赤ずきんたちとオオカミさんの絶望打破   作:樹影

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4:それでは、銃火による歓待を始めよう

 

 

 

「さて……目が覚めてすぐあそこ行ったから聞いてないんだけど、今この船はどこにあるの?」

 

 改めて集まった飛空艇のブリッジで、アカネは皆に尋ねた。

 陽が落ちたのか、広く見渡せる窓の外は漆黒に覆われている。

 

「あの遺跡のすぐ近くだよ。

 どうやらあの罠は大掛かりな分、数は存在してなかったみたいでね。

 お陰ですぐ上を漂っても平気だよ」

「そう。 まぁ、あれを潰すのには苦労したものね。

 ………苦労したんだけどね………」

 

 エルの答えに、アカネは先の修羅場を思い出し、そしてその結果に再び消沈する。

 彼女からしてみれば徒労なだけで終わるよりも性質が悪かった。

 それに対し、コムギやソニアが慰めるよりも前にエルがパンパンと高らかに手を叩く。

 いちいち落ち込まれては埒が明かないからだ。

 

「話進めるよ。 いいね?

 ソニアの話じゃ、他に目ぼしいものはなかったってことらしいけど、アンタやあの男を運び出すのに苦労したから、実際はまだ調べきれてないところもあるかもしれない。

 だから、明日はラプンツェルの所に戻る前にもう一度あそこに入って調べるってのもありだと思うけど、どうよ?」

「やるわ」

 

 アカネは即答した。

 ブワッ、と勢いよく頭を跳ね上げながらの応答は、傍にいたソニアと小麦が驚いて身を引かせる程の勢いだ。

 その目には、ギラギラとした光とじっとりとした執念が入り混じっていた。

 

「こうなったら意地でもあの大立ち回りとファーストキス分の収穫を持って帰らないと割に合わない所の話じゃないわ」

「……別に一回かそこらチュッチュされた程度で気にしないでもいいだろうに」

「ナニカイッタ?」

「いやなにも」

 

 獲物を狩るモノの眼光を向けられ、即座に目を逸らすエル。

 気に恐ろしきは乙女の純情か。

 傍にいるコムギとソニアの二人も苦笑を浮かべるしかない。

 それはさておきと、アカネは気を取り直して話を戻す。

 

「ともあれ、今日はもう遅いしあたしも本調子じゃない。

 今日はこのまま休んで、調べるのは明日にするよ。

 異論はないね?」

 

 無言で肯定を示す面々に、アカネはようやく満足げに頷く。

 

「それじゃ、この場はいったん解散―――」

 

 瞬間、アカネの言葉を遮るように、ブリッジが白く染まる。

 正確には、扇のように半円を描きながら配置された窓から真白い閃光が差し込んできたのだ。

 

「―――つっ!?」

「きゃぁっ!!?」

「くっ!?」

「ぅっ!?」

 

 四者四様に呻きながら身を固くする。

 そうしながら、アカネの脳裏に警鐘が鳴り響く。

 

(これは、照明弾……ということは!?)

 

 薄く開けた眼の、ぼやける視界の中で光の中を黒い影が横切るのを確かに見た。

 その直後。

 

『オォォォオラァァアアッ、聞こえるかメス共ぉおおおおっ!!』

 

 野卑の塊としか思えない、そんな大音声がビリビリと響いてくる。

 予想が当たったことに、アカネは忌々しく舌打ちする。

 

「っ、【ハイエナ】かっ!!?」

 

 【ハイエナ】。

 それは彼女たち遺失物狩りの中でも最も卑しく忌まわしい在り様の者たちの総称。

 彼らはその名のとおり、他の遺失物狩りから戦果を略奪することを良しとする集団だ。

 無論、生業故に同業他者とかち合うことはままある。

 結果として競争になり、場合によっては正面から激突することも珍しくはない。

 だがそれは遺跡の中、まだ誰も手に入れていない遺失物に対してだ。

 だからこそ他の者が発見し、入手した遺失物を遺跡の外で奪う行いはもっとも恥ずべき行いであるとされている。

 もしそれが当然のように横行すれば、遺失物狩りは賊徒野盗の類であると括られてしまってもおかしくないからだ。

 故に明文化こそされてはいないものの、やってはいけない絶対の禁忌として暗黙の内に掟とされている。

 

