足柄辰巳は勇者である   作:幻在

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大変お待たせしました!




激化

「ハアッ!!」

辰巳が剣を横に薙ぐ。

それを蛭間は飛んでかわす。

しかし、そこへ歌野の鞭が飛んでくる。

「ぐぅ!?」

その一撃をどうにか片腕で防ぐ。

「まだまだ行くわよ!!」

そこから歌野の鞭の連撃が殺到する。

しかし、蛭間は頭のシルクハットを取るや、すぐさま光の鳩を飛ばし、迎撃する。

爆発と爆風によって、鞭の軌道が乱れる。

「シット!」

「十分だッ!」

その隙に、辰巳が蛭間の背後に回り込み、剣を振りかぶる。

「ッ!?」

「対天剣術『振打』ッ!!」

バットをスイングするかのように振るわれた一撃が、蛭間を襲う。

しかし、蛭間はその一撃を後う事か、()()()()()()()()()()()()()()()()

「なんッ・・・!?」

「ハッ!」

さらに空いた手で五枚のトランプカードを投げる。

それを辰巳は下がってかわす。

「面倒な奴だ・・・」

「手品師なもので」

蛭間は嫌な笑みで答える。

(他の皆はどうしてる・・・・?)

ふと、辰巳は視線を蛭間から外す。

その隙を蛭間は逃す筈がない。

「余所見とは関心しませんね!」

「そりゃあ私がいるからねッ!!」

「ッ!?」

背後の歌野が襲い掛かる。

「小賢しいッ!」

蛭間は仕込み杖を一閃する。

しかし、歌野は体を反らしていとも容易く回避する。

「な・・・!?」

そのまま足を振り上げ、蛭間の顔を蹴り上げるような蹴りを放つ。

それを蛭間は体を反らしてかわす。

(まさかの格闘戦・・・!?)

それも、鞭を率いての死角からの攻撃を加えた奇想天外な体術だ。

どこでどうやったらそんな技術を会得できるのか・・・

「私は、常に考えて動いてるの。どうすれば被害を出さずに済むか。どうすれば相手を早く倒せるか。鞭はどんな風に振るって、私はどんな風に動けばいいか。それをいつも考えてた。そして、その結果がこれ。哮兄との特訓を重ねて、この三年ずっと磨き続けた体術。その結果がこれよ」

鞭を率いた近接格闘。

哮のセンスを頼りに殴られ続けるという特訓の末に手に入れた拳と鞭の複合格闘術。

 

それがこの『スネイク・アーツ』

 

蛇のように唸る鞭と殴打による、歌野の格闘術だ。

「ダダダダダダダッ!!」

拳で殴る、脚で蹴る、鞭を打つ。その圧倒的連撃に、蛭間は防戦一方になる。

しかし、そのまま黙ってやられる蛭間では無い。

その手には赤い玉。

「少し落ち着きなさい、(モンキー)

「ッ!?」

近付き過ぎた事が仇になったか。

火焔が二人の間で炸裂し―――――

 

「お願い、『雪女郎』ッ!!」

 

―――なかった。

直前でその紅い玉が凍り付いたのだ。

それも、どこからともなく白い空気を纏った矢が直撃して。

「なんですと!?」

「What!?」

歌野が視線を、矢が飛来してきた方を見ると、雪女郎を発動させてこちらにボウガンを構えている杏と、何かから杏を守っていると思われる球子が見えた。

そのまま、二人は歌野達のいる屋上に足を踏み入れる。

「辰巳!こいつら頼むッ!!」

「ッ!」

球子の叫びに、すぐさま周囲の状況を確認する。

周囲には、四つの衛星。

それら全て、杏と球子を狙っている。

それらから、辰巳は次の行動を瞬時に判断する。

「『疾風(はやて)』ッ!!」

風が如き速さで駆け抜けすれ違いざまに斬り捨てる高速剣技。

その速さで、一体目を斬り捨てる――――

「なッ!?」

だが、狙った衛星はいとも容易く辰巳の攻撃を避けた。

 

 

 

「まさか、仲間の所へ逃げ込むなんてね」

治郎がいやらしく笑う。

「ま、どうせ全員殺すんだ、一石二鳥、いや、一石四鳥って奴だ」

くっくっくと、治郎は嗤う。

 

 

 

 

 

が、その考えがあまりにも甘かった事を、あとあと思い知る事になる。

 

