赤ずきんたちとオオカミさんの絶望打破   作:樹影

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11:それら全てを、その一言が静止させた

 

 

 『樹上都市』などと謳われているものの、ラプンツェルの生活圏はその天辺に留まらない。

 むしろ文字通りの雲上の領域にある頂上部がどのようなものなのか、知っている者のほうが少ないのが実情だ。

 なので主だった施設は下手な大木よりも立派な枝の上か、或いは広大な空間が広がる洞(うろ)の内部に建設されている。

 クロック・ゴートが入港したのは、そんな洞の一つの中に存在する飛空艇用の港だ。

 人工精霊のセブンはラプンツェル側からのガイドに従い、割り当てられたドックへと己が身を収めていく。

 そうして完全に停止すれば、整備用のクレーンが左右から延びてきた。

 同時に、甲板へ港と繋がるタラップが接続される。

 タラップを渡って、数人の男女が港に降り立つ。

 アカネたちだ。

 

「アカネちゃん、大丈夫ですか?」

「平気よ。 まだ本調子とはいかないけれど、歩いて動く分には問題ないわ」

 

 心配げなコムギに小さく笑ってそう答えるアカネは、コートこそそのままだがその下はミニスカートタイプのワンピースだ。

 すらりとした足が動くたび、スカートがふわりと揺れる。

 続くように降りていくのは、変わらぬ格好の少女たちとチンピラにしか見えない青年だ。

 青年のほうは拘束こそされていないが、その手は空になっている。

 そして青年と同じく、今回の仕事の収穫である黒い剣はというと。

 

「コムギ、本当に重くないか?」

「はい。 大丈夫ですよ、びっくりするくらい軽いです」

 

 エルの問いに、コムギは笑顔で布に包まれた大きな包みをわずかに掲げて見せる。

 その中身こそがオオカミがその名を得た時に手に入れた黒い剣だ。

 中身を知ればすわコムギが見た目に反した剛力の持ち主かと認識してしまいそうになる光景だが、実のところは会話の通り彼女でも持てるくらい軽いというだけの話だった。

 

「けど、これ何でできてるんですかね? 軽いのは確かだけど、だからと言って脆かったりするわけじゃなさそうですし」

「むしろかなり頑丈なようではあるけれどね。 ま、重さがないんじゃ武器としてはあまり役に立ちそうにないけれど」

 

 ソニアの言うとおり、剣のような武器の場合は重さというのは非常に重要だ。

 単純な話、武器の重さは振り回したときの威力に直結する。

 同じ速さで攻撃を繰り出すなら、軽い木の棒よりも重い鉄の棒のほうがより威力は高いのは子供でも分かる事実だ。

 素材の耐久性でも差は出てくるが、質量と威力が比例するのは常識といえる。

 当然ながら扱えないほどの重量になれば意味はないが、逆に非力なコムギでも軽々と持ち上げられてしまうほどでは武器としては失格だろう。

 刃物としての切れ味が鈍いならばなおのことだ。

 そんな会話を聞くともなしに耳に入れて、アカネはふと心の中だけで首を傾げる。

 

(……あれ? でもその剣でコイツはあの瓦礫の山をブチ割ったのよね?)

 

 それだけオオカミの膂力がすごかったということなのか。

 アカネはふと彼のほうに振り向く。

 一方の本人は、物珍しそうにきょろきょろと首を巡らせて周囲を眺めている。

 特に、上のほうが気になるのか視線は斜め上を旋回している。

 

「なに見てるの、アンタ」

「ん? ああ、樹の中なのにやけに明るいなと思って」

 

 オオカミの言うとおり、ドック内は光で満たされている。

 しかも日の光と同じく暖かで柔らかい明かりだ。

 その疑問に、アカネが投げやり気味に答える。

 

「外の枝葉が受けた日の光を内部で循環させて照射してるって話よ。

 一部は夜間や非常用として貯蔵してもいるらしいわ」

「へぇー。 なるほどねー」

「……あんまりわかってないでしょ」

「とりあえず、すごそうなのは解った」

 

 嘯くオオカミは、すぐ近くの壁に光を放つ結晶があるのが見えた。

 どうやら同じようなものがたくさんあって空間に光を満たしているようだ。

 眩しくてよくは解らないが、もしかしたらこの樹の樹液が固まったものだろうか。

 

