足柄辰巳は勇者である 作:幻在
その戦いは、熾烈を極めた。
御竜の槍の連撃が、辰巳を襲う。
その全てを、辰巳はいなす。
一撃目の突きを捉えたら、後はそのまま絡みつくように剣を動かし、高速で放たれる連撃の全てをいなしていく。
だが、全てとは言わず、何撃かは辰巳の体を貫く。
しかし、その一撃は薄皮一枚に到達するのみで、全て、致命傷には至らない。
そのまま、辰巳は『
それによって黄昏色の斬撃が飛び、射程外に逃げた筈の御竜を捉える。
しかし、御竜はそれを回す槍で反らし、そしてその逸らした先の大地が断割される。
――――流石だ辰巳!逃げ着れたと思ったがまさか斬撃を飛ばしてくるとはな!
――――そうかよ!お前こそ無駄に速い突き繰り出しやがって!
互いの武器を打ち合わせる度に、互いの思考が頭の中に叩きつけられるようだった。
しかし、それほどまでに二人は昂っていた。
御竜の槍が薙ぎ払われ、辰巳はそれを体を反らしてかわす。そのまま体を回転させて態勢を立て直し、低い姿勢から斬り上げるかのように剣を振るう。その一撃を御竜は槍の柄で防ぐも、踏み込んだ辰巳がそのまま突きを放つ。その突きを御竜は顔を傾けて回避し、辰巳の腹に蹴りを一発入れる。それで距離を取られる。
すると御竜が突如として空いている左手を空に向かって掲げた。
すると、突如として煉獄色の杭のようなものが三つ出現する。
「喰らえ」
短く呟き、御竜は思いっきりその手を振り下ろした。
その三本の杭は真っ直ぐ辰巳に向かっている。
その三本を見て、辰巳は剣を右手のみに持ち、それを肩に水平に担ぐように、左手は胸の前に出しつつ、構えた。
「対天剣術―――」
そして、最初の一本目は体を回転させて威力をあげた一撃で破壊。次の二本目はもう一度回転して斜め下から斬り上げ破壊。最後の三本目はバク転して一歩ほど下がったあとに左から水平に薙いで破壊。
「――――『
回転による威力を底上げした三撃を叩きつけるという技だ。
(これを防ぐか)
一方の御竜は歓喜するかのように、体を突き抜けるゾクッとする快感に身を震わせる。
ああ、なんと強くたくましいのだろうか。
そう思った矢先今度は辰巳から仕掛けてきた。
「
『
黄昏の力が剣に注ぎ込まれ、その刀身が一層に輝き出す。
「――――
そして、『
「―――『
真上から叩き落されたその斬撃は大地を断割しながら御竜に向かって突き進む。
「セァッ!!」
対して御竜は短く叫び、槍をその斬撃の一点を突く。すると飛んだ斬撃は槍をするりと抜け、御竜の横を通り過ぎていく。
(上手い・・・)
それに辰巳は感心する。
御竜は、とにかく受け流すのが得意なのだ。
時には強引に、時には柔軟に、ストイックな性格であるのと同時に、繊細で身長。
戦いにおいてありとあらゆる戦術を、瞬時に切り替えて変則的な戦いをしてくる。
それが、御竜の戦い方。
「フハハッ!!」
御竜が、笑う。
「どうした辰巳!まだまだこんなものではないだろう!もっと、もっとやりあおうぞ!」
「そうだなッ!!」
辰巳は短く応じると地面を蹴って、御竜に一気に接近する。
御竜は槍を構えて迎撃の姿勢を取る。
二人の間に言葉は無く、ただただ相手と全力の命のやり取りをするのみ。
御竜はなおも笑い、辰巳はなおも前に。
槍の一撃をいなし、剣の一撃を防ぎ、度々飛んでくる蹴りや拳にも対応し、しのぎを削る。
剣と槍がぶつかり合い、鍔迫り合いになる。
「流石だな辰巳・・・私は今、嬉しいぞ」
「そうかよ。そいつは何よりだよ。ただ、これが世界の命運をかけた戦いじゃなきゃもう少し楽しめたんだがな」
「同感だ。つくづく、私たちは神というものに縛られているらしい」
火花が散る。
「ああ、お前とは、どんな形でもいいから、神も周りも関係なく、ただただ楽しい死合いをしたかったぞ」
「そうか・・・だけど、きっとその時の俺は命のやり取りはしない。やるとしたら、それはどっちも生きるかもしれない全身全霊だと思う」
「ふ・・・私もそうかもしれなかったな」
「否定しないんだな」
「ああ。こうならなければ、私はこうならなかっただろうな」
切なそうに笑う御竜。しかし――――
「だが、今はこの様な会話は不要」
「・・・・そうだな」
否定はしない。だって、今は――――
「「今は、全力で相手と死合うだけッ!!」」
互いに弾き合って距離を取る。
「辰巳。お前が英雄ジークフリートをその身に纏うというのなら、妾も、同様の事をしてみせよう」
突如、赤い光が御竜を包む。
同時に巻き起こった衝撃波に、辰巳は思わず顔を腕で庇う。そうしつつ、辰巳は、御竜の姿を見た。
御竜の姿は変わっていた。
衣服は消え、代わりに多少の露出のある真っ黒な鎧を纏っていた。
「これぞ、お前たちで言うところの、妾の精霊『ヴォーティガーン』だ」
ヴォーティガーン。
かつてのイギリス、ブリテンにて、白き竜の血を飲み、その身を竜へと変え、ブリテンの意思のもと、人間を滅ぼそうとした『卑王』の異名を持つ、ブリテン王の一人。
結局のところ、アーサー王の持つ聖槍によって討ち取られてしまうが、それでも、最強の竜の一角であることには変わりはない。
そして、彼女の手に持つ槍。
形状はかなり違うが、それでも、辰巳の・・・ジークフリートの直感が告げていた。
あれこそが、自らを討ち取りし、聖槍『ロンゴミニアド』だと。
その圧倒的存在感に、竜殺しはそれに圧し潰されそうになる。
「・・・すっげぇ」
「ふふ、そうか、嬉しいぞ」
心の底から出た誉め言葉に、御竜は嬉しそうにはにかむ。
しかし、だからといって辰巳の直感が告げていた。
これは敗ける、と。
どう足掻いても、今のままでは確実に蹂躙されて負ける。
その圧倒的存在感に、力に、強さに。
そう、
「見てろよ」
辰巳は、剣を構える。
「・・・そう来るか・・・・・!!!」
そして、次の辰巳の行動を予測した御竜が、その表情を一層吊り上げる。
「来やがれ―――――」
それは天に逆らいし、幻想の魔獣。
空を制し、炎を選んだ、力の象徴の一体。
神々に牙を剥きし、邪悪なる竜。
討たれてもなお、その憎悪を抱き続ける、その竜の名は――――
「――――『ファブニール』」
黄昏色の光が、輝く。
竜殺しの英雄、ジークフリートは、竜の血を浴びる事で、鋼以上の硬度を持つ皮膚を獲得したという。
故に、彼を傷つけられる者は存在せず、故に無敵だった。
そんな彼の頑丈さに、さらに頑丈な鎧を着込んだら?
