足柄辰巳は勇者である   作:幻在

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どうも皆さん。あけましておめでとうございます。

今後もこの作品ともども、よろしくお願いします。

では、本編をどうぞ。


『失』格者の矜持

どうも、笹木野暁です。

先ほどの会議が終了し、我輩は今、自宅で自虐を味わっている所です。

「うう、久我殿をこれまでにないほど怒らせてしまったであります・・・」

あれほど怒った久我殿は初めてなので、かなり驚いたであります。怖かったであります。二度と見たくなかったであります。もう見たくないであります。

まあ、そんな事を考えながらベッドにうつ伏せになっている訳ではありますが。

それはそうと、今回の会議において、久我殿に対するヘイトが上がったように感じたであります。

我が署にも香川に大切な人を持つ者は多いうえに、街を破壊したという事が、周りの人たちの嫌悪感を加速させているようにも思えます。

我輩ですか?まあ、警戒はしてる、という所でありましょうか?

あいにくと我輩には香川に親しい人はいないのでそういう事はあまりないのであります。

というか、まあ、家族そのものがいない、というだけなんでありますが。

ああ、この話はまた今度にするであります。

一応、我輩はこの地を根城とする忍びの一族の末裔なのでありますが、まあ、やはり時代は移り変わるもの。今じゃすっかり廃れてるのであります。

まあ、その為の秘伝書とか全部燃えたのでありますがな。

ああ、もう、なんでこんな話になるのでありますか!もっとハッピーな話しをしなくては。

ハッピーうれピーよろぴくねーであります!え?何か違うって?気にするなであります!

うーむ、しかし何か話すとなると話題があまりにも少ない・・・

 

しかし、そこで我輩の首を、何かが締める。

 

「ああ、もう、なんでこういう時にまた現れるのでありますか!」

これは魔器使いが魔器を発動した時の合図。一度会敵した相手であるか、距離が近い場合にしか発動しないのでありますが、とりあえず今はその現場に行くであります。

報告?面倒であります!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絡久良市にある、歴史博物館。

その建物は横に広く、さらには内装も大理石をつかっているかのような広い。

人気もあり、休みとなるとかなりの客がやってくる。しかしその日は休館日であり、中はがらんとしていて誰もいない。

しかし、巨大なホールには、隠し金庫があり、その扉の巨大さゆえに、誰かが入って盗もうとしても壁が自動で全開きになるうえに客の目という監視がある以上、破壊する以外はかなり鉄壁ともいえる作りなのだが、その金庫に、昨夜の男が、魔器『衝』の持ち主が、その壁を破壊して中にある金を持ち出そうと袋に詰め込んでいた。

「そんなに詰め込んで、一体何を買う気でありますか?」

「ッ!?」

突如として声が聞こえ、振り向く男。すると、扉の入り口から逆さまになって男を見る暁の姿があった。

「別にお金に困ってるわけじゃないのでありましょう?それとも趣味でお金奪ってるでありますか?ああ、そうか、パチンコで大負けしたのでありますな」

返事なしに男が衝撃波を放つ。しかし暁は素早く金庫の中に入ると男の背後に回る。

「ここは立ち入り禁止、御退場願います!」

「ぬぐあ!?」

そして壁を蹴って体当たりをかまし、男を金庫から追い出す。

だが、その最中で男は暁に拳を向け、衝撃波を放つ。

「うわっと!?」

それを間一髪でかわす暁。

その衝撃波は、仰向けだったからか天井に直撃し、ヒビを入れる。

「危ないでありますな!それ使う免許持っているでありますかぁ?」

「うるせえ!さっきからペラペラしゃべってうるっせーぞ!」

「ありゃ?おしゃべりは嫌いでありますか?でもそう言わずにもうちょっと付き合ってくださいであります!」

暁が、その手にある忍者刀を逆手に持って男に接近する。

 

暁の御神刀『無形刀』の文字は『刀』。

その能力は暁の使う武器を、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事。

メスから野太刀まで、ありとあらゆる刀剣に変化させる事が出来るのだ。

 

そして、今暁は、その刀を忍者刀にして戦っていく。

「チッ!吹っ飛べ!」

男が地面を両手で殴る、すると男は飛び上がって、向かってくる暁を上空から攻撃しようとする。

「おおっと!」

落下してきた男を急な方向転換で回避、しかし前に向かって一度前宙して方向を変えると、間髪入れずに反撃に出る。そして、すれ違いざまにその脇腹に忍者刀の一撃を叩き込む。

