足柄辰巳は勇者である   作:幻在

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丸亀城の戦い

丸亀城の天守閣の上から、辰巳は敵の姿を一望する。

敵の数は、今までにない程、大量だった。

というか、比喩ではなくまさに無数だった。

「火野からの神託では、あの中に、バーテックスの力を手に入れた人間がいるんだよな・・・」

 

 

 

ひなた曰く、火野から神託からも、とてもではないが信じられない神託が下った。

 

バーテックスの力を手に入れた人間が襲い掛かってくる、と。

 

さらに、人間を殺す事において、何の躊躇もないとの事だ。

つまり、こちらにおいてもそれはもはや人間と認識すべきではない。

杏は勿論として、友奈、球子、千景、そして若葉もそれについては苦い顔をした。

だが、辰巳だけはその事実をしっかりと受け入れていた。

火野の神託は、内容こそ凄惨なものだが、外した事は無い。

事実、外へ調査に行った武装船団の報告から、火野の言ったような存在を確認したと聞いた。

という事は、そういう事なのだろう。

敵には元人間がいる。正確には、『バーテックス人間』なる存在が。

もし、仲間が躊躇う様なら、自分が――――

「てい」

「ぬあ!?」

いきなり額に手刀を入れられる辰巳。

「ゆ、友奈?」

友奈だ。

「たっくん難しい顔してるよ」

友奈がそう指摘してくる。

「・・・そうかもしれないな」

前回のような事になるかもしれないのだ。

それを考えると、自然と気が張ってしまうのも仕方がない。

「大丈夫だよ」

友奈が手を引いて、辰巳を丸亀城天守閣から降ろす。

「今度は、しっかりと作戦練って来てるんだから」

そこには、今まで共に戦ってきた仲間たちが立っていた。

若葉、球子、杏、千景、そして友奈。

確かに、今の状況において、これほど頼れる者たちはいない。

「・・・そうだな」

「よし、皆で円陣組もう!円陣!」

「あ、良いですね」

「良い気合の入れ方だからな」

勇者一同が、円陣を組む。

千景も戸惑っていたが、友奈に誘われ、輪に加わる。

若葉が、叫ぶ。

「四国以外にも人類が生き残っている可能性―――希望は見つかった。希望がある以上、私達は負けるわけにはいかない。この戦いも、必ず四国を守り抜くぞ!ファイト、」

「「「「「「オォーッ!!」」」」」」

一同の掛け声が、重なる。

 

 

 

 

「今回の戦いにおいて、相手が数で来るなら、こちらは陣形で行こうと思います」

杏が出してきた案というのは、陣形を率いての防衛ラインを作り、そこで敵を迎撃するというものだった。

丸亀城の正面、西、東に一人ずつ置き、遠距離攻撃の可能な杏は天守閣の屋上から援護、残る二人は、後方にて待機。

交代制(ローテーション)によって戦う事で、後方で待機している者は疲労の回復をする事が可能。

つまり、長期戦を想定した耐久型陣形だ。

 

正面に若葉、東に友奈、西に球子、後方にて待機は千景と辰巳となった。

 

そして、今回の戦いは、黒い星として神託として出てきたバーテックス人間がいる事が分かっている。

その存在は今までの敵より強い事が分かっている。その為に、勇者の中で一番強い辰巳を温存しておく必要がある。

というのが、建前上の説明なのだが、本心は。

「辰巳には前回無理させたからな」

「今回はたっくんは後ろに下がって休んでて」

「今度は私達が頑張る番です」

「タマに任せタマえ、ってな」

「貴方は、後ろで、大人しくしてて」

と、無理矢理という形で後ろで待機させられる事になったのだ。

「まあ、それもそうか・・・」

傷は完全に治っている。

しかし、それで彼女たちの心の傷が治る訳ではない。

無理した代償、というものだ。

辰巳は、それを承諾した。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、始まる敵の侵攻。

勇者たちは、それぞれの武器を振るい、敵を屠っていく。

辰巳は、天守閣に立つ杏の横で、観測手を担っていた。

辰巳の観察眼は凄まじい。

敵の細かな動きまで正確に見抜き、かつ、味方にどのように指示するべきかをちゃんと分かっている。

「なんだか、私が助けられているみたいですね」

「そうか?お前は味方の体調の事を見抜く事においては俺を抜いていると思うが・・・」

「それでも、私がこうして皆さんを的確に援護出来ているのは、辰巳さんのお陰です」

「そうか・・・・右斜め前方二時、友奈に群がってるぞ!」

「はいッ!」

杏がすぐさま矢を放つ。

 

