足柄辰巳は勇者である   作:幻在

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迸る『衝』撃

初めは、何が起きたのか分からなかった。

久我さんが突然、私に飛び掛かってきたと思ったら、久我さんの後ろが爆発して、そのまま私たち二人は吹き飛ばされた。

何が起きたのか分からず、私はただ、茫然とするしかできなかった。

「くそッ!こんな所で遭遇するかよ普通!」

悪態を吐いて、久我さんは爆発の方向を見ていた。

私も、つられて、その正体を見た。

そこからは、左右の手に大きな袋を持った、服装だけは変な男がいた。

いや、確かに普通の人が見たらそれは可笑しな恰好ではあるだろう。

しかし、久我さんたち『救導者』、そして、私の持つ『魔器』というものを持っているなら、そして、今起きた、銀行の壁が吹き飛ぶ現象が起きたこの状況から、その人物が一体何者かなんて予想するのはそう難しい事じゃない。

そう、彼は・・・・

「私と同じ・・・・『魔器使い』」

「正確には違う。あれは悪い魂に取り憑かれた()()()()()()()()使()()だ」

久我さんが、その懐から、一本の脇差を取り出す。

一方の男の外見は、丸い楕円状のバイザーを被り、服は何かの作業員の服の上にがめついジャケットを着ていた。そしてその手には丸い球体―――以前、特撮物で見た変身ヒーローのゴースト版の青い斥力と引力を使う奴に似た格好だった。

その男は、その顔を横に向けたかと思うと、凄まじい地響きを立てた後に、高い跳躍力をもってどこかに逃げ始める。

「野郎、逃がすか!楔はここにいろ!間違っても魔器を使おうなんて思うなよ!」

久我さんは、それだけを言い残して奴を追いかける。

そして、その手に持つ『御神刀』を抜いて、叫んだ。

「『連双砲』ッ!!」

その姿が輝き、その姿を黒いスニーキングスーツへと変えて、その手に拳銃をもって追いかける。

私は、そこにただ茫然とするしかできなかった。

「なんだったんだ一体・・・・?」

「そうだ!怪我人が出ているはずだ!救急車を・・・」

ふと、周囲の人たちの声で、フードが外れている事に気付いて、慌てて被りなおす。

そして、どこかに落ちているはずの手帳とペンを探して、拾う。

見つかった事にほっとして、私は、ぎゅっとその手帳を抱きしめた。

その後、久我さんが行ってしまった方向を見た。

 

 

 

 

 

 

 

逃走する魔器使いの男を追いかけて、俺は道路を車以上のスピードで走って追いかけていた。

「野郎・・・何か衝撃みたいな物を起こしてその威力で飛んでるみたいだな・・・」

そのお陰か中々追い付けない。

くそ、魔器を使って銀行強盗かよ。ありゃ完全に魔器に魂を売っちまった奴だな。

あんなに派手に逃げ回ってると、むしろ居場所がばれやすいっての。

まあ、こうして追いかけながら観察してると、アイツのあの『衝撃』が一体どこから発されているのか十分に分かるがな。

俺は一度飛び上がる。

そして、両手に持ったM9を男に向けて、引き金を引く。

放たれた弾丸は、真っ直ぐ飛んでいき、着地する寸前だった男の丸い何かに覆われた手に直撃する。

「ぐお!?」

当然、その丸い何かは魔器にとっての武器だからなのか、弾丸を軽々とはじく。だが、その威力までは殺せず、腕は跳ね上がり、やがて―――

 

―――()()()()()()()

 

