足柄辰巳は勇者である   作:幻在

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伝えたいコト

――――辰巳の容態が急変した。

 

 

それを聞いた勇者一同は、その日の授業や訓練など投げ出して病院に向かった。

「辰巳!」

「たっくん!」

「辰巳さん!」

「辰巳!」

「足柄さん・・・!」

辰巳のいる手術室にて、そこに辿り着いた若葉たち。

そこには、白衣の男性が一人。

「ハア・・・・ハア・・・・辰巳は・・・どうなって・・・!」

「落ち着いてください」

「落ち着けないよ・・・だって、たっくんが・・・」

「まだ死ぬと決まった訳ではありません。それに、そんな状態ではまともに話を聞けないでしょう?」

その男性の対応は至って冷静だった。

彼は、説明の為に用意された者だった。

辰巳の主治医は、今、手術室の中で、全力の対応を試みいるとの事だ。

「辰巳は、順調に回復していったんじゃなかったのかよ!?」

「ええ、確かにそうです。しかし、最後の最後で毒が本気を出してきたんでしょう。良くある話です。とあるウィルスに犯された人間に抗生物質を投与すると、ウィルスが死にたくないがためか抵抗の為に体内で暴れるという事が」

男性の対応は、本当に冷たいものだった。

「辰巳さんは、今、どんな・・・」

「血圧の上昇、それによる血管の破裂、さらに、一部内臓の溶解が見られるとの事です。一言で言って、死ぬ直前と言ってもいいでしょう」

「そんな・・・・」

杏の体がぐらつく。

「あんず!しっかりしろ!」

「辰巳さんが・・・」

杏の体を支える球子。

しかし、球子の表情もとても険しいものだった。

「足柄さんの、生存率は・・・」

千景が恐る恐る聞いてくる。

「限りなく0%(ゼロ)に近いかと」

「嘘・・・・」

声を漏らしたのは友奈。

千景は、口角を歪める。

男性の表情は、無表情のまま。

まるで、隠す気など無いかのように。

若葉は、歯を唇が切れる程に食い縛り、手を血が滲みそうな程に握りしめた。

(いくら騒いだところで、辰巳がどうにかなる訳じゃない・・・・それでも――――)

若葉は、辰巳がいるであろう手術室を睨み付けた。

そして、泣きそうな程に表情を歪めて、心の中で、辰巳に向かって言う。

(ひなたが、待っているんだぞ・・・辰巳・・・・!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ぐあぁぁぁあぁぁあぁああああぁぁあああああああぁああああ!!!!」

何もない、荒野の中で、少年は、あまりの痛さに叫んでいた。

それは、()()()()()()()事による、背中の激痛。

受け身を取り損ねたが故に、激痛が少年の脳を焼く。

だが、それでも少年は立ち上がらなければならない。

 

目の前にいる、『竜』から逃れる為に。

 

目の前にいるのは、黒い鱗を持ち、エメラルドの瞳を持つ、巨大な竜。

その竜が、今、少年に牙をむいていた。

少年の体は、まさにボロボロ。

爪で裂かれた事によって出来た裂傷や、尻尾の打撃を喰らった事によって出来た痣。

内臓や骨がいくつも砕かれているだろう。

「ハア・・・ハア・・・」

動けない。

このままでは、死ぬ。

「なんで・・・こんな・・・・・ぐあ!?」

突如として前足で踏まれる。

その竜の圧倒的体重量が少年に一気に圧しかかり、中身を圧迫し、さらに果てしない程の激痛を与える。

「ぐあぁあああぁあああああ!!?」

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い――――――ッ!!

苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい――――――ッ!!

少年は、あまりの痛さに叫んだ。

痛い、何故、こんな事になっている。

 

何故、俺がここに立っている?

 

あまりにも突然の事が立て続けに起きて、訳が分からなくなっている。

何故、こんな目に合わなければならない。

何故、こんな事にならなければならない。

何故、こんな場所に自分は立っている。

様々な疑問が、彼を蝕む。

まともな思考を出来なくしていく。

まるで自分が自分でなくなっていくかのように。

怖い、目の前にいるバケモノが怖い。

何故、このバケモノは俺を狙う?

俺が一体何をしたんだ?

 

 

竜の手が、少年から退かされる。

 

 

(なんだ・・・?)

やっと、開放してくれるのかと思った。

だが、事はそう簡単には進まない。

竜が、頭を下げてくる。

そして、その巨大な口が開かれる。

(喰われる――――ッ!?)