「ぬぐぅ!?」

「おや?掠り傷なのにそんな声だすのでありますか?」

「ガァア!!」

再度衝撃波を放つ。だが、暁には当たらない。

軽い身のこなしで、敵を翻弄していく。

そして攻撃が当たらない事にいらつく男。

「くそがぁああ!!」

そう叫ぶと、男はまるで守るように前かがみになって両腕を腹に抱えるような姿勢になった。

「何をして・・・」

その事に疑問符を浮かべる暁。しかし、突如として男の全身から衝撃波がまき散らされる。

「うあ!?」

突然の事に反応できず、暁はそのまるで爆発するかのような衝撃波をもろに受けて吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。

「ぐぅ・・・!?」

床に落ちる。

(か、体が動かない・・・!?)

男の衝撃波は体に残る。その衝撃波が暁の体を揺さぶり続け、動きを封じる。

「へ、全く、手間かけさせやがって」

男は、暁が動けない事を確認すると金の入った袋をもって、その場を離れようとする。

「楔ぃ!」

「!?」

だが、その直前に、どこからか飛んできた鎖が男を襲い、暁を叩く。そして、

 

 ふういんかいさ しょうげきは

 

暁の体を苛んでいた衝撃波が抜け、体の自由が戻る。

「これは・・・!?」

「無事か暁!?」

「あ、久我殿!」

暁の前に、黒いスニーキングスーツ姿、または救導者としての戦装束に身を包んだ真一が降り立つ。

それともう一人、

「と、郡千景・・・・?」

『どうも』

楔が手帳に書いた文字を見せながらぺこりとお辞儀をする。

「なぜここに・・・?」

「話はあとだ」

『なんでも救導者になって欲しいといわれたのですが、まだ私は魔器使いですので止めはお願いします』

「なんか書くの早くなったなお前!?一体いつ書いた!?」

そんな事を喚く真一であったが、その顔を楔から逸らさずほぼ何も見ずに男に向かって右手の拳銃を発砲した。

「うお!?」

「チッ、外したか・・・とにかく話はあとだ。楔が奴の衝撃波をなんとかする。俺たちはその合間を縫って奴を叩く。いいな」

「りょ、了解であります!」

刀を逆手に持って構える暁、二丁の拳銃を男に向ける真一、鎌を片手に鎖をその手に掴む楔。

「くっそ、よってたかって多勢でやろうってのか!卑怯だぞ!」

「卑怯で結構、俺たち警察は確実な方法で犯人を捕まえるんだ」

「警察に卑怯もへったくれもないでありますよ」

『いや、面子も考えましょうよ』

楔のツッコミはむなしく空振り、男が拳を引く。

「くたば―――」

だが、男がその拳を突き出すよりも先に、楔の鎖が男の引かれた腕を縛る。

「な・・・・ぐあ!?」

それに気を取られた隙に、真一の弾丸が男に叩き込まれる。

そして男が膝をつく。

「暁!」

真一が叫び、そして、すさまじい速度で暁は男に近付く。

「く・・・そ・・がぁあ!!」

しかし、男は諦めず、残った左腕を振り上げる。

だが、その抵抗すら楔は許さなかった。

「が・・・!?」

鎖が鞭のように男を背中から打ち据え、そのついでに左腕を絡めとる。

そして、その首に暁の忍者刀が一閃される。

「ぐ・・・が・・・・!?」

男の意識が、吹き飛ぶ。

(決まった・・・)

楔は、純粋にそう思い、そして、暁のその綺麗な一閃に、彼女の事を思い出す。

(乃木さん・・・)

そう、思い出した時。

「い・・や・・・・だ・・・」

「「「!?」」」

男が、そう呻いた。

「馬鹿な!?」

「首を斬られたのに、なぜ意識を保っていられるのでありますか!?」

真一と暁が驚く。そう、御神刀は精神体を斬り、死ぬ事は決してないが、急所をやられれば確実に意識を吹き飛ばす。だが、例外も存在し、驚異的な精神力で耐え切る者もいるのだ。

おそらく、この男もそうなのだろう。

「おれ・・は・・・しに・・・たく・・・ないぃぃぃいいい!!!」

男が暴れ出し、衝撃波をめちゃくちゃにまき散らす。

「くっそ!めちゃくちゃにやりだしやがった!」

「急いでこの場を離れないと・・・!」

暴れる衝撃波の嵐の中、真一と暁、そして楔は逃げに徹する。

「うわぁぁああぁああ!!」

男にはもはや何も見えていない。何かしらの執念で暴れまわっているだけだ。

だが、そのおかげで建物はボロボロ。このままいけば、建物が壊れてしまう。

(なんとかしなければ・・・!)

