足柄辰巳は勇者である 作:幻在
波導が、襲い掛かってくる。
「くぁっ!?」
襲い掛かる真っ黒な波導は、三日月を描いて俺の方に飛んでくる。それを俺は横に飛んで躱す。
反撃と言わんばかりに引き金を引くも、それを李の奴はやすやすを躱してくれる。
「ハァッ!!」
また波導攻撃。今度は地面に叩きつけてでの波のような攻撃。それを飛んで躱す。背後の建物が粉砕される。
「くそ!なんだんだ一体!?」
なるべくここから動かさないように立ち回っているが、かなりの攻撃範囲と距離があるうえに、こちらが近づこうとすれば近付けさせないとばかりに波導を放ってくる。
銃を持っている相手にそれは悪手かもしれないが、相手も飛び道具を持っているならそれも関係ない。
むしろ威力は向こうが上だ。
分が悪いのはこっちか?だが連射性能はこっちが上だ。当たればの話だが。
どちらにしろ、当てなきゃ意味がない。
「喰らえやッ!!」
もう一度拳銃を発砲。しかし、躱される。野郎、わざと距離を取らせることで回避する時間を稼いでるなくそったれが。
『アレ』を使うか?いや、アレは威力が高すぎる上に、直撃させる自信がない。
アイツの反応速度を見ても、直撃するかどうか分からない。
だが、銃弾が距離で当たらない以上、やる事は一つだ。
接近して叩きのめす!!
そう思い、俺は走り出す。
それに気付いた李の行動は、俺を近づけさせないように波導を放ちまくってくる。だがそれ全ては俺には全て見えている。だから、回避できる。
「ッ!?」
そうして、俺は奴を至近距離に納める。
拳銃の弾丸は、剣のように鋭利ではなく、丸形ハンマーのような形をしている。だから一部ではこう呼ばれる。
『強力な打撃武器』と。
俺は拳銃を至近距離で李に向ける。
そして発砲。李はぎりぎりの所で俺の向けた腕の方を蹴って回避するが、俺の拳銃は二丁だ。
だから、もう片方の拳銃を李に向け、振りぬくように引き金を絞り、連射する。
斜め下から、薙ぎ払うかのように放たれた弾丸は李の脇腹から反対の肩にかけて銃弾が連続で直撃する。
「ぐ、ぅう・・・」
顔しかめる李。よし、今すぐその気持ち悪いネオン体色を引っぺがしてムショ(刑務所の略)にぶち込んでやる!!
そう意気込んで、追撃の銃弾を放とうとした直前、李の手が俺の二の腕を掴んだ。
「―――ッ!?」
「『
その時、暗い闇が、俺の意識を覆った。
空を飛ぶ相手に、我輩は今、絶賛苦戦中。テヘ♡。
いやテヘじゃねーよ自分でやってて流石にイラついたでありますよ何してるんでありますかちくしょうめ!
とにかく敵は空を飛んで、上手く攻撃を当てられないのであります。
「オラオラどうしたぁ!!」
「くっそぉ!!」
壁を駆け上って、どうにか高度だけは保ってはいるが、それでも相手の自由な機動力には敵わない。かならず空中で躱されて、それでまた駆け上る。それの繰り返しであります。
「いくぜぇ!『
「ッ!?」
野郎!鋼鉄の羽をマシンガンのように飛ばしてきたであります!我輩はそれを自慢の脚力で躱していきますが、正直、防戦一方になっているのはいなめない。
「まだまだぁ!『
今度は翼による飛来する斬撃!これは威力が高い!
どうにか躱すも、空ぶった斬撃は地面を切り裂き、深い亀裂を生む。
「くぅ、遠い場所からじわじわと・・・!!」
「ハッハッハッハ!!やられるのも時間の問題だなぁ!なあ救導者さんよぉ?どうだぁ?俺のような奴にボコボコにされるのは」
「ゾッとしないでありますな。そんな高い所から高見の見物とはずいぶんと高貴な身分なようで。それとも、空飛ばないと殴られるから降りたくないとかでありますか?」
「全くもってその通りだが?」
「あ、それじゃあいつまで経っても我輩に攻撃は当てられませんな。いえ、むしろ射的は下手なほうで、雑魚、射的は雑魚ですか?」
ぴきり、という音が聞こえた。
「あらら、もしかして図星でありますか?知らなかったでありますなー、まさかお空をお飛びの貴方様が、距離を取っているのに射的下手とは」
さあさあ、どうでるでありますか?どうでるでありますか?
