足柄辰巳は勇者である   作:幻在

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振り向けば捨ててきた友達とか『夢』とか

今、俺の目の前には、とある料理が置かれている。

それは、カレー。茶色いルーが白いライスの上にかけられている、シンプルかつ、幅広く広まっている一般料理。

それを、スプーンでひと掬いして、そのまま、口の中に運ぶ。

咀嚼するように、何度か噛んで、飲み込んだ。

「うん、美味い」

その言葉に、目の前の楔が嬉しそうに顔を綻ばせた。

『よかったです』

「いやぁ、しかし驚いたよ。まさかここまで美味くなるなんて。やっぱ人間努力すべきだな」

初めの頃はそれは酷かったからなぁ。肉じゃがのはずが、何か得体のしれないものが出てきたからな。いやぁ、なんか独特な味がしたな。何かお星さまのようなものが見えて・・・・

『くがさん?』

「ん?ああすまないちょっと考え事してた」

『そうですか』

すると楔は新たに何かを書きこんだ。

『お酒いれましょうか?』

コイツ、最近美味しいお酒の作り方とかそういうのを勉強してるからなぁ。まだ十五だよな?

まあ、最近になって美味くなってきてるから頼むんだけどな。

「うん、頼む」

『わかりました』

なんか、本当に嬉しそうに台所にいったな。

まあ、それはともかくとして、俺は自分のスマホを見た。

そこに書かれている事は――――

 

 

 

 

 

「・・・え、死んだ?」

「はい、例の魔器『衝』の使い手である『来栖(くるす)練蔵(れんぞう)』が、取り調べの途中、突然、苦しみだしてしまってそのまま・・・・」

職場にて、暁から、あの魔器『衝』の使い手である来栖練蔵の事を聞いていた。

「死因は心臓発作による突然死・・・でもこれは・・・」

「魔器による他殺だな」

あの時、奴は死にたくない、と叫んでいた。

おそらく何か、干渉系の魔器の仕業なんだろうけど・・・

「おはようっス先輩方」

「ん?祐郎か」

そこへ、何かの荷物を抱えた祐郎がやってくる。

「郡千景・・・あいや、佐藤さんの様子はどうっすか?」

「ああ、最近買った料理本を見ながら、料理の練習してるよ」

「えっと・・・大丈夫なんすか?」

「最近、焦がす程度には上手くなってきてるよ」

「この前は、何か、ぶよぶよしたものでありましたよね・・・」

暁が遠い目をしてる・・・まあ、あれはトラウマになりそうだよな。あいつカップ麺しか作った事ないっていてたし、仕方がないっちゃあ仕方ないか。

「まあ、コーヒーの方は美味くなってきたし、お咎めはないっスけど・・・」

祐郎の視線が、他所へ向く。そこには、チャイナドレスを着てコーヒーを分けている楔の姿が・・・

「・・・また捕まったんスね」

「あの人、よほど楔が気に入ったみたいでな。家にも押しかけて来やがった」

「もはや完全なる着せ替え人形・・・」

楔の奴、猛烈に恥ずかしがってるし・・・・あ、目が合った、と思ったらすぐに逸らした。

 

最近、楔はよく人の為になる事をするようになった。

最初は、一緒に暮らしている俺が中心だったが、少ししたら署にも顔を出すようになってきた。

それなりに、誰かの支えになろうと頑張っているらしい。

まあ、街中を歩く時は、顔を隠さなくちゃいけないんだが。

 

