足柄辰巳は勇者である 作:幻在
大阪――――
そこへ辿り着いた勇者一同は、大阪の惨状に、やはり絶句していた。
「酷い・・・・」
建物はやはり破壊され、人いたという痕跡は、はやり見つける事は、難しいそうだ。
「そういえば、大阪の梅田駅あたりにはすっごく広い地下街があるみたいですよ。そこなら雨風も凌げるし
シェルターみたいに避難している人がいるかもしれません」
杏がふとそう言いだした。
「そうだな・・・地下ならば、出入り口を塞いでしまえばバーテックスも侵入できないだろう。地上よりも安全かもしれない。そこに行ってみるか」
若葉がそう答え、他の一同も賛同する。
ただ、辰巳は何かしら嫌な予感を感じていた。
(なんだ・・・この、うなじのあたりがピリピリする感じは・・・・)
最悪の状況を予想して、辰巳は地下街に入った。
地下街は広いため、これ以上時間をかけない為にも、勇者一行は二手に別れる事にした。
結果、西側を辰巳、球子、千景が。東側を若葉、ひなた、友奈、杏が探索する事になった。
「おーい!誰かいないかぁー!」
球子がそう叫ぶ。
しかし、返事はない。
「どこも壊れていない?」
千景は、ふとそう呟いた。
千景の言うように、地下街はどこも壊れていないのだ。
ただ人の手が入っていないのか、ほこりが多いのが気になる程度だ。
否、防火シャッターがこじ開けられたようにひしゃげているものがあった。
「もしかしたら、どこかに人が隠れているのかもしれないな!」
球子が、そう誤魔化すように答える。
「だと良いんだが・・・」
辰巳はそう呟きながら、この地下の様子に疑問を感じていた。
ここは、そこまで大きな破壊はされていない。
ただ防火シャッターが、不自然に閉じられているものと閉じられたがひしゃげているものが、一つの道を作る様にあった。
気になり、三人は、そのひしゃげている防火シャッターを辿って行った。
「・・・・!?」
ふと、それを辿っていくうちに、辰巳が顔色を変えて止まった。
「辰巳?」
「どうかしたの?」
球子と千景が突然立ち止まった辰巳に首を傾げる。
「・・・・・血の匂い」
「え?」
「ッ!」
「あ、おい!?辰巳!?」
突然走り出した辰巳。
その後を慌てておいかける球子と千景。
進んでいくうちに、血の匂いが濃くなっていく。
それに、球子と千景も気付く。
そして――――
「・・・・・・・・・おい、なんの冗談だこれは」
一方で、こちらは東側を探している若葉たち。
「おーい!誰かいないかー!」
こちらは西側と違って何かが壊されたような痕跡はなく、人が生きていた痕跡が残るだけの場所。
「何も壊されていないから、生きていると思うのですけど・・・」
「誰かー!いませんかー!?」
何の返事も無い地下街。
どれほど呼びかけても、帰ってこない返事。
「どういう事だ・・・・?」
「誰か生きてると思うのですけど・・・」
若葉とひなたも、その事に首を傾げる。
「誰か・・・」
「へいへい、うるせえなぁ」
『!?』
突然帰って来た返事、一同はそちらに視線を向ける。
「せっかくいい気分で眠ってたのによぉ」
暗闇から、一人の男が出てきた。
体格が大きく、体の毛が濃い、まるで獣のような男性だった。
「生存者です!」
「良かった!すみませーん!」
生存者が見つかった事に安堵の息を吐く一同。
少なくとも、一人は見つけられた。
友奈が思わず、彼に駆け寄る。
「良かったですね若葉ちゃん」
「ああ―――」
そこで、地下街の風向きが変わった気がした。
先ほどまで、若葉たちが風上だった風の流れが、あの男の方から風が流れるように変化した。
その風が、若葉の顔あたりにあたった時――――
突如、背筋が凍るような感覚が若葉を襲った。
(なんだ・・・この匂い・・・どこかで嗅いだような・・・)
いや、これはその時よりも濃い。
なんだ、なんの匂いだ。
「んあ?」
ふと、男が友奈に気付いた。
「なんだ・・・」
そこで若葉は見た。
暗闇の中で、男の口角が、
「――――生きてる『餌』がいつじゃねえか」
