足柄辰巳は勇者である 作:幻在
――――気付けば、目の前に、巨大な玉座に座る、巨大な悪魔が、私を見下ろしていた。
私は、見上げることしか出来ず、動く事も、言葉さえも発する事が出来ない。
悪魔の口が動く。
――――支払いの時間だ、と。
一体、何の話なのか、と思った。だが、すぐに思い出す。
悪魔契約の事を。
私の持つ刀、倶利伽羅の先代の所有者である哮さんは、寿命を代償としていた。
そういえば、私は、何を代償にするか、決めていなかったなと、今更ながらに思った。
では、一体何が取られるというのだろうか?
悪魔が、片手を私に向け、何もない所で、何かを握る様な仕草をした。
すると、私の体の中から、何か、青い炎が抜け出て、それが、哮さんだ自然と分かった。
その魂は、私の胸から完全に抜けると、魔王の元へ行ってしまう。
すると魔王は、もう片方の手を伸ばした。
そして、その手で、私の―――――
決定的な何かが切れる感覚と共に、若葉は目を覚ました。
「―――――ッ!?」
飛び起きる、とはこの事だろうか。
ほぼ反射的に体を起こし、若葉は、茫然とした。
「・・・・ここ、は・・・」
そこは、病室。
そして、若葉は今、ベッドの上にいた。
自身の体を見下ろせば、それはもう酷い有様で、包帯が、右肩から脇腹にかけて巻かれていた。
体中には大量の切り傷の後があり、それらが褐色となって残っていた。
そして、若葉はどうしてここにいるのかを思い出す。
「そうか・・・私は・・・・」
紅葉との決戦に、勝ったのだ。
あの戦いで、若葉は、奥義の打ち合いで紅葉に勝利した。
若葉の『鴉螺灼』が、紅葉の『迅雷』を追い抜き、その体を両断して、勝利した。
しかしその後、若葉は気絶。ダメージが大きく、さらに、若葉でさえも迅雷を喰らっており、出血が激しかったために、すぐさま病院へ担ぎ込まれたのだ。
後で、病室に入って来たひなたにタックルを喰らった後にその話を聞いて。
「若葉ちゃんは、もう戦わなくていいです」
あまりにも予想外な言葉が出てきた。
「な、何故・・・!?」
当然、若葉は動揺する。
その問いに、答えたのは辰巳だった。
「お前が使っていた倶利伽羅は、未だに魔王サタンと繋がってたんだよ」
「どういう事だ・・・?」
「簡単に言って、お前は紅葉に勝つために、魔王サタンに青い炎を使う事と
「私が悪魔と・・・!?」
「若葉ちゃんが気付かないのも無理はありません。辰巳さんから聞きましたけど、若葉ちゃん、とても怒ってたみたいでしたから、後先考えずにやってしまったんでしょうね・・・」
思い出してみれば、確かにあの時の自分は冷静を欠いていた。いや、欠いているなんてものじゃない。もはや完全に理性は吹き飛んでいた。本能のままに、紅葉を殺しにかかっていた。
「それで、その為の代償として、お前は、勇者としての力を失った」
「・・・」
今になると、容易に予想できた事だ。
あの時、確かに代償は提示させられていた。しかし若葉は、憎しみのままにその代償を了承した。
紅葉に勝つために、ありとあらゆるものを――――
「・・・・それだけじゃ・・・ないんじゃないのか・・・?」
若葉は、ひなたに問うた。
それを聞いたひなたは、一瞬目を見開いて、やがて目を伏せて、答えた。
「・・・・片耳の聴力、肋骨の何本かの消失、剣を扱う為の技術、及び、剣の使用不可。片目の視力など・・・数えるだけも、十個の代償を、若葉ちゃんは支払っています」
若葉は、それを聞いて、自分の両手を見た。
手の感覚が、無いのが分かる。
幸いに、味覚と嗅覚は残っていた。そして、先ほど気付いた、視界の左半分の消失。
ただ、それを若葉は辛いとは思わない。
「・・・・これで少しは、千景の気持ちが理解できただろうな・・・」
「若葉ちゃん・・・」
「若葉・・・」
この場に、歌野と水都はいない。
辰巳は持ち前の回復力ですぐさま復活した。しかし歌野はそういうのは備わっておらず、未だ入院中だ。
戦いの代償として、戦う為の力を失った。
友奈の仇を取れた。ならば、それでいいじゃないか。
そう、割り切ろうとした。しかし、だけど、それでも―――――
「―――まだ、戦いたかった」
若葉の嗚咽が、病室に響いた。
今回の戦いにおいて、高嶋友奈の殉職、乃木若葉の戦線永久退場という、決して安くない代償を支払う事になった。
その代わり、十天将は全滅。バーテックス人間も、今回の戦いで全滅したという。
だが、それでも、高嶋友奈の死と乃木若葉の戦線離脱は、相当な痛手となった。
現状、戦えるのは、もはや、足柄辰巳と白鳥歌野のみとなってしまった。
とある昼間。
辰巳とひなたは、四国を囲う壁の上にいた。
何故、二人がここにいるのか。
それは、大社から、とある任務を言い渡されたからだ。