それが竜の体で出来ていたら?
精霊の二重発動。
それも、伝説級の英雄と怪物の
その結果、何が出来るか。
「――――素晴らしい」
歓喜に振るえる御竜の小さな声が、巻き起こる風切り音によってかき消される。
しかし、それすら気にならなくなるほど、その姿は、威風堂々としており、そして、何より、逞しかった。
鎧は纏われ、しかし兜は無く、その体に、竜の鎧が纏われる。
英雄と邪竜の合体。
本来ならありえない事態。
それを、辰巳は成し遂げたのだ。
「行くぞ」
剣を構えて、辰巳がそう告げる。
「ああ、出し惜しみは無しだ」
御竜も、槍を構える。
静寂がその場を支配し、しかし空気は未だ張り詰めている。
互いの視線が錯綜し、火花を散らして、やがて――――
「「ッ!!」」
戦いの火蓋が切って落とされる。
『
対して御竜は、それと同等の速さで槍を連続で突く。
刃と刃がまじりあい、火花を散らす。
耳が痛くなるような金属音が響き、その度に互いの命を消し飛ばす斬撃が飛ぶ。
一進一退、引く事は無ければ進む事も出来ない。
しかし、それは烈火の様に激しく苛烈で、また――――
――――美しく舞い踊る、宝石のような戦いだった。
剣を打ち合う度に、相手の殺したいという思いが伝わってくる。
その度に、御竜の心はときめき、高鳴る。
ああ、もし自分も恋をする時は、こんな気持ちなのだろうか。
そう思わずにはいられなかった。
「オオオッ!!」
全力の打ち下ろしが迫る。
それを御竜は槍を持って防ぐ。
そして、腕にとてつもない衝撃が走り、踏みしめた地面が陥没する。
「くあ・・・・」
思わず、声を漏らしてしまう。
しかし、それすらも、御竜にとっては歓喜と快楽へと成り代わる。
ああ、自分も打ち込めば、この高鳴る気持ちを伝える事は出来るだろうか。
「セッェイッ!!」
短い気合と共に、御竜は剣を押し返すと、深く踏み込んで、槍を右から薙ぎ払う。その一撃を、辰巳は剣を縦に構えて防ぐ。
「ぐぅッ・・・!!」
その表情が苦悶に歪む。
「――――伝わるか?」
「ッ!?」
「この、私の高鳴る気持ちが!!」
そこから、御竜の激しい連撃が辰巳を襲う。
「この感情が!この高揚が!この興奮が!お前に伝わっているか!?辰巳!!」
「ッ―――ああ、そうだなッ・・・!!」
当然、伝わっている。
そう、それは、とても狂おしい程に、鮮烈な感情。
「―――だけど、答えられないッ!!」
辰巳が、剣を薙ぎ、その
その答えに、御竜は――――切なそうに笑った。
「ああ、分かっていた」
先ほどの剣で全てわかった。
辰巳には、他に想う人がいるという事を。その者を、愛していると。
だから、御竜の想いには、答えられない、と。
「出来る事なら、側室でも構わなかった」
「それでも、二人同時に愛する事は出来ねえよ」
「そうか・・・・だが、私はこの想いを、これで終わらせる気は、毛頭ないッ!!」
「ああ、ぶつけてこい。今だけは、俺はお前のだけのものだッ!!」
「ああ、嬉しいぞ!!辰巳!!」
刃と刃がぶつかり合い、周囲のありとあらゆるものが吹き飛ぶ。
そして、その剣戟は、より一層、激しさを増す。
それは、二人にとって宝石のような時間だった。
互いに踊るように、殺し合うように、華麗に、鮮烈に、激しく、剣をぶつけ合う。
御竜の槍の切っ先が迫れば、辰巳はそれを弾き、辰巳の剣の刃が迫れば御竜はそれを防ぐ。
邪竜と悪竜、二人は似て非なるもの。剣と槍。英雄と反英雄。黄昏と煉獄。男と女。
『
それを、御竜は察知し、すぐさま阻止しようと連撃を繰り出す。
しかし、辰巳はそれを楯のある左掌で受け止めた。
「なッ!?」
しかし刃は貫けず、その間に辰巳の左手に力が収束する。
「―――
辰巳の掌から、黄昏色の光が迸る。
御竜は、すぐさま槍をひっこめて飛翔。
その一撃をかわし、今度は御竜から、杭が放たれる。
辰巳はそれを顔を傾けて回避。頬が切れ、血が飛び散る。
しかし、それでも辰巳は止まらない。
「―――『
「ぬッ!?」
剣が黄昏色に染まる。
「――――
咆哮が轟き、大地を吹き飛ばす。
「凄まじいな・・・ッ!?」
一瞬、関心するも、辰巳がもう一度振りかぶっている事に気付く。
そして、その刀身は、また黄昏色に輝いていた。
「――――『
振りかぶり、そして、解き放つ。
「――――
先ほどのより倍以上の威力の砲撃が飛んでくる。
