足柄辰巳は勇者である   作:幻在

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終局

それは、数分前。

「ハァアアッ!!!」

無数の鳩が襲い掛かり、それを歌野が全て撃ち落とす。

その間を縫って杏がボウガンで狙撃するも、そこへ分かっていたかのように鳩が立ちはだかり、防ぐ。

その瞬間に投げ込まれた赤い玉が爆発、火焔を巻き散らして杏を襲う。

「『雲刈』ッ!!」

そこへ辰巳が割って入り、その炎を引き裂く。

そこへ光弾が迫り、それを球子が防ぐ。

「くッ、流石に鳩が多すぎるわ!」

「狙撃も防がれてしまいます!」

「まだあの丸い奴がいるからそれも警戒しねえといけねえ!」

余りの数の多さ、狙撃への防御、本体のいない敵の攻撃。

それらの要素によって、今、彼らは膠着状態を余儀なくされていた。

「ふふ、どうしましたか?もう見飽きてしまいましたか?」

蛭間が、くっくと笑う。

その頭にシルクハットをかぶっておらず、そのシルクハットは地面に置かれており、その穴からは無数の鳩が吐き出され続けていた。

「あれをどうにかして欲しいんだけどねぇ!」

「く、杏!冷気だ!」

「でもそれじゃあ皆さんに・・・・」

「向きを指定すればいい!」

「く・・・・すみませんッ!!」

杏が雪女郎の力を解放する。

しかし―――

「させませんよ」

剛炎が立ち塞がる。

「あつっ・・・!?」

その炎の前に、杏の冷気が全て無効化される。

「あんずの冷気を無効化したのか!?」

「Dangerous!厄介ね」

「そんな・・・・」

その時だった。

蛭間の横の壁が突然粉砕される。

「むッ!?」

「勇者パーンチッ!!」

友奈渾身の『右』が、蛭間に炸裂する。

しかし、蛭間はそれをいとも容易く躱す。

「おっと惜しい」

「くッ!」

友奈は悔しそうに顔を歪める。

そんな中で、辰巳は思う。

(まだか、千景・・・!!)

 

 

 

 

 

千景は、隠れているであろう最後のバーテックス人間を探していた。

「どこにいるのよ・・・!?」

七人御先の力で七人に分裂しているとはいえ、相手がどこにるのかは困難を極める。

「敵は予想以上に強い・・・それに、衛星も最後とは言え、かなり厄介・・・・急がないと・・・・」

千景は、急ぎつつ、周囲に注意を払いながら敵を探す。

(どこにいる・・・・私なら、どこに隠れる・・・・?)

一つ、高台から様子を見る。

二つ、地下に隠れて遠隔操作する。

三つ、建物に隠れる。

この中で、敵が取る行動は・・・

「ッ!」

千景は、他の千景とも思考を共有する。

そして、その三つの場所を、()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらほら、どうしましたか!?」

「くぅ!」

蛭間の仕込み杖の剣捌きに、友奈はどうにか手甲で対抗する。

「友奈!」

そこへ辰巳が入り込み、入り込む者全てを斬り捨てる『縄張』で対抗する。

「ゼッァアッ!!」

「ぐッ!?」

辰巳が蛭間を下がらせる。

「ハアッ!」

そこへ歌野の鞭が迫り、続けて蹴りが襲う。

蛭間はその二連撃を、鞭は飛んで、蹴りは素手で受け止める。

「ここだッ!!」

球子が楯を射出する。

「ここですッ!!」

さらに別方向から杏がボウガンを放つ。

「無意味ですッ!!」

しかし、蛭間はカードを取り出すや、それを投げて球子の楯と杏の矢を弾く。

「くッ・・・」

「くそ・・・!!」

そこへ辰巳と歌野が飛び込む。

完全に息の整ったコンビネーションアタック。

互いに目を合わせずとも、まるでお互いの動きが手に取るかのように分かるかのように、二人は蛭間に激しい連撃を叩き込んでいく。

「さすッがにッ貴方達ッ二人はッ勘弁ッです、ねッ!!!」

「「ッ!?」」

蛭間がカードを取り出す。

「ストレートフラッシュッ!!」

「ぐあ!?」

「まぶしッ!?」

五枚のカードが輝き出し、二人の視界が焼かれる。

それは、音無しの閃光爆弾(フラッシュバン)