外で、バーテックスが不穏な動きを見せているという、そんな報告があり、それが侵攻ではなく別の目的であるという懸念がある為に、それを調べて欲しい、という事らしい。
若葉はすでに戦力から外され、歌野はリハビリの為にこれない。
故に、辰巳のみでの任務となる。ひなたがいる理由は、今の世界を見たい、との事だった。
だから、一緒にここまで来た。
「外を見るのは、調査をして以来、初めてだったな」
「そうですね・・・」
二人とも、不安が表情に出ている。
今、外は一体どうなっているのか。
今日この日まで、バーテックスは襲来してこなかったが、果たして、それは一体どういう事なのだろうか。もし、敵が力を蓄える為に、わざと侵攻してこなかったのだとしたら―――――
「・・・行くぞ。離れるなよ」
「はい・・・絶対に、この手を離しません」
繋いだ手を、互いに握りしめながら、二人は、一歩踏み出した。
――――火野からの話で、現在、四国の景色は、全て神樹が作った幻らしい。
故に、人々は外の状況を知る事は無く。故に、人はその現状を知る術はなく。
その情報は、勇者たちにも分からない。故に――――
「・・・・なん、だよ・・・これ・・・・」
「・・・・嘘」
そこかしこに跋扈する、白い異形、異形、異形。
そして、それらが全て、複数の個体に集まってきていた。
それは、以前襲撃した、サソリ型バーテックスと同じ存在感を放つ、十三体の完成型バーテックス。
その中には、以前のサソリ型もいた。
あまりにも、信じられない光景に、二人は、何も言えなかった。
あの、ただの精霊では勝てなかったバーテックスが、十三体もいるなんて。
その中でも二体、ひときわ強い存在感を放ち、例え、暴走状態でも勝てるかどうか分からないような存在が、二体、いた。
片方は円形のアーチのようなものと、その中心にコアのように存在する球体を持つ個体。
もう片方は、そんなものが小物に見えるぐらいの存在感を放つ、上半身がアヌビス神のような体と、無数の蛇がいる下半身の個体。
おそらく、いや、間違いなく、勝てない。
仮令、ファブニールとジークフリートを重ねたとしても、勝つ事なんて出来ない。
それほどまでに、絶望的な状況――――
「辰巳さん・・・・」
酷く掠れた声で、ひなたが辰巳の装束の裾を引っ張りながら、とある場所を指さした。
そちらに視線を向ければ、まだ小さな個体―――『星屑』の集団が束になって、結界に突っ込もうとしていた。
だが、その全てが、結界の前で悉く弾かれ、侵入する事が出来なくなっていた。
以前までなら、そんな事は無かった。
それは、一重に結界が強化された結果なのだろう。
少なくとも、星屑程度なら、入ってくることはない。だが、あの個体はどうなのだろうか・・・?
星屑の何体かがこちらに気付き、襲い掛かってくる。
しかし辰巳は、その尽くを全て斬り捨てる。
(ひなたにだけは、手出しさせるか・・・・!!)
とにかく、ひなたを守りつつ、結界の中へ逃げようとする。
すぐに、この事を、報告しなければ――――
突如、形容しがたい音が響いた。
「なんだ!?」
「これは・・・!?」
それはあまりにも不快な音。その全てが、バーテックスから発せられていた。
不快の音は続き、やがて、バーテックスたちが妖しく光り出し、明滅する。
全てのバーテックスが光り輝き、そして、互いに呼応するかのように明滅を繰り返す。
何かが、起きようとしている。
しかし、それが何なのかが分からない。
突如、地面が揺れる。
「うわ!?」
「きゃ!?」
それはあまりにも立っていられないほどの揺れ。
辰巳はひなたをひっつかみ、引き寄せる。
大きな揺れは、収まる所かどんどん大きくなっていく。
バーテックスたちはなおも、明滅する。
さらに、天から無数の光の柱が降り注ぎ、それが海に突き刺さる。そして、その光を中心に、海が渦巻く。まるで、海の底に穴が空いたかのように。
「
ひなたが、そう呟いた。
天沼矛。
古事記において、伊邪那岐と伊邪那美の二柱の神が、日本大陸を作る為に与えられた槍。
それが、今、海を穿つために使われたのか――――
「違う・・・」
辰巳は、否定した。
「そんな、
我は、示す、七つの大罪を――――
突如聞こえた、誰かの声。
それは、頭に直接響くかのような、そして、女性なのか男性なのかよくわからない声が響く。
この声は、一体誰だ?
――――人間よ、お前にこれを逃れる術は無い。
「辰巳さん・・・」
腕の中のひなたが呼びかけてくる。
どうやら、ひなたにも、聞こえたらしい。
辰巳は、一瞬だけひなたに目を向け、すぐに空を見た。
そして、見てしまった。
空に―――――全ての大罪を詰め込んだ、断罪の一撃を。
「―――――」
瞬間、動きが止まった。
あれは、なんだ・・・?
