは涙目になりながら自身にゲンコツを落とした相手、キン肉タツノリを見上げている。

 

(タツノリ……タツノリ…………キン肉タツノリって、キン肉マンのご先祖様じゃ?)

 

「いつも言っているだろう? 私達は王族であるまえに一人の超人なのだ。超人として誰しもが持つべき優しさを忘れてはいけない。私達は民が王族と認めてくれているから王族でいられるのだからな? 全ての人々から賛同を得るのは難しいことだが、模範となるべく自らの行いを律し、日々精進すること…………聞いてるのか、サダハル!? どうした!?」

 

 腰を落としてサダハルと目線を合わせたタツノリは、彼なりの王族としての心構えを優しい口調で説いていく。

 その途中、聞いているハズのサダハルの身体がグラグラと揺れたかと思うと、そのままバタンと廊下に倒れ込んだ。

 

「だ、誰かっ!? 医者を呼んでくれないか!?」

 

 自身のゲンコツのせいでサダハルが脳振とうを起こしたかと、なんだかんだで年の離れた弟には甘々のタツノリは大慌て。

 サダハルが倒れた実際の原因は、前世を思い出したせいで一気に情報が流れ込ん事で発した知恵熱だ。

 

 しかし、そんな突拍子も無いことが弟の身に起きていると知るよしもないタツノリは、駆けつけた衛兵に運ばれていくサダハルを心配そうに見守るのだった。

 

 

◇◇

 

 

 サダハルが倒れて三日。

 妙にスッキリとした気分でサダハルは目を覚ました。

 

「おはよう、タツノリ兄さん」

 

 目覚めたサダハルがまず目にしたのは、自分の部屋には無かったハズの小さなテーブルの前で書類と格闘する兄、タツノリの姿だった。

 

(次期大王は大変だな…………絶対やりたくねぇー)

 

 看病の現場にまでテーブルを持ち込んで書類仕事に終われる兄の姿に、サダハルはこうは成りたくないと心に誓う。

 幸いにして自分は第二王子。

 一方のタツノリと言えば、ご先祖様と言えばタツノリ様! と必ず名前が挙がる程の偉人だ。

 自分には大王なんて面倒な役回りはやって来ないだろうと考える。

 

「さ、サダハル! 目が覚めたのか!?」

 

「うん。もう大丈夫だよ。心配かけてごめんなさい」

 

「い、いや、私の方こそ済まなかった」

 

 良く言えば、わんぱく盛り。

 悪く言うなら、生意気な糞ガキ。

 そんなサダハルが素直に謝る姿に面食らいながらも、成長したと内心で喜んだタツノリだったが、それでも自分が悪かったと頭を下げる。

 

「違うよ。僕が悪かったんだ。コレからは気を付けるから兄さんは謝らないでよ」

 

「し、しかしだな……」

 

「大丈夫だって。ほらっ! この通り元気だし、兄さんはこんな所にいないで仕事してきなよ」

 

 ベッドの上で立ち上がったサダハルは、ジャンプ1番跳び上がり、クルッと1回転して床に降り立ってみせた。

 

 キン肉タツノリとサダハルの父。

 つまり現大王は万日咳という奇病を患い、長い間病床についていた。

 その父の名代として執務を行うタツノリは、忙しい日々を送っている。

 そんな兄の手をこれ以上患わせるワケにはいかない、との演出だ。

 

「……そうだな。何か有ればそこのハラミさんに頼んで人を呼んでもらい、きちんと観てもらうのだぞ」

 

「分かってるよ。兄さんは心配症だなぁ……って、なんでその人が居るの?」

 

 タツノリが指し示した方を見ると、先日ぶつかった相手であるメイド姿の少女が緊張した面持ちで立っている。

 

「彼女はお前が倒れる事になった原因の一端が自分にあると責任を感じ、専属のメイドとして名乗り出てくれたのだ」

 

「ハラミと申します。今日から宜しくお願いしますっ」

 

 サダハル付きのメイドと言えば、無職に向けての片道切符。

 マッスルガム宮殿内ではそう噂される役職だ。

 子供ながらに馬鹿げた体力を誇るサダハルとの追い掛けっこで体力的に疲れ果て、管理不足と上役からネチネチ責められ精神的にも疲れ果て、皆が皆とも宮殿を去っていくのである。

 

 そんな役職に自ら名乗り出たハラミ(12歳)の内心は、悲壮感でいっぱいだった。

 

