うちのアンリマユがフォウマになったので、記念に書きました。
fate/haの核心的なネタバレがあります。
基本的に自己満足、自己完結なのでそれでもよろしければどうぞ。

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散歩にゆこう

「なあ、セイバー」

「はい、なんでしょうか士郎」

日曜の昼下がり、珍しく桜も藤村大河も居ない昼食のあと、食器を洗い終わった士郎は居間でテレビを観ているセイバーに声を掛けた。

「食器の片付けでしょうか、今お手伝いしますね」

「あ、いや、そうじゃないんだ。

片付けは俺がやるからセイバーは座っててくれ」

立ち上がろうとするセイバーに、慌てて士郎は言葉を返す。

「ここ最近寒かったけど、今日は久しぶりに日が出て暖かい陽気だろ?

だから、その…なんだ。少し散歩にでも行かないか?」

「散歩…ですか?」

「いや、セイバーが家に居たい、別に散歩に行きたくないって言うならいいんだ。本当になんとなく思いついただけだから」

きょとんとした顔で聞き返してくるセイバーに、士郎は気恥ずかしさを覚えてしまい、ついつい言い訳めいた事を口にした。

そんな様子が面白かったのか、セイバーはくすりと笑みをこぼすとゆるゆると首を振る。

「いえ、ぜひともご一緒させてください士郎。行きたくなくて聞き返した訳では無いのです。

ただ、士郎からそうしたお誘いをしてもらえるとは思わなくて、少し面食らってしまいました」

「そんなに、意外だったか?」

「ええ、士郎はいつも買い出しの時や鍛錬の合間の休憩時間以外は、何か息抜きをすると言う事をしない人ですから」

セイバーの言葉に、今度は士郎が首をかしげる番だった。

「む、そんな事ないぞ。

買い物のついでに今川焼を買い食いする事だってあるし、ここでみんなとお茶も飲むじゃないか」

「だから、それしか無いのが問題だと言っているのです。

いいですか士郎、確かにその真面目な姿勢は…」

士郎のとぼけた言葉に、セイバーは腰に手を当ててお説教モードに入る。

これは長くなりそうだと思った士郎は、慌てて話をそらす事にした。

「ああ!そうだ今川焼といえば、せっかくだから散歩の帰りに商店街によって今川焼でも買って食べようか。そうだそうしようセイバー」

「むっ…」

露骨に話題を逸らそうとした士郎に少し膨れたセイバーではあったが、やはり今川焼というのは抗いがたい魅力であったらしく「そうですね、それは素晴らしい提案です」と矛を収めてくれた。

「よし、そうと決まれば食器も片付いたし早速出かける事にしようか」

「はい、士郎」

「っ……」

士郎の言葉にそう返事をしてにっこりと微笑むセイバーに士郎は一瞬くらりと意識を持っていかれそうになったが、すんでのところで堪えた。

「…よ、よし、じゃあ行こうか」

誤魔化すように出て行こうとした士郎であったが、セイバーはそこに待ったをかけた。

「あ、お待ちください、士郎。春先とはいえまだ外は肌寒いです、上着を羽織ってください」

「ああ、そうだな」

士郎はそう言ってハンガーでかけてある上着を手に取った。

 

 

「なあ、遠坂」

「ん、なあに士郎?」

日曜の昼下がり、珍しく桜も藤村もセイバーも居ないなか、昼食をたかりに来た遠坂と士郎の二人食べた後の話である。

士郎の呼びかけに、眼鏡を掛けている遠坂は居間で何やら熟読しているらしく、目を離さずに生返事で言葉を返す。

ちなみにセイバーは例のトリスタン少年に呼ばれてサッカーに参加しに、弁当を片手に持って出かけてしまっていた。

「ここ最近寒かったけど、今日は久しぶりに日が出て気持ちいい陽気だろう。

だから、その…なんだ、散歩にでも行かないか?」

「…へ?」

士郎の言葉に、遠坂は顔を上げて間抜けな声を出す。

士郎をまじまじと見る遠坂の顔には「驚いた」と分かりやすく書いてある。

「む、そんなに変な事言ったか、俺?」

「う、ううん違うの。衛宮君ってそういう事を誘ってくれるとは思わなかったから、ちょっとびっくりしただけ。

いいわね、せっかくだからそこら辺歩いてみましょうか。

そっかー、士郎とデートかー」

からかうような態度で、それでいて嬉しさを隠しきれずにニヤニヤと笑みを浮かべる遠坂に、士郎は自分の顔が紅潮していくのを感じながら声を荒げる。

「違うぞ、一緒にそこら辺を散歩しようって言っただけだ。

断じてその…っデートなんかじゃ無い」

遠坂は士郎の反論もどこ吹く風で受け流す。

「残念でした、それを世間一般ではデートって言うのよ。

さーて、士郎は私をどこに連れてってくれるのかしらね。言っておくけど士郎から誘ったんだから、思いっきり辛口でいかせてもらうからね」

「うっ…お手柔らかにお願いします」

「さぁ、どうかしらね?」

遠坂はそんな軽口を叩きながら、ぐーっと伸びをして立ち上がり、居間のハンガーにかけてあるコートに手を伸ばす。

「あ、そうそう貴方もコートを羽織っておきなさいよ。春先とはいえ、まだいくらか肌寒いから」

まったく、敵わないな。

そう思いながら、士郎もハンガーにかけてあるコートに手を取った。

 