まるでカメラのシャッターのように輝いたその光に、二人の網膜は焼かれる。

蛭間は距離を取って、シルクハットから再度鳩を出す。

「鳩が来てますッ!!」

杏が叫ぶ。

それを聞いた二人の行動は、まさしく予想外なものだった。

「「逃がすかッ!!」」

なんと、前に出て自ら鳩の大軍に突っ込んだのだ。

「何!?」

まだ視界は白い。

だが、それでも、()()()()()()()()

そして、辰巳の剣技によって磨かれた観察眼と、歌野の獣じみた直感が、蛭間の行動と鳩の動きを見切っていた。

「進みなさいッ!!」

「任せたぞッ!!」

歌野が鞭を振るい、鳩を叩き落とし、歌野が作った道に辰巳が自らつっこむ。

「タマたちも手伝うぞッ!」

「援護します!」

「前は任せて!」

球子が楯を投げる。杏がボウガンを撃つ。友奈がジャブを乱発する。

それによって辰巳が蛭間への道が開け、一気に辰巳は蛭間への距離を縮めにかかる。

「二歩で到達します!!」

杏の叫びに、辰巳は蛭間との距離を測り、飛び込む。

剣を掲げ、上段に構える。

「対天剣術――――」

辰巳の射程に、蛭間を捉える。

「―――『滝打』」

「くッ!」

蛭間が仕込み杖を掲げるも、細身の刀身のソレは、大剣(グレートソード)に近い両手剣(ツーハンデッドソード)の攻撃に、耐え切れない。

結果、その刀身は折れる。

「ぐぅ!?」

(浅い・・・!)

緑の玉を投げる蛭間。そこから風が巻き起こり、辰巳を後退させる。

「どう!?」

「浅いッ!」

歌野の短い問いかけに、辰巳も短く答える。

そこでやっと視力が回復していき、視界が鮮明に見える。

「ぐ・・・・お前たち・・・!!」

蛭間が、恨めしそうにこちらを見る。

「まだやる気か・・・!?」

球子が楯を構えつつそう呟く。

その時だった。

突然、辰巳の携帯が震動し、辰巳はそれを取り出して耳に当てる。

「千景か・・・!?」

『最後の一人を見つけたわ!』

「ッ!!」

辰巳はすぐさま周囲に目配せする。

それを見た一同は一斉に構える。

「どこだ・・・!?」

「悠長に通話とは、余裕ですねぇッ!!」

蛭間がカードを投げる。それを球子が防ぐ。

「やらせるかよ・・・・!!」

球子が、そう叫ぶ。

「貴様・・・・!」

「・・・・そうか。分かった」

ふと、辰巳が、そう呟いた。

それにその場にいる者達全員が視線を向ける。

そこには、携帯を片手に耳に押し当て、千景と通過している辰巳の姿があった。

「ここから、北北西だな」

そうして、辰巳は地面に剣を突き立てた。

そして、辰巳は叫ぶ。

 

「―――来やがれ、ファブニールッ!!」

 

その身に宿すは欲に塗れた人の成れの果て。

その身は灰色に、竜鱗を纏い、この世の全てを略奪する、邪竜。

 

今、辰巳は、ここで己が最大の切り札(ワイルドカード)を切った。

 

「辰巳・・・!?」

「何故・・・!?」

「ここでファブニールを・・・!?」

杏、球子、友奈が驚いている中、辰巳は、ある方向に剣を向けた。

 

そちらは北北西。今、辰巳が呟いた方向。

 