友奈は、気付いていない。
聞こえたのは、若葉のみ。
「離れろ友奈ァァァァアアアアァアアアァアアアアァアアアアアァアアアアアアァァアァァァァァアアアアアッッ!!!!」
「え・・・?」
友奈が振り向く。
その瞬間、背後の男が異常に開いた、人間ではありえない
それを見た若葉の中で、何かが沸騰して、爆発する。
「降りよッ!!義経ッ!!!」
ガキィンッ!!という音が響いた。
「・・・・・ありゃ?」
男は、歯応えの無さに疑問を感じ、今さっき、突風の様に過ぎ去ったものに目を向ける。
「・・・・ほぉう」
それに、男は化け物の様な口を見せ、舌なめずりをして
「生きがいいのも嫌いじゃないぜぇ、お嬢ちゃん」
「貴様・・・ッ!」
振り向いた若葉は、その男に鋭い眼光を向ける。
「わ、若葉・・・ちゃん・・・?」
ふと、若葉の腕の中にいる友奈が、若葉を見上げる。
あの一瞬、若葉は切り札を発動し、神速の武人『義経』をその身に宿して、『八艘飛び』を率いて友奈を喰われる前に救出したのだ。
「友奈、無事か?」
若葉は思わず友奈の安否を確認する。
「だ、大丈夫・・・・だけど・・・あの人・・・・」
「・・・・・血の匂いがする。それも、とてつもなく濃い」
「!?」
それに、友奈は目を見開き、先ほどの男を見る。
「嘘・・・・そんな・・・」
「・・・・バーテックス人間・・・・」
杏は信じられないかのように、そしてひなたは苦い顔をして男を睨み付ける。
「柔らかそうな女が二人、引き締まってそうな女が二人、今夜は御馳走だなぁ」
「答えろ」
若葉は、友奈を下ろし、刀を抜いてそれを男に向ける。
「ここにいた人たちはどうした?」
「ああ、
男は何の躊躇いも無しに応えた。
「美味かったぜぇ。生きてる人間の肉というのはよぉ。悲鳴を良いBGMを引き立ててくれて、より一層楽しめたぜぇ」
男は、狂喜したように嗤う。
その顔を醜態に歪ませ、生理的に無理な程に愉悦な表情をしていた。
「・・・・本当に、全員喰い殺したのか?」
「おいおい人聞きの悪い事言うなって。ただ俺の食事になってくれただけだよ。いやぁ、協力的で助かったぜ」
「・・・・・そいつらは、何か言っていなかったか・・・・・・?」
「ああ?んー・・・・・なんか、タスケテー、とか、クワナイデーとか言ってたみたいだが・・・まあ食事の時の音楽って事で、中々――――」
そこで、若葉の中で何かが切れた。
「貴様ァァァアアァアアアアッッ!!!」
若葉が地面を蹴り、八艘飛びによる神速移動で男に突進、そのまま刀を振るい、横一文字にぶった切る。
しかし、そこで大きな金属音が響いた。
「!?」
「おおっとあぶねえあぶねえ」
いつの間にか、男の手には巨大な大剣が握られていた。
否、それは、右腕と同化した巨大な白い大剣。
「なッ!?」
「いいねえ、食事の前の運動だ・・・・たっぷりと楽しませてくれよなァ!」
若葉を弾き飛ばし、今度は逆に襲い掛かる男。
そのまま真上から力任せに振り下ろす。
しかし若葉は八艘飛びで上に躱し、天上を蹴って男の背後に回り、すでに納刀した刀から一気に居合を放つ。
その一撃は、確かに男の背中を斬る。
その瞬間、男の背中から血が噴き出る。
「・・・・!?」
それに思わず眼を見開き、距離を取る若葉。
「おおっと、今の効いたねぇ」
だが、男は効いていないとでも言うように平然としていた。
だが、問題はそこではない。
そう、問題なのは、男の体から血が噴き出た事だ。
若葉は、人を斬った。
以前、バーテックス人間である黒騎士の脚を斬り飛ばした事がある。
だが、その時は、辰巳がすぐに止めの刺してくれたから、そこまで考えはしなかった。
しかし今回は違う。
今は、辰巳がいない。
あの男を――――殺せる者がいない。
友奈は、その性格上、人を傷つける事が出来ない。
杏も、友奈同様、誰かを傷付ける事が出来ない。
ひなたは、そもそも戦えないから、論外。
そして若葉。
人を斬った事実によって、動きが大きく鈍る。
「今度は俺の番だァ!」
「ッ!?」
いつの間にか男が若葉のすぐそばまでに来ていた。
