足柄辰巳は勇者である   作:幻在

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レクリエーション

その日の授業は、火野の神託を基にした対策会議となった。

「じってんしょう?なんだそりゃ?」

球子が、黒板に書かれた文字を見て思わずそう呟いた。

「十天将、天上の神々が、たった十人にだけ、力を分け与えた精鋭たちの事です」

司会のひなたの補佐を担っている水都が、資料を見ながらそう答えた。

 

補足しておくが、辰巳の妹である足柄火野は、他の巫女とは違い、神樹の悪い神託(じょうほう)を受け取る事の出来る巫女だ。

その神託は、最悪の未来と情報を火野に与え、それから、最悪に対する対策を講じる事が出来るのだ。

 

「火野ちゃんからの報告では、敵の数は全部で十人。それぞれが勇者の精霊使用時と同じ能力を有しているとの事ですが、その能力までは分からなかったようです」

若葉が顎に手を当てる。

「能力は分からないが、十人はいると・・・それでひなた、その十人に対する対策だが・・・」

「はい。相手が十人なのに対して、こちらは七人。数的に私達が不利であり、実力的にも、私達の方が弱いと推測されます」

「でも、タマたち、あの四人を倒したんだぞ?問題なんて・・・」

「七人でやっと、て感じだよ。ああいう奴らより強い奴が出てくるってなると、相当キツイと思うな」

球子の言葉を、否定する杏。

「考えすぎじゃないのか?」

「火野ちゃんは、諏訪で倒した人たちが手榴弾であるなら、十天将は原爆ほどの力があると言われています」

「マジかよ・・・・」

球子も、火野の能力は知っている。

今まで、バーテックス人間や四国の外の現状などからも、実例を踏まえて、球子もその能力の凄さは実感している。

「その為、大社ではこちらも勇者システムの強化及び、新たな精霊の使用を実行すると、決定を下しました」

「ええ!?」

そのひなたの言葉に、最も声を挙げて驚いたのだ杏だった。

「杏さん?」

「アンちゃん?」

それによって、他の者たちの注目を集めてしまい、杏はどもって座ってしまった。

「いえ、なんでもありません・・・」

「そうですか・・・・先ほどの、新たな精霊の使用についてですが、現状新たな精霊を使用するに値する勇者は、現時点で三人です」

「誰なんだ?ひなた」

若葉が聞くと、ひなたは告げた。

「若葉ちゃん、歌野さん、千景さんです」

「おおー!」

「て、タマは入ってないんかーい!」

嬉しいのか声をあげる友奈とずっぱりとツッコミを入れる球子。しかし、ひなたは申し訳なさそうに応じた。

「すみません。現状、タマっちさんに合う精霊がいないもので・・・」

「ぐぅ・・・・」

「安心しろ球子、俺にもいないから」

「辰巳さんの場合はその精霊が強力過ぎるような気が・・・」

杏が苦笑する。

「おめでとうぐんちゃん!」

「ありがとう、高嶋さん」

「これで私と同じ二体目だね!」

「そうね」

はしゃぐ友奈につられてなのか嬉しそうに頬を緩める千景。

「ついに私にも、他の皆と同じような精霊が・・・Fantastic!」

「良かったね、うたのん」

一方で、こちらも歓喜に浸っている歌野と、それを微笑まし気に見る水都。

「新たな精霊・・・これで辰巳の負担も減る・・・」

また、若葉は拳を握りしめていた。

そう、口々に精霊について騒いでいたが、そこでひなたがパァンッ!と両手を打ち鳴らした。

「ただし!その新たな精霊は体に大きな負担をかけます。ですので辰巳さん」

「ん?」

「この三人だけでなく友奈さんも加えた四人の訓練メニュー、考えてきてください。ただし、()()()()()()()

ひなたのその言葉に、辰巳は一瞬呆気にとられたが、やがてニヤリと不敵に笑った。

「ああ、特に心配なのは千景だからな」

「・・・・」

その言葉と同時に辰巳の目がキラリーンと光り、それを見た千景は血の気が引くような感覚を感じた。

「たたたた高嶋さん・・・」

「えーっと・・・頑張れぐんちゃん!」

グッとサムズアップする友奈に、千景はこの瞬間、何かが終わりを迎えたように感じた。

「とりあえず、今日はこれで終わりです。また、新たな神託が下り次第、連絡します」

その一言で、その日は解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後―――――

「ハアッ!」

「ふッ」

辰巳と千景が打ち合っていた。

というよりは、辰巳が千景の攻撃を受けているようにも見える。

「鎌は俺たちの使う武器の中で一番重い、それ即ち、俺たちの中で一撃の攻撃力が一番大きいって事だ。だが、その分隙が多い。一撃一撃、柄を持つ位置を変えるんだ。どの態勢から、どう振れば、柄のどの位置を持てば速く、鋭く振れるのか。それを常に考えて鎌を振るえ」

「ッ・・・はい!」

千景の鎌の使い方は、この三年でかなり卓越してきている。

足捌きに加え、鎌という武器の特性につてもしっかりと理解が身についている。

「やぁッ!」

それが証拠に、千景は刃だけでなく、柄も率いて攻撃をしている。

これによって、攻撃に手数が増えて行っている。

しかし、その攻撃さえも、辰巳の攻撃の前には届かない。

(当然ね・・・だって、足柄さんは私の・・私達の師匠なんだもの)

