足柄辰巳は勇者である   作:幻在

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衝突

杏と球子は、苦戦していた。

「くっそ!一体どこにいるんだよ!」

アスファルトの上を走り回り、四方八方、どこからともなく飛んでくる光線の嵐を防ぎ避ける球子と杏。

「あんず!お前の賢い頭でどうにかならないのか!?」

「そんな事言われても、相手がどこにいるのか分からないんだからどうしようもないよ!」

「それを考えるのがあんずの仕事だろ!」

まさしくその通りなのだが。

しかしこのままではジリ貧である事には代わりはない。

あの衛星、二つ操作するだけでも二本の腕を、()()()()()()()()()()()()()()()()のと同じように難しい筈なのに、それを同時に四個とは恐れ入る。

「せめて、相手の位置を見分ける為の目印があれば・・・」

そんな杏たちの様子を見るのは、そんな衛星四つを操る治郎だ。

「いいねいいねぇ。じわじわと追い詰めちゃうよぉ」

治郎はニヤニヤと戦いの様子を完全な安全地帯から見ていた。

彼の操る浮遊衛星は、遠隔からでも脳裏に映像を流す事の出来るカメラ付き。

それも四つの景色を同時に見れるのだから、どこからでも自由に攻撃出来、相手の動向を探る事が出来る。

事実、それによって一つの衛星から敵がどちらを向いているのかを把握し、別の衛星で死角から攻撃するという戦法を取っているのだ。

その連続攻撃は、二人の体力を徐々に削っていく。

「さて、いつまでもつかねえ」

 

一方で。

「アハハハ!!」

「ぐぅう!?」

裕也の猛攻に、友奈と千景は防戦一方、否、回避に徹していた。

裕也の一撃は、どういう訳か昨日より()()()()()()()()()()()()

放たれる一撃の一つ一つが、地面を抉り飛ばし、建物を一撃で倒壊させるほどの威力を持っているのだ。

そんな急激にパワーアップしてきた敵に、友奈と千景は苦戦するほか無い。

しかし千景は、まだ精霊を使用していなかった。

「アハハ!どうしたのどうしたのぉ!?その程度かぁ!?」

「舐めるなッ!!」

しかし、その攻撃はどれも()()()()()()

「ハアッ!」

友奈の暴風の一撃が裕也に叩き込まれる。裕也はそれを片腕で防ぐ。しかし友奈の攻撃はそれで終わらない。

「ハァァアアッ!!!」

それはまさしく嵐と呼ぶにふさわしい連打。

恐ろしい速度で放たれる嵐の打撃は、祐也を下がらせる。

「オオオオオオォォォォオオオオッ!!!」

「ぐぅッ!調子に乗るなよッ!!」

突如として裕也が地面を踏み砕く。

その砕かれた破片が、友奈を襲う。

しかし――――

 

友奈の『右』が炸裂した。

 

「なッ!?」

それは、全ての破片を吹き飛ばし、さらには祐也にまで迫ってくる。

猛烈な嫌な予感を感じた裕也は思わず両手を交差させて構える。

次の瞬間、衝撃が祐也の両腕を貫いた。

「が・・ぁ・・!?」

予想外の衝撃に、祐也は思わず口から血を漏らす。

そして、吹き飛ばされ、建物の壁に叩きつけられる。

「ぐ・・が・・・!?」

何が起きたのか分からない祐也。

「びっくりした。思わず右出しちゃった」

そこには、『右手』を突き出す友奈の姿があった。

 

 

友奈の基本スタイル。

大社より空手などの格闘技術を学ばされていた友奈だが、どれを基本に訓練すれば良いのか、当初分からなかった友奈は、最近心を開いてくれた辰巳に相談する事にし、その事について話した時、辰巳からこういわれた。