「・・・・」
「てぇ、無言で羽根連射すんのやめてなのでありますぅ!?」
「コロス、メテエハコロス」
「まさかの怒りのツボ!?ここまで機械的になるなんて予想外であります!?」
無数に降り注ぐ羽根の雨を掻い潜り、我輩は、走り回る。
何やら、街が騒がしい。
どうやら、海沿いにあるコンテナ置き場と、街中で大きな交通事故が起きたらしい。
だが、その規模からみて、おそらくあの人たちが魔器使いと戦っているのだろう。
私は、あの芽依って子から、もう救導者の活動にはかかわるなと言われている。
だから、行くわけにはいかない。私がいけば、きっと気になって戦いに集中できないと思うから。
あの人たちが負けるとは思っていない。ただ、少しだけ心配だった。
怪我をしてないだろうか、悩んだりしていないだろうか。
その引き金を引く事を、その刃を振り下ろす事を、躊躇ってはいないだろうか。
辛い、思いをしていないだろうか。
きっと、勇者として活動していた私が、今の私を見れば、きっと嫌がってしまうかもしれないが、今は、それでいいと思ってる。
そう思っている間に、雨が降ってきた。
さて、どうしてだろうか。
とても、胸がざわつく―――――
「動くなぁあああ!!」
銀行の中で、そんな声が聞こえた。
窓際で、母さんを待っていた時に、強盗の男は、すでに職員に向かって拳銃を突き付けていた。
「その中に金ぇ入れろぉ・・・今すぐだぁ!!」
男は、半狂乱になってそう職員にうながしていた。他にも、仲間が一人。
周囲の様子を見張っているようで、その男は、職員に拳銃を突き付けている男が金を入れさせている間に、俺たち、銀行にやってきていた人たちにこう言った。
「下手に動いてみろ。その瞬間、テメェらの脳天ぶち抜いて脳ミソぶちまけてやるからなァ!!」
分かりやすい、脅し。
ふと、隣のスーツを着た男が、そんな警告を無視して外に助けを呼びに行こうとしていた。
だが、それもすぐに見つかり、ガラスに弾丸が直撃して、砕け散る。
「動くなつったよなぁ!?テメェッ!!」
「ひぃい!!」
「怖がるぐらいだったら動くんじゃねえよ!この、クズがァ!!」
男は、その男性に近寄って、屈んでいる所へ腹に蹴りを入れた。そのまま、スーツを着た男は腹を抑えてうずくまった。
「いいかぁ!次は外さねえし容赦しねえ!俺たちの仕事が終わるまで、きちんと大人しくしてりゃあ誰もしなねえんだ。いいなぁ!!」
先ほどの一発が決め手となったのか、すっかり怯えている客たち。
目に入った母さんも、下手に動けないでいた。
一方、職員に拳銃を突き付けている方も、金を入れる事をせかし、相手の方へ集中していた。
俺も、屈んで、その場でじっと動かなかった―――――
それでいいのだろうか?
この二人は、拳銃を持っている。殺す覚悟をもってここにやってきている。
そして、まともな考え方をしていないように見える。
もし、その銃口が、周りの人に、母さんに向けられたら、どうなるのだろうか・・・・?
「詰め終わったかぁ?」
「ああ、いいぜぇ兄貴ぃ」
金をありったけ詰められた鞄を肩に背負って、逃げようとする男たち。
そこで、ふと、兄と思われる男は、母さんに目を付けた。
「ちょうどいい・・・」
男の口角が、吊り上がるのが見えた。母さんが、怯えるのが見えた。
このままでは、母さんが連れていかれる。
「来いよ」
男の手が、母さんの腕をつかむ。
「い、いやです、誰が貴方たちなんかに・・・・」
「いいから来いっつってんだろ!!」
男の拳銃が母さんに向けられる。
殺される。
俺の手元には、ガラスの破片。なんでも切れそうな、鋭利な―――刃物。
殺されてしまう。
それを手に持って、俺は、足音を立てずに歩み寄った。
「いいかぁ?俺が来いっつったら来るんだよ・・・この拳銃が見えねえのかぁ?ああッ!?」
走ったのではない。必死になったのではない。ただ、全力で、確実に、奴を仕留める為に。
殺すために、一歩一歩を踏みしめるのだ。
そう、この世の法則など、たった一つだ。
殺される前に――――殺すッ!!
