足柄辰巳は勇者である   作:幻在

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変わる運『命』

雨が降ってきた。

周囲の人たちは、持参していた傘をさす人もいれば、慌てて走り出すもいた。

私?天気予報を見ていなかったという事で察してほしい。

ただ、今着ているウィンドブレーカーのお陰で、体そのものが濡れるという事は回避できそう。だから、私はフードをさらに深く被って、また歩き出す。

しばし歩いていくと、都内の道路で、何か、人だかりが出来ていた。

こういうのは、あまり関わらない方がいいのかもしれないけど、気になったので、そこへ行ってみる。

人だかりが多くて、向こう側は上手く見えない。

どうにか体が小さいのをいいことに人混みを掻い潜っていくと、不意にひっくり返って煙をふいているパトカーの姿が見えた。

それを見た瞬間、私は、不意に、どくり、と心臓が跳ねるような音がした。

「なんでも被害者はいないみたいよ」

「なんか街中でバズーカ乱射してたトラックがあったみたいだけど」

「誰も死ななくてよかったわねぇ・・・」

良かった?何が?これの一体どこが良かったのだろうか?

あの人は無事?警察がらみでこの惨事であるなら、きっと魔器使い関連の事のはずだ。

もし、あの人があのパトカーの下敷きになっていたりしたら・・・・

「そういえば、なんか変な恰好をした男がすげえジャンプでどっかいっちまったぞ」

「なんか仲間の警察官の人に刑務所がどうたらとか言われてたけど、警察関係の人なのか?」

そんな会話が聞こえた。

刑務所・・・たしか海岸の方にあったわね。そこに、あの人がいる・・・?

そう思うと、私は知らず知らずのうちに走り出していた。

胸騒ぎがする。もう関わるなと言われたけど、とても、いやな予感がする。

 

どうせ行ったところで何かできるわけじゃないけれど、私は、その刑務所に向かって走っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

畜生、畜生!!

まさか刑務所を襲撃するなんて、何考えてんだ!?

建物の屋上を飛び移ったり、駆け抜けたりして、最短距離で刑務所に向かう。

打ち付けてくる雨水の中、視界の先に、煙をふいて燃えている刑務所が目に入った。

「くそッ・・・!!」

急がないと、その思いだけで刑務所に辿り着いた俺は、刑務所の中から大量の脱走者がいる事に気付く。

あれのほとんどは魔器使いや、この四国に潜んでいた極悪非道な犯罪者たちを収容しており、この機会を逃さんと警備員を殴っては武器を奪い、そのまま逃走していた。

さらに外にはあらかじめ用意されていたかのようにトラックが数台置かれている。

くそっ、完全に計画的じゃねえか!

「とにかく、まずはあのトラックを・・・」

「おおっとさせねえぜぇ久我真一ぃ」

「!?」

殺気。を感じた時には俺はすでに飛び退いていた。そして、俺がさきほどまで立っていた建物の一角に雷が落ちる。

「電気!?」

「そう、だが正確には(いかづち)だ。魔器『雷』。それがこの俺、『江砺玖(えれく)(げん)』の力だ!」

見上げれば、電気を纏って空を飛んでいる男がいた。

「魔器使い・・・まさか、あの魔器『悪』も・・・!!」

「そう、俺たちはチームだ。チームプレイで今日一日に起きた事全てを起こした。そして、俺たちの計画も、かなりの段階にまで迫った」

逃げていく収容者、目の前には魔器使い。

どうする?どっちを優先する。

「と、まだおしゃべりしていたい所だが。俺はこれから哀れな子羊たちの脱走を手助けしなければならない。あばよ!!」

「ッ!?」

野郎、今なんつった!?

脱走の手助け?まさか・・・

しかし、その予想が的中した。

「痺れな!」

フェンスを作って脱走者を一人も逃がさないようにしていた警備員たちを、奴は事もあろうか、雷を落として全滅させやがった。

「さあ行きたまえ同胞たちよ!ただし、この門を出たが最後、『計画』が終わるまでは俺たちの元で動いてもらうぜぇ!!」

その声に一瞬の戸惑いを見せた収容者たちだったが、しかし関係あるかと一歩を踏み出し、次々に脱走していく。

「野郎!!」

瞬次に、俺は奴らを狙い打とうとした。

だが、背後からずしん、ずしんという音がして振り返れば、そこには見るも巨大な大男がいた。

その頑強そうな肉体に、固そうなプロテクターを体中につけ、頭さえも兜によって守られている。

その姿は、まるでサイ。

その大男が、拳を振り上げて、こちらに向かって振り下ろしてきた。

「うわぁああ!?」

慌てて飛び退き、建物から一気に落下。その最中で、俺は奴が一撃で建物の一角を砕くところを見た。

なんて力だ。あんなもの、まともに受けたらひとたまりもない。

と、そんな事考えている場合じゃない。今はとにかく、脱走者たちを・・・の前に着地!

