足柄辰巳は勇者である 作:幻在
朝――――
辰巳と歌野、水都とひなたは、とある一室に来ていた。
「突然、パソコンと私の携帯を貸してくれって言ったけど、何に使うの?」
歌野がそう聞きながらパソコンの前に座る辰巳に自身の携帯端末を渡す。
「簡単な事ですよ」
「お前のに四国の勇者システムを入れる」
辰巳の手には一本のUSBメモリー。
それは、四国で作った、歌野専用の勇者システムのデータが入っていた。
「諏訪についたら、そこにある機材を使って白鳥歌野の端末に勇者システムをインストールしとけって大社に言われてたんだよ」
「それを入れると何が起こるの?」
「アニメのように変身が出来る」
会話している間に歌野の端末に勇者システムをインストールする辰巳。
「新しくアプリが入っている筈だぞ」
「リアリー?どれどれ・・・・おお!」
歌野の端末には確かに勇者に変身する為のアプリが入っていた。
「これを押せば勇者に変身できるの?」
「ついでに性能もこちらと同等になる筈だ。つまり、前より敵を沢山倒せるって事だ」
「よーっし!では早速、レッツ!メタモルフォーゼ!」
歌野が勇者システムを起動すると、金糸梅を想起させる装束に歌野が一瞬にして纏われる。
「わーお!」
「すごい・・・!」
「アメイジング!やっぱり都会は凄いわね!」
「これでどこでも変身できるはずだ」
「サンクス辰巳!」
そんな訳で変身を解除する歌野。
そこでひなたが両手を打ち鳴らす。
「では、そろそろ皆さんの所に戻りましょうか」
「そうね」
「行くか」
その場にいた一同が同意し、揃って他の者達がいるであろう食堂に向かう。
「おーい戻ったぞ・・・・・何があった?」
「辰巳か?」
入った途端に感じた並々ならぬ空気に、思わず気を引き締めてしまう辰巳。
「何かあったんですか?」
「実は、今回の護送作戦において、確実に排除しておきたい事がありまして・・・・」
「バーテックス人間の討伐か?」
「その通りです」
そこには、諏訪周辺の地図が書かれていた。
「彼らは、確実に私たちの邪魔をしてきます。むしろ、殺しにくるでしょう。それに、他にバーテックス人間がいないなんて保証はありません。ですので・・・・」
「真っ先に討伐して、他のバーテックス人間が来る前にさっさとこの諏訪を出る・・・で良いのかしら?」
「その通りです」
杏の提案は、先日襲撃してきたバーテックス人間たちを、先に討伐してから諏訪の人たちを運ぶ、という事だった。
しかし、討伐する事は良い。
問題なのは・・・・
「良くこの作戦を思いついたな、杏?」
辰巳が、杏に向かってそう問いかけた。
そう、これは、もともと人間だった奴らを殺す事に他ならない。
気が弱く、優しい杏が、普通そんな事を思いつくはずが無いのだ。
それに杏は、一瞬気まずそうに、顔を俯かせた。
「・・・・正直に言って、誰かを殺すなんて、思わなかったです」
しかし、と杏は言う。
「もう、そんな事を言っている余裕は、無いんですよね・・・・」
現代において、人を殺す事は、人としても法律的にもダメだ。
しかし、相手はすでに人の身を捨てた化け物。さらに言えば、こちらの命を奪いにくる敵だ。そんな敵に、大勢を守る為に戦っている自分たちが手加減をする事なんて出来ない。だから――――
「やるしかない」
若葉が、そう呟く。
「若葉ちゃん・・・・」
「ここから先、奴らを人間と認識する事は、もはや不可能だろう。言葉は通じても、話し合いも出来ない」
覚悟を、決める。
「奴らを倒し、諏訪の人々を四国へ送り届ける。良いな」
それに、誰も反論はしなかった。
諏訪の炎の壁の前に立つ、勇者一行。
「それじゃ、行ってくる」
「危険になったら、すぐに壁の中に退避してくださいね」
ひなたと水都に見送られ、全員その手に端末を持つ。
「今回の戦いにおいて、精霊の使用は躊躇う必要は無い。相手はそれほどまでに強いんだからな」