「―――やめなさい、真一ッ!!」
「はっ・・・?」
母さんの声が聞こえた時には、俺は、兄の方の男の首に、ガラス片を突き立て、引き抜いた。
そして、その傷口から、赤い液体が吹き上がる。
「え・・・な・・・あ・・・」
「死ねよ」
自分の口から出た、酷く冷淡な声。それが俺の声だと気付くのに、そんなに掛からなかった。だって、そんな感情を持ってるのは、俺だけなのだから。
「あ、兄貴ぃぃぃぃぃいいいい!!!???」
弟が、絶叫する。
大量の血を噴き出して、兄が倒れていく様を、弟は、驚愕のままに見ていた。
俺はすぐに、兄の体から離れ、飛び散る血を回避する。そして、倒れる兄の男は、ぴくぴくと痙攣した後、それっきり動かなくなる。
場が、騒然とする中で―――
「て、テメェェエエエエ!!!よ、よくも兄貴をぉぉぉおおおお!!!」
弟の方が、俺に向かって拳銃を向けた。そして、すぐさま弾丸が放たれる。
だが、俺は避ける事はしなかった。
何故なら、その弾丸は、俺には当たらないから。
俺の顔のすぐ横を通り過ぎた弾丸は、床のタイルを抉り、貫く。
そして、その銃声を皮切りに。
「きゃぁぁああああ!!」
「ひ、人が死んだぞぉぉおおお!?」
「ぎゃあぁあああ!!」
銀行の中は一気にパニック状態になる。
しかし、そうなった今でも、俺の頭は恐ろしく冷えていて、自然とその視界に兄が握っていた拳銃が入り、俺は、おもむろに、その拳銃を拾ってみせた。
「て、テメェ・・・そ、それで何するっていうんだ・・・・」
弟の男は、すっかり及び腰になり、震える手で、拳銃を俺へと向けていた。
俺は、そんな男の事を見ずに、ただ拳銃を物色。そして、その拳銃のスライドを引いた。
そして、俺はそれを持つ手を下ろした後、男の方を向いた。
「み、見るなよ・・・見るなよ・・・おい・・・」
男は、すっかり怯えているようだ。
「み、見るなぁぁああ!!」
男が、拳銃を引き絞って、弾丸を乱射する。
しかし、そのどれも、俺には当たらなかった。そんな、震える手で、当たる訳もないだろうに。
まぐれで一発はあり得たかもしれない。しかし、それすらお前には起きなかったようだ。
全弾撃ち尽くし、スライドが固定される。
「ひ、ひぃいい!?」
後ずさる。しかし、その距離は、拳銃から放たれる弾丸の射程距離内だ。
やらなければ死ぬ。何かしなければ殺される。だから、俺は殺す。
殺される前に、殺しかない。
両手で持ち、俺は、男を両目で睨みつけ、そして――――
「死ね」
引き金を引いた。
弾丸は、男の眉間へと命中し、男は、仰向けに倒れ、沈黙する。
一方の俺は、銃から来る予想外の反動に両足が踏ん張れず、そのまま吹っ飛んで倒れた。
両の腕を打ち上げる感触。腕に引っ張られて、倒れる感覚。そして、視界をよぎる銀行の天井。
そのまま、俺は受け身もとらずに、背中から地面に激突。
しばし、茫然とした。そののち、おもむろに体を上げて、目の前を見た。
そこには、二人の男の死体。一人は首を掻っ切られ、一人は眉間を撃ちぬかれていた。
肩に来る激痛すら忘れ、俺は、自分の両手を見た。
赤、しかなかった。
どうやら、兄の方の男が作った血だまりの上に落ちたらしい。
そんな、軽い気持ちな思考が、俺にはあった。
顔を拭おうとしたが、その腕すらも血まみれだという事に気付かずぬぐってしまう。
そして、そののちに、俺は頬を引っ叩かれた。
「なんて事を・・・ッ!!」
最初は、何故叩かれたのか分からなかった。
悪者を倒した。それだけのはずだ。
だけど、現実は違う。
俺は、殺したのだ。二人の男を。
しかし、俺の中にあるのは、後悔ではなかった。
何も、感じなかった。怯えも、なかった。
罪悪感もなかった。
ただ、そこにあったのは、冷たい、深海のような、ひんやりとした感覚。
冷たい、赤い液体。
それだけが、俺の手に残っていた。
そこから先の事は、スムーズに進んだと思う。
たかが、
そして、小学生が殺人をしたなどとは、世間的によくないという事でかなりの規制がなされ、その事件の事は、一般的には、二人の強盗犯が仲間割れをして殺し合い、相討ちになったという事になった。
しかし、その場にいた者はやはり多く、その隠された事実は街の中におけるネットワーク介して広まり、やがては、学校にまでその事実がうわさされるようになった。
ただ、噂というだけで、それを立証する証拠はないために、そこまで重要視される事はないだろう、そう思っていたが、その噂を使って俺を叩こうとした奴らが出てきた。
ただの面白半分、という事らしいが(一応そいつらは言葉で封殺してやったが)、それを切っ掛けに、俺に対するいじめが増えてきたように思う。
それが俺、後に『殺人刑事』と呼ばれる事となる、久我真一の始まりだった。
そう、殺される前に殺さなければならないのだ。
何があろうと、どんな事があっても、俺は、殺さなければならない。
どんなに血を浴びようとも、どんなに罵倒されようとも、俺は――――
「―――テメェを殺す」
「ッ!?」
意識が覚醒する。
くそっ、こいつに掴まれると意識を遮断されるのか!