どうにか両足で地面の着地に成功する。

御神刀のお陰で身体的強化が成されているから、それほど衝撃はない。

いつの間にか、トラックが何台か発射している。

くそ!今すぐにでも・・・

「おおっとそうはいかねえぜ」

俺の目の前にさっきのビリビリ男、江砺玖元が立ちふさがる。

「く・・・!」

もはや、先にこの男を倒さなければ。

「どけ!!」

即座に発砲するも、しかし、奴はどこかへ手を伸ばした途端、一直線にそちらに移動して回避しやがった。

「待て!!」

「待てと言われて待つ馬鹿はいねーよ。バァカ!!」

敵が逃げる。

俺は迷わず追いかける。この際脱走者の事はどうだっていい。

今はとにかく、奴を追いかける事が先決だ。

電流で直線的に移動しているようだが、どうやら奴は、僅かな電気を導線にして移動をしているらしい。おそらく、どこかをマーキングして、そこへ一気に向かうようにしているのだろう。

その場所は、どこでもいいみたいだが。

それにしても速いうえに避けるのも上手い。

この刑務所は、海面に浮かぶ。

故に出入り口は一つしかなく、海に潜ろうものならすぐさま海中の監視室や陸地にある監視センターで見つかって捕まるのがオチ。

さらに、バランスを保つために六方に支柱を建設しており、それによって地震のエネルギーを分散。さらに津波が来た場合でも、支柱が支えとなって流されるのを防ぐようになっている。

その支柱の間を、事もあろうに奴は掻い潜っている。

しかも破壊しながらだ。

「くそ!一体何が目的だ!」

「教える義理はないね!それに、どうせ言った所でお前たちは強力してはくれない」

「当たり前だ!!」

どうにか射程に収めるべく、俺は奴を追いかける。

そして、射程に入った所を撃つ。

「づっ!?」

肩に直撃、バランスを崩す。ここだ、俺は支柱を蹴って一気に奴にタックルを叩き込み、一本の塔の上に叩きつける。

そして、俺は奴の顎に銃口を押し付ける。

「答えろ。何が目的なんだ」

そう、脅した時。

「久我殿!左であります!!」

そんな声が聞こえ、見れば、いきなり何かに体当たりされて重い衝撃を体に受けた。

そのまま俺は体当たりされた何かと落下・・・・しなかった。

「よお久我警部」

「お前は・・・!?」

目の前にいたのは、外国人の男。確か名前はジョンソン・ハーバー。どっかのバイク屋を経営していると聞いているが、今の奴の装備は巨大な翼と武骨な金属の鎧を身に纏っている。

そして俺は、ソイツのせいで空を飛んでいる。

「気分はどうだぁ?爽快だろう!!」

「ああ・・・お前の顔が無ければなァ!!」

頭をぶん殴って、その痛みで奴は俺を離す。そのまま横に向かう勢いそのままに落下。高い刑務所のヘリポートに落ちる。

どうにか受け身を取って、立ち上がる。そこへ遅れてやってきたのか、暁がやってくる。

「久我殿!怪我は・・・」

「問題ない・・・それよりも・・・」

見れば、目の前にあの電気野郎がいる。

「お前たちの目的は一体なんだ・・・・!?」

怒鳴るように問いかける。しかし返ってくるのは薄気味悪い笑い声。

その代わり、横にいる暁が答える。

「奴らの目的は、この街の市長、縄間淳太郎への復讐・・・違うでありますか?」

その問いに、元はクックと笑う。

「ああ、ちょっぴり違う。俺たちはあくまで()()()。ただ依頼されただけだ」

「依頼・・・だと?」

「依頼・・・その依頼者は、李俊杰でありましょうか?」

「違うぜ」

あっさりと否定された。

「馬鹿な。彼の縄間淳太郎に対する恨みはあまりにも深かった。もし、彼でないなら一体・・・」

「ソイツに恨みを抱いている奴は一人じゃねえって事だ」

気付けば、周囲を囲まれていた。

電撃を放つ江砺玖元はともかく、先ほど俺をここまで飛ばしたジョンソン、プロテクターを全身につけた大男、サソリのような機械の尻尾を備えた全身緑装甲の男、そして、ヘリでここに降り立った、李俊杰。

俺と暁は、背中合わせになる。

「囲まれたであります・・・」

「見ればわかる」

魔器使いが一度に五人も・・・これは、明らかにまずい。

二人だけで、それ以上の数の敵とやりあうなんて。

・・・撃つか?

