足柄辰巳は勇者である   作:幻在

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珍しく長くなった。

一万五千以上とは、我ながら打ち過ぎだな。わっはっは!

では本編をどうぞ。


オモイデ

夢を見た。

 

とても懐かしい夢を。

 

 

 

「なあなあ辰巳ー」

「なんだ球子」

ある日の事、もう二年も前の事になるが、球子が木刀を振るっている辰巳に声をかけた。

「この後付き合いタマえ」

「・・・別に良いが・・・」

そんな訳で訓練が終わった後に来たところというのは・・・

「何故アウトドアショップ・・・」

「いいからいいから。おおー、これなんかいいな!」

球子が手に取ったのは、彼女のものにしては幾分かサイズの大きいジャケットだった。

「おいそれ大きすぎないか?・・・お前に」

「う、うるさいな!」

思わず球子が顔を赤くして反論するが、すぐさま手に持ったジャケットを辰巳に向けた。

そして、そのままじっと辰巳をジャケット越しに見つめる。

そこで辰巳にはある一つの結論が出来た。

「・・・おい、まさかそれ俺のじゃ・・・」

「え?そうだけど?」

「何変な道に引き込もうとしてんだこのアウトドアガールがッ!!」

「変とはなんだ変とは!これでもれっきとしたしゅみの一部なんだぞ!」

「俺の趣味とは関係ねえよ!」

と、しばし口論した後に落ち着いて、改めて辰巳が球子に聞く。

「で、なんで俺の分を買おうとしてるんだ」

「そりゃあ無論、山登りに付き合って欲しいからだ!」

「なんでだよ・・・」

「山はいいぞぉ、川では魚が獲れるし、森では木の実や山菜なんかも採れるし、自然の中で感じる魅力もあるんだぞ。きっとお前も気に入る筈だ!」

「あ、そう・・・」

「ああ!その眼、さては信じてないな!よぉし!絶対だ!絶対にお前を山に連れて行って、山での生活の面白さって奴を教え込んでやる!!特に釣りの楽しさって奴を叩き込んでやる!!」

「はいはい、そうですか」

 

 

 

 

結局、この約束は果たされなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また、別の日の事だ。

 

その日の放課後、辰巳は忘れ物をしたとかそういうのとかで(良くは覚えていない)教室に戻った時の事、そこで机に突っ伏して寝ている杏を目撃した。

(何してんだ・・・?)

しばしの逡巡のあと、辰巳は彼女を起こす事にした。

「おい、杏、起きろ。杏」

「んん・・・あと、五ページだけ・・・」

「そこはあと五分だろ・・・」

無駄なツッコミをしつつ、辰巳はなおも杏を起こしにかかる。

「ん・・んにゅ・・・・はれ・・・?」

寝ぼけているのか、舌があまり回っていない。

寝ぼけた状態で辰巳を見つめ、そのまま数秒、やがて意識が覚醒してくると・・・

「・・・・はわ!?」

ぼふん、とその顔を真っ赤にした。

「あれ!?私!?なんで!?辰巳さん!?」

「落ち着け」

「はうあ!?」

とりあえずチョップを叩き込んで黙らせる。

「うう・・・」

「それで、どうしてこんな所で寝てたんだ」

「ああ、それは・・・・」

気付くと杏の手には、一冊の本があった。

「ふむ・・・恋愛小説か」

「はい・・・って良く分かりましたね」

「妹が同じような本を持っていてな。その本と同じタイトルだったから、もしからと思ってな」

「ははあ・・・流石辰巳さん、私達の中で一番の洞察力と記憶力を持つ人・・・」

杏が何やら関心しているが、辰巳はそれにしばし苦笑いしつつ、何故こんな所で寝ていたのか聞く事にした。

「というか、なんでこんな所で寝ていたんだ?」

「ああ、実は昨日、これの前の一巻を徹夜して読んでしまって、で、そのまま次巻を・・・」

「なるほど、寝不足か・・・」

「・・・・辰巳さん?」

何故か辰巳の雰囲気が怖くなっている事に気付く杏。

「・・・・よし、杏・・・」

「ひぃぃ!?」

「徹夜した罰として、明日丸一日本読むの禁止な?」

「そ、そんな殺生なぁ!!」

ついつい泣き叫ぶ杏。

「うう・・・あんまりですぅ・・・」

「体調管理はしっかりやっとけって言っただろ」

「うう・・・・そういう辰巳さんは本とか読まないんですかぁ」

「読まない事は無いぞ。主に剣戟系の創作ものだが」

「ラノベですよねそれ!?」

あまりにも簡単に返された事にいじける杏。

「しかし、お前ほんとに本が好きだよな」

「あ、はい。本を読んでると、自然と本の中の登場人物になり切れるというか、本の世界に入れて、とても心が穏やかになるような、そんな感じがするんです。悲しかったり、辛かった内容だったら泣いてしまいますし、逆に楽しいと思えるなら笑う。そんな、沢山の感情がこの本の中に詰まってると、そう、思えるんです」

「ふーん・・・俺には良く分からないな」

「それでも、です。昔は、学年の違いで、前のクラスメートたちと溝が出来ていた時に、辛い気持ちから逃れる為に、読んでいただけなんですけど、今は、同じ勇者の皆さんがいます」