それで、歌野は理解する。

「ッ!!」

いきなり蛭間に襲い掛かる歌野。

「おっと惜しい」

しかし蛭間はそれを回避する。

「隙をついて私を仕留めるつもりでしたか?それはいささか傲慢というものでは―――」

「セェイッ!!」

蛭間が言い終える前に歌野の後ろ回し蹴りが蛭間の顎を狙うが、それさえもかわされる。

しかし歌野も追い縋る。

鞭と体術の複合格闘技『スネイクアーツ』を率いて、歌野は蛭間を襲う。

それは余りに激しく、一切の隙を許さぬ猛攻だった。

その歌野の猛攻に、蛭間も余裕をなくしていく。

わずか一分以下の攻防の末、歌野の蹴りが、蛭間を捉える。

「ぐぅ・・・!?」

「今よ杏!アイツの脚を凍らせて!」

「え!?わ、分かりました!」

歌野の叫びに戸惑いながらも、杏は雪女郎の冷気を発動。

それによって蛭間の脚が凍り、その場から動けなくなる。

「く、こんなもの――――」

 

「我こそは、邪悪なる竜である――――」

 

祝詞が、聞こえた。

それに、蛭間は視線を向けた。

そこには、剣を掲げ、黄昏色の光を巻き散らし、竜の鎧を纏った辰巳がいた。

「―――――まさか」

 

「撃ち放つは竜の咆哮、染め征くは黄昏の景色――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっべぇ!?」

その様子は、衛星を介して、治郎にも見えていた。

辰巳達のいる、()()西()()()()、一目のつかない、路地裏から。

「このままじゃ()()()()を喰らっちまう―――」

そう、今、治郎は辰巳の『奥の手』の射線にいるのだ。

このままでは、治郎は、辰巳によって消し飛ばされる。

「そんな訳にはいかねえ。絶対に生き残って、奴らに復讐を―――」

 

「――――そうはさせないわ」

 

「!?」

突如として、後ろから何者かに抱き着かれる。

「お前・・・!?」

「年貢の納め時よ!」

彼岸花を想起させる紅い装束を纏った、郡千景だ。

「チッ!離れろ!」

暴れる治郎。しかし。

「大人しくしなさい!」

「な!?」

振り上げられた右腕に、さらにもう一人の千景が抱き着く。

それだけではない。

左腕、両足、前方から腰。

合計六人の千景が、全力で治郎を抑え込んでいた。

「おい・・・待て・・・・やめろ・・・・!!」

「ここで、消えなさい!!」

「い、嫌だァァアアアアッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――今こそ、天上の神々を失墜させ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぅ!!」

赤い玉を取り出し、凍った足に投げつけようとする。

しかし、そこへ歌野の鞭が迫り、その赤い玉を叩き落す。

「―――ッ!!!貴様らァァアア!!」

蛭間は、地獄からの叫び声のように、憎しみの表情で歌野達を睨み付ける。

しかし、歌野は怯まない。

 

「これが、貴方の運命(Fate)よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――この樹海(もり)に、今一度、我が存在を刻む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、戦いの中で進化した、邪竜の咆哮。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――撃ち放つ『黄昏に咆える邪悪なる竜(ファブニール・フォン・アテム)』ッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伊予島杏から見て、その一時だけ、辰巳が、本物の邪竜に成ったように見えた。

それは、黄昏色の幻想のようでもあった。

辰巳が、黒い竜と成り、息を大きく吸い込んだかと思えば、次の瞬間には、その咆哮を解き放っていた。

黄昏色の竜の咆哮(ドラゴン・ブレス)。あの日の咆哮よりも、一際強大な力の奔流。

それが、蛭間を呪詛の断末魔と共に飲み込み、長野の街を駆け抜けた。

そして、その咆哮が駆け抜けた先には、何も残っていなかった。

 

 

 

 

