足柄辰巳は勇者である   作:幻在

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見出した答え

ひなたが寮を出て行った日、学校での事。

若葉は自分の机に突っ伏していた。

(昨日、ひなたにあれほどの啖呵を切ったは良いが・・・・何をすればいいのやら・・・・)

未だに何をすればさっぱりわからなかった。

「はあ・・・・」

まだ刀を振る気にもなれずに、何もする気が起こらない若葉。

否、何をすれば良いのかさっぱり分からないから動けないのだ。

そんな、怠け者のように机に突っ伏している若葉に、一人近付くものがいた。

「若葉さん」

「ん・・・?」

杏だ。

「少し良いでしょうか?」

「ああ、別に良いが・・・?」

その杏の表情は笑っていたが、どこか真剣なものだった。

 

 

 

 

 

杏に連れられ、外に出た若葉。

ただ、杏の意図はまだ分からない。

「な、なあ杏、何故いきなり外に・・・」

そう聞きかけた時、杏が不意に止まった。

そこは、とある家の前だった。

「ここの家に住んでいる大学生のお姉さんは、広島の大学に通っていたんですが、バーテックス襲来の際に四国に逃げ込んだものの、天空恐怖症候群を発症。本人もご家族も苦しんでいました。ですが、勇者が活躍しているというニュースを聞いて、少しずつ症状が回復していっているそうです」

そう説明した杏は、次の家へと歩いていく。

昔から丸亀に住んでいる人、四国外から避難してきた人、その誰もが、勇者が活躍している事を聞き、少しずつ、敵への恐怖を乗り越え、前向きになってきている事を、杏は若葉に説明した。

そして、若葉は一人の女性とあった。

「あの、もしかして若葉様でしょうか?」

その女性は、ベビーカーを一つ、押していた。

「そうですが・・・・」

「私、あの日、島根の神社で救っていただいたものです」

 

三年前、若葉、そしてひなたは、修学旅行先で、地震のために神社に避難していた。

そして、バーテックスが襲来し、島根の神社にて、命を宿す神の刀『生大刀(いくたち)』を手に、バーテックスを撃退した。

その女性は、その時、助けて頂いたのだと言う。夫と共に。

そして、彼女の押すベビーカーにいる赤ん坊は、四国に避難した後、生まれたのだと言う。

 

その子の名前は、『若葉』。

 

勇者、乃木若葉から取られた、勇者のように気高く生きて欲しいという想いを込めた、名。

若葉は、自分と同じ名の子を、抱いた時、悟った。

(ああ、そうか・・・)

 

若葉は、あの日、友達や罪無き一般人の命が、跡形もなく消えたあの日の事が、忘れられなかったのだ。

ただただ、死者に対する報いだけを頼りに生きてきた。それこそが、若葉を縛り付けていたものでありトラウマ。

若葉を、ただ憎しみのままに刀を振るう復讐鬼へと変貌させていた、根源。

「実は、辰巳さんも初めは若葉さんと同じだったんですよ」

「え・・・」

女性と別れた後、杏はふとそう言った。

「実は、辰巳さんと初対面の時、睨まれて泣いてしまった事がありまして」

「ああ、あの時はいきなりで驚いたぞ」

「ふふ、それで、一ヶ月が経ったある日に、突然辰巳さんがその事を謝りに来たんですよ」

「そうなのか?」

杏は、まるでこの間の事のようにつぶやく。

「私があんまりにも情けなかったから苛立っていたって。そんなんじゃバーテックスと戦えない、て思ってたらしいんです。ですが、辰巳さんはひなたさんに叱られた時に悟ったそうです。守るべきは過去じゃなくて今なんだって」

「・・・・そうだな」

そう、見つめるべきは惨劇の過去ではない。未来を紡ぐ現在(いま)だ。

そして、守るべきは死者の復讐では無い、生者の未来である事。

 

そう、全てを守る為に刀を振るう。それこそが、若葉の求めた答えだ。

 

 

「さて、そろそろ丸亀城に戻りましょうか」

「そうだな、球子あたりが心配してそうだな・・・・」

「タマがどうしたって!?」

「「うわ!?」」

突然、どこからともなく現れ、二人に抱き着く球子。

「タマっち先輩!?」

「どうしてここに?」

「私もいるよ」

さらに友奈まで出てくる始末。

「いや深刻そうな顔で学校出ていくから、てっきり決闘でもするものかと・・・」

「しないよッ!?」

全力で否定する杏。

「球子にも心配かけてしまったんだな・・・・」

「べ、別にいーよそんな事は」

照れたように顔を背ける球子。

しかし、背けた視線のその先で、ある事を思い出す球子。

その視線の先には、電柱。

「おーい!お前も隠れてないでいい加減出て来いよ!」

ビクリッ!と誰かが飛び跳ねたような気がした。

「ほらほらぐんちゃん、呼ばれたんだから出て出て」

「わ、分かった。分かったから引っ張らないで高嶋さん!」

電柱から出てきたのは、千景だった。

「千景・・・」

「わ、私は土居さんや高嶋さんに無理矢理連れてこられただけだから・・・・」

「そんな事言って、一番そわそわしてたのぐんちゃんだよ?」

「し、してないわ!」

友奈の言葉を全力で否定しようとする千景。

その様子を見て、若葉は想う。

 