しかし、そんなもの考えるのも馬鹿らしい程、『それ』は、あまりにも、強大だった。
――――今こそ悔やめ、己の大罪を、その罪を、我が罰を持って、思い知れ。
『
あれは、あれこそが、『神』だ!いな、そんな生ぬるい物じゃない。あんなもの、『神』さえも超えている。
あれが、あれこそが絶対的一撃。人間に逃れる事なんで出来ない、断罪の一撃だ。
そんなものを、撃ち返す力なんて、持っていない。
むしろ、存在しない。人間で、神で、あんなものを打ち破れる存在なんていない。
かくして、断罪の一撃が落とされた。
――――『
それは、異世界の神々の武器。
対象を罪人として、絶対的制裁を下す、断罪宝具。
それが、今、叩き落されたのだ。
「ひなたァッ!!」
辰巳が叫び、全力で結界の中へ飛ぶ。
結界の中に入れば、そこは何事も無かったかのような景色。
しかし、辰巳とひなたの間に、平穏なんて言葉なく。
辰巳は、腕の中の温もりにすがるように、ひなたは、自分を包む温もりを手放さないように、ただ、そこで震えて寝転がるだけだった。
やがて、震えは止まり、二人は、立ち上がる。
「・・・行くぞ」
「・・・はい」
酷く、掠れた声で、二人は、足を踏み入れた。
結界を抜ければ、そこは――――
――――地獄だった。
大地は赤く溶け、海は蒸発し、天は真っ暗。
白い異形が我が物顔で跋扈し、縦横無尽の飛び交う。
以前と、全く違う世界。いや、変わり果てた世界。
先ほどの光景が生ぬるくなるほど、その世界は、まさしく終わっていた。
それは、壊されたというのは、あまりにも似合わず、例えるのならば、それは――――
「・・・・断罪された、世界・・・」
断罪されたが故に、その刑罰は、おそらく、人類の再興の可能性を、完膚なきまでに断絶したのだ。
いや、この場合は、人類再興をする事をやめさせられた。
秩序のもとに、法の元に、自らの与えた罰の元、人類を、世界を断罪した。
その結果が、これなのだ―――――
その後、辰巳とひなたは結界内に入り、外で起きた事を、大社に報告した。
そして、一つの結論が出た。
神樹が力尽きた時、人類は、死滅すると―――――
「―――――なんですって?」
その時、足柄火野は、今降りた神託に、耳を疑った。
「火野ちゃん?どうしたの?」
後ろから、安芸真鈴か声をかけてくるが、火野の耳には届かない。
だって、その情報は、それほどまでに火野に衝撃を与えたのだから。
「―――すみません、少し、上層部へ掛け合ってきます」
その判断が、のちの自分を
あの日から、何日が過ぎたか。
歌野も退院し、勇者の力を失った事によって、治癒力が通常に戻った若葉も、無事に退院した。
しかし、次の敵がいつ来るか分からない。その為に、まだまだ強くならなければならない。
だから、辰巳は剣を振るった。
辰巳から話を聞いた歌野も、以前よりも厳しく訓練に没頭した。
その様子を、若葉は黙ってみているだけだった。
あの戦いで、剣の振り方も、剣を扱い方も、剣を持つ事すら出来なくなった若葉は、ただその様子を傍観する事しか出来なかった。
あの日から、たった一ヶ月。
「みーちゃんたち、最近学校に来ないわね」
「ひなたと水都は今、大社に行ってるらしい。なんでも、何か重要な話があるみたいでな・・・」
歌野の疑問に、もはや補給係となった若葉が答える。
ここ最近、ひなたと水都は、大社に行ったっきり帰ってこない。
「辰巳、そろそろ休憩した方がいいんじゃないか?」
若葉は、遠くで剣を振るう辰巳に声をかけた。
それに気付いたであろう辰巳は振り向く。
「ああ、そうだな」
そう短く呟いて、若葉たちの元へと向かい、辰巳は、若葉からスポーツドリンクを受け取る。
若葉は、そんな辰巳の様子を見て、表情を曇らせる。
最近、辰巳が笑う回数が極端に減った気がする。
いや、それは自分も同じだろうか。
何せ、球子も、杏も、千景も、友奈もいない。
彼を、笑顔に出来る者たちが、極端に減った。
それに、辰巳自身、負い目を感じてしまっている。
仲間を失った事に対する負い目、そして、先日の、世界が壊れたという瞬間を見て、何かが、狂ってしまったのだろうか。
「な、なあ、辰巳―――――」
そう、声をかけた時――――
辰巳と歌野が消えた。
「・・・・・え」
その、あまりにも突然な事に、若葉は呆然とする。
何が、起きた?
あまりにも、一瞬で、二人が消えた。
「辰巳・・・歌野・・・?」
周囲を見渡しても、どこにも誰も居ない。
予想外の事態に、若葉は、混乱する。
気が狂いかけて、思い出す。
樹海化の際は、勇者以外の全ての時間が止まる、と―――――
「・・・そうか」
敵が、とうとう来たのだ。
だから、二人は、戦場へ行ったのだ。
だから、丸亀城の石垣へ行けば、いつも通りの二人がいる筈だ。
きっと、大丈夫だろう。そう、大丈夫。な、筈だ。
なのに――――
気持ちが悪い。
胸糞が悪い。動悸が激しい。呼吸が荒くなる。
急がないと―――急がなければ――――きっと、必ず――――後悔する!!
