転生超人奮闘記   作:あきすて

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マッスルコンボは幽閉へのコンボ!? の巻

 

 

『キン肉チャンネルを途中から御覧の皆様こんばんは!

 月に一度のお楽しみ!

 皆が大好き! サダハル選手の第13回・公開スパーリングの模様をお送りしていますが、今夜はいつもと違った様相に成ってきていますね』

 

『そうですな。まさか無名に近いテリー・ザ・キング選手がこれ程の粘りを見せるとは、誰も予想だにしていなかったでしょう』

 

『でも、サダハル選手は編み出した様々な技を禁じ手とされていますから、致し方ないのではないでしょうか?』

 

『必殺技を用いなくともサダハル選手の強さは驚異的と言い切れます。基本的なパンチやキック、投げ技だけでも相手を圧倒するだけの威力がありますからな。その猛攻に耐え切っているテリー・ザ・キング選手には素直に拍手を送りたい』

 

 スパーリングが解禁されて凡そ1年。

 タツノリの苦労もあって、月に一度は強豪レスラーをマッスルガム宮殿に招きスパーリングを執り行える日々に、13歳となったサダハルは確かな手応えを感じていた。

 しかし、スパーリングの度に再起不能、或いは重症を負ってマッスルガム宮殿を出ていく強豪レスラー達。

 いつしか「キン肉王族は人体実験をしている」との噂がキン肉星宙域でまことしやかに流れ、招待に応じる超人が見つからなくなっていた。

 

 そこで白羽の矢が立てられたのが、とある辺境の惑星にある一地域のチャンピオン、テリー・ザ・キング。

 サダハルの噂を知らないテリー・ザ・キングは手渡された資料を見て、「13歳の王子様か……ま、適当に相手してやるか」と、宇宙旅行をしゃれ込む程度の軽い気持ちでキン肉星にやって来たのだった。

 

 リングに上がり自身とは違う発達した筋肉を持つサダハルを見たテリー・ザ・キングは「おいおい……こいつは詐欺だぜ」と嘯いてみたが、ゴングが鳴れば関係ないとばかりに果敢に挑む。

 そうして始まった試合自体は、終始サダハルの優先で進んでいるのだが、テリー・ザ・キングは持ち前のテキサス魂で倒れない。

 倒れても、不屈の闘志で立ち上がり続けていた。

 

「へいっ!? どうした、お坊っちゃん。俺はまだ、この通りピンピンしているぜ!」

 

 顔を腫れ上がらせ、腕や脚などの至る所に痣を作ったテリー・ザ・キングは、どう見ても満身創痍であったが、彼には倒れる訳にはいかない理由があった。

 

「父ちゃん頑張れーっ!」

 

 息子が見ているのだ。

 息子の前で、幼い息子とそう歳が変わらないサダハルを相手に、無様を晒すわけにはいかない。

 

「良いだろう……テリー一族のキングを名乗るお前の闘いぶりに敬意を評し、キン肉族の奥義でマットに沈めてやるっ」

 

 生半可な技ではこの男の戦意を断ち切る事は出来ないばかりか、試合時間が長引けばそれだけ肉体に後遺症を可能性が高くなる。

 そう考えたサダハルは試してみたい好奇心も手伝って、それがどんな結果を招くとも知らず、禁断とも言える必殺技を繰り出す事を決意する。

 

 試合を止める?

 

 ギラギラと光る目で闘い続ける意思を示すテリー・ザ・キングを見て、そんな無粋な真似が出来る者がいるならば、それは超人ではない。

 

『ここでサダハル選手、テリー・ザ・キング選手の身体を力任せに天高く放り投げた!

 さぁっ、ここから一体どんな技を見せてくれるのか!? 目が離せませんっ!!』 

 

 素早く落下地点に移動したサダハルは、落ちてくるテリー・ザ・キングにヘッドバットを喰らわせ再び身体を浮かせると、二回、三回と同じ動作を繰り返す。

 次第に身体の自由が奪われたのか、テリー・ザ・キングはほぼ垂直に落下し始め、待ち受けるサダハルとのシルエットが直線的になっていた。

 

 鈍い音を立て頭をぶつけ合う瞬間を見た観客達がざわつき始める。

 

 おい? あれって……。

 壁画に書かれてるアレじゃね?

