足柄辰巳は勇者である   作:幻在

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初陣

何気ない、日々の中。

そろそろ夕日が沈むころ。

この日は、辰巳が一人だけで特訓を見に来ていた時の事だった。

 

突如、辰巳の携帯端末から、けたたましい程の警報音が鳴り響いた。

 

「!?」

それに驚くも、すぐに落ち着きを取り戻し、辰巳は理解する。

「来たか・・・・」

グッと拳を握りしめる。

剣を背中の鞘に叩き込み、神樹が作り出した壁のある方角へ視線を向ける。

「・・・・守ってやるよ・・・・この四国を」

辰巳の見える視界が急激に変わっていく。

海の向こうから伸びてくる蔦や根が、建物や車など覆っていく。

「これが、樹海化・・・」

それは、神樹がこの世界を守る為の最終手段。

結界内の時間を止める事で、人類守護の為の世界を作り出す、固有結界。

「・・・・よし」

辰巳は走り出す。

携帯の画面に表示されている、他の勇者と合流する為に。

そこで、開けた場所にでる。

そこには、若葉、友奈、千景の三人が揃っていた。

「悪いな、遅くなった」

「あ、たっくんだ!」

そう声をかける。

若葉は、すでに変身しており、友奈と千景はそのまま。さらに球子や杏もいる。

全員、その手に自らの武器を携えている。

「これで全員揃ったな・・・これが私達の初陣だ。我々の手で、バーテックスどもを討ち倒す!」

若葉が、一同に向かってそう言う。

「それはいいけれど・・・・当然、貴方が先頭に立って戦うのよね・・・リーダーなのだから・・・」

と、千景がその様に呟いた。

場の空気が、険悪さを帯びる。

(どうしてこのタイミングで言うかなぁ・・・)

思わず頭を抱えたくなる辰巳。

「誰が先頭とかじゃなくて、全員で戦えばいいでしょ?それがチームワークってもんですよ」

と、球子が呆れたように反論。

しかし千景は、辰巳の後ろに隠れる杏を見る。

「チームワーク・・・・」

そう呟く千景。

杏は、手を震わせており、顔色が悪い。

「伊予島さんは、戦えるのかしら?」

そう、言う千景。

事実、杏は恐れている。

敵との戦いに、死ぬかもしれない恐怖に。

命を落とすかもしれない戦場は、彼女のような人間には、荷が重すぎるかもしれない。

「伊予島。怖いのは分かるが、私達が戦わなければ人類が滅びる可能性だってあるんだ。顔をあげろ」

若葉が彼女にそういう。

若葉は根っからの武人気質。故に、不器用なので気の利いた言い方は出来ない。

「ご、ごめんなさい・・・」

さらに恐縮する杏。

「若葉、もういいだろ」

そんな二人の間に、球子が割って入る。

しかし、空気は最悪だ。

だが誰も何も言わないなか、一人だけ明るく声を発する者がいた。

「みんな、仲良しなのはいいけどさ、話し合いは後にしようよ!」

「「「「「仲良し?」」」」」

「言うでしょ?喧嘩するほど仲が良いって」

「「いやそれは違う」」

「いやそれは違うわ」

「いやそれは違うぞ」

「友奈さん・・・私もそれは違うと思います・・・」

「皆に速攻で否定された!?」

息の整った否定に、まとめてショックを受ける友奈。

だが、すぐさま気を取り直し、力強く言う。

「でもみんながケンカする原因を作ったバーテックスが、すぐそこまで来てる。怒るにしてもケンカするにしても、相手はあいつらだよ」

友奈のその言葉に、一同はハッとなる。

そう、そもそもこのような事になっているのは、奴らが来たからだ。

(そんな当たり前な事実になんで気が付かなかったんだろうな・・・)

辰巳は、手袋の手首あたりの端を持ち、ぐっと引く。

「よし、それならそういう事で、さっさとアイツらを片付けに行くぞ!」

「よっしゃ!それじゃあタマ達も気合入れるか!」

気合を入れる球子。

「みんなで仲良く勇者になーる!」

友奈の掛け声を合図に、一同がそれぞれ、自分の端末のアプリを起動させた。

 