その様子は、千景と交代した若葉にも見えていた。

「すごいな・・・」

辰巳は、今まで、誰かと連携する事で戦ってきた。

球子に背中を任せ、杏に遠くの敵を任せ、友奈に前を任せ、千景に一撃を任せる。

その全てにおいて、辰巳は、協力というものをおろそかにしなかった。

辰巳は、日常において、誰かとの信頼関係を気付く事を意識してきたのだ。

「私とは大違いだな・・・・」

いや、と若葉は思う。

私は変わった。もう、一人で戦う事はしないと。

「今思えば・・・」

若葉は、辰巳をもう一度見る。

「お前は、私の憧れだったな」

そう思いふけり、若葉は、正面を向く。

今、同じものを守る仲間が戦う戦場から、目をそらさないために。

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いが、順調に進むゆく中。

 

ふと、壁の上で、その様子を見ている者がいた。

「GLLLLL・・・・」

およそ人のものとは思えない唸り声。

その姿は、真っ黒い甲冑に包まれており、その手には、禍々しい程に黒く染まった、大剣。

「GLLL・・・コロス・・・・ニンゲン・・・コロス・・・・マイ・・・コロシタ・・・・ニンゲン・・・コロス・・・GLLL・・・・・」

その声には、どうしようもない程の憎しみが込められていた。

目の届く、遠い場所は、炎を纏う巨大な車輪が、敵を燃やし尽くしていた。

 

自分の心を理解してくれた、大切な者たちが、死んでいく。

 

それを、許す程、この存在は甘く無かった。

 

「LLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLッ!!!!」

 

憎しみにまみれた絶叫が迸り、黒い甲冑は討ち取るべき敵に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その叫び声は、辰巳に届いた。

「来る・・・!」

「え・・・」

辰巳は、背中の剣へと手を伸ばす。

「辰巳さん・・・?」

「どうやら、最悪の敵、てのが来たみたいだぞ」

そこで、千景の叫び声が聞こえた。

「何よあれ・・・!?」

全員が、そちらを向く。

皆の視線の先、そこには、謎の土煙が、真っすぐこちらに向かって舞い上がってきていた。

「何アレ!?」

「なんだァ!?」

「あれは・・・」

友奈、球子、若葉が驚きの声を上げる。

「もしかして・・・神託の・・・!」

杏が、その表情をこわばらせる。

だが、辰巳は前に出る。

「あ、辰巳さん!」

思わず引き留める杏。

「・・・・さっさと終わらせてこい」

辰巳は振り返る。

「そうしたら、俺は死なない」

そう、安心させるように笑った。

それに、杏は己の心配が霧散していくような感覚を覚え、そして、自然と笑みが浮かんだ。

「はい、すぐに終わらせてきます。ですから、どうかご武運を!」

それに、辰巳はしっかりと頷いて、天守閣から飛び降りる。

視線を感じる。

真っ直ぐにみつめる球子、頑張れと言っているような友奈、しっかりやれというような千景、そして、信じてると言っているような、若葉。

背中を預けられる、大切な仲間たち。

辰巳は、その仲間たちの為に、胸に宿る熱き想いを燃やして叫ぶ。

 

「来やがれ、ファブニールッッ!!!!!」

 

それは幻想の邪竜。

ありとあらゆるものを略奪せしめし邪悪なる竜。

天上の神々に牙を剥いた、反逆の竜。

討たれてもなお、その憎悪は留まる事を知らない、暴虐の化身。

 