そう思い、連双砲のセーフティを外しかける。その時、

「待て、殺すなと命令されているはずだが?」

李の奴が、そう諭すように言う。だが、

「悪いな、俺は待てねえ!!」

大男がいきなり襲い掛かってきた。

振り下ろされる拳の一撃を間一髪で躱す。その最中で、李のやれやれとした溜息が聞こえたが、この際に気にしていられない。

大男は暁に狙いをつけて追撃する。その追撃を、暁は男の股をくぐって背後を取るも、横からサソリ男の尻尾がついてきてそれを躱す。

一方の俺は背中から電撃を浴びせてきた元の攻撃をかわし、反撃しようとしたがそれよりも速くジョンソンが放った羽弾が殺到、それを躱さざるを得なくなり、後ろに飛んで躱す。

そこへ大男の左の裏拳が後頭部に迫って、それを俺はしゃがんで回避する。

そんな大男に向かって暁が逆手にもった刀を撃ちおろすも、その攻撃は奴の皮膚の前に阻まれる。

「固い・・・!?」

「うがぁああ!!」

「あ!?」

腕を掴まれ、そのまま地面に叩きつけられる暁。

「あき・・・」

「他人の心配を、している、場合か?」

「ッ!?」

サソリ男の尾の針が俺を狙う。間一髪で避けるも、そこへ李の波導が飛んでくる。

それを飛んで躱すも、すかさずジョンソンの空中からの一撃を受け、ヘリポートに強制的に着地させられる。

その間、暁は大男の手から逃れ、その顔面に蹴りを一発いれのけぞらせ、その間に元に向かって刃を突き立てようとしていた。

しかし、それを電気による空中移動で躱し、さらにはサソリ男の尾の薙ぎ払いを受け、吹き飛ばされる。

「くぁ」

苦悶の声が響く。そこへ、追撃の大男の一撃が、暁の腹に突き刺さる。

声にならない悲鳴が、暁の口から漏れ出る。

「テメェッ!!」

頭に血が上るのを感じながら、俺は拳銃を奴へと向けた。

だが、それよりも速く、俺の背中に、何かが突き刺さった。

「がっ・・・・!?」

瞬間、どくん、と何かが流し込まれ、一瞬にして体が上手く動かせなくなり、俺は、地面に倒れ伏す。

心なしか、呼吸が出来ない。苦しい、熱い、街の喧騒が遠くに聞こえる、苦しい、寒い、熱い?なんだ。視界が白黒、まずい、これは――――

「俺の、神経毒は、相手の、全神経を、麻痺させる。ちょいと、痛覚以外の、五感も、鈍るように、しといたから、まともに、聞いちゃ、いないだろうがな」

くそ・・・毒か・・・しくじった・・・・

そこへ、暁ともども敵五人全員に滅多打ちにされた。踏まれたり、殴られたり、その度に体の節々で何かが軋み砕けて折れる音が響いた。

やがて、それが終わった、と思った直後に、俺と暁に、元の電撃が浴びせられた。

「「ぐあぁぁぁぁぁああ!?」」

悲鳴が雨空に虚しく響く。

逃げないと。今は、とにかく、逃げないと・・・

そうして、ヘリポートの塀に手をついた、その時、俺の手を何かが踏みつけた。手の骨が砕かれる感触。それによって伴う激痛、そして、神経のほとんどを麻痺させられた状態での、状況判断の遅れが、頭を可笑しくしていく。

その、掴んだ何かを見れば、それは、何かのアームだった。ショベルカーなどのような関節のあるようなものじゃない。まるでタコのようにうねり、そしてその先には四本の掴む為のアームの一本が俺の手にのしかかっており、他の二本は彼を持ち上げて支えており、残しの一本が、調整するかのようにその手首を回転していた。