衝撃を発するタイミングをずらされた為に派手に転んだ男は、その手に持った強盗に使った袋を前に落とす。

そして、倒れ込んだ男に、俺はM9を向ける。

「動くな。銀行強盗の現行犯でお前を逮捕する」

「チッ!ポリ公風情が!」

男が、球体のついた手をこちらに向ける。すると、その手の周囲の空間が歪んだように見えた。

てか、これまず―――

「喰らいやがれ!」

「うお!?」

その手から、何か、目に見えないエネルギーが発される。

その衝撃は俺の背後にあった車やらトラックやらを粉砕、吹き飛ばし、破壊する。

「ッ!?しまった・・・!」

「あばよ!」

「ッ!?」

男は袋を拾うとすぐさま衝撃を使って逃げ始める。

「ッ・・くっそぉ・・・!!」

俺は、後ろの壊れた車やトラックの中にいた運転手が乗員の安否に後ろ髪をひかれる思いのまま、男を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

転倒し、破砕された車の中にて。

「うう・・・」

「痛い・・・痛いよぉ・・・!」

「ぐ・・・おぁ・・・」

突然の事に反応できず、その体を打ち付けた、一つの家族。

ドアは歪んで開かず、さらには車がつぶれた事によって足を挟まれた運転席と助手席にいる一組の夫婦。その後ろには、ガラスが割れ、その破片を胸に受けた男の子が一人。

言わずもがな、この夫婦の子供だ。

その傷は致命傷、心臓に突き刺さっていないとはいえ、それでも出血が激しいのは確かだ。

その事には、すでに車のバックミラーを通して、理解はしている。だが、動けない。全身の痛みはそもそもの事、足が挟まって動かないのだ。

このままでは、子供が死んでしまう。

「あな・・・た・・・」

妻が、夫に声をかける。その声は、何かを懇願するようでもあり、自身の無力さに打ちひしがれているかのようだった。

そして、それは夫も同じ。

彼らにとってその子供は、掛け替えのない、たった一つの命だ。

だから、どうにかして助けたい。でも、助けられない。

「痛い・・・痛いよぉ・・・」

このままじゃ、確実に死ぬ。

何もできないまま、死んでしまう。

(頼む・・・誰か、誰か・・・あの子を・・・!)

夫が、必死に、そう願った時だった。

 

なにか、べごんッ!!という何かを無理矢理引っぺがすかのような音とともに、上の方向となる右側の扉が、前方後方どちらも同時に開かれた。

 

一瞬、何が起きたのかと理解する前に、誰かが車内に入ってくる。意識が朦朧としているからか、その人物の顔が、髪で隠れてしまっているからか、顔は分からないが、一人、白い服と拘束具のような鎖と鎧をまとった少女である事が分かった。

その少女は、車内に入ると、夫婦の足を挟んでいる部分を蹴っ飛ばして破壊し、動かせるようにする。

そのまま、二人同時に担ぎ、車外に出す。そして、素早い手つきで二人を寝かせると、すぐに車に戻り、そして一分もしないうちに子供の方も助け出し、夫婦の横に寝かせる。

しかし、その胸にガラスの破片が突き刺さっているという事には変わりなく、とてもではないが、すぐに救急車を呼ばなければ死んでしまうかもしれない。

そう思い、夫は、思わずその少女の腕を掴んでいた。

「ッ!?」

「た・・・たの・・・む・・・・お・・れ・・・たち・・・の・・・たから・・・なん・・・・だ・・・」

精一杯の声、だった。それ以上は声が出ず、力が抜けてしまう。

手も離してしまい、地面に落ちる。少女は、しばしその夫の事に驚愕しながら、やがてしっかりと頷くと、その子供の胸に突き刺さったガラスの破片を掴むと、一気に抜いて、すぐさま別の手をかざし、そして、声を出せない口で、何かを呟いた。

 

 ふういんばくさ しけつ

 

すると、その胸から溢れ出るはずだった血は一切あふれず、どういう訳か止血が出来ていた。

その事に、驚く暇もなく、夫はその意識を手放す。

その事に気付いた少女は、懐から一枚の手帳を取り出し、そのうちの一枚に何かを書いて、破ってその夫の胸の上に置く。

それには――――

 

『止血をしておきました。病院で処置をすれば、助かるとおもいます』

 