「二人とも、なにしてるのさ。 迎えが来たよ」

 

 ソニアの言葉に二人が同時に振り向けば、港と樹の内部を繋ぐ出入り口のところに一人の男が立っていた。

 年齢は四十代半ばといった所か。

 背はオオカミよりも若干低い程度で、さほど高くも低くもないといった所か。

 纏っているのはここの制服であろうか、時折横を通り過ぎる者と似た格好をしている。

 他の者は青なのに対し、こちらは黒が基調で、しかし所々が寄れていてどうにも草臥れたような印象を受ける。

 やや皺の目立つ口元と眼鏡の向こうは柔和な笑みを浮かんでいる。

 

「これはこれは。 皆さん、お疲れ様です」

「ええ。 そちらこそわざわざお出迎えご苦労様、ミヤザさん」

 

 にこやかに手を振る男に、アカネが小さく会釈する。

 年嵩の相手だが、その口調はどこか気安い。

 それだけ気心が知れいている相手ということか。

 

「皆さん無事なようでなによりです。 なにせ黒狼鬼と衝突してこれを降したと聞きましたからね。

 いやぁ、最初は耳を疑いましたよ」

「……相変わらず、長い耳をお持ちのようね。 あのお姫様は」

 

 労うような口調のミヤザに対し、アカネの声が若干低くなる。

 かの連中との戦いはすでに数日は経過しているとはいえ、その関りを吹聴した覚えはない。

 まして文明が一度崩壊した後の情報網は決して迅速なものではないのだ。

 にもかかわらず、自分たちがそいつらを一網打尽にしたことまで把握している。

 彼我の規模の差を考えれば与太話にもならないだろうそれを、事実として認識している時点でなるほど驚愕に値する。

 

 にわかに鋭くなったアカネの視線に、ミヤザは笑みを苦笑に変えて後ろ頭を掻いた。

 本人的には世間話のつもりだったのかもしれない。

 

「いやぁ、あまり怖い顔をしないでくれると嬉しいんですがね~。

 ………ところで、そちらの男性は?」

 

 話題を逸らすためか、オオカミに注目するミヤザ。

 アカネは溜息を噛み殺しながら、これが今回の依頼品だと説明しようとして、

 

「俺はオオカミってんだ。 こいつに惚れてるからよろしく!!」

 

 その前に爆弾を投下された。

 は?とこちらの表情が呆けるよりも先にミヤザの顔が驚愕に染まる。

 ちなみにコムギは困ったような表情を浮かべ、エルとソニアは愉し気な笑みを浮かべていく。

 

「やや! よもやアカネさんにそのようなお相手ができるとは……!?

 いやぁ、実におめでたい!」

「いや違うわよ!? というか何気にひどいこと言ってるわねこのオッサン!」

 

 アカネはオオカミの脛を蹴って黙らせながら、ミヤザに詰め寄る。

 成人男性として標準的な上背を持つミヤザ相手だと、小柄なアカネが詰め寄ると必然的に背伸びをする形になる。

 それだけならば親子のようにも見えるだろうが、今回はそこから更にネクタイを掴んで引き寄せるというのがプラスされている。

 すると、途端にうだつの上がらないオッサンを不良少女がカツアゲしている構図へと変貌していた。

 しかしアカネは客観的にどう見えるかなどお構いなしに、ミヤザの鼻先に指先を突きつけながらガンを飛ばしている。

 

「いい? 私とこのチンピラはそんな関係じゃない!! わかった?

 ―――わかったって言いなさいよ、オラ!!」

「は、はい! わかりました!」

「いや、どっちかっていうとアンタのがチンピラっぽいけどな」

 

 エルの鋭い突っ込みは、幸いにもアカネには聞こえていなかったようだ。

 顔を引きつらせて笑うミヤザの返事に、満足したアカネは「よろしい」と満足してネクタイから手を離す。

 それと同時に、回復しきっていないからだが崩れかけるが、何とか踏みとどまる。

 どうやら自身の消耗も忘れてしまうほどだったようだ。

 一方で解放されたミヤザは、冷や汗をこめかみから垂らしながら首を擦っている。

 そんな彼に、アカネは脛をさすっているオオカミを指さす。

 

「コイツがお姫様のご所望の品よ。 ついでにコムギの持ってるモノもね」

「お、おや……そうでしたか。 これは失礼を」

「ていうか、アンタ実はわかってて言ってなかった?」

「いえいえそんなことは……ではこちらへ」

 