 だが、そんな唾棄すべき真似を恒常的に行う者たちもいる。

 それがハイエナだ。

 彼らはそんな集団であるが故に、実際に盗賊として手配されている者らも少なくない。

 

「【セブン】、連中の数と正体、把握できるか?」

『人造飛馬(ペガサス)の数は六機、内五機が二人乗りです。

 使用機種、確認できる装備、この一帯での目撃情報などを総合した結果、敵は【黒狼鬼】の構成員かと思われます』

 

 目を擦りながら尋ねたエルに答えたのは、彼女たちの乗る飛空艇【クロック・ゴート】を統括する人工精霊(メインシステム)だ。

 セブンと名付けられたそれは少女のような、しかしガラス越しのような独特の声質で無機質に索敵結果を報告する。

 

 ちなみに【人造飛馬(ペガサス)】とはこの世界における移動手段の一つで、魔力で駆動して浮かぶ一人ないし二人乗りの機械だ。

 跨って操縦するそれらは遺失物狩りのみならず民間にも広く流通している。

 

「チィッ、特にヤバいクソどもじゃないの!」

 

 舌打ちと共にアカネが踵を返して、しかし足を縺れかける。

 その身をコムギが慌てて支える。

 

「あ、アカネさん!! だめですよ、病み上がりでしょ!!」

「別段病気だったわけじゃないから大丈夫よ!!」

「いや、ダメだろ」

 

 即座にダメ出しをするエルに、アカネはキッと眦を上げた視線を浴びせる。

 

「なら、どうするのよ? 現実問題、あいつらの後ろには本隊もいるはずよ?

 ここから逃げるにしても、飛び回ってるハエを追い払わなきゃ」

「む、それは……」

 

 エルは思わず言い淀んでしまう。

 基本、頭脳労働担当であるが故に戦闘関連に関しては強くは言えない立場だ。

 これに関してはコムギも同じで、彼女は戦闘ができないわけではないが、どちらかと言えばサポート寄りの立ち位置だ。

 何より、現状では場所も相手も悪く、今回の戦いでは役に立つとは言い難い。

 それを自覚して、今の彼女は唇を噛んで口を噤むことしかできなかった。

 

 現実問題、この船が攻め落とされればアカネを出し渋る意味はない。

 だが同時に、船医を兼任している身としてはこのまま送り出すことを良しとはできなかった。

 第一。

 

「だが、お前の魔力だってロクに回復していないだろう?

 ただでさえ消耗していたところに魔力を根こそぎ取られたんだ。

 疲労感だって生半可なものじゃないだろう?」

 

 そう、今の彼女は戦うだけの地力が足りない状態だ。

 青年に奪われた魔力も巨木ヤツメウナギを沈黙させるために使った体力も、ほんの少し眠っていただけでは補えない。

 

「そんなお前が出たところで、あいつらを追い払えるのか!?」

「でも!」

「あたしが出るよ」

 

 言い争いを中断させたのは、間に入ったソニアだった。

 そんな彼女に、二人は目を見開く。

 

「ソニア、でも貴女は」

「雇われの外様、でも向こうには関係ないしね」

 

 肩を竦めるソニア。

 今自身が言っていたように、実は彼女はアカネたちのチームの一員ではなく、今回の仕事に合わせて雇われただけの立場だ。

 とはいえ、似たように仕事を共にしたことはすでに何度かあり、正式なメンバーとして勧誘したのも一度や二度ではないのだが、今回に至っても袖にされ続けている。

 そんな気心の知れた客人に、エルは苦い顔を浮かべつつも頭を下げる。

 

「―――すまん、手を貸してくれ」

「ああ、報酬はもちろん弾んでもらうけどね」

「それじゃあたしも」

「アカネはここにいて、邪魔」

「ぐっ」

 

