序:これは私たちが絶望を味わう物語だ
この世には絶望が溢れている。
これは否応のない、厳然たる事実だ。
例えば家族や親しい人間との死別。
これは誰もがいつかは味わうだろう絶望で、味わうことがないのならそれはそれで境遇そのものがある意味絶望だろう。
……いや、これは半分自虐だったか。
そのつもりはなかったが。
例えば誰かに裏切られた時。
こちらはそうそうないかもしれないが、だからこそその時の絶望は凄まじいだろう。
相手を信頼していればしているほどにそれは強い。
……まぁ、私たちの稼業じゃ割とよくある話でもあるのだが。
いかん、説得力がなくなってきた。
それはさておき。
もっと軽く、解りやすく、共感が得られやすいだろう例えを出してやる。
猛烈に腹が痛くなったのに中々トイレに入れないときだ。
正直、誰もが一度は経験があるだろうと思う。
……とはいえ、例えが汚いな。
申し訳ない。
そしてどう足掻いても抗えないのは、私たちの人生の終わりだ。
つまり、死。
どれだけ言葉を飾ろうが、それがどうしようもなく逃げ場のない絶望であることは間違いないだろう。
大きな絶望から小さな絶望まで。
そして最後の最後に来る特大の絶望。
多種多様色取り取りに存在するそれらはまるで墓前に供えるために育てられた花畑のようだ。
私たちはそれらに塗れて、味わいながらそれでも最期まで生きている。
なんのため、は人によるだろう。
だが、どうやって、は大体共通している。
絶望より、強いナニカが己を動かす源になり得るからだ。
そうすることで、人は絶望に染まりきらずに生きていける。
それが正負のどちらのモノであれ。
例えば、親の死に絶望した者が伴侶や子の存在に支えられるように。
例えば、誰かに裏切られて絶望した者が復讐心に突き動かされるように。
例えば、腹を下した者が世間体や衛生面や自己の尊厳やらその他諸々を守るために必死に耐えるように。
―――例えば、
「う、ぉお……あぁ、ダルい……」
どこぞの駄犬がそんな寝言を抜かしながら人のファーストキスを奪い腐りやがった絶望に対し、
「ヒトのファーストキス奪っておいてどういう言い草しやがってやがるこの駄犬がァアアアアアアアアアアアッ!!!!!」
「グギャァアアアアアアアアアアアアーーーーーッ!!!!?」
乙女の正しき怒りを以って、全力全開の殺意と共に拳を振るうように。
…………百万回生まれ変わろうが許さんぞこの駄犬。
***
これは私たちが絶望を味わう物語だ。
そして、絶望だけでは終わらない物語だ。
完全新作第一話です。
あとがきは本日更新分の最新話に纏めてするのでよろしくです。