 そうして背を向けるミヤザだったが、ふと「ああ、忘れていました」と呟き、再び振り返ってようやく立ち上がったオオカミに歩み寄る。

 「ん?」と首を傾げるオオカミに、ミヤザは先ほどと同じように柔和な笑顔で右手を差し出す。

 

「遺失物狩りを統括する『ラプンツェル協会』のミヤザというものです。

 以後、お見知りおきを」

 

 

 

***

 

 

 

「そういえばよ」

「……なによ」

 

 オオカミの独り言じみた問いに、アカネが不承不承に反応する。

 面倒だが、無視すれば振り向くまで延々と話しかけてきそうだから相手をするしかないのだ。

 

 彼女たちが今いるのは、エレベーターの中だ。

 これも証明と同じくこの樹によって構成されたものなのか、四方の壁は木材によって構成されている。

 もしかしたら、持ち上げるためのワイヤーやギアも樹でできているのかもしれない。

 個室としてはさほど広くはないが、エレベーターとしては割と大型の密室内で一同は僅かな振動を足裏に感じながら直立していた。

 

「ラプンツェルって、この樹……街?国?、とにかくここの名前じゃなかったっけ?」

「元々は協会の名前が元になってたのよ。 それが規模が大きくなるにつれて拠点にしていたこの樹上都市の名前そのものになったの」

「ふ~ん」

 

 アカネの説明にオオカミは頷くもどこか気の抜けた感じだ。

 それを訝しげに思っていると、オオカミは頭を掻きながらさらに続ける。

 

「いや、ここに来るまでのアカネたちの言い草だと、なんだか人の名前みたいだったからよ」

 

 と、ちょうどその時にエレベーターが動きを止める。

 タイミングよく止まったようだ。

 ドアがスライドして開くと同時に、一同はそこから歩み出る。

 

「「止まれ」」

 

 途端、鋭い声が降り注ぐ。

 見上げれば、並び立つ二つの巨大な柱の上それぞれに人が立っていた。

 まず真っ先に目に入る特徴は、

 

「……同じ顔?」

 

 そう、オオカミが呟いたとおり、二人は鏡合わせのように非常に似通った顔立ちをしていた。

 流れるように長く、肩を越して伸びる白銀の髪。

 刃のように鋭く、精緻な彫刻のように奇跡じみた比率で整っている目鼻立ち。

 それでもよく見ればまったくというわけではないのは、性別による差だろうか。

 右の柱に立っているのは男、左の柱には女で、いずれも二十歳ほどの若々しい外見をしている。

 だが、纏っている空気がそれを感じさせない。

 他者を寄せ付けんとする排他的な拒絶、だからこそ近付いた者を推し量らんとする冷徹な観察眼。

 そしてそれらの根底にある機械じみた使命感が、彼らを年経た彫像のような畏怖を周囲に振りまいていた。

 

 表情を変えないまま、男のほうが口を開く。

 

「ミヤザ、それにアカネたちか」

「はい、お二方ともお疲れ様で……」

「アンタらのお姫様の依頼、こなしてきたわ。

 そこを通してもらうわよ」

 

 ミヤザの言葉を遮り、アカネが居丈高に声を響かせる。

 しかし、今度は女のほうが柱から飛び降り、彼らの行く手を阻んでしまう。

 

「どういうつもりよ?」

「見ない顔もいるようだな? それに、その包み……中身はなんだ?」

 

 アカネを無視し、彼女の視線はオオカミとコムギの持つ大きな荷物へと注がれる。

 そんな彼女をアカネは苛立たし気に睨みつけるが、当の女性はそんなことなど欠片も気にしない。

 視線を受けている二人はというと、オオカミのほうは威圧など知らんとばかりに降りてきた女性と柱の上に立ち続けている青年を交互に見ている。

 一方のコムギはやや顔を青くして、手の中にある物を覆う布を解き始める。

 そうして出てくるのは長大な黒い剣だ。

 同じ顔の二人の目が同時に鋭くなる。

 

「得体のしれない者、武具を持つ者、そのどちらもここから先に通す訳には行かない。

 ―――疾く、立ち去れ」

「………は?」

 

 いきなりの言い草に、アカネの声が一気に低くなる。

 目は据わり、溢れる怒気の証左のように拳が固く握られる。

 いささか沸点が低すぎる感もあるが、今回のオオカミ絡みの仕事はそれだけストレスがあったということでもある。

 さらに言えば、彼女は不当な理由を盾に上から目線で物事を強いられることに我慢がならない性質でもあった。

 アカネからすれば、自分たちのほうが正当だからだ。

 

「アンタらねぇ、こいつとコムギの持ってる剣はアンタらのお姫様が持って来いってあたしたちに依頼したモンなの!

