足柄辰巳は勇者である 作:幻在
猛烈な吹雪が、紅葉と男の二人を襲う。
「おわっと!?」
「チッ・・・・」
それを飛んでかわす二人。
「すっごいなこの吹雪」
「だけど長くは続かない筈だ。このまま・・・」
突如、頭上から氷の棘が降り注ぐ。
「空気中の水分を凝縮して作ったのかよ!?」
それを左右に別れてかわす。だが、絶対零度の冷気が二つに別れて二人を追う。
その様子を、冷気に包まれた状態で見ている杏。
「このまま足止めを・・・・」
その時、背後からとてつもなく大きな声が響いた。
「四国の勇者諸君ッ!!今すぐに諏訪に向かって走ってッ!!」
「え!?」
突然の事で驚く杏。
そこを見れば、先ほど辰巳が剣を投げた建物の屋上に一人の少女が立っていた。
「あれは・・・白鳥歌野だと!?」
「なんでアイツがあんな所に!?」
その人物に驚く紅葉と男の二人。
(あの人を知ってる・・・?)
杏は首を傾げるも、すぐに聞き覚えのある声によって、彼女が信頼に値する存在だと理解する。
「今はコイツの言う事を消け!諏訪に入れば安全だッ!!」
辰巳が、誰かと戦いながらそう叫ぶ。
それを聞いた杏は、すぐさま踵を返して走り出す。
「ッ!治郎ッ!」
「分かってるよッ!」
男、治郎が衛星から杏に向かって光弾を発射する。
だが、杏はそれを飛んで回避。
しかし、衛星は光弾を連射して撃ってきて、空中にいる杏を追撃する。
そこへ輪入道を使った球子が旋刃盤を使って杏を救出。光弾の脅威から助ける。
「タマっち先輩!」
「大丈夫かあんず!?」
「うん!」
「このまま行くぞ!」
二人はそのまま仲間の元へ向かう。
そして。
「ハァァッ!!!」
友奈が疾風が如き勢いの拳を裕也に叩きつける。
「ぐぅ!?」
それによって大きく下がる祐也。
「いったた・・・・すごいねぇ」
裕也はにたりと笑う。
「高嶋さん、そろそろ・・・」
「うん」
千景が友奈に何かを囁いたかと思うと、七人いる千景のうち、六人が裕也に襲い掛かる。
「ハッ!何人でかかってこようよ関係ないんだよッ!!」
裕也がすぐさまその六人の千景を迎撃する。
しかしその間に、残った千景や友奈はその場から離れるようにどこかへ飛ぶ。
「な!?」
(この三人は囮!?)
友奈と千景は、諏訪のある方向へ向かおうとしているのだ。
「悪いけど、そうはさせないよッ!」
六人の千景を弾き飛ばし、アスファルトの地面にその手を突き立てる。
そして力任せに地面を抉り取った。
「潰れろッ!」
そのまま逃げていこうとする友奈たちに向かって大砲さながらの威力で投げ飛ばす。
「高嶋さんッ!!」
それを見た千景の一人が叫ぶ。
それに気付いた友奈だったが、間に合わない。
そのまま抉り取った地面が、友奈に直撃する。その直前。
横から恐ろしい速度で何かが通り過ぎ、友奈と千景をかっさらった。
「な!?」
それに驚く裕也。
「ッ!?乃木さん!?」
それは、義経を憑依させた若葉だった。
「助かったよ若葉ちゃん・・・・・でも速すぎるよぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!?」
「すまない」
「上里さんは大丈夫なの!?」
若葉の背中にはひなたがしがみ付いていた。
「すみません・・・今は答える余裕がないくらいですぅぅぅうッ!!!!」
若葉の操る義経の能力は『飛べば飛ぶほど程加速する』。
ここでおさらいさせて貰うが、
辰巳のファブニールは『竜の力をその身に宿す』。
若葉の源義経は『飛べば飛ぶ程加速する』。
千景の七人御先は『七人に分身して不死になる』。
友奈の一目連は『嵐の如く速く動ける』。
球子の輪入道は『炎を纏って殲滅する』。
杏の雪女郎は『絶対零度の冷気を操る』。
以上である。
よって、若葉の速さはすでに不可視の領域に入っており、一瞬で祐也から引き離す。
そして、若葉は一気に戦場から離脱する。
それと同時に、辰巳が蛭間を吹っ飛ばす。
「ぐお!?」
そのまま建物から落下する。
「よし、白鳥、良いぞ!」
「オーケー、それじゃあ私たちも彼女たちに続きましょうか!」
辰巳と歌野も、若葉たちの後を追う。
「逃がさん」
だが、そこへ紅葉が恐ろしい速度で辰巳たちに追いついた。
(速いッ!?)