辰巳は、勇者の中では、リーダーというよりは先生のような立場の存在だ。

その意識は、千景に十分にある。

「少し疲労が出てきている。その時の対処法は?」

「敵の状態を見て、一気に片を付けるか下がって味方と交代するか撤退する・・・!」

「そうだ。だが今は―――」

「味方は、いない・・・!」

千景が鎌を振るう。

鎌を手の中で回し、下から一気に刈り上げる。

それを辰巳は見を引いて紙一重でかわす。

「そろそろこっちからも行くぞ」

「ッ!」

一瞬、辰巳が身を沈めたかと思うと、次の瞬間には辰巳は千景の眼前に迫ってきていた。

「くッ!」

辰巳の突きを、千景は鎌を使って剣の横っ腹を叩き逸らす。

そこから繰り出される辰巳の連撃。千景は、それをかわし防ぎ、下がりながら辰巳の間合いから常に逃れようと行動する。

「そうだ。相手の武器が飛び道具でないなら間合いから離れろ。リーチはお前の方が長く重い。だから回避するときは常に安全圏へ逃れる事だけ考えろ。だけどそれで安心するな」

辰巳の上段斬り『滝打』が迫る。それを、千景は後ろに下がって、どうにか紙一重でかわす。

しかし、そこから剣が跳ね上がり、また千景を下段から狙う。

千景はさらに下がりつつ、かわせないその攻撃を鎌の広い刃を使ってどうにか逸らし切る。

(上手い・・・)

鎌の刃は刀に比べて広く重い。しかし、広いからこそ、横で受けた際の範囲の広さは役に立つ。

そこを上手く使ってきたのだ。

「それでいい。自分の武器の特性と弱点をしっかりと理解して攻撃と防御をしろ」

剣を振りながら、辰巳は剣を振るう。

千景は苦悶に顔を滲ませながらも、その言葉にうなずく。

「少しレベルを挙げるぞ」

「え・・・」

「対天剣術――――」

千景が大きく踏み込む。それは、彼の名持ちの技の一つ。

「『牙貫(きばぬき)』ッ!」

「ッ――――!!」

高速で突きだされる、絶対貫通の刺突。

刺突は全ての剣技に置いて、最大の()()()を誇る技だ。

それゆえに、決まれば、確実に相手に致命傷を与える事が可能なのだ。

そして、辰巳の『牙貫』は、今の千景には対応できない。

それに、思わず目をつむる。

 

 

 

バキッ!!

 

 

 

気付けば、千景の木製の鎌は折れていた。

この鎌は練習用のものであり、彼女本来の武器である『大葉刈』は、今この道場の彼女の鞄の横に置いてある。

「あ、やべ」

辰巳のやってしまったと言わんばかりの言葉を言っている間に千景は床にしりもちをついた。

「・・・・」

「悪い千景、折れちまったな」

「・・・・いえ、大丈夫よ」

差し出された辰巳の手を取り、立ち上がる千景。

そこへ、何かが走ってくるかのような足音が聞こえた。

「おーい!何か凄い音が聞こえたけど・・・」

友奈だ。

「高嶋さん」

「わ!?その鎌折れちゃってるけどどうしちゃったの?」

「心配しないで高嶋さん。ただ足柄さんが少し本気になっちゃっただけよ」

「え!?たっくんが本気!?若葉ちゃんと歌野ちゃん以外に?」

「まあな」

友奈の驚きをあっさりと肯定するものだから、友奈は驚く他無かった。

「でも、自主練するなら呼んでくれればよかったのに・・・」

「それは・・・私が、自分からやりたかったから・・・・」

「でも一人より二人の方が良いよ」

「ま、いい練習相手になるしな」

「それにしても、ぐんちゃん、帰ってから毎日自主練してるよね。どうしたの?」

千景は、この頃、毎日のように自主練に没頭していた。

それがどういう理由なのか、辰巳は知らないが、特に追及はせず付き合っていたのだが。

「・・・・いつバーテックスの襲撃があるか、分からないから」

「そういや、ここ最近バーテックス人間の事ばかりで、普通のバーテックスの事は完全に蚊帳の外だったな」

「それに、十天将とかいう奴らもいるし、私の新しい精霊も、うまく使えるようにならないといけない・・・・」

「・・・・・本音は?」

辰巳は、千景に聞いてみる。

「・・・・私は、早く戦いたい・・・・早く、バーテックスどもが来ればいいのに・・・・」

「千景・・・お前・・・」

千景は、床をじっと睨みつけていた。

「勇者は・・・戦って勝つからこそ価値がある・・・四国の人たちだって、それを望んでいるわ・・・・」

千景のその言葉に、辰巳は否定できない。

勇者は戦う。そして、普通の人より力がある。それゆえに、人々に尊敬され、そして恐れられる。

その勇者が弱ければ、人々は、怯える事はおろか尊敬する事もないだろう。

だが、そんな理屈は、友奈には通用しない。

「うーん、私はぐんちゃんが一緒にいてくれるだけでも嬉しいよ?価値とかそういう難しい事がなくても」

本当に、友奈は凄い、と辰巳は思う。そう思える程の強さが、彼女にはあるのだから。

「・・・よく、分からないわ」

千景はそう呟いて、友奈から目を逸らす。

それに辰巳は仕方がなさそうにため息を吐いて、二人に言う。

「さ、千景は練習用が折れてしまったから、今度は本物を使って素振りをしよう。友奈、お前はアレの使用に備えて、体を作っておけ。腕立て、腹筋、スクワット・・・いろいろとあるぞ」