その力が、辰巳の体に鎧として纏われる。

灰色の、竜の鎧。

その鎧を纏う事で、辰巳の身体能力は大幅に強化され、竜の力がその身に宿る。

そして辰巳は、正面から迫る敵に突っ込む。

「オオオオオオオオォォォォォオオオオオオオオッッ!!!」

刃を振りかざす。

そして、土煙を巻き起こしている存在へ、一気に叩き付ける。

「LLLLLLLLLLLL!!!」

黒い閃光が、土煙の中から迫り、辰巳の剣と正面衝突する。

衝撃波が、土埃を吹き飛ばす。

地面に足を付き、そのまま鍔迫り合いに持ち込み、辰巳は、改めて敵の姿を捉えた。

辰巳よりも圧倒的に巨大な体躯。全身を完全な漆黒の甲冑で覆い、表情は伺えないが、それでも、とてつもない憎しみを感じた。

彼の持つ剣も、辰巳の邪竜鎧装によって僅かに巨大化した大剣よりも、分厚く、幅広い漆黒の大剣を持っていた。

質量に加え、体格差が相まって、この鍔迫り合いは、漆黒の甲冑を来た、黒騎士の方が有利に見える。

だが、それでも辰巳は、拮抗していた。

黒騎士がどれほど力を入れようとも、その押し合いは、どうあっても動かない。

姿勢、力の入れ方、重心の位置、それらの行程を全てクリアする事で、体を一種の鉄の塊のようなものとしているのだ。

「LL・・・・コロス・・・・コロスゥ・・・・!」

呪詛のように呟かれたその言葉。

それに、辰巳は一瞬動揺してしまった。

「なん・・・うお!?」

それによって力が一瞬緩み、均衡が崩される。

そして、黒騎士は好機と言わんばかりに剣に力を籠め、辰巳は後ろに大きく弾いた。

地面をゴロゴロと転がる辰巳。

しかし態勢を立て直し、靴底、片膝、片手を擦り減らしながらどうにか停止する。

「コロス・・・・ニンゲン・・・・コロス・・・・マイ・・・・コロシタ・・・・・ニンゲン・・・・コロス・・・!!」

「・・・・・」

「LLLLLL!!!」

黒騎士が斬りかかってくる。左斜め上からの斬り下ろし。

辰巳はそれを斜め前方に転がる事で回避。

しかし黒騎士はすぐさま振り向いて追撃。

辰巳も振り向いて迎撃に移る。

下段左斜め下から撃ち上げられる斬撃。

辰巳は、それに合わせるように剣を振るう。

剣が触れ合う。しかし、黒騎士からは、衝突による衝撃は感じなかった。

 

対天剣術『灯篭』

 

相手の力を受け流し反撃する、柔の剣。

それによって、剣の軌道を完全に逸らし、その一撃を躱す。

だが、それでも黒騎士は攻撃をやめない。

「GLLLL!コロス!ニンゲン!コロス!マイ!コロシタ!」

「・・・・」

呪詛のように叫び続ける黒騎士。

しかし、辰巳は何も言い返さない。

黒騎士の猛攻を、全て灯篭によって下がりながら受け流しかわしている。

「コロス!ニンゲン!フクシュウスル!」

「・・・・ああ」

突然、下がっていた辰巳が止まった。

さらに、黒騎士の剣を、真上へと受け流した。

互いに、剣を掲げる状態になる。

「そうかよッ!」

その瞬間、辰巳は、黒騎士のがら空きの胴に蹴りを叩きつけ、吹き飛ばす。

「GL・・・・!?」

建物の壁に叩きつけられ、その建物が倒壊する。

崩れ去った建造物。

その中から、黒騎士が何事も無かったかのように這い上がってきた。

「お前が復讐の為に戦っているのは良く分かった。けどな」

辰巳は、剣を構える。

「俺にだって、譲れないものがあるんだよ!」

ここに生きる人々を守る為、共に戦っている仲間を守る為、そして、大切な恋人を守る為に。

 

 

天に逆らいし邪竜は、自身を滅ぼした刃を振りかざす。

 

 