 じゃぁサダハル様が次期、

 オイっ、馬鹿止めろっ。

 

「マッスルリベンジャーっ! からのっ!」

 

 観客達のざわめきを余所に、最後の仕上げとばかりに技名を叫んでヘッドバットを喰らわせたサダハルは、舞い上がるテリー・ザ・キングに合わせて自身もジャンプ1番跳び上がる。

 空中でテリー・ザ・キングの背に乗ったサダハルは、まるでサーフボードを扱う様に空中を水平に進んだ。

 

「マッスルインフェルノっ!」

 

 マッスルリベンジャーにより既に死に体と成っていたテリー・ザ・キングは、壁が迫ると知りながらも思うように抵抗が出来ず、敢えなく激突させられる。

 

『これはっ、凄い、凄すぎますっ!

 マッスルリベンジャーとマッスルインフェルノ! コレが技の名前でしょうか? 見事な連続技でテリー・ザ・キング選手をマットに沈めてみせました!

 

 アレ?

 隊長さんとタツノリ様にメンチ様までどうかしましたか?』

 

 繰り出された技に喜んだのはハラミ一人。

 放送席に座る3人は驚愕の表情で言葉を失う。

 これにはさすがのハラミも困惑の表情を浮かべ、どうして良い物かと口を噤んで考える。

 

「父ちゃんっ!」

 

 静まり返る室内鍛錬場で唯一動きを見せたのは、テリー・ザ・キングの一人息子、シニアマンだけであった。

 壁から落下した父の元に泣きながら駆け寄るも、肩から剥がれ落ちたスターエンブレムが、テリー・ザ・キングの戦意が尽きたと暗示しているようだった。

 

「マイサンよ……強くなれ……お前の目標はあの男だ。あれこそが超人のあるべき姿。あの男に一歩でも近づける様に研鑽を積み上げろっ」

 

 ギミックを用いず己が肉体のみで闘い、ただ単純に強いサダハルにテリー一族の可能性を見たテリー・ザ・キングは、息子にスターエンブレムを託すとそのまま意識を失うのだった。

 

 

 そして、このスパーリングがサダハルの運命を“本来あるべき姿”へと近づけるのだった。

 

 

◇◇

 

 

 ここで、現在のキン肉王族を取り巻く情勢を簡単に説明していこう。

 現在の大王を勤めているのは、キン肉タツノリとサダハルの父にあたる。

 しかし、奇病を患ってしまった現大王は、長年に渡って元老院に政治を任せるしかなかった。

 今でこそタツノリが大王の名代として手腕を振るっているが、元老院に政治を任せた期間が長すぎた。

 彼らはキン肉星の為ではなく、己が属する氏族、己が属する一族、己自身の為に権力を奮い、そして権力を強め高めていった。

 分かりやすく言うと、既得権益に群がる腐った集団、それが元老院だ。

 タツノリはそんな元老院から権力を奪い返す為に日夜努力を続けていたのである。

 この闘いはある意味でキン肉スグルの闘い以上に熾烈で、決着までには長い時間を要するものになるのだが、それはまた別の話となる。

 

 纏めると、弱体化した王家と甘い汁を吸う元老院、それに立ち向かうタツノリ、といった構図となる。

 

 既得権益者と闘うタツノリには敵が多い。

 簡単に言うと反タツノリ派。

 

 それと同時にタツノリに心服する味方も多い。

 簡単に言うと親タツノリ派。

 

 細かな主義主張を言い出せば、もっと派閥は分かれているのだが、大別するとこの二つのどちらかに分類されるだろう。

 この二つの派閥は主義主張の違いから、基本的に仲が悪く手を組む事はない。

 しかし、奇妙な事にサダハルの存在が二つの派閥の利害を一致させ、手を組ませることになる。

 

 親タツノリ派は、サダハルの存在がいずれタツノリの王位を脅かすのではないかと恐れた。

 反タツノリ派は、タツノリを排除してもサダハルが出てくるなら意味は無いと考えた。

 

 すなわち、サダハル排除すべし、である。

 

 そうして、派閥の垣根を超えた重臣一堂が揃い踏みして現大王の元へと願い出たのだ。

 元より見舞いに来ないサダハルに対して余り良い印象を持っていなかった大王は、コレを承諾。

 タツノリには大王の命として、その決定のみを伝えたのだった。

 

 

 

 