それだけが、書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきから弾丸を乱射してんのに全然当たらないとはどういう事だこれは。

いや、どういう事かじゃあないな。アイツがこっちが弾丸を放つ度に衝撃波を出してその軌道を逸らしているんだ。

俺の御神刀は『銃』ではあるが、あくまで力の根幹は『砲』だ。

だから、弾丸自体を特殊に出来るわけじゃなく、あくまで『銃そのもの』を強化する事しか出来ない。

まあ、その過程で弾丸を改造する事は可能なんだがな。

「口径拡張―――『熊殺し(デザートイーグル)』!!」

銃を変化させ、今度は、威力を重視したものとして、俺は引き金を引く。()()()

「ぐぉ・・・!?」

いてぇ、やっぱいてぇこの状態は!!俺の中で最大の威力を誇るこの『熊殺し(デザートイーグル)』は、威力が高い分、両手で撃たないと腕がぶっ壊れる仕様になってる。というか、威力がでかすぎて、御神刀を発動させた状態でもその反動を抑えきれず、逆に自分にもそのダメージが跳ね返ってくるのだ。

だが、そのおかげで、今度の弾丸は今までのものとは訳が違うぞ!

男がまた弾丸を逸らそうと衝撃波を放つ。しかし、その衝撃波をその弾丸は難なく突破し、その突き出された手を叩く。

「ぐあ・・・!?」

突き出された腕が上に弾かれ、男の顔が苦痛に歪む。そして、そのまま片腕を抑えたまま地面に落下。

「これで・・・」

そのまま俺は奴にM9を向ける。狙いは当然、男の眉間、急所だ。

ようは相手を気絶させればいい。御神刀は普通の武器以上の威力を持っているが、それでも人体は決して傷つけない。

しかし、御神刀が攻撃するのは、相手の精神体だ。そして、そのダメージは、急所であればあるほど、大きくなり、場所によっては相手を一撃で気絶させる事が出来る。

そのまま、俺はM9の引き金を引く、その寸前。

「クソが!」

奴は抑えていた手を離して再度俺に向かって衝撃波を放ってくる。

まずい、俺は今空中にいるから避ける事が出来な――――

「がッ!?」

頭が、揺れる。全身を、まるでトラックにでも衝突されたかのような衝撃が叩く。

そのおかげで、俺は態勢を崩し、地面に落ちる。

「ぐ・・・あぁ・・・・」

やばい・・・痛い、頭がガンガンする・・・!?これは衝撃波というよりも音波だな・・・!?

「けっ・・・あばよ・・・」

奴が、逃げる・・・だが、追いかけられない。立ち上がれない。衝撃が、まだ、体の中に残ってるせいか、体が、上手く、動かない・・・・

「ま・・・まて・・・」

拳銃向けようにも腕にも力が入らない。まずい、このままじゃ逃げられる――――

そう思うのと同時に、奴が衝撃波で跳躍する。このままでは、確実に逃げられてしまう。

そう思った時だった。

 

 

ジャララララララララララ・・・・・・・

 

 

ふと、そんな、金属の鎖の輪がこすれ合うかのような音が響いた直後に――――

 

 

 

ドガァアンッ!!

 

 

 

「ぐげあ!?」

「・・・・は?」

あ、ありのまま、今起こった事を話すぜ(何某フランス人風に)

突然、二本の鎖が飛んでいく奴を挟むように伸ばされた直後、何か黒い影が立体起動装置よろしく奴を捕まえて反対の建物の壁に激突した!