そうして、急いで、丸亀城の石垣へたどり着くとそこには――――
血塗れの辰巳と歌野がいた。
「――――――ァ」
血の気が引くような感覚を覚え、若葉は一瞬、気が遠のき始めた。
しかし、持ち前の精神力と、ひなたの事を思い出し、持ちこたえて、若葉は、辰巳と歌野に駆け寄った。
辰巳は、体のあちこちに火傷の後があり、竜鱗があった右腕の鱗がほとんどとれている。まるで何かに殴られたかのような痕と噛みつかれたような痕も目立つ。
歌野も同様だったが、彼女の場合は、一段と目立つ怪我があった。
右腕が無かった。
肩と腕の付け根から、噛み千切られたかのように、消えていた。
その傷口から、血が湯水の如く溢れ出ていた。
それに卒倒しそうになりながら、若葉は、救急車を呼んだ。
そして、すぐに止血に取り掛かった。
酷く、長く息が止まっていたような気がする。
それほどまでに、こうして、何も知らずに戦いが終わり、そして、こんな姿にいきなりなって帰ってくる、そんな、あまりにも残酷過ぎる状況に、若葉は、震えを抑える事が出来なかった。
(ひなたは・・・何度も・・・・・こんな・・・・・)
若葉には、とても、荷が重かった。
それは、突然やってきた。
変化した世界で、辰巳と歌野は立っていた。
もう、十天将はいない。そして、これからやってくるのは、人類の天敵である、バーテックス、その、完成型。
もう、戦えるのは、辰巳と歌野だけ。
伊予島杏、土居球子、高嶋友奈は死に、郡千景は大罪を犯したゆえに高知へ流刑、乃木若葉は、乃代紅葉との戦いの代償で、勇者としての力を失った。
だから、これからの戦いは、二人だけで支えなければならない。
それほどまでに、戦いは、最悪な状況へ傾いてきているのだから。
そして、現れた敵を前にして、二人は――――――
何も覚えられないほど、激しい戦いをした。
相手は、上半身がアヌビス神、下半身が蛇の群れという、あの、強大なバーテックスだった。
その力は、二人の予想をはるかに超えており、それ故に、辰巳は、
結果は―――――
「――――ッ!?」
そこで、辰巳は跳ね起きた。
そこは、病室。辰巳は一人、病室のベッドで、寝ていたのだ。
自分の体を見下ろせば、両手は完全に黒い鱗で覆われており、体のほとんどが、その黒い竜鱗で覆われていた。
幸い、顔には頬のあたりまでみたいだが。
だがしかし、辰巳はそれで理解する。
「・・・最後の一回を使った代償、か・・・」
これで、辰巳は完全に
人としての形は保っているが、人としては、すでに死んでいるだろう。
すなわち、成り損ないの竜種。
ファブニールを憑依し続けて、その結果がこの様、だという事だろう。
辰巳はふと、日時を示す時計を見た。
「一週間・・・・!?」
その日付は、辰巳と歌野があの巨大バーテックスと戦った日より、一週間が経過していた。
それほど寝ていたという事なのだろう。
しかし、同時に納得する。
あれは、それほど強大な存在だったのだから。
「そういえば・・・・歌野は・・・・」
そこで、病室のドアが開いた。
そちらに視線を向ければ、そこには、水都がいた。
「水都・・・?」
「起きたんですね、辰巳さん」
酷く淡々とした、水都の声。
その声に、辰巳はちょっとした違和感を感じた。
「・・・・どうした?」
「・・・」
辰巳の問いかけに、水都は答えず、辰巳に歩み寄り、彼の前に、スマホを差し出した。
「すぐにひなたさんの所に行って下さい」
「どういう・・・」
「急いでください・・・・でないと――――――」
大社本部の、木造の廊下を歩く、ひなた。
「ひなたッ!!」
突然、ひなたを呼び止める声が聞こえた。
振り向けば、そこには、竜胆を想起させる勇者装束を着て、息をあげてこちらを見ている辰巳の姿があった。
「辰巳さん・・・・」
その体は、もうほとんど、竜の鱗で覆われていた。
頬にまで、鱗がついているその姿は、人ならざる者になってしまったという事実を、否応なく、突きつけていた。
その姿を見て、ひなたは、もの悲し気な表情となる。
「ハア・・・ハア・・・・水都から、聞いたぞ・・・」
「・・・・そうですか」
辰巳の言葉に、ひなたは、俯いて答える。
「・・・・・やめてくれ」
「ごめんなさい。それは、出来ません」
「やめてくれ」
「出来ません」
「頼む・・・やめてくれ」
「出来ま、せん」
「やめてくれッ!!」
「出来ませんッ!!」
ひなたの叫び声に、辰巳が押し黙る。
「・・・できま・・・せん・・・・」
俯いた顔から、涙が零れおちる。
その光景に、辰巳は、悔しそうに顔を歪めた。
「・・・なんで・・・お前なんだ・・・・」
奉火祭。
火祭りとも呼ばれる、炎を率いて、鎮火を願う祈祷儀式。