そう、思った暁。だが、暁がとんだ先に、偶然にも男の放った衝撃波が飛んでくる。

「しまっ・・・!?」

避ける事もかなわず、衝撃波が暁に叩き込まれる―――――筈だった。

「ッ!」

「―――!?」

衝撃波と暁の間に、楔が躍り出たのだ。

「郡千景――――」

衝撃波が楔に直撃する。

「楔!?」

「ああ!?」

衝撃が彼女の体を突き抜ける。

「がぁぁあああ!!!」

さらに、男は手ごたえがあった故か、そこへ向かって衝撃波を乱射しまくる。

何度も衝撃波が楔に叩き込まれる。ただでさえ破壊力のある衝撃波をまともに喰らえば、いくら魔器で強化された肉体を持とうとも、ただでは済まない。さらに楔の体はあまりにも脆弱だ。あまり食事をしてこなかったがゆえに、筋力は衰え、体もやせ細っている。そんな体で、男の攻撃を受け続けられる訳が無い。

それゆえに、攻撃が直撃し続ける。

やがて、男が衝撃波を叩きつけるのをやめた。

そこに立っているのは、少女が二人。いや、年齢だけみれば、少女一人と女性一人だ。

そして、女性は地面に座り、少女は立ったまま。

確実に衝撃波の直撃を受けたはずだった。それなのに――――楔は立っていた。

「・・・なんででありますか」

「なんで、倒れねえんだ・・・!?」

男は、楔を睨みつける。

楔は倒れていない。あれほどの衝撃波を喰らっておいて、倒れようともしない。体は猫背になり、下を向いてはいる。

そして、ダメージも、確かに入っているのが分かる。だが、それでも少女は倒れない。

「・・・・――――」

楔の唇が、かすかに動いた。そして、その態勢のまま鎌を大きく振りかぶる。

「ひっ・・・」

男は思わず後ずさる。

「―――――」

楔が、また何かをつぶやく。だが、すでにその喉はつぶされている為に、声を発する事は出来ない。

だが、真一と暁には、何を言っているのか分かった。

 

 うしなわせない

 

確かに、そう呟いていた。

そして、楔は、その顔をあげる。まるで、鬼のような形相で、男を睨みつけた。

「ひぃ!?」

男は、今度こそ恐怖した。

犬歯をむき出し、眉間に皺をよせ、そして、振り被った鎌を握る手に極限まで力を込めて―――佐藤楔(郡千景)は声になれない絶叫と共に、その一撃を放つ。

 

 

 もうなにも うしなわせない

 

 

振るわれた鎌の刃から楔が斬撃の如く飛び出し、その一撃が男に叩きつけられる。

 

御神刀は、精神体を攻撃する事で、使用者の意識を刈り取る。

 

だが、それができないなら、意識そのものを封じてしまえば良い。

 

 

 ふういんばくさ いしきしゃだん

 

 

男に鎖が巻き付き、それが砕ける音と共に、掻き消え、そして男は、今度こそ地面に崩折れた。

それで、全てが終わった。

男は倒れ、魔器が解除される。中からは筋肉質な男が現れ、その傍らには、ボクシングで使われるようなグローブが落ちていた。

真一は、それを容赦なく撃ちぬき、それに込められていた文字が砕け散るのを確認すると、楔の方を見た。

楔は肩で息をしており、激しい息遣いが、静かになった博物館の中に響き渡る。

今にも倒れてしまいそうになるのを鎌を杖代わりにすることでこらえているが、流石に立っているのはつらく、膝立ちになってしまう。

しかし、楔は確かに、男に勝った。

だが、その勝利を掴むために彼女が行った行為を、暁は黙っていられなかった。

「どうしてでありますか・・・?」

楔の背中から、暁は問うた。

「どうして、逃げなかったでありますか?我輩は、貴方を攻撃しました。見捨てても良かったはずであります。我輩はそれほどの事をしました。それなのに、どうして貴方は逃げなかったでありますか?」

楔は、答える暇はないのか、答えない。

「答えてほしいであります。何故、貴方に酷い事をした我輩を、助けたでありますか・・・・?」

今にも泣きそうな暁。暁にとって、悪い事をしたのなら、それ相応の罰があるべきであり、決して、助けられるべきではないのだ。だから、それが無性に悔しくて、泣きたいのだ。