「うわあ多い・・・・でも頑張るぞ!」

友奈は、そうガッツポーズをとって早速腕立てを始める。

千景も、大葉刈を取りに行く。

その様子を見て、辰巳はふと、左肩に痛みが走った事に気付き、その肩を掴んだ。

そこには、あの黒い痣があった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レクリエーション?」

翌日の事、突然若葉からその様な提案をされた。

「内容は丸亀城全体をフィールドとしたバトルロイヤル形式の模擬戦・・・・最後まで生き残った奴は他の奴ら全員になんでも命令する事が出来る・・・か・・・」

辰巳が内容に目を通しつつ、愕然とする。

「・・・・・これ、勝ち目あるのか・・・・特に杏」

「安心しろ。武器の使用は安全を講じて、模擬用のを使い、それ以外ならばなんでもしてもいいというルールだ。つまり、不意打ちとかありという事だ」

「なるほど、共謀して相手を陥れるってのもありって事か・・・」

資料を見つつ、視線だけを横に向けると。

「なんでも命令出来るんだな。なら乗った!」

「面白そうですし、私もやるよ」

「やろうやろう!」

「そうね・・・」

「ふっふっふ、この農業王の実力を見せてあげるわ!」

他の勇者たちは乗り気だった。

「・・・・良いだろう」

辰巳は、ひなたに紙を渡しつつ、不敵に笑う。

「ただしやるからには―――――全力でやってやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして始まった模擬戦。

辰巳は、一人森の中で、腕を組んで立っていた。

そこへ一人、やってくる者がいた。

「なるほど、みーちゃんの言った通りだったわね」

「お前が来たか、歌野」

目を開け、剣を引き抜く辰巳。

「てっきり若葉が来るものだと思ってたが・・・・」

「若葉は友奈とやりやってるわよ」

「お、それは見てみたかったな」

「でも残念。私が相手よ」

歌野は腰の鞭を留め具から外し、構える。

「丁度良かった。お前とは、一度サシでやり合いたかったんだ」

「奇遇ね。私もよ」

互いに臨戦態勢に入る。

因みに、辰巳が使っているのは中に鉄棒が入ったそれなりに重さのある木刀。

一方の歌野はそれほど殺傷能力もないのでいつも使っている鞭をそのまま使っている。

そのまま、数秒の静寂が流れたが、先に動いたのは、辰巳だった。

「シッ!」

ほぼ一歩で、おおよそ五メートルの距離を縮める辰巳。そのまま、右斜め下から一気に斬り上げる。

しかし、それを予期してたかのように歌野は、辰巳の斬り上げを軽いステップでかわす。

辰巳は返す刀で追撃して、やめる。その代わり体を思いっきり逸らす。

「とっ」

目の前を景気の良い破裂音が炸裂する。

「やっぱ勘が良いわね!」

それは歌野が鞭を振るい、限界まで伸ばされた時に聞こえる空気がはじける音。

辰巳は、それを体を大きく逸らす事で回避したのだ。

態勢を立て直しつつ、辰巳は剣を構える。

(やっぱ隙がねえな)

(やっぱり隙が無いわね)

互いに、敵の出かたを伺う。

辰巳の剣に対して歌野は鞭。

鞭は、振るえば振るうほど、どの武器よりも速く、敵を叩く事が出来る。

しかし、それは先端での話であって、接近されればそれまで。

鞭は根元に行けば行くほど、その威力は弱まる。

が、しかし、歌野には特筆すべき点がもう一つある。

それは体術。歌野が、哮と共に作り上げた、鞭と体術の複合格闘術『スネイクアーツ』を持っているのだ。

それの体得は、今の歌野を何倍にも強くしている。

だからこそ、辰巳は攻めあぐねている。

一方の歌野は、そういったスネイクアーツという体術においてのアドバンテージをもつものの、彼女が攻めあぐねている理由は、彼の洞察眼の問題だ。

辰巳の眼は、というよりかは、視野がとても広い。

呼吸や筋肉の動き、体型や視線の向きと動き、爪先の向き、武器の角度、そして癖や血色に至るまで、ありとあらゆる要素を、徹底的にぬかりなく見ている。

そこから、相手の次の行動を予測し、対応するというのが辰巳のスタイル。ほぼ勘だけで動いている歌野に対して、辰巳は相手をよく見て動くタイプ。そんな正反対な性質を持つ二人が、何故互いの動きを把握できるのか。

単純な話、辰巳が歌野という人間を()()、歌野が辰巳と言う人間を()()()()()()()()からだ。

さらに単純な話をすれば性格上、辰巳にとって歌野は分かりやすく、歌野にとって辰巳は信じやすい相手だったというのもある。

見て、観察して、予測して、計算して、動く辰巳に対して。

見て、感じて、深く考えず、信じて、動くのが歌野。

互いに、考える事は根本から違えど、最終的に『信じる』という所に行きつく二人は、良くも悪くも、相手の考えてる事が手に取る様に分かってしまうのだ。

だからこそ――――

(踏み込んでくるッ!)

歌野がそう予測し、辰巳が踏み込む。

(蹴りが飛んでくるッ)

袈裟懸けの一撃をかわし、回転をつけて迫る歌野の蹴りを辰巳は回転しつつかわす。

(周りながら一閃ッ!)

(しゃがんでかわす。そこからアッパー)

(顎をあげて避ける)

(そこで下がって鞭を振るう)

(剣で弾きつつ、追いかけてくる)

(木を伝って下がる)

(そこを剣を投げて落としにかかる。・・・あこれ当たる!?)