それは、ある日の事、火野が、神樹よりこんな神託を受けた。
―――敵の異世界の神より、猶予を与える条件として、『上里ひなた』を炎の海へ捧げよ。
それはすなわち、助かりたくば、ひなたを生贄に捧げろと言う、休戦協定だった。
それに対して、大社では意見が二つに割れた。
たった一人の犠牲で済むなら、捧げるべきだという、推進派と、みすみす捧げる必要なんてない、無視すべきだという、拒絶派。
両者の意見は対立するも、かといって何もしなければ、また侵攻される可能性もある為に、拒絶派の方がいささか不利だった。
そこで、神託を受けた火野から、こんな提案を出された。
『わざわざ、ひなたさんを差し出す必要なんてありません。誰か別の人を差し出しましょう』
能力的に同等の水都を捧げるべきだ、という意見も出たが、それは、指名されたひなた当人がやめさせ、別の人を選抜した。
そして、その巫女を、炎の海へ捧げた結果―――――
――――辰巳と歌野が瀕死の重傷を負って帰ってきた。
ようは、神を舐め過ぎていたのだ。
たかが身代わり程度で神を欺ける筈がなく、身代わりを手渡した結果、危うく世界が滅びかけた。
そして、さらなる神託が下った。
『次は無い。今度、身代わりを捧げたら、我自らが、鉄槌を下しに行く』
つまり、神自らが、今度こそ人類を根絶するためにやってくるという事。
それが、どれほど恐ろしい事なのか、ひなたは知っていた。
火野は、それでも身代わりを差し出そうとしたが、敵の強さを身近で知ったひなたは、それに首を横に振った。
そして、今度こそ、ひなたが、生贄としてささげられる事になったのだ。
「・・・猶予は、一週間です。そして、明日がその期限です・・・もう、限界なんです・・・・」
もう、そこまで近付いているという事なのか。
「もう、嫌なんです・・・・私の所為で、辰巳さんが苦しむ姿を見るのが嫌なんです・・・・血塗れになって、帰ってくる姿に、耐えられないんです・・・」
絞り出すかのように、ぽつりぽつりと、自分の本心を吐露するひなた。
「・・・もう、これ以上、私が好きな人が苦しめられるのを、見たくないんです。ですから、今度は、私が、辰巳さんを守ります」
ひなたは、涙を拭いて、真っ直ぐ辰巳を見た。
「今度は、私が、辰巳さんを守ります」
瞬間、廊下の壁が吹き飛ぶ。
「――――ふざけんなッ!!」
辰巳が、殴って吹き飛ばしたのだ。
「そんな方法で守られて、何の意味があるんだよッ!お前が犠牲になる事に一体、どこに意味があるんだよッ!!ある訳がない、お前が犠牲になって良い事なんで、どこにもないんだよッ!!」
「それでも、私は行かなくちゃならないんです!このままじゃ確実に負けて、人類は全滅してしまいます!そうなるくらいなら、私一人の犠牲で終わらせるべきなんです!!」
「そんな事で諦めるなよッ!!まだ俺がここに立ってる!戦える!だからお前が犠牲になる必要なんて―――」
「戦えるからって勝てる訳じゃないでしょうッ!?一体どうやってあんな敵に勝つっていうんですか!?世界は滅んだ!人類再興も出来ない!
「そんなものやってみなきゃ―――」
「やってもやらなくても同じですッ!!!」
「――――ッ!?」
ひなたの怒号に、辰巳が押し黙る。
「ファブニールとジークフリートの同時使用でも、たった一体にあの様だった!それも二人で戦って、その結果があれじゃないですか!?そんな、そんな結果を出して置いて、何がやってみなくちゃ分からないですか!?馬鹿じゃないんですか!?もっと現実を見て下さいよ!!」
ひなたは、両目から涙を流して、叫び続ける。
「もう私達が勝てる確立なんてこれっぽっちも残ってないッ!!どんなに頑張っても、私達では勝てない。だから、未来に託すしかないんです!!私が時間を稼ぐしかないんですッ!!何があろうとも、私が行かなくちゃ・・・人類は、神には勝てない・・・・」
あまりにも、重かった。
ひなたが背負ったものは、辰巳には想像も出来ないような、重圧だった。
ひなたは、それを、自分の命と天秤にかけたのだ。
たった一つの命で、救われる、何万と言う命。
ひなたは、自分の命よりも、全人類の未来を選んだのだ。
その覚悟に、辰巳は、何も言えない。
「・・・・どうしても・・・だめなのか・・・・?」
「・・・・・・は、い・・・」
「・・・そ・・うか・・・・」
辰巳は、力が抜けるように膝を地面についた。
その表情には、どこまでも深淵に落ちていくような絶望が映っていた。
「・・・・・ごめん、なさい」
謝罪が聞こえた。
顔を挙げれば、ひなたが、両手で顔を覆って、泣いていた。
「・・・最後まで、一緒にいられない女で、ごめんなさい・・・・こんな、不甲斐ない女で、ごめんなさい・・・最後に、辛い思いをさせる女で、ごめんなさい・・・苦しんでいる大切な人を、慰められない女で、ごめんなさい・・・・」