だが、俺はすでにコイツの顎の下に銃口を向けている。そのまま引き金を引いた。
間一髪の所で李の奴は頭を下げてそれを躱した。
「チッ!」
「くっ」
躱された。ならば追撃する。
殺さなければ―――こいつを殺さなければ、また、別の誰かが――――
その様子を、真一の後輩である祐郎は見ていた。
「・・・・まずい」
そして、祐郎は、今の真一の眼つきを見て、悪寒が背中を走った。
「先輩―――
真一は、実は、絡久良警察署内では、『殺人刑事』の異名を持っていた。
逃げる犯人の足を街中であっても容赦なく撃ちぬく。人質を取った強盗犯の肩を躊躇いもなく撃ちぬく。爆弾のスイッチを持つ爆撃犯の腕を何があっても撃ちぬく。
どんな時でも、彼は手加減せず、致命傷とならない程度に今までの現行犯たちを撃ってきた。
だが、もし、どうしようもなくなった時、犯人が、誰かを殺しそうになった瞬間、真一は――――
それが女であろうが老人であろう子供だろうが、どんな境遇に立たされた人間であろうが、容赦なく撃ち殺す。
例え、誰かの為に犯罪を犯した人間であっても、真一は、その眉間を、命を撃ちぬく。
普通、そんな事を頻繁に行っていれば、拳銃は取り上げられるのも当然。
だが、彼の積み重ねた実績が、それを許さなかった。事実、彼が撃たなければ、他の誰かの命が奪われていたという場面は、幾度となくあった。
だから、真一は、署内では孤立していた。
警察唯一の汚れ役として、ずっと。
そして、真一の眼つきが変わるとき、それは、殺人を犯す前兆――――ッ!!
いわゆる、彼の殺人スイッチがONになっているのだ。
「ダメっす・・・ダメっスよ!先輩!!久我先輩!!!」
しかし、祐郎の叫び声は虚しく、真一には届かなかった。
雨が、体を打つ。
「ハア・・・ハア・・・」
「くっそ、なんてすばしいっこいんだコイツは・・・・」
ぜ、全部避け切ってやったのであります・・・!!この雨の中、悉くを躱しきってやったのであります!!!どうだザマミロこのハゲタカ野郎め!!ワハハハハハ!!
「チッ、時間切れだ」
ふと、ハゲタカ野郎がそう呟いだ。
ハ?時間切れ?
「わりぃな、俺、これから用事があるんだ」
「なぁ!?逃げる気でありますか!?」
「あ・その通り、じゃあな~」
「わざわざ歌舞伎風にいうな!!こらぁ!飛んで逃げるなぁ!!!」
く、飛んでいるから奴の方が機動力も移動速度も上でありますか・・・・
「まんまと逃げられたでありますな・・・あ、そうだ。すぐに署にあの事を報告しなければ・・・・!!」
慌ててスマホを取り出す。しかしそこには、何度も不信着信の表示がされていた。
「なっ・・・って驚いてる場合じゃないであります」
すぐに署に連絡を取る。
「もしもし、こちら交通課の笹木野、今お耳に入れたい事が・・・・え・・・」
いきなり返ってきた怒声の内容に、我輩は、頭が真っ白になるのを感じた。
撃つ撃つ撃つ。
至近距離で、M9を乱射しまくる。
「ぬ、ぐぅ・・・・」
全て命中する。しかし、そのどれもが腕や足。致命傷じゃない。
「ハアッ!!」
波導が飛んでくる。それを躱して、頭部を狙って拳銃の引き金を引いた。
だが、それすらも躱される。頭に対するガードが厚い。
それならば、削り切るまで。
俺は、何度も拳銃の引き金を引いた。
「ぐっ、くっ・・・その目、いささか警官のものとは違うもの含んでいるな・・・・!!」
「・・・・」
李が、地面を殴り、衝撃波を波紋状に起こす。思わず後ろに飛んでしまった。
「そんなお前に問いたい。お前にとって正義とはなんだ?」
「正義・・・・?」
なんだ、いきなり・・・・?