それを、御竜はどうにかかわす。
「―――大技の連続使用か!見事だ!」
体に多大なる負荷のかかる大技である筈の『咆哮系』の技。
それを二発連続で解き放っておいて、体が無事で済む筈がない。
しかし、辰巳は平然としていた。
「平気なのも全て、その楯と弩のお陰か」
御竜は、羨ましそうに辰巳の両手にある楯と杭―――弩を見つめた。
そう、この楯と弩が、負担を大幅に軽減してくれたのだ。
「どうやら、お前を倒すのに、今のままでは不足らしいな」
「それは俺もだ、御竜」
「ふふ、やっと名前を呼んでくれたな。嬉しいぞ」
御竜は、さぞ嬉しそうに顔をほころばせる。
しかし、すぐに表情を引き締め、槍を掲げる。
「―――故に、妾には、お前を倒す為の、絶対破壊の一撃が必要だッ!!!」
煉獄色の光が迸る。
その光の中で、御竜の槍が、目に見えて変化する。
槍の切っ先から螺旋と描き、それが徐々に形を変えていく。
それは、
煉獄色の光が天を衝き、空を赤く染める。
それは、まさしく悪竜の名に相応しい力だろう。
それほどまでに、重圧で、圧倒的だ。
「―――さあ、お前を見せてみろ」
御竜の、誘うような甘い声。
その誘いに、辰巳はあえて乗る。
当然だ。
元から、
辰巳は、剣を構える。
『
そして、剣から黄昏色の光が迸る。
その光も、紅く染まった空を衝く。
煉獄と黄昏。
その二つの概念が、今、その場でぶつかり合っていた。
『
「―――行くぞ」
「―――来い」
しばし睨み合っていた二人が、ついに動き出す。
「聖槍、抜錨。我は彼の地の人間を喰らうもの」
「刮目せよ。我は邪竜、我は竜殺し、故に我は黄昏の覇者」
「彼の地の声よ。我は汝の声に従い、忌々しき槍を持って人を殲滅せん」
「邪悪なる竜は失墜し、英雄は竜の血を浴び、栄光をその身に受ける」
「彼の者の聖槍よ。我が声が届いているのなら、今こそその力をここに解き放て」
「されどその人生に叶えた願いは無く、英雄に喜びはなく」
「我は彼の地の意思であり、彼の地の守護者である」
「邪竜に生は無く、されど満足することも無く、その人生は終わりを告げる」
「聖槍よ、我が声に応えよ。そして魅せよ、その大いなる力を」
「我が手には我が振るい、我を討ちし、黄昏の魔剣」
「今こそ十二の封印を解き放ち、我は今、敵を討とう」
「その魔剣を持って、我は今、世界に酪陽をもたらす」
それは、星を繋ぎとめる嵐の描。世界の表皮を繋ぎとめる塔。全てを穿つ、『世界を救済する星の武器』。
それは、かの邪竜を仕留めし、聖剣と魔剣、両方の属性を持つ、黄昏の剣にして、竜殺しを成した、呪われた聖剣。
「―――殲滅せよ『
「―――解き放つ『
互いの全身全霊が、直撃する――――そして爆発する。
「おぉおおぉおおおおッ!!」
「はぁぁああぁあああッ!!」
若葉が飛ぶ、歌野が荒れ狂う。
彼女たちの周囲には、無数に迫ってくる
その圧倒的数の暴力に対して、若葉たちはこれでもかと奮戦していた。
若葉が高速で空を飛び、空を飛ぶゴーレムたちを斬って斬って斬りまくる。
歌野は水を操り、泥人形たち押し流したり、高水圧の水のカッターで切り裂き、時には水弾で砕く。
だが、どれほど倒してもゴーレムの数は一向に減らず、むしろ増える一方。
「くそッ!どれだけ増えるんだこいつらは!」
「倒しても倒しても、いい加減にしてほしいわね」
二人とも疲弊している。
「ぐぅッ!?」
ゴーレムの放った銃弾の一発が歌野の足を貫く。
それに歌野の顔が苦悶に歪む。
「ッ!?歌野!」
「―――来ないでッ!!」
「ッ!?」
思わず駆け寄ろうとした若葉を制止する歌野。それで止まった若葉の目の前を銃弾が通過する。
「他人の心配なんて、している暇なんてないわよ!!」
歌野が、笑ってがくがくいう足で無理矢理立たせ、水弾を放つ。
「止まるんじゃないわよ!乃木若葉ッ!!」
「ッ!!」
歌野に叱咤され、若葉は飛ぶ。
しかし、追い詰められているのは確かだ。
「そろそろだね」
その様子を、久遠は遠目で見ていた。
彼が手を動かせば、土が盛り上がり、新たなゴーレムが生まれる。
要はそういう事だ。
彼が、ゴーレムが倒される度に、その倍以上のスピードでゴーレムを作っているのだ。
だから、数が減らないのだ。
「さて、じわじわと追い詰める恐怖はいかほどのものか」
仮面の奥で、くつくつと笑う。
一方の戦場では、徐々に若葉たちは追い詰められていた。