「・・・・そうか、良かったな」

「わ」

辰巳は、杏の頭を撫でる。

「むー、もう!いきなりなでなでしないで下さい!」

「悪いなー。お前の様な大人しそうな奴見てると、つい近所で飼われてた子犬の事を思い出してついな・・・・・うん」

「あ」

もはやお決まり、というべきか。過去が少しでも関わると落ち込む辰巳の悪い癖がまた出てしまった。

「近所の子犬・・・」

「ああ!お、落ち込まないで下さい!」

よほどショックなのか、膝を抱えて丸まってしまう辰巳。

「ああ・・・・」

普段はとても頼りになるのだが、バーテックスの侵攻が始まる以前は、こうして膝を抱える程にまで落ち込むのだ。

こうなるとしばらくは動かなくなる。

それにため息をつきつつ、杏はある事を思いつき、辰巳と同じように膝を曲げてしゃがむ。

「辰巳さん」

「・・・」

「もし、昔の事を思い出して、そうして落ち込んでしまうようなら、一つ、何かおまじないをして元気をつけて下さい」

「・・・おまじない?」

「はい。おまじない一つで、結構変わるものですよ?そうですねぇ・・・」

少し考え込んで、杏は、よし、と呟いてから辰巳に、おなじないの言葉を言った。

「『為せば大抵何とか為る』」

「・・・なんかの本の一節か?」

「いえ、私が考えました」

「・・・・そっか、為せば大抵何とか為る、か」

一つ呟いた後、立ち上がる辰巳。

「ありがとう杏、どうにかなりそうだ」

「それは良かったです」

辰巳の感謝の言葉に、杏も、微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

今思えば、あの言葉にどれほど励まされ、支えられた事か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ん」

鳥の鳴き声で目覚める辰巳。

いつの間にか寝てしまったらしく、起き上がる。

体を起こすと、胸辺りに置いていた本があぐらをかいていた膝の上に落ちた。

それは、杏の部屋から持ってきた一冊の恋愛小説。

辰巳は今、森の中にいる。それも、川の傍で、釣りをしていた。

日差しに耐える為に、麦わら帽子を被り、何匹が釣った魚が、そばにあるバケツの中に入っていた。

合計、四匹。

それは、辰巳の知る、死んで、そしていなくなった勇者の数。

狗ヶ崎哮を始め、伊予島杏、土居球子、そして、郡千景。

最初の三人は死に、最後の一人は、遠い土地で、孤独に寂しく生きている。

その事実が、辰巳の心を締め付ける。

「・・・為せば大抵何とか為る」

辰巳は、丁度魚がかかったと思わせる竿の先の動きを見て、すぐさま釣り上げる。

その後、もう一匹釣って、その日は切り上げる事にした。

 

 

道中、ある程度瓦礫が撤去されたお陰で、人が通れる程度には道が開けていた。

だが、あの大災害、『千景(せんけい)災害』による建物の倒壊や、死者の把握などはまだ出来ておらず、唯一、無事だったのは、辰巳たちがいた病院と、丸亀城だけだった。

街の壊滅のために、ある程度の住人は病院や避難所で住む事となり、その為に食料を回さなければならず、とりあえず夕飯だけは自炊するという事で、今現在、辰巳がここ毎日魚を釣ってきていた。

丸亀城の石垣の階段を上ると、そこには、若葉がいた。

「よお」

声をかけると、若葉は、すぐに振り向いてくれた。

「辰巳か。どうだ、釣りの方は?」

「とりあえず人数分は釣ってきた。大きさに個体差はあるが、まあ大丈夫だろ」

「そうか。ならば今夜は焼き魚だな」

若葉は、そう言って、また、壊れた丸亀市の様子を見た。

「・・・今日もずっとここに立ってたのか?」

「ああ。生大刀が折れてしまった以上、あまりやる事がなくなってしまってな」

「いや、練習用の木刀はあるだろ?」

「そうなんだが・・・どうにも、やる気が起きなくてな」

若葉の生大刀は、半ばから折れてしまっために、神性を失った訳ではないが、修復は不可能だった。

故に、若葉は事実上戦力から外されてしまったのだ。

もちろん、勇者装束を纏っていれば多少体術で戦う事は出来るだろうが、それでも、戦力で劣るのは確かだ。

しかし、それは同時に、千景を失った事への心の傷を癒す時間を作ってくれたようにも見えた。

若葉の場合、居合をやっていればいいのではないかとも思うが、今の若葉にとっては、居合をやっていても、答えは見つからないだろう。だから、こうして、居合以外の方法で答えを探そうとしているのだ。

「俺は戻るが、夕飯時になったら呼ぶからな」

「ああ、分かった」

辰巳と若葉は、そこで別れた。

 

 

 