膝をついて、蹲るように体を丸めて静かに泣く、ひなた。
「こんな・・・こんな・・・・・最低な女で・・・ごめんなさい・・・・貴方の前から消える事を・・・・許してください・・・・許して・・・ください・・・・ゆるして・・・・・ごめん・・・・なさい・・・・」
その体は、とても小さく、何よりも小さかった。
そんな、今にも壊れてしまいそうな体を、辰巳は、そっと抱きしめた。
「・・・・俺の方こそ・・・お前を、守れなくて・・・・ごめん・・・・」
その戦いには絶望しかなく、敗北すらも、絶望で染められた―――――
壁の上。
そこに、若葉と、歌野と、水都、大社の幾人かの役員と、そして、生贄に捧げられるひなたと、勇者装束を纏った辰巳の姿があった。
二人は隣り合い、手を繋ぎ合っていた。
若葉は、今にも泣きそうな顔になっており、歌野は、ただ気丈にふるまい、水都は、心配するように、その様子を見守っていた。
やがて二人は、神樹の結界を通り抜けて、炎の世界へ足を踏み入れた。
バーテックス達は、襲ってこない。
それもそうだろう。何せ、これからする事は、彼らの創造主へ供物をささげる行為なのだから。
壁の縁に立ち、二人は、炎の世界を眺める。
ひなたの手は、僅かに震えていた。
そして、その温もりを忘れないように、噛み締めるかのように、握りしめていた。
しかし、その時間は長くは続かず、ひなたの手が、辰巳の手を、すり抜ける。
「それじゃあ、行ってきます」
その声は、酷く震えていた。
きっと、まだ怖いのだろう。
そんなひなたの様子に、辰巳は、声をかけて引き留めた。
「ひなた」
その呼びかけに、ひなたは、振り向かずに、答える。
「・・・なんですか?」
「忘れものだ」
「え・・・」
辰巳は、ひなたの手を取り、それを手渡した。
「これは・・・・!」
それを見て、ひなたは目を見開いた。
それは、ひなたと辰巳が、初めてのデートの時に行った水族館でもらった、イルカのストラップ。
その時、赤と青の二つを貰い、ひなたが赤、辰巳が青を貰ったのだ。
それは、辰巳の青いイルカのストラップだった。
「でも、これは・・・辰巳さんの・・・・」
「赤いのは貰う」
辰巳は、懐から、ひなたの部屋にあった赤いストラップを取り出し、見せびらかす。
「せめての、お守りだ」
「・・・・」
ひなたは、手の中で光る、透明な青のイルカのストラップを見つめた。
やがて、その表情を崩し、ひなたは辰巳に抱き着いた。
「辰巳さんっ!!」
その胸に飛び込み、わんわんと泣き出す。
「離れたくないです!別れたくないです!ずっと、ずっと辰巳さんと一緒にいたいです!!ずっと、ずっと、辰巳さんと生きていたいです!!これからもずっと一緒にいて、結婚して、歳をとって生きたいです!!死にたく・・・・死にたくないよぉぉおおお・・・・・!!」
「分かってる・・・・分かってる・・・・全部、分かってる・・・・」
どれほど泣いても、神は許さない。
どれほど願っても、神は叶えない。
どれほど想っても、神は知らない。
だから、ひなたは、行かなくちゃいけないのだ。
「それじゃあ、今度こそ、行ってきます」
「ああ」
もう、先ほどのような震えは無く、その表情は、とても健やかだった。
ひなたは、炎の世界を見て、そして、その手に、青いイルカのストラップを胸の前で、両手で握りしめる。
怖かった。死ぬ事では無く、離れる事が、怖かった。
こんな気持ちは初めてだけど、きっと、私はこれでいい。
人の未来、そして、
それらの為に、私は、何度だって、この命を賭けられる。
だから――――
「――――辰巳さん」
ひなたは、高らかに声を張り上げた。
「『
その言葉に、辰巳は、目を見開く。
「―――忘れないで、下さい」
そして、ひなたは、その身を炎の海へと投じた。
その手に、大切なものを抱えて。
―――――この身は生涯、あの逞しきあの人のもの。
―――――その身、捧げるのは、愛したあの人のみ。
―――――故に、私は貴方に嫁ぐことはない。
―――――なぜなら私は、あの人の、妻なのだから―――――
「――――共に行きましょう『クリームヒルト』」
それは、竜殺しの英雄の妻。
夫と息子の復讐の為に、自らの祖国を滅ぼした、卑しき鬼女。
復讐の悪鬼、全てを奪われた一国の王女。
その生涯を、一人の男の為に捧げた、ありふれた感情を持った、一人の女性。
ひなたの髪の毛が、金色に輝き、その双眸が紺碧に輝く。
それは、勇者にのみしか使えない筈の、精霊の使用。
この身を、ただでやる訳にはいかない。
何の代償も無しに、この身を奪えると思うな。
見るがいい、これが、何の力を持たなかった、
