足柄辰巳は勇者である   作:幻在

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失う事でしか僕らは強くなれない

咆哮が、迸る。

 

そして、瞬く間に鎧が変化し、禍々しいものに変わる。

それはまさしく、彼の怒りを、憎しみを、哀しみを体現しているかのようだった。

「うるないなぁ」

瞬間、辰巳(人の姿をした竜)の体を、六本の剣が貫く。

「まったく、遠吠えなら山でやってろっちゅうねん」

迅があきれ果てた様子で串刺しにされた辰巳の姿を一瞥し、他の勇者へ視線を逸らす。

 

 

瞬間、迅が顔を歪ませて吹き飛ばされた。

 

「げぼあ!?」

あまりにも突然の事に、吹き飛ばされながら混乱する迅。しかし、考える前に、今度は叩きつけられる。

「げが!?」

それでも終わらない。反応する間もなく、顔面に衝撃を受けて高く蹴り上げられる。

「ぐべあ・・・・!?」

(な、なんや・・・?)

吹き飛ばされる中、迅は見る。

 

エメラルド色の瞳を血走らせて、こちらに剣を振りかざす、人間(バケモノ)の姿を。

 

「迅ッ!!」

しかし、そこへ怜がトリアイナを槍状にして化物に叩きつけた。

化物はそのまま地面に落とされる。

しかし迅は落下してくも、怜によって助けられる。

「大丈夫かい!?」

「あ、ああ・・・ホンマ、助かったで・・・」

迅は、ふと、吹き飛ばされたあの化物を見る。

そこには、槍の一撃を受けても立ち上がる、人の姿をした化物の姿がいた。

「■■■・・・」

おおよそ、人のものとは思えない唸り声をあげて、こちらを見上げていた。

「なんやアレ・・・」

「分からない。だけど、僕らの敵じゃ・・・・」

そう、言いかけた時、不意に化物の姿が消えた。

「「―――ッッ!?」」

次の瞬間には二人とも地面に叩きつけられていた。

「ぐが・・・!?」

「げぼ・・・!?」

地面に叩きつけられ、痛みに一瞬意識が遠のく。

しかし、それすら許さないように、化物は、その剣を黄昏色に輝かせる。

「■■■■■――――ッ!!!」

咆哮、同時に、剣を振る。その剣から、斬撃が()()()、連続で振るうものだから、その斬撃は、まるで雨のように地面に降り注ぐ。

その威力は、おおよそ人に出来る技では無く、文字通り、()()()()()()()

それも一度や二度ではない。何度もかち割ったのだ。

その攻撃を諸に喰らう迅と怜・・・否。

斬撃の雨が止み、化物が地面に降りたつ。

しかし煙が張れると同時に、そこには、僅かながらにダメージを受けている迅と怜の姿があった。

「調子のるなや」

「こっからが本気だ・・・クズ野郎」

どうにか防いだようだ。

だが、それで終わるはずもなく――――

「■■■■■―――――ッ!!!」

咆哮が迸り、化物は、憎き敵に襲い掛かる。

 

 

 

 

寸前、横から針で貫かれる。

 

 

 

 

「■■―――!?」

その場にいるものは、虚を突かれたかのように茫然とし、化物は地面に叩きつけられる。

その針はしっかりと化物を地面に縫い付け、動けないようにしていた。

その針を刺した正体は、あの巨大な、スコーピオ。

 

完成型の、バーテックス。

 

そしてその針には、あまりにも()()()()()()()()()()()()が仕込まれていた。

「・・・・はっ」

迅が、乾いた笑みを零す。

「なんや、簡単な事やないか。毒針ブッ刺せばそれで終わりやないか」

化物は、動かない。

流石に、体中の穴と言う穴から血を噴出させる毒には敵わないのか―――。

「さて、次にいきましょうや」

「そうだね、流石に興ざめだけど――――」

 

 

 