(そう焦ってわざと態勢を崩して地面に落ちる・・・鞭ッ!?)

(慌ててしゃがんでかわす。Revenge(仕返し)!)

(この野郎・・・・ならこれでも喰らえッ!)

(石!?)

辰巳が石を投げる。

腹に向かって飛ぶそれを歌野は体を折ってかわしつつ、鞭を振るう。

(当然剣を取りにいくわよね!)

(分かってるから鞭を振るうッ!)

歌野が鞭を振るう。その先には辰巳の横姿。

(飛ぶ、そしてハンドスプリング!)

(すかさず歌野の鞭が足を襲う)

(逃がさないわよ!)

(捕まえられるものなら捕まえてみろ!)

そこから地獄の鬼ごっこが始まる。

そしてその様子を、丸亀城の天守閣最上階から見る者がいた。

「むぅ・・・」

「辰巳さんがうたのんと楽しそうにしてるのが羨ましいですか?」

「ぎく・・・」

双眼鏡から目を離し、目を向ければそこにはニヤニヤと笑う水都の姿があった。

「べ、別にー」

「ふふ、とても乙女な顔になってますよ」

「・・・・水都さんに言われたくありません」

「う・・・」

「そういえば、若葉ちゃんたちの方はどうですか?」

「ああ、こっちも凄いですよ」

視線を向ければ、そこは、辰巳たちよりも一際激しい事になっていた。

 

 

 

 

 

 

「ハァアアアッ!!」

友奈の高速ジャブが若葉を襲う。

しかし若葉は、驚異的な反応速度で全て弾く。

「くぅ、中々攻めきれない・・・!」

「今度はこっちから行くぞ!」

「来いッ!」

若葉が木刀を鞘に納めて友奈に迫る。

「ハアッ!」

「ッッつぁ!」

若葉の、超高速の居合を、友奈は瞬間的に放たれるジャブで返す。

左手に重い衝撃が走り、思わず顔をしかめてしまう。

しかし、そうも言ってられず、若葉の追撃は止まらない。

恐ろしい間隔の短さで二の太刀が迫ってくる。

友奈は、それをジャブでは無く手甲で防ぎ、軽いフットワークで下がる。

「くぅ・・・なんだかたっくんのより重い気がするよ~」

「お前も、中々反応が良くなってきたんじゃないか?」

「今の若葉ちゃんに言われてもね」

再び、ファイティングポーズを取る友奈。

若葉も木刀を鞘に納め、居合の構えを取る。

 

 

事の発端は単純明快、若葉と友奈が遭遇してしまったからだ。

この模擬戦は一人だけで戦う遭遇戦(バトルロイヤル)。故にこういう組み合わせも可笑しくは無い。

 

若葉のアドバンテージは刀の射程と、ある日突然発達した反射神経。辰巳からその事実をもたらされ、自分の反応速度についてこれるように努力しているつもりだが、未だにそれには慣れておらず、使える用途は今の所、防御と居合のみである。

対して友奈のアドバンテージは軽いフットワークと肉眼では捉えられない程素早い『左』のジャブと、破壊力抜群の『右』のブロー。短い距離であるなら、友奈は若葉よりも速く動けるし、スタミナも十分。しかし左と右の鍛え方が違う為、基本的に防御と牽制にしか左は使わない上に、右はとっておきだという事も、すでに知られているし、その威力も周知の事実でもある。

それ故に、友奈の方が劣勢に見える。

 

だからこそ、友奈は押されている。

「ぐっぅぅ・・・・!!」

若葉の連撃に、友奈の『左』に限界が来ている。

『右』を放とうと思えば放てるのだが、今の若葉にそれを当てる自信は無いし、放てば確実な隙となって、そこを突かれてしまう。

「どうした!その程度か!?」

「ま、だ、だよ!」

どうにか強がるも、やはり若葉は強い。

 

だから、だからこそ――――

 

 

 

 

――――ここで『新兵器』を繰り出す。

 

 

 

「ッ!?」

その時、若葉は猛烈に嫌な予感がして、その身を思いっきり引いた。

そして目の前を、何かが横切った。

(今のは・・・・!?)

「ヤァアアッ!!」

友奈の体は、回転している。

時計回りに、若葉に背中を向けて。

その大きな隙を若葉は見逃さない。

大きく刀を掲げ、そのまま一気に振り下ろそうとする。

しかし、その瞬間も、若葉の直感が危険を知らせ、振り下ろした剣を、振り下ろす途中で思いっきり腹の辺りにまで引く。

そして、次の瞬間、その刀に重い衝撃が走り、若葉を吹き飛ばす。

「ぐぅ!?」

靴底を擦り減らし、石垣ギリギリまで下がらされる若葉。

そして、その猛烈に嫌な予感の正体を知る。

「なるほど・・・蹴りか」

「その通り」

その答えを肯定するかのように、友奈は右足をさげた。

「歌野ちゃんの戦い方を見て、蹴りもありなんじゃないかなって思ったんだ。それをたっくんに教わったら、上半身のスタイルをそのままにして、下半身を空手にするって言ったんだ。それでたっくんに教えてもらいながら、そして出来たのがこれ」