「――――魂です」
「今度こそ、さようならです。
それだけを言い残し、ひなたは、満ち足りた笑顔で、炎の中に消えて行った――――
「――――
そして、それに呼応するかのように、辰巳はジークフリートとなり、
その先を呆然と見つめて、やがて膝から崩れ落ちた。
「うぅ・・・うあぁぁぁああああぁぁああああぁあああああああ!!!!」
そして、力の限り泣き叫んだ。
守れなかった。守られた。
その二つの事実が、
しかし、それでも、彼は、立ち上がる。
それが、大切な人の願いなのだから。
力の限り、これからの人生、全ての分の涙を流して、そして、辰巳は立ち上がる。
結界の中に戻り、ひなたが、その身を捧げたという事を伝えた。
若葉は、耐えきれず泣き崩れ、歌野でさえも涙を流し、水都も、泣いた。
絶望がまた一つ刻まれ、しかし、その分、彼らはまた、強くなる。
何かを失う度に、人は強くなる。そう――――
―――人は、失う事でしか強くなれないのだから。
ひなたがその身を投じた事で、人類には、百年の猶予が与えられた。
たった百年。されど百年。
それだけあれば、人は、準備を整えられる。
戦争で原爆を落とされても、人はものの数年で再興を果たしたのだから。
ひなたが、その身を炎の世界へ投げ出して数日――――
「皆!大変だよ!」
丸亀の教室に、水都が駆け込んでくる。
「どうしたのみーちゃん?」
その様子の水都に驚いた様子で聞いてくる歌野。
「ハア・・・ハア・・・ハア・・・ひ、火野、ちゃんが・・・・」
「よし、少し落ち着け水都、深呼吸だ。吸ってー、吐いてー」
そんな水都を若葉が落ち着け、落ち着いた所で、水都がやや早口気味に辰巳達に告げた。
「ひ、火野ちゃんが・・・・上里ひなたを名乗り出したんです!!」
「「「ハアッ!?」」」
あまりにも予想外な事に、素っ頓狂な声を挙げる三人。
「なんでアイツが!?」
「どうしてひなたの名前を!?」
「何してるの!?」
「ひぃ!?私に言われてもぉ・・・!!」
一気につめよられ縮こまる水都。
その様子に、我に返った三人はとりあえず落ち着く事にした。
「それで、なんで火野が・・・」
「それが、巫女の大半を味方にして、突然、そんな宣言を・・・・」
「よし、とりあえず火野に会ってみよう、真鈴さんならどうにかして会わせてくれるかもしれない」
戦いが終わっても、辰巳の体は未だ竜の体、故にその力は勇者のそれに匹敵する。
その為、辰巳は三人を抱えて大社本部へと飛ぶ。
そして、おそらく巫女たちがいるであろう宿舎にむかう。そこで、丁度庭で箒を掃いている真鈴の姿を見つけた。
そのすぐ傍に着地する。
「うおあ!?」
「どうも真鈴さん!いきなりすいません!」
「ってアンタら!?随分とストイックな侵入方法ね!?いや足柄君だから出来ることか!?」
突然の来訪に多少混乱しているものの、そこはここでひなたの身近にいた巫女、すぐさま落ち着きを取り戻し、彼らの要件を察する。
「火野ちゃんに会いに来たのね・・・」
「そんな所です」
「ごめんなさい、火野ちゃんがどこにいるか知りませんか?」
水都が、真鈴に聞く。それに真鈴は、険しい顔で答える。
「たぶん、今は一人で大社本部にいると思う・・・」
火野は、一人、大社本部の廊下を歩いていた。
そこで、正面の廊下から、誰かがやってくるのが見えた。
その姿がはっきり見えた所で、火野は止まった。
「・・・ここに来るなんて珍しいですね、
「まさかお前にそんな風に呼ばれるなんてな、火野」
彼女の前には、四人の男女がいた。
兄
皮肉、のつもりで言ったつもりだが、これはさほど答えなかったようで。
「私はひなたですよ?」
「いいや、違う、お前は足柄火野、俺の妹だ」
「いいえ、それこそ間違いです。私は上里ひなた。貴方の妹ではありませんよ」
火野は、あくまでひなたを名乗る。
その表情はどこまでも笑顔だった。
「火野、ひなたを名乗るのはやめろ。アイツは、死んだんだ」
若葉が、火野に向かってそう諭すように言う。しかし、火野は笑う。
「面白い事をいうんですね
「・・・・ッ!?」
あまりにも、自然とした態度に、若葉は硬直する。
彼女の呼び方が、ひなたそのものだったから。
しかし、その眼は、濁っていた。
あまりにも、どろどろのセメントのように濁っていた。
「そうだ、皆さん。本日より『大社』は『大赦』と改名する事にしました」
いきなり何かの報告を始める火野。
「それで、その実権を私が握る事になりました。これで、大赦の方針を、私が自由に決められるようになりました」
「「「な――――ッ!?」」」
まだ、小学生の彼女が、こんな大組織の実権を握る?なんて馬鹿げた話だ。そんな話が、通って良いのか?