『ボクシングだな』

辰巳曰く、ボクシングの狭い範囲の中で素早く動くスタイルが友奈には合っているらしい。

それはその通りで、辰巳が提示した訓練メニューに従って訓練した結果、短距離での移動、小回り、それらの俊敏さに基づく要素が友奈を強化していった。

それ故、友奈の戦闘スタイルは次第にボクシングに収まっていった。

そこで、友奈は辰巳から言われた通りに、牽制に左、決め手に右を使うというスタイルを取ったのだ。

木を叩き、そこから落ちてくる葉を片手一本で十枚掴み切るという行為を繰り返す事でジャブを鍛え、サンドバック相手に右を打ち続けるという行為を繰り返し、その結果―――――

 

 

 

 

とんでもないハードパンチャーが完成した。

 

 

 

友奈が、構える。

「ぐ・・・ぅ・・・」

祐也は、よろよろと瓦礫から出る。

今、祐也はあまりにも無防備だ。このまま襲い掛かれば、仕留める事は可能だろう。

しかし、友奈はそうしない。

やはり、人相手には、どうしても抵抗があるのだ。

「お・・・ま・・えぇ・・・・!」

祐也が、怒りのこもった目で友奈を睨み付ける。

それに友奈は思わず怖気づいてしまう。

そのまま膠着状態が続く。

 

 

しかし、千景が裕也の上から奇襲をしかける。

 

 

 

「な!?」

「待たせたわね」

それに目を見開く裕也だが、呆けている暇は無いらしい。

上方からだけでなく、下段からもさらにもう一人の千景が襲い掛かってくる。

「なッ!?」

さらに後ろ、右、左から、合計四方、四人の千景が同時に攻撃を仕掛けてきた。

その同時四撃を、裕也はまともに喰らって大きく後退する。

「大丈夫、高嶋さん」

「うん、助かったよぐんちゃん」

切り札、『七人御先』を発動して七人に分身した千景。

これによって、千景は不死となる。少なくとも、裕也に彼女は殺せなくなった。

だが―――

「・・・うざい」

裕也がぽつりと呟く。

「なんでだろうな、どうしてもお前だけはうざいって思っちゃうんだよね・・・・良い所をどういう訳か邪魔してくるから、いい加減、殺したくなるんだよね・・・・」

「奇遇ね」

千景も鎌を構えて答える。

「私も貴方を殺したいって思ってたわ。高嶋さんを傷付けた貴方を」

「ああ、そうか。そうなんだ・・・・・じゃあ、殺してやるよッ!!」

突如、裕也が爆発する。

その直後、裕也の姿が、さらにおぞましい程に変わった。

肌は黒く変色し、両腕両足は先ほどの禍々しいものからさらに禍々しくなり、まさしく『化け物』と称するに相応しい姿になった。

「「・・・!?」」

その恐ろしさに、二人は息を飲む。

「アハハ、さあ、殺し合い(楽しい事)を始めようか」

 

 

 

 

 