何を言っているのか分からないと思うが、確かに、何かが奴をとらえて吹き飛ばした・・・いや、突撃した。

土煙が舞い上がる壁に、俺はどうにか視線を向けた。

やがて、立ち込めていた土煙が消えて、俺は、その奴を捕まえた正体を見た。

「く・・・・楔!?」

そう、あそこで待っていろと言ったはずの、佐藤楔がそこにいたのだ。

「なん・・・!?」

なんでアイツがここに!?しかしそう思う間の無く、奴が楔に向かって拳を突き出す。楔は、慌てて後ろに鎖を伸ばして、そのまま鎖に引っ張られるがままに飛び気味に後ろに飛ぶ。

そして、衝撃波が発されるもそれをどうにか回避した。

しかし、そこで気付く。

奴の腕に、鎖が絡みついている事を。

「な、なんだこ―――」

「・・・ッ!!」

「うわ!?」

空中にいたままの楔がその鎖を引っ張り男を壁から引っぺがし、そしてそのまま反対側の道路に叩きつける。

「ぐげあ!?」

背中から叩き落された。ありゃ完全に肺から空気が出たな・・・・

と、そう思っていると、楔が奴に近付く。

その手には、見るも大きな死神の持っているような鎌。

「ま、まさか・・・」

あいつ、このまま奴を斬るつもりじゃ・・・まずい、魔器は御神刀とは違って、人を傷つけないようにはできていない!

「やめろ!楔!」

叫んだ。つもりだったが上手く声が出ない。

体もどうように上手く動かせない。

まずい、まずいまずい。非常にまずい!

頼む、動け、楔が鎌を振り上げる前に、千景が誰かを傷つける前に、速く速く速く――――

 

と、思っている間に、楔は、奴に向かって向けたのは、鎌の刃ではなく、鎌を持たない右手だった。

 

そして、声を出せない口から、何かを言った。

 

 

 

ふういんばくさ こうどうせいげん

 

 

 

次の瞬間、男に鎖が巻き付き、完全にその体を拘束した。

「・・・・は?」

思わず、そんな声が漏れた。

いや、やった事は理解できるんだが、なんだか今まで焦っていたのが全て杞憂に終わってしまった事に、なぜか体の力が抜けたから出たのだが。

ふと、楔がこちらをむいて慌てるように駆け寄ってきた。

「・・・!」アワアワ

どうやらこちらの状態を心配しているようだ。

とりあえず、ここは大丈夫だという事を伝える必要があるな。

「し、心配するな楔。これいぐらい、どうってことない」

「・・・」

しばし、俺の事をみつめていた楔。しかし、すぐさま何かを決心したかのような表情になると、俺に向かって右手を向け、また何かを呟いた。

 

でんどうれんさ しょうげき

 

すると、地面から鎖が現れ、それが俺の体に突き刺さる。流石に驚いたが、痛みがない事に気付いて、すぐに落ち着くことが出来た。

それで、これからが驚いた事なんだが、いきなり地面が割れたかと思うと、俺の中に残っていた衝撃の残滓?みたいなものが抜けたかのように体が軽くなった。

どうやら、鎖で俺と地面をつなげて、俺の体の中にあった衝撃を、電流のように地面に流したのだろう。

まさか、己の魔器をここまで自在に操る事が出来るなんて・・・敵になってなくて良かった。うん、心底そう思う。

「・・・・?」

楔が、まだダメージが抜けきっていないのかと慌てている。俺は、そんな彼女を安心させるべく、声を発しようとした。

 

 

その直前、楔の体を、一本の刀が貫いた。

 

 

「―――ッァ!?」

俺の後ろから楔の胸目掛けて投擲された一本の刀。それをもろに喰らった楔は、僅かに息を吐き、悲鳴も上げられずに地面に仰向けに倒れる。

その光景を見て、俺は思わず楔に駆け寄ろうとした。だが―――

「くさ―――」

「そこを離れてください!久我殿ッ!」

突如聞こえた声に、俺は思わず止まってしまう。

そして、その直後に、楔の上にその強靭な膝を叩き込む小さな影があった。

その正体は―――いわゆる忍び装束を着た暁だった。

「ッァ―――」

膝蹴りを喰らった事で、楔の意識が刈り取られ、その場に沈黙する。

「暁、何して―――」

「とうとう本性を現したでありますな、郡千景!」

暁は、楔の胸に突き刺さった刀を引き抜く。すると楔の変身は解け、もとの白いウィンドブレーカーとジーンズ姿に戻る。

「よもや久我殿を拘束し、動けない所を狙って止めを刺すという魂胆だったのでありましょうが、それもこれまで。上手く魔器『衝』をとらえて油断を誘ったのでしょうが、我輩の目までは欺く事は出来ないのであります。こうなればもう言い訳は不要。どうかご覚悟を」