若葉は、男の振り下ろした一撃を刀によって凌ぐ。
だが、男の猛攻は止まらない。
「どうしたどうした!?さっきまでの威勢はどうしたァ!?」
「ぐ・・・ぅ・・・・」
男の一撃は大雑把だが、それでももともとの腕力によるものか、とてつもなく重い。
若葉なら、その連撃を凌ぐ事は簡単だろうが、人というものを攻撃してしまったショックで、動きが鈍っているのだ。
「オラァ!」
「ッ、しまッ・・・ぐあ!?」
男が突如として左拳で若葉を殴り飛ばす。
「わかばちゃん!」
「ぐ・・・う・・・」
まともに喰らった事で、立ち上がれない若葉。
「んだよ、これで終わりかぁ?まあ良い。お前は後だ」
男は、ひなたと杏の方を見る。
「やっぱ、まずは美味そうなのから頂くか」
舌なめずりをして、男は二人に近付く。
「ひっ・・・」
短く悲鳴をあげる杏に、声を出せないひなた。
「や、やめろ・・・!」
そこで、男を引き留める声があった。
「ああ?」
友奈だ。友奈は、男を必死に睨み付けて、構えていた。
「ひ、ヒナちゃんやアンちゃんに手を出したら、許さない!」
しかし、友奈の体は震えている。
やはり、バーテックスの体とはいえ、元は人間という事で躊躇いがあるのだろう。
だが、男はそれにお構いなしにその口角をさらに吊り上げる。
「良いぜぇ」
そして、友奈に向き、飛びかかる。
「まずはテメェから喰ってやるよッ!!」
大剣を振り上げ、友奈の頭上から、その大剣を振り下ろす。
粉塵が巻き起こる。
「ゆう・・・な・・・!?」
若葉は、目を見開く。
「・・・・ああ?」
しかし、男は怪訝そうな顔をしていた。
やがて収まる粉塵の中で、友奈は地面に尻もちをついており、男の大剣は、受け止められていた。
その剣を受け止めていたのは―――――
「・・・・・何友奈に手を出してんだ」
辰巳だった。
「「辰巳さん!!」」
ひなたと杏が揃って叫ぶ。
辰巳は、剣を水平にもち、友奈を斬る筈だった大剣を受け止めていたのだ。
「高嶋さん!」
そこへ千景と球子もやってくる。
「あ、ぐんちゃん・・・・」
「怪我はない?」
「うん、大丈夫・・・・」
「良かった・・・・」
千景はさぞ安心したように笑う。
「うっらァ!」
「うお!?」
弾かれた男はたたらを踏みながら下がる。
「んだよ、他にもいるなら言ってくれっての」
男は深底うんざりしたような表情で呟く。
「んー、かなり引き締まった体格の男が一人、痩せてそうな女が一人、ちっさいのが一人か」
「おい待て、タマはこれでももう中学生だぞ!」
「・・・・・・聞かせろ」
辰巳は男に剣を向けたまま、男に聞く。
「この地下街の広場にあった、大量の血しぶきの痕。あれ全部お前がやったのか?」
「血しぶき・・・・ああ、食事の時に噴き出た汁の事か。ああ、俺が全部喰ったぞ」
「そうか・・・・」
辰巳は、身を沈める。
「・・・・だったら俺がお前を喰っても良いよな」
その瞬間、辰巳は対天剣術『疾風』を使って男の懐に飛び込んだ。
「んな!?」
下段からの斜め下からの斬り上げ。
それが、男の胴体を捉える。だが、浅い。
「チッ」
舌打ち。だが、それでも辰巳の猛攻は止まらない。
「対天剣術『
そこから、辰巳は目にも止まらぬ速さで男に連続して斬撃を与える。
男は大剣を楯代わりにしてその連撃を防ぐ。
だが、それでも重い。
「ぐ・・・ぉ・・・!?」
「対天剣術『
動きが止まったところで、辰巳は男の大剣に向かって、刺突を放つ。
すると、その刺突は大剣をいとも容易く貫通。男の胸を穿つ。
「ぐは!?」
血が舞う。
辰巳が剣を突き立てた胸から、血が流れ出る。
しかし辰巳は、その血を気にしていない。
男の体から力が抜け、辰巳によりかかる様に倒れる。
その光景に、一同は絶句する。
静寂がその場をつつむ―――――だが、男の左手が突如として辰巳の首を掴み、地面に叩きつけた。
「ぐぅ!?」
「ハッハー!今の効いたぜぇ?」
そのまま辰巳の首を片手で締める男。
辰巳は苦悶の表情をして、その左手を引きはがそうともがく。