さらに一方で。

金属音が響き、長剣と細剣がぶつかり合う。

繰り返される斬撃の応酬に、両者は一歩も引かない。

否。

「ハァ!!」

蛭間が何も持たない左手で目くらましの爆発を引き起こす。

しかし辰巳はそれを無視して横に一閃。

蛭間はそれを飛んで回避し、被っていたシルクハットを外すとそのシルクハットから無数の光の鳩を羽ばたかせる。

それは言わずもがな、あの爆発する鳩だ。

しかしその鳩は、全て、歌野の振るう鞭によって叩き落される。

ならばと蛭間は今度はトランプを取り出し、それを五枚引き抜き、それを並べる。

「ストレート」

それは二から六までの連続した数字。

それが一つにまとまったかと思うと、砲弾並みの勢いで飛んでくる。

歌野と辰巳はそれを飛んで回避。しかし次の瞬間、二人のいた建物の床が爆散し、砕け散る。

「Wow!ポーカー!」

「多彩だな」

しかしそれで終わらない。

蛭間が仕込み杖を一閃。

そこから光の斬撃が飛んでくる。

それに対して辰巳が反転、さらに歌野が足を折り曲げ、互いの足裏を合わせ、互いに互いを蹴る。

すると作用・反作用の法則によって互いが反対方向に動き、その斬撃を回避する。

「ふむ、先ほどので仕留められると思ったんですがね」

先ほどの回避。あれは相当な連携が無ければ無理な話だ。たった一晩ともに過ごしただけでは簡単に養えるものではない。

つまりは、ひとえに歌野の無情の信頼と辰巳の卓越した技量あっての事だろう。

というか、辰巳と歌野の相性が、あまりにも良すぎるのだ。

空間把握に長けており、周囲への気配りが最も出来る辰巳に、共に戦う仲間を信頼し、尚且つ相手の意思をくみ取って思い切った行動に出られる歌野。

辰巳の行動を邪魔しようとする要素を歌野が排除し、尚且つ辰巳が前に出る事で歌野への害意を排除する。

これほど相性の良い組み合わせが他にあるだろうか。

(言いたくないけど・・・・哮兄より合わせやすいッ!!)

(他の皆より歌野の方がやりやすい。言いたくないが)

事実、二人も心境では認めざるを得なかった。

そして。

「ふっふ~ん。四国と諏訪の勇者の力が合わさった今、私たちには敵なしなのよ!Do You Understand(お分かり頂けたかしら)?」

「なるほど、これは手強い。しかし、それでやられるほど私は甘くありませんよ」

「だろうな。だけど、お前にはここで死んでもらうぞ」

地面を蹴る辰巳。

それと同時に歌野が鞭を振るう。

蛭間が出したのは四色の四つのボール。

その内の一つ、青い玉を投げる。

それが地面に着弾すると同時に、そこから大量の水が津波の様に溢れてくる。

「「ッ!?」」

それを見た二人の行動は速かった。

まず歌野の鞭が辰巳の腕に巻き付き上空へ飛ばす。次に辰巳が鞭を引っ張り、歌野を空中へ引っ張り上げる。

それによって溢れ出た水から逃れる二人。

目を合わせずに行ったその連携は、まさしく偶然か必然か。

 

 

勿論、後者なのだが。

 

 