 にべもなく言い放たれると、言葉を詰まらせる。

 流石にアカネも同じく戦闘要員であるソニアに拒まれれば聞かざるを得ないらしい。

 アカネも、足を引っ張ればそれこそ元も子もないと解っているのか、今度は大人しく従った。

 その様子に、エルもコムギも胸を撫で下ろす。

 と、そんな彼女たちを尻目にソニアは踵を返してブリッジを後にしていく。

 その去り際、一言を残していく。

 

「まぁ、出航しつつ出来れるだけサポートを頼むよ?

 実際、一人じゃちょっときつそうだからね」

「ああ。 セブン!!」

『了解。 既にエンジンは滞空モードから起動モードへと準備を終えるところです。

 いつでもどうぞ』

「アカネ」

 

 視線を投げかけるエルに、アカネはコクリと頷き、そして強い眼差しと共に宣言する。

 

「アンカー解除。 ―――【クロック・ゴート】、出航!!」

 

 

 

***

 

 

 

「あん?」

 

 人造飛馬を駆っていた男の一人が怪訝な表情を浮かべる。

 周囲を飛び交う男たちの風体は装甲服や簡素な皮鎧、ジャケットなどどこか統一感に欠けていたが全体的に黒を基調としており、さらに首元に巻いている黒い布が彼らを同じ集団としての共通の印象を与えていた。

 それが巨大な飛空艇に纏わりつく様は闇に溶け込む悪鬼の集団のような悪夢めいた錯覚を覚える。

 

 男の視線の先、獲物として狙っている連中の飛空艇が重低音の駆動音を響かせる。

 

「チッ、動き出す気か」

 

 舌打ちが早いか、男が羊の頭を象った船首から離れていく。

 見逃す気はないが、動き出す動きに巻き込まれる気は毛頭なかった。

 

 飛行艇の形状は帆を畳んだ帆船を、一足の巨大なハイヒールが挟んでいるような形状をしている。

 ハイヒールのつま先部分には可動式の砲塔が付いており、半球状の台座から二連装の砲口が突き出ているものが二つずつ存在している。

 男の目の前でハイヒールの踵のような部分が稼働し、その先端を後方へと向けていく。

 同時に、フィィィ!、と耳に刺さるような鋭い男が空気を震わせていく。

 ハイヒール……飛行艇のエンジンユニットが本格的に起動し始めたのだ。

 

「テメェら、やれ!!」

 

 男が他の機体に指示を出す。

 森の中を行くならサイズの小さい自分たちの方が圧倒的に早く、取り逃がすことはまずないだろう。

 しかし、面倒は少ないほど良い。

 指示を受けた他の男たちが船首側から見て右側のユニットへと殺到する。

 狙いは後方、ハイヒールのピンにも似たメインスラスターだ。

 

 二人乗りのうち、二機ほどが攻撃態勢に移る。

 後部座席の者が肩に担いでいるのは細長い瓢箪のような円柱だ。

 それは魔力式のロケットランチャーで、前部の弾体の種類を変えることによって様々な効果を発揮する安価で単純な構造のありふれた武装だ。

 今回は恐らくもっともオーソドックスな炸裂弾頭だろう。

 二人は示し合わせるかのようにほぼ同時にその矛先をエンジンに向け―――放つ前に爆散した。

 

「はっ!?」

 

 立て続けに火の花へと変わり果てた四人の仲間の散り様に、指示をした男が船の方を注視する。

 そして、見つけた。

 甲板の上、深い緑に染まったコートを風にはためかせながらライフルを構える女の姿を。

 

「テメェかぁっ!?」

 

 言いつつ襲い掛かるのは別の人造飛馬に乗っていた二人だ。

 前に座る方はハンドルを握って加速させ、後ろに座っている者は手斧を構えている。

 それは刃こそついているものの、切れ味というものはほとんど無い叩き切るだけの鈍器に近い安物だ。

 だが、それだけにその勢いで殴り掛かれば凄惨な結果が待っているだろう。

 