「うーん、私も精霊使えたら良かったんだけどなー」
「すみません・・・一応使えない事はない事はないのですけど・・・・」
「なら足柄さんと一緒にいればいいわ。足柄さんなら良い立ち回り方を教えてくれるはずよ」
「ナイスアイディアだな千景。それなら歌野も遠慮せずに戦えるだろ」
「よし、それじゃあ行こう!」
全員がアプリを起動する。
「皆仲良く勇者になーる!」
辰巳は竜胆。
若葉は桔梗。
歌野は金糸梅。
千景は彼岸花。
杏は紫羅欄花。
球子は姫百合。
友奈は山桜。
それぞれがそれぞれをを想起させる勇者装束を身に纏う。
「行くぞッ!」
若葉の号令に合わせ、全員が炎の壁に向かって走り出す。
「気を付けて・・・」
その様子を、ひなたと水都は見送った。
一方で・・・・
「忌々しい・・・・」
唐突に紅葉がそう呟いた。
その視線の先にあるのは諏訪を守る炎の結界。
まるでこちらを嘲笑うかのように揚々と燃え盛る炎の壁が、紅葉にとっては忌々しいものだった。
しかしそれは紅葉だけに限ったことじゃない。
「あの炎の所為で数多くの同胞が死にましたからね」
紅葉の隣に蛭間が降り立つ。
「あの炎さえなければ諏訪など・・・」
「それは仕方が無い話です。よもや神ではなく悪魔に魂を売った者がいたなど誰も思わなかったのですからね」
そこで会話が途切れる。
だが、今度は別の方向から声が聞こえてきた。
「やっこさん。出て来たぜ」
「治郎・・・」
近くの建物に腰掛けていた治郎がそう言ってきた事に首を傾げる二人。
「どういう事だ?」
「あいつら、真っ先に俺達を消しにかかりやがった」
「そうか・・・」
刀を掴む手に力を込める。
なるほど、自分たちが四国への護送を阻止してくるのは分かっていた。
ならばすぐさま殺しに来るのは道理だ。
敵は七人。
対してこちらは四人。
問題は――――無いだろう。
「ならば、返り討ちにしてくれる」
その言葉に、その場にいる二人も頷く。
「祐也。起きろ」
「んぅ・・・・ふあぁあ・・・・何?もう来たの?」
紅葉の問いかけに横になって寝ていた裕也が上体を起こし、眼を擦りながらそう聞いてくる。
「そんなところだ」
「そっかぁ・・・じゃあ、起きないとね」
裕也は、さぞ楽しみにしていたかのように起き上がる。
「どこから来ていますか?」
「丁度真っ直ぐこっちに向かって飛んできてるよ」
全員が全員、それぞれ臨戦態勢に入る。
「丁度いい機会だ。ここで皆殺しにしてやる」
紅葉は刀を抜き放ち、これから来るであろう敵を睨み付けた。
炎の結界を飛び出し、街の中を一気に駆け抜ける勇者一行。
しかし、肝心の敵を見つけられていない。
「どこに・・・」
一同が周囲を見渡す中、唯一勘の良い辰巳は、目の前から物凄い勢いで迫ってくる気配に気づいた。
「ッ!若葉ッ!!」
辰巳が叫ぶと、若葉はそぐさま正面を向いた。
そこへ、何かが矢の如く飛来してきた。
「ッ!」
若葉は、直感的に生大刀を抜刀。
そして、金属音。
「ぐぅッ!?」
だが、勢いは向こうにあった様で、若葉はそのまま後方へその何かもろとも、落下。
「若葉ちゃん!?」
それに思わず叫ぶ友奈。しかし、直後に千景が叫ぶ。
「高嶋さん、前!」
「え・・・・きゃぁあ!?」
さらに飛んできたもう一つの何かに吹き飛ばされる友奈。
地面に叩き落されるも、どうにか受け身を取った事で落下時のダメージは無い。
だが、目の前の敵は、どうにも猶予を与えてくれないらしい。
「久しぶりだねぇ」
「貴方は・・・・」
目の前には、禍々しい四肢を持つ少年が立っていた。
「高嶋さん!」
すぐさま友奈の援護に向かおうとする千景だが、どこからか飛んできた
「くッ!?」
「行かせませんよ」
その攻撃の元は、あの蛭間だった。
「邪魔、しないで!」
「それは無理なそうだ・・・・むッ!?」
蛭間が何かを言い終える前に辰巳が上空から剣を振り下ろしてくる。
蛭間はそれを間一髪で回避する。
