足柄辰巳は勇者である   作:幻在

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相対

大阪を越え、その次の京都を越え、名古屋を越え、高速道路にやってきていた。

「球子、大丈夫か?」

「ん、ああ・・・」

辰巳は、疲れている様子の球子に声をかけた。

「大丈夫だぞ」

「さっきの精霊の使用が体にきたんだな・・・」

 

それは、ここに来るまで、名古屋で見たものが原因だった。

名古屋の建物を覆いつくす程に引っ付いていた人間よりも一回り大きな、卵のようなもの。

それを見た球子が、衝動のままに、切り札である輪入道を使用し、その卵を焼き払ったのだ。

 

その時の無茶が、体にきているのかもしれない。

「辛かったらいえよ。背中ぐらいは貸してやる」

「いや良いよ。お前はひなたを運ぶ事に集中してな」

そう言って先に行く球子。

「タマっちさん・・・・」

「まあ、あのままだったら俺も使いそうになったからな・・・」

ふと、辰巳は背後を肩越しに見る。

「・・・また視線ですか?」

「ああ・・・・少なくともジェットコースター並みに走っている俺たちに追い縋ってくるなんて、奴らしかいねえだろうな」

背後にいるであろう、敵。

その姿を視認したい所だが、流石に無理だろう。

「たっくーん!早くしないと置いてっちゃうよー!」

「ああ、悪い」

辰巳は走り出す。

後ろにいる気配を気にしながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・また見られたな」

「もしかしたら、気付かれているのかもしれませんねぇ。まあ、卵の事についてはあとでいくらでも作れるから問題は無いんですけどね」

「当然、真っ先に狙うべきはあの女の子だよね?」

「もちろんです。気付かれているならば結構。殺す事には変わりありませんから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、諏訪の前にある、伊那市にて。

「ここもか・・・」

もはや見慣れた惨状に、一同は何も言わない。

誰も何も言わず、その街の中を進んでいく。

 

そこへ、彼らの目の前に立ち塞がる者がいた。

 