しかし、その()()()()は、圧倒的力の前には、無意味だった。

 

 

 

黄昏色の光が迸り、スコーピオが跡形も無く消し飛ぶ。

あまりにも呆気無く、一瞬の間に、スコーピオはその姿を消滅させた。

それは、邪竜の咆哮。化物の切り札である、『黄昏に咆える邪悪なる竜(ファブニール・フォン・アテム)』だ。

だが、いささか、いや、余りにも、威力が強すぎた。

それが、天を貫き、空を割った事実に、誰もが驚愕する。

 

全てを融解させる邪竜の咆哮。

 

そして、化物は、平然とそこに立っていた。

開けられた腹の穴は一瞬にして塞がり、何事も無かったかのように、鎧さえも元に戻る。

まるで、初めからそんな事は無かったかのように。

そして、邪竜は、今度こそ、敵二人に襲い掛かる。

そして、そこから一方的な戦いとなる。

「んなあほな―――」

言葉は許さない。

「ちくしょ―――」

悪態も許さない。

ただ、憎い。憎くて憎くて仕方が無い。

己が感情のままに、衝動のままに、憎悪のままに、化物はその手に持った剣を振るっている。

「こなくそッ!!」

迅の剣が、化物の右腕を斬り飛ばす。

「それじゃあ、まともに剣なんてふれ―――」

迅が何かを言いかけるまえに、変化は訪れる。

 

斬り飛ばされた化物の腕が、即座に再生した。

 

「・・・んなあほな―――げびゃ!?」

また、何かを言い終える前に、殴り飛ばされる。

そう、これだ。これそこが、化物が、勇者たちが叶わなかった十天将の二人を圧倒している理由なのだ。

 

 

邪竜の生命力及び、()()()()()

 

 

それが、化物の壊れていく体を無理矢理直し、動かしている。

だが、しかし――――その回復力は明らかに異常だ。

 

「――――『太古の海を支配せし鮫の王(メガロドン)』ッ!!!」

 

巨大な鮫が化物を襲う。化物の体の左半分が食われる。

「はっ!体の半分以上も食われれば流石に――――」

怜が何かを言いかける前にも、化物の体は再生した。

なんの狂いも無く、完璧に、元の姿に戻る。

「・・・・・嘘だろ」

「■■■■・・・・!!」

怜は、戦慄する。

よもや、ここまでの化物が存在するなんて誰が予想できただろうか。

どれほどの攻撃を受けようとも、再生し、また剣を握り、そして蹂躙する。

それはまさしく、彼の邪竜のようだった。

しかし、それでも、やはり、何かが可笑しい。

いくら竜でも、腕の一本足の一本、吹き飛ばされても回復なんぞ出来ない筈だ。

掠り傷程度、切り傷程度、そんなものものの()()()で回復できるものを、この化物は、ほんの()()で全快にしている。

一体、どうやったら、そこまでの事を――――

 

 

 

 

 