 それ持ってきて門前払いとかどういう了見よ!?」

「知らん。 私たちはあの方の害になりうる可能性を持つモノをここから先に通さんだけだ」

「っの、融通の利かない……!!」

 

 苛立ち、奥歯を鳴らして睨みつける。

 すると女性の目が俄かに鋭くなり、両の腰に収められている剣の柄に手がかけられる。

 同時に、柱の上にいる青年のほうがどこから取り出したのか一本の槍を鋭い風切り音と共に構える。

 

「へぇ……」

 

 それに対し、真っ先に反応を示したのはオオカミだ。

 彼は男女とは違い、楽し気といった風に目を細めると口の端を牙を見せつけるように持ち上げて笑う。

 ミシリと筋肉を漲らせ、僅かに腰を落とせば、女性も青年も更に警戒を強めていく。

 まさに一触即発といった空気に、コムギはおろおろと涙目になり、エルは深い溜息と共に肩を落とし、ソニアは我関せずとばかりにじりじりと距離を置き始め、ミヤザは顔に冷や汗を垂らしながらもどうにか場を収めようと前に出ようとする。

 そして中心にいるアカネはそんな後ろの様子など気付いてもいないかのように更に噛みつかんと一歩前に踏み出して、

 

『―――ルーゼン、ルテレ。 そこまでにしなさいな』

 

 それら全てを、その一言が静止させた。

 それは決して大声ではないのにどこまでも響いていくような、涼やかな声音だった。

 聞こえてきたのは柱に挟まれた通路の最奥、戸が無くとも中を伺わせぬ闇が扉のように視線を遮るその更に向こう側からだ。

 その声に、行く手を阻んでいた二人の男女は勿論、つられる形で臨戦態勢に入っていたオオカミさえもその戦意を散らされる。

 対し、アカネだけは怒気もそのままに鼻を鳴らす。

 

「聞こえてるでしょ!! アンタの依頼、達成してきたからとっとと確認してほしいんだけど」

『ええ、もちろん。 そんなわけだから、二人ともその子たちを通してちょうだい』

「………わかりました」

 

 どうやら声の主こそ彼らの仕えている相手らしい。

 女性……ルテレは不満げではあるものの主命に頭を垂れる。

 ただし、それだけでは引き下がらない。

 

「その代わりに……ミヤザ、その剣はお前が持っていろ」

「ああ、はい。 了解です。

 ………そんなわけで失礼しますね、コムギさん」

「あ、は、はい」

 

 まずは信用できる相手に武器を預けさせるということだろう。

 ミヤザもその辺りの意図を瞬時に把握し、コムギも逆らう理由はないのでそれに従った。

 そしてもう一人、ある意味で剣よりも不確定な者についてだ。

 

「そしてそこの男、お前はここに」

『だめよ。 その子もちゃんと通して』

「な!?」

『その子に会うのも目的なのだから。

 それに、頼んだ依頼は私がちゃんと確認しないとね』

 

 しかしそれは瞬時に主に阻まれた。

 さすがにそれには抗議せんとばかりにルテレが振り返るが、彼女が声を発するよりも先に正論を返されてしまう。

 納得できないといった様子の女性に、しかし響いてくるのはクスクスという小さな笑い声だ。

 

『フフ、心配しないで。 ……アカネは今、ヤンチャができる状態じゃないでしょう?』

 

 その指摘に、アカネは苛立ち交じりに舌打ちするだけだ。

 それは自身の不調を見抜かれたためか、それとも暗に自分が足手まといだと言われたことに対するものか。

 続く声は、まるで幼い子供に語り掛けるようなものだ。

 

『そんな状態の彼女を、困らせてしまうようなことはしないでしょう?