しかしそれで終わる辰巳と歌野では無い。

歌野が鞭を振るうと、辰巳の体が引っ張られ、辰巳の体が歌野より後ろになる。

だがそれは、撃鉄を起こした(準備を完了した)拳銃と同じようなもの。

「ハァアアッ!!!」

歌野が気合の一声と共に鞭を振るえば、辰巳が弾丸並みの勢いで蛭間に向かって飛んでいく。

それに対して蛭間が手に取ったのは赤い玉。

それを投げれば、それは空中で爆ぜ、爆炎を巻き散らす。

その爆炎は、辰巳を覆うほどに勢いが強い。

まともに喰らえばひとたまりも無い。

だが、そんな状況においても、辰巳は前に包む事を躊躇わない。

「対天剣術『雲刈(くもがり)』ッ!!!」

雲を刈り斬る。それは実体無きものを斬る事を前提とし、吹き飛ばす事を目的とした剣技。

その一撃は、実体無き、エネルギーの塊である爆炎を吹き飛ばした。

勢いはそのまま、辰巳は蛭間に斬りかかる。

だが、それで蛭間が詰んだわけではない。その手にはまだ残る二つの玉。

次に投げたのは、黄色の玉。

それが爆ぜた途端、光が迸り、(いなずま)が輝いた。

その電撃が辰巳を襲う。

「ぐぅあ!?」

強力な電撃を辰巳は諸に喰らう。

蛭間は、残った最後の緑の玉を辰巳に叩きつけようとする。

しかし、それを投げようとしたところで、その左腕が止められる。

何事かと振り向いた時、そこには左腕に絡みつく鞭が。

その鞭は、蛭間の背中から回り込み、蛭間の右側から辰巳の背中へつながっている。

否、それは、辰巳の背中に隠れていた歌野の鞭だった。

「なんと・・・!?」

辰巳が前のめりに倒れていく。

それと同時に、歌野がこちらに足を折り曲げ、あからさまに飛び蹴りを喰らわせるぞと言っているような態勢で蛭間に飛んできていた。

「ヤァァアアッ!!!」

その一撃が蛭間の右腕に叩きつけられる。

「ぬぅ!?」

蛭間は吹き飛ばされ、床を転がり、後退する。

着地した歌野と、わりとダメージを喰らっていないかのように立ち上がる辰巳。

「なかなか上手くいかないわね」

「ああ、そうだな・・・・ん?なんか打ち合わせたっけか俺達?」

「あれ?どうだったかしら?」

似た者同士。

「まあ良い。とにかくアイツ倒して他の皆の所に行くぞ」

「ええ」

剣と鞭、近距離と中距離の武器による連携を持って、二人は道化師を打ち倒す。

 

 

 

 

 

そして、ここでは、若葉と紅葉が激しい剣戟を繰り広げていた。

「オオオオッ!!」

若葉が壁を飛び回り、飛びかかると同時に刀を抜刀、紅葉に斬りかかる。

しかし紅葉はそれをいとも容易く受け流す。

受け流されたと感じるや否や若葉は体を反転させ地面に着地、敵が反撃してくるまでにその射程から外れる。

まさしくヒット&アウェイ戦法だ。

しかし、ヒットからアウェイに移るまで、そしてアウェイからヒットに移るまでの時間があまりにも短く、そして動いている範囲があまりにも広く、まさしく四方八方からの連撃。

しかし、すでに肉眼では捉えられない程に加速している筈の若葉の猛攻を、紅葉は全て凌ぎきっていた。

「くッ!」

さらに加速する若葉。

しかし、紅葉はそれでも自らが持つ剣で全て防いでいた。

(なん・・・で・・・!?)

その状況に、若葉は驚愕を隠せない。

この戦法は辰巳と編み出したものだ。

若葉が宿している『義経』は、その逸話において凄まじい脚力を持っている事で有名だ。

特に、『八艘飛び』と呼ばれる八艘の船を次々に飛び越えていく体技は、源氏を学ぶ上では決して欠かせない体技だ。

その『八艘飛び』によってどんどん加速して行っている若葉に紅葉はついていっているのだ。

肉眼では捉えられない筈の、若葉の『速さ』。決して自惚れている訳では無いが、それでも大抵の敵に見切られるほどやわなものじゃないという自負はある。

しかし、紅葉はそれをものともしない。

(どんな動体視力をしているんだ!)

そして、若葉が今度は紅葉の背後から居合を叩き込もうとした、その時。

「その速さの秘密はその脚か」

紅葉が振り向き、若葉の居合を初めて回避した。

「な・・・!?」

気付けば、左足に鋭い痛みが走っていた。

「ぐぅ!?」

思わず失速。ギリギリのところで地面に手を付いてどうにか受け身をとって態勢を立て直す若葉。

しかし、その足に受けた斬撃がどうにかなる訳では無かった。

「それで、その速さはもう使えないだろう」

紅葉は、若葉に憎悪を込めた視線を向けながら若葉に斬りかかる。

若葉はすぐさま立ち上がって『八艘飛び』を発動させようとするが、脚の痛みでそれがはばかれる。

その間にも、紅葉が凶刃を振るう。

若葉は仕方が無く刀を構えて迎撃する。

しかし――――紅葉の膂力は予想以上に強かった。

「ぐぅあ!?」

剣が弾かれ、大きく仰け反る。

完全な隙に紅葉は返す刃にで若葉の胴に一撃を入れようとする。

「くッ!」

若葉は生き残っている右足で『八艘飛び』の脚力を発動。

どうにかその刃の射程圏内から逃れる。

「逃がさんッ!」

しかし、それでも紅葉は追い縋ってくる。

(こいつ、こんなに・・・!?)