辰巳は竜胆を想起させる白と灰色。

友奈は山桜を想起させる桃色。

球子は姫百合を想起させる橙。

千景は彼岸花を想起させる紅。

 

それぞれの装束を着込む中、杏だけは、変身出来なかった。

変身するには、意志にも大きく左右される。

戦う意志がなければ、勇者に変身する事は、不可能。

「ご、ごめんなさい・・・・・」

申し訳なさ故か思わず謝る杏。

そんな杏の頭を、球子が撫でる。

「気にすんなっての!タマたちだけで全部倒してくるから」

「・・・うん・・・」

杏は、うつむいたまま頷く。

その様子を、辰巳は無言で見つめ、すぐに視線を敵に向ける。

「・・・・」

あの白い異形。

辰巳は、一度深呼吸をしてから前に出る。

「先に行くぞ、若葉」

「私も行こう」

辰巳は背中の剣を引き抜き、若葉は腰に差した刀の柄に手を添える。

 

竜を殺しその憎悪を纏う魔剣(つるぎ)と命を宿し生きる大刀(かたな)

 

名を、『バルムンク』と『生大刀(いくたち)』。

 

その二つの武器を持って、桔梗と竜胆は敵に向かって走り出す。

「勇者よ、我に続け!」

若葉の掛け声とともに、二人は跳躍する。

そのまま、有象無象の衆の中へ飛び込む。

剣を上段に構え、振り下ろす辰巳。

すると、目の前にいた化け物―――バーテックスを縦断、後ろにいた敵さえも巻き込んで一気に斬る。

辰巳の剣は、三年前と比べ物にならない程に洗練された。

そして、集中力の使い方も、他の誰よりも、鍛え抜いた。

 

 

まず、色はいらない。

 

 

自分の視界から、あらゆる色を排除、それによって、色を認識する為の集中力は、全て動体視力へ移行させる。

視界に移る光景が、遅くなる。否、思考速度が加速する。目に映る光景が、鮮明に見える。

光と影の情報を、一瞬にして視界に刻み付け、僅かな塵一つも見逃さない。

無色視界(ノンカラーサーチ)

色の無い世界。

故に、敵の動きがよく見える。

視界の隅に見える若葉の姿がよく見える。

幼いころから習ってきた居合によって、敵を次々に斬り捨てるその剣捌きは、初めて見た時とは比べ物にならない程に洗練され、美しく昇華している。

あの分なら問題ないだろう。

「オオオッ!」

一瞬の助走。そこから、一気に加速する。

「対天剣術『疾風』」

瞬間、辰巳の姿が消え、一直線上にいたバーテックスが一瞬にして切り裂かれる。

気付けば、辰巳はその一直線上の先にいた。

「遅い」

剣を払い、次の敵へ向かう。

 

 

 

 

 

全員、順調に敵を倒していく。

杏は、球子のピンチによって変身でき、千景は先ほどまで、後ろで動けなかったが、友奈に励まされ、戦線に出た。

そして、ある程度倒したところで、敵に新たな動きが見えた。

「下がってく?」

「いや、これは・・・・とうとう本気を出したって事か・・・」

バーテックスが、融合を始めたのだ。

 

バーテックスは、融合する事によって、他の生物が何百年かけて成し遂げた『進化』を、一瞬にして成し遂げるのだ。

 

それは、『進化体』と呼ばれる。

棒の様な物に変化したバーテックス。

「なんだあいつ?」

球子が首を傾げる。

進化体は、まだ一個体であるバーテックスとは比べものにならない程の力を持つと言われているが、あれは、そんな牙さえも持たないように見える。

「まずは私が・・・・!」

杏が、その能力不明の敵にクロスボウを向け、引金を引いた。

連射式故の連射力で連続射出された矢が、棒状のバーテックスに迫る。

だが、そこで敵に動きが現れた。

突然、棒から何かの板がホログラムのように出現したのだ。

それに矢が、弾かれ、杏の元へかえっていく。

「!?」

しかし、跳ね返った矢が、杏を貫く事は無かった。

「あぶねェ!」

「対天剣術『縄張(なわばり)』」

球子が杏の前に出て楯を構え、辰巳がさらにその前に出たからだ。

自分の周囲に、半球状の空間を想定。その空間に入ってくる害意あるものを、すぐさま叩き落す、反撃結界(カウンターシールド)