 

 

 

「すみません!敵の位置が分からなくて、しばらくそれらの相手をして下さいませんか!?」

「分かり切った事を聞くな。任されたッ!」

辰巳が笑って返す。

「球子、楯掲げろッ!」

「え!?なんでだよ!?」

「いいから!踏み台にするッ!」

「! そういう事か!ならタマにまかせタマえよ!」

球子が縦を掲げ、辰巳が高く高く飛び上がる。

そして、回転しながら、周囲の街並みを見る。

一方の治郎は、空中で身動きの取れない辰巳を、追撃しない手は無い。

「飛び上がったのが仇になったな。剣士クン」

衛星のうち二つが辰巳を挟む様に狙う。

そのまま、光弾が放たれる―――その前に。

どこからともなく二本の矢が飛来してきた。

「なんッ!?」

あわててかわす二つの衛星。

杏が下から狙撃してきたのだ。

さらに、

「少しコイツの攻撃凌いでくれないかしらッ!」

「今厳しいんだけど!?」

歌野の要求に、二つの衛星の攻撃を防ぐのに精一杯な球子が返す。

「私がどうにかするよ!」

「杏!?」

「大丈夫!無理はしないよ!」

「頼んだぞ・・・!」

球子は不承不承ながらも了承し、蛭間の前に出る。

「どれほど防げますかねッ!!」

蛭間の圧倒的連撃に、球子はその場で堪える。

「ぐぅ・・・ぅ・・・」

一方の杏は、衛星の攻撃を避けつつ、反撃する。しかし今は雪女郎を憑依させている。

ならば、氷結による攻撃が可能だ。

「凍れッ!!」

冷気を刃として放つ。

しかしそれを衛星はいとも容易くかわす。

(衛星が二つになったぶん、避けやすい・・・・でも、キツイッ!!)

衛星の光線が、杏の肩を撃ち抜く。

「あぐッ!?」

焼けるような痛みに、思わず苦悶に顔を歪める。

しかし、歯を食い縛って耐える。

「ぐ・・・うぅ・・・」

一方の球子は、致命傷は避けつつも、体中に傷を作っている。

「中々粘りますね・・・・ならこれはどうですか?」

黄色い玉を取り出した蛭間。

それを球子に投げつけると、玉の破裂と共に、球子を電撃が襲う。

「ぐぁぁぁあああぁぁあぁああぁあああ!?」

絶叫する球子。

しかし、球子は倒れない。

「やはり粘りますか。そろそろ倒れてくれるとうれしいのですが?」

「ハッ!そんなの、嫌に決まってるだろバーカ!」

球子は、意地を張ってそう言う。

「そうですか、ならばさっさとくたばって下さい!」

蛭間の攻撃の再開に、構える球子。

(早くしてくれ歌野ッ!!)

内心で、そう叫ぶ球子。

しかし、突然、地面が崩れた。

「「「なッ!?」」」

突然の足場の崩落。

それに下の階へ落下していく球子、蛭間、杏の三人。

否、もう一人、歌野だ。

「お前か歌野!?」

歌野が地面を踏み砕いたのだ。

「Yes!でもNo Problem!辰巳の援護はちゃんとするわ!」

「え!?それってどういう・・・!?」

杏が言い終えるのを待たずに、歌野は行動に移る。

なんと、鞭や拳で崩れた瓦礫を上空へ打ち上げたのだ。

その弾かれた無数の瓦礫は、未だ上空にいる辰巳と衛星に向かって飛んでいく。

「あぶね!?」

二つの衛星はそれらをかわしていく。

だが、彼は気付かない。

それが攻撃の為のものではなく――――

「捉えたぞ」

「!?」

次の瞬間、衛星の一つが、縦に真っ直ぐ真っ二つにされた。

そして、辰巳は、その飛んでいる瓦礫を()()()()()宙をかける。

「しまった!?」

「もう遅い!『滝打』ッ!!」

上段から滝が打つかのような一撃を振り下ろし、衛星を破壊する辰巳。

その間二秒。

そして、辰巳は瓦礫の一つを足場にして、一気に地面へ弾丸の如き速さで落ちる。

「やべッ!?」

辰巳が剣を振るう。

下にいた衛星の内一体を斬り捨て、もう一体を斬り損ねる。

「チッ!」

それに舌打ちする辰巳。

「流石辰巳!」

「すごいです!」

球子と杏が素直に賞賛する。

「信じてたわよ!」

「俺もお前が瓦礫を打ち上げるのは分かっていた」

歌野と辰巳が拳を打ち合わせる。

 