包囲網が狭まり、若葉の行動範囲が狭まっていく。
剣で襲い掛かってくるものを蹴っ飛ばしたり、斬り落としたり。
若葉の反応速度なら、ありとあらゆる不意打ちにも対応できるだろうが―――流石に数の暴力には敵わない。
大量のゴーレムの合間を縫って、二体のゴーレムが若葉の腕を掴む。
それによって若葉は腕を動かせなくなる。
「ッ!?しまった―――」
若葉が振りほどく前に、バズーカを構えたゴーレムが、若葉に向かってその砲弾を放つ。
「―――ッ!?」
その砲弾が、若葉に直撃。爆発を巻き起こし、若葉は落下していく。
そして地面に落ちる。
「ッ!?若葉!」
墜ちた若葉に気を取られ、歌野は、ゴーレムたちの接近を許してしまう。
すぐさま迎撃しようとするが、そのゴーレムたちが突如、赤く光る。
「ッ!?」
直後、爆発。
光と轟音が迸り、次に黒煙が舞い上がり、腫れるとそこには、若葉を庇って背中が焼けている歌野の姿があった。
「うた・・・の・・・・」
「げほ・・・No problemよ。こんくらい・・・」
「だが・・・」
「それに、貴方も結構酷いでしょ?」
どちらかというと、歌野の方が酷い。
背中は爆発によって焼け、かなりのダメージとなっているに違いない。
気付けば、ゴーレムたちは、若葉たちのすぐ目の前まで来ていた。
砲撃と爆破で動けない若葉と歌野。
そんな彼女たちに無慈悲に銃口を向けるゴーレムたち。
「く・・・」
「Shit・・・!!」
悔しそうに顔を歪める若葉と歌野。
その一方でゴーレムたちを操っている久遠は、遠慮なしに銃殺の命令を下す。
「死んでくれ、
そう言って、命令を下し、ゴーレムたちが引金を引いた瞬間。
突如としてゴーレムと若葉たちの目の前に、何かが降ってきた。
その何かとは――――
「ゆ、友奈・・・!?」
ボロボロの友奈だった。
「■■■■■■―――――――――――!!!!」
もはや人とは呼べない咆哮を挙げて、友奈は左手を振りかぶり、都合三回の拳打を放つ。
それだけでとてつもない風圧が発生し、ゴーレムたちは吹き飛び、そして風圧に当たっただけで圧し潰される。
「■■■■――――!!!!」
そのまま友奈は何度も左手を放ち、その風圧でゴーレムたちを瞬く間に破壊していく。
「なんて力だ・・・・」
「ええ・・・」
そのあまりにもでたらめな強さに、若葉と歌野は呆然とするほかない。
しかし、ゴーレムは確実に数を減らしていっている。
その事実が、久遠を焦らせる。
「この・・・・!」
あまりにも凄まじい速度で減っていくゴーレム。
それは久遠の生産力を上回っている。このままでは、確実に全滅して、あの化物はこっちに飛んでくるだろう。
「ならば・・・・」
そこで、久遠はゴーレムの製造を別の方向へ切り替える。
その間に、ゴーレムたちは友奈のジャブで砕け散っていく。
そして、最後の一体が、砕け散った時。
「全て倒したか」
久遠が、それを完成させた。
「だが、これならどうかな?」
現れたのは、あまりにも巨大な巨人。
その肉体は全て土で出来ているものの、その姿は一種の神々しさを見せた。
「なんだ・・・・あれは・・・」
「Oh・・・・」
あまりにも巨大なそれに、若葉たちは唖然とする。
其は、原初にして
汝、目覚めたのなら、我が願いに答えよ。
彼の者たちを楽園に導き、今こそ、人類を
汝は原初にして最初の人間。
汝の名は―――――
「―――――『
その、圧倒的存在感に、若葉と歌野は、その意識が押しつぶされそうになる。
その神々しさには、思わず目を逸らしてしまうほどの力があるから。
しかし――――この鬼は、そんな神ですら恐れない。
「■■■■■■■――――――――――!!!」
友奈が人ならざる声で叫び、飛ぶ。
左拳が、巨人の顔面に叩き付けられる。
それを受けた巨人の体が大きく仰け反る――――が、吹き飛ばないどころか倒れる事すらなく、むしろ耐えきった。
「な!?」
「友奈のパンチを、耐えきった!?」
ゴーレムは、その手に土で固めた剣を顕現、それで空中で身動きの取れない友奈を叩き落す。
地面に叩き付けられ、衝撃が背中を叩く。
「■■■――――ッ!?」
さらに、巨人は拳を振り上げ、それを地面に横たわる友奈に叩き付ける。
「友奈ァッ!!」
叫ぶ若葉。
しかし、叩き付けられた拳が、徐々に持ち上がっていっていた。
「■■■■・・・・・!!!」