竜が、少年の下半身に喰らいつき、そして、頭を上げ、高く掲げた。

下半身が、バキバキと音を立てて、歪んでいく。

(ああ―――)

俺は、ここで死ぬのか。

ならば、さっさと殺して欲しい。

痛いのは嫌だ。

苦しいのは嫌だ。

辛いのは嫌だ。

消えてしまいたい。

どうせこのまま辛い思いをするくらいなら、死んだほうがましだ。

 

どうせ、俺には何も無いし、何か欲しいものが――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、少年の脳裏に、一人の少女の顔が浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如として少年は竜の上顎と下顎を掴んだ。

「ぎ・・・あぁぁぁぁぁぁあああぁあああああああああああああああぁぁああぁぁぁぁぁあああ!!!!!」

そして、絶叫して、竜の口を無理矢理開けようとする。

(死ね・・・ない・・・・・・・俺は死ぬ訳にはいかない―――――ッ!!!)

突如、芽生えた執念。

ただ一人、会いたいと思う人に対する、想い。

ただ、その人の為だけに燃やす情熱。

伝えたいが故に、行きたいと思う。

(だから――――)

 

愛の為に、少年は咆えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺に従えッ!!!ファァアブゥニィィィィイルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウゥゥゥゥウウウウウウウウッッ!!!」

 

 

瞬間、少年を喰おうとしていた竜―――邪竜『ファブニール』は、突然、緑色の光を巻き散らした。

さらに、だんだんと半透明になったかと思ったら、実体を失くしたかのように、少年が体を通り抜けて、地面に落ちた。

見上げるとファブニールの眼は、先ほどとは違って、とても穏やかだった。

まるで、母親のように行きなさいとでも言うかのように。

 

 

かつて感じていた温もりを、くれるかのように。

 

 

 

やがて、竜が消え、代わりに、後ろから誰かがいるのを感じた。

 

 

 

それは、今、少年が最も欲していた存在(ひと)だった。

振り返れば、そこには、黒髪の少女がいた。

とても穏やかな表情で、とても安心したかのような表情で、こちらを向いて、笑っていた。

その少女に、少年は、笑って謝った。

「―――ごめん、約束、守れなかった」

「・・・・本当ですよ、もう」

少女が駆け出す。

そして、少年の胸に飛び込む。

その存在を確かめるかのように、しっかりと抱きしめた。

そして、少年も少女を抱きしめる。

「・・・・おかえりなさい、辰巳さん」

「・・・・ただいま、ひなた」

辰巳とひなたは、そう言い合った。

「本当に心配したんですから」

「すまない。俺も俺で必死だったんだよ」

手を握り合ったまま、そう言い合う二人。

「・・・辛かったか?」

「はい。とっても」

辰巳が聞くと、ひなたは大きくうなずいた。

「もう貴方が帰ってこないのではないかと、何度も思いました」

「ごめん」

「でも、帰ってきてくれて良かったです」

ひなたは、もう一度、辰巳がいる事を確かめる為に、その胸元に顔を埋める。

いつまでも、こうしていたい。だけど、そう長くは続かない。

「・・・・そろそろ戻らないと」

「もう、終わりなんですね・・・・」

「大丈夫だ」

ひなたの不満そうな表情になるも、辰巳がそんなひなたに言う。

「向こうで、いつでも会える」

「・・・そうですね。いつでも会えます」

ふと、ひなたは辰巳の手を取り、胸元まで持っていく。

「ただ、その前に、貴方に伝えたい事があります」

辰巳は、首を傾げる。

しかし、ひなたはお構いなしに、辰巳に言う。

 

「私は、貴方に恋してます」

 

自分でも、驚くくらい、するりと出た、言葉。

異性に言う事はないだろうと思った、大切な言葉。

それに、虚を突かれたかのように驚いたような表情をする辰巳。だが、すぐに、安心したかのような表情になり、辰巳も言った。

 

「俺も、お前を愛してる」

 