それに驚く辰巳。だが。
「悪いわね、今日の所は尻尾を巻いてエスケープさせてもらうわ!」
歌野が鞭を振るい、加速増幅された威力で紅葉を迎撃。
しかし紅葉はそれを体をひねる事でギリギリで回避。
「!?」
「終わりだ」
そのまま紅葉が歌野に刃を突き立てようとしたその時、どこからともなく冷気を纏った矢が紅葉を襲った。
「ッ!?」
それには攻撃を中断する事をやむを得ず、また体を捻って回避する。
辰巳と歌野が視線を向ければ、そこには、巨大化した旋刃盤に乗った杏と球子が見えた。
「大丈夫ですか!?」
「ノープロブレム!助かったわ!」
「杏!吹雪を起こせッ!!」
辰巳が叫ぶ。
それに杏は一瞬、何故なのかと戸惑ったが、すぐに辰巳の意図をくみ取り、旋刃盤から降りる。
「凍れッ!!」
そして、そのまま冷気を前方に一気に開放する。
その冷気は猛烈な吹雪へと変わり、目の前の光景を一瞬にして銀世界に変える。
「マジかよッ!?」
その意図に気が付いた治郎はすぐさま建物へと隠れる。
他の者も同じだ。
そして、その吹雪は杏の前方の街を凍らせていく。
「よし」
「あんず、乗れ!」
「うん!」
球子が戻ってきて、杏がその上に乗る。
そのまま全員、その場から一気に離脱する。
「・・・・逃げられたか」
冷気から逃れる事に成功した紅葉は、無表情で辰巳たちが向かった先を見つめていた。
「やれやれ逃げられちまったな」
そこへ次郎がやってくる。
「まあ良い。どうせ、後で殺す事になるんだからな」
踵を返し、紅葉は引き返す。
「全く、喋り方は男真っ盛りなのに、あれで女なんだもんな」
治郎は呆れたように紅葉のあとを追いかけ、その後を、どうにか凍った建物から出てきた蛭間と裕也がついていった。
そして、先に行っていた若葉たちは、とうとう諏訪についた。
だが。
「これは・・・・!?」
しかし、その表情はあまり浮かばないものだった。
何故なら、目の前を巨大な蒼い炎の壁が立ち塞がっていたからだ。
「これは・・・・諏訪全体を覆っている!?」
ひなたが、驚いた表情で、その光景に絶句していた。
「大丈夫なの・・・これ・・・・」
「分からない・・・でも・・・・」
千景と友奈も、なんとも言えないようだ。
「この中に・・・・諏訪は本当にあるのか・・・?」
「あるわ」
「!?」
そこへ、遅れてやってきた辰巳、球子、杏、そして、歌野がやってきた。
「あの炎の中なら、バーテックスは入ってこれないわ。そして、人は絶対に燃やさない。ついてきて」
歌野は、若葉たちのいた建物から降りる。
その後を、四国の勇者一行はついていく。
どんどん炎に向かって歩いていく歌野に対して、他の者達は怪訝そうな表情で近付いていく。
改めて見てみると、周囲の建物は、やはり破壊されていた。
おそらく、ここが諏訪の防衛ラインだったのだろう。
そう、考えているうちに、勇者たちは炎の目の前に立っていた。
「な、なあ、大丈夫なのか?このまま進んでも」
「大丈夫よ、貴方たちがバーテックスじゃなければね」
歌野は、なおもなんでもないかのように炎に向かって突き進んでいく。
そして、歌野は躊躇いも無く炎の中に入っていった。
『!?』
それに思わず驚く一同。
歌野はすぐさま炎の中に消えていった。
一同は顔を見合わせて、やがて覚悟を決めたかのように、一人一人、炎の中に入っていく。