友奈が、押し返しているのだ。それも、左腕だけで。
そのまま一瞬の内に左拳をその拳に叩き付け、その拳を弾き飛ばす。
そして立ち上がって、今度は胸にその左拳を叩き付けた。
巨人は、地面を削りながら後退する。
さらに、友奈は巨人の足に、ローキックを叩き付けて、片足を浮かせ、バランスを崩す。
「■■■――――!!!」
そして飛び上がり、その顎に渾身の一撃を叩き込む。
巨人の体が浮きあがる。
しかし巨人の体に、傷は一切ついていない。
巨人の目がぎょろりと友奈を捉え、次の瞬間には、友奈は遠くの山へ吹き飛ばされていた。
「友奈・・・!!」
「そんな・・・・!?」
遠くへ吹き飛ばされ、さらに土煙も上がっているから、友奈の様子が分からない。
その間に、巨人は若葉たちの方へ近づいてくる。
若葉と歌野は、すぐさま立ち上がる。
もう、他のゴーレムたちの攻撃でボロボロではあるが、まだ、戦う事は出来る。
しかし、これほどの相手を相手取る力は、残ってはいなかった。
それでも、彼女たちは、諦めない。
「やれやれ、その諦めの悪さには感心するよ。だけど、この『
そんな呆れた様子で、自身の勝利を確信する久遠。
その一方で、山へと吹き飛ばされた友奈は、
「―――――」
仰向けになって沈黙していた。
彼女の体は、とうの昔に限界を超えており、本来なら立っていられない程のダメージを負っているのだ。
それに、右腕もすでに骨が粉砕骨折しており、筋肉や筋が断裂しかけている。
もう一度、峻司に使ったような無茶をすれば、確実に右腕が壊れて、もう
それほどまでに、友奈の体は、限界を超え過ぎていた。
「――――ァ」
しかし、それでも――――
「――――ぐ・・・ちゃ・・・・うた・・・ちゃ・・・・」
ぐぐぐ、と体を起こす友奈。
体が悲鳴をあげる。しかし、その痛みは友奈の脳には届かない。
すでに、精神が肉体を凌駕しているからだ。
『――――いいんだな?』
誰かの声が響いた。
『もう、右腕は元に戻らないぞ』
これは、最終警告。これを無視すれば、もう、最小でも、右腕は使い物にならなくなる。
だけど、それでも――――
「構わ・・・・ない・・・・!!」
友奈は、諦めない。
「だって、私は―――――」
巨人が剣を振り上げる。
「私がどうにか防いで見せるわ!だから若葉はその間に、アイツの核を――――」
「分かった!!」
頷き、若葉は剣を構える。
歌野は、すぐさま『
(お願い・・・間に合って・・・!!)
歌野は、己の全てを振り絞ってでも、この一撃を受け止める気なのだ。
一方の巨人は歌野の思惑など露ほども知らず、その剣を、渾身の力で叩き付けようと振り下ろす。
しかし、その直前、巨人の顔に流星のような勢いで何かが直撃した。
その直撃した何かとは――――
「友奈・・・!?」
友奈だった。友奈が、巨人の顔面に蹴りを叩き込んたのだ。
「ほう、生きていたか」
それに、感心する久遠。
「だけど、いくら尽力しようとも、僕の最高傑作には敵わないよ」
しかし、その自信は揺るがないようだ。
だが、その間に、友奈はすでに行動に移っていた。
その手には、一杯の杯。
「んぐっ・・・・」
それを一気に飲み干し、杯を投げ捨て、若葉たちの目の前に降り立つ。
「友奈!大丈夫なのか!?」
若葉が思わず呼びかける。
しかし、友奈は答えない。
赤かった肌が、さらに赤くなる。
そして、もうすでに骨が砕けに砕けている右腕を持ち上げる。
そこで、友奈は答えた。
「――――大丈夫」
巨人が剣を振り上げる。
「若葉ちゃんと歌野ちゃんは、大丈夫」
振り返って、笑顔で答える。
「ゆ・・・」
「来ォいッ!!!」
若葉が声をかける前に、友奈が巨人に向かって叫ぶ。
そして、それに答えるように巨人がその手に持つ剣を叩き落す。
「勇者ァ――――」
迫る剣。それに対して、友奈は拳一つ。
「―――パァァンチッ!!!」
拳と剣が衝突する。
その瞬間、友奈の右腕から、血が飛び散る。
それが顔にかかり、思わず顔をしかめる。
その圧倒的質量とパワーに、右腕がついに壊れたのだ。
「ぐっぅぅぅぅぅぅぅッッ!!!」
友奈の顔が、苦悶に歪む。
パワー以前に、右腕が限界なのだ。
だが、それでも、友奈はその剣を必死に受け止めていた。
(・・・・お願いッ!!)
友奈は、心の中で叫ぶ。
(今、だけ・・・・友達を、守る、力を――――!!)