次に会ったのは友奈だ。

「あ、たっくん、帰ってたんだ。おかえり」

友奈は、笑ってそう答えてくれる。だが、どこか無理をしているように見える。

「・・・おう、ただいま」

「あ、今日も魚釣ってこれたんだ。すごいなぁ」

いつもの元気はとうにない。それは千景の事によるショックからくるものなのか。

「お前・・・疲れてるだろ?」

「・・・」

それに一瞬驚いたような表情をした友奈だったが、やがて観念するかのように笑った。

「あはは、すごいね。あっと言う間にバレちゃった」

「何年お前らを見てきたと思ってる。疲労貯めてることぐらい分かる」

「そっか、すごいなぁ。たっくんは」

現在、勇者たちの訓練メニューは、今自分たちが使える最強の精霊との同調を安定させる事だった。

杏の手記、そして、辰巳の状態、さらに、歌野に憑依した八岐大蛇の言動から、ある程度、精霊の力を引き出せるまで同調率を高める必要があるのだ。

その手っ取り早い方法が、精霊との会話。

だが、その為には自らの体に精霊を宿す必要があり、その度に瘴気が溜まっていくのはいなめない。

だが、それを気にしていられる程、今の状況はあまりよろしくない。

「それで・・・どうだった?」

恐る恐ると言った感じで聞く辰巳。

それに、友奈は、弱々しい声で。

「・・・ごめんね。今日は、少し休ませて」

「そうか・・・夕飯時には呼ぶからな」

二人はそうして別れた。

千景の刑の内容を聞いてから、友奈の元気があまりない。

いくら無限の体力及び元気を有する友奈でも、あの内容は流石に堪えたようだ。

だから、ここの所、空元気を見せてきているように見える。

 

 

 

次に会ったのは、歌野だった。

彼女は、何故か友奈と違ってそれほど疲労していないようだった。

「歌野?なんでお前はそんなに疲れてないんだ?」

「うわ、出会って早々それとはひどいわね。No Problemよ。結構八岐大蛇との同調も安定してきたから、楽に使えるようになっただけよ」

「そうか・・・」

「ただまあ、ここ最近の友奈の心は不安定になってるから、同調率も不安定になってるみたいだけどね。そう言う貴方は、ファブニールとの同調はどうなの?」

「これみりゃ分かるだろ」

そう言って辰巳は左腕の袖をまくって見せる。そこには、真っ黒い竜鱗に覆われた左腕があった。

「同調のし過ぎな上に力を使い過ぎたからな。肉体にまで変化を起こしてるよ。お前だってろうだろ?」

辰巳も言い返す。

事実、歌野の右目にも少なからず変化が起きていた。紅くなっているのだ。血のように真っ赤に。

「八岐大蛇、その力は俺のファブニールに匹敵するかそれ以上の強さを持っている。だから、俺と同じような変化が起きても可笑しくはない。だろ?」

「貴方には言われたくなかったわ・・・いえ、貴方だからこそ言えるのね」

歌野はもの悲し気な眼をして、すぐに気を取り直す。

「それよりも、みーちゃん見なかったかしら?」

「水都?朝にどこか出かけてくのを見たが・・・それっきり何も分かってないぞ」

「そう・・・知らないなら良いわ。シャワー浴びてくる」

「夕飯時には呼ぶ」

「よろしく。期待してるわ」

そう言って歌野は辰巳の脇を抜けて去って行った。

その後ろ姿を見送りつつ、辰巳も歩きだす。

 

 

 

最後に会ったのはひなただった。

「あ、辰巳さん。おかえりなさい」

「ただいまひなた」

ひなたは、どういう訳か球子の部屋から出てきた。

「球子の部屋の掃除か?」

「はい・・・球子さんのキャンプセットを避難所などに寄付した方がいいかと思いまして。その方が、タマっちさんも許してくれると思いますし・・・」

ひなたの声が、だんだんと声が小さくなる。

しかし、己を奮い立たせるように、声の調子を戻す。

「これから、杏さんの部屋を掃除するんです。ただ、いくつか本を持って行って、避難所の皆さんの気を紛らわす事が出来ればと思っています」

「そうか・・・魚置いたら手伝ってもいいか?」

「え、でも・・・・」

「頼む。夕飯まではまだ時間があるだろう?」

「・・・そうですね。お願いします」

辰巳は、すぐさま魚を部屋に置くと、杏の部屋に向かった。

やはり、杏の性格上、本を読む為に、部屋の中はとても片付いていた。

いくつもの本棚に、ぎっしりと本が並べられており、恋愛、SF、探偵、歴史、フィクションなど、さまざまなジャンルの本が、ジャンル及びあいうえお順にきっちりかっちりと並んでいた。

あいつらしい、と思いつつ、辰巳は杏の部屋を見渡す。そこでふと、驚異的観察眼を誇る辰巳の眼に、ひなたでも見落としそうな場所に、一冊の手帳がある事に気付いた。

気になり手に取って、開けて中身を読んでみた。

 

 

 

 

 

 

九月某日―――

今日から日記をつけてみる事にしました。

理由は・・・・なんとくなくです。

とにかく、今日の事について。

今日は、若葉さんとひなたさんに、あるうどん屋に連れて行ってもらいました。

この時、まだ私は、タマっち以外とはあまり仲良く出来てなく、あの足柄辰巳さんという人が怖くてあまり話す機会が少なかったと思います。

発端は、友奈さんが香川のソウルフードであるうどんを食べてみたいと言い出して、それに若葉さんとひなたさんがおすすめの店を紹介したからでした。

それで、そのうどん屋に行って食べてみた所、とても美味しかったです!!