 

 

「なんてこったい・・・」

予想外の展開に、治郎は茫然とする。

「まさか一気に三つもやられるなんてな・・・」

だが、治郎は慌ててはいない。

「ま、あと一つ残ってるし、蛭間さんの援護でもしようかね」

くっくっくと笑う治郎。

 

 

 

 

 

 

 

 

その一方で。

激しい衝撃が周囲を破壊していく。

「ヤァァァアアッ!!」

友奈の怒涛のジャブのラッシュを、裕也が同じようにラッシュで返す。

それも、互いに片腕だけで拮抗していた。

その背後から千景が鎌を薙ぐ。

しかし裕也は飛んでかわすや、右手に持ったコンクリートの破片を一気に千景に投げる。

弾丸の如く飛んでいく破片をもろに喰らう千景だが、その姿は霞と消え、また無傷な千景が現れる。

さらに、裕也の左右から、もう二人の千景が出現。

「チッ!」

舌打ち、のちに片方の千景の振るった鎌を掴み、もう片方の千景にぶつける。

そして――――

「メテオスマッシュッ!!」

二人の千景の胴体に風穴を開けるほどの拳打が放たれ、二人の千景が絶命する。

しかし、すぐさまその二人の千景も霞と消える。

「チッ、厄介な能力だな」

「あ、そう!」

上空から千景が刃を振り下ろす。

しかし、裕也をそれをいともたやすく受け止め、吹き飛ばす。

「でも、個々の戦闘力は大したことないな」

ニヤリと笑う裕也。

その後ろから友奈が襲う。

「勇者パンチッ!!」

友奈最大の右のフィニッシュブロー。ハードパンチャーである友奈のその一撃は、ありとあらゆるもの打ち砕く。

「メテオスマッシュッ!!」

しかしすぐさま裕也も反撃する。

互いに拳が正面衝突し、吹き飛ばされる。

「きゃ!?」

「ぐ!?」

友奈は千景に支えられ、裕也はどうにか踏みとどまる。

「高嶋さんの『右』を相殺するなんて・・・・」

「でも相殺するだけなら、手はあるよ」

友奈は『右』の調子を確かめつつ、またファイティングポーズをとる。

しかし、千景にはわかる。

(高嶋さん、まだ・・・)

そう、本来の友奈の一撃なら、先ほどの衝突も打ち勝っていたはずだ。

だが、それが相殺されたということは、()()()()()()()()ことに他ならない。

それに、初めに『右』を決めた時も、そうだった。本当なら、あれで仕留めきれるはずだった。

なのに、決めれなかったということは、その時も友奈は手加減したのだ。

やはり友奈は()()()()()

それも致命的なほどに。

(やっぱり高嶋さんに、あいつは倒せない・・・・)

そう感じた千景は、友奈の前に出る。

「ぐんちゃん?」

「高嶋さん、援護をお願い」

「え?あ、ぐんちゃん!」

千景が走り出す。

その先では、裕也が瓦礫を掴んで握り潰し、手ごろなサイズにまで粉々にした後でぶん投げる。

しかし、七人同時に殺さなければ殺せない『七人御先』を宿している千景にはそれは効かない。

その一方で他五人の千景が一斉に裕也に襲い掛かる。うち一人は背後で待機している。

「「「「「ハァァッ!!」」」」」

六人の千景が一斉に鎌を振るう。

それぞれ別々の方向から、互いの邪魔にならないように、完璧な角度で入っていく。

しかし、あろうことか裕也はそのすべてを受け止めた。

「なッ!?」

それに驚愕する千景。

都合同時六撃。

右手、右肘、左手、左肘、そして歯。

それらで防いでいた。

(刃が、通らな――――)