砕けても拳は未だ健在。ならば、出来る筈だ。
「―――酒呑童子ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいッ!!!」
『―――おうよッ!!』
友奈の絶叫に、酒呑童子が応える。
砕けた筈の右腕がいきなりその形を元に戻る。
酒呑童子という存在が、表に出てきた反動で、友奈の体が、
しかし、それは一時的なもの。時間は、三十秒とない。だが、それだけあれば十分だ。
「い・・・ち・・もく・・れぇぇぇええんッ!!!」
さらに、友奈の右拳に風が収束する。
友奈のもう一体の精霊、『一目連』の能力だ。
暴嵐の如き、風の力が、友奈の拳に纏われ、やがて、剣を弾き飛ばす。
それによって、巨人の巨体がよろめく。
「馬鹿な・・・・!?」
その光景に、目を張る久遠。
そして、巨人の剣を弾き飛ばした友奈は――――
「―――ッ!!」
その双眸を巨人に向け、飛び上がる。
「――――――くぅぅぅたぁぁぁぁばぁぁぁぁれぇぇぇぇぇぇぇぇええええぇええええッ!!!!」
絶叫し、鬼の腕力と暴嵐の化身の風が、巨人に叩き付けられる。
その、圧縮され過ぎた空気が解放され、巨人の上半身に直撃し―――――
巨人の上半身を吹き飛ばした。
「やった・・・!!」
「Congratulationよ友奈!!」
友奈の圧倒的力が、今、原初の巨人を打ち砕いたのだ。
「・・・バカな・・・」
そう、唖然とする久遠。
しかし、それで終わりでは無かった。
風が、久遠に迫ってきていた。
「ッ!?」
しかし、気付いたときにはもう遅かった。
そのとてつもない圧力を伴った風は、久遠を地面に叩き付け、そして、そのまま圧死させた。
「ば・・・・か・・・・な・・・・」
最後にそれだけを言い残し、久遠は砂となり果て消える。
「ハア・・・ハア・・・ぐっぁぁ・・・」
そして、地面に落ちた友奈は完全に壊れた右腕の痛みに悶えながら、どうにか持ち前の精神力で立ち上がる。
「友奈!」
ふと背後から声をかけられ、振り向けば、そこには、こちらを安心するかのような顔で見る若葉と歌野姿があった。
どうやら、二人とも無事なようだ。
その事に一息安心して、呼びかけに答えようとする。
その時、友奈の心臓を、一本の刀が貫くのと、轟音がとどろくのは、同時だった。
目を開ければ、視界には、様変わりした空模様が映った。
「・・・・そうか」
それで、御竜は悟った。
「妾は負けたのか」
「そうだな」
視界の端に、辰巳が映る。
その姿はファブニールとジークフリートを解除したためか、元に戻っていた。
だが、その表情には疲労が感じられ、立っているのがやっとという感じであった。
「・・・あの衝突は、確かに妾の方が勝っていた・・・・」
そう、二人の放った渾身の大技は、僅かに御竜の方が勝っていたのだ。
「だが・・・・
そう、確かに御竜の方が勝っていた。
しかし、それは辰巳へ到達するまで時間があった。
その間に、辰巳はもう一度『
「もう少し、妾の槍がお前に到達するのが早ければ、妾が勝っていたか、あるいは、お前の威力の上乗せが足りなかったら、相殺されていたか・・・今となっては後の祭りか」
ふっと笑う御竜。
どうあがいても、負けは、負けなのだろう。
ならば、受け入れる以外に、自分に道はない。
すでに心臓も破壊された。砂となり消えるのは時間の問題だろう。
「・・・辰巳。最後に、遺言は良いだろうか?」
「・・・・なんだ?」
辰巳は、頷く。
「・・・お前が好きだ」
「・・・・」
「きっと、お前が想う者より、ずっとずっとお前を愛している・・・出来る事なら、お前が愛しているという女とも、勝負したかった」
「なんだよそれ・・・まるっきり乙女の思考じゃねぇか」
「妾も列記とした乙女だぞ?恋路でも、全身全霊でいたいんだ」
「そっか・・・」
しゃがむ辰巳。
そして、その唇に、そっとキスを落とす。
「っ・・・!?」
「別に、これぐらいはいいだろ」
その、あまりにも予想外で大胆な行動に、呆気にとられる御竜。
やがて、完敗とでもいうかのように、笑って、その目尻から涙を流す。
「ははっ、なんだか、お前に勝てる気がしなくなってしまったよ」
やがて、御竜の体が、砂となっていく。
「ああ、出来る事なら、生まれ変わった時に、お前の隣に――――」
それを最後に、御竜は、砂となり、消えた。
「・・・・さよなら。忘れないよ。お前の事・・・・・ん」
ふと、砂となった御竜の体から落ちた、一冊の手帳。
俗にいう、学生手帳ともいうべきものだ。
それを拾い上げる。
そして、それをそっとポケットの中に入れた。
立ち上がる辰巳。しかし、そこでよろめく。
慌てて剣を地面に突き立てる事で転倒は阻止したが、それで体に相当なガタが来ている事を悟る。
「これ以上の戦闘は流石に無理だな・・・・若葉たちは・・・・」
そうしてとある方向を向いた時、突如としてその方角にあった神樹の蔓がはじけ飛ぶ。
「なッ!?」
舞い上がる煙の中から、飛び出てきたのは、なんと歌野だった。
「歌野!?」
歌野は、地面を転がり、瓦礫にぶつかって止まる。
どうにか、体を持ち上げる歌野の姿は、すでに切り傷だらけでボロボロだった。
「歌野!何があった!?」
叫ぶ辰巳。
それに気付いた歌野は、辰巳を見て、すぐさまこう叫んだ。
「逃げてぇぇぇええぇええ!!!」
次に目に入ったのは、赤い炎を巻き起こして、現れた、一人の少女の姿だった。