それなりに、署に人たちとも打ち解けられてきたと思うが、それでもほんの数人。

「はい、久我君これ」

「うお!?」

俺の机に、大量の書類がドサッと置かれる。

「ひ、氷室さん」

「よろしく」

淡々とそれだけを告げてさっさとどっかに言ってしまう。

「・・・」

「氷室殿は、相変わらずでありますな・・・」

「先輩が悪いんスからね。氷室警部がああなったの」

「いやだってよ・・・」

氷室さんを筆頭とした数人が、楔を毛嫌いしているのは周知の事実だ。

理由はいわずもがな、この署内にも、丸亀を中心とした香川に親しい友人が親戚、家族を持つものが多いから。

だから、楔がここにいるというだけで嫌がらせをするものが多い。

その証拠に、何かが倒れる音がした。

「今のは・・・」

「楔!」

俺はすぐさますっ飛んでいく。そこには、床に倒れ伏す楔の姿があった。その傍にはお盆と、コーヒーの入ったカップが倒れていた。当然、中身もあふれている。

起き上がった楔は、その事に気付くと、すぐに持っていた布巾で床を拭こうとする。

「楔、大丈夫か?」

「・・・!」

駆け寄ると、楔は一瞬驚いたような顔をして、すぐにつらそうに顔を歪めて視線を逸らす。そして、手帳に小さく。

『ごめんなさい』

そう、短く書かれていた。

これだ。いつものように、楔に対しての嫌がらせがあるのだ。

「バケツと雑巾を持ってきたであります!」

暁が水の入ったバケツをもって、戻ってくる。そして、その中に入っている雑巾を使って、床にぶちまけられたコーヒーを拭きだす。

『ありがとうございます』

「これぐらい、お安い御用でありますよ」

申し訳なさそうにする楔の言葉に、暁は頭をなでながらそう答える。

しかし、その騒ぎの中で聞こえる、嘲笑には殺意を覚える。

「楔、今日はもう帰れ」

「・・・!」

「大丈夫だ。無理してここにいる必要はない」

そう諭すと、楔は、ゆっくり頷いて立ち上がる。

「暁、ここは俺がやる。お前は楔をたのむ」

「分かったであります」

暁が、楔を伴って部屋を出ていく。

それでもなお、嘲笑は消えない。

「・・・・よぉし、楔もいなくなった事だし」

俺は振り向いて、これ以上ないほどの笑顔で、

 

「 オ マ エ ラ カ ク ゴ シ ロ 」

 

 

その日の惨劇は、のちに『漢久我真一大激怒事件』と呼ばれるようになったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――とまあ、こういう事があった訳だが。

え?趣旨が変わってるって?まあ、初めの方だけ気にしてくれればいいよ。

そこで、楔が作ったカクテルが俺の前に置かれる。

『今日はミカンジュースと混ぜてみました』

「へえ・・・」

酒の事は分かんねーから、まあ全部楔任せだから、そこは任せる事にしている。

それで飲んでみた結果なんだが・・・・

「・・・もう少し努力すべし」

辛口なのは致し方ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

色付いた空の元、木々の根や蔓の上で、私は、襲い掛かるバーテックスどもを屠っていた。

何匹か切り倒し、その事を、皆に言おうとした矢先、私は、誰かに押され、蔓の下に落とされた。

「なにを・・・」

「黙れ」

何か言おうとしたら、すぐに黙らされた。

「私を殺そうとしたくせに、よく言う」

「え・・・」

私を見る彼女の目はあまりにも冷たくて、怖かった。

振り向けば、そこには、死んだはずの二人がいて、

「どうして、お前が生きてるんだ?」

「あの人を殺そうとしたくせに」

やめて。そんな目でみないで。

「どうせ、ぐんちゃんは一人だよ。どんなに愛想よくしても、ぐんちゃんを信じてくれる人はいないよ」

やめて、やめて、貴方までそんな事言わないで。お願いだから、これ以上、私を悪く言わないで。

「貴方はどこまで行っても一人、どうせ、地獄には一人で落ちるのよ」

「なのになぜ、貴方は誰かと一緒にいるんですか?」

一人にしないで、一人になりたくない、言わないで。お願い、私を突き放さないで。

「何を言ってるんですか」

また、気付けば、そこには、剣を持った、あの人の姿があった。

「お前が、突き放したんだろ」

そして、断罪の刃が、私の首へと落とされ、私の首は―――――

 

 

―――大量の屍の上に落ちた。

 

 

 

 

「――――ッ!!!」

声にならない悲鳴を上げて、私は目覚めた。

汗をびっしょりと掻き、借りたワイシャツは雨にでも晒されたかのように濡れ、視界は、涙でかすむ。

「―――、―――、―――・・・・」

私は、両手を自分の頭に当てて、そして、くしゃりと自分の髪の毛をつかんで、それで目を覆い隠すように下げた。

もう、見ないと思っていたはずの夢なのに、ここにきてから、より一層に見るようになった。

まるで警告のように、呪いのように、悪夢を見せてくる。

お前は幸せになってはならない。誰かと一緒にいてはならない。絶対に、幸せになるな。

そんな、幻聴が聞こえてくるほどに、私は、この悪夢にやられている。

署でも、嫌がらせがある。

どれほど久我さんが庇ったり、対処法を見つけても、私に対する嫌がらせは、終わらない。

 

学校で行われる、冗談や意味の分からずやるようなものじゃない。大人は、何もかもを理解したうえで、()()()()()()()()()()()()()()()、その手のいじめをするようになる。

 

子供と違って、大人はずるがしこいのだ。

 

どれほど傷つけても、大丈夫なように、その人の居場所を奪っていく。それが、大人の虐めというものだ。

 

 