こんなに心配してくれる仲間たちがいるのに、私は――――

 

 

「すまなかった」

 

若葉は、頭を下げ、誠心誠意、謝った。

「過去に囚われ、復讐の怒りに我を忘れて、一人だけで戦っている気になっていた」

それゆえ、辰巳があんな状態になってしまった。

辰巳が、たった一人、勇者の中で最も体の負担の大きい切り札を使ってまで奮戦させる羽目になってしまった。

だからこそ、もう間違わない為に、ここに誓う。

「これからはもうそんな戦いはしない」

もう二度と、仲間を傷付けないようにするために。

「今生きる人々の為に、私は戦う。だから―――これからも共に戦ってくれないか?」

若葉は、頭をあげて、そう聞いた。

それに対して、一同は。

「もちろんです、若葉さんはリーダーですから」

「当然!タマに任せタマえ!」

「私も、若葉ちゃんと一緒に戦うよ!」

杏、球子、友奈がそう、笑って返す。

「口ではなんとでも言える」

そして千景。

その言葉に、若葉は視線を下に向けてしまうが、次の言葉で、さっと顔をあげた。

「だから、行動で示して」

「千景、じゃあ・・・」

「私も、少し言い過ぎたから・・・・」

顔を赤くして、そう答えた千景に、若葉は思わず安心してしまう。

 

もう、若葉は大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冬の冷たさが、濡れた肌に痛む。

しかし、彼が受けた痛みは、こんなものではないだろう。

だから耐えられる、耐えて見せる。

ひなたは、そう心の中で自分に言い聞かせ、自らを苛む痛むを、ほぼほぼ無と化していた。

が、その横にいる少女は、耐えられずに声を挙げる。

「もー、死ぬかと思った!寒い!痛い!真冬だけは滝行はおまけしてほしいわ、神樹様ぁ」

その女性の名は、『安芸(あき)真鈴(ますず)』。

ひなたより一つ年上ではあるが、二人は自然と気が合った。

「うるさいですよ真鈴さん。毎日やってるんですから、その度に声を挙げないで下さい」

「うわー、火野ちゃん冷たい」

その安芸に向かって、叱るのはひなたよりも幼い少女。

その少女こそが、勇者『足柄辰巳』の妹であり巫女の『足柄火野』だ。

基本、巫女は大社で生活する事の多い。

その中で、火野は巫女一番のしっかり者であり他の者の面倒を見れるほどの寛容さを持ち合わせている。

年齢はひなたより下なのに、その頑張りはひなたでさえも関心する事だ。

「火野ちゃん、無理はしていませんか?」

「あ、いえ・・・」

ひなたにそう聞かれ、火野は口籠る。

辰巳の状態は、当然、巫女たちにも聞かされる。

その中で一番、失神しそうになったのは彼女だろう。

たった一人の家族だ。その家族を失えば、きっと正気ではいられないだろう。

しかし彼女は、強く振舞った。

誰にも、己の弱さを悟らせない様に。

しかし、どうやらひなたには弱いようだ。

「・・・・すみません、まだ、抜けきれなくて」

「きっと戻ってきますよ」

「はい・・・」

火野は、照れたように笑う。

「・・・お姉様」

「はい?」

「なんでもありません」

そっぽを向いてしまった。

 

 

 

 

 