その疑問は、歌野にもあった。

何故、あそこまでの力を、彼は発揮できるのか。

その手に球子と杏の死体を抱え、回収した内臓も持って、そう考えていた。

ただ、その心は、酷く、落ち着いていた。

もう、二度めの喪失だからか。それとも、それほど親しくなかったからか。

いや、そんなの関係無い。もし、そうであったなら、この四国での思い出は一体、なんだったのだ。

「若葉・・・」

「ッ、歌野・・・!」

歌野は、地面に膝をついて、戦いをただ傍観していた若葉の元へ向かう。

そこには、精霊を解除した千景、そして、友奈がいた。

そして、歌野がその手に抱えた、杏と球子を見て、言葉を失う。

「ッ・・・」

「酷い・・・」

「そん、な・・・」

三者三様の絶望の仕方で、二人の死を嘆く。

若葉は悔しそうに顔を歪め、千景は恐ろしそうに、そして友奈は、その目尻に、涙を浮かべていた。

だが、そんな空気を吹き飛ばすかのように、化物の咆哮が迸った。

生き残った勇者たちが一斉にそちらに視線を向ける。

そこには、もはや人とは言い難い戦い方をする化物と、常軌を逸した価値観を持つ二人の人でなしを圧倒している様子が見て取れた。

その戦いように、彼女たちは、何も言えなかった。

「辰巳・・・」

腕が吹き飛ばされようが足が斬り飛ばされようが、化物は―――辰巳は止まらない。

「・・・・・なるほどね」

その中で、歌野だけが、冷静だった。

「・・・どういう事だ、歌野?」

「辰巳のあの再生力、異常だとは思わない?」

「たしかに、異常、ね・・・・」

千景が、酷い顔色で、どうにか答える。

「そもそも、邪竜ファブニールなんている特大Scaleのバケモノを憑依させておいて、人の体が耐えられる訳が無い。器が中身の力に耐えられず、はじけ飛ぶ筈なのよ」

「何がいいたい・・・?」

若葉が、多少声を低くして問う。

その問いから、若葉は、考えている事を放棄している事を、直感で思ってしまう歌野だが、仕方が無く答える。

「辰巳の体は、ファブニールの力に耐えた。そして、そのファブニールの力が、一人の人間に、()()()()()()()()()()()?」

「ッ・・・そうか」

千景が、歌野の説明に、とある答えを見出す。

「圧縮されるから・・・ファブニールの力が、過剰に発揮される・・・」

「水鉄砲と同じ原理よ。穴が小さければ小さい程、水は遠くに飛ぶ・・・」

即ち――――

「邪竜の再生力が、過剰に発揮されるため、腕が吹き飛んでも再生する・・・・」

若葉の言葉に、歌野は「Bingo」と答える。

「だから、辰巳は敗ける事はない・・・・でも」

心配なのは、もっと別な事。

それほどの再生力を発揮させておいて、果たして元の人間は、その原型を留めておけるのか――――

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて、勝負に先が見えてきた。

「こなくそッ!!」

迅が、無数の刃を飛ばす。

それが、化物と化した辰巳に殺到する。

だが、その無数の刃が、突如として弾かれた。

「なッ!?」

それに驚愕する迅。しかし、それもそうかもしれない。

何せ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「な、なんでや・・・」

剣を何度も辰巳に叩きつける。しかし、その全ての剣は、辰巳の体が弾く。

「なんでや・・・」

よくみれば、鎧は破壊出来ている。弾いているのは、『肌』。

そう、肌が、鋼のように固くなっているのだ。

 

それは単純な話、トレーニングと同じだ。

 

筋肉も、筋トレによって、その筋線維が千切れ、再生する時に、今度は強く太くなるのと同じ様に。

人が、殴られ続けれれば、やがてその痛みに慣れていくのと同じように。

折れれば、今度は強く、太い骨に再生するのと同じように。

 

 

辰巳の()膚は、斬られ破られていくたびに、強く硬く、文字通り驚異的な『()の鎧』となったのだ。

 

 

だから、もう、迅の攻撃は通用しない。

「く、くそがぁぁぁあああぁあああ!!!」

絶叫し、迅は剣を射出しまくる。

しかし辰巳にそれは効かず、その進撃を止められない。

その追いかけ方は、迅に恐怖を与える。

「霊槍『トリアイナ』第二形態『クラーケン』ッ!!」

しかし、突如として、辰巳の四肢を、巨大な触手が拘束する。

それは、巨大なタコの脚だった。

「いい加減にしろよクズ野郎が」

怜が、槍を変化させたのだ。

「やっと捕まえたよ」

辰巳が、振りほどこうよもがく。だが、タコの脚は、一本を残して全て辰巳の四肢に絡みついているために、振りほどけない。

「随分と、好き勝手してくれたようだけどさぁ。君がもう物理攻撃じゃ死なないなら、締め上げて、その首をへし折ってあげるよ」

タコの脚が、辰巳の背後から首を締め上げにかかる。

このままでは、辰巳は首を絞められ、窒息してしまうだろう。

「そのまま苦しんで死ね」

呪詛を込めた、一言。その一言と共に、タコの最後の脚が、辰巳の首を絞める。

 