『!?』

思わず身構える一同。

「お前は・・・」

「ヒッヒッヒ、こんにちわ、勇者の皆さま、ワタクシ、名前を『(かわず)蛭間(ひるま)』と言います」

と、目の前の男は被っていたシルクハットを外して、お辞儀をする。

見た目は、細身の体格で長身。服装はマジシャンのようで、その顔はまるでピエロのような笑みを浮かべていた。

「あ、どうも・・・・」

「目をそらすな」

思わずお辞儀を返そうとする友奈を止めて、辰巳は一同の前に出る。

その間、杏に()()()を告げて。

「そこをどいてくれ。俺たちはこの先へいかなきゃならないんだ」

「おや、独り身である私を置いて行くんですか?」

「信用ならない奴は連れて行かないタチでな」

「冷たいですねえ」

「ああ、俺は冷たい男なんだ」

「ふむ、それならば、諏訪はすでに滅んだという事実はどうでしょう?」

『!?』

それに目を見開く一同。

が。

「嘘だな」

辰巳はばっさりとその事実を蹴っ飛ばした。

「って嘘かよ!?」

「いやいや嘘なんて吐いていませんよ。じかにこの目で見てきましたから」

「じゃあ、その証拠はあるのか?」

「ええ」

蛭間が何かを投げてくる。

それを受け取る辰巳。

その写真には、まるで壁のように燃え盛る蒼い炎の写真が写っていた。

「なんだこれ?」

横から覗き込んでいた球子がそう呟く。

「ここに来るまで撮ってきた諏訪の写真ですよ。諏訪は、その様な炎が燃え盛っており、とてもではありませんが、近付く事が出来ませんでした」

「そんな・・・・それじゃあ・・・」

友奈が、後ずさる。

「諏訪は・・もう・・・」

若葉が悔しそうに顔を歪ませる。

「・・・・・・で?」

しかし、辰巳は到って冷静だった。

「なんでこんなもん見せた?」

「なんでと言われましても、それが諏訪の現状ですよ?」

「これ、炎の壁を写してるだけで、()()()()()()は映してないよな?」

それに思わず押し黙る蛭間。

「この写真を見る限り、諏訪の看板が移っている事から諏訪だというのは分かる。だが、肝心の諏訪の人々の様子が移されていない」

「それは炎によって灰も残さずに燃やし尽くされたからですよ」

「ついでにこんな炎を燃やし続けるには相当なエネルギーが必要になるはずだ」

「バーテックスなら可能ではないのでしょうか?」

「さらに言ってお前はなんでこのあたりをうろついていたのも気になる」

「それは先ほどとったばかりでして・・・」

「これ、数か月前にとったもんだろ?」

ふと、辰巳がそのように指摘する。

「どうしてそう思うので?」

「傷に加え、ところどころ劣化して古い。さらに()()()()()()()()()。少なくともこれは取られてから一度潮風に晒されたことになる」

「それはカメラをとるさいのフィルターが」

「それでも潮風にさらされる事は無い。ついでに言うとだな」

辰巳は、蛭間を睨みつける。

「お前、なんでバーテックスの事知ってた?」

「む?あの化物の事でしょう?それが・・・」

「その名前が公表されているのは四国と諏訪だけだ。なのにお前は、その名前を知っていた。なんでだ?」

「それは、私が諏訪の・・・」

「お前、言ったよな?()()()()()()()()()()()()()()()()()だってな」

「・・・・」

「つまりお前は諏訪の人間ではない。そして、お前が何故、この写真を見せてきた理由は、この炎の事を調べられると、何か不便な事でもあるからだろ?そう、例えば・・・」

辰巳は、右腕をあげる。

 

「この炎の壁が、諏訪を守る結界の役目を持っている、とかな」

 