滝行を終えた巫女たちは、列を成して、神樹の祀っている場所へと向かう。

周囲からは、低く平坦な歌のようなものが聞こえる。

周囲には白い装束に包んだ人が幾人もおり、木の陰に集まって祝詞を唱えていた。

そんな異界のような場所を真っ直ぐ歩いていく中、火野はひなたに話しかけた。あくまで、小さな声で。

「ひなたさん、ひなたさん、少し良いですか?」

「はい、なんでしょう?」

「実は、神樹様からの神託で、また不吉な事を聞きまして」

「不吉・・・」

火野は、巫女の中では特殊で、結界の外の情報を、()()()()()()()()()()()()()のだ。

「どんなものですか?」

しかも、その内容はかなり鮮明。

それ故に、火野は精神的に強くなったのだろう。

その情報が、嘘か本当か分からないが、それでも聞いておくにこした事は無い。

「私が予想する限り、バーテックスに喰われた人が、バーテックスを逆に取り込んで力を得る・・・そして、生き残っている生存者たちを虐殺する、というものです」

「・・・・・」

あまりにも凄惨だったのか、火野の顔色は、どこか悪い。

「人が、人を・・・?」

「はい、そうなんです。さらに、その人たちは何かしら自我に何かしらの欠損や歪みを抱えているようです。しかし、それでも、人を殺す事において、容赦は一切しないようです。そして、その人たちのせいで、もう他の生存者はいないと・・・・」

「そ、そうなんですか?」

「はい」

馬鹿げている、そう思いたいひなた。

もし、そんな輩がいたら、勇者たちはその手に持つ武器を向けられるのか。

ふと、ひなたから見て火野の反対側から、安芸がひなたに耳打ちする。

「悪いニュースを聞いたあとは、良いニュースを聞きたくはないかしら?」

「安芸さん?」

「諏訪との通信が途絶えたのは知っているよね?」

「ええ、通信をしていたのは若葉ちゃんですから・・・・」

若葉曰く、あの初めての襲撃の日、諏訪との通信が途絶えた。

その時の、諏訪の勇者、『白鳥歌野』の最後の言葉は―――

 

 

『乃木さん、あとはお願いします』

 

 

それを聞いて、おそらく、諏訪は終わったのだろう。

「そう・・・でね、火野ちゃんの神託と相まって、他に生存者はいないって思われてたの。だけどね、生きてたのよ」

「誰が、ですが?」

「―――諏訪がね?」

「なんですって―――むぐッ!?」

思わず、声を荒げてしまうひなた。

しかし間一髪で火野が口を塞いで阻止する。

幸い、周囲は気にしていないようだ。

「むむ――――ぷはあ・・・・それって、もしかして・・・」

「詳しい事は分からないけど、確かにそういう神託が下ったのよ。諏訪はまだ生きてるって」

「そうですか・・・」

まだ、諏訪は生きている。

それならば、きっと若葉だけでなく、他の勇者も喜ぶだろう。

しかし、火野の言う、悪い方向での神託は、一体どういう事なのだろうか。

 

人が人を殺す。

 

そんな恐ろしい事があって良いのだろうか?

 

 

 

 

そして、ひなたたちは、神樹と相対する。

すると、ひなたは自然と神樹の前で膝まづき、神樹に頭を下げた。

神話において、人は神の前では立っている事は出来ない、というが、どうやら本当のようだ。

しばらくして、何かしらの許しを得られたのか、緊張が解かれ、立ち上がれるようになるひなた。

そして、ひなたは神樹の幹に触れた。

神樹に触れると、まるで生き物に触れているかのような温かさを感じた。

それこそが、神樹が神の樹である事を示している証明なのかもしれない。

 

神樹は生きている。

 

そう、実感する。

しかし、突然、ひなたの背筋に、まるで蛇が這うような冷たさを感じた。

(え・・・・)

何かが、神樹に触れている手から流れ込んでくるかのような感覚を覚える。

頭が重い、痛い、立っていられない、足に力が入らない、眠い、怖い、寒い、冷たい、助けて、怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い――――

「ひなたさん!?」

「上里ちゃん!?」

「上里様!?」

「いかん、瞳孔が開いて――――」

声が遠のき、聞こえなく、嫌だ、怖い、行かないで、そっちに行ってはダメ、行かないで、消えないで、手の届かない所に行かないで、まだ伝えていない事がある、嫌だ嫌だ、怖い怖い、伝えたい事があるのに、言わず仕舞いなんて嫌だ。

 

 

死なないで――――辰巳さん。

 

 

 

ひなたの意識は、抗いようもない意識の混濁に飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心電装置が、一定の間隔で、心臓が動いている事を示す。

そのコードが繋がれているのは、一人の包帯だらけの少年。

口からは呼吸補助装置が繋がれており、体の各所から包帯に滲み出ている血は、どこか痛々しい。

しかし、彼は確かに生きている。

ただ、自らの体を蝕む毒に犯されているだけ。

だが、その体は、確かに生へ向かって目覚めを時を待っていた。

 

バーテックスによって撃ち込まれた毒が、その意味を無と化していく。

 

彼は、確かに生へと向かっている。

しかし、それでも、人を殺す事に恐ろしいまでの執念を持つバーテックスが、そこで終わらすほど甘くは無かった。

 




次回『伝えたいコト』

伝えたいから、死ねない。
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