そして、そのアームに引っ張られ、俺たちの前に現れたのは、一人の、黒い装束を身に纏った男だった。

目はゴーグルで覆い、防弾チョッキのようなものに加え、厚手のジャケットを着込み、その手も、厚手の皮手袋だった。

男は、そのゴーグル越しにでもわかるようなほど、冷たい眼差しをしていた。

そして、俺はその男を知っていた。

「・・・・嵐野(あらしの)相馬(そうま)・・・・」

かつて、大学時代における縄間淳太郎の同僚。そして四国における義手研究を推し進めていた人でもある。

バーテックスの出現によって海外とのつながりが切れてしまった為に何か別の事をしていると聞いていたが、まさか、奴が今回の一連の事件の首謀者とか、冗談にも程があるぞ・・・・

そう思っている間に、俺の手を掴むアームを持ち上げ、さらに余らせていた一本で暁の足を掴んで持ち上げた。

そして、顔を近づけて、鋭い声で、こう言ってきた。

「邪魔をするな」

それを最後に、俺たちは海へと投げ捨てられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

真一たちが落下していく様を見届けた後、相馬は彼らに向きなおる。

「成功した暁には、礼は弾んでやる。さあ、行け!!」

その号令と共に、彼らは、それぞれの役割を果たすためにその場を去っていった。

そして、相馬自身も、一度下を見た。激しい雨や、高い場所にいる為か、彼らの姿は見えないが、しかし、相馬は一瞥の後に、彼らと同じように、その場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激しい雨の中で、久我さんが落ちるのが見えた。

思わず、声をあげそうになったが、そもそも私はもう声を出せないのを忘れていた。

だけど、それすら気にならない程、私は焦っていた。

久我さんが落ちた。久我さんが海に落ちた。久我さんが、負けた。

死んでしまう。もし、泳げなくなっているのなら、助けないと。

そう思ったら、自然と私は海に飛び込んで、必死にあの人を探した。

嫌だ、怖い、行かないで。

貴方までいなくなってしまったら、私は、また、一人ぼっちになってしまう。

誰も助けてくれない。貴方が、貴方がいないと・・・

 

断食の影響で体重が軽くなり、力が弱っている私では、雨によって荒れている海を泳ぐことは難しかった。

 

だけど、必死に水をかいて、溺れかけてでも、私は久我さんを探した。

 

だけど結局は、救命艇によって助けられる事になって、その中で、並んで寝転がる久我さんたちを見つける事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街中にて、交錯する人々。

皆、家に帰る為に、仕事で疲れた体に鞭を打つ者もいれば、飲み会から帰る者。あるいは、と様々な理由をもって雨の降る街の中を歩く者がいた。

その様子を、嵐野相馬は高い建物から見下ろしていた。

「今までの、嘘の数々・・・」

その手には、赤い液体のようなものが入ったカプセル。

「今日をもって、お前は終わりだ・・・縄間・・・」

それを、自らの操るアームに掴ませ、そして、それを、二本のアームを持って砕いた。

中から溢れ出たのは、目に見えるほどにまで詰め込まれた、ウィルス。

それが雨の中、風にのって街の中に降り注ぐ。

それを見届けたのち、相馬はガスマスクを装着して、素早くその場を去った――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絡久良総合病院――――

 

集中治療室にて、ガラスの向こうで、いくつものチューブとコードにつながれ、呼吸器を口に当てられた真一と暁の姿があった。

暁は、いくつかの内臓にダメージが入っており、肋骨も何本も折れ、右足の脛あたりの骨を砕かれている。さらに、電撃による筋肉硬直も起きているらしい。

一方の真一は、暁よりも手ひどくやられたのか、右手の骨が砕かれているのはもちろんの事、体中の骨という骨が砕かれ、折られており、さらに、現在の医学では解明できない毒に侵されているという事だった。

すでに一日。時間にして二十四時間が経過している。

その集中治療室の前で、数人の人影があった。

「先輩・・・」

窓ガラスの前に立ち、二人の様子を心配している祐郎。

ベンチの横で腕を組んで神妙な顔をしている聖子。

そのベンチに座って、ずっとうなだれている楔。

「ああ、そうか・・・分かった・・・」

そして、部下からの報告を携帯越しで聞いていた義馬が戻ってくる。

「・・・街はどんな感じ?」

「世界の終わりだな。今、解毒剤を二十四時間体制で作ってるって所だが・・・正直、かなりの犠牲者が出るだろうな」

隠す気もなく答える義馬。

現在、街は突然蔓延した病気によって、警察の厳戒態勢をもって街を封鎖。さらに街中では脱獄囚と武装した警官たちによる壮絶な銃撃戦が繰り広げられており、まさしく紛争状態ともいえる状況になっているのだ。