黒騎士は起き上がる。

そして、呪詛と共に、辰巳に斬りかかる。

「コロスゥゥゥゥウウウウウ!!!」

「来いッ!!!」

白銀の剣と漆黒の剣が正面衝突する。

その合わさった場所から、とてつもない衝撃波が迸る。

「オオオオ!!!」

「GLLLLLLL!!!」

目まぐるしい程の、斬撃の応酬。

それは拮抗している。

体格、筋力、それらにおいて、圧倒的アドバンテージを持つ黒騎士が、どうしても、辰巳に剣劇で勝てない。

それは、辰巳が技術、動体視力において、黒騎士を凌駕しているからだ。

だが、それでも互いの剣は相手に届かない。

これでは拉致が開かない。

「対天剣術―――」

そこで辰巳が動く。

「GL!?」

一瞬、距離を取ったかと思うと、剣を高く振り上げ再突進。

そのスピードは、一瞬にして辰巳と黒騎士のとの距離を縮めた。

「『滝打(たきうち)』ッ!!」

上段からの振り下ろし、肉眼では捉えられない速度で迫る斬撃を、黒騎士は己の大剣をもって防御する。

その威力に、後ろに吹き飛ばされる黒騎士。

だが、黒騎士は、吹き飛ばされる勢いをすぐさま踏ん張る事で殺す。

しかし、一度は態勢が崩された事には変わりはない。辰巳はその隙を逃さず追撃する。

「『疾風(はやて)』」

突風が叩きつけられるが如く、無数の斬撃が飛んでくる。

黒騎士は、それに対応出来ない。

それぞれの斬撃が、鎧を打ち、内七撃は甲冑の関節部分に叩き込まれる。

「GL・・・!?」

「オオオオ!!」

すれ違い、すぐさま踏みとどまり、振り返りそのまま剣を横に薙ぐ。

「ッ!?」

「LLL!!」

だが、そこで終わる程黒騎士は甘くは無かった。

関節部に斬撃を叩き込んだ筈なのに、何事もなかったかのように剣を振り下ろしていた。

(間に合わねぇ!?)

回避も防御も間に合わないタイミング。

斬撃は、どうにか踏みとどまった辰巳の鎧を袈裟懸けに切り裂き、後ろに吹き飛ばす。

「ぐぁぁあああ!?」

地面を転がる。

そして仰向けに倒れる。

「ぐ・・・鎧越しに、あの威力かよ・・・・!?」

切り裂かれた鎧、そこから滲み出る血。

それを見て、辰巳は改めて戦慄。

やはりこの存在は危険だと。

それほどの深手ではないのですぐさま立ち上がる辰巳。

「コロス・・・コロス・・・・・コロス・・・・コロス・・・」

敵は、呪詛を呟きながら近づいてくる。

「そんなに殺したいか・・・・」

辰巳は、剣を構える。

ふと、辰巳は周囲のバーテックスの動きが可笑しい事に気付く。

ある一点に集まっている事に。

そちらに思わず視線を向ける。

そこでは、今までにない程巨大なバーテックスが形成されていた。

「あれは・・・!?」

「GLLLLLL!!!」

「ッ!?」

黒騎士が地面を蹴って辰巳に襲い掛かる。

剣を右やや斜め上から振るう。

辰巳はそれを受け止める。

「ぐ、ぅ、!?」

その重さに耐えきれず、無様に地面を転がる。

すぐに態勢を立て直し、敵の追撃に備える。

案の定、敵は執念的なまでに辰巳に攻撃を仕掛けてくる。

その黒騎士の後ろ、巨大進化体バーテックスをなお見る辰巳。

その巨大バーテックスに向かって、飛んでいく巨大旋刃盤。

球子の切り札『輪入道』によるものだ。

炎を纏い、周囲を転がりまわる、炎の妖怪。

その力を纏った球子の旋刃盤は巨大化、例え持ち主から離れても、その動きは自由自在。

さらに炎を纏う為に殲滅力に秀でている。

その巨大旋刃盤の上には、五人の影。

若葉、友奈、千景、球子、杏の五人だ。

「あいつら・・・!」

「GLLLL!!!」

黒騎士が剣を振り下ろす。それを辰巳は『灯篭』によって受け流し、すれ違い、かわす。

(あの様子なら、あのバーテックスは問題ないだろう・・・)