その時。

「来ましたッ!!」

杏が叫ぶ。

その直後に、両側にあった建物の上から、二人の人影が下りてくる。

「チッ、もうとっくにバレてたのかよ」

さらに、左側の壁の上から、誰かが覗き込んでいた。

その男の傍には、浮遊する二つの球体。

その球体が横に割れ、中には円柱のようなものがあり、そこから何かが銃口のようなものが伸び、そこから何か光の弾丸が放たれる。

「させるかッ!」

しかし、勇者たちの反応も速かった。

球子が前に出て、その射撃を楯で防ぐ。

その間に杏は降りてきた敵に向かって矢を連射。

「チッ」

「おおっと」

だが、その矢は全て弾かれる。

片方は、異常に巨大化した腕で、もう片方は鞘から抜かれた刀によって。

「ッ!?散開ッ!」

「若葉!ひなたを!」

「任せろ!」

若葉がひなたを抱え、それぞれがバラバラに、上から来た敵の攻撃をかわす。

するとアスファルトの地面が砕かれ、そこにクレーターを作った。

「う~ん、奇襲に失敗しちゃったか」

降りてきたのは、辰巳たちと同じように中学生ぐらいの少年少女だった。

片方は、緑の髪を切りそろえた、童顔の少年。

もう片方は黒髪を頭の後ろで結った、身長が若葉ぐらいの大人びた少女。

ただ、少年の方はその腕をまるで化物のように変質させていた。

その色は、白い。

「やっぱり、バーテックス人間・・・・!」

千景が鎌を構える。

「奇襲は失敗しちゃったけどさぁ・・・・別に殺しちゃっても、良いんだよねェッ!!!」

少年が地面を蹴り、千景に接近、その剛腕を千景に叩き付ける。

「きゃあ!?」

「ぐんちゃん!」

吹き飛ばされ、壁に叩き付けられる千景。

「ぐ・・ぅ・・・」

壁にめり込み、そして剥がれるように地面に真っ逆さまに落ちていく。

しかし、友奈がギリギリの所で駆け付けた事により、落下死する事は無かった。

「ぐんちゃん!ぐんちゃん!」

「う・・・高嶋さん・・・・」

「良かった・・・ぐんちゃん・・・!」

「友奈、後ろだ!」

「!?」

気付けば後ろから少年が襲い掛かってきていた。

「死んじゃえ!」

「くッ!」

友奈は千景を連れて飛び、少年の追撃を回避する。

だが、少年はそれでも追い縋る。

「くッ!」

「アハハハハッ!!」

一方で、辰巳は少女の方を相手をしていた。

そこでは怒涛の剣戟が繰り広げられていた。

互いの剣がぶつかり合い、無数の金属音を響かせる。

「なんて重さ・・・!」

「オオオッ!!」

暴嵐(ぼうらん)』によってゴリ押ししている辰巳。

「辰巳さん!」

「ッ!」

杏の叫びに反応して下がる辰巳。

するとそこへ上から弾丸が降ってくる。

「うわ、なんて反応速度だよ・・・」

見上げれば、球体、衛星のようなものの銃口をこちらに向けてくる男の姿があった。

「紅葉、どうだ?」

「流石にやりにくい。人間のクセに・・・」

少女、紅葉は忌々し気に刀を構える。

「杏・・・・」

「あまり無茶なお願いは聞けませんよ」

「あいつを封じてくれ」

「分かりました。やってみます」

さらに、こちらでは若葉と球子が蛭間の相手をしていた。

若葉の後ろにはひなたがいる。

「うーん、ものの見事に見破られてしまったね」

蛭間はさぞ残念そうにそう呟いた。

「まあ、どちらにしろ殺すから、厄介事が増えただけか」

「ッ!」

ぐっと構える若葉と球子。

「ひなたには、傷一つつけさせない」

「ふむ・・・・」

ふと考え込む仕草を見せた蛭間。

 

「・・・・無理だと思うよ?」

 

気がつけば、若葉の目の前にナイフが飛来してきた。

「若葉ちゃんッ!!」

間一髪の所でひなたが若葉を引っ張り、ナイフの直撃から助ける。

「何が・・・」

「ほんの手品ですよ」

「!?」

いつの間にか、蛭間が若葉の後ろに立っていた。

(いつの間に―――ッ!?)

「悪いですが、彼女は貰います」

蛭間はそう言い、ひなたに向かって手を伸ばす。

「させるかッ!」

そこへ球子の旋刃盤が飛来する。

しかし、

「甘いですよ」

蛭間は、どこからともなく、ステッキを取り出すと、それで球子の旋刃盤を弾く。

「な!?」

「それでは・・・・」

「オオオッ!!」

しかし、その間に出来た時間が、若葉に抜刀させる時間をあたえ、蛭間を下がらせるに至る。

「ほう、これは一筋縄ではいかない」

蛭間は、くっくっくと笑う。

「しかし、その子を庇いながらでどれくらい持つのでしょうかね?」

蛭間が踏み込んでくる。

「くッ!」

刀を両手に持ち、迎撃の構えを取る若葉。

だが、若葉と蛭間の間に、球子が割って入り、蛭間のステッキによる突きを楯状に変形した旋刃盤で防ぐ。

「ぐッ!?」

「おや?」

「球子!?」

「ぐ・・・ここはタマに任せて先に行け!」

「しかしッ・・・!」

「正直ひなたがいると邪魔なんだッ!それに、今この中で一番速いのは若葉だ!ひなたを安全な場所に、急いで逃がすんだ!」

球子がそう叫ぶ。だが。

「そうはさせませんよ」

突如として蛭間が煙と共にその姿を消す。

「な!?」

それに驚く球子。

「失礼」

「ッ!?若葉ちゃん!」

「しまった!?」

いつの間にか背後に回られ、ひなたを連れ去られてしまう。

「ひなたッ!!!」

叫ぶ若葉。蛭間は四階建ての建物の上に立つ。

「我々の目的はこの巫女です。彼女さえいなくなれば、貴方達が四国の現状を知る方法は無くなります。最も、諏訪に行けば、その問題もなくなってしまうから、結局は貴方達も殺すんですがね」

蛭間は、醜悪な笑みを浮かべる。

「ッ!」

「おっと動かないで下さい。そこで彼女が死ぬ瞬間を傍観していて下さい」

そう言い、蛭間は袖から新たなナイフを取り出し、それをひなたの首筋に向ける。

その瞬間、若葉の体から血の気が引くような感覚に襲われる。

「では、死んでください」

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおッッ!!」

絶叫する若葉。

そのままナイフがひなたの首へ迫る。

 

 

 

 

だが、どこからともなく飛来してきた西洋長剣が蛭間の肩を貫く。

「ぐお!?」

そのまま蛭間は剣にあった運動エネルギーのままに吹き飛ばされる。

その中で、蛭間は見た。

辰巳がこちらに向かって剣を投げ飛ばしたという事実を。

(まさか、あの距離から、自分の得物である剣を投げてくるとは・・・!)