僅か数分前。
「・・・・あ・・・れ」
自分の胸から突き出す刃に、友奈は、訳が分からず呆然とする。
そして、それは若葉たちも同じだった。
「ごふ・・・」
口から血を吐き、友奈は、後ろを向いた。
そこには、暗い憎悪の炎を目の奥に揺らめかせて、背後から友奈の心臓を貫いている、紅葉の姿があった。
「・・・・・死ね」
短く、そう告げて、刀を引き抜く紅葉。
友奈の目の前は高い段差。頭から落ちれば、ただでは済まない。
「―――ッ!?友奈ァ!!」
我に返った若葉が、思わず高速飛翔。
「お前はッ・・・!!」
若葉の姿を見た紅葉の表情が、怒りに歪む。
それを見た歌野には嫌な予感が走り、水弾を紅葉に向かって放つ。
「ッ!?」
紅葉がそれを避けている間に若葉は落ちる友奈を回収する。
「若葉!アイツは私が抑えるわ!だから友奈を安全な場所へ!」
「分かった!!」
若葉は、すぐさま紅葉から逃げるように飛ぶ。
「逃がさない・・・!!」
紅葉は空いた手に炎球を作り出し、それを若葉に向かった投げつける。
「くッ!」
紅葉は、それを水の壁を持って防ごうとするが、それを張るよりも速く、炎球は若葉たちの方へ飛んでいく。
「しまった・・・!?」
そして、その炎球が、若葉に直撃する。
「ぐあぁぁあああ!?」
それによって大天狗が解除され、落下してしまう若葉。
「若葉ぁ!友奈ぁ!」
「まずは貴様から殺してやる!」
「ッ!?」
叫ぶ歌野に向かって剣を叩き付ける紅葉。
それを水の刃で受け止める歌野。
しかし、その瞬間、紅葉の剣から業火が舞い上がる。
「What!?」
それが水の刃を一気に蒸発させた事に驚き、飛び上がって下がる歌野。
「覚悟しろ。今から貴様を、地獄の業火で焼いてやるッ!!」
憎悪を込めた声で叫び、紅葉は歌野に斬りかかる。
一方の若葉たちは・・・・
「ぐ・・ぅう・・・・」
紅葉の炎の直撃を受けた若葉は、激痛が全身を苛み、その顔を苦悶に歪めていた。
しかしどうにか起き上がり、若葉は、友奈を探す。そして、仰向けになって倒れている友奈の姿を見つけた。
「友奈・・・!!」
這うように友奈に駆け寄り、その体を起き上がらせる。
「友奈!しっかりしろ!」
揺すって、呼びかける若葉。
「・・・・わか・・・ば・・・ちゃ・・・」
「ッ!!友奈!」
まだ意識がある事に、若葉は安堵するかのように呼びかける。
「わた・・・し・・・」
「大丈夫だ!ただ刺されただけだ!まだ、まだ助かる!だから・・・」
若葉は、その先を言わなかった。いや、言えなかった。
その言葉を、言うのが怖いから。
「・・・・ごめんね、若葉ちゃん」
しかし、友奈は、諦めたかのように笑っていた。
「・・・何がだ」
「ごめんね」
「何がなんだ・・・・」
「私、たぶん、たすからな――――」
「言うなッ!!」
若葉が、そう怒鳴る。
「頼む・・・言わないでくれ・・・」
そう言って、友奈を力の限り抱きしめる。
「・・・・ダメだよ。若葉ちゃん。現実にちゃんと目を向けなきゃ」
「何が現実だ・・・・お前が生きてる、これが現実だ・・・ちゃんと、目を向けて・・・」
「私が助からないっていう現実にも、ちゃんと、目を向けてよ・・・」
友奈が、諭すように言う。
その言葉に、若葉の体が、ぴくりと動くのを、友奈は見逃さない。
「ごめんね・・・辛いよね・・・こんな事になるなんて、悲しいよね。タマちゃんが死んで、アンちゃんが死んじゃって・・・それで、ぐんちゃんがいなくなっちゃって・・・辛いよね・・・」
友奈は、左手で、蹲る若葉の頭を撫でる。
「でもね・・・・それも全部受け入れて、前に進んで・・・・・私がいなくても、前を向いて、歩いて・・・」
友奈の両目から、涙が流れる。
「友奈・・・頼む・・・・死なないで・・・・死なないでくれ・・・これ以上、私に、何かを失わせないでくれ・・・・」
懇願するように、泣きじゃくる若葉。
「若葉ちゃん・・・」
友奈が、そう呼びかけ、若葉の手に、ある物を手渡した。
「・・・・これは・・」
「私の・・・・手甲・・」
それは、友奈の手甲。またの名を、『天ノ逆手』。とある地の神の皇子が、天の神に殺された恨みを吐き出しまくった、呪いの力。それは呪詛であり天に関するもの全てを殺す、まさしく『対天属性』に相応しい武具。
「あの子、とても・・・強い・・・から・・・これ・・・酒呑童子の力・・・入れてるから・・・・きっと、力負け、しないと・・・思う・・・から・・・」
左手で、その二つの手甲を握りしめさせる。
この天ノ逆手。
これは実は、友奈の酒呑童子に対する安全装置であり、その莫大な力を制限する役割を担っていたのだ。しかし、完全同調を使用する際に、これらの要素が邪魔になり得たために、友奈は手甲を外して戦っていたのだ。だから、手甲には傷一つ付いていない。
「だが・・・」
しかし若葉はそれを渋る。
「若葉・・ちゃん・・・」
「ッ!?友奈!?」
気付けば、友奈の目に光が映っていない。
もう、そこまでなのか――――
「――――ッ!!」
もはや、友奈は助からない。
その事実を突き付けられ、若葉は、悔しそうに顔を歪めてうつむく。
しかし、その顔に、友奈の左手が添えられる。
「・・・頑張ってね・・・先に、向こうで・・・見てる・・・か・・・・・ら・・・・・」
そして、友奈の左手から、力が抜け、地面に落ちた。
『――――よう』