 キン肉大王からサダハル幽閉の決定を知らされたタツノリは、せめて自らの口で伝えようとお目付役のメンチを従えてサダハルの私室へと向かった。

 

「サダハル、話がある」

 

「どうした、兄さん?」

 

 突然の兄の来訪に懸垂をする手を止めたサダハルと、読んでいた雑誌を投げ捨て慌ててベッドから降りて姿勢を正すハラミ。

 年若い男女が夜分同じ部屋に居ながらやることはこれか、とタツノリは内心で嘆息するも、今はそれに言及している場合ではなかった。

 

「お前は幽閉される事に決まった」

 

「そう、か…………判った」

 

 転生超人であるサダハルは、タツノリの言葉を聞いて全てを察した。

 自分が知り得た漫画・キン肉マンの中で自分の名が語られ無かったのはこういうことか、と。

 奇しくも自分はサダハルと同じ運命を辿っている……そう考え付くに至り、変な笑みさえ浮かべ無情な通達を受け入れる。

 

「えっ……? えっ……? 意味が判らないですよ。なんでそうなるんですか!? なんで王子は説明も聞かないで納得してるんですか!?」

 

 睡眠の直前までサダハルの部屋で過ごすのが当たり前になっていたハラミは、突然のタツノリ来訪だけでも混乱するのに、いきなり幽閉とか言われても理解が追い付くはずもない。

 

「すまないハラミ。これは元老院と大王だけでなく、重臣一堂が願い出た上での決定なのだ。私の一存では覆すことが出来ない」

 

「そんなのおかしいですよっ。だって王子はなんにも悪いことしてませんよねっ! メンチ様もそう思いますよねっ!?」

 

 サダハルが納得し、タツノリに頭を下げられ打つ手がなくなったハラミは、同席しているメンチにわらにも縋る思いで助けを求めた。

 

「ヒョッヒョッ。確かにサダハル殿は悪くないのぅ。悪いのは産まれた時代……とでも言っておこうかの」

 

「時代、って……そんなの意味が判らないですよ」

 

「世が世ならサダハル殿の強さは皆の希望となり、一身に尊敬を集めるものであろうのぅ……じゃが、敵となる者がおらん今という平和な時代では、その力を振るう場がない。超人達は人間の様に数の理に走り、超人としての強さと矜持を失いつつある今、過ぎた強さは畏れを産むばかりの無用の長物となる」

 

「急に難しい事を言われても分かりません! でも、そんなのっ、弱い周りの人達が悪いんじゃないですか! チャンピオン、チャンピオンって……全然弱いのがっ」

 

「もういい、ハラミ。これは俺が招いた事態でもある。三大奥義は使うべきじゃなかった……そうだろ? 兄さん」

 

 三大奥義は真なる大王の証。

 転生超人である自分はそれを知りながら失念し、調子に乗って披露してしまった。

 冷静になって考えてみれば簡単に分かる話であり、今の状況は己の迂闊さが元凶にあるとさえ言えた。

 

「すまない……今の私では、あの奥義は修得できない。不甲斐ない兄を許してくれ」

 

 もし、直ぐにも三大奥義をタツノリが修得出来るならば話は違ってくるが、残念ながらそれは難しい。

 タツノリは決して弱い超人ではないが、見ただけで超級難度の技をマスターするだけの才能はない。

 むしろ、“漫画・キン肉マンに描かれていた技を試してみたら出来た”と言えるサダハルが異常なのである。

 

 そして、もしサダハルが王位を望むのであれば、タツノリは喜んで身を引いた事だろう。

 しかし、当のサダハル自身が全く王位に興味を示さないのだから、タツノリが身を引いてもサダハルの迷惑にしかならないばかりか、余計な混乱をキン肉星にもたらすだけになる。

 

「いいさ…………それで何時から?」

 

 決定を受け入れないと、もっと悪い状況になる。

 具体的に言うと、命が狙われる。

 それ位でなければ兄タツノリが幽閉を自分に伝えに来るハズが無い……兄への信頼からサダハルは、現状においては幽閉こそが1番マシな方法だと考える。

 

「私と共にこの部屋を出れば、衛兵に連れられ幽閉場所に向かう手筈になっている」

 

「そうか…………ハラミ、今までありがとう。お前のおかげで俺は随分と救われた。これからは、俺の為ではなく自分自身の為に生きてくれ」

 