そう言って、暁が楔の心臓にその刃をむける。

通常の魔器は対象が最も大事にしている道具や物に憑依し、そこから相手の魂を操る。だが楔の場合は特殊で、その取り憑き先が心臓なのだ。

だから、アイツの魔器は心臓を破壊しない限り壊す事は出来ない―――だから、

 

俺は暁を蹴っ飛ばした。

 

「がッ――――!?」

「何してんだァ!」

そして、思わず心の底から出た言葉を吐き出した。

暁は、完全に不意打ちだったのかいつもより数拍遅れて受け身の態勢に入り、そして、こちらを瞠目した様子で見た。

「く、久我殿!?一体なにを・・・」

「勝手な解釈するな馬鹿野郎がッ!!楔はそんな事してないわボケッ!!」

感情が昂ると、俺は口が悪くなるのを自覚している。だが、こればかりは(サガ)なのでしょうがない。

とにかく、楔を安否を確認しないと。

俺はそのまま楔を抱き抱えて容体を確認しようとした。だが、すぐさま横から何かの殺気を感じて、俺は後ろに飛び退いた。

「ぬあ!?」

すると、さっきまで俺たちがいた場所を衝撃が迸り、地面を砕いた。

その正体は言わずもがな、奴だ。

「ハァー・・・ハァー・・・ハァー・・・チッ、とんだ邪魔が入った!」

奴は、そのまま衝撃波を使って飛んでいく。

「な、まっ・・・」

暁は追いかけようとするも、こちらが気になるのか、追いかける事をしなかった。

そして、そのまま奴を取り逃がした――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、今回の魔器『衝』について、会議が開かれている中で。

「それで、結局の所、暁が勘違いさえしなければ、奴を仕留める事は出来たんだな?」

「全くもってその通りであります・・・」

義馬課長の言葉に、暁が力なく肯定する。

「やれやれ、仕留められる魔器を仕留めそこなった事を焦ればいいのか、それとも郡千景がそこまで魔器を使いこなせることになっている事を焦ればいいのか。まあ、今回は暁、貴様の責任だな」

「はい・・・」

「郡千景はあの現場に来るまでに真一が止められなかった車やトラック転倒の被害にあった者の救出をしたうえであの場にやってきた。対してお前がやったのはその賞賛されるべき人間を悪人だと勘違いして、真の悪人を逃がす功労者になった・・・やれやれ、随分と期待を裏切ってくれる成果だな」

「返す言葉もございません・・・」

昨夜、暁に凄まじい説教をした真一は、そのまま楔を連れて病院へ搬送。理由は暁が身体を傷つけるセーフティを勝手に解除していたが故の腹のダメージだ。

一方の暁は、真一からとてつもない説教を受けたショックが抜け切らないまま事後を報告。結局、久我が言った事をそのまま報告したので、お咎めを受けるのは暁一人となったのだが。

「・・・・」

(うう・・・久我殿の視線が痛いであります・・・)

背中に突き刺さる真一の視線に、暁はその気分をさらに沈めるしかなかった。

「ちょっと義馬、流石に攻め過ぎじゃないかしら?」

そこへ氷室が暁のフォローに入る。が、そのせいで今度は氷室が真一の人さえも殺せそうな眼光の餌食となる。

が、氷室は気にせず言葉を続ける。

「確かに勘違いである事には違いない。だけど、もしもそれが本当だったと考えると、暁の行動は正しいのではないのでしょうか?」

「この世に正しいも間違いもない。あるのはただ正義しかないか正義などないか。そしてコイツは現在進行形で街を破壊しまくっている魔器『衝』より、いつでも仕留められる郡千景を優先した。この場合、どっちを仕留めるべきだったか明白だろう」