よく考えてみたら、紅葉と辰巳が互角に戦っている時点で気付くべきだった。

若葉たち()()が使っている勇者システムでは、辰巳の潜在能力に()()()()()()()()のだ。

だから三年間、辰巳の(からだ)に合うように勇者システムを改良、強化していった結果、身体能力、防御力などが若葉たちの勇者システムよりもかなり強化されているのだ。

その結果、あの日の砲撃に耐えられた上に、強靭な膂力とあの剣技を体現できたのだ。

そして、その辰巳と互角に打ち合う紅葉が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

故に、若葉は紅葉に真正面からでは勝てない。

義経を使っていてもそれは同じ。

若葉は、完全に紅葉に押されていた。

どうにか防げてはいるが、それでもこの防御が破られるのは時間の問題だ。

どうにか打開する方法は無いものか。

 

 

 

 

 

あるには、ある。

 

 

 

 

 

しかし、これはまだ構想段階で、実践どころか使った事もない。

つまりはぶっつけ本番の技だ。

成功率は限りなく低い。

だが、この状況を打開するには、これを使うしかない。

しかし、それで勝てるかと言われれば、つい言い淀んでしまう。

それほどまでに、この技に確証が持てないのだ。

それに、この足で、成功するかどうかも分からない。

「ハアッ!!」

「ぐぅッ」

紅葉の一撃に、また大きく下がらされる。

しかし、このままでは――――

(迷ってる場合じゃないッ!!)

若葉は、覚悟を決めて、刀を納刀する。

「ッ!させんッ!!」

紅葉が踏み込んでくる。

一方で若葉は深く身を沈める。

紅葉が刀を振り上げ、上段からの振り下ろしを若葉に向かって振り下ろす。

それはあまりにも速く、すぐに若葉の頭上に迫る。

このままでは、頭部を真っ二つにされるのがオチだ。

 

 

 

 

 

次の瞬間、若葉は真横に向かって回避した。

 

 

 

 

「むっ!?」

それに振り下ろしが空振りに終わる。

しかし、先ほどの移動。

その速さは、若葉のこれまでの速さを遥かに凌駕していた。

(何をした・・・・!?)

そして、紅葉は若葉が避けた方向へ視線を向けた。

 

 

しかし既に若葉は紅葉の眼前に迫っていた。

 

 

「!?」

それに思わず目を見開く紅葉。

しかし、それすらお構いなしに若葉は刀を抜刀し、紅葉に一撃を入れに行く。

すんでの所で紅葉は若葉の居合を防ぐ。

居合を防がれた若葉はそのまま紅葉の脇を駆け抜けていく。

紅葉は、すぐさまその若葉を追いかけようとする。

しかし、既に若葉はそこにいた。

今度は驚愕する暇もなく、()()()()()()()()()()()()()

それを、どうにか防ぐ紅葉。

 

 

若葉が行っている事は、義経の能力の『奥の手』を使った、()()()()()()

切り札には、それぞれ『奥の手』が存在する。

それは、大量の体力を消費する代わりに、一時的に、あるいは強力な攻撃を繰り出す事が出来るのだ。

義経の奥の手は、『たった八歩だけ超神速を発揮する』ことだ。

足腰にかかる負荷はとてつもないが、それでも、たった八歩を踏み込む間だけは、若葉はこの世にあるもののどれよりも速くなる。

故に、たった一秒間、若葉は超神速の武人となる。

そのたった八歩の間に放たれる八連撃の居合の名は――――

 

 

 

 

「――――『八艘・居合』ッ!!!」

 

 

 

コンマの間に七撃目まで紅葉に叩き込む若葉。

その間を全て防ぎ切った紅葉だったが、その七撃目で僅かに隙を見せた。

(ここだッ!!)