 ―――ねぇ、オオカミさん?』

「………おう」

 

 返事をするオオカミは、先ほどが嘘のように大人しい。

 自分自身でもそれが不思議なのか、表情にはわずかな困惑が浮かんでいる。

 

『そういうわけだから、みんなを通してちょうだいな』

「……わかりました」

『ありがとう。 良い子ね』

 

 改めて了解を示したルテレに、奥からの声は楽しげに礼を告げる。

 そうして奥に一礼をすると、ルテレは自身の立っていた柱のほうへと身を寄せ、道を開ける。

 一同はそれでようやく先へと進んでいく。

 

 さほど大きくもない出入り口を潜ると、そこはかなり広い空間のようだった。

 まず大きな照明は中心部のみを照らすものだけで、出入り口とは結構な距離が置かれているのか照らされているものが何なのかそこからではよく見えない。

 また天井の高さを示すかのように上を見上げても中心を照らす光源はよく解からなかった。

 ただ、なんとなくドームのような構造になっている様に思える。

 床には光の線のようなものがまるで根のように張り巡らされている。

 よく見れば線は床に刻まれた溝で、そこを細長い光るなにかが通っているようだ。

 中心部の強い光と床の仄かな明かりが、それ以外の闇を深いものとして判然としないものにしていた。

 ただ、床に走る光の線から見ると、この空間は平原のようにだだっ広く、そして何も物を置いていないことがなんとなく識別できた。

 

 アカネを先頭に、面々は照らされている中央へと歩き出す。

 足音は先ほどよりもよく響き、この場の広さを聴覚でも示していた。

 と、途中でアカネがオオカミに語り掛ける。

 

「アンタ、たしかさっき『ラプンツェルを人の名だと思っていた』って言ったわよね」

「ん? おう」

「ラプンツェルって名前には、三つの意味があるの」

 

 一つは、この巨大な樹上都市。

 もう一つは、遺失物狩りの統括協会。

 そして―――最後の一つは。

 

「先の二つの名前のもととなった存在。

 この樹上都市の主にして、統括協会の最高責任者」

 

 と、歩みが止まる。

 遥かな高みから照らされる、それの前に辿り着いたのだ。

 

 それは―――彼女は、椅子どころか敷物一つすら使わず、この広大な床の中心で静かに座していた。

 なにより目を引くのはその金髪で、それは文字通りどこまでも長く伸びていた。

 僅かに波打つそれは、床へ垂れてそこに刻まれた溝を通り、さらに遠くまで延びていく。

 そう、床を走る光の線こそ彼女の髪だった。

 次に目に入るのは両眼……正確には、それを塞ぐもの。

 片方につき三つ、小さな鈴のついたピアスによって彼女の両眼は上下の瞼を縫い留められて封じられている。

 その痛々しさは、目鼻立ちが整っているからこそ尚も凄惨に目に映る。

 身に纏うのは豪奢ながらも擦り切れ、裾や袖口がほつれて破けたドレス。

 元の色彩はどうだったのか、今はくすんで輝きを失っている。

 年の頃はさて幾つだろうか。

 一見すれば少女のようにも見えるが、ともすれば木乃伊もかくやとばかりに乾き果てた老人かとも思える。

 

 雲よりも高い場所にある、奈落の底のような場所で、虜囚のように身動きが取れず、物を見ることもできないはずの彼女は、しかしそんなことなど気にしてもいないかのように朗らかに微笑む。

 

 

「そちらの方には初めましてになりますね。

 ―――私の名は、【ラプンツェル】。 どうか、よろしくお願いね」

 

 

 僅かに首を傾げれば、瞼の鈴がシャランと小さく歌う。

 共に響く声は先ほどと同じく涼やかで優し気。

 浮かんだ表情は、封ぜられた両目のことを加味しても朗らかで温かい。

 だというのに、オオカミはなぜか一瞬だけ背筋に冷たいなにかが走るのを感じていた。




 新キャラ続々出まくりです。

 実は当初の予定では案内役は双子のどちらかでした。
 ですが、ふと「あれ、オッサン成分足りなくね?」と思い、ミヤザさんが登場となりました。
 立ち位置としては協会とアカネの繋ぎ役みたいなところですね。
 受付役とか中間管理職的存在と言っても可。

 ラプンツェルに関しては、まだあんまり語れるところはなかったり。
 ただ、出番は少ないけど物語の根底に存在したりしなかったりします。

 それでは、この辺で。
 次回の更新時期は未定ですが、お待ちいただけたら幸いです。
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