上半身をボクシングなどのハードパンチャー型、そして下半身は様々な蹴りを使えるバランス型。

それが、今の友奈に新たな手数を与えていた。

「いっくよー!」

「来い!」

踏み込む友奈。

そこからジャブを二回。

それを体を傾ける事でかわす。

そこから飛び上がり、両足で交互に二回、若葉は木刀で二回とも防ぎ、空中で隙だらけの友奈に一閃。しかし友奈はその木刀に乗ると、わざと吹き飛ばされる事で衝撃を緩和。そのまま地面へ落ちていく友奈だが、そこへ若葉はすかさず刀を薙ごうとする。だが、それよりも早く、友奈が、地面に手を付いて回転。その回転を利用して若葉を蹴る。若葉はどうにか木刀で防ぐ。

「くッ・・・!」

思わず下がる若葉。

友奈の新たな、蹴りのアドバンテージ。

足は、胴体や頭という人体でも最も重い部分を支えているために、その筋力は、腕の三~四倍に匹敵する。その上腕よりも長いために、腕の射程よりも広い範囲で戦える。

(なかなかに厄介だな・・・)

刀を構えつつ、そう考える若葉。

若葉のアドバンテージ的に言えば、刀のリーチと速さ、そして威力。さらに言って反射神経に居合だ。

居合一撃なら、どうにかなる。だが、友奈のあの多様性をどうにかしなければ、勝つ事は出来ない上に、友奈には未だに一撃必殺の『右』の『勇者パンチ(フィニッシュブロー)』がある。

それを警戒しなければならないし、()()()()()()()()()()()戦わなければならない。

友奈が地面を蹴る。

それを若葉は、反射神経を持って対応する。

だが、いくら反射神経が防御において万能でも、その防御は、肉体に多少なりとも負荷をかけ、通常よりもスタミナを大幅に喰らわれる。

若葉の表情に疲労が滲んでくる。

「くッ!」

そこで若葉は友奈を引き離す。

「おおっと!」

「まだ試作段階だが・・・・仕方が無い」

若葉が、刀を鞘に納めた。

それはまさしく居合。

だが、どこか違う。

若葉は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「・・・・無形」

それは、一種の戦闘放棄ともいえる態勢だが、本当にそうなら、両手をあげるだろう。

しかし、若葉は脱力している。

人間、脱力した状態からの反応が一番速い。

そして、どの生物も、窮地に立たされる程、常識では考えもよらない行動及び、力を発揮する。

故に、背水の無形。

「・・・本気だね」

「そうでなければ、この戦いに意味はないからな」

「そっか、それじゃあ・・・」

友奈が右拳を引いた。

「私も、本気でいくよ」

それは、友奈とっておきの最強の『フィニッシュブロー』。

若葉最速の居合と友奈最大の拳打。

静寂が、流れる。

緊迫した空気が流れ、そよ風が吹く。

 

決着は一撃。

 

若葉の居合が友奈に決まるのが先が、友奈の拳が若葉を沈めるのが先か。

 

そうした緊迫感が流れる中で――――

 

 

 

 

友奈が踏み込んだ。

 

 

 

「ッ!!」

一拍遅れて若葉も動く。

おおよそ0.05秒以下の反応速度を持って、若葉は刀の柄に手をかける。

そして、親指で鍔を弾きつつ、抜刀。同時に右足を前に踏み込み、地面を踏み砕く。

ここまでで、若葉の抜刀速度は、友奈の拳のスピードを上回る。

どれほど友奈の拳が強力であろうとも、速さにおいて、若葉の居合に劣る。

それ故に、若葉は、この勝負は自分が勝ったと確信していた。

刀はなおも鞘から抜かれていく。鞘なりに、引っ掛けないよう、ただただ滑らかに、弾丸の如く、刃を抜き放つ。

鞘から解放された刃は、反射速度によって、若葉のこれまでの居合を速さの点で大きく凌駕していた。

それ故に、若葉の刀は、友奈に先に到達した。

 

 

そう、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

衝撃は、一瞬。

気付けば、若葉の体は大きく後ろに吹き飛ばされ、倒れていっていた。

視界は空へ。その視界に、くるくると宙を回る木刀が見えた。

腕は上へ弾かれており、重心は後ろへ。

倒れるのは免れない。それ故に――――

 

 

「私の負けだな」

友奈の拳を眼前に、若葉はそう潔く降参した。

「ハア・・・ハア・・・勝った」

友奈は、額に汗をにじませながら、それでも笑っていた。

「まさか木刀を狙っていたとはな」

「前にたっくんが言ってたんだ。お前の有利な点は、武器が拳である事。拳は壊れない限り、手放す事は無いし、紛失する事もない。逆に剣士は、剣を取り上げられればあとは体術で対応するしかない。しかし、体術で勝っているお前なら、そんな奴簡単に捻れるだろって」

「流石だな」

しかし、それだけではないだろう。

友奈は、人を本気で殴れない。それが友達であるならなおさらだ。

そして、若葉が奥の手を出してきた時点で、気付くべきだった。

剣士である以上、若葉は必ず剣を振るう。ならば、剣を狙い、無力化させた方が、友奈の戦い方には合っている。そして若葉は友奈のその性格を完全に忘れていた。だから武器を弾き飛ばされた。