そう、安堵した時だった。

突如として黒騎士の殺意が膨れ上がったのを感じた。

「!?」

「サセナイ・・・・ニンゲン・・・コロスタメ・・・・・ソンナコト・・・・サセナイ!!!」

黒騎士が剣を掲げる。

突如として、とてつもない漆黒の粒子の奔流が、黒騎士の大剣から発せられた。

「んな!?」

それに、思わず驚く辰巳。

それは、どうしようもない憎しみの感情。

あり得ない程大量の、負の感情。

怒り、憎しみ、妬み、嫉妬、哀しみ、恐怖・・・数えたらキリがない程に、凝縮された、負の感情の流れ。

それは、まるで、黒騎士が溜め込んできたもののようだった。

それほどまでに、人間というものを殺したいのか。

そして、この黒騎士は、辰巳の背後、若葉たちのいる方向にその負の感情を叩きつけようとしていた。

おそらく、巨大バーテックスの完成を阻止しようとしている若葉たちの妨害目的でその負の感情を放とうとしているのだ。

正面から受ければ、ただではすまない。

だが、それでも、辰巳にだって譲れないものがある。

「そうか、そっちも大技を出すって訳か」

剣を構える辰巳。

「だったらこっちも、大技で対抗させて貰う」

柄の青い宝石を中心に、緑色の光の粒子が発せられる。

 

それは、溢れ出る竜の生命力。

 

「我こそは、邪悪なる竜である―――」

 

「ノロイコロセ、ウラミコロセ、スベテヲコロシツクセ――――」

 

二つの力の奔流が、余波だけでも張り合う。

 

「今こそ、天に我が怒りを示し、天に居座る神を撃ち落とす――――」

 

「ワガカタキニ、ゼツボウトヤクサイヲモタラセ―――――」

 

 

二つの力が、正面から激突する。

 

「―――咆えろ『怒り狂う邪竜の咆哮(ファブニール・ブレス)』ッ!!!」

 

「―――コロセ『深淵の絶望纏いし巨砲(ディスペアー・キャノン)』ッ!!!」

 

 

 

瞬間、音がその場から消し去られた。

それと同時に色が吹き飛ばされ、視界には白一辺倒の景色しか見えなくなる。

体中を、とてつもない衝撃が叩きつけられる。

だが、それでも負ける訳にはいかない。

引き下がる訳にはいかない。

だって、これに負けてしまえば、後ろにいる若葉、友奈、千景、球子、杏が死ぬ。

そして、完成した巨大バーテックスによって神樹が破壊されれば、四国を守る結界がなくなり、それによってバーテックスが四国におしよせ、そこに住まう人々が死に、ひなたも死ぬ。

 

それだけは、絶対にさせない。

 

「――――――――オオ」

だから、辰巳は咆える。

剣を握りしめる。

全てを守る為に、自らの『正義』を貫き通すために、辰巳は、咆える。

「―――ォォォォォォォォオオオオオォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!」

地面が、悲鳴をあげる。

空気が、裂ける。

空が、轟く。

莫大な負の感情を放つ黒騎士に対し、辰巳は竜の生命力、そして、怒り(グラム)

 

 

あまりにも多くの理不尽を突きつけてくる、神への怒り。

 

 

だからこそ、勝つ。

大切な人に、会う為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

邪竜は、咆えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二つの奔流が、爆発、相殺された。

その場に、巨大なクレーターを作り、ありとあらゆるものを、破壊し尽くしていた。

その中心に、二つの影。

「「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」」

鎧のほとんどが吹き飛び、体の各所から血を流す辰巳。

そして、同じように、黒い甲冑のほとんどを吹き飛ばされた、()