その時だった。

 

 

「■■■■――――」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

突如、頭部の、竜の頭のような兜が、不意にその口らしき部分を開いた。

そして次の瞬間、黄昏色の閃光が迸り、怜の上半身を消し飛ばした。

『――――ッ!?』

その光景に、その場にいたものが、全員、驚愕した。

そして、迅が絶叫した。

「れぇぇいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいぃぃいいいいッ!!!!」

それは慟哭か。迅は無数の剣を空中に展開し、それを辰巳に叩きつけ、一気に吹き飛ばす。

そして、上半身が吹き飛ばされて地面に落ちていく怜の体を受け止める。

「怜!おい!怜ッ!!」

必至に呼びかけるも、すでに声を発するための口が無いから、答える事は無い。

「嘘だろ・・・・おい・・・怜・・・・!」

信じられない、とでもいうかのように、目を見開く迅。

だが、そんな様子を許さないとでも言うように、唸り声をあげて無傷の辰巳が歩み寄ってくる。

「・・・・なんでや」

「■■■・・・」

ふらりと、立ち上がる迅。

その雰囲気に、かなりの殺気を込めて、迅は鬼の形相で振り向く。

「ワイらが一体何をしたぁぁあああぁああ――――」

絶叫、すかさず、斬撃。

迅の体は、辰巳の一刀のもと、呆気も無く吹き飛ばされ、左肩から右脇腹にかけて、切断される。

宙を舞う迅は、その最中で、目の前のバケモノが、口を開くのを見た。

そして、なにかを思う前に、邪竜の息吹によって、一気に消し飛んだ。

それはあまりにも呆気無くて、杏と球子が死ぬまでの戦いが、彼らの強さが、一瞬にして無になって。

そこには、一人の勝者の姿しかなく、敗者は、地面に倒れ伏していた。

その様子を、勇者たちは、言葉を失ってみていた。

「辰巳・・・・」

「たっくん・・・」

もはや、何も言えない。

あれほど、圧倒されていたのに、今は、あの化け物が、一瞬にして敵を屠った。

その姿は、まさしく世界最強とまでいわれる竜のようで。ありとあらゆるものを略奪せしめした邪竜のようで―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと、若葉は、辰巳の視線がこちらを向いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その場にいた者全員が、背筋が凍るような殺気を感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・まず」

歌野が、声を漏らす。

自分たちの傍には、杏と球子がいる。

その姿はあまりにも無惨で、残酷なまでの姿で放置されていた。

それだけなら、まだいい。

問題なのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

もし、彼が、彼女たちの死体を()()()()()()と思ったのなら。そして()()()()()()()()()()()()()()()()

 

次の攻撃対象は、勇者たちにになる。

 