『失われた時を求めて』のアルベルチーヌがマドレーヌの味から遥か過去を旅したように、いずれ将来、自分も過去の記憶を旅をしそうな程の衝撃を受けました。

友奈さんやタマっちもとても驚いていて、千景さんに至っては、食べながらそのおいしさを味わっていました。

何故か、辰巳さんだけはとてつもなく渋い顔していましたが・・・・

 

とりあえず、この日は、若葉さんとひなたさんのお陰で、うどん好きになってしまいました。

 

 

 

十月某日――――

先日、辰巳さんからの九十度謝罪を受けてから数日。

この日は皆さんにとても迷惑をかけてしまいました。

ネヴィル・シュートの『渚にて』という本を呼んでいたら、悲しくなって、ついやめられなくなって・・・・

その内に寝てしまっていたようで、気付いたら辰巳さんの背中に乗っかっていました。

その傍にはタマっちがいて、どうやら、皆必死に探してくれていたみたいでした。

一番最初に辰巳さんが見つけてくれて、その後にタマっちが来てくれて。

その時に、辰巳さんにぐちぐちよ説教を受けて、最後に『皆お前を心配してる』って言葉は、とても印象に残りました。

 

『渚にて』

その内容は、滅びゆく世界で、そこに生きる人たちが、終わるその時まで普段通りの生活をしていくという物語。

もし、今、この世界がそうであるなら、私たちは、きっと、大丈夫だよね。きっと。

 

 

 

 

十二月某日――――

この日はとても珍しい事がありました。

なんと、あの千景さんが、クリスマスという言葉に反応したのです。

すぐに友奈さんが嬉しそうに声をかけて、説明していたんだけど・・・・上手く伝わってなかったらしく、後から辰巳さんが正しい説明をしてやっと理解したようです。

ただ、千景さんの家ではクリスマスパーティはやらかったようで、それには、とても驚きました。

だけど、友奈さんは、やった事がないならやろうと言い出して、皆でクリスマスパーティをする事に決まったのです。

私とタマっち、友奈さんとひなたさんに千景さんで飾り付けをする事にして、辰巳さんがクリスマスツリー、若葉さんがパーティで食べるケーキや骨付き鳥を買ってくるという役割分担をしました。

楽しいパーティになるといいな。

 

 

 

 

 

 

二月某日。

今日はバレンタインデー。

そんな訳で、勇者の女子勢全員で、辰巳さんにチョコを送る事にしました。

ただ、皆、男の人にチョコを送った事がなくて、戸惑いながらも、どんなチョコが喜ぶのかを相談して、結局それぞれ違うものを送る事になりました。

辰巳さんは、苦笑いしながらも受け取ってくれました。そして、私たちの前で食べて見せてくれました。

一人一人、ちゃんと感想を述べて・・・まあ、長すぎな気がしましたけども。

それでも後で皆悶絶していた事は、この際黙ってておきましょうか・・・というか私も悶絶してたし。

 

 

 

 

 

 

十月某日

この日、三年前以来のバーテックスの侵攻が始まりました。

その時、私は、足が竦んで動けませんでした。

でも、タマっち先輩のピンチに、思わず体が動いて、そしたら、変身出来ていました。

辰巳さんの言った通りでした。どんなに戦うのが怖くても、それを乗り越えられるのが人間だ、て。本当に、その通りでした。

その日の侵攻は、若葉さんと辰巳さんのお陰か、快勝といった結果となりました。

本当に、若葉さんもそうですが、辰巳さんは凄いです。流石、私たちの中で、一番強い勇者です。

きっと、辰巳さんがいれば、私たちは、きっと負けません。私はそう信じています。

 

 

 

 

一月某日

 

この日、辰巳さんが、死にかけました。

 

辰巳さんの血を見た時、そして、辰巳さんが息をしていないと聞いた時、なんだか、自分が自分じゃなくなるかのように思えました。何も覚えてなくて、辰巳さんが救急車で搬送されるところまでは覚えていましたが、その先は、ただ茫然としていたと思います。

辰巳さんが息を吹き返したと聞いた時は、とても安心したのを覚えています。安心して、思わず気絶しかけたのも覚えています。辰巳さんが、まだ油断できないと聞いたのも、覚えています。

心配だった。とにかく心配だった。

我ながら、この精神状態で日記を書けている事には驚いていますが、たぶん、今日は一睡もできないかもしれない。

怖い、辰巳さんがいなくなるのが怖い。

辰巳さんがいなくなってしまったら、私は、私たちは、一体、どうすればいいのでしょうか。

 

 

 

 

 

一月某日

辰巳さんが危険な状態に晒され、そして何事もなく復活した事に驚いたその翌日。

なんだか、辰巳さんとひなたさんの間の空気が、とてもいい雰囲気になっていました。

まるで、恋人のような、夫婦のような、そんな、甘い関係のような。

まだ、確信は持てていません。ですが、どうしてでしょうか。

 

心が痛い。

 

前に、二人がデートをすると聞いた時と同じような。その時は、私が前に読んだ恋愛小説と同じ内容の展開だったので、特に気にしませんでした。ですが、その後のデートの日には、確かに心はずきずきと痛んでいました。それと同じような感じでした。

ただ、辰巳さんと、いつもより嬉しそうに話し合うひなたさんが、とても妬ましかったというのを覚えています。

どうして、こんな感情を抱いてしまうのか。まさか

 

 

 

 

――――その日の内容は、中途半端に途切れていた――――

 

 

 

 

二月某日。

改めて、辰巳さんとひなたさんが、正式に交際する事が決まったようです。

皆、祝福していて、二人は、とても恥ずかしそうにしていました。

私も、祝福しました。ですが、心の底では、とても悔しがっていました。

正直に言いましょう。

 