まるで色素が抜けたかのように真っ白な長い髪、同じように血の抜けたかのように真っ白な肌。

その目は黒く、そして、とてつもない憎しみの炎を燃やしていた。

辰巳と黒騎士の女は地面に剣を突き立て、どうにか立っていた。

「・・・まさか、女とは思わなかった」

「・・・・・コロス・・・・」

冗談交じりに呟いた言葉を無視してなお、呪詛を吐く黒騎士の女。

「マイ・・・・コロシタ・・・・・ニンゲン・・・・コロス・・・・」

「・・・・自分も、人間だって事、気付いてるか?」

「LL・・・・ワタシハ・・・コロス・・・・イモウト・・・・マイ・・・・・コロシタ・・・ニンゲン・・・・コロス・・・・ゼンジンルイ・・・・ホロボス・・・・!」

どうやら、()()()()()()ようだ。

それは、とてつもなく強大な憎しみを原動力に動く、殺人マシーン。

その身が滅ぼされるまで、この女は、その大剣を振り続けるのだろう。

その華奢な体格からはありえない力で、剣を持ち上げる。

おそらく、バーテックスの力を手に入れた事で、本来ならありえない力を引き出しているのだろう。

もう、止まらないだろう。

「・・・悪いな」

辰巳は剣を構える。

 

「・・・・・・もう終わりだ」

 

瞬間、女の左足が無くなる。否、斬り飛ばされる。

「・・・・すみません」

それは、若葉だ。

その姿は、元の勇者装束とは大きく変わっていた。

それは、若葉の切り札『源義経』。

人間離れした脚力を持つ、神速の武人。

伝承において、『八艘飛び』と呼ばれる絶技によって、もはや肉眼では捉えられない程に凄まじいスピードで動く事が出来る、神速の切り札。

それが、若葉に与えられた切り札だ。

「ウ・・・ァア・・・!」

女は、足を斬り飛ばした若葉に向かって、剣を振り下ろそうとする。

だが、高速で動ける彼女を、片足を失った黒騎士では、捉える事は出来ない。

剣は空ぶる。

さらに、右足に数本の矢が撃ち込まれる。

「ウア・・・!?」

「ごめんなさい・・・!」

地面に膝をつく。

だが、それでも剣を地面について立ち上がろうとする黒騎士。

その、剣を持つ両腕が、斬り飛ばされる。

「いい加減にしなさい」

「ごめんな・・・」

千景が、大葉刈によって右腕を、球子が旋刃盤によって左腕を斬り飛ばしたのだ。

「ア・・・」

そして、たおれゆく女の懐に飛び込む影があった。

 

友奈だ。

 

その両目からは、止めどない程の涙が溢れ出ていた。

「ごめんね・・・」

その顎に、強烈なアッパーカットを叩き込んだ。

女の体が上空へ吹き飛ばされる。

「もう、良いだろ」

態勢は、正面が上。女の目の前には、剣を逆手に持って振りかざす辰巳の姿があった。

「ア・・・」

そして、辰巳はその剣を彼女の心臓につきたてた。

 

 

 

 

 

 

 

「―――――ワタシハ―――イモウトトイキタカッタ――――」

「そうか」

「―――ソレナノニ――――マワリノヒトタチハ―――イモウトヲコロシタ――――ジブンダケイキタイタメニ―――」

「・・・・・そうか」

「――――ソンナヤツラヲ―――ドウシテユルセルノ?―――ワタシニハ―――トテモジャナイケド――――」

「それでも、前を向いて進まなきゃいけないんだ。アンタはどっか進まずに、戻るべきだったんだ」

辰巳は、彼女の耳元で囁く。

「―――あんたの妹が望んだのは、復讐だったのか?」

「―――――」

彼女は、答えない。

だけど、ほう、と、何かを悟ったかのようなため息が聞こえた。

「――――ソウ――ネ―――マイガ――――ソレヲノゾムハズガナイ――――」

「アンタは、もう十分頑張った。もう、安らかに眠れ」

「ウン―――ソウ―――スルワ―――――」

掴んでいた筈の体が、消える。

その体の中心にあるのは、彼女の『核』。

きっと、それが、彼女の魂を繋ぎとめていたものだろう。

「・・・・さよなら、妹の為に戦い続けた、黒い騎士よ」

辰巳は、それを、破壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虹色の光が飛び散り、天に向かって舞い上がる。