「どうにかならないんスか?」

「どうにもな。相手が魔器使いである以上、その対処には救導者が必要不可欠だ。だが、その肝心の救導者がこの有様じゃあな」

そう言って、義馬は今、昏睡している真一と暁を見た。

 

―――真一の余命は、三日。

 

毒を受けてから、彼が死に至るまでの時間が、たったそれだけしかない。

すでに二十四時間、つまり、残り二日の余命しかない。

それを聞かされた時は、思わず楔は意識を失いそうになったのだ。

それほどまでに、ショックだったから。

魔器使いによる呪いのような攻撃は、その魔器使いを倒し、その魔器を破壊すれば解除される。

しかし、魔器使いがいない今、それはどうあっても難しい。

「じゃあ、どうすればいいんスか!?」

「あるだろう、その手段が」

祐郎の怒声に、しかし義馬は冷静に答え、そして視線をある方向に向けた。

「・・・ちょっと、本気なの?」

それを察した聖子が怪訝そうな表情をする。

「ああ。俺は本気だ」

「冗談やめて。彼女を使うなんて、私は反対よ」

「ならばどうする?このまま手をこまねいていては、いずれ敗北するのは我々の方だぞ」

「暁なら、回復する待てば・・・」

「あの傷が三日程度で治るものか」

「彼女が裏切らない可能性なんて、どこにもないでしょう!?」

「それなら俺たち全員に裏切る可能性はある。氷室。もう手段はこれしか残されていない。久我を救い、なおかつ、街を救えるのは、こいつだけだ」

「やめてよ・・・なんでこんな奴を英雄としてあがめなくちゃいけないの・・・だって、コイツは私の―――」

「佐藤さん・・・?」

突如聞こえた祐郎の声で、口論は収まった。見れば、楔がふらふらと幽霊のような動きで、窓ガラスへと近寄っていた。

そして、窓ガラスに触れて、中で眠っている、真一と暁を見つめた。

その行動に、周囲は、しばし黙っていた。

ふと、かすかに楔の口が動いたかと思ったら、唐突に出口に向かって走り出した。

「な!?どこに行く気・・・!?」

いきなり走り出した楔を追いかけようとした聖子の腕を、義馬が掴む。

「何よ・・・!?」

「いかせてやれ」

義馬は、短くそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走る 走る 走る。

暗闇の中、必死に走った。

街のあちらこちらで火が上がっていた。

親と離れた子供が泣いていた。

銃撃戦に巻き込まれて死んだ人がいた。

事故で子供を失って泣く親がいた。

恋人を失って打ちひしがれる人がいた。

何故、何故と叫んでいた。

それは、いつか私がやった事。

いつも通りの日常が、突然、変わってしまった。変えてしまった。

私が変えてしまった。私が奪ってしまった。沢山の人の人生を。

それと同じ事が、目の前で繰り広げられていた。

沢山の人たちが泣いていた。

苦しんでいた。

辛い思いをしていた。

そして、そんな人たちの為に、久我さんたちが戦っていた。

必死に、誰かの幸せを守ろうと。知らない誰かの為に、命を張って戦っていた。

例えその身が傷つこうと、その人生を棒に振ろうと、彼らは、戦っている。

もう、被害者面はやめよう。

私はすでに加害者だ。

犯罪者だ。

嫌われ者だ。

でも、だからって、人を守りたいなんて思っていけないなんて、誰かが言ったわけじゃないんだ。

もう、逃げるのをやめよう。

私は、郡千景。勇者『郡千景』なんだ。

そして、佐藤楔。久我さんが名付けてくれた、私の新しい名前――――

 

 

 