私は、辰巳さんが好き。

 

まさか、自分の初恋がこんな形で終わるなんて、思いもよりませんでした。

好きな事を、その相手が他の誰かと交際を始めたと言った所で自覚するなんて、我ながら、恥ずかしい限り。でも、だからといって二人の関係を引き裂きたくはない。せっかく、付き合えたのに、それがたった数日で破局してしまうなんて、私としても嫌だった。

好きな相手だからこそ、幸せになって欲しいとも思う。

ですから、これからの人生、二人の幸福がいつまでも続くように。そう、願っています。

そう、願っています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日記は、まだまだ続いていて。

そのページをめくる度に、そんな事もあったか、と思い、そして、心に突き刺さった杭を、どんどん深く打ち込んでいく。

 

 

 

 

 

三月某日

昨日の晩、タマっち先輩が部屋にやってきて、花見をしようと言いました。

その事を皆に提案したら、皆賛成してくれました。

辰巳さんも、いつもの癖を出していましたが、とても楽しみにしてそうでした。

そこで、初めて辰巳さんのお母さんの名前を知りました。

 

桜良(さくら)』というそうです。

 

満開の桜のように美しく、良き人生を送れるように。そんな願いを込めた、名前だそうです。

その時の辰巳さんの顔が、とてももの悲し気だったのを、今、ここで書いている時でも思い出せます。

だから決めた。

そんな悲しい顔をしなくて済むように、私が辰巳さんを楽しませるんです。今回だけは、ひなたさんに悪いですが、辰巳さんを独り占めにさせてもらいます。

私が、辰巳さんを楽しませるんです。

それを思うと、今からでもとても心が弾んでしまう。

早く、お花見時になって欲しいです。

次の戦いも勝って、絶対に、皆でお花見をするんです。

 

きっと、必ず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日も若葉は石垣の上に立つ。

そして、今までの、千景との事を思い出す。

そして、また、泣いた。

もっと、千景と仲良くしていく方法があったのではないかと、今でも思ってしまう。

そうであったなら、今頃、この隣には、千景がいたのではないかと、そう思ってしまう。

この夕焼け時。たった一人見続ける事に、意味があるとは思えない。

でも、それでも、若葉は、この景色を眺めていたかった。

 

 

あれはいつの事だったか―――

 

 

 

 

一年前、まだ、バーテックスの侵攻が再開される前の事。

空が夕焼けに染まり、まだ崩壊していなかった街の姿を見ていた時の事。

「何をしているのかしら?」

ふと後ろから声を掛けられ、振り向けば、そこにはあきれ顔で若葉を見ていた千景の姿があった。

「千景か、どうした?こんなところで」

「それはこちらの科白よ。貴方こそこんなところで何してるの?」

「何って、この景色を眺めていただけだが・・・・」

「・・・あ、そう」

「なんだ自分から聞いておいて」

淡泊な反応に、思わずムッとしてしまう。だが、それが彼女なのだと、それ以上は何も言わなかった。

ただ、どうせ彼女もいるのだ。

「千景」

「なに?」

「一緒に見ないか?」

「なんでよ」

「どうせ暇なのだろう?」

図星なのか、何も言い返さない千景。

「綺麗だぞ」

また見てみれば、沈みかけた夕日の光と、昏くわずかにいくつかの星が輝く空が見えた。

「・・・・少しだけよ」

千景は、不承不承と言った感じで、若葉の隣に立った。

「・・・ねえ、乃木さん」

「なんだ?千景」

「どうしてあなたは、いつもここに来てるの?」

「・・・・そうだな」

若葉は、その問いに、なんとなく答える。

「この夕日を、というよりも、この街を見てると思うんだ。皆、ここで精一杯生きてるって」

「・・・」

「三年前のあの日、世界は奪われた。だが、ここに生きる人たちは皆、それでも頑張って生きているんだ。私は、そんな人々を見て、皆の持つ勇気を見て、私も頑張ろうと思えるんだ。だから、見ていられる。毎日、見て、日々の糧にしてるんだ」

「・・・よく、分からないわ」

「いいさ、それでも。いずれ分かる日が来るさ」

若葉は、笑って千景を見る。

ただ、その時、ほんの少し絶句したのを、彼女は覚えている。

風になびく黒髪が夕日に照らされて輝いて、その光が作り出す影の作られ方によって、目の前にいる彼女が、この世のどれよりも美しく見えた。

 

まさしく、絶世の美女のように。

 

その横顔を、もって見てみたいと思った。

「ぎゃん!?」

「ああ!?大丈夫ですか辰巳さん!?」

だが、それはふと聞こえた悲鳴と慌てる声によって中断されてしまった。

「今の声は、足柄さんと上里さんかしら?」

「え、ああ、そうだな」

「・・・どうしたの?」

「え!?い、いや!なんでもないぞ!」

その時は、どうにか誤魔化してみせた事を思い出す。

あの時の彼女の怪訝そうな顔も、不意に可愛いと思ってしまった事も、どうにも否定できない。

 

 

 

 

 

 