その瞬間、二人の手から、温もりが消えた。

まるで、互いに実体のない幽霊になるかのように。

「どうやら、ここまでのようです」

ひなたは、名残惜しそうに、辰巳を見上げる。

「そうだな・・・いつ帰ってくる?」

「明日、少し不謹慎な事をおみやげに帰ってきます」

「それは、手厳しい事で」

「・・・・敵は、待ってはくれませんから」

しばしの沈黙。

だけど、二人は、笑う。

「もし、戦いが終わったら、またデートに行かないか?」

「はい。よろこんで」

返事は、いらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手術室の扉が開く。

それに、一同は一斉にそちらに視線を向けた。

そこから出てきたのは、術衣姿の医師。

「辰巳・・・辰巳はどうなりましたか!?」

若葉は、その医師に問い詰める。

他の者が止めない事から、全員も同じ気持ちだった。

「・・・・心臓が止まった時は、流石にもうだめかと思いました」

その言葉に、息が詰まりそうになる。

「内臓のほとんどが機能を停止し、肺の機能も止まり、脳は酸欠状態、血管の破裂によって血液はどんどん失われ、それに対応している間に、他の臓器は死んでいく。そして、とうとう心臓まで止まった。その時ですよ」

医師は、振り返る。

そこから出てきたのは。

「ようお前ら」

まるでなんでもないかのように手を振ってくる辰巳の姿だった。

『・・・・』

それに全員が絶句する。

先ほどの医師の言葉では、例え治ったところでもはやまともな生活は出来ないかに思われた。

だが、そこで平気そうに手を振ってくる辰巳の姿は、とてもではないがそんな容態の人間とは思えなかった。

「突然、心臓がまた動き出したかと思ったら、ものすごい速さで体中の臓器がその活動を再開していったんですよ。まるで体中の毒が死滅していくように。さらに、麻酔を打ち込んでいるいた筈なのに意識が覚醒する始末。本当に人間かと思いましたよ」

「いやあ、体の中身が開かれている状態で目が覚めたのは、なかなかに斬新な体験だったな」

と、冗談っぽく笑う辰巳。

それにあんぐりと顔開けたまま茫然としている勇者一同。

その様子に、辰巳は、安心させるように笑い、謝罪する。

「悪い、心配させたみたいだな」

その言葉に、一同の目尻が熱くなる。

そして、友奈が耐え切れず辰巳に抱き着く。

「たっくんッ!」

「どわ!?」

「良かった!良かったよぉ・・・!!」

「ああ、よしよし、泣くな泣くな」

「そんな事出来ません!」

「おうわ!?」

さらに杏まで辰巳に抱き着いてくる。

そんな二人を、辰巳はあやすように頭を撫でる。

「心配させやがって」

「全くね・・・」

球子はいまにも泣きそうな顔で、千景は安心したような顔でつぶやく。

「辰巳・・・・」

そして、若葉は友奈と杏をあやしている辰巳に歩み寄る。

辰巳は若葉の方を向き、そして、何かを悟ったかのように微笑む。

「・・・答え、見つかったみたいだな」

「・・・私も良いか?」

どうやら、若葉も限界らしい。

辰巳はフッと笑い、友奈と杏を左手側に寄せ、()()()()()()()()()()

そして、若葉はそこへ飛び込む。

「辰巳・・・・辰巳・・・・!!」

「ああ、目一杯泣け」

友奈と杏と共に、若葉は声を挙げて泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開ける。

「あ、起きました!」

「ほんと!?良かった・・・」

目の前には、安芸と火野の顔があった。

「大丈夫?意識ははっきりしている?」

「はい、大丈夫です・・・」

体は、少しだるい。だが、心はとても満たされている。

「ひなたさん?」

火野が、不思議そうにひなたの顔を覗き込んでくる。

「なんだか幸せそうですが・・・?」

「・・・そうですね。そうかもしれません」

何せ、やっと想いを伝えられたのだから。

「そんな事より、神託が来ました」

ひなたは安芸たちに言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

暗黒の空、埋め尽くす、無数の小さな輝き(星々)

 

其の輝き、流星の如く、落ちる。

 

小さき輝き、重なり合い、果てしない程、大きな輝きとならん。

 

その中に、黒い輝き一つ。

 

闇の様に蠢き、無数の星々と共に、落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

されど、ひなたは想う。

 

 

 

 

その無数の輝き――――星さえも霞む程に、咲き誇る六輪の花。

 

鴉の様に飛び、鬼のように討ち砕き、狐の様に蹂躙し、炎の様に燃やし、雪の様に凍らせ、竜の様に喰らい尽くす。

 

その六つの花たちは、それぞれの輝きを持ち、決して、空の星たちに負けない、と。

 

 

ひなたは信じている。

 

 

 

 

 

心優しき邪竜が、人を守ってくれる事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まもなく、後に『丸亀城の戦い』と称される戦いが始まる。

 

その戦いにおいて、勇者たちは、命を賭して挑む。

 

 

 




次回『決戦前夜』

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