「くたばれよ」

ニヤァ、と笑った裕也が、五人を一斉に弾き飛ばす。

そして、弾丸が如きスピードで六人の千景を進行方向から殴り飛ばし、一か所に集める。

「ぐんちゃん!」

「すっこんでろッ!」

裕也が一際巨大な岩を持ち上げ、それを友奈に投げつける。

しかし友奈はそれを左で破壊、一気に裕也に突っ込む。

「勇者―――」

「ノロい!」

「ッ!?」

裕也の拳が、友奈の拳よりも速く友奈に到達する。

どうにか左手で防ぐも、威力が高く、吹き飛ばされる。

「きゃぁああ!?」

「高嶋さん!?」

友奈に時間を取られたことでどうにかばらけることができた千景たち。

「よくも高嶋さんをッ!」

再度突撃する六人の千景。

だが、裕也の視線を全く別の方向を向いていた。

千景たちが鎌を振るう。

しかし裕也が地面を蹴り、一気に千景たちの視界から消える。

「!?」

それに目を見開く間もなく、共有される記憶から、裕也の狙いを知る。

「まさか・・・・!?」

裕也が向かったのは、隠れていた千景の居場所。

「しまった・・・・!?」

建物の中に隠れていた千景を、裕也は掴んで外に放り投げる。

そして、七人の千景たちが、裕也と()()()に全員とらえられる。

「死ね!!」

裕也の右腕が、赤く発行する。

「マグマメテオスマッシュッ!!」

文字通りの灼熱の熱戦が放たれる。

距離があるはずなのに、それはまるで極太の光線のように千景たちにせまる。

七人御先の唯一の攻略法、それは、()()()()()()()こと。

今、七人の千景が、裕也の熱線の直線上にいる。即ち、今、千景は、絶対絶命なのだ。

「しまっ・・・・!?」

死を覚悟する千景。だが、そこへ、友奈が飛び込む。

「奥の手発動――――!!」

友奈の右手に、風が収束する。

 

一目連の奥の手。

それは、巨大な暴風雨を巻き起こし、それを収束させて放つ、『圧縮開放型』の必殺技。

 

「神風・勇者パンチッ!!」

 

マグマの如き熱線と、暴風雨を圧縮した嵐。

その二つが正面衝突し、とてつもない衝撃をまき散らす。

「きゃあ!?」

「高嶋さん!」

空中にいた友奈たちは吹き飛ばされていく。

一方の裕也は、衝撃によって建物が崩れることに気付くや、すぐさま脱出して瓦礫に埋もれるのを回避する。

「ふう、危ない危ない」

やれやれというように呟く裕也。

友奈たちは吹き飛ばされ、ここにはいない。

「仕方ない、追いかけるか――――」

そう呟いて、追いかけようとしたとき。

 

 

 

グサッ

 

 

 

「・・・・・は?」

胸に感じる、冷たい感触。

「・・・やっぱり、足柄さんの言った通りだった」

それは、巨大な刃。反りのあるそれは、刀にしては大きく、あまりにも幅が広い。

そして、その刃は、裕也の『御霊』を破壊していた。

「な、なぁぁぁあぁぁあああ!?」

驚愕に絶叫する裕也。

「な、なんで!?なんでだぁ!?」

「簡単な話よ」

裕也の熱線と、友奈の暴風の衝突の瞬間、一人の千景が、地面に向かってもう一人の千景を投げた。

衝撃波が巻き散らされる中、千景は刃を地面に突き立て、吹き飛ばされるのを阻止する。

そして、気配を殺し、裕也に接近する。の筈が、偶然にも裕也はこちらに背を向ける形で着地してくれたので、後は鎌を振るって刃を突き立てるだけで良かったのだ。

「あれほどの力を持っていたのに、間抜けな最後ね」

千景の憐れむ様な視線に、裕也はその表情を怒りに歪めて叫ぶ。

「ち・・・くしょお・・・」

徐々に体が砂に変化していく。

それは、バーテックスにとっては絶命を意味する。

「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおぉぉおおッ!!!!」

絶叫と共に、砂になり消滅した。

その様子を眺めながら、その場に立っていた千景も消失した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その情報は、すぐさま他のバーテックス人間に衝撃となって伝わった。

そして、同時に勇者たちにも伝わった。

「ッ!?今のは・・・」

『やべえよ蛭間のダンナ、裕也がやられたッ!』

治郎の報告に、蛭間はその表情を唸らせる。

「今のって・・・」

「きっと、友奈さんと千景さんがやってくれたんですよ・・・!」

球子と杏が歓喜する。

Congratulation(やったわね)!」

「あと三人、さっさと倒すぞッ!」

歌野も喜び、しかし辰巳は油断せずに剣を構える。

 

その時。

 