「・・・千景」

気付けば、また泣いていた。

もうあの横顔は見れないのか、もう彼女の悪態を聞けないのか、もう、彼女と笑い合う事さえも出来ないのか。

そう思うと、どんどん涙が溢れてくる。

これほどまでに、涙が出るなんて思わなかった。

杏や球子の時は、どうにか我慢できたのに、千景の事を思うと、何故か、涙が止まらない。

たぶん、いや、きっと、ひなたが死んだ時でも、ここまで涙は流さないかもしれない。

(ああ・・・そうか・・・)

それで、気付いた。

 

(私は・・・千景に・・・恋をしていたのかもしれない・・・・)

 

寡黙で、ゲームが好きで、あまり主張せず、その癖負けず嫌いで、容姿も良くて、よく拗ねて、本心をぶつけてくれて、何かに気付かせてくれて、誰よりも勇者であろうとして、友達を大切に思ってくれる、彼女が、千景の事が、若葉は、好きだった。

「は・・・今更こんな気持ちに気付くなんてな・・・さらに同性相手にとは、我ながら、呆れ果てたものだ・・・」

涙はなおも流れ続ける。嗚咽も止まらない。

ただ、悲しくて哀しくて、悔しくて口惜(くや)しくて、情けなくて。

彼女を、千景を守ってやれなくて、胸が今にも張り裂けそうだった。

心が、圧し潰されてしまいそうで、とうとう膝が折れる。

「う・・・うぅ・・・・」

頭を垂れて、胸を掴んで、必死に溢れ出る激情を抑え込もうとするも、どうしても声が漏れてしまう。

今は、ただ、その場でうずくまったまま、何もしたくない。

そう、思った時。

 

「若葉さんって、あんまり泣かないイメージがありますけど、そんな風に泣くんですね」

 

ふと、聞こえた声に、若葉は、顔をあげた。

横を見れば、そこには、何かの包みを抱え、若葉に向かって微笑む水都の姿があった。

「少し意外でした」

いたずたっぽく笑う彼女に、若葉は、自虐的な笑みを浮かべる事しか出来なかった。

「は・・・まさかお前にこんな情けない姿を見られるとはな・・・・」

「別に、悲しい時は泣いたって良いんですよ。特に、こういう時は」

水都は、若葉に向かって歩み寄る。

「でも、いつまでもそうしている暇は、ありませんよ」

水都は、若葉のすぐ傍で、その布包みを解く。

 

それは、一本の太刀。

 

黒鞘に刀身を隠されたその刀は、とある神秘性を感じさせた。

「・・・それは」

「これは、哮さんの刀です」

「なんだと・・・!?」

「名前は、『倶利伽羅剣(くりからけん)』」

 

倶利伽羅剣。

それは、不動明王が右手に持っていたとされる、炎を纏いし剣。

悪神百鬼を討ち滅ぼす力を持つ明王の中で最強の力を有する不動明王の剣の力は、悪意持つ者の全焼。

そこへ哮の扱う魔神の炎が加われば、確かにそれは炎の能力において、最強の力を有していても可笑しくはないだろう。

 

 

「これを、貴方に受け取って欲しいんです」

水都は、その刀を、若葉に差し出した。

それにしばし茫然としていた若葉だったが、すぐに視線を逸らして、拒否する。

「・・・・だめだ、受け取れない。私には、その刀は()()()()・・・・」

「そんな事ありません。若葉さんは、十分にこの刀を振るうのに値します。他でもない、今の所有権を持つ私がそう思ってるから」

「だが、私は、守れなかった・・・哮さんのように・・・私は、守れなかったんだ・・・!!」

杏を無惨に殺されてしまった。

球子をあのサソリから救ってやれなかった。

千景を、守る事が出来なかった。

その全てが、今の若葉には重圧になって、その刀を持つ事を拒んでいた。

その、若葉の懺悔に、水都は――――

()()()()()()()()()()鹿()()()()()()()()()?」

 

完全否定した。

 

「生きてるならそれでいいじゃないですか。生きてるならその人の分まで生きていけばいいじゃないですか。その人が本来なら貰う筈だった幸せを、貴方がその分受け取っていけば良いじゃないですか」

「だが・・・私には・・・」

「私は、哮さんの分まで生きていくつもりです」

その水都の言葉に、若葉はハッとなる。

「哮さんの分の幸せも、哮さんが生きていくはずだった人生も、全部、私が背負って生きていくんです。それが、生かされた者の責務です。私は、そう思っています」

だから、と水都はつづけた。

「受け取って下さい。『生かされた者』として、しっかしとその責任を果たしてください。他の誰でもない、乃木若葉として、球子さん、杏さん、千景さん、そして、哮さんの意思を継いでください」

水都の真っ直ぐな視線に、若葉は、ただ黙る事しか出来なかった。

やがて、彼女は、座り込んだまま、水都の持つ刀を手に取り、刃を、ほんの少しだけ露出させた。

 

 

その時、蒼炎が噴き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――よう」

気付けば、周囲は青白く明るい場所となっており、目の前には、狗ヶ崎哮が立っていた。

「・・・哮さん」

「おう、狗ヶ崎さん家の哮さんだ」

「・・・私は、本当に貴方の刀を受け取っても良いのだろうか?」

若葉は、視線を逸らして、そう問いを投げかけた。

 

が、返答として帰って来たのは、強烈なデコピンだった。

 