子供の頃に受けた、いじめ程ではないが、それでも着々と私を追い詰めていく。

救導者となっていれば、この態度も変わっただろうか。

いや、変わらないだろう。

私なんかいなくてもやれる。あの二人だけで十分だ、と、そういう気持ちでやってくるだろう。

特に、あの氷室さんは明らかに私を敵視しており、その目は嫌悪以上の感情が溢れていた。

つまり、あの人は私を心底毛嫌いしており、憎悪している。

それは、当然の事かもしれない。

私は、それほどの大罪を犯した。故に、私は様々な人間から恨まれている。

そろそろ、限界かもしれない。私は、この日常から抜け出さなければならないのかもしれない。

でも、私は、どういう訳か――――

 

 

 

―――この家から、出たくはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、非常に眠い。

それもそうだ。いつもなら六時におきているものをその日は一時に起きてしまったのだ。

十時に寝て一時、一時です。つまり三時間。三時間しか寝てないのだ。

その間、私はずっと寝付けなかったのだ。ただ時間が過ぎていくのを、猛烈な睡魔があるにも関わらず寝られないこの苦痛を感じながら待っていたのだ。

「大丈夫か楔?結構ふらふらだぞ?」

『大丈夫です』

「おい文字」

どうやら、寝ぼけてかなり下手になってしまったようだ。

そう思っている間に、私は久我さんにソファに座らされる。何をしているのですか。

「服がいつもより湿ってるし、体もべたべた、ついで寝不足が分かる隈にその健康状態・・・悪夢でも見たか?」

どうしてだろうか。何故、久我さんはこうも私の事を的確に当ててくるのだろうか。

まるで、全てを見透かしているように。

だが、私は、その好意に触れるのが怖い。

『いえ、そんな事はありません。少し夜中に起きてしまっただけです』

「いや、大丈夫って事はないだろ・・・・とりあえず、今日は着替えて休んでろ、朝飯は俺が作っとく」

そう言うなり、久我さんはさっさと台所へ行ってしまう。

このマンションの一室に点在する久我さんの家は、リビングと台所が一緒になっていて、その他に部屋がもう二つある。その片方を私が使い、もう一つの方を、久我さんが使っている。

居候をさせてもらっている身としては、部屋を一つ与えられている事自体、恐れ多い事なのだが、どうにも、私は『命令』というものに弱くなったようになったと思う。

あの地獄の日々、激痛を伴う薬を飲まされたり、電流を流したりされるあの日々。

時には、強姦される事もあった。それも、発情した犬や馬なんかに。自分たちは一切手を出さず、人間じゃない存在に、体を徹底的に辱められ、そして汚された。

もし、私が他の誰かと愛し合う時に、その時の傷を何度も思い出し、苦しめられるように。

今思い出しても、ゾッとする。何度も何度も高嶋さんの名前を呼んだのを覚えている。何度も何度も助けを求めたのを覚えている。だけど、声が届くわけもなく、聞き入れられる訳もなく、私が泣きわめくたびに、彼らは、より楽しそうに私をいたぶった。

憎いから、憎い相手が泣き喚いているから。自分たちが受けた苦痛を、その元凶である私に与える事が出来るから。奪われた事に対する、復讐が出来るから。

だから、私は―――――

「楔、飯出来たぞ」

久我さんの声に、私はハッと顔を上げた。

どうやら、思考の海に潜ってしまったようだ。

まあ、それはともかくとしても、私は立ち上がり、食卓へ赴いた。

今日の朝ごはんは、卵焼きとほうれん草のおひたし、そして味噌汁とご飯だった。

そして、いつも思う。

「いただきます」

 

 

私は果たして、本当にここにいてもいいのだろうか・・・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、暇であります」

今、我輩は街の警備に出ているであります。

我輩、これでも前は交通課だったのであります。

忍びとしての身体能力を駆使して違反運転やながら運転をしている馬鹿どもを取り締まるのが役割だったのであります。

ただ、実はこの仕事、とてつもなく暇なのであります。

我輩は御神刀なしでもビルの壁を登れるので、常に高い所から見回りをするのでありますが、何もない日だと、ただ街中をただ散歩するだけなのであります。

交通課に入れば、刺激的な毎日を送れるかと思っていたのでありますが、期待外れなのであります。

「あー。暇なのでありまーす」

そうぼやいた時。

「ん・・・?」

ふと視界に、なんか変な仮面を被った集団を見つけたのであります。

気になるのであります。

その集団は、何かしらの廃工場跡にて巡回をしているようで、どうやらあそこに何かしらのアジトがあるようであります。

ふぅむ、こういうのには、あまり踏み込まないべきなんでありましょうけど・・・・気になるからいっちゃえ!