剣を投げる際、正確に蛭間を肩を狙い、かつひなたに当たらないように投げ飛ばしたその技術もさることながら、驚くべきは相手も手練れだという事に、自分の武器を投げ飛ばす無鉄砲さに驚いた。

否。

「敵を目の前に武器を捨てるとは、なめているのかッ!!」

紅葉が、その刀を横一文字に薙ぐ。

だが、それが振り切られる前に、辰巳がその顔面に拳を叩き込んだ。

「ごふ!?」

「別に舐めちゃいねえよ」

辰巳は、左半身を前に出して構える。

「お前との戦いよりも、ひなたの方を優先しただけだ」

「ッ・・!」

それに歯噛みする紅葉。

一方で、蛭間の手から逃れたひなたは、あろうことか()()()()()()()()()

「若葉ちゃん!」

若葉の名を呼ぶひなた。

「任せろ――――降りよ、義経ッ!!!

若葉の装束が変化し、その身に神速の武人『源義経』を宿す。

そのまま飛び、ひなたを受け止める。

「ひなた、怪我は」

「辰巳さんのお陰でなんとも」

「よかっ―――――」

安心したのも束の間、背後で大きな土煙が舞い上がる。

「きゃあぁあああ!?」

「うわぁああああ!?」

「友奈!?千景!?」

砕かれた建物の中から、友奈と千景が吹き飛ばされてきたのだ。

「大丈夫か!」

「うん!大丈夫!」

「私も問題ないわ・・・・」

どうにか立ち上がる友奈と千景。

「ふぅん、まだ立てるんだ」

破壊された壁から出てきたのは、やはり一人の少年。

「裕也君、まだ倒せていないのかい?」

「やっぱり強いよ~、なかなかに楽しめるよ―――――()()()()()()()

狂喜に浸った笑顔を向ける少年、裕也。

その笑みに、悪寒が走る。

(やむを得ないか・・・・!)

「全員!精霊の使用を認めるッ!!急いで片づけるぞッ!!」

叫ぶ若葉。

「その方が良いわね」

「よし、やるぞー!」

それを聞いた千景と友奈は、真っ先に切り札を使う。

 

「――――出番よ、『七人御先』」

「――――来い、『一目連』ッ!!!」

 

千景は七人に分身する事で不死を得る『七人御先』、友奈は暴風の化身と呼ばれる『一目連』をその身に宿す。

「あれ?服が変わった」

「これは」

「ハァアッ!!!」

初めに、友奈が前に出る。

そこから繰り出されるは、超速で放たれる嵐の如きラッシュ。

「うわ!?」

裕也は、思わず両手を交差させてそのラッシュに耐える。

「オオオオオオオォォォォォォォオオオオオオッ!!!」

嵐の如きその連撃は、裕也の動きを確実に止めていた。

その横から、七人に分身した千景の一人が左右から襲い掛かる。

「とった・・・!」

左右からの同時攻撃。

裕也は、友奈の猛攻によって動けない。

――――だが、突如として裕也の口元が吊り上がる。

『!?』

「なぁんてね」

裕也が、友奈を弾き飛ばす。

「うわぁ!?」

「遅いッ!!!」

「ッ!?」

そして裕也は、両側から襲い掛かってきた千景を、あろうことかデコピンで吹き飛ばした。

「「ああ!?」」

「ふぅん、この程度なんだ」

裕也はつまらなそうに三人を一瞥する。

「精霊の力が・・・!?」

ひなたは、驚愕する。

「いや・・・・あれはやせ我慢だ」

だが、若葉は見抜いていた。

裕也の腕が、確かに傷ついている事に。

「精霊の力が、全く効かないわけじゃないんだね」

「そうとわかれば、あとは殺すだけよ」

千景と友奈が構える。

それに裕也は、ニタァ、と笑う。

「へえ、まだ戦うんだぁ?」

 

