足柄辰巳は勇者である 作:幻在
驚異的スピードで回復していった辰巳が、その命を危険に晒したその翌日。
ひなたが帰って来た。
辰巳の病室にて、勇者一同と、ひなたが相対していた。
そして、ひなたがもたらした、新たな神託によって、その場に緊張が走った。
「近いうちに、敵の大規模な侵攻がやってきます」
「本当に手厳しいの来たなオイ」
ひなたの言葉に、辰巳は十分な緊張をもって言った。
「次の侵攻は、この間の比ではありません。各自、万全を期して挑む様に」
「ああ、分かっている」
「この間の様な事にはならないようにしないとね」
「辰巳ばかり無茶させてタマるかっての」
「もう辰巳さんのあんな姿は見たくないから・・・」
「この間のような失態はしないわ」
全員、気合十分だ。
「辰巳さんは、明日には退院できるんですよね?」
「ああ。医者はさじ投げたがな」
まるで悪夢だ!と叫んでいたらしい。
それはともかくとして。
「なら、良かったです」
ひなたは、まるで夫を心配して、安心した妻のような表情で微笑んだ。
その様子に、ひなたとの付き合いが一番長い若葉が気付かない訳が無い。
「二人の様子がなんだか眩しく見えないか?」
「それはタマも思った」
「ヒナちゃん幸せそう」
「すでに付き合ってるんじゃないのかしら?」
「いや流石にそれはないだろ?」
千景の言葉を否定する球子。
「どうしたお前ら?」
「皆さん?」
「ああ、いやなんでもないぞ」
若葉はなんでもないように答える。
それに首を傾げる二人だったが、若葉は、まるで分かっているかのように笑っていた。
寮に帰り、それぞれがそれぞれの部屋に戻った頃。
若葉だけはひなたの家に上がっていた。
二人で机を挟んで話し込んでいた時、ふと若葉はひなたにある事を言った。
「辰巳が目覚めて良かったな」
「ええ、本当に」
「誰よりも早く気付いていたからな」
「はい」
「そして誰よりも先に会いに行っていたと」
「はい・・・・・ん?」
お分かりだろうか?
若葉がひなたに対して言っていた事を。
それに気付いたひなたが、引き攣った笑みを浮かべて、わなわなと震え始める。
「わ、若葉ちゃん・・・・」
「ふっふっふ・・・・」
してやったりと言わんばかりに笑い、かしゃりとスマホのシャッターを押す若葉。
「―――!?」
「さてこの写真を・・・」
「消して下さいッ!!」
「断る!積年の恨みだ!」
部屋の中でどたどたと追いかけっこを始めるひなたと若葉。
だが、常日頃から体を鍛えている若葉に、全く運動していないひなたが勝てる訳が無かった。
「ハア・・・ハア・・・まさか、私が、若葉ちゃんに、写真を撮られるなんて・・・・」
あり得ないとでもいうように床にへたり込むひなた。
「あまりにも嬉しすぎて浮かれてたんだな」
まだ悪い笑みを浮かべている若葉。
それに悔しそうに上目遣いで睨み付けるひなた。
「うう・・・・消してくださいお願いしますなんでもしますからぁ~」
「ダメだ。これを皆に送って今までの取られた写真の恨みを全部返してやる」
「ひぃぃ!!やめてください!」
流石にそれには堪える様子のひなた。
若葉は、冗談だ、と言ってポケットにスマホを入れる。
もちろん、写真は消していない。
「うう、なんだか若葉ちゃん、意地悪です・・・・」
「そりゃ弄りたくなるさ。親友に恋人が出来たのだからな」
机に顎を乗っけてつっぷすひなたの額を小突く若葉。
「あう・・・」
「改めて、おめでとう、ひなた」
「・・・ありがとうございます」
ひなたは、本当に幸せそうに笑った。
(次の戦い、決して辰巳をあんな目には合わせない。合わせる訳にはいかない)
ひなたの笑顔を守る為に。
翌日、無事退院した辰巳をひなたが迎え、一緒に並んで歩いていた。
「まさか三日で治ってしまうなんて、思いもよりませんでした」
「俺も驚いた」
ただの並木道を、並んで歩く二人。
ふとひなたは周囲を見渡すと、何を確認したのか、スッと、辰巳の左手に自分の右手を重ね、寄り添うように密着する。
俗に言う『恋人つなぎ』だ。
それに一瞬、辰巳はキョトンとするが、すぐに笑みを零し、握られた手を握り返す。
もう、恥ずかしがる必要などないのだから。
そのまま歩いて寮まで戻る。
ふとそこで、ひなたが恋人つなぎを解いて、辰巳の前に立つ。
それに、首を傾げる辰巳。
その顔は俯かれていて、表情はうかがえない。
「・・・・辰巳さん」
「ん?」
「今度こそ、約束してください」
ひなたは顔をあげる。その表情は、真剣そのものだった。
「必ず、無事に帰ってくると、約束してください」
そう、力強い眼差しで、そう言ってくる。
それに辰巳は呆気にとられるも、すぐに微笑み、確かに言う。
「ああ、必ず、帰ってくる。みんなと一緒にな」
誰も失わせるわけにはいかない。
どれほど苦しくても、辛くても、自分の後ろに、たった一人でも守りたい者がいる限り、彼は決して負けはしない。
邪竜は、ありとあらゆる災厄を喰らい尽くすだろう。
そして、遂に敵の大規模侵攻が始まった。
次回『丸亀城の戦い』
そこは人類最後の絶対防衛線。