 

「なあ、桜」

「はい、なんですか先輩?」

日曜の昼下がり、珍しく藤ねえもセイバーも居ない昼食の後、士郎は洗った食器を布巾で拭いてる隣の桜に声を掛けた。

ちなみにセイバーは遠坂凛に呼ばれて、お昼ご飯を遠坂邸にご馳走されに行っている。

なにやら本格中華を振る舞うらしいが、それを機に遠坂がセイバーに引き抜きをかけていないといいのだが…

「ここ最近は寒かったけど、今日は久しぶりに日が出て気持ちいい陽気だろ。

だから、その…なんだ、散歩にでも行かないか?」

「…へ?」

士郎がなんでも無い風を装ってかけた言葉であったが、桜は余程ショックだったのか食器を持ったまま固まってしまった。

「わ、悪い、なんか変な事言ったか俺?」

慌てて弁解しようとすると、桜がはっと気がついたようにして士郎に言葉を返す。

「い、いえ、先輩は何もおかしな事はおっしゃってません!

ただ、その、そう言った事を先輩に誘っていただけるのが凄く嬉しくて、私固まっちゃいました」

頰を紅潮させてピョンピョンとその場で跳ねかねない勢いで元気よく返事を返す桜に、士郎はやや気押されながら「そうか、なら良かった」と言葉を返す。

「じゃあ食器を片付けたらすぐに出ようか。

どこか行きたい所とかあるか?」

「それなら、あそこがいいです!あの桜並木の桜がそろそろ花が咲き始める頃だと思いますよ!」

いつもからは考えられないほどに興奮を見せながら答えた桜であったが、何かに気づいたようにしてすぐにその勢いを萎ませた。

「あ、でも、先輩と一緒に見に行くのに、まだ花が咲いてなかったらどうしよう…」

桜は迷った素振りを見せている。その桜に、士郎は意識して笑顔を作って言葉を返した。

「もし咲いてなかったら、また来週にでも見に行けばいいんじゃないか。そのくらいの機会はまた作れるだろ」

「……はい、そうですね!」

再び笑顔を取り戻した桜に最後のコップを渡すと、士郎は蛇口を閉めてエプロンを外した。

「さて、そうと決まったら早速出かけようか桜」

「はい!あ、でも先輩。いくら春先とはいえ、まだ肌寒いですから、上着は羽織ってくださいね」

「ああ、そうだな」

そうして士郎は、ハンガーにかけてある上着に手を掛けた。

 

 