「――――凄い」

そして、やっとの事ではき出せたのは、その一言だけだった。

「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」

辰巳は、明らかに疲弊した状態で、剣を下ろしていた。

そこで、辰巳の携帯が鳴り、辰巳がそれを取り出して耳に押し当てる。

「千景か・・・?」

『威力が強すぎるわ!退避してた私まで巻き込むつもり!?』

「それはすまない。それで、もう一人の方は?」

『私と一緒に跡形も無く消し飛んだわ』

「そうか・・・」

辰巳は、安堵したかのように呟き、ファブニールを解除する。

「ぐ・・・!?」

反動で、体に痛みが走り、思わず膝をつく辰巳。

「辰巳!」

「たっくん!?大丈夫!?」

「ああ、動けなくはない。が、流石にキツイかな・・・」

杏も雪女郎を解除し、辰巳に駈け寄る。

「無理しないでください」

「無理して勝てるなら、それに越した事はないだろう」

どうにか立ち上がりつつ、辰巳は体の調子を確認する。

そして、一同にいう。

「千景と合流して若葉の所に行くぞ」

その言葉に、意義を唱える者達はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――」

紅葉は、茫然としていた。

この短い間に、一気に三人もの同胞が殺された。

「おー、今のなんだ?すげえ威力だったけどよ。あれ、こっち側の奴らの攻撃だったりしてな」

目の前の存在は、面白そうに先ほどの光に興味津々だった。

それが、紅葉の火に油を注ぐ行為だという事には気付かずに。

「何が面白い・・・・」

「?」

「一体、何が面白いって言うんだッ!!」

紅葉が叫ぶ。

「私の大切な同胞(なかま)が死んだ!それの何が面白い!!」

紅葉は叫び、目の前の存在(てき)に斬りかかる。

しかし、その存在(てき)は、それをいとも容易く躱すと、紅葉の腹に一撃、蹴りを入れて、そのまま後ろの建物の壁に叩きつけた。

「がは・・・!?」

「その理由には、俺も分からくはねえよ。だけどな。()()()()()()()()()()()()()()

その存在は言う。

「一から十まで、お前らの仲間意識の一切を否定してやる。どんな理由があろうが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

その存在は、そう断言した。

その言葉に、紅葉は、内側から、何かが沸騰していき、爆発しそうな程の、胸の中の激情を燃え上がらせていた。

「きぃさぁまぁぁああ・・・・・!!」

今にも激突しそうな、紅葉と、その存在。

その存在は笑う事無く、青い柄の刀を片手に構える。

紅葉は怒りに顔歪めながらも、両手で赤い柄の刀を握りしめる。

一触即発、そんな張り詰めた空気が、場を充満した。

 

その時――――どこからともなく一羽の鷹が紅葉とその存在の間に割って入った。

 

「「!?」」

それに驚く二人。

しかし、紅葉の方は、見知らぬ乱入者というよりも、知っている人物が割って入って来たかのような驚き方だった。

その鷹は、その存在を一度睨み付けると、すぐさま紅葉へと視線を向けた。

その鷹の行為に、紅葉は一瞬体を強張らせ、やがて悔しそうに顔を歪めると、「分かった」と一言呟いて、刀を鞘に納めて飛び上がった。

「な!?逃げんのか!?」

その存在は叫ぶ。

しかし、紅葉は建物の上からその存在を見下ろし、やがて、口を開いた。

 

「―――この借りは必ず返す。首を洗って待っていろ、勇者ッ!!」

 

そう言い残し、去っていく紅葉。

「・・・・・なぁんか、とんでもねえもん着せちまったな」

その存在が、申し訳なさそうに、しかし気楽にそう呟いた。

「ま、為せば為るだろ」

そう一人頷き、ソレは内側に()()()()()()()少女の意識に語り掛ける。

「悪いな、勝手に体借りちまって・・・そう怒んなって・・・・ああ、そうだ・・・・んだよ、もう少し誠意のある奴と思ってたって?馬鹿言ってんじゃねえよ・・・ま、なんだ、今のお前は()()()()()()から、これだけは承知しといてくれよ。・・・・ま、いきなり言われても混乱するわな」