若葉は目元を腕で覆った。

「完敗だ・・・ああ、くそう、悔しいな」

せめて辰巳に負けたかった。などと女々しい事は死んでも口には出さない。

「よし、まずは一勝!・・・でも限界・・・」

ふらぁ、と後ろに向かって倒れる友奈。どうやら、限界だったのは若葉だけではないらしい。

「ぜはー・・・ぜはー・・・もうだめ、限界」

「そうか・・・」

流石に若葉も先ほど居合で体力の全てを使い切ってしまった。事実上リタイアだが、しばらくは動けそうにない。

そんな二人に近付く者が一人。

「あ、ぐんちゃん」

「なに・・・!?」

大鎌を携えた千景である。

「ずっと伺ってたのか・・・」

「そうよ」

「あー、これぐんちゃんにやられちゃうパターンかな~、これ」

友奈は若葉の居合の迎撃による体力の消費で動けない。故に千景に対応出来ない。

一方の千景はまだ一戦もしていないので、体力は有り余っている。

「ごめんなさい」

「いいよ。そういうルールだもん」

「・・・」

鎌を振りかぶる千景。

そして―――

「えい」

こつん、と友奈の額に当てた。

「・・・・おい」

「何かしら?」

「そこは一思いに一気にやるもんじゃないのか!?」

「高嶋さんだもの。そうやるのは貴方だけよ」

「辰巳は!?」

「足柄さんは後が怖い」

「・・・・」

千景の良い訳にもはや何も言えない若葉。

とりあえず、これでこの戦いの優勝候補が一気に二人も減った。

「あとは土居さんと伊予島さん、それと――――」

「オラァァアアッ!!!」

「セェエエエイッ!!!」

「「「!?」」」

突如、丸亀城の林の方から土煙が舞い上がったかと思ったら、そこから土だらけの辰巳と歌野が取っ組み合いながら出てきた。

そのままゴロゴロと転がり、一気に距離を取る。

「ぜー、ぜー、てめ、しぶといにも程が、あるぞ・・・!!」

「はー、はー、貴方、に、いわれたく、ないわね・・・!!」

不敵に笑いながら相手を睨み合う辰巳と歌野。

それと同時にとてつもない殺意を互いに感じる。

だから千景はその場から動けない。

(目を付ければ殺される・・・・!!)

「ん?千景じゃないか」

「ひっ」

「あら?若葉も友奈もどうしたの?リタイア?」

「ああ、ものの見事に友奈にやられた」

「私はぐんちゃんに」

「「ほーおー」」

きらりーんと二人の眼が光る。

「ののの乃木さん・・・」

「まあ、頑張れ」

「この人でなし!」

若葉の意味深な笑みに叫びながら、(千景)(辰巳)(歌野)の戦いに巻き込まれる。

「行くぞぉぉぉぉ!!」

「来ぉおおおい!!」

「もうどうにでもなれぇええ!!」

もはや自棄になって二人の戦いに参加する千景。

だが、互いに思考が分かっている辰巳と歌野と違い、千景は二人の動きの一切を、自身の経験から予測しなければならない。

 

が、それは辰巳と歌野も同じ。

 

千景という不確定要素が割り込み、二人は、互いに戦いにくくなる。

 

辰巳の剣が歌野を襲うも、歌野はそれを飛んで回避。その横から千景が鎌を振るい、辰巳は下がって回避する。そこへ歌野が飛び蹴りを繰り出し、千景はそれを鎌の柄で防ぎ、そこで無防備な状態の歌野へ辰巳が上空から『滝打』を繰り出す。歌野は千景の鎌を踏み台にして横に跳んでそれをかわす。辰巳はかわされて空ぶった剣を引き戻し、そのまま千景へ薙ぐ。それをあらかじめ構えていた鎌の柄で防ぐ。

「ぐぅ!?」

(このまま・・・・!)

辰巳は怯んだ千景に向かってさらに連撃を叩き込む。

しかし千景は辰巳の連撃を巧みに避ける。

(俺の攻撃を後ろへ下がる為の推進力に・・・成長したな・・・だが!)

「まだ甘いぞッ!『振打(しんだ)』ッ!!」

「くッ!」

辰巳のバットをフルスイングするかのような横薙ぎの一撃が千景を叩く。

それによって吹き飛ばされた千景は、地面に無様に倒れる。

「くぅ・・・・」

「ぐんちゃん!」

それを見ていた友奈が叫ぶ。しかし彼女はすでに敗北した身、手助けは許されない。

そんな千景に、辰巳は無慈悲にも追撃する。

「くッ!」

だが、それでも、故郷で散々な虐めを受けてきた千景にとって、地面に倒れる事など日常茶飯事。

そして、皮肉にも辰巳との鍛錬と、彼女のしぶとさに関する知識が、ここで威力を発揮した。

千景が地面についていた手を、辰巳に向かって振った。

その時、開かれた千景の手から、何かが巻き散らされる。

(これは・・・土!?)

それは倒れた時に千景が握り絞めた、砂の一部。

それを、辰巳の顔面に向かって投げたのだ。

つい踏み込み過ぎたせいで、その直撃を諸に喰らう辰巳。

(しくじった・・・!!)

視界を潰される辰巳。

その辰巳に向かって、千景は低姿勢の状態で鎌を振るう。

辰巳は、その一撃を、柄で防いだ。

(変則ガード!?)

「こなくそッ!」

確実な隙から繰り出された一撃を、受け止められた事に驚愕する千景。

しかし、その一撃で、()()()()()()使()()()()()()()()

「くそ・・・」

「ハアッ!」

辰巳の背中に、歌野の鞭が襲った。

直撃を受けた辰巳は前のめりに倒れる。

「Thank You、千景。そしてSorry」

歌野が鞭を構える。

千景は慌てて立とうとするも、それよりも速く歌野が鞭を振るう。

(やられる・・・!)