それと同時に、辰巳の体から力が抜ける。

(ヤバ・・・無理しすぎた・・・)

態勢を立て直せない。

何せ、巨大な二つの力の奔流の正面衝突の爆発の中心近くにいて、それによってボロボロになった体に鞭を打って敵を追撃したのだ。

もう、体が動かない。

「たっく―――――――――――――――ん!!」

ふと、そこで、友奈の叫び声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だだっ広い草原に、辰巳は立っていた。

以前、ここに来た事はある。

 

ここは、邪竜の心象世界。

 

辰巳の剣に込められた、邪竜の魂が作り出す、邪竜だけの世界。

辰巳の目の前に、ずしん、と巨大な竜が降り立つ。

 

邪竜『ファブニール』だ。

 

その眼差しは、以前のように、母親のような温もりを感じさせてくれた。

とてもではないが、あの獰猛で醜悪な竜とは思えない。

だが、それでも辰巳は、その眼差しに、かつてのなつかしさを感じずにはいられなかった。

そう、それはまるで――――辰巳の母親の様に、暖かい眼差しだった。

竜が、その頭を降ろしてくる。

それに、辰巳は両手を広げて、迎え入れる。

吐息が吹きかかる。

ファブニールが、その額を辰巳に擦りつけてくる。

「・・・・こんな方法で会いに来るなよ・・・」

辰巳は、そう呟いた。

「―――母さん」

その瞬間、ファブニールの体が緑色に発光する。

光を撒き散らし、その中から、一人の女性が姿を現す。

「・・・良く分かったわね」

女性が、辰巳の母が、そう微笑む。

「俺が母さんを間違える筈がないだろ」

「ふふ、そうね。貴方は火野より甘えてきたものね」

母は、懐かしそうに語る。

話したい事は、沢山ある。だけど、そんなに時間は無い。

それだけが、心惜しい。

「辰巳、いつか言ったと思うけど、守りたいものは、見つかった?」

「ああ、覚えてるよ。やっと見つけた」

それに、母は安心したように笑う。

「なら、安心ね。どんな極限にも、竜のように立ち向かう。それが、貴方の辰巳という名前の意味よ」

母は、見送る。

「行きなさい。ひなたちゃんが待ってるわよ」

「うん、さよなら、母さん」

「さよなら、私の辰巳――――」

そうして、視界が真っ白に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を、開ける。

「あ、起きましたか?」

目の前には、ひなた。

「・・・・ひなた」

「あまり無理をしないで下さい。それで心配する人は、確かにいるんですよ?」

ひなたは、そう叱りつけるように言った。

後頭部には、何か、柔らかい感触を感じた。

「・・・思い出すよな。俺とお前が初めてケンカして、仲直りした時の事を」

「はい、今でも、鮮明に思い出せます。貴方との、大切な思い出ですから」

辰巳が、ひなたに向かって手を伸ばす。

ひなたは、頬に触れた辰巳の手を、その上から、両手で手に取り、そっと自分の頬に当てる。

そして、愛おしそうに、互いに見つめ合う。

「・・・・夢を、見ていた・・・」

「・・・・どんな夢ですか?」

ひなたが、辰巳に顔を近付ける。

「・・・優しくて、暖かくて、そして、厳しい、そんな夢だった」

「それは、素敵な夢ですね」

二人の唇が、触れ合った。

そして、離れた時、遠くから声が聞こえた。

「あ、辰巳がいたぞ!」

「良かった・・・!」

「あの人がそう簡単に死ぬ筈がないでしょう?」

「たっくーん!私達、勝ったんだよ!」

「お疲れ様、辰巳!」

仲間の声を聞き、辰巳は立ち上がる。

 

 

どれほど苦しくても、辛くても、かの邪竜のように強く在り続けよう。

 

 

辰巳は、この地に、そう誓いを立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回『四国外調査』

目指すわ、希望の見える場所。

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