傍から見れば、一人で喋りまくっている変人のように見えるだろうが、本人は違う。

「それと、そろそろ俺は消える・・・ああ?水都?いいよ。もう俺の言葉なんか必要ねえって。・・・・固い奴だなお前は、それじゃあモテねえぞ?・・・あーわりいわりい。怒んな怒んな。・・・ま、なんだ。この力を制御できなきゃ、アイツらには勝てねえ。いいか。怖がるな。この力は、もうお前のもんだ。・・・・使い方だぁ?んなもんセンスだよセンス。こうパーッとやってワーッとわればいいんだよ。・・・分からねえか。まあいい。そろそろ限界だな」

ソレは、空を見上げる。

「・・・・・最期に、一言言っとくぜ」

ソレは、誇らしげに笑って告げた。

 

「歌野と水都を任せた」

 

そして、ソレの意識は、落ちた。

「若葉ー!!」

「若葉ちゃーん!」

「若葉さん!!」

「無事か若葉!?」

「乃木さん」

「若葉ー!こっちは片付けたわよー!」

それと同時に、彼女の元に、彼女の仲間たちがやってくる。

「若葉、アイツは?」

「・・・・どうにか退けた。だが、逃がしてしまった」

「そうか・・・・・」

少女―――乃木若葉は、空から目を離し、自分の掌を見る。

そして、それを握りしめ、一言。

「・・・・ああ、必ず」

若葉は、その胸に、一つの約束を抱えて、振り返る。

「戻ろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

乃木若葉は気付かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その身が、『狗ヶ崎哮』に成りつつあることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

諏訪よりも北、東北地方にて。

そこに紅葉は、膝をついて(こうべ)を垂れていた。

「・・・・今回は失態だったな。紅葉よ」

そんな紅葉に声をかけるのは、鷹を肩に乗せた、一人の女性だった。

その姿は、豊満も良い所ではあるものの、見る者全てを魅了するような美貌を持っていた。

それだけではない。彼女の他にも、まだ九人。彼女を入れると十二人もいる。

「・・・・申し訳ありません」

「よい。今回は妾たちも応援を送れなかった故、お前は何も悪くない」

「いいえ、この度、我が同胞たちが死んだのは、私がまだ弱かった故です。しかし、どうか処罰は待って欲しいのです」

「ほう」

女性は、面白げに笑みを浮かべる。

「奴らに、復讐する機会を与えて欲しいのです」

まるで、何かを抑え込みながら、絞り出すかのような声だった。

それは、彼女の激情の激しさを物語っていた。

「ふむ・・・・よかろう」

女性が、座っていた玉座らしき場所から飛び降り、紅葉の前に降り立つ。

「しかし、今のお前はまだ弱い。故にお前には妾直々に稽古をつけてやろうぞ」

「ッ!?」

その言葉に、紅葉は顔を挙げる事はせずとも、反応はした。

「そなたの剣技は、確かに卓越しておるが、まだ()()()()。その上、あの精霊とかいう異形の力にも対抗せねばならん。今は亡き『黒騎士』不道(ふどう)(みお)の憎悪の力は、あの足柄辰巳とかいう()()()の『黄昏の力』に敗北した。それ故に、そなたもそれ相応の力を手に入れればならん」