 

 

 

 

 

 

 

さて、ある程度の人間は始末(気絶)したでありますが、うん、潜入捜査こそ我輩忍びの本領であります。お陰で皆殺し(気絶させただけです)に出来たであります。流石我輩。

さてさてさーて、中に入ってみればこれまら複雑。通路があって部屋があって、しかしそれなりに清掃されている事からいかにも怪しさ満点な所なのであります。

それに確認してみた所、ここは最近買い取られた場所なようであります。ますます怪しい。

それから、何人かのしていくうちに、誰かの個室のような部屋に出たであります。

「なんでありますか、ここ・・・」

ただ、オフィスとかそういう無駄に広い場所ではなく、何かの作業をする為の部屋のような場所であります。これを見る限り、特別詳しい事はなさそうでありますが・・・む、何かの地図があるであります。

「どれどれ・・・・んん?なんの印でありますか?これは・・・・」

その地図には、何かの地点においてバツ印があり、他にも別の色で様々な場所に印がしてある。

これは本当に一体なんなのでありますか・・・?

そこで、足音が聞こえた。

「おっと、そろそろずらかるのであります。大体は覚えたから、問題ないのであります」

我輩は、見つかる前にさっさとここからとんずらをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久我さんが出かけ、家の中では何もすることがないので、私は、近場の公園に来ていた。

そこでは、子供たちが砂浜であそんだり、ドーム状の遊具で遊んでいたり、ジャングルジムに上って何かしらの遊びをしていたりしていた。

それを見るだけでは退屈はせず、子供たちが遊んでいる様子を、私はただ、眺めていた。

その姿は、私にはまぶしくて、羨ましかった。

私には、あんなふうに遊べる友達はいなかったから。

小学校以下の頃は、本当に何もかもが敵に見えて仕方がなかった。傷をつけられ、馬鹿にされて、嘲笑され軽蔑され、何かを食べたいと思って料理の店に行っても突っぱねられて。

服は燃やされその度に怒られて、反撃しようものなら教師にチクられていつも私が悪者扱い・・・

思えば、ロクでもない人生だったと思う。

私に、友達なんていなくて、夢さえもなくて。

勇者になって出来た友達も捨てて、その時抱いた夢も捨てた。

人生さえも捨てて、私はそのまま屍のように生きて、そして誰にも嘆かれず、そして笑われながら死ぬ。そうなるのだと、信じてやまなかった。

むしろ、その死こそが私という人間の最後に相応しいのではないかとさえ思う。

こんな、ろくでもない親の元に生まれた子供が、ろくな人生を歩めるはずもなかったんだ。

「ねー、昨日の番組見た?」

「見た見た!」

「あれ超面白いよねー」

私が座っているベンチの後ろからは、私服姿の私と同い年くらいの女子たちが、楽しく談笑しながら過ぎ去っていく。

私も、もしかしたら、あの子たちのような人生を歩めたのだろうか。

でも、現実に『IF(もし)』なんてものは存在しない。あるのは過ぎ去った過去と、これから起きていく現実だけだ。

未来なんて誰にも分からないし、過去なんて帰られる訳もない。

私にあるのは、きっと、決定的な破滅だろう。

だから、せめて、今だけは、この幸せを失いたくはない。

久我さんと、もっと、一緒に――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――で!?なんでこうなったんだっけか祐郎!」

「変な仮面付けたテロ集団相手に交戦してんスよ!」

現在、俺はいきなり暴れ出したテロ集団に対して祐郎と共に戦闘を繰り広げている!

いきなりすぎて申し訳ないが、とにかくここまでの経緯を聞かせてやるから勘弁してくれ!

まず、署に来た俺は、いつも通り書類仕事に追われていた。だが突然、謎の武装集団がいるという通報を受けて、俺は祐郎や他数名と共に、その現場にやってきた。その現場は廃棄されたビル。そこで謎の仮面をつけた武装集団が、何かしらの装置を運んでいるという通報を受けたんだが、当然の如く気付かれたのだが、奴ら警告を聞かずに発砲してきやがったんだよ。

そして今に至る。はい説明終わり!戦いに戻る!