「うわぁぁあぁあああ!?」

「きゃぁぁああぁああ!?」

『うぉぉお!?』

突如として建物の壁が悲鳴と共に吹き飛ぶ。

「いったたぁ・・・」

「せ、背中から当たった・・・・」

粉塵の中で、頭を抑えながら起き上がる友奈と、背中を抑えて悶えている千景がいた。

「友奈、千景!」

「あ、たっくんにタマちゃんにアンちゃんに歌野ちゃん!」

「やったのか!?」

辰巳が聞く。

「それが・・・」

「ええ、七人御先で仕留めたわ・・・」

「え!?そうなの!?」

友奈が驚きに目を見開く。

「その様子じゃわかってないようだな・・・・」

「あはは・・・」

額を抑えて呆れる千景と苦笑する杏。

「貴方達・・・」

その時、酷く低い声が聞こえた。

「戦いの最中に楽しく雑談とは、随分余裕ですねぇ・・・」

見ればそこにはゆらりとした動きをする蛭間がいた。

それを見た全員が、すぐさまそれぞれの武器を構える。

「そんなに余裕なら、すぐに余裕が無くなる程の殺人劇(ショー)を見せてあげますよッ!!」

その蛭間の表情は、憎しみが込められた眼で、嗤っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――――。

紅葉の刃が、若葉を吹き飛ばす。

「ぐぅ!?」

靴底を擦り減らして後退する若葉。すかさず紅葉が追撃する。

しかし若葉は刀を、振るって迎撃。さらなる紅葉の追撃。すかさず迎撃し、弾き、今度は若葉が反撃に転じる。だがその攻撃を紅葉はいとも容易くかわし、若葉の腹に蹴りを入れる。

「ぐぅ!?」

それで吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる若葉。

「がは・・・・!?」

「死ねッ!!」

そこへ紅葉が突きを繰り出す。

背中を叩きつけられたことで、肺の中の空気は吐き出され、一瞬動けなくなる筈。

受け身取ったとしても、それ以前に腹を蹴られた衝撃から立ち直るまでには、復活はできない。

その事を踏まえた上で、紅葉は若葉に止めを刺しにかかる。が。

「ぜ、ぁああ!!」

「ッ!?」

しかし若葉は立ち直って見せた。

手放し掛けた右手の刀を握りしめ、そのまま片手で紅葉の刃を逸らし、眼球へ突き立てられる筈だった一撃を逸らしきる。

すぐさま若葉はその場で回転、壁に沿って紅葉から離れようよする。

しかし、紅葉はそんな若葉に追撃をしかける。

壁に突き刺さった刀を、その刃が向いている方向に刀を振るい、回転をつけながら壁づたいに逃げる若葉を追撃する。

紅葉の刀が若葉を捉える瞬間、若葉はすでに刀を収めている。

「ハァッ!!」

電光石火。洗練された若葉の居合が、紅葉の刃と激突する。

弾いたのは―――若葉。

弾かれたのは―――紅葉。

「なに!?」

「ハァアッ!!」

驚愕する紅葉を他所に、返す刀で追撃する若葉。

首を狙った一撃。

しかし紅葉は体を反らしてかわす。

「くッ!」

「ハァッ!」

腹に蹴りを貰い、また壁に叩きつけられる若葉。

崩れた態勢からの無理矢理の蹴りだが、その態勢を地面に手を着く事で立て直し、再度、若葉へ追撃する。今度は様々な方向からの連撃。合計八撃。奇しくも先ほど若葉が放った『八艘・居合』と同じ数。

しかし、『八艘・居合』と違う点は、三次元移動しながらの攻撃ではなく、一方方向からの連撃だという事。

その連撃を、若葉は見切れるのか。

先ほどの蹴りを鳩尾に喰らった若葉は、苦しそうに顔を上げる。

行ける。そう思い、紅葉は刃を振るう。

あまりにも速い、八連撃。常人では見切れない、超高速の連続切り。

その連撃を、今の若葉が防ぎきれるはずが――――

「何ッ――――!?」

 

防ぎ切った。

 

あまりにも、常人離れした反応速度で、紅葉の八回の連撃を、全て弾ききった。

「オォッ!!」

若葉が、上段から真っ直ぐ振り下ろしてくる。

その一撃を、紅葉は下がってかわす。

 

何が起きている。

 

立ち直りが早い。動きが軽い。攻撃が重い。

それらは良い。どれも対応圏内だ。

 

だが、あの異常な『反応速度』はなんだ?