「・・・・・何をすればいいのでしょう」

その返答、女性は満足げに笑う。

「簡単な話よ。そなたのその憎悪。それを、お前の望む形に具象化させればよい。しかしその為には、もっと食わねばならん。お前の場合。あと()()()()()かの?」

その女性の言葉に、紅葉は内心で歓喜の叫びを挙げる。

「うれしいか?」

しかし女性はそれすらも見据えたかのように紅葉に囁く。それに紅葉の体が強張る。

「ならば行くがいい。その上で稽古をつけてやろう」

「・・・・・ありがとうございます」

紅葉は感情を押し殺した声で、早急にその場を立ち去る。

その様子を見送る。

「ホンマにいいんかいな?」

そこへ、なんともふざけた表情をした男が女性に歩み寄る。

「よい。奴はまだまだ伸び代がある。おそらく、この御竜(おりゅう)を超えるかもしれん」

「マジでかいな?それはつまり、ウチらを超える事と同義だということやで?」

「そうだ。しかし、忌まわしき事か、あの勇者一向の中で、あやつを退けた乃木若葉という女は、()()()()()()()だというのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「それはつまり、あの勇者(ブタ)もまだ強くなるって事ですかいな」

男の口調は、とても軽い。とても緊張感が無い。

しかし、その眼にこもる憎悪だけは、それが、彼もまた、人類に絶望し滅亡を望む者たちの一人だという事が、ひしひしと伝わってくる。

「しかし、敗北した訳ではない。十分に殺し得る可能性はある。だからこそ、行こう」

女性、御竜は、背後にいるあと八人の者たちに言い放つ。

 

「人類最後の生存権、四国に向かうぞ。いいな?十天将(じってんしょう)たちよ」

 

 

 

十天将。それはまさしく、天に居座りし神々より、神の家臣として認められた、バーテックス人間の中でも最強の力を有する、十人の精鋭。

 

 

 

『悪竜』の白銀(しろがね)御竜(おりゅう)

 

『無残』の市丸(いちまる)(じん)

 

『英雄』の志典(しでん)浩二(こうじ)

 

『傀儡』の浅井(あざい)久遠(くどう)

 

『空襲』の榛名(はるな)幸恵(さちえ)

 

『斬殺』の川津(かわず)五右衛門(ごえもん)

 

『負情』の御須(ごす)聖羅(せいら)

 

『怪物』の峻司(しゅんじ)(ひらめき)

 

『災厄』の清水(しみず)(れい)

 

『叛逆』の望奴(もうど)明石(あかし)

 

 

 

これが、十天将。十人の、バーテックス人間の精鋭。

 

それに対抗するは、七人の勇者たち。

 

 

 

 

 

 

 

 

後、とある事件を通して、郡千景が流れ着いた街の神社の巫女が書き記した書物には、彼らの事はこう書かれていた。

 

 

『邪竜』の足柄(あしがら)辰巳(たつみ)

 

『天狗』の乃木(のぎ)若葉(わかば)

 

『鬼王』の高嶋(たかしま)友奈(ゆうな)

 

『雪女』の伊予島(いよじま)(あんず)

 

『炎輪』の土居(どい)球子(たまこ)

 

『妖狐』の(こおり)千景(ちかげ)

 

『大蛇』の白鳥(しらとり)歌野(うたの)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さあ、ここからだ。

 

ここからが、真の戦いの始まりだ。

 

天と地、双極にして対となる、二つの勢力の戦い。

 

天より見下すはその玉座を()()()()()()()()

 

地より見上げるはこの世界の神々の集合体にして、世界樹(ユグドラシル)

 

攻めるは十人の幹部。迎え撃つは七人の勇者。

 

 

 

 

さあ、『聖戦』を始めよう。血みどろの『戦争』を始めよう。どちらが正義かを決める『大戦』を始めよう。

 

 

 

さあ、賽は投げられた。

 

 

 

 

 

だが、これだけは予言しておこう。

 

 

 

悪魔の王にして魔界の王に見初められし少女と、地獄の業火にその身を焼かれながらもその憎悪を忘れなかった少女。

 

 

邪竜(ファブニール)をその身に宿す男と、悪竜(ヴォーティガーン)をその身に宿す女。

 

 

 

この、二対の戦いにおいて、片方だけの生存だけは許されないという事を――――




次回『変化』

一人は幻想の獣へと、一人は人ならざるモノへと。
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