俺は遮蔽物にしているパトカーから身を乗り出し、すぐさま発砲。その弾丸は集団の肩やら足やらに直撃し、倒れる。

言っておくが、あいつらが装備しているのはアサルトライフルなどの軍事装備。

「あいつら、あんなものどこで手に入れたんでしょうね!?」

「知らん!そんな事言ってる暇があったら撃て!」

「でもいいんですか!?」

「安心しろ。俺は()()()だ!」

リロードして、俺はすぐさま反撃の発砲を放つ。アサルトライフルの弾丸が頬を掠めるが、直撃じゃないならなんの問題もない。俺はそのまま拳銃にある弾丸全てを銃口から吐き出させる。

「ひゃー、全弾命中。流石っス先輩!」

「そんな事言ってる暇があったら撃て、そうじゃないなら弾よこせ」

「当てる自身ないので全部先輩にあげるっス!」

「お前も戦えやァ!!」

その時、何か、電流がスパークするかのような音が聞こえた。

「なんだ・・・!?」

銃撃もやみ、そっと覗いてみると・・・そこにはタコの足のような青白く光る鞭を両手に持った男がそこに立っていた。

そしてその鞭には、『悪』の文字が。

「魔器ッ!?」

次の瞬間、男の鞭が俺の隠れていたパトカーを直撃し、爆発する。

「久我警部!?」

「市ヶ谷警部補!?」

叫びが轟き、場が騒然とするが、何の問題もない。

「・・・どういう事だ」

「いっつつ・・・」

俺は、御神刀『連双砲』を起動して、その攻撃をしのいだのだ。

「どういう事って、どういう事っスか?」

「こんな至近距離で魔器を発動させたんなら、どうしてセンサーが反応しないんだ」

「え!?首締まりおこらなかったんスか!?」

祐郎が驚くのも無理はない。実際俺も驚いてる。

鞭男が、俺に襲い掛かってくる。

俺は祐郎を抱えて後ろに飛んでかわす。

「だが、戦闘力としては魔器使いのそれとはかけ離れてる。適切に対処すればお前らにも対処できるぞ。あくまで常人の範囲内だ」

「常人の範囲内なら、どうにかなりそうっス」

祐郎が拳銃を構えて、そう答えてくれる。うん、良い後輩をもったな俺は。

「他にも出たらそっちで対処しろ、いいな!」

『了解!』

二丁のM9を構えて、俺は鞭男に向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

商店街を歩く。

正体は、当然の如くばれない。なぜならフードが深いウィンドブレーカーを着ているから。

商店街は、いつものように賑わっている。時々、買い物に来ることもあるから、少しだけお世話になる事が多い。それでも、あまり親しくならないようにしている。

だって、私の正体を知ったあの人たちの表情を、見たくないから。

今日は、散歩として外に出ているために、誰かに声をかける事もないだろう。

この散歩の目的としては、このあたりの地理を頭に叩き込む為だけど、もう一つ、ある。

それはまだ秘密。

ふと、横を三人の家族が見えた。娘一人の、仲睦まじそうな、家族。

「おとうさん、きょうのよるごはんはなに?」

「今日はハンバーグだぞ」

「ほんと!」

「よかったわね」

「うん!」

その女の子は、両親にはさまれて手を繋いでいて、花のような笑顔を綻ばせる。

私とは、違う、家族の形。いや、あれこそが、ありふれた家族の在り方で、ただ、私の家族関係が異常なだけだったのだ。

ただの普通の家族だったはずなのに。あの子の家族と、何も変わらないはずだったのに。

何が、違ったのだろうか。

一体、どこで何を間違えてしまったのだろうか。

だけど、どれだけ考えても、至るのはいつもあの両親の愚行で、そしてその子供である私はそれ以上の愚行を犯したのだ。

結局の所、クズの子からはクズしか生まれないのだ。

子供は、一番身近な大人を見て育つのだから。

そう思うと、目の奥がジン、と熱くなって、視界が霞んでしまう。

今更、もう遅いのだ。

温かい家族も、親しい友人も、楽しい生活も、何もかも、私は捨ててここに立っている。

あの人たちとは、全く違う道を歩んでいる。

今、あの人たちはどんな生活を送っているだろうか。

苦しい思いはしていないだろうか。

高嶋さんの怪我は治っただろうか。

白鳥さんは元気にやっているだろうか。

上里さんと足柄さんは、仲良くやっているだろうか。

藤森さんは怯えてないだろうか。

乃木さんは、元気にやっているだろうか。

しかし、私にそれを知る術は無い。

知る資格も、きっと、ないだろう。

いけない、油断するとすぐにネガティブな方向に考えが行ってしまう。何か別の事を考えなければ。

ふと、私の横を誰かが通った事を、その時の私は気付かなかった。

「へい・・・へい・・・ああ、今向かってる」

自分にいっぱいいっぱいだった私には、その人の存在に気付くことは出来なかった。

「これから最後の材料を手に入れる。待っていてくださいや、旦那」

ケケケケ、とその男は笑った。

私は、何か楽しくなりそうな事を考えながら、商店街を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの鞭男をかるーくのした後、俺は奴らの仲間が逃げて行った先に、部下をおいて一人先行していた。