「ぬぐぁ!?」

思いっきり吹き飛ばされ、床と思われる場所に倒れる。

「な、何をするんだ!?」

痛む額を押さえながら、涙目で哮を上目遣いに睨み付ける。

「馬鹿かお前は。うじうじ考えてる暇あんのかアホ」

「な・・・ま、まともに勉強が出来なかった貴方には言われたくない!」

「図星だろバーカ。それともなんだ?そんなに悩む事なのか?ああ?」

「そ、それは・・・私は、守れなかったんだ・・・」

項垂れる若葉。

それに哮は頭を掻きつつ、しゃがんで若葉と同じ目線になって若葉を睨み付ける。

「若葉。いつも思うがお前は考えすぎなんだよ。もうちょっと頭柔らかくして考えろ。今お前に必要なのはなんだ?」

「それは・・・」

「強くなる事だ」

哮は、断言した。

「誰よりも強くなれば、どんな脅威からも人々を守れるんだ。いいか、人は失敗から学ぶんだよ。守れなかった。だけど自分は生きてる。ならその時の失敗を次に生かそう。そう考えときゃいいんだよ」

「そんな単純な事で・・・」

「いいんだよ。少なくとも、今のお前には絶対に必要な事だ。だから、強くなれよ。その為なら、俺は喜んでお前に刀くれてやるぜ」

哮は、立ち上がって若葉に手を差し出す。

「お前なら、きっと誰よりも強くなれる。他でもねえ。()()()()()()()お前なら」

哮の言葉に、それでも若葉はまだ迷う。

だから、哮は若葉の頭を撫でた。

 

「笑えよ、若葉。人間、笑ってる顔が一番だ」

 

得意げに笑う哮。

その笑顔に、自然と若葉も、笑みがこぼれてしまう。

「ふふ、そうだな。ありがとう、哮さん」

「おう、どういたしまして」

「もし、貴方が生きていたのなら、惚れていたかもしれないな」

「そりゃ残念。俺の一番はもう決まってる」

「それは、本当に残念だ」

若葉は、握った哮の手を見る。

男らしく、ごつごつとした、大きな手だった。

「今思えば、父さん以外に、頭を撫でられたのは初めてだったな」

きっと、この時若葉は、その人生において、一番の笑顔を見せただろう。

「頑張れよ、若葉」

そして、哮のその最後の声援を最後に、若葉は――――

 

 

 

 

倶利伽羅を抜いた。

 

 

 

 

蒼炎が巻き散らされ、水都は思わず顔を腕で覆い隠す。

巻き起こった突風に、驚きつつも、水都は、安心したように若葉を見た。

そこには、倶利伽羅を抜き放ち、毅然と立つ、若葉の姿があった。

凛々しく立つその姿は、かつて見た、勇者として戦う若葉そのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高嶋友奈は、どことも知れぬ洞穴に来ていた。

「やっと来たか」

振り向けば、そこには巨大な大男がいた。

いや、それは人間ではなかった。

茹で上がったタコのように赤い肌、口からはみ出る程大きい下顎の歯。牙ともいうべきか。ボロボロの古い服を着ており、その手には赤い巨大な盃と、酒の入っていると思われるヒョウタン。

そして何より、額から生えている、二本の角。

それは、日本で言われる『鬼』の部類に入る存在であり、友奈が知る限り、鬼という種族において最強の力を有する存在。

彼こそが、『酒呑童子』だった。

「私・・・さっき寝た筈だけど・・・・」

一方の友奈は混乱していた。

辰巳と別れた後、友奈は自室に戻って、すぐさまベッドに横たわって泥の様に寝た筈だった。

それが気付いてみれば、こんな陰鬱な所に来ているとは。

驚かないのも無理はない。

「そりゃ簡単だ。テメェが無意識に俺と接続して勝手に来ちまったんだよ」

「そう、なんだ・・・」

「まあ、寝てれば精神は安定するからな。それで難なく入れたんだろ」

「そっか・・・・」

友奈は、力無く答える。

未だに、千景の事についてダメージが残っているようだ。

「まあなんだ。ここに座って酒でも飲め」

「・・・・私、未成年なんだけど」

「いいんだよ。実際に呑んでる訳じゃねえんだからよ」

くっくと笑う酒呑童子に、友奈は呆れつつも、酒呑童子から酒の入った小さな盃を貰った。

しばしその透明で水にも見えるその液体を見つめ、一口飲んでみる。

「―――――ッ!?!?!?!?」

が、突如として体を焼くような感覚が友奈を襲い、悶絶する。

「おおっと、まだこの酒はお前には早かったか」

「―――!!―――!?」

声も上げられない程に悶絶する友奈。その為に酒呑童子に文句の一つも言えない。

ふと、友奈は酒呑童子を、酒を飲んだことによって真っ赤になった顔で睨み付けた。

それを見た酒呑童子は、何故か笑った。

「ギャハハハハハハ!!おまっ、なんだその顔!?そんな顔すんなっ、わらっちまうだろ!?ギャハハハハハ!!」

大笑いも良い所。酒呑童子は面白可笑しく笑い転げる。

「――――ッ!!な、なにが、おかしいの・・・・・ッ!!」

どうにか回復した友奈が酒呑童子に向かって叫ぶ。

「いや、だって、おまっ、そんな、茹でダコみたいな顔されて、うひひ、笑わね、訳、ねえだろ!?ギャハハハ!!」

「う~、笑わないでよ!酒呑童子!」

友奈は涙目になって文句を吐く。

だが、不思議と体がぽかぽかしてくる。

何故だろうか?酒ってこんなにおいしいのか?