「逃げてぇぇえええ!!!」

歌野が絶叫して、若葉、友奈、千景の三人が飛び上がる。

次の瞬間、彼女たちがいた地面が吹き飛び、砕かれる。

「■■■■■――――――ッ!!!」

人のものとは思えない絶叫が響き、辰巳は、彼女たちを追撃する。

「たっくん・・やめて・・・・!!」

「辰巳!正気に戻れ!」

友奈と若葉が言葉を投げかけるも、耳に入っていないのか辰巳は勇者たちを襲う。

「死ぬ・・・殺される・・・・足柄さんに・・・殺される・・・!?」

「千景!葛藤するのはいいけどそれは今は後回し!逃げる事だけを考えて!!」

目の前の事実に恐怖し、その結果を想像してしまう千景と、その千景を叱咤しつつ、杏と球子の死体をかかえながら逃げる歌野。

辰巳は、樹海を破壊しながら、彼女たちを襲う。

「辰巳・・・頼む・・・目を覚ましてくれ!」

若葉の必死の懇願も届かず、辰巳は感情のままに剣を振り回す。

「く・・・たっくん・・・!」

友奈が、絞り出すように声を漏らす。

しかし、いつまでも逃げられる訳がなく、とうとう辰巳の攻撃が、――――歌野に届いた。

「きゃあ!?」

「歌野!?」

「歌野ちゃん!」

叫ぶ若葉と友奈。歌野は、どうにか攻撃を喰らう前に、杏と球子を投げ飛ばしている。

だが、それによって防御が出来なかった。

「ぐ・・・・ぅぅ・・・・が!?」

地面に倒れ伏し、痛む体を必死に起こそうとする。しかし、その頭を、辰巳は踏みつける。

「■■■・・・」

「ぐ・・・ぅ・・・」

剣を振り上げる辰巳。

「やめろ!辰巳!!!」

若葉は、すぐさま義経を発動しようとするが、その為の体力が無く、呆気も無く失敗する。

千景は、恐怖でその場を動けない。

このままでは、歌野は殺されてしまう。

このままでは、辰巳は殺してしまう。

どうすればいい?どうすればこの最悪の状況を打開できる?

何か、何か、何か―――――

 

 

 

 

 

 

 

『オレの存在を忘れるな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如として、辰巳が吹き飛ばされた。

「「!?」」

その光景に、若葉と千景が、目を疑う。

だが、たしかに辰巳は吹き飛ばされた。

「■■■・・・・!!」

辰巳は、立ち上がる。

その視線は、歌野の傍らに立つ、一人の少女に向けられた。

「・・・・嫌だ」

しかし、その姿は、大きく違っていた。

肥大化した手甲、変わった戦装束、頭に生えた角。

それは、友奈の、もう一体の精霊の発動を意味していた。

 

 

其は、強欲の塊。暴虐の化身。

 

 

 

「歌野ちゃんが死ぬのも、たっくんが殺すのも、どっちも嫌だ」

 

 

 

己が欲のまま、財を奪い、人を襲い、街を壊し、暴虐の限りを尽くした。

 

 

 

「これ以上、誰かがいなくなるのが嫌だ」

 

 

 

己が傲慢の為に、人を見下し、命を潰し、精神を破壊した。

 

 

 

「だから、止めるよ」

 

 

 

其は強欲の塊、暴虐の化身。力の権化。

 

 

 

 

 

 

 

―――――それは、太古より語り継がれし、鬼の王。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の者は王である。何物にも止められぬ、鬼の王である。その名は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――『日ノ本に住みし強欲の王(酒呑童子)』」

 

 

 

 

 

 

今、鬼の王が動き出した。

 

 

 

 

「■■■■■―――――!!」

辰巳が絶叫し、友奈に襲い掛かる。

友奈はファイティングポーズを取り、辰巳を迎え撃つ。

辰巳の大剣が振り降ろされ、友奈が右のフィニッシュブロー放つ。

 

衝突、そして、衝撃。

 

それだけで地面が砕け、それによって生じた衝撃で、互いに吹き飛ばされる。

 