「魔器使いが関わってるって事は、ただ事じゃないのは確かだな!」

そこはこのビルの地下駐車場。使われていないからかがらんとしているが、人の気配があるのは一目瞭然だ。

が、姿は見えない。

「どこに行きやがったあいつら・・・ん?」

なんだ・・・このお決まりな車の走行音は・・・・

と、思っていたらすぐ正面からトラックが突っ込んできた。それも魔器の加護付きのだ。

「うぉぉぉおおおお!?」

何某狩りゲーの緊急回避のように横に向かってダイブした俺の横を通過したトラックはそのまま街中に出る。

「・・・・くっそふざけんなよテメェらァ!!」

「先輩!?残りの奴らは!?」

「トラックで逃げた!お前らは車使え!俺は直接追う!」

「りょ、了解っす!」

トラックを追いかけ、俺は駈け出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅむ・・・こっちの青い印はアジトの目印なのでありますな」

先ほどの地図を暗記していたのでありますが、いつ忘れるか分かったものじゃないから改めて地図を買って印をつけて探ってみていた所、面白い事にあの謎の仮面集団の別アジトが見つかったのであります。

ふっふっふ、この忍者笹木野暁の手にかかれば、こんなもの見つけるのはお茶の子さいさいなのであります。

それで、今我輩はそのもう一つのアジト、どうやら地図の青い印、つまり、アジトの印には、その大きさによって主要度を決めているようであるらしく、我輩は、その中で一際大きなものの所に潜入しているのであります。

そして、今現在、ダクトを通ってボスらしき人物の部屋に向かっているのでありますが・・・

「ここでありますな」

見つけたので、潜入するのであります。通風孔の鉄格子を外して、潜入してみるとあらびっくり。なんとこの絡久良市の市長、縄間淳太郎に関する記事ばっかりではありませんか。

「・・・・本当にこれはびっくりなのであります」

おおう、かなりの事件性を感じるであります・・・・。

いやマジな話、これはかなり深いかもしれないのであります。

今まで姿をみせてこなかったのも不思議な話ではありますが、どうやら、綿密な計画を立てているようでありますな。

まず計画したという事で罪は重くなるのであります。

はてさて、他に何がありましょうか・・・むむ、これは、日記でありましょうか?

「読んでみるのであります」

さてさて、どんな内容なんでありましょうか。

 

 

 

 

 

「・・・・なん、で、あります、か・・・これ・・・・」

本当に、本当に、なんなのでありますか・・・・これは・・・

ほとんど、呪詛しか書かれていない。あの市長、縄間に対する憎悪や軽蔑、そして、この日記の人物があの縄間にされた事を綿密に書かれている。

もし、これが、本当なのだとすれば、この人物は、縄間市長に相当な憎悪を抱いている。

「他に、他に何かあるのでありますか・・・?」

探す、探す、探す。

写真を見つけた、二人の男女の写真を。見た所、どちらかが日記の人物でありましょうか。文字の癖からして男だと思いましょうけど、可能性は考えておくべきであります。

「もしこれが本当なら、急いで証拠をかき集めて、出動要請をしなければ・・・!」

何か、署を動かすに値する証拠を探さなければ・・・・

「これは・・・よし、これも、もっていこう・・・あとは・・・ッ!?」

そこで、我輩はあの日記を書いた人物の名前を知った。

しかしそこで、背後から足音が聞こえた。

「チッ!もうきたでありますか!」

でも、最低限の証拠はつかんだ!さっさとここからずらかるのであります!

 

あの日記を書いた男、それは――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

商店街を抜けて、市役所の前を通る。

ふと、そこで、私は市役所から、取材陣を伴って出てくる男の人を見つけた。

あれは確か・・・この街の市長の、縄間淳太郎さん、だったかしら?