それを感じ取ったのか、楔は、震える手を動かして、手帳に文字を書き殴って、暁に向けた。

 

『私は、それ以上の事をしました。誰かの家族を奪いました。誰かの幸せを奪いました。だから、あれは当然の報いです。いえ、あれだけでは足りない。私は、これから、もっと罪を償わなければならない。だから、私は、誰かを守らなければならない。これ以上、誰かに大切なものを失ってほしくない。沢山の人の恨みを、苦しみを、私が、背負わなければならない。例えこの人生で全てを償えなくとも、私は、この命が尽きるまで、長生きして、罪を償っていく。そう、決めたんです。だから――――』

 

ふらふらと、立ち上がる楔は、暁の方をむいて、微笑んだ。

 

『――――そんな顔をしないでください。私は、誰かの笑顔が見れるだけで、とても元気になれるんです』

 

誰かの笑顔は、星のように輝いていて、星の数だけ、素敵なのだから。

 

「・・・・」

暁は、その文面にあっけにとられる。だが、やがて、その顔がその見た目相応に崩れ、泣き始める。

「・・・ぐざびどのぉ」

「!?」アワアワ

いきなり泣き始めた暁に、思わず慌ててしまう楔。

「気にするな。こいつ案外涙もろいんだ」

そんな暁の頭に手を置きながら、真一がそう補足する。

「くさびどのぉ・・・先ほどはありがとうでありまずぅぅ~・・・そしてごめんなざいでありまずぅ~・・・」

しかし、暁のその言葉を聞いて、楔は、思わず笑ってしまう。

不思議な人だと、そう思ってしまった。

しかし、同時に思う。

 

昔、こう言えたら、こう思えたら、何か変わっていたのだろうか。

 

だが、今更だ、と首を横に振る。

 

どこまで行っても自分は『失格者』だ。『勇者』でもないし、ましてや『救導者』にさえなれない。そんな、『出来損ない』が自分だ。

誰かの為どころか、自分の為に立ち上がる事が出来なかった結果が、この背中の烙印だ。

 

だから、自分はこれからも、失格者として、罪を償い続けると、楔はそう思った。だから―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「救導者にはならない・・・・ですか」

絡久良市にある山にある『創代神社』の居間にて、芽依は、楔の決断を聞いていた。

子供にしては、あまりにも芯のある視線に、楔でさえも、おもわず委縮してしまう。

それほどの存在感が、彼女にはあった。

「いいのですか?救導者となれば、貴方の魔器使いとしての脅威は消え、署の方々からはそれ相応の信頼を得られるかもしれないのですよ?そうはならなくても、その魔器の呪縛からは解き放たれます。それはいわば、貴方の郡千景としての名残。貴方は、その呪縛を一生背負っていくつもりなのですか?」

芽依の鋭い視線が、楔を射抜く。しかし、楔はその視線に一瞬怖気つくも、すぐさま、その手の手帳に文字を書き込む。

 

『郡千景も私。私は、この罪を一生背負っていく』

 

その文面を見て、芽依はため息を吐く。

「そうですか・・・・」

そう呟いた後、芽依は立ち上がり、楔に歩み寄る。その行為に、楔は思わず体が固くなるのを感じる。いや、実際、緊張で固くなっている。

芽依は、楔の心臓のある場所に人差し指をかざした。

「・・・お願いします」

そう一言呟くと、楔の左胸当たりに『鎖』の文字が浮かび上がり、その上から『封』の文字が現れ、それが重なり合い、そして楔の左胸の中に消えていく。

「・・・?」

「貴方の魔器を封印しました。今後、貴方が魔器を使おうとしても、魔器が発動する事はありません。これで、普通の一般人としてまともに生活できるでしょう。まあ、それも真一さんがいてこそではありますが」

そして、芽依はずいっと楔に顔を近づけると。

「いいですね。確かに貴方の魔器を封印しましたが、魔器使いである事は変わっていません。故に、創代様が張った結界の外。即ち、この街の外から出られるとは思わないでください。例え、貴方の正体がばれて街から追われる状況になっても、海に飛び込んでも、貴方が()()()()()()、この街から出られるとは思わないでください。そして、今後一切、救導者の御役目に関わらない事。この神社を頼らない事。いいですね?」