そう思うと、もう一杯飲みたくなってくる。

「どうだ?友奈」

酒呑童子が、友奈に聞く。

「楽しいか?」

「え・・・・」

気付けば、友奈は、忘れていた。

千景の事を、辛かった事を。

「あ・・・」

それに気付いて、友奈は、恐ろしくなる。

どうして、忘れていられたのかと。

しかし、酒呑童子はそんな友奈の心なぞ知らないとでも言うように、ある事を言った。

「どうせ辛い事なんて、こんな下らねぇ事で忘れちまうんだ。だったら面白おかしく人生を謳歌しちまおうぜ?」

「で、でも・・・・」

「それに、お前が辛そうな顔してたら、黄泉の国にいっちまったアイツらが浮かばれねえだろ」

「・・・!」

「だったら笑ってた方が良い。天高く届くように声を出して笑って、自分は心配ねえって言っとけよ。そうすりゃ、アイツらも安心すんだろ」

それを聞いて、友奈はどこか納得したような気分になる。

それもそうか。

確かに、友達が死んだのは辛い。だけど、自分が辛くて、立ち止まって、泣いていたら、きっと安心して成仏できないと思う。

それならば・・・

盃に残った酒を一気に飲み干す。

「酒呑童子」

「ん?」

「もう一杯」

「お、いいぜ」

いっそ馬鹿になって笑おう。笑って笑って、天国にいる杏と球子が安心出来るように。そして、遠い場所できっと精一杯生きているであろう千景に届くように、笑おう。

友奈は酒を飲みこむ。

頭がボーっとする。体が熱くなる。こっから先は自棄。もうどうにでもなれ。

「ああああぁぁあ!!今日は騒ぐぞー!!どんどんつげー!!」

「お前、これオレの酒だかんな!?」

「うるさーい!どうせ酒なんてそれ一本なんでしょー!!それに持ってるの貴方なんだからもっとつぎなさいー!」

「いうかテメェ!だったらどっちがどんだけ飲めるか勝負だ!!」

「望むところだー!勇者なめるなー!!」

もはや完全に酔っている友奈。

ただ、今、この時だけは、笑おう。とにかく、馬鹿になって騒ごう。

 

死んだ人たちが、前を向いて歩いていけるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで、おぬしはまた来たのか」

「寝ている間でも何かしたいものなのよ」

滝の音が、鼓膜を心地よく叩く。

ここは滝の前、そして目の前には川が流れており、歌野の目の前には、巨大な八つ首の大蛇がいた。

 

ここは八岐大蛇の精神世界。

 

歌野が、まだ入った(ダイブした)のだ。

「懲りない奴じゃのう。ま、どうせ、また()()()()()()()()んじゃろうけど」

八岐大蛇の首の一つがある場所を見る。

そこには、とある岩に突き刺さった、一本の剣があった。

「あれの力の五割は一応引き出せるだろうに」

「ダメよ。五割じゃダメ。ちゃんと、()()使えるようにならないと」

歌野は、その突き刺さった剣の前に立つ。

「これを抜かない限り、次の戦いは勝てない。いいえ、()()()()()()。だから」

歌野は、その剣の柄を握る。

「この数日、ずっと考えて来たわ。貴方の使い方。千景の行為。杏と球子の死。友奈と若葉の苦しみ。みーちゃんとひなたの辛さ。そして、哮兄と辰巳の強さについて、ずっと考えてた」

どうすれば、良かったのか。どうすれば、こんな事にならずに済んだのか。

考えて考えて、苦手だけど考えて。

結局、辿り着いたのは、『何もかも遅い』だった。

それ以外の答えが見つからなかった。

誰かが死んでも、もう遅い。何かが壊れても、もう遅い。

過ぎた時間が戻らない。それは、何がどうあっても、覆らない、この世の理。

それを覆す事は、自分たちには出来ない。

すでに決定してしまった過去は、変える事なんて出来ないのだから。

だけど―――

「未来を変える事は出来る」

どれほど絶望的な状況でも、覆す事は出来る。どれほど困難な場面でも、変える事が出来る。

そう、未来は変えられる。

「私たちにとって絶望的な未来は、変える事が出来る。その為には、力が欲しい。絶望の未来をぶっ壊して、私たちの未来に作り変えられる程の力が。だから」

歌野は、その剣を抜く。

 

「この剣をいただくわ」

 

歌野は得意げに言ってのける。

それに八岐大蛇は大いに笑った。

「カカカカカカカ、良いぞ白鳥歌野。それでこそ、儂が選んだ女子じゃ。いいだろう。この大蛇、貴様という存在に力を貸してやろうぞ」

大蛇の言葉に、歌野も笑う。

「ええ、頼むわよ。大蛇」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年は泣いた。少女の日記に記された、本当の心に。

 

少女は立つ。誇り高き男の意思を継いで。

 

少女は笑う。死んだ人たちが、前を向いて歩けるように。

 

少女は抜き放つ。未来を変える為の(ちから)を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決戦の日は、近い。




次回『友の楯と弩 魔王の炎 鬼王の酒 大蛇の剣』

紡いでいくのは、それぞれの物語。

そしてついに、決戦が始まる。

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