一方で。

武器を失い、決め手に欠けている辰巳と精霊の使用を躊躇っている杏。

(精霊の使用は、体にどんな影響を及ぼすか分からない・・・)

杏は、これまで勇者の切り札の事について、ある仮説を立てている。

まだ決定的な証拠は無いとはいえ、勇者の使う切り札は、そのどれもが妖怪悪霊怨念をその身に宿すという『憑依』だ。

それこそ、使えば通常よりも数倍の力は手に入れられるだろう。

だが、その見返りが、何も全くない訳がない。

杏は、そこを忌避しているのだ。

しかし、

「ハアッ!」

「うお!?」

紅葉の上段からの振り下ろしを体を捻ってかわす辰巳。

辰巳の切り札の鍵である剣は、先ほど蛭間に投げつけていて辰巳の手元には無い。

杏が取りに行けば、どうにかなるかもしれないが、それでも上にいる男が狙撃してくるので、杏はその男を抑えるのに手一杯。

辰巳は切り札を使えない。対して自分は精霊を使わない。

精霊の使用は、どんな危険性があるのかあるのか分からない。

だけど、そうであっても。

「ぐぅ!?」

「くたばれ、人間ッ!!」

 

それでも、誰かが死ぬのはみたくない。

 

「――――お願い、『雪女郎』ッ!!」

 

その瞬間、辰巳の背後で、何かが凍り付く音が聞こえた。

そして、背筋が文字通り冷える感覚も。

 

これは・・・・

 

「ッ!?」

次の瞬間、紅葉が攻撃を中断、大きく背後に飛んだ。

そして辰巳の目の前に真っ白い粉のようなものが振ってきた。

「冷たッ!?」

それは、異常な程に圧縮された冷気。

「大丈夫ですか?」

後ろから聞こえた杏の声に、辰巳は思わず振り返る。

「・・・・なるほどな、それがお前の精霊か」

「はい」

杏の変化した勇者装束。

そして、彼女のまとう冷気。

 

 

彼女が憑依させたのはありとあらゆるものを凍らせる死の女『雪女郎』。

その力は、『氷点下以下の冷気を発し、操る事』。

その冷気は自由自在に操れ、広範囲に渡って凍らせる事も可能であり、逆に集中させて絶対零度の一撃にする事も出来る。

 

 

「辰巳さん、ここは私が食い止めます。その間に、辰巳さんは剣を回収してきてください」

「大丈夫か?」

「はい。辰巳さんが早く戻ってきてくれれば良いんです」

杏のその返しに、きょとんとする辰巳だったが、すぐに笑みを零し、踵を返して走り出す。

「死ぬなよ」

「任せてください」

そして、走り出す辰巳。

「逃がすかッ!!」

上のいる男が衛星から光線を放つ。

「させませんッ!」

だが、杏が氷で壁を作り出し、その光線を阻止する。

さらに、矢を放ち、上にいる男を狙う。

氷点下の冷気を纏った矢は、周囲を凍らせて男に迫る。

「やべっ!?」

男は慌てて飛び降りる。

そこへ矢が通り過ぎ、周囲を凍らせる。

「あっぶねえ・・・・」

飛び降りた男は、その惨状に感嘆の息を漏らす。

「とんでもねえな」

「まともにあたるのは良くないな」

紅葉は、男の左腕を見る。

「ん?ああ、掠っただけでこれだよ」

その左腕は、真っ白に凍っていた。

「問題はないだろう?」

「まあ、そうだな」

二人して杏を睨みつける。

以前までの杏だったら、足がすくんでいただろうが、今は違う。

(もう、あのころの私とは違うんだ!)