「お前、『殺人刑事』と呼ばれているようだな。何故、相手を殺す?殺す必要はあったのか?殺される程の理由が、奴にはあったのか?」
「魔器の文字が『悪』の奴がよく吠える・・・・」
「『悪』・・・?ふっ、そうだな。確かに私の魔器の文字は『悪』だ・・・だが、だからこそ私はお前に問いたい。お前にとっての正義はなんだ?人を殺す事か?人々を守る事か?一体、お前の掲げる『正義』とは一体なんだ?」
正義・・・正義か・・・・
そんな事、考えた事もなかった。だが、強いて言うなら・・・・
「一を切り捨て全を救う・・・・ことじゃないのか?」
どうせ、全員が全員、幸せになれないのだから。
「・・・・何?」
ふと、李の雰囲気が変わる。
なんだ?なんだか、どす黒いものに・・・・
「多くを救う為に、少数を捨てる・・・本気でそう言っているのか?・・・ならばお前に正義を語る資格などないッ!!」
叫ぶ李。
「たった一つの命さえも切り捨てて全てを救うだと?ふざけるな!全てを救わずして、何が正義か!何が英雄かァ!!守るものの為に犠牲が必要などとは、貴様それでも警察かァ!!」
「よくいう・・・そういうお前は今現在進行形で街をぶっ壊してるじゃねえか」
「それもそうだ・・・だが、俺がやっている事は決して正義などではない。そしてお前も、正義を語る資格などない。俺は悪をもって悪を討つ!あの・・・私の両親を奪った、あの縄間淳太郎に鉄槌を下すためにッ!」
縄間淳太郎?何故、そこで市長の名前が・・・・
「おい。なぜそこで縄間市長の名前が出て・・・」
「そうか・・・お前たちは知らなかったな・・・・あの男は二十年前・・・私が十三歳の頃、とある実験で俺の両親を殺したのだ・・・そう、あの薬品実験のせいでなッ!!」
「薬品実験だと・・・?」
一体、何の話を・・・というか二十年前って、俺がまだ四歳の時じゃねえか。知らないぞそんな事。
「忘れもしない・・・奴は中国人である俺たちを誘拐し、ある薬の実験体として我々を病気にさせ、そしてその薬を服用させられ続けた・・・・だが完成したのはその病気に対する特効薬ではなく、その真逆、感染したものをものの三日で死に至らしめる、死のウィルス。奴はそれを作りだした!そして、俺の両親をそのウィルスで殺した・・・!!」
なんだそれは・・・・・
「・・・・仮に、そのウィルスがあるとして・・・」
「仮にではないッ!!そのウィルスは実在し、そして私はそのウィルスを体に投与された!幸い、その時受けた、魔器『悪』のお陰で一命をとりとめ、どうにかその研究所から脱出した。だが、もはや帰る手段も、家族をも失った私には、何もなかった!!そして誰も私の話を信じなかった!!だから私は復讐する!縄間淳太郎に鉄槌を下す!必ず裁きを下して見せる・・・ッ!!」
李は、手をきつく握りしめていた。
だが、そんな事はどうでも良い。
「話は終わったか。ならばさっさとその魔器を破壊させろ」
「ふっ、貴様は所詮、そこへ行きつくのか・・・だが、残念だったな。時間切れだ」
「時間切れ・・・?何を言って・・・」
その時、連続する風切り音と、奴を中心に叩きつける風圧が体を叩いた。
一体何かと顔を上げてみれば、そこには、ヘリが一台、飛んでいた。
「ヘリだと・・・・!?」
「さらばだ久我真一。まあ、すぐに会う事になると思うがな」
跳躍し、奴はヘリに乗り込んだ。
「逃がすかッ!!」
俺は、すぐさまヘリを落とすべく、拳銃の引き金を引いた。その弾丸は、ヘリのプロペラの接続部を狙い過たずに直撃し―――――
「無駄だ」
――――なかった。
いつ強化したのか、俺の弾丸が弾かれ、そのままヘリは上昇し、どこかへと飛んで行ってしまう。
つまり・・・逃がしたか・・・・
「くそっ・・・」
「先輩ッ!!」
「祐郎・・・?」
そこで、祐郎が慌ててこちらに走ってきていた。
心なしか、何か、慌てているようだが・・・・
「先輩ッ!大変っス!!」
「どうした?何があった?」
祐郎は、一度、心を落ち着かせるように呼吸を整えようとするも、まだ整え切っていない状態で、その先を言った。
「刑務所が、襲撃されました!!」
次回『変わる運『命』』
その運命は、少女を再び戦場へと向かわせる。