「フッ」

 

 しかし、緑の女は吐息一つ漏らし、左手でライフルを保持しつつ右手で拳銃を抜き放つ。

 直後、存外に軽い音と強い光が続けざまに二回。

 その結果は操縦手の額と人造飛馬の加速器を正確に貫く形で現れる。

 乗り手とバランスを一気に失った人造飛馬は大きく軌道を逸らしつつ不規則に揺れ、盛大に捩じるような軌道で墜落していく。

 

「あ、おぉあああああああああああああああああああっ!!」

 

 その背に乗っていた二人は片や物言わぬまま、片や絶叫を断末魔として残しながら振り落とされて暗い地の底へ落ちていく。

 そんな仲間の最期を、しかし他の者は見届けもしない。

 目を逸らせば次は自分たちがそうなるかもしれないと解っているからだ。

 事実、この場の戦力は既に半減している。

 否応なしに警戒は強まる。

 そうして警戒して距離を保っていたその時、飛行艇がいよいよもって動き出す。

 中空を浮かんでいただけの状態から徐々に、しかしあっという間に速度を上げて進み始める。

 

「ちぃっ」

 

 その様子に、指示役らしき男が舌打ちする。

 こうなる前に動けなくしておきたかったのだが、こうなれば致し方がない。

 

「てめぇら!! 墜とされねぇように回り込め!!」

 

 言うなり、その男を含めた全員が弧というよりも螺旋と言ったほうが良いような軌道で飛空艇へと迫る。

 その甲板で、愛銃の重みを確かめながらソニアは呟く。

 

「さて、半数にはできたけどできればこのまま」

『申し訳ありません、ソニア。 敵の増援を確認しました。

 数は最低5。 さらに増える可能性あり』

「……いけるわけないか」

 

 はあ、と溜息を洩らし、右手を水平に上げ、引き金を引く。

 銃越しに銃弾に込められた魔力が、炸薬と反応して緑色のマズルフラッシュが閃く。

 

「ぎゃばっ!?」

 

 瞬間、下方からせり上がってきた人造飛馬の乗り手の首を横から穿つ。

 そのままその機体はバランスを崩しながら遠ざかっていく。

 その一部始終に全く視線を向けないまま、ソニアは目を鋭くして集中する。

 

「しょうがない。 ―――いつも通り、死なない程度に頑張ろう」

 

 言いつつ、ライフルをスリングで担いで固定し、左手にも拳銃を構える。

 おもてなしの準備は万端。

 それでは、銃火による歓待を始めよう。

 

 

 

***

 

 

 

 その頃、牢にいた青年は立て続けに響く音にピクリと体を震わせる。。

 そして暇だから転がしていた身を起こし、胡坐をかいて中空へ顔を向ける。

 別段、透視ができるわけでも千里眼を持っているわけでもない。

 そもそも、身を起こしていながら今の彼は瞳を閉じたままだ。

 と、彼はおもむろに息を細く細く吐き出していく。

 

「―――なんだろうな」

 

 ふと、誰に聞かせるでもなく呟く。

 その声は、静かなながらも何かを抑えつけているようにどこか苦しげでさえある。

 

 ………否、やはりそれは間違いだ。

 何故なら。

 

「妙に、躰が疼くぜ」

 

 彼は今、昂っているからだ。

 どうしようもなく吊り上がる口角からは、牙が覗き、鈍い光を返している。

 心なしか、アカネたちと会話していた時よりも長く鋭くなっているように見えるのは気のせいか。

 

 そしてゆっくりと開かれるその瞳は―――明らかに、淡い黄金の光を灯していた。




 というわけで四話目です。
 ソニアさんはあれです、アカネたちにとっては準レギュラー的存在ですね。
 人造飛馬に関してはSF作品で出てくるエアバイク的なものを思い浮かべてくれればありがたいかと。
 さて、次回から対ハイエナ集団【黒狼鬼】戦。
 皆さんに楽しんでいただければありがたいです。

 それでは、この辺で。
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