「ありゃ?」
「熱く・・・・ない・・・?」
だが、その炎は
「むしろ・・・」
「温かい?」
その青い炎は、まるで旅の疲れを癒していくかのように温かった。
「皆、進むぞ」
辰巳は、そんな皆に声をかけて、ひなたの手を引きながら歩く。
そして、全員が炎を抜けた先。
盛大な歓声が響いた。
「な!?」
「これは・・・・!?」
突然に驚く一同。
そこには、沢山の人々が辰巳たちに歓声を送っていた。
周囲には崩れた建物があるものの、その壁には横断幕が飾ってあり、そこには『ようこそ諏訪へ』と書かれていた。
それに、一同は茫然としていた。
何故、自分たちが来る事が分かっていたのか。
ふと、辰巳たちの目の前に、一人の巫女服を来た少女が歩いてくる。
それに気付いた一同は、そちらに視線を向ける。
「あ、みーちゃん!」
「お疲れ様うたのん」
歌野は、その人物の元へ駆け寄り、少女は嬉しそうに微笑む。
そして、彼女は歌野の横を通ると、辰巳たちにお辞儀をした。
「ようこそ、諏訪へ。私はここで巫女をしている『藤森水都』と言います。私たちは、貴方達を歓迎します」
少女、水都は、そう微笑んだ。
その後、町一番の旅館に泊まる事になった若葉たち。
目の前には、豪勢な食事が置かれていた。
『オオオオ―――!?』
その豪勢さに驚く一同。
「すごい・・・」
「これは釜飯?」
「うなぎ!うなぎがあるぞ!」
「味噌を使った料理もあるよ!」
「随分と歓迎されているわね・・・・」
「あの魚の輪切りのようなもの・・・鯉か・・・・」
「どれも美味しそうですね」
その豪華さに圧倒される一同。
「みんな遠慮しないで良いわよ。ここにあるものはどれもこの諏訪でとれたものだから」
「この野菜は白鳥さんが作ったものか?」
若葉の問いに、歌野が頷く。
「イグザクトリー。それと、歌野で良いわ」
「そうだな。それなら私も若葉で構わない」
「オーケー若葉」
「早速仲良くなってる・・・いや、元々通信で話し合っていたんだから当然か」
もう親しくなっている若葉と歌野の様子に辰巳は関心していた。
「今日は旅で疲れてるだろうから、沢山食べて構わないません。その後はお風呂にでも入って、疲れを癒してください」
「わー、温泉もあるんだー!」
水都の言葉に、友奈が喜ぶ。
「水浴びはしたけど、お風呂には入っていませんでしたね」
「そうだな・・・」
「・・・・ん?なんでこっち見てるんだ?」
何故か辰巳をジト目で見る若葉。
「・・・・歌野。ここの温泉は混浴か?」
「ん?ああ、心配しないで。混浴なのは
「そうか・・・」
「だからなんでこっち見てるんだ?」
辰巳は訳が分からないとでも言うように首を傾げる。
「たっくん・・・」
「まさか忘れたとは言わせないぞ?」
「いえ、この場合は忘れていた方が良いものよ」
「うーん、またやるなら今度はビデオに収めたいところ・・・」
『それはやめろ』
「あう・・・」
一斉に何かをやめさせられる杏。
「だから何を言ってるんだ?」
「辰巳さんは思い出さなくて結構です」
「ああ、そう・・・・」
ひなたに言われ、追及する事をやめる辰巳。
そのまま豪勢な食事を楽しむなか、ふと若葉は歌野に聞いた。
「なあ歌野。ここの勇者は二人だった筈だが、もう一人の勇者はどこに・・・」
そう聞いた瞬間、歌野と水都の顔色が変わった。
というか、悪くなった。