「ですので、今後の事について、次の事を決めました」
火野は、満面の、それも、子供の笑顔で、恐ろしい事をさらりと言ってのけた。
「まず、かの大罪人『郡千景』の事は、今後の歴史において、『災厄の勇者』として『千景』の名前は忌み子として取り扱う事にしました。皆さん快く受け入れてくれました。それで、今後勇者の力を悪用した勇者は、その名前を与えて、永遠に軽蔑されるようにしました。これで、百年後の勇者たちは献身的に戦ってくれるでしょう」
その言葉に、若葉は胸の中で何かが煮え滾る感覚を覚える。
「もう一つ、大赦に暗部を作り、今後、大赦の方針に従えない者たちを粛清する組織を作ります。これは一般人も含まれ、反乱を起こそうとすれば、不幸な事故と称して反乱分子を快く粛清する事が出来るようになりました」
その言葉に、水都の背中を悪寒が這いずる。
それほどまでに、火野の表情は、残酷なまでに笑顔だった。
「どうですか?すごいでしょう?こうすれば、勇者はバーテックスとの戦いに専念できます。余計な事は考えず、ただただバーテックスを殺す存在になれます」
辰巳は、悟った。歌野は、知った。
火野が、完全に壊れた事を。
大社改め大赦本部から、丸亀城に戻った辰巳たち。
「・・・・・お前ら」
石垣を上る階段で、辰巳が若葉たちに声をかける。
「・・・・火野に大赦を任せちゃダメだ」
「ああ」
「そうね」
「はい」
その言葉に、全員が頷く。
「今の俺たちには、勇者であったこと以外、力は何も持ってない。だけど、これから力をつける事は出来る」
「今、大赦の役員が、巫女のほとんどが、火野ちゃんの味方です。千景さんの事を利用して・・・・」
「だが、その火野の思想に反対するものもいる。まずは、その人たちを味方に付ける」
「それで、百年の間に火野に負けないぐらいの勢力をつける」
今は強大でも、時間があれば、力をつけられる。
幸いと、敵の侵攻まで、百年の猶予が与えられた。ならば、それまでに力を付ければいい。
政治的に、負けない力を。
「俺は、もう人間をやめている。だから、この先、お前らより長生きできる」
それは、一重に呪いと呼ばれるものかもしれない。
だが、それでもやらなければならない事がある。
「『
辰巳は、ひなたの赤いイルカのストラップを握りしめて、辰巳が、ひなたが最後に残した言葉をつぶやいた。
後に、上里、乃木、白鳥の三家は、大赦のスリートップとして君臨し、藤森は白鳥に、安芸は乃木の傘下となり、支え、今後、乃木と白鳥の政治的力の増長を支援した。
上里と二家の対立は、今後三百年たっても変わらず、互いに牽制し合い、勇者運用の実権を奪い合う事になる。
そして、足柄辰巳は――――――
神世紀二九五年―――――
とある、大きな日本家屋。そこの表札には、堂々と『乃木』と書かれていた。
そこの庭で――――
「
「まだ踏み込みが浅い。もう少し前だ。そして、肩はつねに―――」
「力を抜いておけ、でしょ?分かりました!」
かつての戦友より、明るい髪の少女が、木製の槍を持って笑う。
その様子を、一人の男が厳しくも、微笑みながら、その技を指導する。
彼の名は足柄辰巳。
『勇者訓練指導官』にして、西暦の初代勇者実力筆頭『邪竜』足柄辰巳である。
そして物語は、次の世代へ―――――
足柄辰巳は勇者である――――『完』。
~あとがき~
どうもこんにちは幻在です。
ついに、乃木若葉は勇者であるを原作とした『足柄辰巳は勇者である』完結です!
ぴったり四〇話で終了。いやぁここにくるまでの数か月、長かったです!
これを読んでいる人はお気づきかもしれないが、今回、Fate/apocryphaからネタをお借りして書いています。まあそれだけでもないんですが。
これまでのシーンやキャラは、様々な作品からキャラのイメージをお借りしています。まあ、主人公とかは完全にこっちのオリジナルですが。
最終決戦のシーンとかで、友奈と峻司閃との最後の激突の際は、『僕のヒーローアカデミア』からデクとあの筋肉マン(マジ)との衝突をイメージして書いたり、哮の炎とか性格については『青の祓魔師』の奥村燐のリスペクトだったり。
最後の若葉と紅葉の戦いは完全にジークと天草四郎の戦いを真似してますはい。ついでにニコニコで配信されてるMADを見て思いついて歌詞いれちゃったり。
あ、それと辰巳の竜化については、実ははじめは『アカメが斬る!』の主人公『タツミ』のインクルシオ異常進化状態の時を考えてました。
さて、これであたゆは終わってしまった訳ですが、一応完結という事にして、今後の事についてこの場で報告させていただきます。
活動報告の方でも書いたのですが、実は『刀使ノ巫女』の方で新たに何か書こうかなと思っております。
それと、これの本編である『不道千景は勇者である』略してふちゆにて勇者の章開始するために、こちらを優先させていましたが、ついに、開始する準備が整いました。
刀使ノ巫女よりもこちらを優先させるので、刀使ノ巫女の方はかなりの亀更新になるかと思います。ですので、その点についてはご了承下さい。
ついでに、こちらでは完結表記はさせてもらいますが、後ほど、ふちゆ主人公である不道千景誕生の原点となった郡千景の物語を掲載しようと思っています。
作品はそのまま。章を分けて投稿していきたいと思っています。
題して『
では、今度は新章『
それでは、ありがとうございました!