「うぅあぁああ!?」

「■■■!?」

吹き飛ばされるも、どうにか踏みとどまる両者。

だが、辰巳はすぐさま飛びかかる。

「■■■―――ッ!!」

辰巳が剣をデタラメに振ってくる。友奈はそれを左のジャブで応戦する。

衝撃が、樹海の空気を震わせる。

友奈の拳と辰巳の剣が衝突する度に、樹海が軋む。

「アァッ!!」

突如として友奈が辰巳の振り下ろした両手首を掴むと、そのまま力任せに振り回す。

何度も何度も地面に叩きつけ、ただただ力任せに振り回す。

「■■!!!」

「ッ!?」

何度か地面に叩きつけた時、不意に友奈の体が浮き上がる。

辰巳が、逆に友奈を持ち上げたのだ。

「しまっ」

声を発し終える間もなく、墜落。

「げあ・・・・!?」

背中から叩きつけられ、思わず手を放してしまう。

しかし、それだけでは終わらない。

剣を振り上げた辰巳。そして、それを一気に振り下ろす。

友奈はそれを頭を傾ける事で回避し、飛び上がって距離を取る。

「あ、危なかっ―――」

距離を取った友奈。

しかし、辰巳はそれでも追い縋ってくる。

剣を後ろに引いて、友奈を射程の捉え、そのまま一気に断ち切るつもりなのだ。

だが、それよりも前に友奈の拳が辰巳の顔面に叩き込まれる。

「勇者パンチッ!!」

吹き飛ばされ、建物に叩きつけられる辰巳。

「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」

息をあげ、友奈は辰巳を見る。

その中から、へこんだ壁にめり込む辰巳の姿があったが、しかし、まだ意識はあるようで、すぐにでもこちらに飛びかかってきそうだ。

(まだ・・・動けるんだ・・・)

「――――チッ、めんどくせえ」

 

突如として、舌打ちが聞こえた。

「!?」

それに思わず友奈は口を押える。

(私、今なにを言って―――)

「友奈ァッ!!」

「ッ!?」

若葉の声に顔をあげれば辰巳がこちらに向かって弾丸の如き勢いでこちらに飛んできていた。

「くるっ――――いい加減にうせろトカゲ野郎ッ!!」

振るわれた剣を、掬いあげるかのようにアッパーを放ち、軌道を大きく反らした後、もう片方の手で、辰巳の頭部を叩き落す。

だが、それでも辰巳は起き上がって攻撃してこようとする。

「まだ―――くたばれッ!!」

だが、その辰巳にまた拳が振り下ろされる。

「オラオラオラァッ!!」

拳が連続で叩き込まれる。

それは嵐のように辰巳を叩き続ける。

だが、目の錯覚だろうか。

 

友奈の拳の威力がどんどん上がって行っている。

 

「何が起きている・・・!?」

「流石にあれは私にも分からないわ・・・」

その様子を、どうにか歌野をつれて安全圏にまで逃げた若葉は見ていた。

 

酒呑童子。

大社でさえも危惧される、力の権化。

その力は、ファブニールに匹敵し、ありとあらゆるものを蹂躙する。

そのあまりの強さに、大社では、ファブニール同様、使用は控えるように言われていた。

それを使用している友奈だが、どうにも、いや、明らかに様子が可笑しい。

 

辰巳が、友奈を殴り飛ばす。

「ぐあ・・・!?」

「■■■ッ!!」

寝転がった状態から飛び上がり、友奈を上から剣を振り下ろし、地面に叩き落す。

「ぐぅ・・・!?」

さらに、辰巳は落下し友奈を追撃しようとする。

「く・・・調子に乗るなよ!!」

だが、友奈はその状態から拳を振るった。

落下の力が合わさった辰巳の振り下ろしと、友奈渾身のフィニッシュブロー。

それらが正面衝突し、全てが吹き飛ぶ。

辰巳は上空へと吹き飛ばされ、友奈の右拳は、イカれる。

「ぐ・・・・ぎぁ・・・・!?」

友奈が苦悶の声を漏らす。

「ぎ・・・テメェ、痛がんなよ!」

そのすぐあとに、全く違う口調の言葉が友奈の口から発せられる。

「やれやれ、ほぼ直感で()()()()()()()()()()()()()()っていうのに、なんだその様は・・・・・それは・・・君も・・・だよね・・・・?・・・うっせぇ!そんなこと言ってる暇あんならあんな奴さっさとやるぞ!!わかってる・・・・!!」