それが、『縄張』。

主に、防衛に使われる技なのだが、この場において、最も効果的な剣術だ。

「無事か杏」

「あ、ありがとうございます」

「すまねえ辰巳、助かった」

「いいってもんさ。さて・・・」

辰巳は上空の敵を見据える。

「あれは反射板って訳か・・・」

あれほど杏の矢を正確に反射できるなら、おそらく球子の旋刃盤も効果はないだろう。

「アレも通用するかどうか・・・」

辰巳がそう逡巡していると、その敵に向かって単騎突っ込んで行く者がいた。

 

友奈だ。

 

「友奈!?」

「勇者パァァアアアンチ!」

拳をバーテックスに叩きつける。

だが、反射板はひび一つつく事は無い。

だが、それでも友奈は拳を振るうのをやめない。

「一回で効かないなら、十回、百回、千回だって叩き続ければ良い!」

そして、友奈は、『切り札』を発動する。

神樹には、地上のあらゆるものが概念的記録として残っている。

それにアクセスし、抽出し、自らの体に体現させる、勇者の『切り札』にして急激なパワーアップ手段。

 

それは、暴風を具象化した精霊。名を『一目連』。

 

友奈の姿が変化し、その力がその身に宿る。

「千回!勇者パァァァンチ!!」

目にも止まらぬ拳の嵐が、バーテックスに叩き込まれる。

まるで釘を打つかのように、ダメージが消えきる前に次の攻撃が叩き込まれるため、ダメージは蓄積され、反射板に亀裂が入る。

何度も何度も何度も拳が叩きつけられ、やがて、その体は、木端微塵に打ち砕かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

四国最初のバーテックスの襲撃は、勇者たちの勝利で終わった。

あの戦いの後、大社は勇者の存在を大々的に発表した。

そして、勇者が勝利した事も。

若葉がしていた諏訪との通信の記録も報告された。

彼らも精一杯、この絶望的状況で戦っているという事実は四国の者たちに希望を与えた。

 

 

ただ、諏訪との通信が切れたという事は、秘匿された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・・あ、もしもし、お兄?』

「よう火野。最近の調子はどうだ?」

『はい、絶好調です!』

「そうか、ならよかった」

『お兄はどうですか?』

「とくにはねえよ」

『あ、お兄、初のバーテックスの襲撃の撃退、ご苦労様でした。怪我はありませんよね?』

「ああ、雑魚ばっかだったからな。問題無かったよ」

『ほ・・・・なら良かったです。ひなたさんは元気にしてますか?』

「ひなたか?相変わらず若葉の写真とったり一緒に行動したりしてるよ」

『アハハ・・・まあ、元気なのが分かってよかったです。何せ、未来のお兄の伴侶・・・』

「それは無い」

『・・・・お兄、この際、『恋』というものを経験したらどうですか?」

「鯉?池で泳いでる魚の事だろ?そんなもの経験してどうするんだ?」

『そっちじゃありません!というか何故に魚のコイなんですか!?』

「コイといったらコイだろ?」

『・・・・・はあ』

「ん?なんで溜息?」

『お兄なんて知りません!』

「何故に!?」

『・・・・・・まあ、茶番はさておき。お兄、『切り札』はまだ使ってないですよね』

「ああ。今回の戦闘では一度も使わなかった」

『いいですか?あれは他の勇者の切り札を()()()()ものです。その上、体への代償が大きいものです。だから、アレの使用だけは、絶対にやめてください。いいですね?』

「ああ、分かっている」

『ならよしです。それでは、ひなたさんによろしくと行って下さい。安芸さんからも』

「分かった。それじゃあおやすみ火野」

『おやすみなさいです』

 

 

 

 




次回『Gは嫌いだ』

黒いアイツは人類共通の敵。
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