「そう?今すぐにでも久我君を殺しそうな女より、ただ街を壊してるだけで人的被害の出ない男を仕留めるべきだった訳?それって一人切り捨てて大勢を救うって奴?ふざけんじゃないわよ」

「ふざけてるのは貴様だ氷室。人的被害がでないだと?実際奴によって交通事故が起きているだろう?これが人的被害以外の何になる?馬鹿も休み休み言え」

「それとこれとは・・・」

「なあ」

ヒートアップしそうな口論に、突如割り込む声。

「帰ってもいいか?」

真一だった。真一はいかにもうんざりした様子でそう言っていた。

「先輩?何言ってるんスか?」

祐郎が、信じられないという表情で真一に尋ねる。

「何って、これ以上の会話が無駄だと言ってるんだよ」

「無駄ってどういう事よ?」

「奴を取り逃がしたのは奴を拘束していた楔を気絶させた暁の責任。それでいいじゃないですか。それが不満ならそうなる前に仕留められなかった俺の責任を付け加えてもいい。いいですか氷室さん。今回ばかりは暁が悪い。それで十分です」

「本気で言ってるの?貴方、もしかしたら死んでたかもしれないのよ?」

「アイツにそんな度胸は無いですよ」

真一は、ドアの前に立つ。

「なんですって?」

「確かにアイツは大量の人を殺しました。ですが、()()()()()()()()()()()()()()()()。それに、人を殺しているという意味だけなら、俺も同じです」

そのまま、真一は会議室を出て行ってしまった。

「・・・・やっぱり、最近先輩おかしいですよ!どうしてあそこまで郡千景を庇おうとするんスか!?」

「そんなもの本人に聞け」

祐郎の喚きを一刀両断にしつつ、義馬は考える。

(さて、今回の魔器『衝』は流石に久我と笹木野の能力だけでは分が悪い。それに喰らえばしばらくは行動不能になるとも聞く・・・)

義馬の手には、郡千景―――否、佐藤楔に対する書類があった。

(この能力・・・上手く使えればあるいは・・・)

 

 

 

 

 

 

 

あの胸糞悪い会議から抜け出した後、俺は真っ先に病院へ向かっていた。

その理由は当然、楔の迎えだ。

腹の怪我は単純な打撲だった為に、適切な処置の元に今日中にでも退院できるとの事だ。

はあ・・・まあ、暁も暁で反省している事だし、もう暁に対してイライラするのはやめにしよう。

とりあえず、今は楔だ。

受付を済ませた後、俺は真っ直ぐ楔の病室に――――行けなかった。

いや、別に綺麗な女性がいて思わず声をかけた訳じゃないんだ。

ただ単純に、お見舞いに来たであろう婆さんが階段を上るのに難儀していたりでそれを手伝ったり、突然腹が痛いと訴えだした病人の為に看護師呼んだり、さらに道で困っている人を見つけたので道案内してあげたりと、とにかく、トラブルが多すぎたのだ。

決して言い訳してるわけではない。ただ事実を述べただけだ。

決して他意はない。頼む、信じてくれ。

そんなこんなで俺はどうにか楔の病室に到着した。

「ぜえ・・ぜえ・・・ど、どうにかついた」

全く、あの後もまだまだトラブルに遭遇しまくるし・・・何これ俺トラブル体質とかそんな感じなの?

一度呼吸を整えよう・・・・よし、それじゃあいざ!