気付けば、目の前に、赤い肌の鬼がいた。
「酒呑童子?どうしたの?」
『なに、もう休むんだろ?だったら一杯やろうぜ』
彼の手には、酒樽と、二つの杯。
「・・・・いいよ。飲もう、酒呑童子」
友奈は、その杯の片方を受け取り、酒呑童子が、その杯に酒を注ぐ。
『アイツらのこれからの未来に』
「皆のこれからの未来に」
『「―――乾杯』」
「・・・・友奈」
返事は、無い―――――。
「―――――」
それを確認した若葉は、友奈を地面に横たわらせ、友奈から貰った手甲を付ける。
そして、ふらりと立ち上がり、今、歌野が戦っているであろう方向へ顔を向けた――――。
斬撃が来る。
それを辰巳は自らの剣でいなし、さがる。
「ぐぅッ!?」
だが、歌野を抱えての片手のみでは受け流しきれず、衝撃が剣を持つ右腕を打つ。
しかし、それを気遣ってくれるような相手ではないのは、百も承知だった。
目の前の少女が、歌野ごと辰巳を斬らんとばかりに剣を横に薙ぐ。
それを辰巳は『
「チッ」
舌打ちを一つ。
紅葉はそのまま辰巳たちを追撃する。
「辰巳!私を捨てなさい!その体で抱えたまま逃げ切るなんて無理よ!」
「駄目だ!お前を置いて逃げれるかっての!」
「貴方にはひなたが待ってるんでしょ!?」
「ならお前には水都が待ってるだろ!?いい加減黙ってろ!!」
左腕で抱える歌野の叱咤に怒鳴り返して、辰巳は片腕でどうにか紅葉の連撃を受け流し避け続ける。
だが、それも長くは続かず、少女の蹴りが、辰巳の腹に突き刺さる。
「ぐぅ!?」
そのまま吹き飛ぶ。その最中で辰巳は歌野を抱え込み、巨大な蔓に叩きつけられる。
「がはっ・・・」
衝撃全てを受けて、肺の中の空気が一気に吐き出される。
「辰巳!!」
そのままずり落ちて腰を地面につけてしまう辰巳。
先ほどの御竜との戦いでボロボロな上に、すでに体力は使い切っている。
もう、立ち上がる事すらできない。
もう動けないと悟ったのか、少女―――紅葉はゆっくりと歩いてくる。
まるで、死刑宣告とでも言わんばかりに。
「くっ!」
歌野は、辰巳を守ろうと立ち上がろうとする。
しかし――――
『すまぬな娘よ』
「え・・・?」
『限界じゃ』
八岐大蛇からそのような事を言われた瞬間、歌野の体を猛烈な疲労感が遅い、同時に八岐大蛇が解除される。
「え・・・」
立ち上がろうとしていた腕の力がふっと抜け、また倒れる。
「なんで・・・どうして・・・八岐大蛇・・・!?」
あまりの疲労感に、歌野は動けない。
それもそうだろう。
何せ、今までの疲労を八岐大蛇が全てカットしていたのだから。
その許容限界を超えたのだ。
事実、これで歌野も戦闘続行不能。
さらに辰巳も動けないときた。
その間にも、紅葉が近付いてくる。
抵抗しようにも動けない。
まさしく絶望的な状況。
この状況を覆す手段は、二人には、無い。
もう一度精霊を使おうにも、その為の体力がない。
このままでは、確実に殺されてしまう。
「ぐ・・・く・・・」
「ちく・・・しょう・・・・」
辰巳は痛みに悶え、歌野は悔しそうに顔を歪める。
そうして、諦めかけた時――――
目の前に、誰かが落ちてきた。
「な!?」
「ッ!?」
それに目をむく歌野と紅葉。
そして、さきほどまで俯いていた辰巳が、顔を上げる。
そこに、一人の少女の後ろ姿を見た。
「―――ありがとう、大天狗」
その言葉と同時に、彼女の姿が変化、桔梗を想起させる青い装束へとなる。
「貴様・・・」
その少女の姿を認めた紅葉の表情が、憎しみに歪む。
しかし、それは、その対象の少女とて
その少女の名は―――
「・・・若葉」
若葉は、紅葉を睨み付ける。
「・・・これ以上、仲間は殺させんぞ」
「ふん、貴様に何ができる?久遠さんのゴーレムにやられていた癖に、その体で私を止められると思っているのか?」
紅葉の指摘はもっともだ。
若葉の体は、これまでの戦いで、すでにボロボロの筈だ。
幸恵との激闘、ゴーレムによる攻撃。その二つの戦いが、若葉の体をボロボロにしていた筈だった。
しかし―――
「・・・私の体に、傷なんてあるのか?」
若葉の体には、そんな傷は一切なかった。
「何・・・?」
「何があろうと、ここはどかん。私は、その為にここに来たんだからな」
「・・・なるほどな」
若葉の低い声に、紅葉は、納得する。
しかし、共感はしない。
「私の仲間を奪っておいて、よく言える。だが、確かにそうだ。この戦いは、私とお前の勝敗を持って決まる。世界を殺すも生かすも、この戦いで全て決まるという事か」
これは決闘。
互いの命をかけた死闘。
この戦いにおいて、ひれ伏すのは敗者であり、立っているのは勝者。
故に―――
「我が名は、『
紅葉は、刀を構えて、そう名乗り上げる。
「我が名は、『
次に、若葉が鞘から刀を抜き放ち、その切っ先を向ける。
よく見てみると、二人の顔はよくにており、髪型も似ていた。
声音も口調も似通っていて、正眼の構え方も、ほぼ同一。
体格も身長もほぼ同じ。名前も、似通っている。
ただ違うとすれば、それは髪の色と、居合と剣道の違い。
されど、二人はもう、和解する事などないだろう。
それほどまでに、二人の胸の内に燃ゆる感情は、激しいのだから。
似ている、というのは、二人も認めている。
だから、虫唾が走る。
同時に地面を蹴る。
咆哮を上げて、剣を正面から叩きつける。
今、最後の戦いの幕が切って落とされた。
次回『
その身、怒りのままに。