立ち上がる友奈。なにやら一人で何かつぶやいていたみたいだが、今はそんな事関係無い。

今は、どうにかして辰巳を止めなければならない。

「■■■■――――!!」

上空で、辰巳が、兜の『口』を開いた。

「やべっ・・・」

瞬間、咆哮が轟く。

その砲撃は、すぐさま友奈がいた場所を融解させ、大穴を空けた。

だが、友奈はどうにか回避できたようだ。

「いい加減に・・・して!!」

飛び上がる友奈。辰巳はブレスを吐き終えている。

そこへ友奈は拳を叩きつけようとする。

だが、辰巳は友奈の拳を掴んだ。

「ッ!?」

そのまままた、地面に叩きつける。

「―――アッ!?」

背中から叩きつけられた所為か、肺の中の空気が一気に吐き出される。

だが、その友奈にさらに追い打ちをかけるかのように、辰巳の剣が友奈の壊れた右腕を貫いた。

「――――――ッ!?」

声を発せないから、友奈は悶絶するしかない。

息を吸おうにも、痛みで、呼吸がままならない。

辰巳が剣を引き抜き、それを逆手にもって振りかざす。

(動け・・・動け・・・!!)

友奈が、必死に体に命令を下す。

すると、ほぼ無理矢理な感じて右足が動き、辰巳を蹴り飛ばす。

すぐさま起き上がり、悲鳴を挙げる体を黙らせながら、飛び上がって、さらに蹴り上げるかのように三回、回転蹴りを叩きつける。

「ぐ・・・げほぉ・・・・」

あまりにも無理をした状態での、蹴り技。

呼吸がままならず、体が軋みまくり、すでにダメージも限界を迎えている。

着地もまともに出来ず、落下。だが、それでも、辰巳は攻撃をやめない。

(たえ・・・た・・・?)

朦朧とする意識の中、友奈はどうにか体を転がしてその一撃を避ける。

衝撃が友奈を叩きつけ、さらに転がし、その反動を利用して友奈は立ちあがる。

「■■■■■・・・」

唸り声をあげて、こちらを見る辰巳。

友奈は、考える。

右はすでに壊れて使えない。左手もあと五、六発が限度。

足は使えるが、()()()()()()()()()()壊れるかもしれない。

精霊との()調()()は、かなり深いとこまで来ているから、『彼』との会話も可能だが、それでもまともな会話が成立するとは思えない。

呼吸も、まだ整っていない。

 

このままでは、殺される。

 

このままでは、彼に殺人をさせてしまう。

 

それだけは、嫌だ。彼を、人殺しになんて、させたくない。

 

だって、だって、彼は―――誰よりも優しいから。

 

「う・・・ぎ・・・」

左拳をあげる友奈。右腕は骨が砕けて使えない。それは分かっている。

でも、それでも、諦める理由にはならない。

「絶対に・・・正気に・・・・戻して・・・・あげる・・・から・・・・」

だから、だから――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このままでは友奈が死ぬ。

 

 

その結末が、手に取るように分かってしまった若葉は、どうにかその結末を変えられないかと、模索した。

何か、何かないのか。最も最悪な未来を変える、鍵となるものが。

その時、誰かが、指を指してくれたような気がした。

そちらに視線を向ければ、そこには、球子の旋刃盤、及び、楯があった。

これが、一体、どうしたというのだろうか。

だが、何故か、若葉は自然とそれを手に取っていた。

 

 

――――頼む、投げてくれ。

 

 

声が、聞こえた気がした。

大切な、友達からの、願いを聞いた気がした。

だから、若葉は、それを、居合の要領で振りかぶった。

「任せろ――――」

短く、呟いて、若葉は、旋刃盤を投げた――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辰巳が友奈に襲い掛かった、その直後。

辰巳の顔に、すこん、と円盤のようなものが当たった。

スローになった世界で、友奈は、それが、球子の旋刃盤だと、すぐに分かった。

一体、だれが投げたのか。

だが、あまりにも軽い。そんなものじゃ、辰巳は止まらない。

止められる、はずが・・・

 