そう、覚悟した時。

 

 

どこからともなく飛来した矢が歌野の手から鞭を叩き落し、旋刃盤が千景の横っ腹に直撃した。

 

 

「What!?」

「ぐぅあ!?」

予想外の出来事に、理解が追いつかない二人。

しかし、この戦いの敗北条件である、『降参』と『致命傷判定』のうち、片方を受けた千景はここでリタイア。

そして、余りにもタイミングのいい飛び道具二つの飛来に、歌野は冷や汗を額に滲ませつつ、引き攣った笑みを浮かべた。

「杏、球子・・・」

「どうだお前ら!これがタマとあんずのコンビネーションだ!」

「隠れて隙を伺ってた奴が何言ってんだ・・・」

「う、うるさいな!」

辰巳のツッコミに図星を突かれつつも、球子は投げた旋刃盤を回収して、歌野を見る。

「これで千景さんはリタイア、歌野さんも武器がないので、詰みです」

「策略家め、してやられたわ」

「歌野さんが辰巳さんとぶつかった時点で、私たちの事は忘れていると思いましたから」

「否定出来ないのがこれまた悔しい」

杏の不敵な笑みに、歌野は悔しそうに笑う。

「それじゃあ、御覚悟を」

球子と杏の二人組に対して、歌野は鞭の無い丸腰状態。

どうにか持ちこたえる事は出来るだろうが、策略家である杏の事だ。

二手三手と何か策を用意していると思う。さらに歌野は辰巳との戦闘でかなり体力を持っていかれている。

流石にこれ以上の戦闘はきつい。

「あー、もう、降参よ降参。ひと思いにやっちゃって」

「では」

杏がボウガンの引金を引く。

 

 

が、その矢は歌野ではなく、球子の額に直撃した。

 

 

「おうふ!?」

「「「・・・・・・は?」」」

その場にいた者達全員が間抜けな声を挙げた。

「あ、あんず・・・?」

球子が信じられないとでもいうかのような表情で杏を見上げる。

「これで、タマっち先輩もリタイア。歌野さんは先ほど『降参』と言ってくれたので実質リタイア扱い。若葉さんは友奈さんに対して降参と言っている上に、友奈さんは千景さんにやられ、辰巳さんは歌野さんに、そして千景さんはタマっち先輩にやられているので、私の勝ちですね」

やってやったと言わんばかりにどや顔する杏。

それに、一同は茫然とした。

「・・・・本当の意味で策略家だったな・・・」

「本当の敵はあんずだった・・・・」

辰巳が感嘆している間に、球子はショックでがっくり膝をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい加減、俺のものになれよ球子」

甘い声で囁く若葉。その姿は何故か男子制服を纏っており、その目の前には壁に背中を押し当て、恥ずかしそうに俯く小さな髪を下ろした少女が一人。

辰巳の片手は壁に押し当てられており、その光景は、俗に言う、壁ドンというものだった。

「だ、ダメだよ若葉君、タマには他に好きな人が・・・・」

「やめなさい!」

そこへ、割り込む者が一人。

「球子が困っているだろう!」

なんと男子制服を来た歌野だった。

「お前は・・・」

「歌野君・・・・って、なんじゃこりゃぁあああ!!!」

が、そこで我慢の限界なのか、小さな少女が声を上げる。

言わずもがな、球子だ。

「ああ!?ダメだよタマっち先輩!ちゃんと台本通りにやってくれないと!」

「なんだよこれ!?なんでタマがこんな役!?なんでタマがヒロイン役なんだよ!?しかもそのヒロインの設定が内気で低身長な少女って!?タマは小さくないぞ!」

「いや小さいだろ・・・色んな意味で」

「ぼそりというなぼそりと!」

反射鏡を持っている辰巳がわざとらしく滑らした言葉に食いつく球子。

「というか辰巳はいーよなー!こういうのに参加させられなくてなー!」

「仕方が無いよタマっち先輩。そうしたらひなたさんに殺されてしまいます」

青ざめた顔で、背後にいるひなたの黒い殺意を感じながらそう呟く杏だが。

「俺は別にいいが・・・」

「ダメです!」

「安心しろひなた。たかが演技だ。それでお前との関係がどうこうなる訳じゃないからさ」

「それでもだめです!」

「ううむ・・・・」

ひなたの断固拒否の勢いに唸る辰巳。

 

実は辰巳もやってみたかったりする。

 