「辰巳さんっ!!」
ひなたが思わず叫ぶ。
それに我に返った若葉は、すぐさま立ち上がって、辰巳の援護をしにいこうとしたところで、
「手を出すなァ!」
辰巳に止められ、思わず止まってしまう若葉。
しかし辰巳は、その間に、足を折り曲げ、男の体に向かって蹴りを一発いれる。
「ぐお!?」
男の体が浮く。
そして辰巳は剣をその衝撃で引き抜き、男の左手を容赦なく斬り飛ばす。
「ぐあぁあ!?」
男の拘束から逃れ、立ち上がった辰巳。
その間に、男は地面に倒れ伏す。
「お前の核は――――」
そして辰巳は――――――
「ここだァッ!!」
男の右腕を、肩にかけて、躊躇いも無く斬り飛ばした。
血が舞い、飛び散る。
斬り飛ばされた男の右肩からは、三角錐の核が、真っ二つにされて出てきた。
「・・・ァア、もうおしまいか」
男は、無くなった右腕を見て、何かを悟ったように呟いた。
「ま、予想以上に楽しめたから良いかァ・・・」
次の瞬間、男の体は砂となり、消滅した。
「・・・・」
辰巳は何も言わず、その剣を背中の鞘に納める。
場は、静寂に包まれていた。
それに若葉は俯き、歯を食いしばった。
(・・・・思わず、躊躇ってしまった・・・・)
あのような外道は、生かしては置けない。
それが、バーテックス人間なる、人類の敵となる存在なら、なおさらだ。
だけど、その化物に残っていた人間としての部分が、若葉にその者を殺す覚悟を鈍らせた。
怒りに乗ったままだったら、どんなに楽だったろうか。
だが、若葉の性根がそれを許さなかった。
敵とはいえ、元は人間。
結局、若葉に人を殺す覚悟なんて無かったのだ。
誰もが動かないなか、ただその中で、一人だけ辰巳に近付く者がいた。
ひなただ。
「・・・・・」
ひなたは、辰巳の傍に立つと、懐からハンカチを取り出し、顔についた血を拭う。
「ひなた・・・・」
「・・・・汚れたままじゃ、落ち着かないでしょう?」
「・・・・すまない」
微笑むひなたに、申し訳なさそうな顔をする辰巳。
(ひなたは強いな・・・)
あんな状態の辰巳にも、躊躇わず接する。
おそらく、相当な勇気が必要な筈だ。
(それに比べて、私は・・・・)
若葉は、自分の無力さを痛感した。
そしてそのあと―――
「誰も生きていない?」
「ああ」
辰巳、千景、球子の話から、西側には、奴の食事場であろう広場があった。
辰巳が若葉たちの元へ向かう道中で拾った日記には、あの男が地下街の入り口にあるバリケードを破り、バーテックスと一緒に侵入したらしい。
この日記の持ち主は、避難者の人間に、すでに息絶えていた妹を囮として投げ、そして、日記の持ち主はそんな妹を抱えて別の方向へ逃走。
そこで、喰われたようだ。
ただ、この惨状を見る限り、通常個体のバーテックスに喰われたのはこの日記の持ち主とその妹のみ。
他の人間は地下街の広場に追い詰められ、そこで全員、喰われたのだろう。
その証拠に、肉片はおろか、骨の欠片さえもなく、あるのは、そこら中に飛び散った血飛沫の痕しかなかった。
「そんな・・・・」
「じゃあ、ここにはもう・・・」
「誰も居ない」
辰巳の結論に、一同は絶句するしかなかった。
それから、一同は地下街を出て、次の街へ向かう。
目的の諏訪に行くために。
その行く末を、影から見る者たちがいた。
「奴ら、諏訪に行くみたいだな」
「それは困るなぁ。あそこに入られると僕たちでも手が出せなくなっちゃうよ」
「どうする?辿り着く前に殺るか?」
「その方が良いだろうねぇ」
「ヒッヒッヒ、ならばあとは行動に移るだけです。それで良いですよね?
一人の男が、高台に上る少女を見上げる。
身長は若葉ぐらい。黒髪で長く、その髪を後ろでまとめている。
その腰には、無骨な黒鞘と赤鍔の刀。
「・・・・そうだな」
そして、少女は、深い蒼の瞳を、諏訪に向かって進んでいく勇者たちに向けた。
「―――すぐに殺そう。私の復讐の為に」
少女は、憎しみの籠った視線を、彼らに向けた。
「――――全人類の滅亡の為に」
次回『相対』
明確な敵意を持って。