「貴方ですか・・・・」
「行け、千景ッ!!」
「足柄さん・・・」
辰巳の言葉に、千景は一瞬複雑な表情をしたが、すぐに踵を返して友奈の元へ飛ぶ。
「行かせませんよッ!」
しかし当然の如く蛭間はそれを阻止しようとする。その攻撃は、爆発する光の鳩。
その無数の鳩を、辰巳は全てを防ぎきれない。
だから、全て防げるものに任せる。
「それはこっちの科白よ!」
「何!?」
振るわれる事で、威力とスピードが加速増幅する武器である鞭が振るわれ、鳩が一瞬にして全て叩き落される。
「白鳥歌野さん・・・・」
「悪いけど、貴方の相手は私たちよ」
歌野と辰巳が蛭間の前に立ちはだかる。
一方で。
「くぅ!」
「アハハハ!!!」
友奈は祐也の猛攻に苦戦していた。
禍々しい腕と脚から放たれる破壊力抜群の打撃は、一撃でもまともに喰らえば重傷になる事間違いなしだろう。
さらに言ってこのままでは逆にやられるのがオチだ。
だから、使用は躊躇わない。
「来い『一目連』ッ!!!」
暴風雨の具象化ともいえる妖怪『一目連』その身に宿し、友奈はその速度を持って祐也の一撃を、片腕百発をもって打ち返す。
「んんッ!?」
「ヤァアッ!!」
そしてもう片方の腕で祐也を殴り飛ばす。
そのまま後退させられる祐也。
しかし、効いている様子は無い。
「アハハ」
「ッ・・・」
友奈は、その様子に戦慄しながらも構えを解かない。
たが、このままでは状況が好転しない事もない。
友奈一人なら。
「ハァッ!!」
「うぐ!?」
気合の一声と共に、千景の振り下ろした一撃が、祐也の背中に斬撃が迸る。
「ぐんちゃん!」
友奈は思わず声を挙げる。
だが。
「ぐ・・・この、やろぉ!」
「ッ!?」
裕也が振り向き様に放った裏拳が、千景に直撃する。
「きゃあ!?」
そのまま壁に叩きつけられる千景。
「ぐんちゃん!?」
悲鳴染みた叫び。
「舐めた真似を・・・」
怒りに顔を歪める祐也。
しかし。
「足柄さんとやり合ってなかったら危なかったわね・・・」
しかし千景は思った以上のダメージは負っていなかった。
幸いにも、祐也の攻撃は辰巳よりも遅かった事が功を奏したのだろう。
「良かった・・・」
「チッ・・・」
友奈は安心し、祐也は忌々し気に顔を歪めた。
さらに一方。
銃撃が襲い掛かってくる。
それを球子が防ぐ。
その背後から杏が射撃。
その射線には――――まるでファンネルのように動き回る衛星。
しかし衛星は杏の攻撃をかわして再度射撃してくる。
さらに、その数は、以前見た時より四つに増えている。
その為に―――
「タマっち先輩!右!」
「ッ!?」
杏が叫び、球子が右を見ると、そこには路地裏からこちらを狙う衛星がいた。
「くそッ!」
球子はすぐさま杏を抱えて後方に跳ぶ。
「これは厄介だな・・・!」
「敵の位置が分からない・・・!」
衛星による遠隔射撃。
自分は安全地帯から一方的に攻撃出来るというこの状況は、杏と球子を苦しめていた。
そして―――
「ぐぅッ!」
振るわれた一撃に、靴底を擦り減らして後退する若葉。
彼女の目の前には、奇しくも同じ日本刀を持つ少女。
しかしその視線は、こちらを確実に殺す気でいる意思を感じる。
他の仲間は、すでに別の敵に集中していて援護にこれないだろう。
だとすれば、今この場で頼れるのは、自分の技量のみ。
そして、目の前の相手は相当な使い手。
自分でも、勝てるかどうか分からない。
だけど、それでも負ける訳にはいかない。
自身の刀を鞘に納める若葉。
それに首を傾げる敵―――紅葉だったが、すぐさまその意図を察する。
それは、一刀に全てを込める、居合道。
幼き日より修めてきた、絶対的自信を誇る、彼女の武器。
そして、もう一つ、勝率をあげる為の強硬手段として、もう一つの力を発動する。
「―――降りよ『義経』」
その身に、神速の身体能力を持つ武人を宿し、若葉は、紅葉と相対する。
次回『衝突』
剣戟に踊る。