「・・・・・歌野?」
「あー、忘れてた」
歌野は誤魔化すように、乾いた笑みを浮かべた。
「もう、いないのよ」
そして、かなり衝撃的な言葉が告げられた。
「・・・すまない」
若葉は思わず謝ってしまう。
「ああ、謝らないで。どうせ言わなくちゃいけない事だから」
そこで歌野は、隣にいる水都に声をかける。
「大丈夫?みーちゃん」
「うん・・・・大丈夫、落ち着いてきた」
水都も、若干顔色は悪いが、それでも大丈夫なようだ。
そして、水都は毅然とした態度で、四国の一同を見た。
「若葉さん、そして、四国の皆さん。私とうたのん、そして、諏訪のこれからの方針を伝えます」
水都は、本来なら内気そうな様子から、あまりにも予想外な事を言ってきた。
「私たちは、諏訪を捨てます」
『・・・・ハア!?』
その言葉に、当然の様に全員驚いた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!何故、諏訪を捨てるって・・・」
「ああ、少し語弊があったわね。落ち着いて落ち着いて」
歌野が立ち上がりかけた若葉を制止する。
「まあ、それらの説明には、色々と時間がかかるから、今は諏訪に来たばかりで疲れてるだろうから明日にしようと思っていたのよ」
「それは良いんだが、どうして突然・・・」
辰巳がそう聞き、水都が口を開いた。
「ここに入ってくる時に、青い炎の中を入って来たんですよね?」
「ええ、それがどうかしたの?」
「現在、諏訪を守る
「その代わり、あの炎が、諏訪を守っているんですか?」
「その通りです」
水都は肯定する。
「あの炎がある限り、バーテックスは決してこの諏訪に入り込む事はありません」
「ならさ、別に捨てなくても大丈夫なんじゃないのか?」
「そんな永続的なものならどんなに良い事か・・・」
球子の最もな指摘を、水都は否定した。
「長くは続かない・・・だろ?藤森」
辰巳の指摘を水都は頷きをもって肯定した。
「四国との通信が切れた、十月。それから一年間しか、あの炎は、持たないんです」
「つまり、今年の十月・・・その日になれば、炎は消えるという事ですか?水都さん」
「そうなんです」
一同が、絶句する。
たった一年しか持たない、敵を一切通さない結界。
確かに、消えてしまうなら、ここよりもっと安全な四国に避難すべきだろう。
ただ、辰巳は、その事実よりも、別の事に視点を置いていた。
「一応、事情は分かった。だけど、三年間守り通してきたものを、何故今になって捨てようと考えたんだ?町の人たちは、それを了承しているのか?」
辰巳がそう指摘すると、水都は首を振った。
「町の人たちの了承は既に得ています。そして、これは、ある人の願いでもあるんです」
「願い?」
「はい、あの結界を張った張本人・・・・諏訪のもう一人の勇者、『
「哮さんの・・・!?」
若葉は、その名に驚く。
「皆には、知ってもらいたいの。この、諏訪の誇りであり、英雄であり、私のお兄ちゃんの様な存在で、そして、みーちゃんの大好きだった、誰よりも格好良い、勇者の事を」
歌野の言葉に、一同は息を飲む。
それは、神にではなく、悪魔に見初められた男の、大きな偉業を成し遂げるまでの話。
誰よりも、誰かの命を守る事に、その命を燃やした、男の物語。
次回『狗ヶ崎哮は勇者である 前編』
それは、語り継がれるべき、