神社の戸を、乱暴に開ける。

苦しい。ここまでノンストップで全力で走ってきたから当然だ。

でも、自然と、この苦しさが心地いい。

「・・・・来たんですね」

芽依ちゃんの声が、聞こえた。

「正直、この状況でこなければ、もう貴方に力を貸さないと思っていた所ですが、やはり貴方は来てくれましたね」

「・・・・・」

「ああ、ごめんなさい。喋れないんでしたね・・・まあ、これからのする質問に喋る喋れないは関係ないんですが」

苦笑する少女を、私は、とりあえず見つめた。

「・・・・問いましょう」

その言葉は、不思議と重かった。

「貴方は、我らが創代に全てをささげる覚悟はありますか?」

―――首を、縦に振る。

「貴方は、この街の為に、その命を捧げる覚悟はありますか?」

―――首を、縦に振る。

「貴方は、己が為に、そして、たった一人の為に、その力を振るう勇気はありますか?」

―――首を、縦に振る。

「ならば、貴方は、立ち塞がる障害を全て乗り越え、敵を打ち倒す為に、その体を酷使する覚悟はありますか?」

―――首を、横に振る。

「それは、何故?」

意地悪だ。と思った。だって、私は喋れないのに、何故、と聞いてくるのだから。

だけど、そんな事、紙に書かなくても、伝えて見せる。

 

だって、この体を壊してしまったら、きっと、たくさんの人たちに迷惑をかけてしまうから。

 

それが、いやだから。それでは、不足かしら?

 

ふっと、芽依ちゃんが笑った気がした。

「いいでしょう。この神社の巫女の名に懸けて、今から、貴方を救導者として任命します」

次の瞬間、この部屋の空気が変わった。

とても重い重圧を受けた。と思えば、優しいぬくもりに包まれたかのような感触。

そんな、温かさに、おもわず身をゆだねそうになって、だけどその時、私の胸から、光が溢れ出し、それが鎖の形を成して、私の胸から溢れ出す。

それが、私の目の前で収束していき、やがて一本の刀を形作っていく。

「――――その刀は、『救導者』の証たる『御神刀』が一つ」

その時、知らない声が聞こえた。低い、男の声だ。

それは、すぐに芽依ちゃんから放たれているというのはすぐに分かった。だけど、その顔は、優しい慈愛に満ちていて、まっすぐにこちらを見て、微笑んでいた。

「天を繋ぎ、地を繋ぎ、決して切れず、全てを束縛し、そして解放するその鎖につながれた、その武器の名は――――」

自然と、私は目の前にある刀を手に取った。

そして、溢れ出す光のままに、その刀を抜き放った。

 

 

 

「――――天鎖刈」

 

 

 

そして、私は、光に包まれるままに、その光に身をゆだねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空を駆ける、影が一つ。

それは闇夜に対抗するかのように白く、連続する金属同士がこすれ合う音と共に、街の中を飛び回る。

「――――市ヶ谷さん、この商店街を突っ切れば、今暴れている囚人たちがいるんですね?」

『ええ、そうっスよ』

「了解。すぐに片付ける」

右手に持つ鎌を握りしめて、そして鎖を自分の手足のように操って、空を駆ける。

そして、視界に移る、火。

その近くで、警察と、武装した囚人たちの銃撃戦が繰り広げられていた。

それを認めて、彼女は、すぐに向かう。

そして、パトカーの一台の上に降り立った。

「うお!?なんだ!?」

そのパトカーを遮蔽物にしていた警察官にとっては驚くほかないだろう。

しかし、その姿を見た時、思わずぎょっとしてしまった。

「どうか怖がらないでほしい。私は、貴方たちの味方だから」

彼女は、そう呟くと、パトカーを飛び降りて、今、囚人たちの元へとゆっくりと歩み寄っていく。

「・・・・おい、なんでアイツがこんな所にいるんだよ」

囚人たちは、思わず、後ずさる。

「・・・・警告する。今すぐ武器をすてて投降なさい。そうすれば、怪我をする事はないわ。だけどこれが聞き届けられなかった場合は、悪いけど、骨の一本や二本は覚悟してもらうわ」

大鎌と鎖を携えて、拘束具のような鎧の下には、エーデルワイスを想起させる、真っ白な衣装。

「・・・・郡千景」

誰かがそう呟いた。

「ええ、そうね・・・私は郡千景よ。でもね、それは貴方たちも同じ」

あえて、もう一つの名前は隠して、彼女は、悪役を演じる。

「さあ、もう一度聞くわ。今すぐ武器を捨てなさい。そして、大人しく警察にその身を預けなさい。さすれば、怪我をすることなく、事は片付くわ」

果たして、その警告は聞き届けられず、

「残念。それじゃあ、鏖殺してあげるわ」

少女は再び、戦場へと舞い戻った。

 

 




次回『激『動』の連鎖』

少女は、街を救う為、空を駆ける。
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