若葉は、そこを狙って一直線に突き進む。

切られた左足は既に限界、おそらくこれが最後のチャンス。

だから若葉は、この一撃に全身全霊を込めて、紅葉に向かって抜刀する。

 

 

 

 

 

 

 

「――――甘いな」

 

 

 

 

 

 

次に舞い上がったのは、紅い鮮血。

それは紅葉のものでは無く、若葉から、僅かに舞い上がった物だ。

若葉の刀に血はついておらず、紅葉の刀は――――若葉の心臓に突き刺さっていた。

「な・・・に・・・!?」

確実に、決まった筈だった。

だけど、それはいとも容易くかわされ、代わりに反撃の一撃を入れられた。

「わざわざ作った(すき)に自ら飛び込んでくれるとはな」

「が・・・・か・・・」

心音が、急激に聞こえなくなっていくのが分かる。

それだけじゃない。

血の気が引いていく。胸に刺さった刃の冷たさが伝わってくる。それを中心に体温が吸い取られていきそうだ。恐怖が支配する。これを引き抜いたらどうなる?恐怖が痛みが分からない。怖い。死ぬ。死んだ?分からない。理解しようとすればするほど頭の中がぐちゃぐちゃに――――

「もう貴様は用済みだ。死ね」

「や・・・・やめ・・・」

若葉の胸から、紅葉の刀が抜かれる。

「ぁ、・・・・」

若葉の胸から、とめどない程の血が溢れ出てくる。

その量に、若葉は、それが自分の体から出ていると理解すれば、だんだんと意識が遠のいていく。

脚の力が抜け、自然と義経も解除される。

やがて、若葉は地面にうつ伏せになり、そして、そこに大きな血だまりを作りながら、沈黙した。

「・・・・ふん」

紅葉は、その若葉をゴミを見るような眼で一瞥すると、さっそうとそこから去ろうとする。

その足音を聞きながら、若葉は、心の中で、こうつぶやいた。

(みんな・・・ひなた・・・・・すまない・・・・)

そう謝罪し、重くなった瞼を下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――寝るんじゃねぇよッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――ッ!?」

ハッと目を覚ます若葉。

視界は明瞭。呼吸もしっかりしている。心臓の鼓動も――――聞こえる。

体が―――軽い。

ひれ伏していた血だまりから体を離し、起き上がる若葉。

なんだ、体が異常に軽い。

それに呼吸も安定している。というか、()()()()()()()()()()()()()

それに、刺された筈の心臓が元に戻っている。しかも、しっかりと鼓動を刻んでいる。

何が起きた?

それが一切分からず、若葉は混乱するまま。

しかし、突如背後から感じ取った殺気に気付き、勢いよく体を反転。その手に持つ刀で、その一撃を防ぐ。

「貴様、何故・・・!?」

「お前は・・・・!?」

鍔迫り合いの中、紅葉が信じられないとでも言うような表情で若葉に刀を押し込む。

しかし、そこで若葉は気付く。

 

紅葉の力が、そこまで強くない事に――――否、自分の腕力が強くなっている事に気付いた。

 

(これなら――ッ!)

「ぬぅあぁ!」

「な!?」

そこで、若葉は初めて紅葉を押し出した。

「ハァアッ!!」

さらに、若葉が一撃を紅葉に入れる。

それは、どうにか刃によって防がれたが、彼女は大きく下がった。

「ぐぅ!?」

やはり、力があがっている。

一体、何が起きたと言うのか。

心臓の突然の再生、否、死んだ筈の若葉の謎の復活。

それが、若葉にとっての最大の疑問。

しかし――――

「貴様・・・・」

紅葉が、憎悪のこもった眼で、若葉を睨み付けてくる。

どういう訳か知らないが、この疑問は後にしよう。

まずは―――

(目の前の敵を倒す―――ッ!!!)

若葉は、刀を構える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いは、さらに激化していく。

 




次回『激化』

戦いはさらなる方向へ。
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