 

『辰巳!!』

 

 

コ エ ガ キ コ エ タ

 

 

「――――た・・・ま・・・・こ・・・・」

「ッ!?」

 

止まった。

 

辰巳が、止まった。

 

 

球子の名前を呼んで止まった。

 

 

からん、と地面に落ちた旋刃盤を見つめ、静止する辰巳。

その様子は、ただ茫然としているようで、ぴくりとも動かなくて。

「た・・・・ま・・・・・こ・・・・・・」

そして、目から、涙を流して――――鎧を解除した。

「・・・・!」

友奈は、その様子をただ黙って見ている事しかできなかった。

あれほど暴れていた辰巳が、あまりにも呆気無く、止まったのだ。

唖然としない訳が、無い。

でも、それでも、止まってくれた。

「たっくん・・・・」

だけど、悲しいかな。

 

辰巳の左腕が、真っ黒な痣に覆われていた。

 

否、それは痣などではなく、『竜鱗』。

 

辰巳の左腕全体が、真っ黒な竜鱗で覆われていたのだ。

 

「たっくん・・・」

「・・・・」

返事はない。だが、やがて動いたかと思ったら、後ろに向かってばたりと倒れた。

どうやら、気絶したようだ。

「・・・・・良かった。とまって、くれ・・・・た・・・」

もう、友奈も限界だった。

うつ伏せに倒れ、薄れゆく意識の中、ある事を思った。

(あんちゃん・・・たまちゃん・・・・お花見、いけなかったね・・・・)

それは、もう果たされない約束。

(さくら・・・・みたか・・・った・・・・なぁ・・・・・・)

そのまま、友奈は眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・む」

ふと、御竜がその手に持つ槍を動かすのをやめた。

それに驚き、紅葉も、剣を振るうのをやめた。

「・・・・どうかしましたか?」

「ふむ・・・迅と怜が死んだ」

「ッ・・・!?」

あまりにも淡々に述べられた情報に、紅葉は衝撃を受けた。

「な、なぜ・・・・!?」

「・・・・足柄辰巳が暴走したようだな。二人は、その暴走したあの男に敗北したといった所だろうか」

「ッ・・・!!」

紅葉は、悔しそうに顔を歪める。

「お前が気に病む必要は無いぞ。まだお前は、我らとともに戦う資格を持っていないのだからな」

「・・・・・はい」

感情を押し殺した声で、絞り出すように答える紅葉。

「そう急くな。時間はたっぷりとある。これから奴らの力を削りつつ、確実に仕留めていくさ。なに、それまでには仕上げてやろうぞ」

「はい・・・お願いします」

刀を構える紅葉。

「ふふ、その意気だ、紅葉よ。その憎悪を、もっともっと燃え上がらせるのだ」

 

 

 

 

 

人は、失う事でしか強くなれないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇者側被害

 

乃木若葉 体各所にて、斬撃痕あり

白鳥歌野 顔面打撲及び、頭蓋鼻骨折

高嶋友奈 右腕粉砕骨折 身体各所血管破裂、筋肉断裂、及び昏睡。

足柄辰巳 昏睡

郡千景  比較的軽傷

 

伊予島杏 殉職 死因 解体及び失血

土居球子 殉職 死因 毒殺

 

街への被害

 

建物倒壊、および、地面の陥没など。

 

死者、約十六人。重軽傷者合わせ、六百人以上。

 

 

 

十天将側被害

 

『無惨』の市丸迅 死亡

『災厄』の清水怜 死亡

 

バーテックス数百 退治

完成型バーテックス 仮称『スコーピオ』破壊

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇者、残り五名。

 

十天将、残り、八名。

 

 




次回『八岐大蛇《ヤマタノオロチ》』

大蛇は、それでも天に咆えて――――
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