 ハラミの明るい実況解説は、サダハルの異様さを覆い隠すのに一役買っていた。

 あの実況が無ければもっと早い段階で幽閉の憂き目にあっていたかもしれない。

 

 兄とメンチの目がなければハラミに抱擁のひとつでもして、口づけを交わしたいところだが、さすがにそれは憚られた。

 

(こんなことなら、もっと早くハラミの気持ちに応えるべきだったか……いや、それだとハラミの傷はもっと深くなるな)

 

 ハラミに深く一礼するに留めたサダハルは、これからの彼女の幸せを願いつつ、タツノリと共に部屋を出るのだった。

 

 

 

 

「お待ちしておりました、サダハル様」

 

「すまない、手間をかける」

 

 サダハルが自室から出ると、完全武装した衛士達が待ち構えていた。

 

「なんのっ。忌々しい事に、これが我々のお役目ですからな。ですが、こんな物は必要ありませぬ。サダハル様は逃げたりしませぬからな。では、行きましょうぞ」

 

 隊長が持っていた手錠を投げ捨てると、集った衛士達は廊下の左右に分かれて並び立つ。

 間近でサダハルの鍛錬を見ていた衛士達は、この王子には野心の欠片もなく、ただただ強さを求めているだけだとよく知っていた。

 そして、この王子は自分達の仕事振りを誰よりも理解してくれていた。

 

 そんなサダハルへの感謝と敬意を現すべく集った衛士達が作る花道は、幽閉場所であるキン肉大神殿まで続いていくのだった。

 

 

 そうして辿り着いたキン肉大神殿の地下深くでサダハルは、実に10年に及ぶ幽閉生活を送る事になるのであった。

 

 

 

 

 一方、タツノリとサダハルが去りメンチと二人残されたハラミは、溢れ出る涙を抑え切れずに泣き崩れていた。

 

「どうして……こんなのおかしいですっ……私は王子の傍にいたいだけなのにっ」

 

「ヒョッヒョッヒョッ。それ程あの哀れな王子の傍が良いと言うなら、手が無い訳でもないのじゃがな」

 

「ホントですか!? 流石メンチ様ですっ」

 

 呟きを聞き逃さなかったハラミは一瞬にして泣き止むと、メンチの元へと向き直る。

 

「なんと……変わり身の早い嬢ちゃんじゃわい」

 

「私は当然だと思いますよ。それで、どうするんですか? 脱獄ですか? クーデターですか!? それとも暗殺ですね!」

 

「物騒な事を言うでないわいっ! そんな事をせんでも嬢ちゃんに“今有る全てを捨てる覚悟”さえあれば、願いは叶うと言えなくもない」

 

「どっちなんですか? 前から思ってたんですけど、メンチ様って意味ありげに勿体振りすぎて分かり難いですよ。私はもっと判りやすく話した方が良いと思います」

 

「余計なお世話じゃわい。ならば詳しく説明してやるとしようかの」

 

「あ、それは良いです。やりますから」

 

「ヒョッ!? 全てを捨てる事に成るのじゃゾ?」

 

「でも、王子の傍に居られるんですよね? だったら私はそれが良いです」

 

 満面の笑みを浮かべるハラミに、老獪なメンチは毒気を抜かれる思いでいた。

 メンチが言う“全てを捨てる”は誇張なく言葉通りの意味である。

 しかし、この娘はそれを理解しても尚、同じ決断を下すであろう。

 その決断を下せるハラミを少し眩しく思いながら、メンチは小さな腕を差し伸べた。

 

「では、行くとするかの」 

 

 こうしてサダハルの私室からメンチと共に去ったハラミは、その日を境に姿を見せなくなった。

 ある者は、ハラミは失意のあまり自ら命を絶った。と噂し、又ある者は、王家を打倒する為に地下に潜ったと噂する。

 

 しかし、サダハルの記録が抹消され、サダハルに関する噂話さえも禁じられたマッスルガム宮殿では、その真相が明らかになる事は無く、いつしかハラミの存在は人々の記憶から失われていくのだった。

 

 

 

 それからあっという間に月日が流れたある日。

 サダハルが幽閉される立ち入り禁止区画に、ふたつの影が忍び寄るのだった。

 

 

 

 

 







 
二つの影がサダハルにもたらす光明とは!?
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