「うん、よろしく」

 

「では、安静にな」

 

 サダハルがハラミに対して特に嫌がる素振りを見せない事を確認したタツノリが部屋から立ち去る。

 

 サダハルと二人残されたハラミの緊張度合いが高まっていく。

 

「も、申し訳御座いませんでしたっ」

 

 タツノリの足音が聞こえなくなるのを待って、ハラミが頭を下げる。

 彼女はホルモン族の期待を背負ってこのマッスルガム宮殿にやってきていた。

 いくらタツノリから謝罪の必要はないと言われようとも、王族とぶつかったというのはそれだけで罪である。

 我が儘王子に面白半分で糾弾されてしまえば、周囲の者達は秩序を護る為に同調せざるを得なくなり、自分の宮殿務めが終わってしまう。

 

 無職に向けての片道切符と言われようとも、メイドとしてサダハルの側に仕え、何とかご機嫌を取るしかハラミには無かったのである。

 

「こっちが悪かったし別にいいよ」

 

「え? あの、許して頂けるのですか?」

 

 あっさりしたサダハルの答えに、ハラミは自分の耳を疑った。

 サダハルと言えば、人を困らせる事が好きな我が儘王子との評判だ。

 

 実はこの評判は大きな間違いであり、サダハルが好んで見ていたのは“自分が理不尽な振る舞いをした時の大人達の対応”である。

 マッスルガム宮殿内とはいえ、子供が誰一人としていないわけではない。

 その子供達が何かをした時の大人達の態度と、自分が何かをした時の大人達の態度が違いすぎた。

 その理由を幼いサダハルは知りたかった。

 兄であるタツノリからは王族と聞かされていたが、王族とは何なのかをサダハルは知りたかったのである。

 

 そして、前世の知識を我が物にした事でこれらの疑問は解消し、サダハルは新たな課題を得たのだった。

 

「許すからさ、黙っててくれない? ちょっと考えたいことが有るんだ」

 

「は、はい」

 

 サダハルが得た新たな課題。

 それは、今後の自分の身の振り方だ。

 流入してきた科学的な知識等はなんの役にも立たない無用の知識で、記憶の彼方に捨て置いてなんの問題もない。

 億年の時を超えて発展を続ける超人達の科学技術は、ワープ航法さえも可能にするレベルに達している。

 日常生活において超人達が科学技術をあまり用いないのは、昔ながらの生活こそが生物としての退化を防ぐと学んでいたからだ。

 

 従って、サダハルが得た知識の中で重要なのは、人として生きた経験であり、普遍的な物事に対しての価値観や認識。

 そして、何より重要なのは、漫画・キン肉マンの知識だろう。

 

(とりあえずタツノリ兄さんが大王になるのは確定事項として、俺は……どうするかな)

 

 漫画・キン肉マンの中には自分の名前は一度たりとも出てこないからには参考にしようがない。

 もっとも、自分の名が有ったとしてもその通りに動く気は更々無い。

 

 ただ、漫画・キン肉マンとは関係なしに第二王子という立ち位置は、あまり好ましくない立場であるとは理解した。

 自分にそんな気が無くとも周りの人間次第では、兄であるタツノリと敵対する可能性を秘めている、と。

 考えすぎと言われようともタツノリを尊敬しているサダハルには、看過することは出来ない可能性だ。

 

 大王となるべき兄の足枷にはなりたくない。

 それには自分が何も成さず、貝の様に静かに暮らすのが1番だろう。

 しかし、サダハルは自分がそんな献身的な真似が出来るほどの人徳者だとは思っていない。

 

「やっぱり超人レスラーにでもなるしかないか」

 

 散々悩んだあげくサダハルは、政治の世界には一切関わらず超人レスラーとして最強を目指す事にした。

 キン肉サダハルの名が歴史に残らず、漫画・キン肉マンの中で登場しないのは、きっと自分が論ずるに値しないひと山いくらの凡夫だったからだろう。

 だが、前世の知識を得て転生超人となった今ならば、まだ観ぬ強豪超人とも渡り合う事だって出来るはずだ、と。

 

(一応、キン肉王族の端くれだしな)

 

 小さなサダハルの大きな決意。

 

 それを聞いていたハラミは、明日からの役目を思い大きな溜め息を吐くのだった。

 

 







 
専属メイドとなったハラミの運命とは!?

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