少し興味をひかれたので、私はその縄間さんに近付いてみる事にした。

「バーテックスの出現により、人類は海の大半を失いました。だからこそ、工場から出る廃棄物の燃料などを減らすべきなのです。限られた海をより快適にして、魚類にとってよりよい住処を充実させるべきなのです」

なるほど、確かにそれなら漁業が活発になり、ついで世界の領土のほとんどを失った人類にとっての最大の問題である食糧問題の解消にも繋がる・・・・一応、神樹様のお陰でその点も問題ない筈なのだが、それを考えている暇はないだろう。何せ、人類はそこまで追い詰められているのだから。

戦線を退いた私はただ、あの人たちの勝利を祈る他ないのだが。

まあ、中々に良い人だという事は分かる。

 

・・・私が、人の悪意に敏感じゃなければの話だけど。

 

あの人、絶対に何か隠している。

というか企んでいる。おそらく、工場問題は、単なる資金集めの類なんだろうけど、何かを企んでいる事には違いない。

気になる。でも、私がそれを知った所で、何かが出来るわけはないだろう。

知らぬが仏。私は、下手な口出しはしない事にした。

この街の問題は、この街の人間がするべきなのだ。

私は、この街の人間ではないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

逃げるトラック。俺はそれを全力疾走で追いかける。

「くっそ!ただのトラックじゃねえなありゃあ!」

通常のトラックより明らかに速度が異常だ。なんだありゃ、電車か何かか!?

あの速度で事故らねえとかどんな運転テクニックだよ!よし、ふざけるのはここまでにして、おそらくあの『悪』と何か関係があるのだろう。そうじゃなければあんな風に走れる訳がねえ。

と、そう考えていたらトラックのコンテナの扉が開いて、中にいた男の一人が何かを向けてきた。てかあれってまさか――――

「ロケットラン―――」

言い終わる前に敵がロケットを撃ってきた。

「うおぉぉお!?」

すぐさまそれを空中で撃ち落とし爆発させる。この間のような大惨事にさせてたまるかっての!

だが、追い付けないってわけじゃない。このまま行ければ飛び移れるだろう。が、現実はそうはいかない。

今度はあのトラックの脇からセントリーガンが出てきた。

「うおあ!?」

その自動連射銃から乱射される弾丸を避ける。だがそれだけではない。

「RPG!?」

今度はアメリカの軍にありそうなミサイル兵器、RPGをぶっ放して来やがった。

てか、本当にあんな武装どこで手に入れたアイツら!?

それだけではなく。

「今度はガトリングガーン!?」

セントリーガンとは比べ物にならない速度で無数の弾丸が発射され、そこへRPGの砲撃も重なって道路はめちゃくちゃだ。

「くっそが!」

こうなりゃあの車パンクさせて事故らせてやる!もうなりふり構ってられるか!

ほぼ一瞬のうちにトラックの片方のタイヤをパンクさせてスリップさせてどっかの店に突っ込ませる。よし、怪我人はいないな。店の方はあとで賠償金出そう。

とりあえず俺はトラックに近付く。

「ったく、一体どうやったらこんな普通のトラックがびっくり兵器ボックスになるんだっての」

よっぽどの科学者がいるのだろうか。しかしこの日本にそんな兵器持ち込む余裕なんてなかった筈だが・・・

「アメリカ軍基地の名残・・・なんつってな」

とりあえず、今はこいつらが何を運ぼうとしてたか確認しないと。

「せんぱーい!」

「ん?祐郎か」

そこで祐郎たちがやってくる。

「もうめちゃくちゃっすよ!道路はボロボロになるわ、消火栓は吹っ飛んで水は溢れ出しているわ、もう大量の苦情が舞い込むのは必至ですよ!」

「悪いな。まさかあんだけの兵器をこんな街中で乱射しまくるとは思わなくてな」

「本当になんなんすかこいつら」

「さあな。ま、一人にだけでも白状させればいいだろ」

とりあえず、今はこのトラックの中を―――

 

 

そこで、俺たちの背後でパトカーが吹っ飛んだ。

 

 

「・・・・は?」

あまりにも突然の出来事で反応できなかったが、とにかく、パトカーが吹っ飛んだという事は分かった。

その吹っ飛び方が、異常だという事も、分かった。

舞い上がる炎の中、一人の男がやってくる。

姿は一見スーツだ。だが、問題なのは、その男が全身白黒で光っていて、とてもではないが人間とは思えない異様さを放っていた。

「・・・お前は・・・」

「・・・・久我真一だな。郡千景を匿い、あわよくば我々の邪魔するとは」

こいつ・・・どこで楔の事を。

とにかく、こいつは危険だ。

「えっとえっと・・・あ、あった!こ、こいつ!二十五年前にこの街にやってきた中国人家族の一人息子の『(リー)俊杰(チンチエ)』です!」

「おい、あの怪しさ満点のわけわからない体色状態のあいつの顔からどうやって個人を特定したテメェ!?」

「それが特技なんで!」

「ま、まあいい!とりあえず特定御苦労!本部に連絡しとけ」

俺は、男に―――李に拳銃を向けた。

「お前が一体何物なのか知らねえが、魔器使いであるなら、お前の魔器、破壊させてもらう」

「それはこちらのセリフだ。お前たち救導者の使う御神刀は我々にとって邪魔な存在、早々に破壊させてもらう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうにか屋上に出られたのであります。