「なあ、マスター」

「…てっきり眠っているかと思いましたが」

「そう連れない事言うなよ、他とえらい違いだぜあんた」

『オレ』は横たわっていたソファーからその姿勢のまま、我がマスターことバゼットに声を掛けた。

夜の散策を終えたオレたちは日の出と共にこの双子館へと帰ってきたわけだが、疲労困憊だったオレはそのままソファーにダイブして就寝と言う名の昼寝についた。

バゼットはなにやらサーヴァントに睡眠はどうの霊体がどうのと言っていたが、全部無視して心地よくまどろむ事にしたのだった。

だが、寝たはいいものの奇妙(幸せ)な夢(あくむ)ばかり見るもんで、嫌な気分になったオレは、目を覚ますと暇つぶしにとマスターに夢と同じ内容を再現する事にしたのだ。

「散歩でも行かね?」

「…フィールドワークの事ですか?それでしたら先ほど済ませたでしょう」

「あー、そう来るわけね」

相変わらず飾り気がないというか、ジョークが一切通じない。

切れ味の鋭い言葉を返してきたバゼットは、なにやら部屋の隅で宝具のメンテナンスに興じているらしい。

手元でカチャカチャやっていて、こちらには目もくれない。

「そういうんじゃなくてほら、外はポカポカお天気なんだぜマスター。

せっかくのお天気なんだから、首輪を付けてる犬にお散歩をさせてくれよ」

おどけた調子でオレがそういうと、バゼットは露骨に呆れた調子でため息をついた。

「今度は一体なんの遊びですか。貴方はそういう暖かな所はむしろ不向きでしょう。

だいたい、その格好で昼日中にウロウロしていたら完全に不審者です」

「だからほらー。そこはオレの素肌を隠すために、現代服を一式用意してくれちゃったりして」

「サーヴァントには不必要です」

オレのおねだりもバゼットはバッサリと切り捨てた。思わず半分起こしていた体をまたソファーの上にバフっと沈めて、ちぇーっと悪態をつく。

すると、露骨に拗ねたサーヴァントの様子にバゼットはようやく顔を上げた。

「どうしたというのです。またいつもの悪質なジョークかと思えば、今回は随分とこだわりますね」

「ん?んー」

「思わせぶりな曖昧な返事はやめなさい」

オレがソファーでゴロゴロしていると、流石に苛立ったらしいバゼットの声が怒気を含んで来たので、そろそろ適当に応える事にする。

「あんたさぁ、胡蝶の夢って知ってるか?」

「…寧ろなぜ貴方がそれを知っているのかが不可解なのですが。

中国の故事の一つですよね。

蝶になる夢と現実を行き来しすぎて、どちらが本当の自分かわからなくなってしまったという」

「そうそれ。

だけどそれってさ、荘周はなんで蝶になる夢なんて見たんだろうな」

「どうして、ですか?」

「ほら、よくいうだろ、夢は自分の深層心理の反映だって。

てことはきっと、荘周にだって夢の中で蝶になるだけの理由が現実であったんだよ」

オレのだらだらと述べる言葉に、バゼットは相変わらずくそまじめに考察をする。

「つまり、荘周は現実で逃げ出したいような嫌なことがあったために、夢で蝶になる逃避を選んだと?」

「蝶を選んだ辺り、逃避一辺倒って事は無さそうだけどな。

だってほら、アレは逃避なんてまっすぐ飛ぶには、ひらひらひらひらその辺を彷徨いすぎてるだろ?」

「…なにが言いたいのかよくわかりませんね。はっきりとモノを言いなさい。」

「つまりさ、夢に逃げたくなる事も誰にだってあるし、それに罪悪感を感じる事だって誰にだってあるって事さ。

あんたはそこんとこどう思う?」

ソファーに横たわり天井を見ながら投げかけたオレの問いに、それでもやはり、バゼットは真摯に応える。

「どうもありません。

現実は辛いですが、そこから逃げ続ける事はもっと辛い。

なら、目を覚まさなくては」

「…ふーん、あっそう」

バゼットの応えに多少満足したオレは、再び瞼を閉じた。今度は少しはマシな夢を見られそうだと思いながら。

『私』はそうして__

 

 

そして私は、バゼット・フラガマクレミッツは目を覚ました。

「……っ」

普段のスイッチをオンオフ切り替えるような目覚めとは違う、ぼんやりとした微睡みを覚えながら、首を振って体を無理やりに覚醒する。

辺りをキョロキョロと見回すと、既に日は中天まで登った頃らしい事がわかった。

そして自分はどうやら、双子館のソファーの上で無防備に眠りこけていたようだ。

既に拠点として放棄したここは、魔術的な防護策を全て外している。

通常であればここで眠りこけるなど、バゼットにしてみればありえない事だった。

だが、なぜか彼女には今ここで誰かに襲撃に遭う事はないだろうという、謎の確信があったのだ。

ソファを降りて、その場でグッ、グッ、とストレッチしながら、今まで見ていた夢について考える。

そう、なにやら不思議な夢を見ていたのだ。

私が出くわすはずのない場面に遭遇し、

私が感じた事のない憧憬を抱き、

出会った事のない人と、しかも何故かその人の視点で話をしていた。

あちらこちらと彷徨う様は飛行ではなく浮遊。

トンボではなく蝶のようにフラフラと、現実とあちらを行き来する夢だった。

それでも私は最後までバゼット・フラガマクレミッツであったし、夢を現実の様に思う事は一度も無かった。

「それはなぜだろう?」

自分以外に誰もいない空間で一人呟きながらも、私は既にその問いに答えを見つけていた。

夢の中での私には、存在しないはずの左腕が付いていたのだ。

強烈に存在感を放つそれは、私のいうことをまるで聞かずに直ぐに悪さをする癖に、大切な事だけはしっかりと掴んで離そうとしなかった。

夢の中で私は、確かにその左腕に引き上げられたのだった。

「プッ…フフフ、アハハハハ」

そこまで思考した所で私は、自身のあまりの荒唐無稽さに耐えきれず噴き出してしまった。

そのまま、腹を抱えて声を上げて笑う。

あー、可笑しい!

声を上げて笑った事など、今まであっただろうか。

それでも今の私は極自然に声を上げていたし、それがとても気持ちよかった。

ひとしきり笑ってようやく収まると、私は窓に近づきバタンと大きく窓を開け放った。

心地よい春風が首元を流れる。

暖かな日差しが肌をポカポカと温める。

窓から見える景色は、芽吹いたばかりの自然が闊歩する一面の緑で、その中で一輪の白い花が妙に景観に浮いていた。

「まったく…ここでも周囲から浮いてしまうのですか、貴方は」

名前もわからないその花に、一羽のアゲハ蝶が蜜を求めてフラフラと近づいて行く。

私はそれを目を細めて見つめながら、

そうだ、今日は少し散歩でもして見ようか、なんて事を考えていた。

 



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