「入るぞ、楔ー・・・・」

そうして、俺はドアを開けた。

「え!?真一さん!?待ってくださ・・・・」

ん?なんか声が聞こえたが、それに聞き覚えもあるのだが一体・・・

そうして俺は病室へ入った時に見たのは――――

 

 

上半身裸の、楔だった。

 

 

「――――」

「――――」

・・・・・うん、まだまだ成長期だからか、まだ小さいな、うん。まあ、これからだよ。

・・・・さて、と。

「死のう」

「ああぁぁああ!!だからってこんな所で拳銃自殺しようとしないでくださぃぃいい!!」

「離せ芽依!女性の裸見たんだ!これが妹なら良かったが相手は未婚の中学生だぞ!その裸を見たんだ!死ぬ以外の選択肢があるか!?」

「貴方が死んだら誰が楔さん養うんですか!?」

「じゃあどうしろってんだ・・・なんでお前いるんだ?」

俺の拳銃を持つ腕に必死にぶらさがっている芽依の存在に、俺は初めて気付いた。

「今気づいたんですか?楔さんの様子を見に来たんですよ」

「ここまでどうやって来た?」

「歩いてです」

「お前まだ小学生だろ。何してんだよオイ」

「小学生でも三年で富士山登った人はいるんですよ?」

ぐ、口が達者なガキめ・・・と、思っていたらいきなり枕が投げつけられた。芽依ではない。

「ぐ!?なにすん――――」

視線の先には、一枚のメモをもって胸を隠す楔の姿。

『出て行ってください』

その顔は真っ赤で、明らかに何が言いたいのかわかる。

「・・・・真一さん」

「言わんでもわかってる」

 

 

 

 

 

「そんな訳で、迎えに来たぞ」

『ありがとうございます』

未だ気まずい空気の中で、とりあえず話し合う俺たち。

一応、楔はいつもの白いウィンドブレーカー姿になってもらっている。

「そういや、楔から魔器を取り出す事は出来ないのか?」

「すみません。それはいくら創代様でも、破壊する以外は出来ないんです」

芽依が目に見えて落ち込む。別にそんな風に言った訳じゃないんだが・・・

『あの、私、これからどうなるのでしょうか?』

「どうなるって何が?」

『この間、あきらさんに攻撃されて、私は改めて思ったんです。私は、本当にこのままくがさんの傍にいてもいいのでしょうか』

その文面を見せ、楔は、俺に顔が見えないように顔を逸らす。

うん、まあ、はっきり言って。

「いや、そういうの黙らせるから。ていうか言わせねーし言ったらぶん殴るし」

「・・・!」オロオロ

「あ?そんなの悪いって?今回お前は何も悪い事はしてねーだろーがむしろ悪いのは暁だっつーの」

『でも』

「こんな事にでももくそもあるか。というか自分がやった事を誇り持ったらどうだ?転倒して潰れた車の家族助けたんだって?すげえじゃねえか。むしろ称賛されるべき事だってのに、なんでお前は褒められてねーんだっつの」

「・・・」

「それに、あの時俺は事故にあった人を助けるよりも奴を捕まえる事を優先してしまった。それをお前が補ってくれた。だから、礼を言いたいのはこっちの方だ。ありがとうな」

そう言い、俺は楔の頭をなでる。すると楔の顔がくしゃりと歪んで、やがて、残った左目のみならず、もう眼球の無い右目からも涙を流し、泣き始める。

その事にとりあえず安堵の息を吐く。

しばし、楔が泣き止むまで待っていると、次に聞こえた咳払いに、俺の視線は楔から外れる。

「さて、楔さんは気のすむまで泣いてもいいですが、今回、私が楔さんの所に来たのは、とある提案をしに来たからです」

「提案だと?」

思わず聞き返す。

「はい。今後、千景さん・・・いや今は楔さんでしたね。それで、楔さんに対しての提案なのですが・・・・」

芽依は、楔を真っ直ぐ見つめ、一方の楔はまだ目を赤く腫らしたまま首を傾げる。

 

「楔さん、貴方には、『救導者』になってもらいたいのです」

 

 

 




次回『『失』格者の矜持』
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