その意図を察した水都は、ちょっといたずら心で、辰巳に耳打ちする。

「ん?・・・ふむふむ・・・分かった。やってみる」

水都からのアドバイスを元に、辰巳はひなたにもう一度説得を試みる。

「やっぱりダメなのか?」

「ダメです」

「分かった。それならば、やった分だけお前の命令をなんでも聞くというのはどうだ?」

「・・・・・なんでも?」

ぴくりと反応するひなた。

「ああ、命にかかわるような事は出来ないが・・・そうだな。ここで全裸になる、という命令までならなんでも言う事を聞いてやるよ」

「流石にそこまではやめてください!それでもだめです!」

「ふむ・・・・ならば、この間言っていた俺のシャツを盗んだ事を・・・・」

「許可します!」

あっさりと掌を返したひなた。

「おい、なんか聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたが・・・」

「わぁかぁばぁちゃぁぁん?」

「・・・・なんでもない」

ひなたの威圧に黙殺される若葉。

「辰巳さん!参加してくれるんですね!」

「許可が下りたからな」

「なら次のフレーズは何にしましょう!?修羅場かな?恋人同士の喧嘩かな?それとも兄妹の禁断の恋かな!?ああ、やりたい事が多すぎてやりきれるかどうか心配だよ!」

「珍しく杏が暴走してるな・・・」

杏の暴走ぐあいに引きつつ、ふと辰巳はここからそそくさと逃げようとしている千景を見つけ、そして捕まえる。

「ひぃ!?」

「ちーかーげー?何勝手に一人で逃げようとしてるのかなー?」

「は、離して足柄さん!私は、あんなのに巻き込まれるつもりは・・・」

「逃がしませんよ千景さぁん?」

「ひぃ」

さらには杏まで捕まえてくる始末。

「た、高島さ・・・・」

「頑張れぐんちゃん!」

友奈に助けを求めようとしても一瞬で望みが断たれ、お先真っ暗となる。

「さてさてさーて、千景さんには何の役をしてもらいましょうか・・・・せっかくだから辰巳さんと一緒がいいよね。浜辺デートかなぁ、夕日の中の告白かなぁ、それとも自殺寸前の所を止められるシーンはどうかなぁ?」

杏の真っ黒な笑みが広がっていく。

「わーおアンちゃん黒ーい」

「辰巳と千景のコンビねぇ、面白そうね」

「ふっふっふ、タマが受けた屈辱、お前も味わいタマえ千景!」

「ああ、辰巳さんが千景さんと一緒にぃぃ・・・!!」

「ひなたさん落ち着いて」

「この際千景の写真もとって・・・」

「乃木さんそれしたら大葉刈で狩るわよ!」

他の勇者や巫女などの呟きにツッコミを入れつつ、千景は後ずさる。

「ふーむ、よし、決めました」

「まっ・・・!」

何か言おうとする杏を必死に止めようとする千景だったが――――

「これです」

「た・・・てなにこれ?」

しかし差し出されたのは、一枚の紙だった。

「千景さんには、これを受け取ってもらいます」

それは、卒業証書だった。

「千景、お前三年だったよな。だから作ったんだよ。卒業証書」

実は、模擬戦開始前にひなたを通して千景以外の勇者たちにこう話しがついていた。

 

模擬戦で最終的に生き残った者が千景に卒業証書を渡す。もし千景が生き残ったら、全員でそれを渡す、と。

 

結果、杏が最終的に勝ったために、杏がそれを渡す事になったのだ。

「でも・・」

しかし、千景はそれを受け取る事を渋る。

仮令、学年的に中学では無く高校にあがるといっても、この教室から出る訳ではない。

だから、こんなものを受け取っても意味はないと思うのだが。

「形だけでも、やっておいた方が良いと思ってな」

「ええ。私も、その方が良いと思います」

若葉とひなたが、そう諭す。

「ま、とにかく受け取っておきなさい。貰って損なものじゃないでしょ?」

歌野が、そうすすめる。

まあ、どちらにしろ、これはレクリエーションの『命令』。

「・・・『命令』なら、仕方が無いわね・・・」

恥ずかしそうに、しかしとても嬉しそうに、顔を赤らめて、千景は、それを受け取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

炎が、揺らめく。

 

その炎は、静かに燃える。

 

静かに、緩やかに、心臓(エンジン)を常に温める。

 

だが、今の心臓(エンジン)では耐えられない。

 

時間が、必要だ。

 

 

 

 

魔王が、嗤う。

 

それを、一人の少女が睨み付けるように見上げた。

 

そう睨むな、と魔王は肩を竦める。

 

それは出来ない、と少女は言い返す。

 

そうか、と魔王はつまらなそうに呟いた。

 

されど魔王は嗤う。

 

 

 

―――その炎は、何が為に使う?

 

 

 

その問いに、少女は毅然と答える。

 

 

 

 

―――人々の為に使う。

 

 

 

 

魔王は嘲笑する。

 

 

 

 

―――いかにも()()()()言葉だ。

 

 

 

 

少女は、それでも毅然とする。

 

 

 

 

―――笑うなら笑えば良い。だが、仲間を笑うことだけは許さない。

 

 

 

魔王は応じる。

 

 

 

―――良い。だからこそ人間は面白い。

 

 

 

魔王はなおも続ける。

 

 

 

 

 

 

―――見せてみろ。我の呪いを超える、汝ら人間の力を――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女は、炎に焼かれながら、叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

――――ああ、見ていろ、人間の力を、人間の可能性をッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

壁の外。本州より。

「あれが四国の神樹の壁・・・なんとも忌々しそうなものを作ったね」

小柄な少年が、何故か()()()()槍の上に乗ってそう呟いた。

その呟きに、答える者が一人。

「そうですなぁ・・・・ま、中にいる人間(ブタ)どもを一掃すればいいだけの話ですさかい。ちゃっちゃとやっちゃいましょうや」

嫌らしい笑みを浮かべる、関西弁の男。

「まあ待て、まずは様子見と行こうではないか。丁度『新型』も出来上がったところでもある」

あの十天将のリーダーともいうべき女性、白銀御竜だ。

「迅、怜、まずはお前たちだ。私は紅葉の稽古をつけなければならん」

「あいよ」

「ほな、いってきますわ」

軽快に歩き出す、迅と呼ばれた関西弁男と、怜と呼ばれた小柄な少年。

その後を、追随するかのように、巨大な物体が浮遊していた――――

 

 

 

 

 

 

 

 




次回『最初の犠牲(スケープゴート)

『災厄』は突然に、犠牲は『無残』に。
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