楔は、コクコクと頷く。芽衣の力強い視線が、楔の体を硬直させ、その目から視線を逸らすことは出来なかった。

数秒、視線をまじ合わせた後、芽衣がため息を吐いて、背中を向けた。

「さ、もう帰ってください。私、これでも巫女なんですから」

その背中を、数秒見た後、楔は一度礼をした後、その部屋を出て行った。

「・・・楔さん、今は救導者になりたくはないかもしれません。ですが、きっと貴方は、その力をもう一度使う時がくると思います」

芽衣は、悲しそうに、先ほどまで楔がいた場所を見た。

「辛い選択になるでしょう。苦しい思いをする事になるでしょう。ですが、貴方はきっと、救導者となって、戦う事になるでしょう」

しかし、視線を切って、芽衣は神社の裏にある滝へと向かい、その巫女服を脱ぐ。

 

 

――――それまで、穏やかな日常を。『勇者』郡千景。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔器はもう使えない。

試しに、力をつかってみようと思ったが、だめだった。どうしても力が発動しなかった。

でも、これでいい。

私には、これは過ぎた力だ。

勇者の、彼岸花の力と同じ、私が扱うには、あまりにも手に余る力だ。

だから、これでいい。

もう私は、人の域を超えた力は使わない。

だから支える人間になろう。

「ん?おう、戻ったか」

神社に続く階段を下りた所で、久我さんが待ってくれていた。

『待たせてすみません』

「いや、それほど待ってねーよ。それで、どうだ?」

久我さんが、聞いてくる。それに私は、メモを見せる代わりに笑顔で答えた。上手くできたかどうかは分からないけど、それでも、意思は十分に伝わったと思う。

「そうか・・・」

久我さんがそう呟く。

でも、これでいいのだ。

久我さんが、私の頭に手を置く。

「それじゃあ、帰るか」

その言葉に、私は頷く。頷く以外、出来ない。

 

 

 

もう、前に出て戦う事は出来ない。私は、もう、そんな存在ではないのだから。

 

 

だから、これからは、支える存在になろう。

 

 

『くがさん』

「ん?どうした?」

『わたし、これから料理を勉強します』

「ん?別に料理なら俺がするぞ?」

『いえ、私がやりたいんです』

「そっか・・・それじゃあ、期待して待つとするか」

久我さんが、楽しみにするかのように、くっくと笑った。

 

 

 

もう、私は戦わない。

 

 

 

だから私は、誰かをささえられる存在になろう。

 

 

 

それが私の―――失格者としての『矜持』だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絡久良市にある、とある一室にて。

「練蔵の奴が捕まったか。使えないやつめ」

白衣を着た男が、そう吐き捨てる。

「そう言うなよ相馬(そうま)の旦那よ」

(げん)・・・」

その男に向かって、軽い口調でいうのは、機械的な服装を体に纏った男『女島(めじま)(げん)』だ。

「手筈は順調か?」

「丁度、『(リー)』の奴が例の材料を手に入れたみたいだぜ」

「そうか・・・」

「これから部下を使ってこっちに送ってくるみたいだぜ?」

「分かった。お前ももういけ」

「あいよ。ああ、そうだ」

元が、何かを思い出したかのように立ち止まる。

「なんだ?悪いが私はこれから・・・」

「郡千景を見た」

「・・・・・何?」

その名前を聞いた途端、相馬と呼ばれた男の中で、殺意が沸き上がる。

「どこで見た?」

「ちょうどこの街で。あのバカが街中で派手に暴れまわっていた時の事だよ。あの野郎、魔器使いになってやがったぜ。それも鎖だ」

「――――ッ!!」

相馬の顔に血管が浮かび上がる。

「だが、今はやめておいた方がいいぜ。今は警察に保護されてやがる」

「なんだと・・・!?」

「あの久我って野郎、なんでか知らねえが郡千景を庇ってるって話だ」

「・・・」

相馬の手が握りしめられる。

 

なんと愚かな。我が息子を殺した女をかくまうなど――――

 

だが、同時にうれしさもこみあげてくる。

 

 

自分の人生を台無しにした男と、自分の息子を殺した女。その二人を同時に殺せる事に、男は狂気する。

 

 

 

「待ってろよ縄間淳太郎、郡千景。貴様らには、これまでにないほどの絶望を味合わせて殺してやる・・・ッ!!」

 

 

 

くっくっくと、男の笑い声が、その部屋にこだまする――――




次回『振り向けば捨ててきた友達とか『夢』とか』

少女は、いまだ幸せを謳歌できず。
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