「ここは通さない!」

杏は冷気を発して、敵の足を止める。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、辰巳は恐ろしい速さで蛭間の元へ向かっていた。

蛭間がいた建物にものの数秒で辿り着き、急いで蛭間を探す辰巳。

「驚きました」

そこへ、蛭間が左肩を抑えて現れた。

その右手には、辰巳の剣。

「まさか剣を投げてくるとは、貴方はなかなかに型破りの剣士のようだ」

「別に俺は()()()()()()。勇者だ」

辰巳は構える。

「お目当てのものはこれでしょう?流石にこれは隠す事は難しいですね。貴方はこの剣と()()()()()()ようだ」

蛭間は剣を片手に持ち上げる。

その瞬間、辰巳は一瞬で蛭間との距離を詰めて剣に向かって手を伸ばす。

「急がないでくださいよ」

「ッ!?」

辰巳の腹に、ステッキの先が突き立てられていた。

「・・・ん?」

―――という事は無く、ギリギリの所で辰巳の手がステッキをどうにか受け止めていた。

「なかなかの反応速度だ。しかし」

ふと、蛭間は一旦辰巳にステッキを押し込んだ。

「ッ!?」

「これは予想出来なかったでしょう?」

突然、蛭間はステッキを引いたかと思うと、そのステッキの中から刃がその姿を現した。

「仕込み杖かッ!?」

辰巳は慌てて蛭間から距離を取った。

「それだけではありません」

蛭間が指を鳴らす。

すると、蛭間の周囲に無数のハトらしき鳥が出現する。

「行きなさい」

さらに指を鳴らすと、ハトは一斉に辰巳に向かって飛んでいく。

「気をつけて下さい。振れれば爆発しますよ」

「なにッ!?」

蛭間の言葉を聞いた辰巳は、それらのハトから逃げる。

(くそ!数が多いッ!?)

剣は相変わらず蛭間が持っている。

それに、大量にいるハトの攻撃からも逃れなければならないのだ。

どうにか巧みに体を捻ったり、さながら体操選手のようにハトの集団をかわしていく。

だが、いつまでもつか分からない。

いずれ限界が来る。

「ふふふ・・・・・アハハハハハハッ!!!」

突如として高笑いをする蛭間。

「手も足もでないだろうッ!剣を投げたのは失敗でしたね!そうでなければ私に武器を取られることも、そのように追い掛け回される事も無かっただろうッ!!まさに滑稽!あの女を見捨てていれば、今頃苦戦せずに済んだものを――――」

「うるせェッ!!」

蛭間の言葉を遮って叫ぶ辰巳。

「俺にとってなぁ――――ひなたを失う事が自分が死ぬ事より辛いんだよッ!!」

そう怒鳴り散らず辰巳。

それに対して蛭間は。

「そうですか」

まるで堪えていないかのように言い。

「なら死になさい」

さらなる攻撃を仕掛けようとした、その時。

 

 

 

「オーケイ、その心意気、気に入ったわ!だから、私が手伝ってあげるわ!」

 

 

 

突如としてどこからか聞こえた声。

気付いた時には、どこからともなく飛んできた縄のようなものが蛭間の持っている辰巳の剣に絡みつき、蛭間からその剣を取り上げる。

「何ッ!?」

「なんだ・・・!?」

さらに、その縄が剣からほどけたと思ったら、今度は一気にハトを迎撃し始めた。

瞬く間にハトを全て撃ち落とし、全て消滅する頃には、辰巳の目の前に辰巳の剣が落ちてきた。

辰巳がそれを引き抜くのと同時に蛭間と辰巳の間に降り立つ者が、一人。

 

金糸梅を想起させる勇者装束を身に纏う少女。

その手には、先ほど縄だと勘違いしていたが、その本当の正体は、長い鞭だ。

 

「これはこれは」

蛭間は、その人物を見て、両手を広げる。

「まさか結界の外に出て来るなんて驚きですよ」

その表情を、笑いながらも確かに驚愕していた。

「――――白鳥(しらとり)歌野(うたの)さん」

その名に、辰巳は驚く。

「白鳥・・・歌野・・・・!?」

その名は、かつて若葉が諏訪との通信で話していた相手の名前。

その人物も、勇者だったと聞く。

つまり――――

「あんたが・・・・諏訪の勇者・・・!?」

そして、少女―――『白鳥歌野』は振り向く。

「諏訪の勇者、白鳥歌野よ。よろしくね、四国の勇者さんたち」

 

 

 

 

今この場に、諏訪の勇者が参戦した。

 

 

 

 




次回『到達 諏訪の炎の壁』
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