「急いで署に向かわなければ・・・・」

そこで飛び降りようとしたところで、突如として腕にワイヤーフックがひっかけられる。

「な!?」

「フッフゥゥゥウウ!」

そのまま持ち上げられ、宙を舞う。

何が起きているのか分からず、我輩は地面に叩きつけられ、道路の上を引きずられる。

「づッ!―――『無形刀』ッ!!!」

すぐさま御神刀を発動し、身体へのダメージを軽減させて我輩はワイヤーの先を見る。

そこには、巨大な鋼鉄の翼を両手に装着して背中のジェットパックで飛んでいる男がいる事に気付く。

「くっ、あっ・・・この、調子に乗るな!」

我輩は両足を踏みしめ、さらには忍者刀を地面に突き刺し、男の飛行をとめる。

「うおっと!?」

男が一瞬ぐらついた所を狙って、我輩はすぐさま腕につけられたワイヤーを引っ張る。

「『翼斬(ウィンドスラッシュ)』ッ!!」

「ぬあ!?」

すると奴はこちらに向かって衝撃の斬撃をぶっ放してきた。

我輩は慌てて忍者刀を抜いてその斬撃を防御するも、その隙を狙われて我輩は宙を舞った。

「くっあぁぁぁぁあああぁああああ!!!」

縦横無尽に飛び回られて、やがては海岸沿いにあるコンテナ置き場に叩きつけられる。

「く・・・ぅう・・・・」

「ハッハー!いいカモが手に入ったぜ」

あの鳥男は、クレーン車のてっぺんに上って我輩を見下ろしてくる。

「・・・はっ、不意打ちした程度で勝ったつもりでありますか。なんと浅はかな男なのでありましょうか」

「好きなだけ言え。正々堂々やって勝てたら苦労はしねえっての」

「それは利口な事で・・・」

男の姿は、両腕につけられた鉄の翼はともかく、それを制御する為か、体中に機械的な装置をつけられている。ついで顔はバイザーによって隠されていたが、それが背中に回され顔が晒されてる。

ただのはげたおっさんなのでありますが。

だが、その姿が、とある神秘によって構成されているものだという事が、我輩には分かる。

「魔器『翼』」

そう呟くと、男はこれまでにないほどの笑みを浮かべた。

「その通り、そしてお前の無形刀の文字は『刀』。だがそこは問題じゃねえ。お前にとっての問題は、これから俺様によってその御神刀を破壊されるってことだ。いや、あるいは殺されてるかもしれねえってことだ」

「それは、随分な自信でありますな」

魔器が御神刀を破壊する?はっ、笑えない冗談であります。

「お前、街の一角でバイク屋を経営している、『ジョンソン・ハーバー』でありますな」

「ああ、ここには十年は済んでるぜ?ま、本業は別にあるが」

くっくっくと笑うジョンソン。

そんな奴に向かって、我輩は忍者刀を構える。

「来いよ」

「ん?」

「格の違いを見せてやるのであります」

女だからって、舐めるなよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

(曇ってきた・・・一雨来そうね)

空は、青空から一転し、灰色の曇り空へと変わる。

 

 

 

 

その日、少女の運命が変わる。

 

 

 

 

悪、李俊杰と対峙する真一。

 

翼、ジョンソン・ハーバーと対峙する暁。

 

そして、楔は曇り空を見上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・チッ、感づかれたか」

舌打ちをして、相馬は窓の外を見る。

「そろそろ、私も出るとしようか」

男は、かけていた眼鏡に触れる。

すると、そこから『染』の文字が浮かび上がり、それが形を成し、やがては四本の巨大なアームとなる。

そして、どこかに連絡を取る。

「・・・・私だ。出ようと思う・・・・ああ、例の物はその場で作る・・・・ああ、分かっている。せいぜい、しくじるなよ」

そうして通話を切り、相馬は外に出る。

「覚悟しろ。縄間淳太郎。貴様の仮面を今こそ剥いでくれる・・・!!」

相馬は、自分の部屋のある建物の屋上から、絡久良の街を見下ろした。

「そして、郡千景、貴様には、我が姪の苦しみを味合わせてくれる・・・ッ!!」

相馬は、冷めた、しかしその奥に暗い憎悪の炎をともし、そのアームを使って街中を移動していった―――




次回『正『義』とは何か』

正義の反対は悪ではなく、また悪の反対は正義ではない。

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