 

ありとあらゆる攻撃に対する対応が、全て()()()()()()()()()

それで()()()()()()()という事実。

紅葉は思う。

この手で心臓を突き刺すまでは、奴にそれほどの力は無かった筈だ。それ以前に、あれ程の反応速度は持っていなかった筈だ。

いや、それ以前に、()()()()()()()

確かにこの手で心臓を貫いた筈だ。

位置も狂わず、出血も確認した。

 

確かに心臓の鼓動を止め、息の根を止めた筈だ。

 

なのに、何事も無く生き返ったのだ。

足の傷も無くなっている。

あれほど深い傷を、あの一瞬でどうやって直したというのか。

それが、分からない。

分からないのだ。

しかし、そう考えている間に、敵は既に攻撃態勢に入っていた。

 

 

 

 

 

熱い熱い熱い熱い熱い熱い。

焼ける焼ける焼ける焼ける。

燃える燃える燃える燃える。

 

体が熱い、内側から焼けそうで、今にも燃えそうだ。

そう思うほど、今、若葉の体は滾っていた。

空気を吸う度に釜戸の炎に息を吹きかけるかのように、体の熱が増す。

それがエネルギーとなって、血流を加速させる。

このままアクセルを踏み抜けば、自分はどうなってしまう?

今にでも爆発してしまうのではないのか?

爆発四散して、何もかも消し飛んでしまうのではないのか?

 

怖い

 

それがとても怖い。だから――――

(私は、全力を出せない・・・出したくない・・・・!!)

その事実に、若葉は紛らわすように剣を振り下ろす。

荒い剣戟。

しかしその全てを紅葉はかわし逸らし弾く。

(乱暴な太刀筋だ・・・・避けられて当然か・・・)

しかし、それで諦める訳にはいかない。

仕留めなければならないのだ。

ここで、コイツを仕留められなければ、諏訪の者達を安全に四国に送り届ける事が出来ない。

だから振るう。とにかく振るう。

コイツを任された者として、刀を振るい、とにかく仕留める。

刀が弾かれ攻守が逆転する。

敵、紅葉の連撃が迫る。若葉は()()()()防ぎきる。

紅葉の蹴りが迫る。若葉は身を引いて()()()()威力を殺す。

斬撃が迫る。()()()()対応する。攻撃が迫る。()()()()対応する。攻撃、()()()()対応する。()()()()対応。()()()()対応。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()―――――

 

()()()()、対応していく。

 

全てがギリギリの対応。一歩間違えれば致命傷は間違いはない。

全力も出さずに、対応出来ているだけでも、上出来だろうか。

とにかく、敵の攻撃を凌ぎきる。

()()()()、対応していく。

 

 

 

 

 

 

 

乃木若葉は気付かない。

 

 

 

 

 

 

「ハアッ!!」

反撃に剣を振るう。

その時、若葉の剣が、一瞬青く光った。

「ッ!?」

その時だけ、若葉の剣速が急激に跳ね上がった。

威力も、段違いに跳ね上がる。

 

 

 

 

乃木若葉は気付かない。

 

 

 

 

突如、紅葉の胸倉を掴んだ。

「な!?」

その時、若葉は紅葉を引き寄せ、囁いた。

「――――調子に乗るなよ」

「――――ッ!?」

次の瞬間、壁に叩きつけられた。

「がッ・・・あッ・・・!?」

それだけじゃない、壁を突き抜け、建物の向こう側へ叩きつけられる。

「ぐ・・ぅう・・・」

「やれやれ。何考えてんだよコイツは」

どうにか起き上がる紅葉が見たのは、生大刀を片手に肩に担ぎ、崩れた建物から歩いてくる一人の男の姿だった。

「全力を出すのが怖いって、以外と臆病だったんだな。ま、それも仕方ねえか。待ってる奴がいるんだからよ」

彼女らしからぬ笑みを浮かべる、彼女。

いや、違う。

「お前は・・・誰だ・・・!?」

「ん?俺か?」

彼女の声で、彼女の顔で、『彼』は答える。

「俺は――――」

 

 

 

しかし、その声は、突如立ち上った黄昏色の光によってかき消された。

 

 

 

 

 

 




次回『終局』

ここに、また一つ、戦いが終わる。
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